あとは後日談があります。
高町なのはが時空管理局からの連絡を受けてから数十分後にはフェレットのユーノ・スクライア、イマジン四体とコハナも連れて、海鳴公園に来ていた。
フェイト・テスタロッサ、アルフ、クロノ・ハラオウン、野上良太郎は既に到着していた。
「フェイトちゃーん!」
なのはが元気に右手を上げて、フェイトのもとに走り寄る。
左肩に乗っかっているユーノが落ちないように前脚でしがみついている。
フェイトが小さく笑みを浮かべていた。
イマジン四体とコハナは良太郎の元に歩み寄る。
「みんな、終わった?」
良太郎が確認するように訊ねた。
「おう!バッチリだぜ!」
モモタロスがサムズアップする。
「いつでも帰れるよ」
ウラタロスが右腕を曲げて手首にスナップをきかせるいつものポーズを取る。
「お世話になった皆さんには昨日に挨拶しといたしな!」
キンタロスが親指で首を捻らせてから報告した。
「ママさんから貰ったんだよ!帰りにみんなで食べなさいって」
リュウタロスが翠屋の紙箱を両手に持って掲げていた。
「オーナーがリンディさんと話をしてるから、デンライナーはアースラの側で待機してるって本当?」
「うん。僕達の事でお礼が言いたいとか言ってたよ」
コハナがここに来るまでに携帯電話で良太郎からそのように聞かされた内容を反復するかたちで訊ねる。
「あんまり時間がないんだが、ゆっくり話すといい。僕達は向こうにいるから」
クロノは自分達がここにいると邪魔になるだろうと察して二人から離れる事にした。
アルフ、ユーノ、良太郎、イマジン四体、コハナもクロノに付いて行くかたちで場を離れる事にした。
「「ありがとう」」
二人はその場から離れていく者達に感謝の言葉を述べた。
*
次元航行艦アースラは現在航行せずに次元空間の中で停留していた。
その横にはデンライナーが停車していた。
「この度は本当に感謝してます。良太郎君達を代表してお礼を申し上げます」
デンライナーのオーナーが席に着いたままだが、軽くリンディ・ハラオウンに頭を下げた。
「いえいえ、こちらこそ。良太郎さん達のおかげでイマジンの脅威を退ける事もできましたし、こちらこそありがとうございます」
リンディも席に着いたままだが、オーナーに軽く頭を下げた。
「それにしても、貴方をどこかで拝見した事があるんですけど……」
リンディはオーナーの顔を見て、記憶を探ろうとする。
「気のせいですよぉ。どこにでもある顔ですからねぇ。お気になさらずに」
オーナーはリンディに詮索をすることをやめさせる。
「ナオミ君」
「はぁーい。チャーハンお持ちしましたぁ」
アースラの厨房を借りていたナオミが明らかに二人前以上あるチャーハンをオーナーとリンディが向き合うかたちに置いた。
もちろんチャーハンには旗が刺さっている。
デザインはいつものデンライナーやキングライナーではなく、アースラだったりする。
二人の側にはベルが置かれており、いかにも『チャーハン対決』の態勢になっていた。
「良太郎さんから聞かされたときから興味はあったのですけど、まさか実践出来るとは思ってみませんでしたわ」
「いえいえ。私としても興味を持っていただいて嬉しい限りですからねぇ」
そう言いながらオーナーは持参したトランクケースを開く。
そこには様々な形の金色のスプーンが入っていた。
その一つをリンディに渡して、自身も一つを手にする。
「それでは……」
「「よろしくお願いします」」
二人は対戦相手に敬意を称してから競技を始めた。
*
波が小さく打って橋にぶつかり、飛沫が数滴だがなのはとフェイトがいる橋に飛んだ。
「にゃはは。何だかいっぱい話したことあったのに、変だね。フェイトちゃんの顔を見たら忘れちゃった」
なのはは苦笑するしかなかった。
「わたしは……。そうだね、わたしも上手くは言葉にはできない」
フェイトもなのはと似たようなことしか言えなかった。
