接物語   作:貝木

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【10】「余物語」『よつぎボディ』『よつぎシャドウ』(ネタバレ)

『よつぎボディ』

 

 

『よつぎボディ』で語ることがあるとすれば、リドルストーリーです。

 

解き方は単純で、羽川が登場する理由を考えれば判ります。

 

それは、羽川にしかできないことがあったからですね。

羽川にしかできないことで、暦に選択させること……

 

終物語(上)でのことを覚えていますか?

暦にどちらを選択させるかで、羽川と扇ちゃんで対立しましたね。

 

羽川の切り札は『おっぱいを触らせてあげる』

暦は冗談に乗るように『おっぱいを触らせてあげる』を選択。(実際には触ってません)

 

今回の選択では『おっぱいを触らせてあげる』の代わりに、

『ひたぎちゃんの不在時に、私とこっそり、後腐れのないデートをする』というものでした。

ただし今回は『勝利の切り札』としては使っていません。

『リドルストーリーの切り札』として使ってます。(メタな話で申し訳ないですが)

 

 

『冗談のように提示された羽川のデートへの誘いを、暦は選択しないのが答えです。』

 

 

と言われてもピンとこないかと思います。

説明します。ストーリーから選択肢の答えを考えると、『最善を目指さない限りは、次善にすらならない』を実行している羽川だからこそ、『毛布の有無は大切』なので、リドルストーリーの選択は明白です。

 

 

作者の読者に対するメッセージは『虐待が虐待を生む負の連鎖から目を背けてはいけない。たとえ最善を目指して最低になるのが世の常だとしても―――最善を目指さない限りは、次善にすらならない』です。

 

物語は成長譚ですが、暦の成長を正面から描いたのでは恥ずかしすぎますから、

リドルストーリーで、提示された羽川との後腐れのないデートを暦が選択しない事を、

読者に選択させることで、暦の成長と作者のメッセージを考えてもらおうという事です。

 

ご理解いただけたでしょうか。

 

本編の詳細は過酷な虐待描写になりますので控えます。

 

 

翼と暦の謎かけで、正直良い話だな思ったのは「結物語」『みとめウルフ』です。

※ご注意:「結物語」『みとめウルフ』のネタバレも含みます。

「結物語」で翼は『世界規模のテロリスト』なるものに成長しており、命を狙われています。

殺傷兵器を使うテロリストではないのですが、翼はそのカリスマ性・頭脳・行動力で、地球上の国境線を消すことに尽力しているからです。

平和目的のその行為のどこがテロリストかというと、現在世界一の軍隊・パワーを持つ国家の実体は巨大な軍産複合体です。

(世界の列強の国々の実体も似た様なもので石油・レアメタル・農業産品・電子テクノロジーを使い覇権を争っています)

その立場から見ると「地球上の国境線を消す行為・隣り合った国の軋轢を消し去る行為」は彼らの存在理由を根底から揺るがします。

それゆえ翼は世界の既得利権者から敵とされ、抹殺が企てられています。

 

そんな翼が日本を訪れることになり、翼の過去の関係者とされている暦は危うく国外退去させられそうになりますが、臥煙さんの計らいもあったようで、結局、現実路線のいつもの通りに仕事をすることに落ち着き、翼は高級ホテルで軟禁状態で十重二十重にガードされます。

 

ところが自宅に戻った暦を待ち受けていたのは、火憐のパジャマを着た寝起きの翼でした。

暦・翼・可憐・これもまた急遽帰国した月火と食卓を囲んだ後、可憐と月火は風呂に入り、翼が食器洗いの名乗りを上げたので、ふたりはシンクに並んで立つことになります。

「こうしているとなんだか夫婦みたい」の翼の言葉を際どいジョークとかわす暦ですが、洗い物を続けたまま「私は阿良々木くんに会うために、帰国したの」と翼は語り、

来訪の理由を『疲れたから』・『阿良々木くんをスカウトに来た』どっちだと思うと翼は暦に聞きます。

暦は「疲れたのだったらもう止めてしまえ。スカウトだったら丁重にお断りする」と答えますが、

翼の次の言葉は「お前の気持ちはよくわかるぜ!」ってハグしてくれたらそれでいいのに……でした。

 

