ソユーズ少佐の皇国軍戦記   作:kuraisu

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FFアギトサービス終了記念。
時系列的にはアズールの決戦の後なんだけど、アズールの決戦の執筆が捗らないのでこのままGO!


外伝 蒼龍王の最後

巌の月(11月)12日

蒼龍王は憤っていた。

マハマユリの死守をホシヒメに命じていたというのに、あろうことかあの女はマハマユリが陥落してもいないのに朱雀に対し降伏を宣言したのだ。

おかげで蒼龍王は身柄を確保しようとする朱雀軍から身を隠さねばならない状況に陥っている。

人を嵌めることに長けた女という生き物に蒼龍王は当てどころのない怒りを覚える。

 

「王よ。お気持ちはわかりますが、今少しの辛抱を。ナラクにある青龍の力を得ればこの状況も覆りましょう」

 

一人の軍人シャハタが蒼龍王の前に跪く。

周りにいた者たちもシャハタに習って跪いた。

 

「うむ、そうだな……」

 

蒼龍王は王位に就く前から側付きとして取り立てていたシャハタの言葉で怒りを抑える。

この場にいるシャハタを始めとした彼らは身分の低さと性別ゆえに蒼龍軍で肩身の狭い思いしていた過去があり、それを取り立ててくれた蒼龍王に対し絶対の忠誠を誓った者達だ。

その彼らの忠言とあれば、蒼龍王も聞き入れることも(やぶさ)かではないのだ。

 

「それではシャハタ。これからどうしてナラクへ向かうのだ?」

「既に朱雀軍が制空権を握っている以上、王都の包囲していた朱雀軍の戦線を破った時のように竜で突破するわけにはいきません。

朱雀軍の大半がライローキの地にいる今の内になんとかローシャナ州へ入りたいところですね。

ただ……そうなると我らは市井の者に混じりながら、徒歩で行かねばなりません」

 

シャハタの悔しくて悔しくて仕方ないという口調に蒼龍王は考え込む。

この場において最優先されることは青龍の力を手にいれること。

元々の計画であればコンコルディアを完全に掌握してから執り行う腹積りであったが、想像以上に役に立たない女どもに足をひっぱられた結果、僅かな部下を除いてなにもかも失った蒼龍王にとっては再起の為にも早急に為さねばならないことだ。

 

「……それでお前は我をナラクまで連れて行けるのだな?」

「一命に代えましても、必ずや送り届けてみせます」

「ならば是非もない。お前の判断を信じるとしよう」

 

王は屈辱を飲み込み、生き残って戦況を挽回する為にシャハタの判断を信じた。

万が一にもここで果てるわけにはいかないからだ。

まだなにひとつ始まってすらいないのだから。

 

 

 

巌の月(11月)30日

ローシャナの街の近く。

ここはナラクと呼ばれ、青龍クリスタルとそれの加護を受けた物を蒼龍のルシ達が封じた場所だ。

冷たい地獄ともいえる雰囲気が漂う、なんとも不気味な場所である。

 

「先程から襲い掛かってくる魔物どもはなんなのでしょうな?」

 

シャハタは倒した魚類と人を足して二で割った容姿をした人食い魔物の返り血に濡れた槍を見ながらつぶやく。

 

「大方、【夕月】が自分たちの秘密を守る為に配置した番犬代わりであろうよ。

蒼龍クリスタルの魔物を使役する言葉を用いても、言うことを聞かぬ狂犬。

このナラクを守護する魔物としては、正にうってつけだったのだろう。

もしここに封じた女どもの秘め事を表に出れば、青龍王国が女どもの奸計により滅びたという真実が周知にものになろう。そうなれば最早女風情が権力の椅子に座り続けることなどできぬ」

「なるほど」

 

シャハタは蒼龍王の説明に頷きながら、部下達に声をかける。

 

「2人ほど斥候として先行しろ。あの魔物がたむろしているようならすぐに状況を報告せよ。

そしてルドウとアンザスはなにがあっても絶対に王の傍を離れずにお守りするのだ。いいな」

「「はっ」」

 

