稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生   作:ノーマン(移住)

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101話:新体制

宇宙歴796年 帝国歴487年 4月下旬

首都星オーディン 軍務省 尚書執務室

グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー

 

「ミュッケンベルガー元帥、宇宙艦隊司令長官としても誇らしかろう。『ティアマトの雪辱』は軍部全体にとっても吉報であった。御父上もさぞかしお喜びであろうし、軍部貴族の御隠居たちも年甲斐もなく大騒ぎしたようだ」

 

「戦闘詳報もすでに分析に入っているが、今回から導入された新編成も概ね問題なく機能したようで安心した。もっとも儂らが前線にいた頃とは運用方法が異なり過ぎて、実際に指揮するとなれば覚束ぬやもしれぬが......」

 

「運用方法はだいぶ様変わりいたしましたが、今回の大勝は宇宙艦隊司令本部のみならず、何かと作戦面でご支援下された統帥本部と、そもそも優勢に戦況を進められる体制を用意して下された軍務省の集大成と認識しております。御二方にもお喜び頂けたなら、宇宙艦隊の面々も嬉しく思う所でありましょう」

 

私がそう答えると、軍務尚書のエーレンベルク元帥と統帥本部総長のシュタインホフ元帥が揃ったように嬉し気な表情をし、紅茶を口に含んだ。隠そうとしているのだろうが、口元が緩んでいるのが丸分かりだ。ただ、この二人も同じように喜んでくれていると思うと、改めて嬉しさがこみあげてくる。

 

先代のシュタイエルマルク伯から宇宙艦隊司令長官を引き継いで15年近い。常に戦況は優勢であったが、引き継いだ当初は、『自分の代で戦況が不利になるような事があれば面目が立たぬ』と思い詰めていた。何かと配慮してくれたルントシュテット伯を始め、義父以上に戦術家としての名を高めているシュタイエルマルク伯、そして今の体制構築を実務面から取り仕切ったリューデリッツ伯。支えてくれた人材を考えればこれ位の成果は出せて当然かもしれぬ。ただ、宇宙艦隊司令長官に着任して15年目に『ティアマトの雪辱』を果たせた事は、自分の中でも節目になった。気づけば私も58歳、そろそろ次の体制を考える年代に差し掛かっていた。

 

「それで、今日の議題は正規艦隊司令の人事案についてであったな?目は通させてもらったが、かなり若返ることになりそうだな。実績は十分といった所だが、其方を含めた5元帥の指揮下であっての事であろう?正規艦隊司令ともなれば独立して作戦行動に入る事もあり得るが、その辺りは大丈夫なのであろうか?」

 

「士官学校時代からの経歴は全て軍務省でも再確認した。少なくとも実績は申し分ない。後はやらせてみるだけと言った所かな?」

 

「左様ですな。確かに『代替わり』と言っても良いほどの人事案ですが、宇宙艦隊の状況を考えれば久しぶりに18個正規艦隊を戦力化できます。補給の面も無理せず済みますし、どうせなら優勢な戦況を現場で支えてきた者たちに機会を与えたいと考えておるのですが......」

 

二人が正規艦隊司令人事案を再度手に取り、やや渋い表情をしながら考え込んでいる。人事案に記載された候補者たちは確かに若い。ローエングラム伯を始め、ルントシュテット伯爵家のディートハルト殿やロイエンタール男爵など、20代~30代の将官ばかりだ。統帥本部総長が心配するのも致し方ないやもしれぬが、きちんと対策は考えてある。

 

「中将への昇進をきっかけに正規艦隊司令に任じることになりますが、小官を含め、宇宙艦隊に所属する5名の元帥の下に割り振って作戦にあたらせます。実際に独立して作戦行動をとるのは大将に昇進してからという事に致します。賛同いただければ有難いのですが......」

 

「そうなると体制も少し変える事になりそうだが、その辺りはどう考えておられる?」

 

「はい。体制案はこちらに取りまとめました。御二人のご了承を頂ければ、陛下にご裁可をお願いするつもりです」

 

二人に体制案を取りまとめた資料を確認してもらう。この人事案が公になれば、軍部も内戦に向けて体制を動かし始めたと理解するだろう。

 

「うむ。ルントシュテット伯とシュタイエルマルク伯を宇宙艦隊副司令長官とし、前線総司令部にメルカッツ提督をおき、リューデリッツ伯はアイゼンヘルツ星系の総司令に転出か。前線総司令部基地司令には父親の方のファーレンハイト大将を置き、アイゼンヘルツの駐留基地司令にはベッカー大将を充てる。理に適ってはいるが、かなり大きな動きになるな......」

