ソユーズ少佐の皇国軍戦記   作:kuraisu

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FFアギトにリーン・ハンペルマンなるキャラが登場するらしい。
……苗字違うけど名前も声優も一緒だし、こいつティスと一緒にいたジョーカーだよな?



家族

氷の月(6月)8日

ペリシティリウム白虎に隣接している白虎第四鋼室の一室に帝都防衛旅団の将校・士官が集まっていた。

第四鋼室は元帥によって10年前に新設された研究機関だ。

この機関に任せられている仕事は特殊鋼機の開発だ。

ルシになるまでクンミはここの研究員に名を連ねていた。(といってもルシになっても研究には参加していたが)

私たちがここにいる理由は新しい鋼機が配備されることになったからだ。

 

「なんというかサソリみたいな形しているな」

 

クラーキン少将が目の前のサソリのような鋼機を見ながらつぶやいた。

そして私は自分の補佐の女性に問う。

 

「これの開発に携わってたのはイネス大尉の研究班だったな?」

「ええ、これが【コ-三九一重陸戦鋼機】通称ヴァジュラです。重装甲でありながら飛行型にも劣らぬ機動力を持っております。たった3台で生産が中止されたのが口惜しいです。長時間戦闘可能なように改良できる余地はあると思うのですが……」

 

イネス大尉の言葉が後半で勢いがなくなったのも無理はない。

なんとこのヴァジュラを1体造るのに現在の皇国軍主力鋼機であるコロッサス90機分のコストが発生するのだ。

3台製造された時点で生産が中止されたのも頷ける話である。

おまけにエネルギー消費量が膨大で、稼働時間は短いという致命的な欠点を持っている。

これを運用できる環境にあるのはエネルギー補給ポイントが至る場所に設置されている帝都のみだった。

その為、生産された3台のヴァジュラは全て帝都防衛旅団に配備されることとなった。

 

「操縦方法は私がしっておりますが操縦が難しい為、鋼機士官、もしくは技術士官の方であった方が望ましいです」

「イネス大尉がヴァジュラの搭乗者になるのは確定だ。残りをどうするかだが……」

 

シュルロ中佐が腕を組んで考え込む。

 

「シャルロ。お前直属の曹長に任せてみたらどうだ?」

「冗談じゃありませんよ少将!!あんな奴に帝都でしか操れない鋼機乗りに任命した翌日には帝都が火の海になりますよ!!」

 

クラーキン少将の提案にシャルロ中佐が顔を真っ赤にしながら猛反対した。

シャルロ中佐直属の曹長とはカロン曹長のことである。

一般兵からの成り上がりであり、卓越した鋼機乗りの才能を持っている。

だが、上官に向かって平然とタメ口で話すわ、礼儀がなっていないなど、些か常識というものがないので、出世できず下士官のままである為、ちょっとした有名人となっている。

 

「では、私の直属の部下であるゼッサール少尉に任せましょうか?」

 

仮面をつけている為、表情が伺えないハーシェル中佐がくぐもった声で言った。

そして全員の目線がいく。

 

「ゼッサールか。歴戦の鋼機乗りだな。よしなら少尉で決まりだ。最後のひとつは私の直属のダグラスに託す。異論はあるか?」

「「ありません」」

 

少将の決定に参謀の中佐達が賛同した。

これでヴァジュラに乗り込む人員の選出が決まった。

 

「さて、ダグラスとゼッサールはイネス大尉にヴァジュラの動かし方を教えてもらえ。イシスの隊はここの警備。他はノルマの仕事が終わり次第、解散だ」

「「「「「ハッ」」」」」

 

部下たちの敬礼を見るとクラーキン少将は頷き、直属の部下を引き連れて部屋から出て行こうとした。

しかし、ふと思いついたように顔だけ振り返った。

 

「ああ、そういえばハーシェルとシャルロには書類仕事が追加されている。締め切りは明日だ」

「「ハッ」」

 

その命令に中佐達は敬礼を返す。

仮面をかぶっているのでハーシェル中佐の表情は伺えないが、シャルロ中佐は明らかに嫌そうな顔をしていた。

 

「おい、ソユーズ、これから暇だろ?」

「ああ。仕事は午前中に片付けたからな」

「じゃあちょっと付き合え」

「は? お前にも仕事があるだろう。まさかまた大尉に押し付けてきたのか?」

 

ルーキンはリグティ大尉に仕事を任せまくっている。

そんなだからもし仕事が既に終わっているならリグティに押し付けてきたとしか思えない。

 

「いんや。今回は俺がちゃんと仕事したぞ」

「……嘘だろ?」

「嘘じゃねぇよ!」

 

……ルーキンは何の理由もなく嘘を吐くような奴じゃない。

となると……。

 

