ソユーズ少佐の皇国軍戦記   作:kuraisu

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演説とか歌とか色んな所からはってつけただけのものです。
……文才が欲しい。


玄武戦勝利記念式典

氷の月(6月)15日

帝都イングラムは厳粛な空気に包まれていた。

それもその筈、何しろ今日は玄武戦勝利記念式典とそれに伴う軍事パレードが開かれるのだ。

総督府から少し離れた大きな広場の正面の壇上にシド元帥やルシス殿下を筆頭とした有力者や貴族達が並んでいる。

私達帝都防衛旅団はその警備に借り出され、軍の行進を一目見ようとする押し寄せてくる帝都の民を必死で誘導している。

といってもそれは下士官が率いる分隊単位で行っていることであり、大隊長である私とその直属の者達は広場の目立たないとこにある軍用テントで彼らに通信兵伝いで指示を飛ばしていればそれでいいのだが。

指揮下の部隊に指示を飛ばしていると街中にあるスピーカーから歌が聞こえてきた。

 

 

 

立ち上がれ 護国の英雄達よ

銃を掲げて進め 祖国の敵を倒すため

陛下は仰せになられた ここに人の国を築かんと

なれば我らは誓いを立て忠誠を捧げよう

さすれば 我らにかなわぬ敵などありはせぬ

伝統は我々と共にある

 

立ち上がれ 護国の英雄たちよ

我らが築きし 祖国を守らんがため

陛下は仰せになられた 最も恐ろしきは不和であると

なれば我らは互いを信じ合い結束しよう

さすれば 我らにかなわぬ敵などありはせぬ

伝統は我々と共にある

 

眩く煌めく栄光の道へ いざ進まん

祖国は不滅 決して滅することなどありはせぬ

それは山であり海なのだから

なにより我らはここにいる

進まねばならぬ 人の国の栄光を得んがため

伝統は我々と共にある 祖国万歳!

 

 

 

人の国。

ミリテス皇国建国の父にして、初代皇帝イエルク・パラディスは建国の際の演説で自分が打ち立てたそう評したという。

皇国が人の国であるという自負は貴賎を問わず、皇国民の全てが持っているといえる。

当然のことのようにも思えるが、他国ではそうではない。

因縁のロリカ同盟を成立させたのは玄武ルシであるし、コンコルディア王国は衰退の道を歩んでいた前王朝を蒼龍ルシが滅ぼして新たに成立された国家だ。

現在戦争中の朱雀領ルブルムに至っては朱雀クリスタルを信奉する者達が建国したのだ。

ルシによって、或いはクリスタルを拠り所に建国された国家は当然のことながらクリスタルに依存している。

いや、クリスタルがなければ他国に対抗できる軍事力を保てないので、国家がクリスタルに依存しているという点では皇国も大した差はないかもしれないのかもしれない。

しかし、人は違う。

あくまでイエルクは白虎クリスタルを利用しただけであり、決して崇拝していたわけではない。

他国ではクリスタルは神聖視されており、神にも等しく崇められている。

しかし皇国に住まう者達はクリスタルはあくまで動力源以上の価値を持っていない。

これは年中厳しい寒さに襲われるミリテスの大地に生を受けしときより培われた現実主義的な皇国の国民性故のことである。

 

『第一軍所属、観兵司令官。レイモン大将』

 

スピーカーから音声が聞こえると同時に、オープンカーが一台広場に入ってきた。

そのオープンカーには第一軍を率いるレイモン大将が敬礼をしながら立っていた。

オープンカーは広場をぐるりと一周すると正面壇上に向かって停止した。

 

『諸君らはこれまでミリテスも他の国々も成し遂げたことがない偉業を目撃するだろう。

私の言葉は決して誇張ではない。少なくとも今日ここに集まった者達はそれを知ることになるだろう。

去る我が軍は炎の月(5月)29日にペリシティリウム玄武を完全制圧し、玄武クリスタルを手中に収め、長きに渡る因縁のロリカ同盟との戦いに終止符を打った。

この勝利と、玄白戦争を始めとする玄武との戦で不可視世界(ヴァルハラ)へと旅立った英霊達を称え、ここに玄武戦勝利記念式典を行う』

 

