仮面ライダー電王LYRICAL   作:(MINA)

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第四十一話 「ラストライブD・M・C」

次元航行艦アースラのメインモニターに映っている物体。つまり、こちらに向かっているそれを見てモモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、コハナは揃えて口に出した。

 

「「「「「キングライナー?」」」」」

 

四体と一人が口には出したが、自信を持ってその名を告げたわけではなかった。

理由としては知っているキングライナーとモニターに映っているキングライナーはカラーリングが違っているからだ。

通常、『時の空間』で分岐点の監視を行っているキングライナーは赤色をメインカラーとしているのに対し、アースラと向かい合うかたちになっているキングライナーは紫色でどこか不気味な雰囲気を漂わせていた。

正直、あまり直視したいものではない。

『ええ、そちらは時空管理局が所有する次元航行艦アースラですかぁ?』

メインモニターの画像が切り替わり、人のよさそうな感じの壮年あるいは初老とも呼ぶべき男性が映った。

『私は、駅長という者ですぅ。実はですねぇ。迷子を一人回収しましたのでお返しに参りましたぁ』

「迷子?」

リンディ・ハラオウンは迷子と呼ばれているのが誰なのかわからない。

正直に言えば緊張感が解けているので、いつもの明晰な頭脳が少々弛緩しているといっても過言ではない。

「次元漂流者なのかな?」

「いや、アースラを名指ししているところからすると僕達の知り合い……まさか!」

エイミィ・リミエッタも脳の働きが弛緩しているが、クロノ・ハラオウンはいつものように平静を保って、今一番起こりうる可能性を考えた。

チームデンライナーの面子はというと。

「あのオッサン。服変えたのか?」

「別人じゃないの?」

モモタロスとウラタロスが駅長の服装に疑問を持つ。

彼等の知る駅長は白服だが、映っている駅長は黒づくめの喪服だった。

「あの人もオーナーや俺等が知っとる駅長とは他人やろか?」

「絶対に他人だって言いそうだよねー」

キンタロスとリュウタロスはオーナーと自分達が知っている駅長とモニターに映っている駅長は他人なのか近親者なのかが気になるようだ。

イマジン四体は割と能天気な会話をしていた。

彼等にとって野上良太郎の帰還はいわば絶対なので、勘繰る必要のないことなのかもしれない。

「あの、もしかしなくてもその迷子というのは……」

コハナが代表して黒駅長に尋ねる。

『野上良太郎君の事ですよぉ』

黒駅長の一言でアースラの内部は喜びの声が一気に湧き上がった。

「良太郎さん!帰ってこれたんだ!」

「うん!虚数空間の中からどうやって帰ってこれたのかは気になるけどよかったよ!」

高町なのはとユーノ・スクライアは手を取って喜んでいた。

「な、俺達の言ったとおりだろ?」

モモタロスが喜び合っている二人の頭をポンポンと叩く。

「クロノ、約束は守ってよね?」

ウラタロスがクロノに『約束』の実行を要求する。

「……わかっている。僕はそんなに約束を破棄するように見えるのか?」

クロノは頷くが、その表情は悔しさよりも驚きと呆れと喜びが混じっていた。

「屁理屈こねて誤魔化しそうな気はするわな」

「オマエ、頭ガッチガチだもん」

キンタロスとリュウタロスの辛口評価しか出なかった。

「……エイミィ」

「なになに?クロノ君」

「僕は明るくなった方がいいのだろうか……」

「え?クロノ君、病気?」

クロノは自分の性格を見つめ直したくなったのか、一応年長者であるエイミィに訊ねた。

だが、エイミィに病人扱いされたので見つめなおす事をやめた。

『あのぉ、皆さん。盛り上がっている所を大変申し訳ありませんが、良太郎君の引取りをお願いしたいのですがぁ』

リンディは弛緩した頭脳をフル回転させて、明晰な頭脳へと切り替えて黒駅長から教えてくれたキングライナーの座標を送るように黒駅長に依頼した。

それから数秒後に黒駅長からキングライナーの座標を入手し、良太郎の身柄を引き取った。

紫色のキングライナーは良太郎の身柄を渡すと同時に、空間の中に入り込んでその姿を消した。

 

