仮面ライダー電王LYRICAL   作:(MINA)

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昨日ぶりになります。

今回は予定通りに投稿いたします。

現在、タブレットのカレンダー機能や電子書籍にのめりこんでいる皆大好でした。


第八話 「トラブルは油断と共に」

高町桃子とコハナは現在、厨房で調理中だった。

といっても、主に料理を作っているのは桃子でコハナは完成した料理をテーブルに持っていくだけだが。

なお、コハナの名誉のために言うと、彼女は決して料理の腕が壊滅的に悪いわけではない。

むしろ、それなりには良い方だ。

ただ、今回のようにスピーディにこなす域には達していないため、あえて運び役に回ったのだ。

翠屋は現在、翠屋JFCの貸切状態となっている。

なお、このJFCメンバーの食事代は全て高町士郎の給料から天引きされることになっていたりする。

イマジン達も食べれると喜んだのだが、コハナが睨みつけたために自腹を切るカタチになっていた。

「くっそぉ、あのコハナクソ女めぇ!睨むことはねぇだろうよ」

モモタロスはそう言いながら翠屋特製プリンを食べていた。

「センパイ、ヤケプリンは良くないよ」

ウラタロスは自腹をケチるためにコーヒーを飲み、好物をヤケ食いしているモモタロスを宥める。

「ほっとけほっとけ。いつものことや」

キンタロスは特に何かしたわけではないのに、すでにパスタを三杯食っていた。

「だからって、何で僕までー」

試合に参加したリュウタロスも例外でなく、自腹だった。

それでも空腹には勝てないので、仕方なくケーキを頼んでいた。

「アンタ達、何か言った?」

コハナがイマジン達を睨んでいた。

「「「「別に」」」」

と声をそろえた。

「ん?何か臭うぜ」

モモタロスが鼻をクンクンする。

「喫茶店なんだから臭うのは当たり前だよ」

ウラタロスは二杯目のコーヒーを飲みながら、何を当たり前なことを言ってるのさ、というような表情を浮かべていた。

「モモの字、どないしたんや?」

キンタロスは何杯飲んでも無料の水を飲みまくっている。

「モモタロス、お医者さんに行ったら?」

ケーキを食べながら病院に行くように勧めるリュウタロス。

そもそもイマジンを診てくれる病院などあるのだろうか。

腹の中で「後でぶちのめす」と思いながらも、モモタロスは言うべきことを告げる。

「そうじゃねぇよ。俺達以外のイマジンの匂いがするって言ってんだ」

その一言に今まで真面目に受け取らなかった三人の雰囲気が変わった。

「それマジ?」

「ああ、間違いねぇ」

ウラタロスが念を押すように訊ねるがモモタロスの返答は変わらなかった。

「でも、何でイマジンが別世界におるんや?俺らと同じ方法でも使ってきたんか?」

「さあな。そこまではわかんねぇよ」

深く考えることはモモタロスの分野ではないので、投げやりに答える。

「オーナーのおじさんに訊いてみたらいいんじゃなぁい?」

リュウタロスがもっともなことを言って水を飲み始めた。

「それでモモの字、その臭いは近いんか?」

キンタロスが臭いの源と自分達との距離がどのくらいなのか訊ねてくる。

「ああ、近いぜ」

モモタロスは自信を持って答えた。

「とんでもなく、な」

翠屋の床に撒かれている砂を見ながら。

 

高町なのはとユーノ・スクライアは翠屋店内でなく外にいた。

そこでユーノはアリサ・バニングスと月村すずかにいじられていた。

なのはに念話で動物らしい仕種をしたほうがいいという指示を受け、「お手」と言われれば右前脚を出すなどをしていた。

そんな仕種を見てアリサとすずかはユーノの頭を撫でるが、なのはは念話で、

(ごめんね、ユーノ君)

と謝るしか出来なかった。

やっているユーノも正直辛かった。

何か自分の中で大切なものが消えていく感じがした。

「もう辞めたいんだけど」とフェレット語(キューキュキューという)で言ってみても動物は人間の言葉を理解できても話すことが出来ないと思っているなのはの親友二人にはその思いは届かない。

