仮面ライダー電王LYRICAL   作:(MINA)

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第四十話 「空間を抜けると、そこはターミナル」

 

『時の庭園』は完全に崩壊し、虚数空間の中に吸い込まれていった。

高町なのはの機転のおかげで、フェイト・テスタロッサは脱出に成功。

使い魔のアルフやクロノ・ハラオウン、ユーノ・スクライア、モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、リンディ・ハラオウンも無事に脱出した。

次元航行艦アースラから突入した面々のほとんどは無事に生還したのだ。

ただ一人、プレシア・テスタロッサ、カプセルの中に入っているアリシア・テスタロッサと共に虚数空間の中に吸い込まれた野上良太郎を除いては。

 

 

吸い込まれるという感覚がなくなり、ライナー電王は虚数空間の中を流されるように下に降っていた。

下というのはあくまで自分の感覚からでた方向であり、宇宙と同じ様に方向感覚がないのかもしれない。

「う……駄目だ。意識が……」

先のプレシアとの戦いで完全に精も根も尽きたのか、まぶたが重くなっていく。

プレシアやアリシアも自分と同じ様に流されていく。

(駄目だ。何かを考える力も残って……ないや)

意識が完全に途切れたのでライナー電王から良太郎の姿に戻る。

そのまま彼等は虚数空間の波に流されていった。

 

 

次元航行艦アースラのではというと。

「庭園崩壊終了。全て虚数空間に吸収されました」

「次元震停止します。断層発生はありません」

メインモニタールームではオペレーターが現状を報告した。

「了解」

『時の庭園』から脱出したリンディ・ハラオウンがオペレーターの報告を了承した。

「第三船速で離脱。巡航行路に戻ります」

リンディは報告を黙って聞いていた。

 

別室ではというと、フェイトとアルフを除く面々が手当てを受けていた。

といっても、手当てを受けているのはクロノとなのはの二人だ。

クロノはエイミィ・リミエッタに怪我している頭部に包帯を巻いてもらい、なのははすりむいたと思われる両脚をユーノに手当てしてもらっていた。

イマジン達は手当てをしてもらうほど、怪我をしているわけでもないので部屋の中で寝そべっていた。

モモタロス、ウラタロス、キンタロスは黙りこくっている。

リュウタロスはなのはの心配をしていた。

コハナが部屋に入り、人数分のドリンクを持ってきてくれた。

既に彼女も知っている。

良太郎が虚数空間の中に吸い込まれてしまった事を。

この場にいる誰もがその事にふれようとはしない。

まるで、臭い物に蓋をするように。

「あれ?フェイトちゃんは?」

なのはは良太郎の安否以外で話題を探した結果、今ここにいないフェイトのことになった。

「彼女がここにいないって事はもしかして……」

ウラタロスは起き上がって、自分が想像している事を口に出そうとする。

「アルフと一緒に護送室にいる。彼女はこの事件の重要参考人だからね……」

クロノは時空管理局の一人として打ち明ける。

「申し訳ないが、しばらく隔離になる」

「そ、そんな……!」

なのははフェイトの処遇に抗議しようとする。

「なのは!じっとして」

手当てをしているユーノに注意される。

「事情がどうであれ、フェイトちゃんは犯罪者の一味として見られているんだね?」

ウラタロスが確認するかのようにクロノに訊く。

クロノは首を縦に振ってから、唇を動かし始める。

「今回の事件は一歩間違えれば次元断層さえ引き起こしかねなかった重大な事件なんだ……。時空管理局としては関係者の処遇に対しては慎重にならざるを得ない。それはわかるね?」

クロノの口調はなのはに強引にでも納得してもらうといった感じだ。

「なのは、納得してないでしょ?」

ユーノが包帯を巻きながら、なのはに訊ねる。

なのはは質問内容が的を射ているのか、目を丸くしている。

「ふぇ?ユーノ君、な、何で?……」

ユーノは作業を終えたのか、見上げるかたちで、なのはの目を見ている。

「わかるよ。僕も良太郎さんがフェイトにジュエルシードを渡されたときね、わかってはいても納得してはいなかったんだ」

それは初耳だった。

「でもね、時間が経つにつれて納得したんだ。良太郎さんは僕達とは違う別世界の人間だし、魔法やジュエルシードの事を何も知らない良太郎さん達に僕達の常識を押し付けてもいいわけじゃないってね」

