今年もどうかこのkuraisuと『ソユーズ少佐の皇国軍戦記』をよろしくお願いします。
午後三時五十九分。
国境の長城要塞に私達選抜連隊は駐屯していた。
そして各部隊の隊長とその側近達が要塞の一室に集められ【日蝕】作戦失敗の報告を聞いていた。
「【日蝕】作戦って……クンミ様は、いえルシ・クンミは無事なのですか?」
「さぁな。だがルシ・クンミの搭乗していた【
イネス大尉の質問にハーシェル中佐が答えた。
「おかしくないか?」
「なにかだ?」
「確か【九尾】にはクリスタルジャマーが搭載されてた筈だ。朱雀クリスタルが封じられ魔法が使えない状況で朱雀の兵士に機械の限界値を底上げするルシが搭乗した鋼機がやられたなど信じれん」
「おい、ルーキン。それについては先の報告があっただろう」
「申し訳ないがその時俺は仮眠してた」
「後処理はちゃんと済ましてから仮眠したんだろうな?」
「ああ、全部リグティに押し付けてから仮眠したぜイシス少佐」
「ルーキン少佐、お前という奴は……!」
「そんなことより何故魔法が使えない朱雀の兵士が鋼機を倒せたと?」
ルーキンはイシス少佐の言葉は最初から入ってないかのようにハーシェル中佐に尋ねた。
イシスも毎度のことだと肩をすくめて黙り込んだ。
「ルーキン少佐。【日蝕】作戦に投入されたクリスタルジャマーは幾つか知っているな?」
「確か2つだったかと」
「ああ、【九尾】が沈黙する約一時間前にクリスタルジャマーを搭載していた空中戦艦
「たった一部隊で戦艦を……?」
ルーキンはあまりの事態に困惑した。
たとえ、魔法が使えたとしても一部隊ではかなり難しい事だ。
「
「いや、使用していたがその部隊は魔法が使用できたそうだ」
「……いったい何処の部隊ですか?」
「不明だ。現状で分かっていることは朱のマントをつけた候補生部隊だということだけだ」
「朱のマント?」
ルーキンは首を傾げた。
そして魔導院に関する知識を自分の頭から攫ってみたが、朱のマントに心当たりがない。
「なぁ、ソユーズ。朱のマントの候補生って何処の所属だ?」
「
「0組?そんな組あったか?」
魔導院で中心となるのは候補生の組で
そして候補生に満たない訓練生と呼ばれる候補生予備軍が存在する。
これらを支援・教育する為に魔法局・学術局・院生局などが存在する。
一応、軍令部も魔導院の一部門ではあるが魔導院からほぼ独立してしまっている。
しかし0組というのはルーキンに覚えがなかった。
「100年以上前に廃止された組で今の朱雀の甲型ルシが所属していた組だそうだ」
「じゃあ朱雀がルシを出してきたと?」
「だが、それにしては被害が少なすぎる。それに朱のマントの候補生は十名近く目撃されていることからもルシではないが何らかの方法でジャマーの効果を打ち消しているというのが今の結論だ」
「結局よく分からない部隊ということか」
ルーキンがそう言うとハーシェル中佐は言った。
「とにかく朱のマントを着けた候補生部隊については諜報部から情報がおりてくることを待つことだ。それより現在、カトル准将率いる部隊が朱雀の首都から撤退を開始している。それで【北の夜明け】についての我等の作戦行動は先に伝えたとおりだ。なにか質問はあるか?」
そう言われてベルファーが手を挙げる。
ハーシェル中佐はベルファーの名前を覚えてはいなかったが服装から大尉だと判断した。
「そのリンボス要塞まで地上部隊で運ぶとのことですが、空中戦艦或いは航空機を使ったほうがよくありませんか?」
「この【北の夜明け】作戦はロリカ同盟との国境に展開している2個師団及び侵攻部隊の2個軍団そしてカトル准将の部隊と上層部しか知らない作戦だ。朱雀侵攻と関係がないところで航空部隊を多数動かすとなると玄武軍に察知される可能性が僅かながらにある。私自身の考えを述べるならば無視しても構わないと思うのだがシド元帥は指示通りに地上部隊を使えとのことだ。勿論深い考えのあってのことだとは思うが」
「元帥閣下から直接命令であるならば私が異論を挟む必要はありませんね」
「ああ、……他に質問のある者は?」
そう言ってハーシェル中佐は周りを見回す。