護送室の中ではアルフの膝を枕にして眠っていたフェイト・テスタロッサの閉じていた瞼が開いた。

彼女の手には手錠、服装は囚人服とまではいかないがはっきり言って子供が喜んで着るようなものではない質素なものだった。

「……なに?騒がしいけど……」

フェイトはゆっくりと起き上がり、アースラ内が妙に騒がしくなっている事をアルフに訊ねた。

「ああ、フェイト起きたのかい」

「アルフ、何で騒がしくなってるの?」

フェイトはアルフに訊ねるが、アルフも渋い顔をしていた。

「ドア漉しの声や艦内アナウンスだけじゃ、どういう事になってるかはよくわからないんだけどさ。何かアースラの前に未確認の物体が現れたらしいよ」

「未確認の物体?何なんだろ……」

「何なんだろねぇ」

フェイトとアルフは『未確認物体』について考えるが、どんなものなのか想像する事もできなかった。

護送室のドアが突然開いた。

「フェイト・テスタロッサ、アルフ。面会の許可を出したので、食堂に来るように」

ドアの開いた先に待ち構えていたのはクロノだった。

「「え?」」

護送室の中にいる二人にはクロノが何を言ったのか理解できなかった。

「なあ、アンタ」

「ん?」

「何でアタシ等に面会の許可が出たんだい?出せるほど軽い罪でもないだろうに……」

アルフが代表してクロノに訊ねる。

フェイトもアルフも自身の意思ではないとはいえ犯罪に荷担している意識は持っている。

「君と面会を希望する者達がいてね。だが、場合が場合なんで二つ返事で許可するわけにはいかない。だから、僕はひとつの条件を出したんだ。その条件がクリアされたから君達を今、食堂に連れていっているわけさ」

クロノは面会の許可が出るまでのあらましを二人に説明した。

「その条件って、何?」

フェイトがクロノが出した条件の内容を訊ねる。

「野上良太郎の帰還だよ」

内容を聞き、二人の目が大きく開いた。

「りょ、良太郎。帰ってきてるの?」

「う、嘘だろ!?虚数空間の中に落ちてんだよ!?普通、帰ってこれないって……」

フェイトもアルフも魔法に携わる者だ。

良太郎が落ちた空間がどんなものなのかも知っている。

魔法に携わる者の常識として見れば、『絶対に帰ってこれない』と結論付けてしまうものだ。

だが、今自分達が置かれている状況を考えると、その常識が覆された事になる。

(そうだよ。良太郎は、わたし達の常識をいつもいつも覆してきたんだから。今度だってそうなんだよ!)

フェイトは俯いていた顔を真っ直ぐに上げて、歩き出した。

「行こう。アルフ」

「うん!」

フェイトとアルフは食堂に向かって歩き出した。

一歩一歩が先ほどとは違い、力強かった。

二人の背中を見てクロノはつぶやく。

「どこか虚ろだった彼女達に活力が戻った。彼女達にとって貴方はとても大きい存在なんだな。良太郎」

クロノは早歩きで向かう二人に追いついて先導した。

 

フェイトとアルフが食堂に入ると、そこにはイマジン四体、コハナ、なのは、ユーノ、リンディ、エイミィに先程帰還したばかりの良太郎がいた。

良太郎とフェイトの目が合う。

良太郎は席から立ち上がり、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべている。

「あの……えと……。た、ただいま」

良太郎の声を聞いた瞬間、フェイトの瞳に涙が浮かび上がる。

帰ってきて嬉しい。

自分達の家庭問題のとばっちりを受けさせてしまったことへの罪の意識。

そして、自分を最後まで信じてくれた事への感謝。

そういった感情がないまぜになっていた。

 

「おかえり、ごめんなさい、ありがとう。良太郎……」

 