スピーカーよりゲッベルスの声が聞こえてきた。

いつの間にか正面の演説台にゲッベルスが立っているのが目に入った。

 

『朱雀領ルブルム、並びにコンコルディア王国は我が祖国の偉業を批難する。

パクス・コーデックスを踏みにじり、大陸破壊兵器でもって玄武の民を虐殺したと。

だが、私は断言する。我らは我らの領土を侵した者達に制裁を加えただけであると!』

 

ゲッベルスの発言に群衆が喝采を上げる。

彼らにしてみれば祖国が成した偉業に他国が水を差しているとしか思えないのだ。

 

『もし、朱雀や蒼龍が我がミリテスの偉業を邪魔することを考え続けるならば、

もし、戦乱絶えぬオリエンスを救い、アギトに成らんとする我らの道を阻むなら、

私は彼らに警告したい!

いつか我々も我慢の限界に達すると!!

そうなれば、愚かなる朱雀や蒼龍は玄武の後を追うことになるだろうッ!!』

 

過激な発言に群衆は先程以上の熱狂的な喝采を上げた。

群衆の歓声が最高潮に高まったその時、空中から爆音が鳴り響いた。

気になってテントから首だけ出して空を見上げるとそこに第七ミリテス艦隊の空中戦艦が浮かんでいた。

どうやら派手に空砲を放ったようである。

先程とは打って変わって静まり返った広場に今度は軍歌が流れてきた。

それにあわせて、兵士達が手足を揃えて行進してくる。

パレードが始まったのだと理解した群衆は広場に進んでくる兵士達に歓声をあげている。

 

「少佐」

「なんだ?」

「狙撃部隊のシモ少尉より報告です。4869地区にて魔法反応。当地区に不審事物3名前後確認」

 

ベルファーの報告に私は少々驚いた。

式典の隙をついて動くかと思っていたが、これほど早く尻尾を出すとは予想外だ。

 

「魔法反応があるなら我々が動くしかないか。

4869地区付近にいるディメトリ隊とボフマン隊に命令。

憲兵隊を使っても構わんのでそいつらの後を尾行するように。

上手くいけば彼らのアジトまで案内してくれるかもしれん。

少なくともアトラス中尉が隊を纏めるまでは絶対に見失うなと伝えておけ」

 

私がそう通信兵達に言うと、彼らは通信機を手に取り、命令を伝えていく。

 

「それとベルファー、この情報をクラーキン少将にも伝えておけ」

「ハッ」

 

ベルファーは敬礼すると、テントを出て行った。

 

「……【朱の魔人】でしょうか?」

 

イネス大尉が声を潜めて聞いてきた。

 

「いや、それはないだろう。【朱の魔人】は数日前に前線で確認されている。

おそらくは潜入していた朱雀の諜報員だろうな」

「諜報員……少佐は諜報部のどこの所属だと思われますか?

またこうもあっさり尻尾を晒した意図は?」

 

その問いに私は腕を組んで少し考えた。

 

「四課の可能性は極めて低い。裏方の仕事に手馴れてる連中がこんな簡単に尻尾を出すとは思わん。

……自分達の存在を我々が知ることでなにか向こうの利にでもなるなら話は別だが。

しかし現状を見る限り、そんなことはなさそうだしな。同じ理由で9組もありえん。

となると……今回の式典で緊張の糸が切れちゃった新入りの諜報員ってところか」

「……ありえるのですか、仮にも諜報員がそんなことをするなんて」

「朱雀の諜報員は諜報員と言っても現地で活動するのは成人すらしていない子どもが殆どだ」

「……そうでしたね」

 

イネス大尉が複雑そうな顔をしてそう言った。

彼女も結婚していれば子どもがいてもおかしくない年なので思うところがあるのだろう。

気まずい空気になったので、なにか気をそらせる話題はないかと視線をさ迷わせる。

するとテントの外からズシーン、ズシーンと鋼機の足音が聞こえてきた。

その足跡を聞いた瞬間、いい話題を思いついた。

 