二人は静かに波を打っている海鳴の海を見ながら話していた。
「だけど、嬉しかった」
「へ?」
なのははフェイトの顔を見る。
「まっすぐ向き合ってくれて」
フェイトもなのはの顔を見て、嘘偽りのない気持ちを告げた。
「うん!友達になれたらいいなって思ったの」
なのはも嘘偽りのない気持ちを笑顔で打ち明けた。
「でも、今日はこれから出かけちゃうんだよね……。モモタロスさん達も今日には帰っちゃうんだ」
なのははフェイトとの別れ、そしてモモタロス達との別れと二重の別れを今日しなければならない。
わかっている事だが、寂しいといえば寂しいのだ。
「……そうだね。少し長い旅になるね」
フェイトもなのはとの別れ、そして良太郎との別れの二重の別れをしなければならない。
寂しいけれど、仕方がないことだと理解はしていた。
二人とも、寂しい表情で海を眺めていた。
「また、逢えるんだよね?」
なのはがフェイトに訊ねる。
フェイトがなのはの目を見て、笑みを浮かべて強く頷いた。
「少し悲しいけど、やっと本当の自分を始められるから……」
その言葉でなのはは明るくなる。
フェイトはまた、なのはから視線を外す。
「来てもらったのは、返事をするため……」
「え?」
「君が言ってくれた言葉。友達になりたいって……」
「あ……うんうん!」
なのはは若干興奮気味に首を縦に振る。
フェイトはなのはを見ている。
なのはもフェイトを見ている。
両者共に視線は逸らさない。
「わたしに出来るなら、わたしでいいなら……。だけど、わたし……どうしたらいいのかわからない。だから教えてほしいんだ。どうしたら友達になれるのか……」
なのはは理解した。フェイトは友達のなり方を知らないのだと。
そうなると、良太郎は彼女にとって何だろうかという考えがよぎったが今はフェイトの事だ。
フェイトは不安な表情を浮かべていた。
「簡単だよ」
なのはは元気付ける口調で言う。
フェイトはその言葉に逸らしていた顔をもう一度なのはに向ける。
「友達になるのはすごく簡単」
笑顔でなのはは言う。
フェイトは彼女の笑顔で確信を持ったなのはを見る。
なのはは告げる。
「名前を呼んで。始めはそれだけでいいの。『君』とか『あなた』とかそういうのじゃなくて。ちゃんと相手の目を見て、ハッキリと相手の名前を呼ぶの」
なのははそうすることで友達をつくってきたのだ。
「わたし、なのは。高町なのは。なのはだよ!」
なのはの口調はフェイトにそう呼んでもらいたいように催促する。
「なのは……」
「うん!そう!」
初めて呼んでもらえたのでなのはは嬉しく頷く。
「な、の、は……」
なのはの目を見てフェイトは呼ぶ。
「うん!」
なのはは頷く。
「なのは」
今度はハッキリと言った。
「うん!」
なのはは涙腺が緩みながらも、フェイトの手を両手で握る。
風が吹き、二人の少女の髪がなびく。
「ありがとう。なのは」
「うん」
なのはが頷く。
涙腺が更に緩む。
「君の手は温かいね。なのは」
フェイトの言葉になのはの涙腺は限界を超えていた。
両目から涙がこぼれる。
なのはは嗚咽を漏らし始めた。
フェイトが右目の涙を拭ってやる。
「少しわかったことがある。友達が泣いていると自分のことのように自分も悲しいんだ」
「フェイトちゃん!」
なのはは自身の感情に抑えがきかなくなったのか、フェイトに抱きついた。
フェイトは優しく抱きとめる。
「ありがとう、なのは。今は離れてしまうけど、きっとまた逢える。そしたらまた君の名前を呼んでもいい?」
「うん……。うん」
なのははフェイトの胸に顔を埋めながらも涙声で頷く。
「会いたくなったら、きっとまた名前を呼ぶ」
フェイトもまた涙を流していた。
なのははフェイトを見る。
「だから、なのはもわたしを呼んで。なのはが困った事があったら今度は、わたしがなのはを助けるから」
なのははまた嗚咽を漏らした。
フェイトがなのはの嗚咽が止むまで抱きしめていた。
「よかった。これで心残りはなくなったよ」
