それでは第六話をどうぞ。
青色のペンキを思いっきりキャンバスにかけたらこんな風になるのかと考えてしまうほどの蒼い空。
昼食を食べ終えた高町なのはを先頭に、野上良太郎はイマジン達+一番後ろで懊悩しているコハナが一泊過ごした宿、つまり『高町家』に向かっていた。
「翠屋から結構あるんだね」
「そうですね。言われてみると結構距離ありますね」
なのはは右肩に乗っかっているフェレットと戯れながらも良太郎と対話している。
「あの、なのはちゃん」
「はい?どうしたんですか?良太郎さん」
良太郎は後ろでバカやっているイマジン達に聞こえないように注意を払いながら、なのはに訊ねる。
「モモタロス達、迷惑かけてない?」
なのはの父---高町士郎は感謝しているといっていたが、それを鵜呑みにはできなかった。
もしかしたら、こちらを気遣って言った台詞かもと、良太郎の頭によぎったのだ。
それにこの手のことは、大人よりも子供の方が正確にそして、何の迷いもなく真実を打ち明けてくれるものだ。
なのはは左人さし指を頬に当てる。昨日の事を思い出そうとしているのかもしれない。
「うーん。迷惑って程じゃないですけど、道場から凄いいびきが聞こえてきました」
いびきの発信源は良太郎にはすぐにわかった。
「それと昨日お姉ちゃんが口説かれそうになりました。あとお母さんもです」
そんなことをする奴は一人しかいない。
「今日の朝は朝ご飯のおかずを取られた取られなかったでお兄ちゃんと喧嘩してました」
朝食のおかずで本気で喧嘩する奴は一人しかいない。
「これも今日のことですけど、庭でお父さんが半分寝ているかのような状態でダンスしていました」
人を操って踊る奴は一人しかいない。
「・・・・・・本当にごめんなさい」
良太郎はイマジン達の所業を謝罪した。
言い訳のしようがない。
「あ、そ、そんな、そこまで気にしなくてもいいですよ!お父さん達も驚いてましたけど、最近のバンドマンさんは日常生活から常識外れなことをするんだとハナさんが言ったら信じてくれましたし・・・・・・」
「信じたの!?しかもその嘘でよく通せたね!?」
驚いた上にツッコんでしまった良太郎。
頭を抱えているコハナを一瞥してため息をつく。
「あ、着きましたよ良太郎さん」
なのはの足が停まり、良太郎に向けて中に入るように促す案内人のような仕種をする。
青空に君臨する太陽に負けない笑顔で。
「ようこそ。高町家へ」
高町家の道場に良太郎、イマジン四人、そしてフェレットのユーノがを寛ぐ姿勢を取っていた。
良太郎は普通にあぐらで座っている。
モモタロスは壁にもたれて座っている。
ウラタロスは何処から持ってきたのかパイプ椅子を用意して座っている。
キンタロスは腕を組んであぐらで座っているが、実は寝ている。
リュウタロスは寝そべって愛用のスケッチブックを取り出して、愛用のクレヨンを取り出した。
フェレットはリュウタロスのスケッチのモデルになっている
なのはとコハナは現在、お菓子とお茶を準備している。
なのはがお菓子を、コハナがお茶を人数分持ってきた。
「さて、そんじゃ始めっぞ」
モモタロスの一言を合図にそれぞれ勝手な行動を取っていたイマジン達が皆集まり円陣になっている。
「まず、良太郎さんにお話しておかなければならないことがあります」
フェレット---ユーノが口を開いた。
良太郎はユーノの声を初めて聞いた。
声変わりのしていない若い男の声、年齢にしてフェイトやなのはくらいだと推測する。
「ジュエルシードは持ち主の願いを叶えてくれるというものなんですが、ご存知ですか?」
ユーノは良太郎がジュエルシードの効力を知らないものだと前提して話している。
「うん。昨日、モモタロスから教えてもらったよ」
「そうですか。それなら話が早くて助かります。実はその発動に問題があるんです」
「発動に?」
「そうです。ジュエルシードはその効力を発動する時が一番不安定で、持ち主の願いを歪曲させて叶えてしまったり、発動の際に周囲に危害を加えたりと、とても危険な石なんです」
イマジンみたいな石だと良太郎は解釈した。
「んでよ良太郎。オマエ、石コロをオーナーのオッサンから一個貰ってたよな?早く出せよ」
モモタロスが良太郎を促す。
「センパイ、それじゃカツアゲと変わんないよ。良太郎、今のところジェエルシードの持ち主はユーノになってるんだ。持ってるんだったら渡してほしいんだよね」
ウラタロスが呆れながらも、フォローを忘れない。
(どうしよう・・・・・・)