そして数時間をかけて、蒼龍王達はナラクの奥部へ、地の底へと下って行く。

そしてナラクの最奥部へと辿りつき、そこにあったものを見て蒼龍王は目の色を変えた。

 

「おお、あれだ」

 

目の前にある明らかにクリスタルの恩恵を受けた物。

それでいて蒼龍クリスタルの力の気配を感じぬ物を王は青龍クリスタルの産物であると判断した。

蒼龍王はおそるおそるその産物に触れようと近づく。

 

「ルドウ! アンザス!!」

 

突然のシャハタの叫び声に蒼龍王はなにごとかと振り返る。

すると氷の塊がルドウとアンザスの体を貫通しているのが目に入った。

 

(なぜだ。我がここに来るなど、奴らには知る(よし)もなかろう!?)

 

蒼龍王は突然の襲撃に混乱していたが、シャハタはすぐさま指示を飛ばす。

 

「朱雀の襲撃だ! 王を中心に円陣を組めッ!」

 

そう叫んだ直後に嫌な予感を感じ、すぐさま飛び退く。

だが、回避するのが遅かったのか左脚を矢で射ぬかれていた。

 

「クッ!!」

「隊長!」

「うろたえるな!私の事はいいッ!王を守るのだッ!!」

「は、はいッ!」

 

近く駆け寄ってきた部下をシャハタは叱咤して王の護りを優先させる。

しかしシャハタの目で見る限り、襲撃者達である朱のマントを身に纏った候補生の方が優勢であることは明らかだった。

なにか手はないかとシャハタが必死に頭を回転させていると……

 

「クワセロォ!」

 

またどこからか湧いて出たように人食いの魔物どもが現れた。

 

「え~。また~?」

「しつこいっての!!」

 

0組の方も魔物どもに辟易しているのか文句を言う。

しかし手慣れたように彼らを殲滅していく様を見る限り、当方との練度差は明らかだ。

 

「ぐっ!おのれ……」

 

左脚に走る激痛を耐え、槍を構えて0組に特攻する。

0組の方は5人程度。司令塔と思しき背の小さい子をとれば多少連携は崩れるだろう。

自分の命を捨てでもそいつくらい討ち取って見せるという覚悟を決めたのだった。

一定の距離まで走って近づき、その子を狙って全力で槍を投げた。

 

「エイト!危ないッ!」

「ッ!」

 

しかし魔法銃を装備した少女の声によって、背後からの槍の投擲に気づいた子供はそれを容易く回避する。

そして身をかがめてシャハタに接近する。

 

(は、早いッ!)

 

そう思った直後に子供の正拳がシャハタの腹に叩き込まれ、その衝撃でシャハタの体は吹っ飛んで壁に叩きつけられた。

 

「ぐ……、があ」

 

朦朧とする意識の中で、シャハタは魔物が数匹近づいてくるのが見えた。

暫くそれを無感動に見ていたが、突然逃げねばならないという思いに告ぎ動かされたが、左脚を射抜かれて全身強打した体は思うように動かなかった。

 

「グ、グヘへへェ!」

「クワセロォ!」

「ゲェールゥウ!」

 

容赦なく魔物たちがシャハタの体に喰らいついてくる。

シャハタは身体のあちこちから激痛を感じるが、それでも体が言うことを聞かない。

あまりの痛いと絶望に、いっそ感覚そのものが死んでいればという思いすら湧いてくる。

立て続けに脳に送り込まれてくる痛覚の信号によって、まともな思考すらできなくなった頃、0組の魔法がシャハタの体ごと魔物たちを焼き払った。

 

 

 

 

突然の襲撃と魔物たちの登場に恐怖し混乱していた蒼龍王だが、自分の側付きが全滅したという事実に怒りの感情が恐怖を塗りつぶした。

 

「何度、我の邪魔をするつもりだ。下賤な朱め!」

 