そして30秒たっても誰も手を挙げないのを確認すると
「ならば、作戦を開始する。行け!」
「「「「ハッ!」」」」
そうして全員がハーシェル中佐に敬礼すると全員が部屋から出て行った。
午後四時三十七分。
リンボス要塞に到着した。
そして首都から引き上げてきた部隊と合流した。
「クンミ様!?」
イネス大尉が悲鳴のような声をあげながらクンミに近づいた。
なるほど右腕と左足に火傷おっている。
「いったいなにがあったんだクンミ大尉」
「元大尉だ。元上司殿」
私の言葉にクンミはそう返した。
「そうだったな。君がルシになってしまったから鋼室からイネスを軍に招いたんだったな」
「ソユーズ少佐! まるでルシになるのがいけないことのように言わないでください」
「別に構わないよイネス。あの人の治める今のミリテスじゃルシは道具と同義さ」
クンミの言うとおりだ。
シド・オールスタイン元帥が国政を担うようになった際に自国のペリシティリウムを支配下に置いた。
これにより白虎クリスタルを監視下に置き、クリスタルの使徒であるルシも国の戦力として扱えるようになった。
以来、白虎のルシは様々な場所で国の為に利用されてきた。
たとえばクンミはその能力を利用して兵器開発に携わり、もう一人のルシは戦争の抑止力として使用された。
これは元々ルシの立場が弱いミリテス皇国だからこそできた偉業である。
「そうだな。で、どうだ? 作戦は実行可能か?」
「まぁ、大丈夫だろうさ。その後のことはわからないけどね」
クンミはそう言うと纏わりついていたイネス大尉を引き離して個室に入っていた。
イネス大尉は頬を膨らませて何処かに走っていった。
私も個室に戻ろうとするとルーキンが話しかけてきた。
「まさか【日蝕】作戦以外成功するとは流石に予想外だったな」
「まぁジャマーを無視して魔法を使ってくる部隊が存在するなんて完全に予想外だったからな」
「つーかそんな部隊があるなら朱雀各地にいる部隊を首都に後退させる必要なんかあったのか?」
「確かに、幾ら朱雀の候補生部隊が機密情報だったとしても上層部は知っていた筈だ。なのに魔導院に救援要請を出し、しかもその命令を出したのは朱雀の権力者でも上から五指に入る奴等だ。なにか裏でもあるのか……」
「それに首都を落としてから三時間後にその部隊が出てきたってのも解せないよな」
「ああ、あんな特殊な部隊なら国境地帯か首都に配置しておくべきだ」
「だが国境で苦戦したという報告もなく、首都はあっさりと陥落した。どう考えても妙だ」
「まぁそんなに規模は大きくないようだから対策のしようはあるだろう」
「そうだな。それに朱雀軍はこの戦争で致命的な打撃を受けたはずだぜ!幾らジャマーを無視できるって言っても周りの支援なしじゃ高々十数名の候補生部隊に俺らミリテス皇国軍を相手にできねぇだろうさ」
「その通りだ。あ、そういえば五時三十分に集合だぞ忘れるなよ」
「ああ」
そんな話をした後、私は個室に入り仮眠をとった。
午後五時十分、ミリテス皇国はロリカ同盟に宣戦布告。
ミリテス皇国が二国相手に戦争を仕掛けてくると想定してなかったロリカ同盟首脳部は混乱した。
宣戦布告から十分後、皇国軍の2個軍団が国境目掛けてなだれ込んできた。
それを迎え撃つのは国境に配置され、皇国軍と紛争を繰り返している玄武軍の騎士団。
最初は互角であったが徐々に数の差に押され始める。
玄武軍はこれを受け、国境から数十km離れた地点に部隊を集め始める。
午後五時三十分、皇国軍占領地朱雀領イスカのリンボス要塞にて。
皇国軍の予想通り皇国との国境を警戒し始めた玄武軍に対し皇国軍は【北の夜明け】作戦を実行に移す。
作戦内容は空中艦隊を朱雀領から同盟領に侵入し、ロリカ同盟首都を直接攻撃するというものである。
「だ、大丈夫なのかね?ルシ・クンミがそんな状態で無事に攻撃を加えることが、その、可能なのかね?」
ペンウッド中将が怯えながらカトル准将に尋ねる。
「本人が問題ないといっているので大丈夫でしょう」
カトル准将はそう答えた。
「そうか、じゃあがんばってね」
クザン大将が気楽そうにそう言った。
するとカトル准将は空中戦艦に乗り込む。