どうやらイマジン達+コハナは自分が現在でも持っているものだと思っているらしい。
(フェイトちゃんにあげちゃったし、今更返してともいえないしなあ)
フェイトにそれを言うことはできない。
「僕、持ってないよ」
正直に告白した。
「持ってないって、どういうことだよ!?良太郎、落としちまったのか!?」
モモタロスが良太郎に詰め寄る。もちろん、胸倉も掴んでいる。
「く、苦しいよ・・・・・・と、とにかく離してモモタロス」
胸倉を掴んでいるモモタロスの手をパンパンと良太郎はフリーになっている自分の両手で叩く。
「センパイ!良太郎ギブしてるって!」
ウラタロスがモモタロスを停めようとする。
「モモタロスさん!良太郎さんの顔色がどんどん青くなってます!」
ユーノが二足歩行でモモタロスの足にしがみつく。
「は、早く離して下さい!このままじゃ良太郎さん死んじゃいます!!」
なのはもモモタロスの腰辺りにしがみついて静止しようとする。
「バカモモ!!」
コハナが拳をつくって力を込めようとした時だ。
「モモの字、とにかく手ぇ離さんかい!良太郎も喋るに喋れへんやろ!」
キンタロスが背後からモモタロスを掴んで良太郎からひっぺがす。
モモタロスが後ろに転がったが誰も心配しない。
「良太郎大丈夫?もう!モモタロスのバカぁ!」
とリュウタロスが良太郎の側に寄って心配すると同時にモモタロスに罵声を浴びせた。
「それで持ってないってどういう事なのさ?良太郎」
ウラタロスが訊ねる。
「うん、実はね。モモタロス、昨日の事覚えてる?」
「昨日の事だぁ?」
いきなり話題を振られたモモタロスは起き上がって昨日の事を思い出そうとする。
「そういや昨日はオマエ、変な女二人組に襲われたんじゃねぇか?」
モモタロスは最後辺りには自信がないのかちょっと口調が弱かった。
「まさか良太郎・・・・・・」
ウラタロスは仮説を声に出した。
「もしかしてその二人に盗られたの?」
「盗られてねぇよ。俺がその二人気絶させたんだからな」
ウラタロスの仮説を否定したのはモモタロスだ。
彼はあの時、フェイトとアルフと戦い、きちんと勝利まで収めているのだから強盗説を否定する際に、これほど説得力がある人物(?)はいない。
「モモタロスの言う通りだよ。僕はあの二人にジュエルシードを盗られてない」
「じゃあ、どうしてないのさ?」
「そやそや。強盗にも遭ってないけど、手元にはない。良太郎どういうこっちゃ?」
「どういうこっちゃー?」
ウラタロスが更に訊ね、キンタロスが同意し、リュウタロスはキンタロスの口真似をして訊ねていた。
なのは、ユーノ、コハナは良太郎が答えを告げるまで黙って待っているつもりなのだろう。
「あげたんだ」
「誰にですか?」
そう聞いてきたのはユーノだ。
「まさか良太郎、オマエ・・・・・・・」
「嘘でしょ!?ソレしたらいくらお人よしでも度を越えてるって・・・・・・」
「カメの字の言う通りや。塩を送るにも限度があるで」
「あるでー」
良太郎がジュエルシードを自分の意思で誰に渡したのかはリュウタロスを除く三人は理解した。
「僕を襲ってきた二人に、ね」
良太郎の発した答えにイマジン達+コハナは「やっぱり」という表情をした。
「・・・・・・そう、ですか」
良太郎の答えにユーノは沈んだ。
「ユ、ユーノ君」
「ユーノ、その、ごめんね」
なのはは落ち込むユーノになんと声をかけたらいいのかわからない。
コハナは良太郎のしでかしたことを詫びる。
「あ・・・・・・その、ごめんね」
良太郎は所有者(仮)に謝った。
「僕の方こそすみません。焦りすぎてたみたいです」
ユーノはそんな良太郎を責めなかった。
いや、正確にいうなら責められなかったのだ。
良太郎はこちらでの知識は皆無に等しいし、こちら側の事情も知らない。
そんな状態の人間に、こちら側の常識をぶつけてることは八つ当たりに等しいからだ。
ジュエルシードを入手し損ねたのは痛いが、同時に収穫もあった。
それは、自分以外にもジュエルシードの価値を知っている者がいるということだ。
その人物の名前と所在を聞いてみたいところだが、多分、口を割りそうにないと判断したのでそれ以上は聞かなかった。
良太郎はユーノがこの中でジュエルシードに関することを精通しているとみたので、今気付いたことを訊ねてみることにした。
「そういうえばユーノ達はジュエルシードをいくつ持ってるの?」
ジュエルシードが世界にひとつしかないものではないということはモモタロス達が一個所持していたことやフェイトやユーノの態度を見ればすぐにわかることだ。