感情を整理する事ができなかったため、こんな妙な迎えの言葉しか出せなかった。

「うん。ただいま、あとフェイトちゃんが謝る事はないよ。そして、どういたしまして」

良太郎は全てに応対した。

「良太郎、アンタどうやって!?」

アルフは良太郎に帰還した方法を問い詰めようとする。

「まあ、その……色々と」

良太郎は適当にはぐらかした。

それだけでフェイトもアルフもそれが、触れてはいけないものなのだと察する。

食堂内の空気が微妙に重くなろうとしているときだ。

 

ぐぎゅるるるるぅぅぅぅぅぅ

 

妙な音が食堂内に響いた。

「……ごめん。ここに帰ってくるまで何も食べてなかったから」

良太郎は後頭部を掻きながら苦笑いを浮かべている。

「ったく、そんなこと言ったら俺も腹減っちまうじゃねぇかよ」

モモタロスが腹を擦る。

「そういえばさっき食べそびれたもんね」

ウラタロスが冷静に事実を述べる。

「腹が減っては何もできんからな」

キンタロスは威張れる事でもないのに腕を組んで言い放つ。

「僕、お腹すいたー」

リュウタロスも自身が空腹である事を隠そうとはしなかった。

「それじゃ、皆さん一緒に食べましょうか?」

リンディの一言に誰もが諸手を挙げて喜ぶ。

「えと、その……、わたし達も?」

「それっていいのかい?アタシとしてみれば願ったり叶ったりだけどさ……」

リンディの言う『皆さん』に自分達も含まれているのか訊ねるフェイトとアルフ。

「ええ、もちろんよ。クロノ、フェイトさんの手錠を」

「はい」

リンディの指示でクロノはフェイトの両手にかけられている手錠を外す。

「食後にはまた付けるからそのつもりで」

「はい」

面会が許可されたといっても、彼女の立場が変わるわけではないのだ。

クロノの釘を刺す一言にフェイトは頷く。

それぞれの食事がテーブルに置かれて全員が席に着く。

そこから先は凄まじいものだった。

良太郎とイマジン四体は飢えた獣のように食事に手をつけては空にして、追加注文を頼んでいた。

その様に、たくさん食べようと密かに思っていたなのはは一瞬にして、普通に食べる事を選んだくらいだ。

一人と四体の周りには皿が山のように積まれていく。

良太郎が空になった皿を積み、何か別の料理を捜そうとするが良太郎の前にカレーライスが置かれていた。

「はい。良太郎」

フェイトが置いてくれたのだ。

「ありがとう」

笑みを浮かべて礼を言うと、スプーンを手にしてカレーを食べ始めた。

「あ……」

パンをちぎって食べながら、なのははとあるものを見て目を丸くした。

「どうしたの?なのは……。あ……」

ユーノは手を止めているなのはが見ているものを見てみることにする。

二人は見た。フェイトが今までみたことがない表情で良太郎を見ていることを。

「フェイトちゃんのあんな顔初めて見たよ」

「うん、きっと良太郎さんがフェイトの閉じ込めていた感情を少しずつ引き出していったんじゃないかな」

「そうだね」

それはとても幸福に満ちている表情だった。

食事も粗方終わり、それぞれの今後の身の振り方について話し合うことになった。

「俺達は、なのはが海鳴に帰る時に一緒に行くぜ」

「やり残した事があるしね」

「そうや。それをやらんと俺等は帰るに帰れんしな」

「うん!」

「そうね。まだやり残した事あるもんね」

イマジン四体とコハナは海鳴で何かやり残した事があるといって明日海鳴に戻る、なのは、ユーノと同行する気だ。

「良太郎はどうするの?」

コハナは良太郎がその間、どこで何をするかを訊ねる。

「僕はここにいるよ。フェイトちゃんとは面会可能になっているから話し相手にはなれるからね」

「ありがとう。良太郎」

手錠をかけられたフェイトが良太郎の厚意に甘える事にする。

「アンタ、やっぱいいヤツだよ!良太郎」

アルフは良太郎の両肩をバシバシと叩く。

「アルフさん。痛いって……」

力いっぱい叩くアルフに良太郎は抗議し、他の面々はそれを微笑ましく見ていた。

 

翌日となり、なのは、ユーノ(フェレット)、モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、コハナを海鳴に送る日となった。