「どんな仕事だったんだ?」

「ああ、秘密警察から回ってきた仕事で詳細は言えねぇが裏切り者の調査と排除だ」

 

ああ、やっぱそういう仕事でしたか。

本当にこいつは書類仕事とか接待以外の仕事なら超有能だからな……

そんなことを考えながら自家用車の扉を開けて運転席に座る。

ルーキンは助手席に座り込んだ。

 

「ああ、じゃあどこいく?」

「どこでもいい。酒が飲めるんなら」

「……じゃあ私の家でいいか? 今は戦時だからな。時間さえあれば会っておきたい」

「あ? 俺らは戦場じゃなくてイングラムにいるってこと忘れてねぇか?」

「あのな。朱雀の特殊部隊……9組とか諜報四課とかが暗殺に来る可能性もあるだろう」

「それもそうか。そいや10年位前に【朱雀四天王】が元帥暗殺の任を受けてきたことがあったな」

「……おい、あれは当時の朱雀の院生局局長を使った我々皇国の陰謀だぞ。

 お陰で大した犠牲もなく始末することができた」

「ああ、【朱の魔人】どもも同じやり方はできねぇもんかね」

 

ルーキンの言葉に私は考え込んだ。

0組の情報は軍と諜報部が連携して探っているが詳しい事情がわからない。

外局に勤めていた魔法局の局員を捕らえてあるゆる手段を使って尋問すれば手っ取り早いのだが……

なにせ外局は謎が多すぎる施設でそこで仕事をしている人間はおろか、外局がどこに存在するのかさえ不明だ。

ただ朱雀に潜り込ませている間諜(スパイ)の報告によればかなり彼らは仲がよいらしい。

更に今までの彼らの行動からプロ意識の持ち主達であることも想像できる。

それだけなら前と同じように陰謀で謀殺できるかもしれないが……

 

「駄目だな」

 

現在アギト候補生は全員軍に組み込まれている。

それに加え、【朱の魔人】は魔法局の私兵的な面も併せ持っているのだ。

朱雀の最高意思決定機関の八席議会に参加できる有力者の中でも有力者である魔法局局長と軍令部長の両者を欺かなくてはならないなんてハードルが高すぎる。

0組の上官にあたる者達に寝返りを促そうにも0組が現在の朱雀における切り札的存在である。

その切り札の上官達との連携を魔法局局長や軍令部長が怠っているとは思えない。

 

「そうか。じゃあやるしかねぇのか魔人どもと」

 

ルーキンは疲れたように言った。

互いにいやだなと話していると私の家についた。

車から降りて家のインターホンを押す。

 

「はーい」

 

妻の声が聞こえてきた。

そして扉が開いて妻が出てきた。

 

「どちら様……ってあなた? 仕事はどうしたの?」

「珍しく午後の時間が空いたから帰ってきた。ルーキンと一緒に談笑でもする気だ」

「あ、そうですか。どうぞ」

 

そう言って妻が私たちを家の中に入るようすすめた。

 

「それにしてもアドルフより先にあなたが家に帰ってくるなんて何年ぶりかしら?」

 

妻がそう呟いた。

確かにいつもなら私が家に帰る頃には私の子であるアドルフは既に家にいる。

残業で帰ってくるのが日が変わる直前だった場合はかなりの確率で寝ている。

 

「ああ、そうだな。学校にいっているアドルフより先に帰ってくるなんて初めてじゃないか?」

 

私は笑いながら妻にそう言った。

すると妻もそうですねと言って微笑んだ。

 

「じゃあ、私は自室でルーキンといるから、なんか用があったら呼んでくれ」

「わかったわ」

 

そう言って私は自室にルーキンを案内した。

適当な椅子に腰を降ろす。

ルーキンは部屋の壁にもたれかかっていた。

 

「なにか飲むか?」

「ウォッカを頼む」

 

椅子の横に備え付けられている冷蔵庫からウォトカを取り出し、コップに注ぐ。

そしてルーキンにそれを渡し、自分用にカボチャジュースの缶をあける。

ルーキンは黙って渡された酒を飲んで部屋を見回すと壁に貼ってある一枚の写真に目をとめた。

 

「懐かしいな。俺たちが士官学校卒業した時の記念撮影じゃねぇか」

「ああ」

 

その写真に私が卒業した時期に帝都の士官学校を卒業した者達の集合写真が飾られていた。

 

「ほんとに懐かしい……。それに忘れちまってる奴も多いな」

 

ルーキンの声が少し陰った。

私たちが士官学校を卒業して既に数十年が経過している。

戦場で倒れたか、もしくは病に倒れたのか、既にこの世から去っている者達もおおい。

 

「こいつは覚えてるぞ。ぺティグリューだ」

 

ルーキンが気弱そうな青年を指差しながら言った。

 

