ソユーズ少佐の皇国軍戦記   作:kuraisu

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蒼龍王ってトップに立たなきゃ優秀だと思ってる。


第5章 白虎蒼龍同盟
蒼龍王の演説


コンコルディア王国の王都マハマユリにある広場に多くの蒼龍の民が集まっていた。

王家から臨時発表があると聞き、遠方からこの王都にまで足を運んでいる者もいる。

王城のバルコニーから女王亡き今、王族の中で最大の権勢を誇る男が城下に集った民を見下ろしている。

 

「ここに集いし親愛なる臣民諸君に対し、我は非常に辛く悲しい事実を伝えねばならない」

 

蒼龍王はそう切り出した。

 

「そう、既に忘れて気づいている者も多いと思うが……

気高き王国の指導者であった我らが女王がこの世を去られた」

 

この言葉に蒼龍の民の顔が陰る。

 

「女王は戦争初期からオリエンス大戦の再来を憂い、白虎と朱雀に停戦を呼びかけていた。

そして先日の白虎首都における停戦交渉で大戦の再来は回避されるはずであった。

しかし!しかし0組と呼ばれる朱雀のアギト候補生に女王は暗殺されたのだ!

停戦交渉の結果に不満を抱いた朱雀政府は、卑劣にもこの交渉自体なかったことにしようと皇国元帥と女王の下へ暗殺者0組を送りこみ、葬り去ろうとしたのだ!」

 

蒼龍王は拳を演説台に叩き下ろす。

いかにも朱雀を許しがたいというふうに。

 

「女王なき今、国法に従い、王位継承権を持つ天子を新たな女王として迎えねばならぬ。

しかしながら現在蒼龍王家には王位継承権持つ女はおらぬ。

故に王家の者による協議の結果、この国難にあたり我が王としてこの国を率いることとなった。

率いることが決まった以上、我は非才ながらも微力を尽くすつもりだ」

 

蒼龍王は軽く頭を下げる。

そして拳を作り、それを振り上げる。

 

「我はここに誓う!

女王の意志を踏みにじり、オリエンスの法を犯した朱雀に……

正義の鉄槌を下すことを!!!」

 

蒼龍の民の一部がそうだと叫んだ。

 

「故に!朱雀との間にある軍事同盟は当然これを破棄する!

同時に朱雀の卑劣な行為に怒る白虎との共同姿勢をとり、悪逆なる朱雀を滅ぼすのだ!

既に白虎から対朱雀共同戦線を張りたいという要請を受けており、じきにその交渉を行う予定だ。

我らから平和を愛する女王を奪った卑劣なる朱雀にその報いを受けるのは時間の問題であろう!」

 

蒼龍王はそう宣言する。

すると蒼龍の民が声を揃えて叫んだ。

 

「「「蒼龍王万歳!朱雀を許すな!!」」」

 

真実を知らぬ盲目な民はそれを称賛した。

蒼龍王は群衆の歓声に、大仰に手を振ることで応え、王宮の中へと戻る。

すると一人の人物が蒼龍王の前に進み出る。

 

「これで民衆の支持は得たも同然ですね。おめでとうございます」

「ああ、お前が用意した物にしては随分と良い原稿だったな」

「王よ。この【宵闇(よいやみ)】の守護コノハを舐めてるんじゃありませんよね?」

「【宵闇】を他の女どものように見てはおらぬ。

お前達は他の奴らと違い、それなりに物の道理というものが分かっておるからな」

 

ただその言葉遣いはどうにかならぬのか、という言葉は蒼龍王の内心だけで呟いた。

実際、蒼龍王のコノハに対する評価は他の五星近衛兵団の守護に比べて高い。

というのもコノハは、最初から蒼龍女王を邪魔者扱いしていたからだ。

武断派で好戦的なコノハからすれば、戦乱絶えぬこの時代に平和主義な女王はあまり好ましくない人だった。

その点、蒼龍王は我欲に満ちた王族たちを纏める実力を持つコノハとしては仕えるに足る主君だ。

女尊男卑のコンコルディアで男というだけで下に見られることが多いが、国境の護りを司ってきた【宵闇】では結果主義・能力主義であり、性別や身分など大した参考要素にならないだけの地盤があり、【宵闇】が蒼龍王の派閥に組み込まれるのにはさほど時間もかからなかったのだ。

 

「しかし、密約では白虎の連中にクリスタルを引き渡しちまうことになってたと思うんですがよろしいんですかね?」

「心配するな。蒼龍クリスタルを引き渡したところで問題にならぬ。

我らには我らに相応しいクリスタルがあるのだからな」

「はぁ?それはどういうことで……」

「これは王家に伝わる機密故、詳しくは話せぬが心配するな」

「そこまで言うのでしたら、これ以上問う必要はありゃあしませんね」

 

そう言うとコノハは恭しく礼をする。

それを見て、蒼龍王は満足気な顔をするのであった。

 

 

 

総督府シド元帥執務室。

そこでこのミリテス皇国最高権力者であるシドが書類仕事に追われていた。

帝都を戦場にしたため、不安を煽られた市民の慰撫。

新しく成立した蒼龍臨時政府との交渉。

そしてコンコルディアを味方につけた上での今後の戦争計画などやらねばならぬことが山ほどある。

そしてふとTVでしている蒼龍王の演説を見る。

 

「フッ、いい気なものだな」

 

蒼龍王の演説に熱狂している群衆を見て、そう呟きいて嘲笑う。

国家の根幹であるクリスタルを引き渡すことを前提とした同盟。

ハッキリ言って暴挙以外のなにものでもない。

しかし、蒼龍の御家騒動につきあってやるだけで蒼龍クリスタルが入るなら、コンコルディアを攻め滅ぼして手に入れよりかは遥かに安上がりだ。

そんなことを思っていると、ドアがノックされた。

 