そして広場に選抜連隊を始めとするリンボス要塞に駐屯していた部隊が整列していた。
艦隊が飛翔すると同時に12軍団長のシュミッツ司令官が叫んだ。
「敬礼!!!」
そういうと同時に整列していた兵士全員が胸に拳をあて敬礼する。
乗り場にいたクザン大将やペンウッド中将も同じだ。
そしてカトル准将率いる艦隊はロリカ同盟の首都に向かって北の空に消えていった。
SIDE ラルフ大佐
ミリテス皇国軍のカトル准将指揮下の部隊の大佐。
役職は戦艦艦長補佐。
さっそくだがオレは多分生きて祖国の土を踏むことは多分できない。
何故ならこの戦艦は特殊な任務を授かっているからだ。
それはこの戦艦の艦長と積み込んでいる荷物を知れば分かると思う。
とにかくオレ達の乗る戦艦はロリカ同盟の首都付近を航行している。
『大佐! 玄武軍の弓矢による集中攻撃を受けています!!』
玄武軍と戦う時に定番の報告が来た。
つーか弓矢で空中戦艦を攻撃してくるって毎回何の冗談だと言いたくなる。
皇国にも狩人とか弓矢で獲物を狩ってたりするが遥か上空を飛び更に鋼鉄製の空中戦艦に被害を与えるなんか不可能だ。
相変わらず、玄武人どもは常識外れな身体能力を持っていやがる。
「対地砲撃はしているのか!?」
『ハッ!ですが敵の抵抗が激しく、このままでは――』
「チッ!最悪!!」
艦長がそう言うと右肩あたりにルシの紋章を光らせ、空中戦艦の能力を底上げする。
「これでなんとかなるだろ大佐」
「ハッ!ルシ・クンミ」
そうこの戦艦の艦長はルシ・クンミなのだ。
『まもなくペリシティリウム玄武上空です!!』
士官からの報告。
この報告を聞き、心なしか艦内が一瞬静まり返った気がした。
おそらくこの戦艦に乗っている者達が実感したのだろう。
最後の時がきた……と。
「投下班!準備はできているな!!」
『ええ、問題ありません。何時でも――』
「……」
目を瞑り、自分の一生を振り返る。
貴族として生まれ、士官学校に通い、軍に入りあっというまに将校になった。
既にひかれたレールの上を歩むがごとき人生だった。
だが、今から25年ほど前だろうか、軍で頭角を見せ始めていたあの男と出会ったのは。
最初は噂でしか知らなかった。
平民出の若造が軍内で派閥を形成し、上層部に歯向かってくる奴だと。
だが、会って全ては変わった。
あの男はオレが今まで会った人間の中で見たことがないような目をしていた。
なんと言えばいいのか……理想に燃えている目と言えばいいのか。
とにかくなんとも不思議な魅力を持った男だった。
そしてなんとも抗いがたい欲望に襲われ彼の派閥に加わった。
それからオレの人生は一変した。
上層部のそれまで腐敗軍人どもをたたき出して彼を元帥にし、クーデターを起こして皇帝を幽閉し、国内を一変させた。
なんとめぐるましく充実した日々だったか!!
「では、ルシ・クンミ。アルテマ弾の強化をお願いします」
「ああ、任せときな」
「……投下班。アルテマ弾投下準備!!」
『……ハッ』
この戦艦が積んでいる荷物とはアルテマ弾のことだ。
【大陸破壊兵器】と称されるこの爆弾を投下すれば玄武の地を完全に消し去ることが可能だ。
この戦艦諸共……
「艦長補佐のラルフ大佐である」
『投下まであと5秒……5、4、3……』
「艦内にいる全将兵に告ぐ、諸君らの功績で因縁の玄武は跡形もなく消滅するだろう」
『2、1……投下!!』
「よくやった!!諸君等に!我等が同胞に!!栄光あれ!!!!!!!」
そして腐敗していく祖国を放置していた貴族のオレにこのような大任を与えてくださった彼に。
シド・オールスタイン元帥に栄光あれ!!!
オレが最後にこの目で見たのは強烈な緑色の光だった。
午後六時十六分。
ペリシティリウム玄武に向けて【大陸破壊兵器】アルテマ弾が投下された。
これにより700年の歴史を持つロリカ同盟と呼ばれた国土はオリエンスの大地よりその姿を消した。
0組:存在自体は100年以上前にあったらしい。シュユが所属していた設定は小説から。
今回の話で玄武が緑の閃光とともに消失しました。
・・・正月に投降するような話じゃなかったかも知れない。