「ユーノ君……」

「なのははミッドチルダの人間じゃない。だから今すぐに納得しなくてもいいんだ」

ユーノはなのはの手当てが終わると立ち上がって、クロノを見る。

クロノの頭に包帯は巻かれてはいたが、思わず噴出したくなる巻かれ方だった。

リボン結びされているのだ。

「クロノ。まだ僕達の条件は五分五分だよね?」

「ああ。そういう取り決めで君達とは手を結んでいるからね。それが?」

「フェイトとの面会を許してほしいんだ」

ユーノの申し出に、クロノとエイミィは顔を見合わせてからユーノに渋い表情を見せる。

「それは、その……」

「さっきも言っただろ。彼女の処遇は慎重にならざるを得ないって」

ユーノの申し出をクロノは棄却する方向に持っていく。

「何だよテメェ。フェイトにビビってんのかよ?」

モモタロスの挑発じみた言葉が出る。

クロノの額に青筋が浮かび上がっていた。

「センパイ、ユーノ。クロノはお役所仕事なんだよ。期待しちゃダメだって」

ウラタロスがモモタロスを治めようとするが、明らかにクロノに対しての挑発だ。

クロノの額に更に青筋が浮かび上がっていた。

「ここは大岡越前みたいに気の利いたとこ見せたら株が上がるかもしれへんのになあ」

キンタロスが名奉行と名高い人物の名前を挙げながらもやっぱり煽っていた。

ちなみにキンタロスの言っている大岡越前は歴史上人物というよりはテレビで放映されていた時代劇の「手のつけられない八代目将軍」の方だが。

クロノの額に青筋がまたまた増えた。

「なーんだ。偉そうなこと言っててダメじゃん。黒いの」

リュウタロスが冷ややかに言い放つ。

クロノの全身が震えて、挑発したイマジン四体にユーノ、なのは、コハナを睨みつける。

「わかった!!そこまで言うならこうしよう!野上良太郎が帰還したらフェイトとの面会は許可する!それでどうだ!?」

クロノは肩を揺らせて大声で言い放つ。

クロノの提示した条件を聞いて、ユーノ、なのは、エイミィはほぼ絶望的だと感じた。

対して、イマジン四体の反応はというと、

「何だよ。そんな条件でいいのかよ」

「思ったよりいい条件だね」

「それやったら、面会できる日も近いな」

「よかったね、なのはちゃん。面会できるよ!」

絶望どころか物凄くポジティブだった。

 

「みんな、良太郎が帰ってくるって本気で信じているのよ」

 

「ハナさん……」

なのはの肩を置いて、イマジン達がポジティブな理由を言った。

コハナの表情も暗くなく、良太郎が帰ってくると信じているのだ。

「でも、虚数空間の中に……」

ユーノがそれは有り得ないと言おうとする。

だが、

「それでも帰ってくるよ。アイツは」

モモタロスは大声で張り上げたりせずに告げた。

帰ってくるのが当たり前のように。

「当然でしょ」

ウラタロスも帰ってきて当たり前といった口ぶりだ。

「こんな事は一度や二度やないんや。良太郎は帰ってくるで」

キンタロスも確信と自身を持って言う。

「だーいじょうぶ!良太郎は必ず帰ってくるよ!なのはちゃん、フェレット君」

リュウタロスはブイサインしてなのはとユーノの不安を取り除こうとする。

「虚数空間の中に入ったんだよね?良太郎君」

エイミィが確認するかのようにクロノに訊ねる。

「……そうなんだが、どうなんだろう」

イマジン達の有り得ないまでの自信に満ちた姿を見て、クロノも良太郎が本当に虚数空間の中に入ったのかどうか確認したくなった。

 

 

