稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生   作:ノーマン(移住)

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4話:現状確認

宇宙暦752年 帝国暦443年 1月5日夕方 オーディン軍病院

ザイトリッツ・フォン・ルントシュテット

 

人の気配を感じた為か、ふと目が覚めた。しっかり休めたのだろう、寝る前に感じていた疲れはない。

 

「ザイトリッツ様、お目覚めになりましたか。お身体はいかかです?」

 

従士のフランツが声をかけてきた。かなり良くなっている旨を伝えるとローゼ先生に私が起きたことを伝えてくると病室を出て行った。

 

窓を見ると西日がさしている。もう夕方だ。思った以上に寝入ってしまった。

しばらくするとノックがされ、ローゼと一緒にフランツが病室に戻ってきた。

 

「ザイトリッツ様、お身体に違和感などございませんか?」

 

ローゼは俺の脈を計ったり、聴診器を胸にあてたりと忙しく診察しながら問いかけてきた。

 

「痛みも違和感も感じないよ。今朝感じていた疲れもかなりすっきりしている。それより身体も点滴に飽きたようだ。なにか食べるものを用意してくれないかい?」

 

「はい。まずは軽い物からになりますが用意いたします。お身体もこれと言って問題はなさそうです。安心いたしました」

 

ローゼはホッとした様子だ。よく見れば今朝はひどかった目の下のクマもだいぶ和らいでいる。それとも化粧が崩れていただけなのだろうか。そんな事を考えていると

 

「いくら5歳とは言え、殿方が淑女の顔をまじまじと見るのはマナー違反でございます」

 

と怒られてしまった。すこし反省したそぶりをしてから話題を変える。

 

「ローゼ、費えの件とフランツの事は母上から聞いているかい?さすがに一晩中フランツに病室にいられては落ち着かない。できればフランツが過ごせる場所も用意してほしい。あと、この辺の食事処もフランツに教えてやってくれ。食事代は費えから出してあげて欲しい」

 

フランツは恐縮した様子で病室の外に控えているなどと言っていたが、頼みにしたいときに体調が万全でなければ困ると押しきり、隣の病室が空室の為そこを使わせてもらう事となった。

 

「フランツ、頼んだものは用意できているかい?」

 

と聞くと、有線でつながったタブレットを取り出した。

 

「書籍でも用意はできますが嵩張りますのでこちらを用意いたしました。帝国の歴史とルントシュテット家の歴史が分かるものを分けて読めるようにしてございます。

ただ、比較的すぐに用意できるものをかき集めただけでございますのでかなり難しいものも入ってございます。ご確認いただき、細かくご要望頂ければ改めて手配いたします。」

 

俺の急な要望の対応にしては満点だろう。タブレットを受け取ると、記憶があいまいなので確認しながら整理したいこと、考えたいこともあるのでしばらく一人にして欲しいと告げ、2人を病室から追い出した。

 

タブレットで状況確認を始めると結構すごいことが判明した。夢中になっていたので、しばらくしてローゼが用意した食事も食べながら作業を進めた。

 

ローゼには行儀云々と注意されたが、夢中だったので聞き流してしまった。若干不機嫌な様子だったし、まずい食事を用意されても困る。明日にでも機嫌を取っておくことにしよう。

 

ただ、俺が置かれた状況を彼女が知れば夢中になるのも無理はないと思うに違いない。まあ、彼女にそれを話すことは無いだろうが。

 

だいぶ落ち着いたが、俺の記憶には伯爵家3男としての記憶と成功したビジネスマンとしての記憶がある。

 

ビジネスマンとしての記憶を辿ると、西暦2000年前後に独自の文化を持つ島国を拠点にしていた。株の売買で稼いだ資金を基に、企業再生を始めた。

 

結婚はしていたが、再生屋は恨まれることも多い。逆恨みで家族に何かあっても困るから、再生屋を始めた頃に離婚した。嫁にはお金はもう十分稼いだのだから離婚する位なら再生屋を辞めろと言われたが、俺はお金が好きなのではなくお金儲けが好きだった。

 

自分の資金で企業を再生する。

成功すれば大儲けだが、失敗したら大金を失う。

 

明確でわかりやすかったし、成果は数字として明確に出る。誰に評価される必要もない。自分にも他人にもいくら儲けたかは明確だ。これ以上に自分の承認要求を満たしてくれるモノはなかった。

 

とはいえ最後がどこかのビルに商談に向かう所で終わっている事を考えると、急な病死か恨まれて殺されたかだろう。

 

反省点を上げるとすれば、自分本位に生き過ぎた事だろう。再建プランがうまくいかなければ容赦なく清算したし、不採算部門はバッサリと切った。

 

企業再生は確かにできたが、俺のせいで不幸になった人間も多いだろう。ある意味、最後はその報いをうけた訳だ。この辺りは、伯爵家3男としての今生では気を付けることにしよう。

 

そんな事より現状確認だ。俺は初めて家族そろって年末年始を過ごすべくオーディンへ来た。5歳になるまでは星間移動が身体に与える影響を考えて領地から出ることは無かったわけだ。

 

そして今日は宇宙歴752年、帝国歴443年、1月5日な訳だが西暦にすると3550年前後だ。

 

かなりの未来に来たわけだが、星間移動が実用化されている以外は、はっきり言って時代が進んでいるとは思えない。

 