洗い物を終えたタイミングで可憐と月火が風呂から上がってきたので、1時間ほどの4人でのパジャマパーティの後、翼は阿良々木家を後にします。

 

オチで暦は翼が帰国した理由は翼が帰った後、暦が保管していた翼の下着と髪が消失していたことを指摘して、それが目的だったとします。

翼は高級ホテルで軟禁状態だったので、阿良々木家を訪れたのは影武者(コピーキャット)だった。でお話は終わります。

 

「結物語」『みとめウルフ』のネタバレをいくつか見ると「下着と髪を目的にコピーキャットが訪れた」・「翼は変わってしまいとんでもないことになってる」としているものが、結構あるのですがあなたはどう思いますか?

私は阿良々木家を訪れたのは本人以外ありえないと強く思うのですが……

そして、翼の暦に対する思いも変わっていません。

高校生の頃は「俺は羽川の事が好きだったんだぜ」と後悔の念をもって語る暦に対する翼の最大限の優しさが、暦に虚ろな目をしてみせ、本当は回収する必要性の低い下着や髪を回収するという『迷彩行為』を翼にさせています。そして、優しいが故に暦を騙してくれているのです。あなたも騙されましたか?

(翼が下着や髪の回収を最優先にする人間になっており・翼は既に暦との事は過去の物として決別していて、僕はそれを嬉しく感じるという暦の考えに同調してしましたか?)

まあ、リドルストリーですから読む人なりの答えで良いのですが、作者の持つ本当の翼像を考えると、答えは明白な気がします。

 

 

『よつぎシャドウ』

 

 

『よつぎシャドウ』は叙述トリック物です。ほぼ全文がミスリード。

 

前回刊行された宵物語の第三話『まよいスネイク』は、撫子が斧乃木ちゃんによって、臥煙さんに会ってもらうよと、連れ出されます (実際に待っていたのは影縫さんでしたが) 。ラストは、『千石撫子最初の事件は、不死身の怪物、五つ首の大蛇、洗人 迂路子(あらうんど うろこ) が相手だよ――――と、臥煙さんが撫子の知らないところで、そう決めた』です。

 

今回の『よつぎシャドウ』は『まよいスネイク』と同じように斧乃木ちゃんに連れ出され、臥煙さんが現れたわけですから、普通だったら続編かなと思うはずなのですが、撫子曰く『思いっきりテストだと思います』という状況で、まったく緊迫感がなく続編であるという様子はありません。

中学卒業後、独り暮らしを両親から宣告されている撫子は、臥煙さんの友人が抱えている、所有物件の連続首つり自殺未遂の悩みを解消してくれれば、その友人が所有しているアパートを格安で斡旋してくれるという話に乗ります。

撫子はスケッチブックに現場の部屋を図画化してみますが、解決の糸口は見つからず、次に斧乃木ちゃんを加筆して『首を吊る童女』が完成したと思ったら、何と一気に畳みます。

 

部屋を事故物件にして家賃を下げるために、蛇切り縄の呪いが使われていることを看破した撫子は、呪いの総本山を捕まえる仕事を、臥煙さんから依頼されます。

そして、『よつぎシャドウ』は『まよいスネイク』の続編だったことが判明し、それが今回のオチでした。

オチのキーワードは相手の名『あらうんど』……

 

判ってたはずなのに騙されたって奴ですね。

 

微妙なのは、臥煙さんの『かつてきみを呪った昔のお友達に会って、旧交を温めてきて頂戴な』です。

 

貝木ついに登場なのでしょうか?貝木は撫子を直接呪ったりはしていないのですが、他に該当者はいない気がします。

 

続編が楽しみです。

 

※追記:2020/10/28刊行の『扇物語』(おうぎライト、おうぎフライト)の、おうぎフライトで、

ついにお待ちかね貝木登場です。

登場と言っても例のごとくラスト近くですが、『あらうんど』の意外な正体を明かします。

次の舞台は西表島、メンバーは撫子、斧乃木ちゃん、貝木とのことですが西尾さんの事です素直に進んでくれるのでしょうか?