見送り人としては良太郎、リンディ、クロノ、エイミィが転送ポートにいた。

ちなみにフェイトとアルフは護送室の中だ。

「それじゃ、今回は本当にありがとう。皆さん本当にお疲れ様でした」

リンディがこれから海鳴に向かう全員に感謝の言葉を述べる。

「協力に感謝する」

クロノがなのはに握手を求める。

なのははそれに応じた。

「フェイトの処遇は決まり次第、連絡する。大丈夫さ、決して悪いようにはしない」

クロノはそう皆に告げた。

「ハナさん。貴女達の回収は私達のタイミングに任せるって事でいいのね?」

「はい。私達のやる事というのはこの二、三日で終わることなので、それ以降ならいつでも回収してください」

リンディが確認するように訊ね、コハナは丁重に答える。

「ユーノ君も帰りたくなったらいつでも連絡してね。いつでもゲートを使わせてあげる」

「はい!ありがとうございます」

リンディがユーノに対して、今後の事について教えてくれた。

エイミィが転送ポートを起動させるためにキーボードを手際よく叩く。

「じゃあ、そろそろいいかな?」

エイミィが名残惜しそうな顔をする。

「またね。クロノ君、エイミィさん、リンディさん。良太郎さんもありがとう」

なのはが、時空管理局員+良太郎に別れの言葉を送る。

見送る側は手を振って送る。

それから数秒後になのは、ユーノ、モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、コハナは光に包まれて消えた。

 

 

海鳴市は澄み切った青空ではなく所々ではあるが雲が泳いでいた。

海鳴公園の空間が光り出して現れたなのは、ユーノ、イマジン四体、コハナはその場で深呼吸をしてから

高町家へと向かって走り出した。

「「「「「「ただいまぁ!!」」」」」」

「キュキュー!」

なのは、イマジン四体、コハナが玄関前で元気よく声を出した。

その声に恐らく訓練中とも思えるラフな格好をした高町美由希が走ってやってきて、なのはを抱きしめた。

「おかえり、なのは!皆もおかえり!」

「帰ったか」

「ん?」

背後から声がしたのでモモタロスが振り向くと、美由希と同じ様にラフな格好をしている高町恭也がいた。

「よぉ、また少しの間世話になるぜ」

モモタロスが手を軽く挙げて挨拶する。

「また騒がしくなるな」

恭也は口調とは逆に笑みを浮かべている。

「そうでもないよ。ところでさ、道場使いたいんだけど」

ウラタロスが恭也に道場の使用許可を申し出る。

「俺達が使う際に邪魔でなければ構わないが」

「なら使わせてもらうね。ありがとう」

ウラタロスは使用許可を得ると、礼を言う。

「ここにおるんのも、あとちょっとやねんなぁ」

キンタロスは高町家を見上げながら、寂寥感がよぎった。

「アリサちゃんやすずかちゃんやサッカークラブの皆は元気かなぁ」

リュウタロスはこの海鳴で知り合った人達の事を思い出していた。

「これから私達がすることにみんな呼べばいいじゃない。リュウタ」

コハナはリュウタロスに自分達がこれからすることに皆を呼べばいいと進言する。

「ま、そうなると、なのはちゃん達の力が必要になるけどね」

コハナは海鳴の空を見上げていた。

アースラにいる良太郎達はどうしているのだろうと思ったからだ。

 

 

