ソユーズ少佐の皇国軍戦記   作:kuraisu

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注:軍令部長がとてもいい人っぽくみえます。


外伝 亀裂

水の月(2月)22日

先日奪回したマクタイを拠点にルブルム地方を奪回する【レコンキスタ】作戦。

昨日行われたその作戦で生じた損害をイスルギは調べていた。

 

「高々百人前後の候補生部隊が参加するだけでここまで優位に戦えるとは……」

 

イスルギは半笑いで呟いた。

元々この作戦には再編が終えたばかりの師団も投入しており連携面での不安を抱えていた。

この戦いに参加した兵力は朱雀側が三万五千に対し皇国側が四万。

兵力では皇国が朱雀を上回っていたものの皇国は歩兵部隊が主であり、犠牲を覚悟すればルブルム奪回は可能だとして【レコンキスタ】作戦は決行された。

だが0組を筆頭に候補生部隊の奮戦もあり当初の予定を遥かに下回る損害だったのだ。

イスルギは先日調べた損害の情報をそのままスズヒサに報告した。

 

「損害が少ないに越した事はない。少なくとも主要地を奪回しなくてはならんからな」

 

スズヒサは今回の戦争は勝てるとは思っていなかった。

なぜなら朱雀首都での戦いで白虎の乙型ルシが皇国の命令に従って動いていた。

甲型まで支配下に置けているかは現状不明だが少なくとも乙型は使役できているのだ。

それに加え、皇国にはクリスタルジャマーがある。

あれが使われるだけでこちらの軍は一気に脆弱なものになってしまう。

加えて緒戦で圧勝している皇国軍の士気は旺盛だろう。

翻って朱雀の方はルシは未だに非協力的だ。

朱雀クリスタルの命でしか動かない彼らを当てにすることがそもそも間違っているのかもしれない。

だから朱雀軍単独でやっていくしかないのだがほぼ全土が皇国軍に占領されているのが現状だ。

ならば可能な限り主要拠点を奪回し、頃合を見て戦火拡大を憂慮するコンコルディア王国と同調する姿勢を見せてミリテス皇国と交渉で戦うのがベストだろう。

 

「そういえば少し気になることが……0組の監視役として送り込んだ少年が何度か軍令部に奇妙な問い合わせをしていたそうです」

「なに?」

 

この前、魔法局によって育成された12人の子供は新設された0組に組み込まれた。

しかし魔法局はなにかと後暗い噂が絶えない部門である。

そこでザイトウとスズヒサの提案により2組と4組の優秀な候補生2名も0組に移動することになったのだ。

本人達には何も知らせないが0組に妙な動きがないか探る為に。

アレシアは嫌がっていたがミオツクや他の局長も賛同した為、本決まりとなった。

送り込んだ2人の詳細までは覚えていないが確か男女のペアになっていたとスズヒサは記憶していた。

 

「その少年の問い合わせは0組、もしくはドクターに関することか?」

「いえ、朱雀軍に所属していた彼の身内の死に関する問い合わせです」

「……それのどこが奇妙なのだ?」

 

別に軍に所属していた身内の死に関する問い合わせは珍しい事ではない。

死者に対する思いは忘れてしまうのがオリエンスの常であるがそうは簡単にはいかない。

死んだのが近しい者であればあるほどなにかが自分に訴えてくるのである。

そうして死んだ者がどんな人だったか知ろうとする者がいるのは意外と多いのだ。

 

「それが……彼の兄は皇国軍の奇襲時には首都にいなかったし、首都解放作戦で出撃したことになっていないんだが首都の最前線で戦死したこと記録ではなっている。

だから極秘任務に就いていたと思うんだが極秘任務の記録は大佐じゃ閲覧できないからな。

そこで彼の兄の記録を調べてみたんだが……彼の兄は凡庸な兵卒と大した差が見当たらない」

「確かに妙だな」

 

極秘任務。

なんらかの事情で公の記録に残すことができない任務のことを指す。

重要な任務である場合が殆どで軍の中でもエリートと呼ばれる程優秀な者。

もしくは密偵等の軍の暗部を構成する者が就くことが殆どである。

その為、イスルギが言うような兵卒に任せられることはないと断言してもいい。

 