「う……ん、ここは?」

良太郎の閉じていた瞼がゆっくりとだが、開き始める。

意識がハッキリすると同時に、冷気のようなものが身体にひしひしとぶつかってきた。

起き上がって、周囲を見回す。

見覚えはあるが、何かが違っていた。

華やかな雰囲気がなく、生気のようなものがまるで感じられなかった。

室内全体もどこか薄暗くお化け屋敷の中にいるようにも思えた。

室内照明が蛍光灯などの電化製品でなく、蝋燭になっているから余計にだろう。

「虚数空間を抜けた、のかな?」

良太郎は虚数空間に吸い込まれて数秒で意識をなくしているのでどのようにして、ここに流れ着いたのか経緯がわからない。

今自分がいる建造物は虚数空間の中に存在しているのか、それとも虚数空間を抜けた先に存在しているものなのかハッキリとさせたいところだった。

「プレシアさんやアリシアちゃんがいない?」

もしかしたら自分と同じ様にこの場所のどこかにいるかもしれないと考える。

軽くその場で体操をしてから、プレシアとアリシアを捜すために動こうとした時だ。

「あ、お兄さん」

聞き覚えのある声が背後からした。

振り向いてみると、フェイトと瓜二つの少女がこちらに走り寄ってきた。

全裸ではなく服を着ており、髪もツインテールにしている。

リボンは黒色で、服も黒色だった。

良太郎はこの少女がフェイトでない事を知っている。

フェイト誕生の鍵となった少女---アリシアだ。

「アリシアちゃん?」

アリシアは既に死亡している。自分の前に二足歩行で駆け寄ってくるはずがない。

彼女は蘇ったのだろうか。

という事はここはプレシアが夢見た『アルハザード』という場所なのだろうか。

情報が少なすぎるので、自身が持っている情報で現状を把握するしかない。

「うん!そうだよ。お兄さん久しぶり!」

アリシアは良太郎の疑問など気にすることなく明るく挨拶する。

アリシアは左手を良太郎の前に出す。

再会の握手を望んでいるのだろうと判断すると、良太郎も左手でアリシアの手を握る。

「!!」

その瞬間、良太郎は大きく目を開いた。

今、握手しているアリシアの正体に気づいたのだ。

 

アリシアは生き返ったわけではないということに。

 