記憶がはっきりしないが領地であるシャンタウ星域では農業が人力を主軸としていたし、食文化も無駄に食器類は豪勢だが、素朴なものが多かった。

 

そのあたりも資料を読むうちに理解できた。そもそもの地球文化が限られたエリアの物しか伝わっていないのだ。

 

この時間軸では冷戦構造のあと、核戦争がおこり、一世紀近い時を経て、比較的被害が少なかった豪州を中心に統一国家が出来たらしい。

 

俺の記憶の時間軸では冷戦構造は崩壊していたが、仮に核戦争がおきたなら、あの島国は最前線といっていいエリアだ。おそらく開戦初期に核が降り注いだはずだ。現に、その島国の名残は、特徴的な刀が数本、博物館にあるだけだ。

 

正直、安価ですぐ出てくる食べ物でもこちらの食事の数倍旨かった印象がある。大事なものは失って初めてわかるとか言うが、まさかファーストフードが食べれないことを嘆く日がくるとは。まあ、フェザーン自治領とやらに行けば似たようなものがありそうだが。話を戻そう。

 

核戦争を経て地球統一国家を築いた人類は、その後宇宙へとその生存領域を広げて行ったらしいが、各星系をある意味植民地のように扱い、かなり搾取したらしい。

 

その結果、星間戦争がおこり、地球はめった打ちにされたようだ。まあ、人の事は言えないが、傲慢すぎた報いをうけた訳だ。

 

これでいい感じの星間国家ができたかに見えたが、300年ほどである意味、政治が衆愚政治と化し、かなり退廃的な風潮が蔓延したらしい。

 

ここで登場するのが銀河帝国の初代皇帝、ルドルフ大帝だ。大帝は軍人として若年から宇宙海賊の討伐に活躍した後、少将で軍を退役し政界に入った。

 

圧倒的な民衆の支持のもと、議会を席巻し、本来兼任不可能な首相と国家元首を兼任し、終身執政官になった後に皇帝に即位した。

 

まあ、改革は権力が集中していた方がやりやすいし理解できるが権力をもった側からすれば一度手に入れた権力を手放すのは難しい事だ。

手放した後に報復されないとも限らない。共和制から帝政への移行も当然といえば当然だろう。

 

この時代から我らがルントシュテット家の名前も歴史書の端の方に登場するようになる。代々高級軍人を輩出し、治安維持や海賊討伐に功績をあげているし、初代はルドルフ大帝とともに海賊討伐をしたらしく、大帝が退役した後も軍にのこり、治安維持や海賊討伐をしながら軍を大帝の支持母体にすることにも貢献したようだ。

 

で、話が戻るが銀河帝国が成立したものの、空気が読めない層はいつの時代にも存在する。

 

建国期と大帝が崩御された際の2度にわたって共和主義者の反乱がおきたらしい。建国期の反乱では40億人が処刑され、2度目の反乱では40億人が農奴に落とされた。

 

主義主張に命を懸けるといえば聞こえはいいが、俺からすれば馬鹿でしかない。どうせ命を懸けるなら大勢が決する前に命を懸けるべきだし、大勢が決した後なら、体制内に入り込んで少しでも主義主張に沿った方針へ変えさせるように動くべきだろう。

 

そういう意味では、俺の爺さまを戦死させた叛乱軍の最初の一滴となったハイネセンとかいう奴の方が、まだ共感できる。

 

彼は農奴階級だったが、志を同じくする同志40万人と伴に、ドライアイスで宇宙船を建造し、帝国領から脱出し叛乱軍の最初の一滴となった。

 

100年ほど後に帝国軍と叛乱軍が会敵した際、2倍の戦力差を跳ね返して叛乱軍が勝利している。存在を予想していなかったとはいえ、彼の同志とその子孫たちは必死に国力を高めたに違いない。

 

この敗戦を通じて、隠れ共和主義者や政争に敗れた貴族などが叛乱軍に合流している。

 

爺さまが戦死した第二次ティアマト会戦を除けば、帝国と叛乱軍の勝敗は勝ったり負けたりの繰り返しだ。集団は良くも悪くも純度が高いほうが強い。そういう意味では、叛乱軍も数的には膨張したが質的には低下したとみるべきだろう。

 

そしてビジネスマンとしての記憶を持つ俺にとって、叛乱軍以上に注目なのがフェザーンだ。俺がフェザーンの事を考え始めたタイミングで病室のドアが開いた。

 

「ザイトリッツ様、まだ起きていらっしゃいましたか。今はまだ安静にしていただかないと困ります」

 

ローゼが見回りに来たようだ。笑顔ではあるが、雰囲気は怒りを感じる。これは機嫌を取らないとまずい状況だろう。

 

「ローゼ、心配をかけてすまない。覚醒してから初めて見たのが君だったが、私が生まれる際に取り上げてくれたのも君だろう。身体がその安心感を覚えているのか、どうも甘えてしまっているようだ」

 

俺が落ち込む素振りをすると

 

「恐れ多い事ですが、ザイトリッツ様は我が子同然に思っております。体調が万全になる前に根を詰めてはお身体にも障りましょう。ご記憶の確認も大切なことですがほどほどになさってください」

 

ローゼは笑顔のままだが、怒りの雰囲気は消えていた。そう言い残すと、病室から出て行った。機嫌は取れたようだ。


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