誤字修正しました。
「さて、今から魔法の練習に入るわけだが……アイスをしまいなさい」
ラヴィエには調整の時に魔法に関しての知識は基本中の基本しか入れていない。
というよりもスキル関係や一般常識を学習させたため、それ以上は脳への負荷が大きすぎる危険があったのでできなかったのだ。
なので今からラヴィエに魔法に関して教えようとしていたのだが、ラヴィエは暢気にアイスを頬張っていた。
「……溶ける」
「……凍結」
ラヴィエがぼそりと反抗してきたため、俺はラヴィエの持っていたアイスのケースごと凍らせた。
「……」
「……」
街から帰って以降、ラヴィエの感情はかなりの速度で成長しているようだ。
「アイスは勉強の後だ」
「……はい」
ラヴィエは名残惜しそうにアイスを見ていたが、カチカチに凍ってしまってはどうにもできないため、諦めて椅子へと座った。
「さてと、始めるか」
「……」(こくり)
俺はラヴィエの前にモニターを表示した。
そこにはラヴィエの基本的なデータが表示され、俺はそのデータを操作しながらラヴィエ相手に魔法を教えていくことにした
「基本的にベルカやミッドの魔法はデバイスに任せている面が大きい。なので実際にラヴィエが学ぶことは、魔力の効率的な運用法だ。あとラヴィエの魔力なら飛行も可能だろうから、それも覚えてもらう」
画面を切り替えた。
そこには飛行魔法や防御、高機動魔法、収束に圧縮、儀式魔法や魔力付与などの情報が載っていた。
ラヴィエは興味深そうにデータの一つ一つに、首を縦に振ったり傾げたりしながら見ていた。
「……いっぱい」
ラヴィエが困ったようにこちらを見てきた。
どうやら数が多すぎて、何を覚えたらいいのかわからなくなったようだ。
「全部覚える必要はないよ。それに相性なんかもあるからな」
実際ラヴィエのデバイスは近接タイプなので、儀式魔法を覚えたところであまり使い道はない。
さらにラヴィエには
「あ、それと魔法だけじゃなく格闘技も覚えてもらうことになるぞ」
「……かくとうぎ?」
ラヴィエは何だそれはといった表情で首を傾げた。
「あ~素手でやる戦い方かな?」
格闘技とはなにかと聞かれても、うまい回答が見つからずそう答えた。
「……パンチ?」
「そうそう……とはいえ誰に教わるかが問題だな」
俺も多少はできるが才能があるわけでもなく、かなりのアレンジが加わっているため、俺が教えるの却下するしかない。
ラヴィエは俺と一緒にいるところを見られていないので、一般人に紛れてそういった場所に入れるとういのも考えたが、能力の高さに気がつかれたら面倒なのでこれも却下するしかない。
「ふむ……」
現状ではいい手が思いつかないため、基礎だけは俺が教えることにした。
「まあいい。まずは魔法だ」
俺はそう言ってラヴィエの前のモニターのデータを変えた。
「そこにある魔法の術式を頭に入れたら実際にやってみるぞ」
「……」(こくん)
・
・
・
座学によるラヴィエへの魔法知識の学習は滞りなく進められた。
もとから余計な知識や変な思い込みがない分、苦手意識も存在しないラヴィエはそれこそ真綿が水を吸うかのような勢いで次々と知識を吸収していく。
「さて……そろそろ仮想空間での実技をやってみるか」
「……」(こくり)
《Jawohl》(了解)
俺はラヴィエを連れて
「ここだ」
この
「まあ先行投資だと思えば問題ないな」
最近の赤字のせいでかなり厳しいが、ラヴィエの能力を上げると考えればそう悪い投資ではない。
「よし……ラヴィエ。エファンをここにセットしてこの椅子に座れ」
俺がそう言うと、ラヴィエは素直に従いエファンゲーリウムをセットし、椅子に座った。
それを確認した俺も隣の自分専用に調整した椅子に深く腰掛け、仮想空間へとダイブを開始した。
・
・
・
「……ここは?」
目を開けたラヴィエの前には一面に海が広がり、陸地が一切ない空と海だけの空間が広がっていた。
《Ist wie ein virtueller Raum》(ここは仮想空間内のようです)
ラヴィエの質問に、周囲の空間分析を開始していたエファンが結果をつげる。
「……蒼い」
《Ja》(そうですね)
「まあほかの物を作ると余計エネルギーを使うからな。今回はあくまで魔法になれることが目的だから、建造物は必要ないからな」
俺はラヴィエの言葉に、この仮想空間について説明した。
「……羽?」
ラヴィエが俺の声にこちらを振り返り、俺の背中に生えている羽に目を向けた。
「ん? これか? これも俺のコレクションの一つだ。俺の魔力だと空戦は無理だからな」
そう説明して俺は自分の背中にある羽を指差した。
これは俺のコレクションの中でもかなりのお気に入りの品で、装着者の魔力を使うことなくリンカーコアと同じ原理で空気中から自動で魔力を吸収し、自動防御と高機動飛行を使用者に与えてくれる。
「……べんり?」
「ああ、俺のお気に入りだ」
俺は
「……」
だがラヴィエの反応は薄かった。
「まあ、自力で飛べる奴にはあんまり関係ないか」
切なくなった俺はそう言ってこの話を終えた。
気を取り直して魔法の実技を始めることにした。
「まずはデバイスを起動してバリアジャケットを装着してみろ」
