野上良太郎が自分が生活している世界に戻ってから数日が経過した。
現在、良太郎は河原でモモタロスと睨みあっていた。
喧嘩をしているわけではない。
その証拠に良太郎もモモタロスも手にはエアーソフト(プラスチック製)の長剣が握られていた。
良太郎は正眼に長剣を構えているのに対し、モモタロスはいつもの戦闘スタイルとして長剣を右肩にもたれさせており、一見隙だらけの構えだ。
「やああああ!」
良太郎が右足を踏み込んで、同時に正眼に構えていた長剣を上段に振りかぶって、モモタロスの頭部めがけて振り下ろそうとする。
パコォンという音が河原に鳴り響く。
「遅ぇよ」
モモタロスが良太郎よりも速く長剣を振り下ろして良太郎の頭部に当てていた。
「あいたぁ。速く振ったはずなのになぁ……」
良太郎が当てられた部分を左手で覆いながら、自身の何が悪かったのかを分析しようとする。
「人間が相手なら確実に当てていたよ」
二人の今までの経過を見ていたウラタロスが良太郎の長剣を振り下ろす速度をそう評価した。
「俺等イマジンは人間よりも遥かに身体能力が高いんや。俺等と日常生活しとるだけで良太郎にとっては修行になるんやで」
エアーソフトの斧を持っているキンタロスが良太郎に落ち込む必要はないように励ます。
「ねぇねぇ良太郎。次は僕とダンスしようよ。僕についてこれたらモモタロスなんて簡単にやっつけれちゃうよ。それ!」
リュウタロスが今度は自分と特訓するように勧めると同時に、所持している水鉄砲の銃口をモモタロスに向けて引き金を絞った。
「小僧ぉ、テメェから先にやっつけてやらぁ!」
モモタロスは濡れた顔を左右に素早く振って、払ってから長剣を構える。
「やーいやーい、ここまでおいでぇ」
リュウタロスはモモタロスを挑発し、悪ノリしているのか尻まで叩いて煽る始末だ。
「待ちやがれぇ!このハナタレ小僧ぉぉぉぉぉ!!」
二体の追いかけっこが始まり、残された良太郎、ウラタロス、キンタロスは今後の特訓の対策について話し合う。
「ウラタロス。僕から特訓したいとはいったけど、今回は随分と本格的だね?」
「良太郎、それじゃまるで今までは僕達がおふざけで特訓相手になってるみたいじゃない」
真顔でそんなことを言う良太郎にウラタロスは苦笑しながら返す。
良太郎がそのように思うのも当然だ。
少なくとも、先程自分の相手をしてくれたモモタロスは本気で相手をしていたのだ。
だから、良太郎はモモタロスの振り下ろすところを捉えることができなかった。
いつもの軽く振り下ろす程度なら高確率で防ぐ事はできたからだ。
「今回からはな。俺等が本気で相手する事が良太郎が今までよりも強くなると判断したから実戦に近いかたちにしたんや」
キンタロスは腕組みをして言う。
「それにね。良太郎には自分の今の強さを自覚してもらいたいって意味も含まれているんだよ」
ウラタロスが補足した。
「?どういうこと?」
「良太郎、僕達は誰の身体に憑いて戦ってる?」
「僕」
ウラタロスの今更な質問に良太郎は即答する。
「正解。つまり僕達が良太郎の身体を使って戦うって事はだよ。良太郎の身体には僕達の戦闘スタイルが染み込んでいるんだよ」
「みんなの戦い方が?」
「実感がないのは当然だよ。良太郎は今までそれを意識した事がないからね。だから、これからはそれを意識しながら戦う特訓ってワケさ」
「良太郎は身体には恵まれとるからな。上手くいけば俺等以上に強くなれるで」
キンタロスが良太郎の肩を軽く叩く。
「恵まれているって?」
良太郎にはキンタロスの言っている意味が今ひとつ理解できていなかった。
「俺等が変わることに戦い方は変わるやろ?普通なら身体にガタがきてもおかしないで。でも、良太郎は最近ではその辺が全くといっていいほどないやろ?だから恵まれてるって言うたんや」
「なるほどぉ」
キンタロスに言われるまで良太郎は気づかなかった。
確かに、電王で多様にフォームを変えるということはそれだけ肉体にも負担がかかるということだ。
良太郎は変身による負担で病院に世話になったことは一度もない。
それは戦う者にとって最高の財産といってもいいだろう。
良太郎はそれを持っているということだ。
良太郎は別世界でできた仲間達のことを思い出す。
そして、オーナーが言っていた事を思い出す。
別世界にまた行く機会があるということになる。
今以上に強くなる必要はあると改めて認識する。
「ウラタロス、キンタロス。もう少し付き合ってくれる?」
「いいよ。でも手加減はしないよ?」
「よっしゃ!」
良太郎の申し出にウラタロス、キンタロスは快諾した。
モモタロスとリュウタロスが一人と二体の特訓に乱入したのはそれから五分後の事だった。
*
海鳴市。
高町なのはとユーノ・スクライア(フェレット)が生活している別世界の日本の街のひとつだ。