翠屋入口には翠屋JFCメンバーが食事を終えて、外に出ていた。

士郎が今後のチームの抱負と目的をメンバーに告げると、解散した。

なのはは何気なく、翠屋JFCメンバー達に視線を向ける。

キーパーを務めていた少年が自分のスポーツバッグから何かを取り出した。

とてもとても見覚えのある物だった。

それを自分のジャージのポケットの中に放り込む。

マネージャーを努めていた女の子が歩み寄り、共に労いの言葉を掛け合ってその場から離れていく。

(あれって・・・・・・)

(どうしたの?なのは)

フェレットが心配そうになのはを見つめる。

念話は繋がっていたので、なのはの心境はダダ漏れだった。

(ううん、何でもない。何でもないよ。ユーノ君)

そんなはずはない。そう、そんなことがあるはずがない。

なのははそう自分に言い聞かせていた。

あれがジュエルシードであるはずがない、と。

 

そこは壁に落書きがあったり、張り紙が破られて跡が無数残っていたりとお世辞にも華やかさがない路地裏。

そんな陰気臭い場にはあまりに不釣合いの少年がいた。

翠屋JFCで補欠になっていた少年だ。

しかし、彼は一人ではない。

目の前にいる何かと会話をしていた。

「サッカーとやらでレギュラーになりたいのか?」

上半身と下半身が逆転しているそれは対面の少年に確認するように尋ねる。

「は、は、はい」

少年は怯えながらも頷く。

当然といえば当然だろう。

昔、おとぎ話で読んだ願いを叶えてくれる存在、いわば「精霊」は人間に対して、結構友好的だったような気がする。

だが、目の前にいるそれは「精霊」と呼ぶにはあまりに愛嬌の欠片がない上に、愛想もない。

むしろ「怪人」と呼んだ方が適当に思えるほどの容姿だった。

「オマエの望み、しかと聞いた」

チーターの姿をした砂の塊に色がついていき、上下逆転していた身体は二足歩行する生物の本来の状態になっていく。

実体化したそれは身体全身を伸ばし、その場から跳躍しビルをたんたんと渡りながら離れた。

「どうやってレギュラーにするんだろ?」

補欠少年は愛想も愛嬌もない「精霊」がどのような方法で自分をレギュラーにするのか聞くのを忘れた。

 

 

テレビに映っているバラエティー番組の音声をBGMに青年一人、少女二人はあることを三人である作業をしていた。

それは遅めに摂った朝食(昼食ともいう)の皿の片付けだ。

野上良太郎は、食器を洗っており、

フェイト・テスタロッサは洗い終えた食器を布で拭き、

アルフは拭き終えた食器を棚にしまっていた。

「さすがに早く片付くね。ありがとうフェイトちゃん。アルフさん」

良太郎は蛇口を捻って水を止める。

「そんな、このくらい遠慮なく言っていいよ。良太郎」

フェイトが自分も手伝うとアピールする。

「そうそう、美味いご飯作って、掃除なんかもやってくれてんだからさ。このくらい遠慮なく言いなって」

アルフもどんと胸元を拳でドラのように叩く。

二人とも積極的に家事に参加したいようだ。

「う、うん。わかった。これからは遠慮なく言うよ」

二人の申し出をありがたく受け取り、笑みで返す良太郎。

フェイトとアルフは目と目で「やった!」とコンタクトを取った。

「さてと、今日の夕飯はと……」

冷蔵庫を開けて、夕食を考える。

ミネラルウォーターと牛乳がひとつにパンに塗るためのマーガリンとジャムしかなく、あとは何故かドッグフードの缶が数個置いてあるだけだ。

ハッキリ言って何もないに等しかった。

「フェイトちゃん、アルフさん。夕飯は何が食べたい?」

良太郎が何も入ってない冷蔵庫を見ながら二人の要望を訊ねる。

「わたしは何でもいいよ」

「あたしも何でもいい!できれば肉が入ってるとありがたい!」

二人の要望は両極端のものだった。

「僕の好きな好物でいい?」

折衷案を出すことにした。

「わたしはいいよ」

「あたしも異義なーし」

「じゃ、決まりだね」

冷蔵庫を閉めた。

「それじゃ、買いに行かないとね

良太郎は財布をポケットに突っ込み、歩いて五分ほどの距離にあるスーパーに行く準備をする。

「買出し?わたしも行こうか?」

行こうか、などと言っているが「連れてって」というような雰囲気がフェイトから醸し出されている。

アルフを見ると、「連れてってやりなよ」と目で訴えている。

「わかった。じゃあ、一緒に行こうかフェイトちゃん」

「ありがとう。良太郎」

フェイトは笑みを浮かべたが、やはりそれは場を取り繕うための笑みだった。

 