カツンカツンと何かが床を叩く音がこちらに近づいてくる。

「アリシア……何故?」

床を叩きながら、こちらに歩み寄ってきたのは杖を支えにしないと満足に立つ事もできないプレシアだった。

「お母さん!」

アリシアが笑顔でプレシアに寄る。

プレシアには何故アリシアがこのような状態になっているのか理解できていない。

「どういうこと?野上良太郎」

プレシアはここがアルハザードとは思っていないらしい。

それにプレシアは『アリシアの死』を受け入れて行動してきたのだ。

『アリシア蘇生』も『アルハザードへ向かうためにジュエルシードを収集する』こともすべて『フェイトの未来を守る』という真の動機を隠すためのカモフラージュでしかない。

「お母さん?」

アリシアは母親が自分に対して見せる反応に寂しさのようなものを感じているようだ。

「アリシア、貴女はどうして?その……」

プレシアはしゃがんでアリシアの頬に触れる。

「!!」

プレシアは何かに気づき、良太郎に顔を向ける。

「これは一体どういうことなの?アリシアは言葉も発しているし、動いてもいる。なのに……、なぜ身体がこんなに冷たいの!?」

プレシアは良太郎に意見を求めている。

「……アリシアちゃんは生き返ったわけじゃないんですよ」

良太郎はこのような状態になっている人物に心当たりがあった。

幽霊列車に乗車していた二人---死郎とソラだ。

あの二人に今のアリシアは似ていた。

それはつまり、人間としてのメリットとデメリットが逆転した事になる。

老化しないが成長もしないということだ。

「その通りでぇす」

聞き覚えのある声がしたので良太郎は声のする方向に顔を向ける。

プレシアとアリシアも釣られて同じ方向に顔を向ける。

愛想のよい笑顔を向けて中年もしくは初老の男が歩いてきた。

「え……き……長?」

その人物はデンライナーのオーナーと瓜二つといってもいい容姿で百八十度違う表情を浮かべたオーナー同様、国籍不明の本名不明で『駅長』と呼ばれている男だった。

ただ、良太郎が知る駅長は全身白づくめなのに対して、自分の目の前にいる駅長は喪服のように全身黒づくめだった。

「てことは、ここはターミナルですか?」

駅長がいるということは今自分がいる場所がどういうところなのか凡そに理解し始めた。

良太郎が訊ねると黒い駅長---黒駅長が首を縦に振る。

「たしかに、ここはターミナルですよぉ。ただし、君が知っているターミナルとは違い少々特殊ですがぁ」

良太郎が知っているターミナルとは『未来への分岐点の管理』を主にしている巨大な新幹線型の『時の列車』でキングライナーのことだ。

「ターミナル?」

「何ソレぇ?」

プレシアとアリシアには馴染みない単語なのだから疑問顔を浮かべるのは当然の事だ。

「ええと、どういえばいいのかな……」

ターミナルの事を説明するとなると『時の運行』のことを全て話さなければならないため、それを上手く説明できる自信は良太郎にはなかった。

「ここの事は後々説明しますが、まずはアリシアさんのことを説明させていただきましょう。お二人が感じられているようにアリシアさんは蘇った、つまりですねぇ。死者から生者に戻ったわけではないのですよぉ」

「では、今のアリシアは何なの?」

プレシアは黒駅長に問い詰める。

「ぐっ!?ごほっごほ……」

口元を手で押さえてしまう。

「お母さん!」

アリシアが心配そうにプレシアの側による。

「だ、大丈夫よ……」

プレシアは必死で笑みを浮かべて返す。

「そちらの方は体調がよくありませんねぇ。ここは只でさえ生者で時間の干渉を受けている存在にとっては居心地の悪い場所ですからねぇ。では簡単に説明しますと、アリシアさんはアルハザードの秘術でいまの状態になっているのですよぉ。ここにはアルハザードのテクノロジーがいくつかありますからねぇ」

黒駅長の説明は続く。

「結論から申しまして、今のアリシアさんは死霊なのですよぉ。そちらの貴方は今のアリシアさんと同じ方々と面識はありますよねぇ」

黒駅長は良太郎に確認するかのように告げる。

「はい」

「その方々と同系だと思ってくださぁい」

「お兄さん、どういうこと?わたし、変になったの?」

アリシアが不安げな表情で良太郎の上着の裾を引っ張る。

「ええとね、アリシアちゃんはこうして僕やお母さんと話しをしたりできるし、このターミナルから離れて生活も送れるんだよ。でもね、生き返っているわけじゃないから成長もしないし、老化もしない。それに既に死亡しているから死ぬ事もないんだ」

「ふろーふし、なの?」

「……そうなる、ね」

良太郎がアリシアと話をしていると、横からガシャンという音が流れた。

「お、お母さん!」

「プレシアさん!」

床を血で塗らし、プレシアが前のめりに倒れた。

「これはいけません。幸いここには医療施設もありますからすぐに治療に取り掛かりましょう」

黒駅長が言うと同時に、いつの間にか黒駅長と同じ服をした駅員達がストレッチャーを持って現れ、プレシアを乗せて医務室へと向かった。

それから数時間が経過した。

良太郎はケータロスでマメに時間をチェックしていたから時間の流れを感じることができたのだ。

「お兄さん、お母さん大丈夫だよね?死んだりしないよね?」

アリシアは両目に涙を浮かべながら隣に座っている良太郎にすがるように訊ねる。

「……大丈夫。そう信じよう。アリシアちゃん」

良太郎はアリシアの手に自分の手を重ねて元気付けた。

医務室から手術着を来た黒駅長が出てきた。

「お母さんはどうなったの!?」

アリシアが食ってかからんとする剣幕で訊ねる。

「大丈夫ですよぉ。先程も言ったように、ここにはアルハザードのテクノロジーもいくつかありますからねぇ。プレシアさんを蝕んでいた病魔は現代の医療では難病扱いですがぁ、どうにか上手くいきましたぁ」