現在、なのはとユーノは桜台で魔法の練習をしていた。
ユーノはなのはの指導者であり師でもあるため、無茶な事をしないか監督する立場だ。
現在は滞りなく、広域防御魔法の詠唱が進んでいる。
二時間ほど練習したら、朝食をとって登校。
この間、実を言うとレイジングハートから『魔導師養成ギブス』なる魔力負荷となるものを、なのはは身に着けて日常生活を送っている。
ちなみに並の魔導師ならば即リタイアするくらいの強烈な負荷がかかっている。
それを纏った状態で日常生活を送れるということはなのはが魔導師としての器が計り知れないという事は言わなくてもわかることだろう。
授業を受けている中でも魔導師としての訓練は欠かしていない。
マルチタスクというスキルを活用してイメージファイトを行っている。
複数の敵をディバインシューターで蹴散らしているというようなものだと思ってほしい。
塾や家の手伝いがない場合は魔法の訓練に集中する。
バリアジャケットを着用して上空で魔法の実践をする。
この際、ユーノは結界を張ることになっている。
結界を張らなかった場合、桜色の光が衆人環視に目撃されるだろう。
そうなれば様々な噂が飛び交う事は必至だ。
それを防ぐための結界でもある。
それが終わると、夕食をとって宿題をする。
魔導師といってもなのははまだ小学生。
魔法の練習にかまけて本業をおろそかにするほど高町なのはは愚か者ではないのだ。
そして、夜になると高速機動の訓練をヘロヘロになるまで行う。
それが終わって高町なのはの一日は終わる。
ちなみになのはが休憩を取っている合間は、ユーノ・スクライア個人も鍛錬に励んでいたりする。
また、この事をプロの魔導師ともいえるクロノ・ハラオウンからすると、
「いや……さすがにそれはやりすぎじゃないのか?」
という驚きと呆れの混じった感想が出てきていた。
そのコメントにユーノは否定できなく苦笑するしかなかったりする。
それでも、様々な事に備えて、高町なのはの魔法訓練は続くのである。
*
場所は変わる。
バリアジャケット姿のフェイト・テスタロッサは使い魔のアルフ(人型)とともにとある試験を受けようとしていた。
嘱託魔導師認定試験。
これに合格すると、様々な行動制限が少なくなるという。
「受験番号一番の方。氏名と出身世界をどうぞ」
アナウンサーはエイミィ・リミエッタだ。
「ミッドチルダ出身。フェイト・テスタロッサです!」
フェイトは出身世界及び氏名を高らかに叫んだ。
「こちらが私の使い魔のアルフです」
「よろしく!」
フェイトの紹介でアルフは敬礼をしながら自己紹介した。
その状況をモニターで女性二人が見ていた。
一人は先程アナウンスをしたエイミィ・リミエッタ。
もう一人はリンディ・ハラオウンの友人であり、本試験の採点官であり、時空管理局提督であるレティ・ロウランだ。
「使い魔持ちのAAAクラスの魔導師か……。でも、随分とおとなしそうな子ね」
それがレティのフェイトを見た第一印象だ。
「でも、いい子ですよ。素直で真っ直ぐで」
エイミィが付け足す。
「ま、リンディの推薦ならハズレはないわね。実力の程、拝見しましょう」
レティの眼鏡がきらりと光った。
「さて、ぼちぼち始めよっか。心の準備はOK?」
「はい!」
エイミィのアナウンスにフェイトは強く返事をした。
バルディッシュをデバイスフォームにしていた。
海鳴公園で発動させていたサンダーフォールを展開していた。
それを見ているレティはというと、
「筆記試験はほぼ満点。魔法知識も戦闘関連に関しては修士生クラス。儀式魔法も天候操作に長距離転送フィールド形成と……」
フェイトのこれまでの成績と今行っている儀式魔法について採点を下していた。
「貴女が推薦するのも納得できるわね」
隣で座っているリンディに笑みを浮かべて答える。
「でしょう」
と言いながらリンディ・ハラオウンは先程から様々なスプーンを見比べていた。
「貴女、さっきから何してるの?」
レティはリンディの奇行を訊ねる。
「来るべき時に備えているのよ。今度こそは勝つわ」
リンディの台詞にレティは目を丸くした。
「貴女にもとうとう好敵手ができたのね」
「さあ、今までだっていたと思うわよ」
リンディはこの手のことには疎い事をレティは知っている。
「でも貴女が誰かに対してライバル意識を燃やしたのを見たのは初めてよ」
「そう?」
「ええ」
レティは友人の奇行を黙認して、自信の仕事に取り掛かることにした。
フェイトは現在、一時間の休憩を取っていた。
目の前には用意された弁当があり、対面のアルフはガツガツと食べていた。
「アルフ、そういえば最近はその姿でドッグフード食べなくなったね」
「ん?まあね。良太郎にさ、口うるさく言われたからね」
アルフはそう言いながら、マンガ肉(肉に骨が突き刺さっているやつ)を頬張っている。