蒼龍王の言葉に0組は表情をなにひとつ変えずに突っ立ている。

そのことに更に怒りを煽られ、再び口を開こうとしたが……

 

「蒼龍王!」

 

聞いたことのある声を聞き、それをやめて声が聞こえた方向を見る。

そこには朱色の服を着た蒼龍の女がいた。

 

「クレメンテ?」

 

クレメンテ・ユウヅキ・ネス・ピースメーク。

【夕月】の守護であり、協力を要請してきた皇国に派遣していた筈の女だ。

それが0組と共にいるということは、要するに自分を裏切って朱雀についたということだ。

ホシヒメといい、この女といい、これだから女という存在は信用できぬ……ッ!!

 

「はっ、たかが守護の身で王の前に立つな!」

 

蒼龍王の怒りを浴びたユウヅキは顔を伏せながらも、言葉を紡ぐ。

 

「……ここは、代々夕月が守る地です。いくら王とはいえ、ここに――」

「ふん。死に損ないは黙っておれ」

 

蒼龍王はユウヅキとこれ以上話す必要性を感じられなかった。

なぜ朱雀がこの場所のことを知り得たのか疑問だったが、ユウヅキが朱雀側に回っていたのなら話は通る。

ただ戦死していただけなら、役に立たないという評価で済んだものを。

そんなことを思いながら蒼龍王は青龍クリスタルの産物に手を伸ばす。

 

「それに触れてはなりませぬ」

 

ユウヅキの言葉に手をとめ、少しだけ耳を傾ける。

【夕月】は代々青龍クリスタルを封じ続けてきた一族。

もしかしたら王族の自分でさえ、知らぬ真実を知っているかも知れぬ。

 

「それは呪われた青龍のクリスタルにまつわるもの――」

 

しかしユウヅキの口から発せられたのは、コンコルディアの民なら幼子(おさなご)でも知っている女どもが権力を握る為に作り上げた物語だ。

蒼龍王はユウヅキが言い終わる前に言葉を被せる。

 

「夕月の守護ならば貴様も知っておろう。我ら蒼龍の男は、元々青龍人であったことを」

「違います。私たちは蒼龍人です。聖女の教えをお忘れですか?!」

 

ユウヅキの聖女の教えという言葉に、蒼龍王の怒りが頂点に達した。

 

「400年前に民を解放した聖女か……下らぬ。

代々女のみを天子と決めた。ただの独善者だろう」

「何を言っておるのですか?!」

「なぜ、王家に生まれながらも、男というだけで王位継承権を与えられぬのだ!

なぜ女でなければならぬのだ!!」

「それは……」

 

ユウヅキは蒼龍王の叫びに思わず後ずさり、口ごもる。

男であるという劣等感といずれ見返してやるという妄執を糧に王座についた男の隠す気すら既にないどす黒い感情に支配され狂気に歪んだ眼光に、五星近衛兵団のひとつを率いたユウヅキに恐怖を抱かせたのだ。

その事実は蒼龍王の胸になんとも形容しがたい優越感を齎した。

 

「だから、我は女王を白虎の手で殺させ、自らの手で蒼龍最初の王座を手に入れた!」

 

その優越感のままに、今まで不当に王座を独占し続けた女王を謀殺したことも吐露する。

 

「なっ!あなたは、一体、何を……」

 

王を守る守護を前にして、先代女王を謀殺した事実を言うなど正気の沙汰とは思えない。

蒼龍王は女に蔑まれてきた劣等感故に極度の視野狭窄(しやきょうさく)に陥っており、女に対する猜疑心は凄まじく強い。

傍から見れば、正気ではないように見えてもある意味当然である。

 

「見ておれ!今から我は青龍の力を手に入れ、ソウリュウを含めた全ての竜を従え、

コンコルディアの大地を、否!!