ベンチに腰掛けていた良太郎は満足な笑みを浮かべていた。
「よかったわね。良太郎」
コハナもハンカチで涙を拭っている。
「アンタのとこの子はさ……。なのはは本当にいい子だねぇ。フェイトがあんなに笑ってるよ……」
アルフも涙を流していた。
とうとう嗚咽を漏らしだした。
「ぐっ。うううぅ」
「うう……。ちょっと釣られちゃったね」
「アカン。泣ける!泣けるでぇ!」
「うわあああああああん!」
イマジン四体も泣いていた。
感情が豊かなのもこういう時は少々困りものだが、誰も彼等を止めようとはしなかった。
そんな光景を見ているクロノの表情も柔らかかった。
ベンチに座っていたクロノが立ち上がる。
時間が来たのだろうと良太郎は判断した。
「みんな、そろそろ時間だよ」
良太郎もベンチから立ち上がる。
なのは、ユーノとの別れが来たのだ。
「時間だ。そろそろいいか?」
クロノが声をかけるということは別れが来たという事だ。
フェイトは抱きしめていたなのはを離して、首を縦に振る。
「フェイトちゃん!」
なのはは髪を結んでいる桜色のリボンを解き始めた。
「思い出に出来るもの、こんなのしかないんだけど……」
解いたリボンをフェイトに差し出す。
「じゃあ、わたしも……」
フェイトも髪を結んでいる黒色のリボンを解きはじめる。
解いたリボンをなのはに差し出す。
二人とも髪を下ろした状態となる。
同じ様なタイミングで互いのリボンに手を取る。
「ありがとう。なのは」
「うん。フェイトちゃん」
「きっとまた……」
「うん、きっとまた……」
二人の手が離れ、二人は思い出のものとなるリボンを入手した。
なのはの肩に先程までなかった重量が乗っかった。
アルフがユーノを乗せたからだ。
「ありがとう。アルフさんも元気でね」
「ああ、色々ありがとうね。なのは、ユーノ」
アルフは笑顔で答える。
「それじゃ僕も……」
「うん、クロノ君もまたね」
「ああ」
クロノも笑顔で返す。
なのはがチームデンライナーと向き合う。
「皆をありがとう。なのはちゃん」
良太郎が礼を言ってから手を振る。
「また会おうぜ。プリン用意しとけよ?」
モモタロスが今度来た時に備えてかプリンの催促までする。
「じゃあね」
ウラタロスが軽く手を上げる。
「達者でな」
キンタロスが腕組みをする。
「バイバイ。なのはちゃん!フェレット君!」
リュウタロスが別世界で出来た初めての友達に両手を振る。
「さようなら。なのはちゃん、ユーノ。色々とありがとう」
コハナがリュウタロスと同じ様に両手を振る。
魔法陣が、アースラへと向かう者達の足元に展開される。
良太郎がイマジン四体がコハナがフェイトがなのはとユーノに手を振り続ける。
そして、海鳴市全域を包むような光が発動した。
海鳴公園には高町なのはとユーノ・スクライアだけがいた。
「なのは」
「うん!」
一人の少女と一人の少年(今は一匹だが)は前へと歩き出した。
*
アースラに戻った一同をオーナー、ナオミ、リンディ、エイミィ・リミエッタが待ち構えていた。
「終わりましたか?」
「ええ。いつでも帰れます」
オーナーが確認をし、良太郎は即答した。
「そうですか。では先に乗っていますよ」
「良太郎ちゃん、お先にー」
「私も先に乗ってるわ。良太郎」
オーナー、ナオミ、コハナがデンライナーに乗車した。
「良太郎も帰っちゃうんだね」
「……うん。僕達もやることは終わったからね」
「……そうだよね」
フェイトは良太郎が今日、帰ることを知っている。
良太郎本人から告げられたことだからだ。
理解はしている。
良太郎は別世界でしかも十年後の未来から来た人間だという事を。
本来ならば自分とこうして出会う事も不可能なのだという事もだ。
「その……良太郎。アンタには色々と世話になったね」
「アルフさん、あまりその姿でドッグフードは食べないでね」
「わかったよ。極力気をつけるよ」