黒駅長が笑顔で答え、良太郎とアリシアは手を取り合って喜んだ。

「良太郎君。プレシアさんが貴方にお話があるようなので、どうぞぉ。ただし、まだ治療が終えて間もないので長話は駄目ですよぉ」

良太郎とアリシアはプレシアが療養している医務室へと入っていった。

医務室に入ると、医務室御用達の衣装を着ているプレシアが天井を見上げているかたちでベッドにいた。

「野上良太郎、アリシア……」

顔色も先程よりずっとよくなっており、良太郎もアリシアも胸をなでおろす。

プレシアは顔を良太郎に向ける。

「アルハザードのテクノロジーで治療を受けながら、あの駅長の言っていた事を考えていたわ。アルハザードとはもしかして死者の国かもしれない、とね。そしてここは生者と死者---正確には現世と常世を監視する場所ということもね」

「僕も同じ事を考えていました。幽霊列車の始発駅及び終着駅は恐らく、このターミナルの奥にあるアルハザードだと」

良太郎の考えでいくと、幽霊列車はあらゆる世界の死者を乗車させながら走行している事になる。

どうやって、別世界に移動するかはわからない。

自分達と同じ様な手口を使うのかもしれないし、幽霊列車独特の方法があるのかもしれない。

今考えても仕方ない事だが。

「お二人とも聡明ですねぇ。まさかこのターミナルやこの奥にあるアルハザードの正体にまで気づいてしまいましたかぁ。できればここの事は内密にお願いしますよぉ」

黒駅長が手術着から元の制服に戻って入ってきた。

「言いませんよ。言っても信じてくれそうにないし……」

良太郎は言いふらして変人呼ばわりされたくないので、黙る事を了承した。

「助かりますぅ」

黒駅長は愛想良く頭を下げた。

「そう言えば駅長」

「何でしょぉう?」

「僕ってここから元の場所---アースラがある次元空間に帰れるんですか?」

良太郎は本来ならば一番最初に黒駅長に訊ねなければならないことを今さらになって訊ねた。

「帰れますよぉ。ここは希望者以外は強制的に送還されるようになってますからねぇ」

良太郎はここにいるつもりはないので、送還されるという事だ。

それでも、気になることがあるのでそれだけは解決させておく事にした。

「プレシアさん」

「何かしら?」

「これからどうするんですか?」

良太郎が気になること。それはプレシアのこれからのことだ。

プレシアとフェイトは現在、物理的には完全に手の届かない場所まで離れている。

プレシアがここにいることを望まないなら自分同様に強制送還されるだろう。

「その質問は愚問よ。野上良太郎」

プレシアは笑みを浮かべている。

それは狂った笑みではなく、穏やかな笑みだ。

「それに、私は死んでいるのと同じよ。本来ならば虚数空間の中を延々と漂っているはずなのだから」

その台詞で良太郎には理解できた。

プレシアはここに残るのだと。

「本当にそれでいいんですか?」

良太郎は確認するようにもう一度訊く。

「私はフェイトの未来を守れるなら何もいらないと思っていたわ。アリシアともう一度共に過ごせる機会をもらえただけで十分よ」

プレシアは穏やかだが譲らない輝きを帯びた瞳をしていた。

「お母さん!」

アリシアがプレシアの手を小さな両手で包むようにして握る。

「貴女の本心をフェイトちゃんに伝えてもいいですか?」

「私との一騎打ちで貴方は私に勝っていたでしょうね。いいわよ。貴方の条件を呑むわ」

プレシアは良太郎の要求を呑んだ。

「僕がフェイトちゃんの元に帰ってあげて、という要求を突きつけるとは思わなかったんですか?」

プレシアは顔を正面に、天井を見上げる状態にしてから口を開く。

「それはないわ。貴方はお人好しでしょうけど、一時の情に流されるような甘い男ではないはずよ。でなければ私達の真実を受け止める事はできないでしょうね」

プレシアは良太郎に称賛の言葉を送る。

「お兄さん、ありがとう!」

アリシアが良太郎に頭を下げて礼を述べた。

良太郎にはアリシアが自分に感謝の言葉を述べたのか理解できない。

「アリシアちゃん、どうして?」