「……セットアップ」
《Anfang》(起動)
ラヴィエの体が光に包まれた。
「ほう? 魔力光に色が付いた。……【M】が原因か?」
初めてあった時に確認した時は魔力光に色がなかったラヴィエに、今は白色の魔力光が見えた。
光は太陽光などのように複数の色が混じると白色光になる。もしもそれと同じ原理なのならば、このラヴィエの魔力光は俺の兄妹たち全てが混じり合った色なのかもしれないと、柄にもなく感傷的な気分になってしまった。
「……できた」
《Ich kann jederzeit gehen》(いつでも行けます)
「そうか……なら早速やるか」
自然と笑みがこぼれそうになった俺は、その感情をごまかすようにそう言った。
「まずは魔力弾の生成からだな……こんな感じだ」
俺はまずラヴィエに手本を見せるため、手の平に青色の魔力弾を一つ生成した。
「……こう?」
それを見たラヴィエはあっさりと手の平に魔力弾を作り出した。ただまだ加減がわからないせいか、その一つの魔力弾に込められた魔力がとんでもない量だった。
「バカ! 少しでいいよ少しで!」
あまりの魔力量に俺は慌てて出力を下げるようにいった。
「……このくらい?」
「あ~、まあさっきよりはましかな? ただそんなに使ったら数が作れないだろ」
「……数?」
「そう、数だ。魔力弾なんて基本的には牽制に使うものだ。それ単体で敵を落とすなんてのは、管理局の白い悪魔とかその辺の化け物だけだよ」
俺はそう言い切った。
実際のところ魔力弾に大量の魔力を籠め、誘導弾で敵を撃墜するなんて非常識なことをする人間はいない。普通は自分の有利な間合いへと敵を誘導するために使うのが一般的だ。
「最低このくらいは作ってやる……の………が…………」
管理局の白い悪魔の話を思い出しながら、魔力弾についての説明を進め目ていた俺はラヴィエに複数の魔力弾を生成するように教えようとした矢先に、目の前の光景に絶句した。
先ほどラヴィエが作って見せた魔力弾の数が、目の前に無数に浮かんでいたのだ。
《Hundred》(100個目です)
「……無理?」
《Dies ist die Grenze derzeit》(現状では限界です)
「…………」
目の前の魔力弾の群れに俺は戦慄した。
数もそうだが一つ一つに込められた魔力量がかなりのもので、もしこれが俺に目がけて飛んできたら回避も防御もできる気がしない。
(これは予想以上だな)
まさかここまでの魔力があるとは予想だにしなかった。いや左目で確認したときの魔力量からでは、これだけの数を作るのは難しい。俺はもう一度左目でラヴィエを確認した。
「……は?」
とんでもない光景が映った。
魔力を消費した矢先にリンカーコアが、凄まじい勢いで魔力を増幅していた。
レアスキルには確かに増幅があったが、まさかリンカーコアで直接魔力を増幅するように作用するとは夢にも思わなかった。
今のラヴィエはもはや一種の永久機関のように、体内の魔力が尽きない限りは外部から魔力を集める必要がない。
「……これでいいの?」
《Gut gemacht》(上出来です)
「あ、ああ。次は砲撃魔法をやってみるか」
魔力弾でこれなら砲撃はどうなってしまうのかと、少し恐ろしいかったがやらないわけにはいかなかった。
「とはいえ、俺は砲撃はほとんど使えないからな。お手本はなしだ」
俺はそういうと氷で的を作り、離れた場所に設置した。
「とりあえずエファンに協力してもらって、あの的を撃ちぬいてみろ」
「……」(こくり)
《Jawohl》(了解)
ラヴィエは的を見つめながら右手を前にかざした。
《schälen Form》(砲撃形態)
するとエファンの形が変わり始めた。
その形はまるで腕に弓を着けたかのような形態で、弓の先には魔力が高密度に収束し始めた。
さらに魔力の性質が変化し、先ほどまでとちがいバチバチと放電が始まった。
「……打ち砕け」
《Mjǫlnir》(雷鎚)
その瞬間激しい光と轟音によって、俺の視覚と聴覚は機能を果たさなくなった。
しばらくしてようやく目と耳が回復した。
「なんつーか……」
もはや何の言葉も出なかった。
視覚と聴覚が死んだ状態でも、左目は正常に機能していたので俺は何が起きたのかをしっかり把握している。
あのときラヴィエの魔力は電気変換を起こし、高密度に収束された魔力はプラズマのような状態になっていた。そしてその魔力砲はラヴィエが宣言した通り、すべてを打ち砕く威力を持っていた。
俺の作った氷の的など、砲撃が触れる前にその熱で一瞬で蒸発していた。もしこの砲撃が建造物のある場所で行われたのなら、いったいどれだけの被害があったか想像もつかない。
ここまできたらもはや非殺傷設定など、あってないようなものだ。
「これは俺の許可なく使用禁止だ」
「……わかった」
《Ja》(はい)
二人はどこか納得がいかなさそうではあったが、こんなものを管理局に見られては俺の危険度まで跳ね上げられてしまいそうなので、二人には納得してもらうしかない。
「あとは細々とした調整で、威力を落とした魔法を覚えてもらうしかないな」
「……」(こくり)
俺はラヴィエにはまず魔法よりも、格闘を優先して覚えさせようと心に誓った。