「私が大隊にはまだ数台しか配備されていないが、あの重鋼機の威圧感は凄まじいな。

今までのストラーカー系の鋼機が玩具のように思える。名称をなんて言ったか……」

「【コー三五二重陸戦鋼機】、通称コロッサスです。既に前線に配備されつつあります」

 

鋼室出の技術士官であるイネス大尉は鋼機の質問をすると、打てば響くような速さで答えてくれる。

余程深刻な悪感情――たとえばクンミが未だ行方不明であることについて――ではない限り、イネス大尉の機嫌をよくするにはやはり鋼機関連の話をするのが一番か。

 

「あれも……君のいた第四鋼室の成果か?」

「いいえ、コロッサスはあくまで今までの鋼機の正当進化の系統ですので。

第四鋼室で開発されたのはジャマー搭載型や飛行型といった新しい系統の鋼機等です。

もっとも、飛行型に関しては量産型の方は第二鋼室の仕事ですね」

「成程。カロン曹長が試運転している機体ナンバー277も第四鋼室か?」

「あの機体は国家プロジェクトに関わる機体ですから第四鋼室の中でも極秘の内に開発が進められています。

 カロン曹長が試運転をしていると言ってもまだ実戦に耐えうる性能ではないはずです」

 

277は国家プロジェクト【アルテマ弾計画】と密接に関わる鋼機だ。

そもそもアルテマ弾はシド元帥が実権を握る前から戦略兵器として秘密裏に開発されていた。

数年前に辺境でアルテマ弾の実験を行った結果、威力は甲型ルシの一撃に匹敵するというものだった。

だが、皇国本土から朱雀や蒼龍の領土に向けてアルテマ弾を撃つに射程不足であり、だったら鋼機に敵国の領土まで運ばせれば全部解決じゃないかという技官達の意見によって277の開発が始まったという。

色々と飛躍しすぎだろうと思うが、何故か上層部はこれを許可したらしい。

 

「277の開発に関わっている人達は口々に俺たちが男のロマンを実現させるとか言っておりましたが……私には理解しがたいです」

 

イネス大尉は不思議そうな顔をしながらそう言ったが、私はなんとなくわかる。

一度、私も277の機体を見たことがあるのだが……第一印象はデカイ。

とにかくデカイ。コロッサスやヴァジュラなど足元にも及ばないほどデカイ。

それになんかぶっといドリルみたいなのついてる。

おまけに装甲の強化や魔法障壁の装備、更には機動性の向上まで予定されている。

正直そこまでしたなら朱雀の召喚獣を1対1で撃破できてしまいそうな気さえする。

……下手したらルシともやりあえるかもしれない。

そんな夢の性能を誇り、超巨大(最重要)な鋼機など男のロマンそのものだろう。

第一軍に配備されているアハトアハト並みのロマン兵器だ。

そんなことを思いながら戻ってきたベルファーの報告を聞き、通信機越しに指示をとばしているとアトラス中尉から連絡が入った。

 

『ソユーズ少佐。アジトを制圧し、諜報員の殆どを捕縛しました!』

「そうか、損害は?」

『怪我人6、死亡0です』

「それは重畳(ちょうじょう)だ。そいつらは秘密警察の方に引き渡しておけ」

『了解』

 

通信機を切れると、私は何気なく机の上に置いてあるTV(テレビ)を見た。

もうパレードはおろか、既にこの国の有力者達の演説も半ばが済んでいた。

今現在、TVの画面には礼服を纏った貴族が必死に演説していた。

名前なんだったけ、この貴族……

遠い記憶を呼び戻そうとその貴族の顔を食い入るように見ていたが、名前を思い出すより先にその貴族の演説は終わってしまった。

そして、先程の貴族とは比べ物にならない高貴な礼服をきた壮年の男性が演説台に立った。

 