「入れ」

「失礼します」

「なんのようだクラーキン少将」

 

シドは書類仕事の手を緩めずにクラーキンの方に一度だけ視線を投げる。

 

「閣下、先の戦闘で我が旅団に所属する士官の記録で【朱の魔人】に関する重大な報告をしに参りました」

 

【朱の魔人】。

その言葉を聞くとシドは書類仕事をやめ、クラーキンに覇気の籠った視線を向ける。

 

「その記録とはなんだ?」

「先の帝都追撃戦でのイネス大尉が残した通信記録です」

「そうか、ではその者の詳細を寄越せ」

 

そう言われるとクラーキンは脇に抱えていた資料をシドに渡す。

 

「こちらになります」

 

シドは提出された書類に目を通す。

帝都防衛旅団所属第四大隊指揮官補佐兼白虎第四鋼室所属技官。

8か月前にルシになり、特殊部隊へと移動させられたクンミに変わって第四大隊の指揮官補佐に就任。

帝都追撃作戦にて【朱の魔人】と交戦し、戦死。

 

「なるほど……。これほどの者ならば虚言の可能性は低い。その通信記録を聞かせよ」

「ハッ」

 

クラーキンは持参した記録装置のスイッチを押す。

するとイネス大尉のヴァジュラの会話記録が流れ出した。

【朱の魔人】に関するイネスの推測を聞き終えるとシドは厳しい顔つきになっていた。

 

「少将、この件は他の誰かに?」

「私の一存で箝口令を敷いたため、旅団司令部の者しか知らぬはずです」

「そうか、よくやった。クラーキン少将に勅命を言い渡す。

秘密裏に秘密警察を利用してこの情報が正しいか否かを調べるのだ」

 

シドの命令に思わずクラーキンは首を傾げる。

 

「秘密裏というと、秘密警察長官を通さずにですか?」

「そうだ。この情報は可能な限り秘すべきものだ。もしこれが間違いであっても広まれば士気が下がりかねん。明確な裏付けができれば、早急に緊急対策会議を開き【朱の魔人】に対応を決める」

「ハッ」

 

クラーキンが敬礼して執務室を出ていく。

するとシドは執務室内に誰もいないことを入念に確認した後、手で顔を覆った。

 

「クンミ、貴様の部下は優秀だな……」

 

人であった頃、自分を父のように慕っていたルシの名を呟き、深いため息を吐いた。

 

 

帝都防衛旅団司令部のハーシェル中佐の執務室。

そこにルーキンとソユーズが呼び出され、新たな命令を受けていた。

 

「移動ですか?」

「そうだ。一時的にお前達の帝都防衛旅団勤務の任をとく。

貴官らとその直属部隊で元帥閣下の護衛部隊の指揮を務めて欲しいのだ」

 

ハーシェル中佐にそう言われたルーキンとソユーズは首を傾げる。

 

「つってもよ。元帥閣下の護衛部隊って選りすぐりの指揮官がいるだろ」

「本来ならな。だが、元帥暗殺を狙った暗殺者に運悪く指揮官が殺されてしまってな」

「……護衛を数名殺せと確かに言ったが、よりにもよって指揮官を殺したのかあいつら」

 

ルーキンが「もうちょいあのガキどもに詳しく指示を出しておくべきだったか」と愚痴る。

だが、その様子を見てハーシェルがため息する音が聞こえた。

 

「まあ、そのかいあって蒼龍女王に付きまとっていた守護の目も欺けたのだ。

クラーキン少将の取り成しもあって閣下もこの件に関してお前を責めるつもりはないそうだ」

「そりゃありがたい」

 

ルーキンがまったくありがたくおもってなそうにそう言う。

すると仮面越しに見えるハーシェルの目がわずかに愉快気にゆがんだ。

 

「が、一応なんの罰も与えんというわけにはいかんので少将に始末書を提出するように」

「はあ!?」

 

ハーシェルの言葉にルーキンは純粋に苛立った。

 

「むしろ始末書だけで済んだって喜ぶべきだろ」

「うるせぇぞソユーズ!殺ったのは特殊機関のガキどもじゃねぇか!!」

「因みにルーキンが書くべき始末書は何枚ですか?」

「無視してんじゃねぇ!!」

 

ルーキンの言葉が聞こえないとばかりにソユーズが質問する。

するとハーシェルは残酷な枚数をルーキンに告げる。

 

「二十枚だ」

「嫌だああぁぁっ!!!」

「諦めろ」

「たださえ、副官一人戦死したからリグティから書類仕事しろって言われてるんですよ!

そんな状況でどうやって二十枚も始末書を作成する時間を捻出しろって言うんですか?!」

「休暇を潰して書けばいいだろう」

「そ、そんなぁ」

 

ルーキンが疲れ切ったため息を吐きながら床に倒れる。

それを見てソユーズはとても耐えきれず笑い出してしまった。

そしてそれを聞き逃さず、ルーキンが瞬時に立ち上がり、ソユーズを睨みつける。

 

「お前、それ俺に喧嘩を売ってるよな」

「ま、待てルーキン。元アスリートチルドレンのお前に私が勝てるわけ……」

「問答無用!!」

 

ルーキンの右ストレートがソユーズの顔面にヒットする。

その衝撃は容易くソユーズの意識を奪っていった。

 

「ベルファー大尉。ソユーズ少佐を医務室まで運んでやれ」

「ハッ」

「そしてルーキン。始末書の枚数追加だ。覚悟しておけ」

「あ……」

 

そう言うとハーシェルは部屋を出て行き、そこには呆然としたルーキンのみが残された。


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