歩行者信号で仲睦まじい二人が青信号になるのを待っていた。

翠屋JFCでキーパーを務めた選手とマネージャーだ。

二人は手を繋いで青信号になるまでの間、他愛のない会話をしていた。

昨日のこと。

学校でのこと。

今日のこと。

これからのこと。

様々だ。

少年は先程見つけた青い石の事を思い出した。

とても綺麗な石で、彼女にあげるつもりだった。

ポケットから取り出し、彼女に渡す。

少女の瞳が輝き、青い石を受け取る。

「ありがとう」

と、笑みを浮かべた。

少年はその笑みを見て、照れくさそうに頬を掻く。

二人にとっては幸せの時間だった。

ただし、青い石がまばゆいまでの光を放つまでの儚いものだが。

 

良太郎はフェイトと共にとあるスーパーで夕飯の買い物をしていた。

ショッピングカートを押しており、買い物カゴは上下二段とも使用している。

もちろん押しているのは良太郎で、フェイトは専ら食材を探す係だ。

「良太郎、今日は何するの?」

フェイトは良太郎が指示する食材を探しに行くだけで、彼が何を夕飯にしようとしているかはわかっていないようだ。

「今日はね、チャーハンだよ」

「チャーハン?どんなの?」

フェイトは知らないらしい。

良太郎は自分が知っている知識(偏りあり)で説明した。

「へぇ、おいしそうだね」

という感想が返ってきた。

「結構、美味い不味いがハッキリ出る料理だからね。気合入れて作らないとね」

そう言って良太郎は気合を入れるポーズを小さく作った。

ズボンのポケットから音楽が鳴り出す。

発信源はケータロスだ。

取り出して、通話する良太郎。

「もしもし」

『ああ、良太郎、僕だけど』

相手はウラタロスだ。

「どうしたの?」

『今ね、センパイの鼻を頼りにイマジンを追いかけているんだけどね』

良太郎が深刻な表情になる。

「イマジンが?どうして別世界(ここ)にいるの?」

『それはわからないけど、良太郎今何してるの? 』

良太郎はウラタロスと会話しながらも隣にいるフェイトを見る。

「家主と買い物してるけど」

『じゃあ、買い物が終わってからでいいから手伝える?』

ウラタロスの申し出を聞きながら良太郎はもう一度フェイトを見る。

「ちょっと待ってて」

ケータロスを耳から離し、フェイトに訊ねてみることにした。

「フェイトちゃん。僕、買い物終わってから少し用事に出かけるけどいい?」

フェイトは良太郎を見る。

先程見せた深刻な表情だ。

良太郎と共同生活をしてから一週間、こんな表情は見たことがない。

いや、違う。

一度だけある。

そう、初めて会った時、電王に変身する前に見せたのだ。

「良太郎、もしかして戦うの?」

フェイトは良太郎の用事の核となる部分だけ訊ねる。

「……」

良太郎は誤魔化さず首を縦に振るだけだ。

「うん」とも「そうだよ」とも一言も発さなかった。

「……気をつけてね。良太郎」

その一言を肯定と受け止めると、良太郎はケータロスを耳元に当てる。

「買った物を家に置いてからすぐそっちに向かうよ」

ケータロスを切って、ポケットにしまいこむとレジに向かった。

 