「チェックメイト」

フェイトが白のクイーンをチェス盤において宣言した。

次元航行艦アースラの食堂では良太郎、フェイト、アルフ、クロノがいた。

フェイトが白の駒で良太郎の黒のキングを詰んだ。

「……参りました」

始まって五ターンで良太郎は降伏した。

本来のチェスならまずありえないくらい短時間の戦いだった。

ちなみにこのありえないくらいの短時間による結果の事を『フールズメイト(馬鹿詰み)』と呼ばれている。

良太郎もフェイトもチェスの経験はないに等しい。

そうなると、この結果はまさにプレイヤーのセンスが大きいのかもしれない。

「また勝ったよ。アルフ」

フェイトは笑みを浮かべている。

「やったじゃないか!しかし、良太郎。アンタ弱すぎないかい?」

アルフは主に勝利に喜ぶが対戦相手のあまりの弱さに呆れる。

「フェイトちゃんの飲み込みがよすぎるんだよ」

良太郎は苦笑交じりに言い訳じみた事を言う。

「この本に書いてあることを憶えただけだよ」

フェイトが良太郎が買ったチェスの入門書を見せる。

「買った僕が言うのも何だけど、よくこの短時間で憶えたね」

良太郎が入門書を捲りながら感心している。

「うん。魔法の理論を憶えるよりはずっと楽だよ」

フェイトは褒められた事が嬉しいのか、饒舌になる。

「魔導師って勉強しなきゃいけないの?」

「当然だろ」

良太郎の質問にクロノが答えた。

何故ここにクロノがいるかというと、彼はフェイトとアルフの監視役だからだ。

二人が逃亡するはずないのだが、体面上はそうしておかなければならないのだ。

「貴方の中では魔導師はどういうもの何だ?」

「生まれついての才能が幅を占めるんでしょ?だから何もしなくてもできるんじゃないかって思ってたから……」

良太郎の解釈に魔導師サイドの面々は複雑な表情をしている。

「半分は当たってるが、半分間違っているな」

クロノが良太郎の解釈をそう評価した。

「うん、確かに先天的な部分もあるけど、勉強したり練習したりしないといけない部分もあるんだよ」

フェイトが笑みを浮かべながら解説してくれる。

(本当に笑えるようになってよかった……)

出会った時から、見たことがない表情があった。

それは笑顔だ。

たまに笑顔を見たことがあるが、それはその場を取り繕うための笑顔であって心の底からの笑顔ではなかった。

だが、今の彼女の笑顔は紛れもなく本物の笑顔だ。

自分が望んでいたものだ。

プレシア・テスタロッサが命がけで行った行為の結果なのかもしれない。

「どうしたんだい?良太郎、フェイトの顔をじっと見てさ」

「ん?フェイトちゃん、笑ってる方がいいと思ってね」

アルフが訊ねたので良太郎は思った感想を言った。

「!!……な、何言ってるの。良太郎」

フェイトは頬を赤くし、良太郎から視線をそらすように顔を明後日の方に向ける。

「?」

良太郎は何故フェイトがそんな行動を取ったのかわからない。

「アンタも罪な男だねぇ。良太郎」

アルフが含み笑いを浮かべながら良太郎の脇腹をつつく。

「何?アルフさん」

「べっつにー」

アルフはそう言いながらからかう。

クロノが腕時計を見る。

「時間だ。戻ろうフェイト、アルフ」

「うん」

「わかったよ」

フェイトとアルフは了承した。

フェイトの手には手錠がかけられる。

面会可能時間は一日のうちに三時間となっている。

普通の面会時間から考えると明らかに厚遇だ。

「それじゃ、良太郎。また明日」

「じゃーねー」

クロノの先導でフェイトとアルフは護送室へと戻っていった。

一人残った良太郎はチェスの駒を片付けながら、今までのことを思い出していた。

初めて来た別世界でフェイトとアルフに出会ったこと。

住む所がないので居候として生活していたこと。

別世界でのイマジンとの戦闘のこと。

プレシアと出会ったこと。

過去へ行き、プレシアの真意やアリシアの事を知ったこと。

紫色のキングライナーのこと。

辛い事や苦しい事もあったが、それでもやりきれてよかったというのが全てを見つめなおして導き出された評価だ。

フェイトとアルフには既に『プレシアの真意』は伝えてある。

二人の反応は驚きと疑いしかなかった。

当然といえば当然だろう。

自分だってあれが『演技』だなんて過去に行って真意を聞いていなければ信じる事は出来なかっただろう。

すぐに受け止めれるとは思っていない。

だが、この事を話した後でフェイトの雰囲気が変わったようにも思えた。

「僕がここでできることといえば……」

フェイトとアルフの話相手くらいしかなかった。

「モモタロス達のやり残した事ってやっぱりアレかな……」

D・M・C(電王メンバーズクラブ)のことだ。

 

 