「良太郎。元気してるかな」
「アイツの事だからさ、仲間のイマジンと一緒に『時の運行』ってのを守ってるんじゃないのかい?」
「そうだね」
フェイトは良太郎のことを思い出しながら笑みを浮かべる。
「ところで、試験を受けることにしたのはさ、なのはや良太郎の影響?」
「うん。なのははビデオレターで送られるたびに頑張っているて言ってるから、わたしも負けないようにと思ってね」
「なるほどねぇ」
アルフはなのはがフェイトにとってよい刺激を与えてくれる相手だとして、感謝していた。
フェイトは立ち上がる。
「それに、次に良太郎に会うまでにさ。色々と挑戦してみたいんだ」
フェイトは内に秘めた事を口に出した。
「OK。なら、アタシはとことんそれに付き合うさ」
アルフも立ち上がり、フェイトの右肩に手を置いた。
休憩が終わり、レティ・ロウランは業務に取り掛かることにした。
次は実戦訓練である。
「それじゃ、頼むわね」
「了解」
レティの指示で試験管であるクロノ・ハラオウンはフェイト達のいる場に転送された。
クロノを見送った後、レティはリンディと先程の話の続きをする。
話の内容はフェイトの身の上とアースラが関わった別世界の住人についてだ。
「ああ……、この子が『P・T事件』の重要参考人であり、『電王』の最初の遭遇者なのね」
モニターではフェイトとクロノが試験を始めていた。
「そう、色々あってね」
「裁判中の嘱託試験は異例なんだけど、嘱託資格があると本局での行動制限が今までよりはるかにすくなくなるしね。それに本人達も局の業務には前向きだしね」
「なるほどね。まあ優秀な人材なら過去や出自に文句はないわ。大切なのは現在の意志と能力だもの。それで『電王』は貴女からしてどうなの?」
レティは電王に関する情報は口コミ程度にしか伝わっていない。情報となるデータは全て抹消されているからだ。
「この『時間』の住人なら、スカウトしたでしょうね」
「貴女の言い方だとまるで別の『時間』から来た存在みたいじゃない」
「そうね。私達がいるこの『時間』の十年後、しかも別世界から来ているのよ」
モニターにはクロノがスティンガースナイプを放つと、フェイトがフォトンランサーで迎撃しているところが映っていた。
「スカウトのしようがないわね。それじゃ。それにしても『時の列車』か。ロストロギア相当ね」
「使い手の人格は保証できるわ」
「貴女が言うのだから間違いはないのでしょうけど、それで納得しない連中はいるわよ」
レティが言うのも尤もだ。
時空管理局はリンディのような融通の利くような輩ばかりではない。
どちらかというと、頭の固い連中も多いくらいだろう。
フェイトがサンダースマッシャーを放つと、クロノがブレイズキャノンで迎撃し、打ち消しあうと同時に爆煙が立つ。
煙が晴れると、フェイトがクロノの死角に回り込んでバルディッシュをサイズフォームにして斬りかかろうとしているところが映っていた。
「勝負ありね」
レティは勝者が誰なのかわかった。
フェイトがバインドで縛られ、クロノがS2Uを突きつけていたのだ。
「クロノ君。ちょっと苦戦してたわね」
「本気モード入ってましたしね」
レティにはクロノが本気を出していた事を見抜かれてしまい、エイミィは苦笑していた。
フェイトが座り込んで、落ち込んでいる所をアルフが励まそうとし、クロノが何かを言ったのが映っていた。
フェイトが立ち上がり、またやる気を出していた。
「なに……うっかり屋さん?」
「少しね」
微笑ましい光景なのかレティは笑みを浮かべながらリンディに訊ねると、リンディも笑みを浮かべて答えた。
それから様々な項目があったが、嘱託魔導師試験は終了した。
合否の判定が後日ではなく、当日に行われるのは受験生としては嬉しいのか悲しいのかわからない。
違いとするならば真綿で首を絞められるか即座に首を切り落とされるかの違いだろう。
「魔法技術も使い魔との連携もほぼ完璧。戦闘も攻撃に傾倒しすぎだけど、まあ合格点。嘱託魔導師としては申し分ないかな。うっかり屋さんは今後気をつけてもらうとして……」
採点官は受験生にこう下した。
「おめでとうフェイトさん。これをもってAAAランク嘱託魔導師認定されました。認定証の交付のときに面接があるから、それだけは忘れないように」
試験会場でフェイトアルフが手を取り合って小躍りしていた。
「はい!ありがとうございます!」
フェイトはレティから合格と認められ、喜びの感情を表に出していた。。
アルフも我がごとのようにして喜んでいる。
(なのは、良太郎。わたし、やったよ!少しずつ本当の自分を始めているからね。今度会うときは二人に胸を張れるくらいに、これからも頑張るよ!)
フェイト・テスタロッサの未来はこれから始まるのだった。
第一部 仮面ライダー電王LYRICAL 完