モモタロスとウラタロスは翠屋に残った微かな臭いを辿りながら、イマジンを捜していた。

「くそ!臭いを辿ってるから間違ってることはねぇけどよ。相手が速過ぎるぜ、ったく……」

「しかし、イマジンがこの世界にもいるなんて驚きだよね」

走りながら、モモタロスは苛立ちを隠さずにウラタロスは別世界のイマジンの契約内容を予想していた。

「ねぇセンパイ」

「あん?何だよカメ。今、臭いを集中して探ってるんだからくだらねぇこと言いやがるとぶっ飛ばすぞ」

「今回の契約者ってさ、もしかして……」

「とっつぁん(高町士郎のこと)のチームのガキだろうな。翠屋にイマジン特有の砂がこぼれてたから間違いねぇよ」

「じゃあ、内容はやっぱりレギュラーになりたい、とかかな?」

「そんなところじゃねぇのか。多分な」

こればかりは契約者に直に尋ねてみないとわからないことだ。

「ん?センパイ、アレ見てよ」

路地裏前でウラタロスがあるものを発見した。

「イマジンか?カメ」

「違うよ。アレ」

そこにはその場には似つかわしくないジャージ姿の少年が何をするでもなく、ただ佇んでいた。

その仕種が何か不自然に感じた二人は少年のそばまで歩み寄る。

少年の目はどこか虚ろで正面に立っている自分達を見ているようには思えない。

試しにウラタロスは翠屋から出る際にコハナから渡された無記載状態《ブランク》のライダーチケット(以後:チケット)を少年に向ける。

二人はチケットの変化を凝視する。

しかし、チケットにはイマジンのイラストも年号・月・日も記載されなかった。

「何も変化ないね」

「どうやら、まだコイツの望みを実行中ってところか」

無記載チケットにイマジンのイラスト、年号・月・日が記載されるのは契約者の望みを完了したときだ。

「早いとこ、やるしかないぜ。俺達は別世界(こっち)じゃいつも通りってわけにはいかねぇからな」

「もちろんだよ。センパイ」

路地裏から出ると、また臭いを頼りに捜索する二人。

何やら後ろから悲鳴のような驚きのような声が聞こえてくる。

「何だよ?さっきまで静かだったのに、急にうるさくなりやがって」

「変だね。一体、何が起こって……」

ウラタロスが後ろを向くと、何やら巨大な蛇のようなものがコンクリートの地面を抉りながらこちらに向かってきた。

「セ、センパイ!う、後ろ見て!後ろ!」

隣にいるモモタロスの肩を叩く。

「何だよ?ったくよ……おおおおおおおおおおおおおおおお」

茶色いウネウネした蛇のようなものがこちらに向かってくる。

「何だよ!?アレ!!」

「知らないよ!とにかくこっちに向かってくるから逃げようよ!!」

とても真正面から立ち向かっても勝てる気はしないので、二人はその場から離れるため走り出した。

とにかく全力で。

 

なのはがそれを感じた時、今まで自身を覆っていた眠気と支配していた気だるさは一瞬で吹っ飛んだ。

パジャマから私服姿に着替えて、ドタドタと階段を鳴らしながら降りていく。

途中、風呂場から父親の「一緒に風呂入るか?」という誘いがあったが、それを断る。

なお、断られた父親が若干へこんだことは娘は知らない。

外に出ると、二人は何がしかの異変を身体全身で感じた。

ユーノは肩から降りて自分で走り、現状を把握するために手頃な場所を探す。

「なのは、あそこのビルの屋上に行こう。街で何が起こったかを知るためには高い所から見たほうがいい」

「うん!」

ユーノが顔でクイクイっと目的地であるビルを指す。

ビルの屋上までひたすら走る。

息を荒げながらも非常階段を上る。

運動神経がそれほど立派ではないため、運動神経抜群な同世代と比べると階段を上る速度は遅い。

しかし、それでもなのはは全力で非常階段を駆け上る。

カンカンカンとうるさい音を立てながら。

屋上まで駆け上ると、一休みするこなく街全体を見回す。

巨大な樹木が街全体を蹂躙していた。

アスファルトで舗装された道は抉れ、樹木の重量に耐えられない建造物はひしゃげたり、崩れたりしている。

一見するとファンタジックな風に見えるが、被害状況を見たらそんな風には考えられない。

なのははスカートのポケットからひとつの紅い珠を取り出す。

レイジングハートだ。

「レイジングハート、お願い!」

そう叫んでレイジングハートを天に向かって投げる。

特殊な空間に包まれ、なのはの衣装が私服から対魔法用衣装へと切り替わる。

その空間から解放されると、魔導師としてのなのはが出現した。

衣装はどこか聖祥学園の制服を思わせるようなデザインとなっている。

右手には杖の姿をしたレイジングハートが握られている。

(やっぱり、あの子が持ってたのはジュエルシードだった……)