「モモタロスさん達がくれた一個と合わせて三個です。やっと七分の一が集まったってところです」
三個で七分の一ということは全部で二十一個ということになる。
(フェイトちゃんも二十一個集めるつもりなんだろうな)
そうなると、なのは達とぶつかる可能性は大だろう。
出来る限りならそんな事にはなってほしくないと良太郎は願うばかりだ。
「んでよ、良太郎。これからどうすんだよ?」
モモタロスが良太郎に今後の事を尋ねてきた。
「え?」
先程まで真剣に胸中で願っていた良太郎にはモモタロスが何を訊ねてきたのかわからなかった。
「え?じゃねぇよ。これからは高町家
正確には寝泊りするのは道場だが。
仲間達と共に行動するのならば高町家で寝食を過ごすことはもっともベストだ。
しかし、良太郎はそれを口に出すことをためらった。
脳裏によぎったのは今朝、玄関で見送ったフェイトの表情だ。
とても寂しそうな表情をしていた。
それに自分はフェイトの笑顔を見たことがない。
なのはと同じ年代の少女があんな暗い表情ばかりしていいはずがない。
(僕がやるべき事、僕がやりたいと思っている事)
そう自問自答する。
答えはもう出ていた。
「僕はここには行かない」
「「「「「「「え?」」」」」」」
全員がその答えに驚いた。
「僕は昨日いた所に戻るよ」
良太郎はそんなことも気にせずに続ける。
「良太郎、おまえ本気かよ?」
「うん」
モモタロスの問いに良太郎は力強く頷く。
その瞳に迷いはない。
「わーったよ。好きにしやがれってんだ」
モモタロスは折れた。
これ以上言った所で良太郎の意思は決して曲がらないと判断したからだ。
「センパイ、いいの?」
「そうやでモモの字。良太郎が昨日厄介になったところをわかって言っとるんか?」
「良太郎と一緒じゃなくて寂しくないの?モモタロスは」
ウラ、キン、リュウは異議を申し立てる。
「テメェら、良太郎のツラ見てみろよ?そんなこと言わせないってツラしてるぜ」
モモタロスの言葉を信じるわけではないが、三人は確認の際に良太郎の顔を見る。
「………」
「………」
「……良太郎」
ウラタロスとキンタロスは何も言わなくなり、リュウタロスは納得したが寂しいので良太郎の名を呟いてしまう。
コハナは何も言わない。
いや、言うつもりがない。良太郎が無事にそれをやり遂げて、こちらに戻ってくると信じているからだ。
こんな心境に立てたのは彼女にとって非常に不本意ではあるが、彼女が一番殴ったり蹴飛ばしたりしたイマジンだったりする。
「あ、あの、そろそろお開きにしましょうか?」
なのはが切り出した。
これ以上は進展がないと判断したのか、それとも場の雰囲気を変えて明るい話題に持ち込もうとしたのかはわからない。
「そ、そうだね。良太郎さん。その、頑張ってください」
なのはの提案に便乗したユーノが月並みな応援を良太郎に送った。
「う、うん。ありがとうユーノ」
それから一時間ほど、雑談等をした。
良太郎が高町家から離れたのはそれから更に十五分後のことだ。
フェイト・テスタロッサはソファの上で体育座りをして時折、玄関を見つめていた。
淡い期待なのかもしれない。
知り合って半日しか経っていない人物がもう一度戻ってくるなんて。
自分だったらどうするだろう。
仲間のいる所に向かってそのままそこで過ごすだろう。
安心するから。
「フェイト・・・・・・」
アルフはなんと声をかけたらいいのかわからないので、名前しか口に出せなかった。
「だ、大丈夫だよアルフ。良太郎は離れ離れになった仲間の元に行けたんだからさ、むしろ喜ばないと・・・・・・ね」
フェイトはいかにも「自分は大丈夫」というような台詞を言うが、表情はそれに反して一層沈んでいた。
ピンポーンとインターフォンが鳴った。
自分達はまだ住んで一月も経過していないので集金等ではないはずだ。
しかし、出る気になれないので居留守を使うことにした。
その後、インターフォンが鳴らなくなり、ドンドンとドアを叩く音が鳴り始めた。
「あー、もう!!うるさいねぇ!!」
先にキレたのはアルフだった。
指を鳴らしながら、玄関に向かっていく。
「アルフ、待って。わたしが行くよ」
先程まで体育座りをしていたフェイトが立ち上がり、ドアノブを回そうとしているアルフを停めた。
アルフはドアノブから手を離し、フェイトに代わる。
フェイトがドアノブを回すと、そこには一人の青年が何か洋菓子が入っていると思われる紙箱を片手に持って立っていた。