 

「それと宇宙艦隊からの要望として、現在空席の憲兵副総監にケスラー中将を充てて頂きたいと考えております。グリンメルスハウゼン子爵の右腕として、門閥貴族の無理難題を上手く捌いて来た人材ですし、内戦の前に色々と把握しなければならない事もございますので」

 

「それは問題ない。変な横槍を許さぬために憲兵隊は総監をあえて儂が兼任してきたのだ。ケスラー中将なら資質の面でも問題は無いだろう」

 

「憲兵隊をケスラー中将が押さえ、装甲擲弾兵をオフレッサー上級大将が押さえればオーディンの地上の守りは万全です。宇宙艦隊の副司令部は惑星ルントシュテットとカストロプ星系改め、ベーネミュンデ星系のケーニヒスグラーツに置きます。フレイヤ星系とキフォイザー星系には辺境自警軍が大規模に駐屯しております。体制としては門閥貴族が一斉蜂起したとしても、十分に対応可能となりましょう」

 

私がここまで述べると、御二人も納得したようだ。了承を得る事が出来た。これで本題が終わったと思っていたが、相談事があったのは私だけではなかったらしい。

 

「実は我らも卿に相談したい事があるのだ。内戦が始まれば軍部貴族の一翼である以上、我らも同じ陣営で戦うことになるが、その後の事だな。『ティアマトの雪辱』も果たされたことだし、軍務尚書と統帥本部総長も代替わりしても良いのではないかと考えている。我らもそれなりの年代ゆえな」

 

「確認なのだが、ミュッケンベルガー元帥は宇宙艦隊司令長官の次の役職に希望はあるのあろうか?15年も宇宙艦隊司令長官職にあったのだ。軍務尚書も統帥本部総長も十分務まるとは思うが......」

 

「光栄なお話ですが、内戦を生きて終える事が出来た際には、小官は退役しようかと考えておりました。後任はルントシュテット伯かシュタイエルマルク伯をと思っておりましたが......」

 

「それなのだが、出来ればシュタイエルマルク伯を統帥本部総長の後任に充てたいと考えておる。そうなると先任で兄でもあるルントシュテット伯には軍務尚書をお願いする事になるのだが、そうなると宇宙艦隊司令長官の後任候補がやはりいなくなる事になるか......」

 

まさか御二人も退役を考えておられたとは意外だ。ただ、私同様、叛乱軍に雪辱を果たし、帝国全体が軍同様『実力主義』に塗り替わる中で、家柄も加味されて役職に就いたお二人は、確かに席を譲られた方が良いのやもしれぬ。

 

「そうなると、リューデリッツ伯かメルカッツ提督が候補者になりますが、リューデリッツ伯は戦術も出来ますがどちらかと言うと軍政畑ですし、メルカッツ提督はどちらかと言うとトップというより全軍の宿将のような形の方が活きる様に思います。ご意向は承りましたので、別途、候補者を選定する事に致しましょう」

 

「済まぬな。皇女殿下と婚約した事と、リューデリッツ伯が後見人であることも手伝って兵士たちに人気があると考えればローエングラム伯も候補になるかと思ったが、さすがにまだ若すぎるか......」

 

「そうですな。今回の昇進で中将ですから、内戦で功績をあげたとしても大将です。せめて10年、いや5年早く生まれていれば十分候補者たり得たかもしれませんが......」

 

確かにローエングラム伯はリューデリッツ伯の秘蔵っ子だし、実績もあげている。将来的に軍の重鎮になる事は間違いないし、3長官職の中では、宇宙艦隊司令長官に適性があるだろう。うーむ。5年とは言わぬ、3年早ければ上級大将にはなっていただろう。そうであれば十分後任候補だったのだが......。一度、元帥たちの意向も確認せねばならんだろうし、最終案はその上でなければ決められぬな。

 

「元帥たちの帰還を待って、御二人の意向も踏まえて相談したいと思います。さすがに小官の一存で決める訳にも参りませんので......」

 

「それももっともな話だ。だが、贅沢な悩みでもあるな。少なくとも引継ぎ候補がいるのだ。そういう意味でも優位な戦況に感謝せねばならぬ」

 

こうして内密の3長官会議は終了した。後任候補を決めた上でなければ陛下の御裁可を仰ぐわけにもゆかぬ。補給については既に手配が済んでいる。戦勝祝賀会の手配は何かと風情と配慮に長けたシェーンコップ男爵に依頼すれば間違いないだろう。さすがに祝賀会の手配を功績には出来ぬが、昇進して正規艦隊司令になるのは彼の『弟分』達だ。喜んで引き受けてくれることだろう。


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