あの時、自分が見たものは間違いではなかった。

即回収すればこんな大惨事にならずに済んだのに。

後悔が彼女を一時支配したが、なのはの目つきは鋭くなる。

「どうしてこんなことになったの?」

「発動者が人間だからだよ。人間の思いがジュエルシードの力を最大限に発揮させたんだ」

なのはの問いにユーノが即答した。

「こういうときはどうしたらいいの?ユーノ君」

「ええと、そうだね。まずはこの状況を作り出した核となっている発動者を見つけるんだ」

「発動者を見つければいいんだね?」

「うん、そうだけどって、あれは……」

ユーノはなのはに続きを話そうとすると、聞き覚えのある声がするのでふと下(地上)を見てみる。

そこには知っている赤と青の二人がいた。

「どうしたのユーノ君って、あの二人は……」

モモタロスとウラタロスだった。現在、巨大樹木の根から全力で逃げている。

「モモタロスさん!ウラタロスさん!」

なのはは二人に声をかける。

走っている二人は声のする方に顔を向ける。

「センパイ、あれ!」

「なのはとユーノじゃねぇか!カメ、あのビルに向かうぞ!」

「オッケー、センパイ」

二人は走る方向を変えて、なのはとユーノがいるビルに向かった。

 

「……何これ?」

良太郎が荷物を家に置いて、外に出ると、先程までとは違う光景にただ呆然としていた。

「とにかく、イマジンを捜さないと……」

自分のやるべき事を口に出して、行動する。

だが、モモタロスのように臭いを辿って探るなんて芸はできないので、目で捜すしかない。

ケータロスをポケットから取り出して開く。

『着信アリ』というメッセージは表示されていない。

良太郎は『6』を押してから通話ボタンを押す。

通話相手はウラタロスだ。

『もしもし、誰かな?』

とキザでおどけた感じの声がした。

「ウラタロス、僕だけど」

『良太郎、今どこにいるの?』

「家主のマンションを出たところ。そっちは?」

『僕とセンパイは今、なのはちゃん達と一緒にビルの屋上にいるよ。場所はここだから来てね?』

そう言って通話が切れた。

そして、ケータロスのディスプレイに海鳴市の地図が表示され、二つの点が点滅していた。

ここにモモタロスとウラタロスがいるのだろう。

自分の現在地から目的地まではさほど遠くない。

(別世界に来て一週間、暇があれば散策してたけど、こんなかたちで役立つなんてね)