 

 

 

 

 




読んでいただいてありがとうございます。
せっかく何かの縁でここに来て頂いたので、ぜひもう少しお付き合いください。

物語シリーズは西尾先生らしく刊行順が独特で、テレビシリーズで楽しまれた方には意外だと思うのですが、『傾物語』の次が『花物語』です。
『傾物語』でのお話のラストは、現代に帰って来て神社下で再会した暦と八九寺が、八九寺が忘れたリックを暦の自宅へ取りに行くことになり、いつものやり取りをしながら、二人並んで歩いて行くところで終わります。
そして、ここからが問題なのですが、あとがきで「この話のラストシーンから直接休憩なく、次の『花物語』に続くんですよ。」と書いてありました。
それになのにです。実はこれまでにもあった嘘予告であり、次の『花物語』の内容は暦が卒業後の高校3年生である神原の話でした。
『花物語』の次に刊行されたのが「囮物語』で、この、敢えてお話の未来を描く手法は私には楽しめましたが「暦が生存が確定していて興味が削がれる」と批判されることがあったようで、アニメで花物語は飛ばされてしまい、セカンドシーズンの放送終了後に時間を空け、スペシャル放送されることとなってしまいました。

ポンと未来が描かれる現象が原作『暦物語』でも起きました。(今度はアメリカドラマ的なブッタ切りですが……)『憑物語』刊行時、題名だけ予告されていた『続・終物語』の副題は、「暦ブック」でおそらく内容は『暦物語』の1話~10話のように、もう1度色々あって描き切れなかった、高校3年生の1年間を別角度から振り返るものだったはずです。
しかし、『続・終物語』で副題「暦ブック」と、いかにもファンブック的な題名で1年間を振り返る予定は破棄されました。
[これは終物語(中)の執筆の見通しが付いたためではないかと推測しています。傍証として終物語(中)刊行直前のインタビューで、この本の内容は書こうとして何度も挫折したものであることを西尾先生は明かしています。本来セカンドシーズンの序盤で【学習塾ビル消失の真相】は書かれるはずだったのですが、伸びに伸びてしまったわけです。]
結果、刊行予定とされていなかった『暦物語』が『憑物語』のあとに刊行され、『暦物語』の内容は副題「暦ブック」の『続・終物語』の内容を移植 (もう1度1年間を振り返るもの) になり、11話・12話が予定とは変更され、11話で影縫さんが行方不明になり、12話で臥煙さんに暦が心渡りで切られ死亡します。そして、死んだはずの暦の前に、死んだはずの八九寺登場……。超クリフハンガーなのですが、続いての刊行の終物語(上)では、老倉さんが登場する過去編になり、未来のクリフハンガー状態はそのままです。

そこで『暦物語』の続きが気になりすぎた私が書いたのが、『皆既物語』【1】「こよみリバイブ」【2】「こよみスラップ」です。当然、本来の続きである『終物語(下)』より先に、ここに載せました。至らない作品ですが、よろしければ【1】「こよみリバイブ」だけでもお読みになっていただければ幸いです。
長いのが苦手な方は、【8】 愚物語「つきひアンドゥ」の創作続編「つきひアンドゥトロォワ」・【6】 「するがボーンヘッド」の創作続編「するがボーンヘッドリターンズ」が、短くサクッと読めるのでよろしくお願いします。

その後、ご存じのように『続・終物語』から「暦ブック」の副題は無くなり、現在のファンブック的な『続・終物語』が刊行されています。
そして、次にポンと未来が描かれるのは『結物語』となります。




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