アルフは良太郎の忠告に半分本気に半分軽く聞いて了承した。
良太郎はフェイトに顔を向ける。
フェイトは寂しげな表情をしている。
その表情をさせているのが自分だとわかっているので心が痛い。
何と声をかけたらいいのかわからない。
「良太郎、俺達は先に乗ってるぜ」
「そうだね。良太郎、お先に」
「良太郎、言いたい事を言えばいいんや」
「頑張って!、良太郎」
モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスが良太郎にそれぞれ言葉を送ると、アースラの隣で待機しているデンライナーに乗り込んでいく。
クロノ、リンディ、エイミィも気を利かせたのかその場には既に姿がなかった。
今、アースラの廊下にいるのは良太郎、フェイト、アルフしかいない。
「その……元気でね。あと、僕が別世界
こっち
で買ったチェスと入門書あげるよ。暇つぶしに使って」
「……うん。良太郎も元気でね」
良太郎の言葉にフェイトは頷く。
「じゃ、僕行くね」
良太郎は背を向けて、デンライナーに乗り込もうとする。
だが、
背後から引っ張られるような感じがした。
後ろを見ると、上着の裾をフェイトが摘んでいるのだ。
弱弱しいが、良太郎の動きを止めるには十分な力があった。
「フェイトちゃん?」
良太郎は何故、フェイトがこんな行動を取るのかがわからない。
「……いやだ」
フェイトは俯いて、小さくくぐもった声で言う。手は既に裾を離していた。
背を向けていた良太郎は正面を向き、フェイトと同じ目線になるようにしゃがむ。
彼女は俯いていた顔を上げて良太郎に向けた。
「行っちゃいやだ!良太郎!」
両目に涙をためて、フェイトは叫んで良太郎に抱きついた。
「フェ、フェイト!?」
主の予想外の行動にアルフは目を丸くして驚く。
「行かないで良太郎!ずっと、私と一緒にいて!」
それがフェイトの本心なのだと抱きつかれている良太郎にはすぐにわかった。
「やっと、やっとワガママを言ったね。フェイトちゃん」
良太郎は抱きついているフェイトを離し、優しく彼女の頭を撫でる。
フェイトが積極的にワガママを言ったのは過去に一度しかない。
それは「一緒に寝てほしい」と言った時だ。
だが、良太郎にしてみればそれは実現可能範囲なので、彼の感覚でいえばワガママの中でも可愛いほうだと思っている。
彼の考えているワガママとはもっと理不尽なものだからだ。
だから、良太郎にしてみればこれがフェイトの一番最初のワガママだと思っている。
「それでいいんだよ。フェイトちゃんはもっと、ワガママを言っていいんだよ」
良太郎も両目に涙を流しながら言う。
「じゃ……じゃあ、聞いてくれるの?」
フェイトのワガママに対して良太郎の答えはというと、
「……ごめん。僕は『時の運行』を守る人間だから……。その僕が手前勝手な理由でルール違反するわけにはいかないんだ」
良太郎は首を縦ではなく、横に振った。
「……ごめん、そうだよね。じゃあ……じゃあ、抱きしめてくれる?ギュっとしてほしいんだ」
実現不可能が棄却されると、実現可能範囲のワガママを言ってみる。
「え?う、うん。わかった」
良太郎は了承してからフェイトを抱きしめた。
「良太郎、温かい。良太郎のぬくもりを感じるよ」
フェイトは抱きしめられながら感想を漏らす。
「そ、そう?人をましてや、女の子を抱きしめたのは初めてだから……。痛くない?」
「大丈夫だよ」
良太郎の胸に顔を埋めながらフェイトは言う。
時間にして十五秒ほど経過したときだ。
良太郎は抱きしめていたフェイトを離した。
「わたし達、二度と会えないのかな?」
「そんなことはないよ。僕の世界の時間とフェイトちゃんの世界の時間を繋ぐ橋が架かったら必ず会いに行くよ」
「それっていつなのかな?」
フェイトは『時間』の事に関しては素人同然だから質問するかたちになってしまう。
「それはわからない。一週間後かも一ヵ月後かもしれないし、一年後かもしれない。でも未来で会うことだけは確かだよ」