「わたしが見た夢通りにわたし、もう一度お母さんと一緒にいられるんだもん!お兄さんのおかげだよ!」

「僕は……、何もしていないよ」

首を横に振って否定の態度を取る。

「ううん。お兄さんがわたし達の事を知って、それでも頑張ってくれたからこうなったんだと思うよ!」

アリシアは良太郎の否定を更に否定した。

「アリシアちゃん……」

「未来のわたし、じゃなかった……フェイトの事をお願いね。お兄さん」

「私からも、フェイトの事をよろしくお願いします」

アリシアとプレシアがフェイトの事を良太郎に懇願した。

「……わかりました。最善を尽くします」

良太郎にはそう応えるしか出来ない。

自分の世界の事などを考慮しての事だ。

二人は感謝の言葉を述べない。その代わりに、満足げな笑みを浮かべていた。

「ええとぉ。そろそろ良太郎君を送還させたいのですがぁ、よろしいでしょうかぁ?」

今まで黙っていた黒駅長が三人に確認をする。

「お願いします」

良太郎は黒駅長に答えた。

「わかりましたぁ。それではターミナルをステーションモードからライナーモードに切り替えまぁす」

黒駅長はそう言って、ピーと笛を鳴らした。

 

 

次元航行艦アースラでは各々が自由に行動していた。

ユーノとクロノは負傷した武装局員に治癒魔法をかけていた。

なのははフェイトとアルフが収容されている護送室の前に立って、二人のことを案じていた。

モモタロスも護送室の前に立つが、後頭部を掻いてすぐに食堂に戻った。

ウラタロスはメインモニタールームで変化がないか、チェックしたりしていた。

キンタロスは食堂でドンと構えているように見えて、実は寝ていた。

リュウタロスはその隣で持参したクレヨンとスケッチブックで絵を描いていた。

コハナはエイミィに頼んで電王に関するデータを全て消去してもらっていた。

そんな日が何日か繰り返されていた。

それから数日後。

会議室では主なアースラスタッフとリンディ、クロノ、エイミィがなのは、ユーノ、イマジン四体、コハナ、そして良太郎の功績を称えて感謝状を授与していた。

なのはは感謝状や賞状関連を貰うのが初めてなのか表情が強張っており、隣にいるユーノが小声で「リラックス。リラックス」と小声で言ったりしていた。

チームデンライナーも受け取りはしたが、『過去の物』を未来に持って帰るわけにはいかないので感謝状をなのはに渡す事にした。

感謝状を受け取り、会議室を出て廊下を歩くチームデンライナー、なのは、ユーノ、クロノ。

「クロノ君」

なのはが歩く足を止める。

廊下を歩いていた全員の足が停まる。

「フェイトちゃんはこれからどうなるの?」

クロノは口を開く。

「事情があったとはいえ、彼女が次元干渉犯罪の一端を担っていたのは紛れもない事実だ」

なのはは表情は暗くなる。

ユーノも予想はしていたが、それでも暗い表情になる。

イマジン四体もコハナも黙って聞いている。

クロノは続ける。

「……重罪だからね。数百年以上の幽閉が普通なんだが……」

「そんな!」

なのはが非難の声を上げようとする。

「なのはちゃん、落ち着いて。それじゃセンパイみたいだよ?」

ウラタロスが両手をなのはの両肩に置いて宥める。

クロノが咳払いをしてからまた口を開く。

「なんだが!状況が特殊だし、彼女が自らの意思で次元犯罪に加担していなかった事もハッキリしている。後は偉い人にその事実をどう理解させるかなんだけど、その辺にはちょっと自信がある。心配しなくていいよ」

その言葉になのはの表情は明るくなる。

「何だよ。脅かしやがって」

モモタロスが安堵の息を吐く。

「もったいぶりすぎだよ。クロノ」

なのはを押さえていたウラタロスがクロノにちょっと非難をぶつける。

「できるならできるって早よ言わんかい」

キンタロスがクロノの遠回しな口ぶりに痺れを切らして、文句を言う。

「だから、黒いのって呼ばれるんだよ。オマエ」

リュウタロスが無茶苦茶な理屈をクロノにぶつける。

「貴方達はぁぁぁぁ!!」

あまりの辛口に切れたクロノはS2Uを手にして構えていたが、イマジン四体は既に逃亡していた。

 