「ああ、そいつが一日に何回教官に叱られるか皆と賭けをしてたな」

「たしかソユーズ以外も賭けに参加してたよな?」

「ああ、……参加していたのが誰だったのか思い出せないがな。いや、忘れたのか」

 

私は頭を掻きながら答える。

するとルーキンは腕を組みながら感慨深げに何度も頷きながら

 

「いや、まさか同期の中で一番最初に死ぬと予想されていた奴がまだ生き残っているとはな」

「軍人じゃなくなるのは早かったんだけどな」

「ああ? なんのことだ?」

「知らなかったのか? ぺティグリューは少尉に任官して半年後ぐらいに左手を失って退役したんだ」

「そうだったのか。俺は全く知らなかったぞ」

 

ルーキンはぺティグリューのことに対してちょっとだけ驚いた顔をした。

 

「ぺティグリューのことは知らなかったが……、こいつのことならどうなったか覚えてるぜ」

 

ルーキンが屈強そうな金髪碧眼の青年を指差した。

 

「カルカロフは重度の戦争神経症(シェルショック)に苦しめられて5年位前に精神病院にいった」

「……何年も朱雀との国境部隊にいたんだよな。狂いたくなるのもわかる」

 

戦争神経症とは戦場に長くいるとおこる精神病だ。

魔法と砲弾の飛び交う戦場に晒され続けると精神をやられて感覚が麻痺する。

おまけに悪夢にうなされつづけ、寝起きに敵と間違えて家族を殺しかけることさえあるという。

……私は絶対にそうはなりたくない。

 

「しっかし、思い出だせねぇ奴が何人も写ってるが、全部懐かしい感じのする顔ばっかだな」

 

ルーキンは心底不思議そうな顔をしながら言った。

……私達は死者のことを思い出せなくとも体のどこかで彼らのことを覚えているのだろうか。

確かにこの写真を見ているとまったく記憶にない顔なのに妙な懐かしさに襲われる。

他国では写真やそれに類するものが普及していない為、【死】というものの認識が皇国と比べて希薄だという。

たとえば朱雀では写真と似たようなものが軍事利用されているらしいが、彼らの命と引き換えに召喚する召喚獣に対する崇拝のようなものを見る限り、やはり【死】というものをちゃんと認識できていないのではと思わざるをえない。

そんなことを思っているとインターホンがなった。

 

「あなた、アドルフが帰ってきましたよ」

 

妻の声が聞こえてきた。

暫くして私の部屋の扉が開いた。

 

「父さん。今日は早かったんだね」

 

愛するわが子が微笑みながら話しかけてきた。

 

「ああ、珍しく仕事が早めにおわったからね」

「そうなんだ。あ、そうだ。見てほしいものがあるんだ」

 

アドルフは提げていた鞄からなにかのプリントを私に差し出した。

そのプリントにはアドルフの中間テストの成績が書かれており、全教科97点以上で校内順位が4番と書かれていた。

 

「へぇ、お前の息子は頭いいんだな」

 

ルーキンがアドルフの見せたプリントを見ながら感心したように言った。

どうだ、ルーキン。これが私の自慢の息子の力だ。

 

「よくやったな、アドルフ。お祝いになにか買ってやろう。なにか欲しいものはないか?」

「じゃあ『意志の勝利』の映画、借りてきて欲しい」

「『意志の勝利』? 元帥閣下の演説や軍事演習の映像が纏めているやつか」

「うん」

 

アドルフの頷くのを見て、私は笑顔を浮かべながら言った。

 

「ああ、今度借りてきてやろう。

あともうひとついいことを教えておきたいのだが、今月の15日になにかあるのか知っているか?」

「軍事パレードだよね?」

「ああ、そのパレードの特等席のチケットだ」

 

私はニッと笑みを浮かべてポケットからチケットをアドルフに渡した。

アドルフそのチケットを見て少し呆然として、喜びの表情を浮かべた。

 

「特等席って! 本当に!?」

「ああ、それにまだ一般には知られていないんだが、

パレードが終わった後、シド元帥やルシス殿下を始め、我が国の有力者達が演説なさる予定だ」

「うわー、元帥も演説するの? ますます15日が待遠しいよ。

あ、そうだ。友達にも特等席のチケットが手に入ったって伝えなきゃ!」

 

アドルフはそう言うと駆け足で自分の部屋がある2階へと階段をのぼっていった。

 

「なぁ、ソユーズ」

「なんだ?」

「特等席のチケットって何週間も前に売り切れてたんじゃなかったか?何処で手に入れたんだ?」

「私が弱味を握っている広報部の奴にお前の所業をマスコミ各社に暴露されたくないならチケットをよこせって脅して手に入れた」

「……それって犯罪なんじゃね?」

 

ルーキンが珍しく私をジト目で見ていた。




ルシス殿下:オリキャラ。現皇帝の息子。

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