世界の大地を我のものとし、青龍王国を再建するのだ!!」

 

荒唐無稽な、夢物語のような野望を語る蒼龍王。

しかし王が本気で青龍王国を再建するつもりなのは十分に伝わった。

 

「くっ!止めるぞ」

 

蒼龍王の野望が実現できるとは到底思えないが、どう考えても放っておいていい存在ではないと判断したエイトは止めに入ろうとしたが、ユウヅキが手で制した。

 

「それでいい。身分をわきまえ、そこで見ておれ」

 

ようやく自分の野望の素晴らしさと女という生き物の愚かさと浅ましさを理解したかと蒼龍王は満足し、再び青龍クリスタルの産物へと手を伸ばす。

すると体中に力が溢れ、今までの自分が信じられぬ程矮小な存在であったと感じる。

今ならば誰が相手であろうが負けぬというほど、凄まじい全能感に蒼龍王は満たされる。

 

「おぉ……これが、青龍の力……」

 

恍惚した声で、蒼龍王は呟く。

すると背後で物音がしたのでその方向を見ると、ぞろぞろと人食いの魔物どもが這い出てきていた。

 

「なんだ……?」

 

先程までとは違い、十匹以上も一緒に出てきた魔物どもを流石に不気味に思い、呟く。

おぞましいことがおこるという警鐘が、蒼龍王の脳裏でやかましいほど鳴っている。

 

「……王よ。あなたたち蒼龍の男性は確かに青龍人の末裔と言える。

しかし、それは、セイリュウの呪いを受ける種であると同義なのだ。

竜の呪いは、400年経った今でも解けてはいない……

あなたは今、その血に眠る竜の力を手に入れる。

しかしそれは、竜を食する彼らにとって最高の餌ともなる……」

「なにを言っている?」

 

これ以上聞いてはいけない、これ以上聞けば自分の根幹が跡形もなく壊れてしまうと蒼龍王の直感は叫び続けていたが、自分の知らないことを語るユウヅキの言葉の先を促す。

いや、促してしまった。

 

「永遠なる飢餓と痛みを持つ青龍人。

ここに来るまでに、あなたも数多くの青龍人を見てきたはずだ」

「馬鹿な……あの人食いの魔物どもが、青龍人……だと……?」

 

信じるに値しない虚言。

そうに決まっているのに、否定しきれないのはなぜか?

理由は単純明快。

己の血に眠っていた竜の力を呼び覚ました蒼龍王は分かってしまったのだ。

あの魔物どもはこの力に酔いしれ、理性を失った者達の末路であると……ッ!

その魔物ども――青龍人達は涎を垂らしながら蒼龍王に近づいてきた。

 

「寄るな!無礼者!我は蒼龍最初の王にして、青龍王国を蘇らせる――」

 

半狂乱になりながら蒼龍王は叫ぶが、理性を失って久しい青龍人達が人の言葉を理解する訳がなく、永遠に消えぬ飢えを癒すために蒼龍王に飛び掛かり、その肉に喰らいついた。

痛い。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!!

生きたまま喰われるという責め苦から逃れようと王は手に入れたばかりの竜の力で反撃するも、自分に喰らいついていた一人を吹き飛ばせたくらいで、周りに山のようにいる青龍人達が我先にと喰らいついてくる。

それも当然と言えば当然である。

青龍人達にとって蒼龍王は久しぶりの御馳走であり、それを逃す手などないのだ。

 

「う、うわぁーーーー!!」

 

こうして蒼龍王は自らの理想である青龍王国の民達に食い荒らされた。

女どもの虚言と思っていた伝承は真実だったのか。

いや、薄汚い女どもにそのようなことができるはずがない。

ではなぜ青龍人がこのような醜い姿となっているのか。

肉を喰いちぎられる激痛に喘ぎながら、様々な思いが蒼龍王の胸を去来する。

そして命を失う刹那、王が抱いた思いは、

 

(まだ女どもを見返していないのにこんなところで死ぬというのか……ッ!)

 

なによりもやり遂げたかったことに対する未練であった。




というかまだこれ見てくれている人いるのだろうか?
もしいるなら感想・評価ください。書く気が出てくるかもしれないので。

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