食堂にはなのは、ユーノ、リンディ、コハナ、そしてクロノから無事逃げ切る事ができたイマジン四体が席に就いていた。

「次元震の余波はもうすぐ治まるわ。ここからなのはさん達の世界になら明日には戻れると思う」

リンディが現状と今後を話してくれた。

「よかったぁ!」

なのはは明日には帰れると聞き、素直に喜んだ。

「ただミッドチルダ方面の航路はまだ空間が安定しないの。しばらく時間がかかるみたい」

リンディの言葉はユーノに向けられた言葉だ。

「そうなんですか……」

こればっかりはどうしようもないものだとユーノもわかっているのにそう言うしかない。

「数ヶ月か半年か安全な航行ができるまで、それくらいはかかりそうね」

「そうですか。その……まあ、ウチの部族は遺跡を捜して流浪している人達ばっかりですから……。急いで帰る必要はないといえばないんですが……。でもその間、アースラ

ここ

にお世話になるわけにもいかないし……」

ユーノは帰る帰れないで焦っているわけではない。ただ、その間の衣食住が気になっているようだ。

「じゃあ、ウチにいればいいよ!」

なのはが衣食住を提供した。

「今までどおりに!」

「なのは、いいの?」

なのはの申し出はとても嬉しい。

今までどおりということはフェレットとして生活する事は必須だろうと予感していた。

「うん!ユーノ君さえよければ」

ユーノはそれでも少々迷う。

「いいじゃねぇかよ。世話になりゃあよ」

「女の子の厚意を断るのは男としてどうかと思うよ?ユーノ」

「なのはの家以外に住むとこないんやろ?甘えとけ甘えとけ」

「甘えとけー」

イマジン四体はユーノに高町家に世話になるように薦める。

「じゃあ、その……お世話になります」

ユーノはなのはの厚意に甘える事にした。

「うん!」

なのはは笑顔で応じた。

リンディとコハナはそんな二人を笑顔で見ていた。

食堂のドアが開いた。

S2Uを構えて興奮気味のクロノと寝ぼけ眼でそれを押さえているエイミィが入ってきた。

「クロノ君。やめてー、私眠いんだよー」

「離してくれエイミィ!今日という今日は彼等を許すわけにはいかないんだ!」

食堂にいる全員が二人と目を合わせたが、敢えてスルーすることにした。

「あの人が目指していたアルハザードについては、ユーノ君は知っているわよね?」

リンディは確認するかのようにユーノに訊ねる。

「はい、聞いたことがあります。旧暦以前の前世紀に存在していた空間で、今はもう失われた秘術がいくつも眠る場所だって……」

ユーノは自身が得ている情報を全て話した。

「だけど、とっくの昔に次元断層に落ちて滅んだっていわれている」

クロノが割り込んだ。

「あらゆる魔法がその究極の姿に辿りつき、その力をもってすれば叶わぬ望みはないとさえいわれたアルハザードの秘術。時間と空間を遡り、過去さえ書き換えることができる魔法。失われた命をもう一度蘇らせる魔法。彼女はそれを求めたのね」

「はい……」

なのはは黙って聞く。

「でも、魔法を学ぶ者なら誰もが知っているんだ。過去を遡る事も死者を蘇らせる事も決してできないって……」

ユーノが魔導師が行き着く現実を告げる。

チームデンライナーも黙って聞いている。

クロノが付け加えるように言う。

「だから、その両方を望んだ彼女はおとぎ話に等しいような伝承にしか頼れなかった……」

「でも、あれだけの大魔導師が自分の命さえ賭けて捜していたのだから、もしかして本当に見つけたのかもしれないわ」

リンディはプレシアなら発見したのかも、という説を唱える。

チームデンライナーはハラオウン親子のやり取りに口を挟まない。

彼等は知っている。

プレシアのアルハザード探しが実は嘘であるということを。

周囲を頷かせるための偽りの大義名分でしかないことを。

『前方より、未確認物体が接近!』

このようなアナウンスが流れ、一行はメインモニタールームに向かう。

メインモニターには、紫色をメインカラーにした異形の物体がアースラの前方に停まっていた。

 

「「「「「キングライナー?」」」」」

 

モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、コハナは声をそろえてメインモニターに映る物体の名称を口にした。




次回予告

第四十一話 「ラストライブD・M・C」

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