モモタロス達は高町家の道場を借りて、これから行う事への下準備をしていた。

といっても機材の設置は完了しており、後は彼等が歌詞を憶えるだけなのだが。

「ったく、しばらくやってねぇとすーぐ忘れちまうよな」

「一人で全部歌うわけじゃないから憶えるのは楽かなって思ってたけど、自分のパート忘れてたらそれだけで大失敗になるからね」

「明日行うライブはここでお世話になった人達に送る大事なもんや。絶対に失敗はでけへんで!」

「わかってるよ。クマちゃん。僕だって頑張るんだから!」

円陣を組んでモモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスは歌詞を頭の中に叩き込んでいた。

「みんな!恭也さんと士郎さんに頼んだ件だけど、明日来てくれるって!」

コハナが近況を報告してくれた。

このライブを行うには特定の客が必要になる。

高町士郎には翠屋JFCのメンバーを、恭也には月村家の面々に声をかけるように頼んでいたのだ。

「よっしゃぁぁ!」

「あのメイドさん達も来るんだったら張り切らないとね!」

モモタロスとウラタロスは張り切る。

「ハナ、なのはからはどうなんや?」

「まだ、連絡はないわよ。まあ学校なんだから仕方ないけど、結果はなのはちゃんが帰ってきたらわかるわね」

「アリサちゃんやすずかちゃん、来るといいなぁ」

リュウタロスはなのはの親友達が来る事を望んでいた。

 

夜、高町家の食卓はいつも以上に賑やかだった。

高町桃子が腕を揮って作ってくれたのだ。

イマジン四体もコハナも食べる機会が少ないので、じっくりと味わって食べていた。

「モモタロス君。明日最後のライブをやるといっていたが、しばらく海鳴から離れるのかい?」

士郎が餃子を食べているモモタロスに訊ねる。

「まあな」

本当は自分達のいる世界に戻るのだが、士郎に話す訳にはいかないので相槌を打つしかない。

「……何か寂しくなるね。モモ君達がいるのが当たり前な感じがしてたから……」

美由希が寂しげな表情になる。

「そういってもらえるのは嬉しいね。美由希さん」

ウラタロスがかに玉を自分の皿に入れる。

「だったら明日も豪勢に作らないといけないわね。何か希望はあるかしら?」

桃子がイマジン達の好みの料理を作るらしく、リクエストを訊ねる。

「おおきに、カミさん。ご厚意感謝するで」

キンタロスは桃子の厚意にいたく感激する。

「僕、ママさんの作ったものなら何でもいいよ!」

リュウタロスが代表してリクエストを出す。といっても、料理は桃子に任せるといったものだが。

「あ。コイツ等、桃子さんが作ったものなら何でも食べますんで、その、桃子さんは気楽に考えて作ってください」

コハナは桃子に変に張り切ることなく、いつも通りに作ってほしいと頼んだ。

コハナ自身、家庭料理というものはさほど縁がない。

普段はデンライナーの食堂でナオミが作ったものを食べているからだ。

「ありがとう。ハナちゃん」

桃子がコハナの頭を撫でる。

コハナは普段では滅多にない出来事に戸惑いの表情を見せた。

コハナの実年齢を知るなのはとユーノとしては、苦笑する以外になかった。

 

 

海鳴でモモタロス達が最終ライブが行う当日。

「フェイトちゃんの処遇が決まった?」

アースラの食堂ではフェイトの処遇が決まったと良太郎はクロノから聞かされた。

「ああ、フェイトの身柄は本局に移動される。そこで事情聴取と裁判を受ける事になる」

「本局?」

「時空管理局の本部の事だよ。正確には管理局二大勢力のひとつの次元航行部隊だけどね」

クロノの隣にいるエイミィがパンをかじりながら解説してくれた。

「それで、フェイトちゃんはどうなるの?」

「多分、いやほぼ確実に無罪になるよ」

「そっかぁ」

フェイトが無実確定と聞き、良太郎は安堵の息を漏らした。

「明日、なのはにも伝えるよ。でもその前にフェイトの身柄は貴方に一番最初に教えたかった」

「クロノ、ありがとう」

「……礼を言われるほどの事じゃない」

クロノは明後日の方に顔を向ける。

「クロノ君。照れてるんだよ」

エイミィがからかうような表情で良太郎に解説してくれた。

その後、「照れてない!」とクロノはエイミィに抗議したが良太郎から見てもクロノが照れているのは間違いないことだった。

 