「その極秘任務の記録を見ておく必要があるな。

それで問い合わせてきた少年と戦死した者の名前と所属は?」

「弟はマキナ・クナギリ。元の所属は2組で現在は0組に所属。

兄はイザナ・クナギリ。所属は中央方面軍第2師団に所属していたそうです」

 

その報告を聞くとスズヒサはなんとか時間を捻出してそのことに調べねばと思った。

 

岩の月(3月)1日。

魔導院の地下にある資料室。

この部屋に入ることが許されるのは八席議会に参加することができる者を中心に50名程度しかいない。

何故ならこの部屋にある資料はいうなれば朱雀領ルブルムという国家の闇そのものなのだから。

スズヒサは首都解放作戦の極秘任務記録を本棚から引っ張り出す。

そして【イザナ・クナギリ】が参加した任務のページを開く。

 

『一刻を争う事態故、0組を切らしていた【COMM】を所持させずに出撃させていた。

よって先程補給した【COMM】を戦場にて行動中の0組の届けねばならない。

作戦の仔細はアレシア・アルラシアに一任する。

                          魔導院院長カリヤ・シバル6世』

 

『アガタ・シュドウ  イチドウ・ハジメ

 イザナ・クナギリ  オオサワ・シュエン

 

以上四名は別途地図に記載されているポイントで0組に【COMM】を届けること。

皇国軍の戦闘に巻き込まれぬよう注意する事。

                         魔法局局長アレシア・アルラシア』

 

【イザナ・クナギリ】が就いた任務は前線にいる0組への【COMM】の支給か。

他の任務に就いた者達はよく斥候の任務に就く者であったり、密偵であるのになぜ彼だけ?

ドクターの勘違いかなにかか?

……どちらにせよ一度ドクターにこのことを聞かねばならんな。

そう思いスズヒサはアレシアに会談を申し込んだ。

 

岩の月(3月)3日

魔法局局長執務室でアレシアとスズヒサが会談した。

 

「それでいったい何の用かしら?」

 

アレシアが鬱陶しそうに用件を問う。

その態度をスズヒサは腹立たしく思いながらも努めて冷静に用件を言った。

 

「先の首都奪還作戦の時に我が軍の【イザナ・クナギリ】という兵卒を極秘任務に就けたのはドクターだと聞いてな」

 

アレシアは暫く何のことか分からなかったようだが思い出したように言った。

 

「そういえばそうだったわね。それで?」

 

アレシアの返答にややスズヒサは驚いた。

どうやらスズヒサの予想と違ってアレシアは【イザナ・クナギリ】が兵卒と知っている上で極秘任務に就けたようだ。

兵卒では力不足が否めないであろう困難な任務に。

 

「どう責任を取るつもりだね!?」

「責任?」

 

全く悪びれないアレシアに痺れを切らし、スズヒサは叱咤するように指を突きつける。

 

「私の許可なく兵を動かし、死なせた責任だよ!これはゆゆしき事態だぞ!」

「何が問題なのかしら? 兵士がひとり死んだ。それだけよ。

あの子たちは首都奪還作戦を見事に成功させたわ。得たものと失ったものの引き算もできないのかしら?」

 

アレシアはスズヒサを小馬鹿にするように言う。

そんなことはスズヒサも充分わかっている。

 

「だとしても!軍部には斥候も密偵も、あの任務に適した者はいくらでもいたというのに!

何故あの青年【イザナ・クナギリ】でなければならなかったのだ!?」

 

別にスズヒサは別に勝手に兵を動かした事を責めようというわけではない。

ただ何故戦死する確率が非常に高い兵卒に極秘任務を任せたのか?

仮に軍事知識がアレシアが持っていないというのならまだわかる。

しかしそれならばなぜ院内にいた将官に適当な人物を任務を就けるよう言わなかったのか?

その意図を問うているのである。

 

「それはあの子が望んだから」

「なんだと?」

 

あまりに予想外なアレシアの答えにスズヒサは思わず問い返した。

 

「どこで出会ったかは知らないけど、エースがあの子がいいって言うんだもの」

 

スズヒサにしては今のアレシアの声は珍しく苛立ち以外の感情のこもった声であったがそんなことは頭に入らない。

今の発言にスズヒサは文字通り絶句してしまった。

 

(こいつは……この女はいったい兵士の命をなんだと思っているのだ!!?)