良太郎は目的地の方角を睨む。

「みんな待ってて。今行くよ」

良太郎は駆け出した。

目的地であるビルの屋上に到着すると、海鳴市を蹂躙している怪植物を見渡すことができた。

ひどい状況だ。

「この状況を説明できる人っている?」

怪植物が何故出現したのかを尋ねる良太郎。

「ジュエルシードの力が最大限に発揮されたんです」

ユーノが簡潔に説明してくれた。

「……そうなんだ」

もう一度、良太郎は怪植物を見る。

「良太郎さん」

ふと声がかかった。声のする方向に顔を向けると、魔導師姿のなのはがいた。

「なのはちゃんはジュエルシードの封印?」

「はい、これから発動者を捜すところなんです」

そう言いながら、なのはは真剣な表情で杖を怪植物に向ける。

『エリアサーチ』

と杖が発すると、桜色の光が無数に飛散した。

「なのはも気合入ってるな。俺も負けてらんねぇぜ」

そう言いながらモモタロスも怪植物に向けて鼻をクンクンしている。

探索能力のない者達は結果が出るまで待つしかない。

良太郎もそんな一人だ。その横に肩にユーノを乗っけたウラタロスが歩み寄ってきた。

「イマジンの契約者ってわかってるの?」

「まあね。契約者は翠屋JFCの補欠君さ。そして、まだイマジンは契約を完了していない」

「イマジンが契約完了してないって何でわかるの?」

「契約者にね、チケットをかざしたんだけど変化がなかったんだよ」

良太郎はその一言ですべて理解した。

「なるほど、だからここにいると言い切れるんだね」

「そういうこと」

それから時間にして三分くらい経過したころだ。

「見つけた!」

「あそこにいるぜ!」

なのはとモモタロスがそれぞれの獲物を探索できた。

その場所はなんと同じところだった。

「なのはちゃん」

良太郎はある事を確認するためになのはに歩み寄る。

「どうしたんですか?良太郎さん」

「ジュエルシードの発動者のそばに何か怪人みたいなのいた?」

なのはは先程の探索の際に頭に直に入り込んだ映像のひとつを思い出す。

「あ、はい。いました。チーターの姿をした怪人でした」

「これで決まりだね。なのはちゃん」

「はい?」

「封印にはもしかしてタイムリミットってある?」

「え、ええとユーノ君」

「特にありませんけど、早いに越したことはないですよ」

良太郎となのはは後学のために、ユーノの言葉に真剣に耳を傾ける。

「僕達がイマジンを倒すかあの場所から離すまで封印って待ってもらえるかな?」

良太郎の申し出になのはとユーノは疑問を浮かべる。

「どうしてですか?」

「これは多分推測なんだけど、そのジュエルシードの発動者のそばにイマジンが契約を果たすために必要な物、もしくは人がいると思うんだ」

「じゃあ、もしわたしが封印したら……」

「最悪の場合、無防備になったその人を襲うかもしれないね。皮肉なことにジュエルシードの力によってその人はイマジンから守られてるからね」

なのはは悩むことなく、決意を秘めた瞳を良太郎に向ける。

「わかりました。イマジンを倒すかあの場所から離したら封印します」

「ありがとう、なのはちゃん」

良太郎も真剣な瞳で返す。手には自らのチャクラで具現化させたデンオウベルトが握られていた。

勢いよく腰に巻きつける。

「モモタロス、は……」

憑依相手候補その一は慣れないことをしたのかどこかグッタリしていた。

「ウラタロス、行くよ」

「じゃ、やりますか」

ウラタロスはその気になっている。

パスを取り出す。

なのはとユーノは良太郎の仕種を瞬きひとつせずに、見ている。

「変身!」

良太郎はそう叫ぶと同時にデンオウベルトのターミナルバックルにセタッチする。

良太郎から素体状態のプラット電王に変身する。

ターミナルバックル隣にあるフォームスイッチの青色を押す。

ソードフォームに変身する前に流れたミュージックフォーンとは違うものが流れた。

そしてもう一度、パスをセタッチする。

『ロッドフォーム』

機械音声がそう発すると、プラット電王の前に無数のオーラアーマーのパーツが出現した。

それらは一周すると、それぞれの部位に装着されていく。

ソード電王時に正面になっていたパーツは背に、後ろとなっていたパーツは左右に展開し、青色をメインとしたパーツとなり、正面に装着される。

頭部に出現し、眼前で停まった電仮面は海亀のような形をしており、アーマー同様青色だった。

変身が完了すると、その場でくるりとターンした。

電王ロッドフォーム(以後:ロッド電王)の完成だ。

そして腰部にある専用ツール、デンガッシャーに触れる。

左パーツ二つを縦連結させてから、右パーツを先程連結させたパーツを覆うように上下に連結させる。

そしてフリーエネルギーが加わり、使用者と同等の長さまで伸びる。

「ふぇええええええ。良太郎さんにウラタロスさんが乗り移った!?」

「こ、これがハナさんが言っていた電王!?」

なのははただただビックリし、ユーノはコハナが言っていたことを思い出した。

ロッド電王はそんな二人のことなど目もくれずに次の行動に移る。

空の一部が揺らぎロッド電王の専用車とも思わせるデンライナー『イスルギ』が出現した。

「それじゃね。なのはちゃん、ユーノ」

そうウラタロスの声で発すると、イスルギに乗った。

車体後方に搭載されているカメ型メカ『レドーム』が分離して、イマジンのもとに向かった。

 

チーターイマジンが発動者である少女の隣にいる少年を狙っていた。

だが、自分の爪が通らないのでどうしようかと考えあぐねていた。

頭上を影が覆った。

見上げると、青い円盤のようなものが浮いていた。

そして、中央に乗っている人物を睨みつける。

「貴様、何者だ?」

「僕の事を知らないなんて全くしょうがないな。僕は電王さ。覚えておいてね?あとさ……」

電王と名乗るソレはさらに続ける。あまり続きを聞きたくなかったりするチーターイマジン。

しかし、次の一言は自分の神経を逆撫でするには十分だった。

なぜなら、

 

「オマエ、僕に釣られてみる?」

 

なんて言ったのだから。




次回予告

第九話 「反省は次のステップに」


あとがき
前回同様に、第三話を題材にしたお話です。
今でこそ割と簡単に執筆できますが、当初は電王のフォームを書くのは結構難しかったですね。
いつにどのフォームを出すのかも悩みましたね。
何度も何度も映像を見直したことがあります。
あれから少しは成長したのかも、と少しはうぬぼれさせていただきます。
それでは次回でお会いしましょう。
次回の掲載予定は2013/12/6としています。
皆大好でした。

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