「りょ、良太郎?ど、どうして?」
フェイトは訊ねてしまう。
仲間の下に行き、今後はそこを拠点とするからここに帰ってくる筈がないと思っていた。
「そ、そうだよ。アンタ仲間の所に戻った筈じゃ・・・・・・」
「え、うん。会ってきたよ」
「じゃあ、どうしてここに帰ってきたの!?」
フェイトの心の中で「何故帰ってきた」という疑問と「よかった。帰ってきてくれた」ことの二つが少々ないまぜになっていたりする。
「帰ってきちゃいけない理由ってある?」
良太郎が聞き返してきた。
「そ、それは・・・・・・」
フェイトとしてもどう言い返したらいいのかわからない。
「それよりも入っていいでしょ?お土産もあるし」
良太郎は持っている紙箱をフェイトに突きつける。
アルフは紙箱の中身が食べ物と判断すると良太郎の手から引っ手繰った。
「う、うん。その、お、おお、おかえり良太郎」
自分でも信じられないくらい緊張している。
日頃言いなれていない言葉なのか上手く言えなかった。
「ただいま。フェイトちゃん」
良太郎は笑顔で言った。
*
夜、雨雲もなく昨日と同じように月が我が物顔で漆黒の空に君臨している頃。
赤色、青色、金色、紫色の仮装(?)をした四人と明らかに小学生くらいの少女がを閉店した翠屋の前で何がしかの準備をしていた。
「おいカメ、俺達は何でこんなことやってんだよ?」
モモタロスがコハナから渡された紙の内容を憶えようとしていた。
「しょうがないじゃない。僕達一応、バンドマンって事になってるんだからさ」
ウラタロスはモモタロスの質問に答えながらも紙の自分が割り当てられている内容を記憶している。
「あー、憶えるのは苦手やけどやらなアカンやろ?」
キンタロスも睡魔と闘いながらも憶えようとしている。
「うー、難しいよー。長すぎるよー」
リュウタロスはギブアップ手前になっていた。
「アンタ達、憶えた?今から五分後に始めるわよ!」
音楽機材を準備していたコハナがイマジン四人組の前に立つ。もちろん、腰に手を当てることも忘れない。
「無茶言うなよ!後五分でこんなモン憶えられるかよ!」
「センパイじゃないけど、それはキツすぎるって!」
「ハナ、もう少しだけ伸ばしてくれんか?頼むわ」
「ハナちゃーん。お願い!」
そんなイマジン達の訴えをコハナはというと、
「・・・・・・何か文句でも?」
低い声で睨みつける。
それだけでイマジン達は沈黙して自らの作業に没頭した。
五分が経過した。
「僕達、歌うんだよね?センパイ」
ウラタロスが隣にいるモモタロスに確認するように訊ねる。
モモタロスは何も言わない。
「カメの字、ここで歌わな俺ら確実にゴクツブシやで」
キンタロスがウラタロスに覚悟を決めるように諭す。
「追い出されるのはヤダー!!」
キンタロスの言葉に覚悟を決めたのはリュウタロスだった。
彼の頭の中にはゴクツブシになるということは高町家に追い出されるという図式が出来上がっているようだ。
「だったらシメていくぜ!!テメェら!!」
今まで黙っていたモモタロスが獣の咆哮の如く声を挙げた。
コハナが音楽機材の電源をオンにする。
低い感じの音楽が流れだし、やがて高くなると四人同時に声を出した。
本格的になると、今まで我関せずを決め込んでいた一般人たちがわらわらと集まりだした。
塾帰りの小、中、高の学生や会社帰りのサラリーマンやバイト帰りのフリーターに所構わずイチャイチャしまくっているカップルなどがわんさかと集まってきた。
皆、日頃の鬱憤を晴らすかの如く盛大に猛っていた。
「な、何か凄いことになってる・・・・・・」
コハナは予想外の出来事に驚いていた。
歌っているイマジン達も完全にノリノリだった。
これなら結構稼げるかもと、コハナは自信を持ち始めた。
後にコハナの嘘から始まったイマジン達のバンドチームは「D・M・C(電王メンバーズクラブ)」と命名され、海鳴市のインディーズバンド業界を大きく騒がせるまでの集団になるのだが、そんなことは歌っている面々にはどうでもいいことだったりする。
この一回の演奏でギャラリーが投げ込んでくれたお金の総額は三万二千円と結構なものだった。
次回予告
第七話 「蹴るけどいいよね?答えは聞いてない!」
あとがき
今回は予定通りに投稿することができたみなひろです。
第六話はサブタイを見てわかるとおり、ある番組を見ながら執筆していましたね。
我ながら上手いことできた略語だと今でも思っていたりします。
それでは第七話でお会いしましょう。
掲載予定は2013/11/29としています。