 

スズヒサは歴代軍令部長の中でも珍しくアギト候補生だったことがない。

一兵卒からの成り上がりである。

それが故、末端の兵士の心理というのはよくわかっている。

戦場における兵士の一番の本音を言えば【死にたくない】だろう。

だが、戦争をする以上、犠牲者が出るのは致し方のないことだ。

であればこそ彼らの死は決して無駄にしてはならないのだ。

でなくば彼らが自分の死への恐怖を押さえつけて祖国の為、己の大切な者の為に命を張って戦った意味がなくなってしまうではないか。

だからこそスズヒサの胸中には溢れんばかりの激しい怒りが湧き上がってくる。

目の前の女は兵の命を踏みにじったに等しい行動をしていたのだから。

もうスズヒサが知っていたのかどうかすらわからない青年の命を。

 

「それだけの理由で!?

子供の我がままに付き合って、我が軍から兵を動かし、死なせたというのか!?」

 

最早、怒りを堪える必要をスズヒサは感じられなかった。

怒りに任せてアレシアを弾劾する。

 

「十分すぎる理由じゃない。それに【朱雀の軍】よ。院長の許可あり動いている。それに問題があるのかしら?」

「ぐっ!」

 

アレシアは掴んでいたキセルを放り投げて反論する。

その反論を覆すものをスズヒサは持ちえていなかったので黙り込む。

本音を言えばスズヒサはアレシアを可能な限り罵倒してやりたいのだがあくまで感情の話だ。

院長の許可を取って軍を動かしているので魔導院の規則上、アレシアの行動は何の問題もないのだ。

スズヒサは気持ちを落ち着ける為、ゆっくりと深呼吸をした。

 

「……成程。だが、今後似たような任務を末端の兵を任せるな。

失敗する可能性が高い上、彼らとて祖国の為に命を賭けて戦う若者なのだぞ。0組と同じようにな!」

 

スズヒサは絶対零度の声でアレシアに忠告する。

 

「そう、以後気をつけるわ」

 

アレシアはまったく悪びれにそう言った。

その言葉を聞くとスズヒサはさっさと執務室から出て行く。

これ以上アレシアの姿を見ていると我を忘れて殴り飛ばしてしまいそうだったから。

 

(あの女に権力を握らせておくわけはいかん!!)

 

先程の会談でスズヒサのアレシアに対する心象は最悪になった。

いや、最悪などという言葉でも生易しい。

新しくこの上なく人を蔑む言葉を造るべきだ。

いままでもスズヒサはアレシアのことを傲慢な若造と侮っていたがあくまでそれだけだ。

あのような人を半ば無駄死にさせるがごとき暴挙をアレシアはしておきながらまったく悪びれなかった。

あの女には人としての感情がないのかとスズヒサに思わせるほどに。

おまけにアレシアの所属する魔法局は機密だらけの部門だ。

魔法局の局員達と一緒になにか碌でもないことを企んでいるやも知れぬ。

そんな女が八席議会の議席を持っているなど悪夢でしかない。

 

(しかし……今【イザナ・クナギリ】の弟に全てを伝えるわけにはいくまい)

 

そうあの女の秘蔵っ子共は……実に忌々しいことだが現状0組は非常に有用な戦力だ。

こちらが優勢ならばともかく劣勢な今の戦況では0組に内部崩壊の種をまく訳にはいかない。

 

(……今のところは他の局長との関係強化に留めるべきだな。

なぜかあの女は院長から信頼されているが他の局長の多くは嫌っている。

今回の末端の兵に非常に困難な極秘任務を強いたことを伝えれば関係強化は容易かろう)

 

スズヒサはそこまで考えおわると軍令部に戻っていた。




私の中では軍令部長に対する評価はかなり高いです。
……クラサメに死ぬことが確定している任務に就けなければシド並に好きになっていた可能性がある。

因みに私がFF零式で嫌いなキャラ上位3名は
アレシアやカリヤにカトル准将の機体にアルテマ弾を搭載しやがった皇国の文官です。

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