それだけは自信を持って言える事だ。
「今度会うときは未来なんだね?」
「うん」
良太郎は立ち上がり、最後にフェイトの頭を撫でる。
「じゃ、行くね」
「うん」
良太郎は背を向けてデンライナーに乗り込んだ。
デンライナーのドアが閉まり、窓を見るとアースラのドアが閉まっていく中でフェイトが手を振っているのが見えた。
デンライナーのミュージックフォーンが流れ出し、線路を敷設しながら『時の空間』へと入っていった。
*
デンライナーは『時の空間』を走っていた。
デンライナーの食堂車は静かだった。
イマジン達もコハナもナオミも仮眠室で眠っているからだ。
食堂車には現在、オーナーと良太郎しかいなかった。
オーナーはシャンパングラスを手にしていた。
良太郎はミネラルウオーターが入っているグラスを手に、オーナーと向かい合うかたちで座っていた。
「今回もお疲れ様でした。良太郎君」
「いえ、そんな……。ありがとうございます」
オーナーの感謝の言葉に良太郎は戸惑いながらも受け止める。
「良太郎君、単刀直入に聞きます。プレシア・テスタロッサさんは生きていますね?あと、君はあのターミナルにもいきましたね?」
「はい」
オーナーに嘘偽りは通じないので良太郎は素直に打ち明けた。
「そうですか。プレシアさんは生きているといっても、あのターミナルにいる以上。世間からすれば死んでいるも同然ですから『時の運行』にも影響は及びませんからねぇ。それに君があのターミナルの事を口外する気がない以上、なんら問題もありませんからねぇ」
オーナーはそう言いながらシャンパンを口に含んでいた。
「良太郎君。今回の事はまだ始まりでしかありません。また近いうちにあちらに行く事でしょう。それを忘れないでくださいね」
「はい。わかりました」
デンライナーはまもなく、良太郎が住んでいる時間に到着しようとしていた。
*
空間が歪み、デンライナーが線路を敷設、撤去の工程を繰り返しながら『ミルクディッパー』へと向かっていた。
デンライナーは『ミルクディッパー』の前で停車すると、ドアが開く。
良太郎が降りると、デンライナーはまた走り出し、『時の空間』の中に入っていった。
良太郎は『ミルクディッパー』のドアを握って開けて入る。
「ただいま。姉さん」
良太郎はカウンターでコーヒーを淹れる事に専念している姉---野上愛理に挨拶をした。
「おかえりぃ、良ちゃん。今回は長かったのねぇ」
笑顔で姉は出迎えてくれた。
「「おかえりぃ、良太郎君!!」」
愛理の取り巻き、もしくは追っかけでもある二人も出迎えてくれた。
一人は三流ゴシップ記者の尾崎正義、もう一人は自称スーパーカウンセラーの三浦イッセーだ。
「ただいま。尾崎さん、三浦さん」
良太郎は二人にも挨拶を交わす。
「姉さん。手伝おうか?」
良太郎は姉の手伝いをしようと申し出る。
「あらぁ、嬉しいけど良ちゃん。疲れてるんじゃない?だから無理しなくてもいいわよぉ」
愛理は笑顔で却下した。
「わかった。じゃあ、お言葉に甘えるよ」
良太郎は姉の厚意に甘える事にして階段に上ろうとする。
「それに良ちゃん。どこか男らしくなってなぁい?」
愛理の言葉に追っかけ二人が何かを主張したのが聞こえたが、良太郎は自室に向かうため、階段に上った。
夜となり、昼に仮眠のようなかたちで眠っていたため、良太郎は目が冴えて眠れなかった。
窓越しに満月が見えた。
フェイトと出会った時も満月が輝いている夜だった。
ベッドから起き上がり、月を見る。
「会う場所は決まっているんだ」
両腕にはフェイトを抱きしめた感覚が残っていた。
小さかったが、とても華奢で温かった。
「だから必ず会える」
月を見ながら良太郎は言う。
そのとき、何故かはわからないがアースラの中にいるフェイトも同じタイミングで言ったような気がした。
「「いつか、未来で」」
と。
次回予告
後日談 「進む者達」