『ミリテス皇国第一皇子にして、第一位帝位継承権者。ルシス・パラディス殿下よりお言葉を』

 

何時の間にやらゲッペルスが司会兼進行役になってしまっている。

ゲッペルスの説明を聞くまでもなく、この男のことは知っている。

現皇帝の息子であり、シド元帥が帝政主義者達を黙らせておくのに役立っている皇子だ。

 

『既に、多くの貴族・政治家達の演説で、玄武に対する我が国の勝利が決定的なものであることは我が国の国民諸君には疑いようのないことであると思う。

故に私はこれ以上今回の玄武に対する完全勝利にこれ以上言葉を述べるつもりはない。

ただ、朱雀との戦争は以前継続中であることを諸君らの胸に留めて置いていただきたい。

我が皇国軍はその創設以来、数多くの英雄や勇者を輩出し、数え切れぬ輝かしき勝利を経験してきた。

それを承知の上で、我が父祖にして初代皇帝イエルクの血を継ぐ者としてここに断言したい。

シド・オールスタイン元帥こそが、長き歴史を誇る我が皇国軍の史上最良の指導者であることを』

 

ルシス殿下は無表情だったが、真剣な声でそう言った。

画面外から群衆の歓声が聞こえる。

それもそうだろう。

仮にもパラディス家に連なる人物が平民出身者にこれほどの賛辞を述べているのだから。

 

『私がこの場にて我が国の民に述べるべき言葉は、これだけで十分であると信じる』

 

 

そう言うとルシス殿下は群衆に向けて手を振って、演説台から降りた。

すると視点が変わり、熱狂する群衆が画面に映し出された。

そして再び、演説台に視点が戻り、一人の男がそこに立つと同時に先程以上の歓声があがった。

 

『我らが指導者!ミリテス皇国軍元帥であるシド・オールスタインが演説す!』

 

ゲッペルスがそう叫ぶとシド元帥は小さく手をあげて、群衆の歓声に答える。

群衆の熱狂的な歓声が静まるとシド元帥は語りだした。

 

『過日、我ら皇国は、ルブルムに致命的な打撃を与え、ロリカ同盟を完全に沈黙させた。これはより大きな革新への第一歩である!』

 

旧態依然(きゅうたいいぜん)とした慣習に甘んじ、古き秩序を奉じる行為は進歩の放棄に他ならない』

 

『進歩をともなう変化を恐れぬことこそ、真の皇国民である』

 

シド元帥の言葉に国民達はまさにその通りだと熱狂する。

そう彼らは知っているのだ。その目で見てきたのだ。

シド元帥が行ってきた既存の秩序をぶち壊すが如き革新の結果にあるものを。

10年前、シド元帥が実権を握ったあの日から絶望に酔いしれる皇国民はもういない。

誰もが理想と希望を瞳に宿らせている。

 

『同胞たちよ!銃を取り、新しき秩序をへの道を拓け!

我らミリテス皇国こそ、オリエンスの導き手、アギトとならん!!』

 

『10年前、諸君らに明かした決意は今になってもなにひとつ変わっていない!!』

 

『我々はミリテス皇国のため、オリエンスのためを思い行動するのだ!!』

 

『当初、我が理想の賛同者は数えるほどだったが、いまやこれほどの同胞ができた!!』

 

『そして誓おう。10年前より……。否!!

自分が軍に入隊したときより、疲れを知らず働いたように、これからも働き続けると!!!』

 

シド元帥の宣言に群衆はおろか、警備についていた軍人までもが歓声をあげた。

その言葉を最後にシド元帥は演説台からおり。代わってゲッペルスが立つ。

 

『未来のアギトたる諸君!この偉大な式典の最後に、ここにいない人々に挨拶しよう。

アギトを求めるオリエンスの人々に!それを成し遂げんとする祖国に!そして我らが元帥に!!』

 

「「「「おおおおおおおおお!!」」」」

「「「ミリテス皇国に栄光あれ!!!!」」」

 

その熱狂的なまでの歓声は暫くやむことはなかった。


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