 

ライブ当日の夜。

高町家道場には普段では絶対に有り得なくらいの人数が座っていた。

高町家全員

月村家長女の忍に、次女のすずか。

月村家のメイドであるノエルとファリン。

なのはの親友の一人のアリサ・バニングス。

そして、士郎が監督しているサッカーチーム『翠屋JFC』のメンバー達。

大体三十人近くは腰掛けて今か今かと待ち構えていた。

「なのは、モモタロス達って本当に演奏できるの?」

アリサがなのはに訊ねる。

「うん、わたしも一回聞いただけだけどとても凄かったんだよ。ね?ユーノ君」

「キュキュー(うん)」

なのはとユーノは一度だけ、彼等の路上ライブを観たことがある。

とても凄まじいもので、中には彼等のマネをしたコスプレイヤーまでいたくらいだ。

「大学でも彼等のことを知らない者はいないくらいの人気だからな」

「ええ。私も友達がハマったと聞いた時には驚いたわ」

恭也と忍が通う大学でもD・M・C(電王メンバースクラブ)の人気は凄まじいらしい。

「へえええ。すごいんだぁ」

すずかは恭也と忍からの情報を聞いて、目を丸くして驚く。

道場が突然暗くなる。

「D・M・C!D・M・C!」

同時に翠屋JFCのD・M・C信者がいたのか、高らかに声を上げた。

「D・M・C!D・M・C!D・M・C!D・M・C!」

次第に上げる声が増えていく。

「な、なのは。何かすごいことになってるじゃないの!?」

アリサが場内の異様な雰囲気に慄きつつあった。

「みんなもやろうよ!D・M・C!D・M・C!」

なのはは身内の中で先陣を切った。

なのはに釣られて、アリサ達もやり始めた。

道場内はまさにD・M・Cコール一色だった。

 

「待たせたな!オメェ等!」

「「「「俺達!参上!!」」」」

 

全員が背後を振り向くと、モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスが正面に向かって走り出す。

コハナが後始末のように、道場の入口を閉める。

客達は指示されたわけでもないのに、モーゼの十戒のように中心に道を開けるように移動する。

「今日はよく集まってくれたな!最後までクライマックスで行くぜぇ!!」

モモタロスが高らかに宣言すると、客達はそれだけでテンションを高くした。

「みんな!今日はありがとう!遠慮なく僕に釣られていいからね?」

ウラタロスの気障な台詞も今の客達にはテンションを高くさせる力がある。

「今日はおおきに!俺の歌声にお前等泣くで!」

キンタロスは感謝と同時に決め台詞をアレンジした台詞を言い放つ。

「みんな!楽しんでいくよね?答えは聞いてない!」

リュウタロスも予言じみた台詞と決め台詞を言う。

ギターを弾き始めるモモタロスとリュウタロス。

ベースを弾くウラタロス。

ドラムを叩くキンタロス。

「よぉし!!ラストライブだ!行くぜ!テメェ等!!」

「「「おおぉぉぉぉぉぉ!!」」」

モモタロスが右腕を振り上げると同時に、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、そして客も釣られるように右手を挙げる。

ウラタロス、キンタロス、リュウタロスは演奏を始める。

そして、全員がそれぞれに設置されているマイクに顔を近付ける。

そして……四人が発すると同時に道場内は大歓声となった。

D・M・Cの海鳴最終ライブは大成功に終わった。

観客全員が興奮状態かつ喜びに満ちた表情で家路に向かっていくのが何よりの証だろう。

道場での機材の片付けも終わり、イマジン四体とコハナ、なのは、ユーノは道場で就寝した。

 

そして翌日。

なのはの携帯電話が鳴り出し、彼女はそれを手にして開いて見る。

画面には「時空管理局」と表示されていた。




次回予告

最終話 「再会の駅名は未来」

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