仮面ライダー電王LYRICAL   作:(MINA)

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第三十九話 「決戦!時の庭園 ~悲願成就~」

『時の庭園』で戦闘が更に激化していたが、リンディ・ハラオウンが足を踏み入れている場所は安全地帯と化していた。

床に傀儡兵の残骸が転がってはいたが。

髪の色と同じ緑色の魔法陣を展開する。

背中には半透明で、童話などで出てくる妖精が生やしているとも考えられる翼が四枚出現していた。

ただの飾りではない。

その証拠に彼女がこの状態になり、それから数分後には次元震が庭園全体にかかる震動が沈静化しているのだ。

瞳を閉じて、庭園のどこかにいるプレシア・テスタロッサに対して念話の回線を開く。

(プレシア・テスタロッサ。終わりですよ。次元震は私が抑えています)

プレシアからは返答がない。

黙って聞いているだけなのかもしれないと判断する。

(駆動炉はじきに封印。貴女のもとには執務官が向かっています)

現状を説明することでプレシアの戦意を殺ぐ作戦に出たが、やはり、プレシアから返答はなかった。

 

『時の庭園』の最深部ともいうべき場所にはプレシアとカプセルの中で永遠の眠りについているアリシア・テスタロッサがいた。

アリシアは何もできないし、プレシアはアリシアを見つめていた。

「もうすぐよ。もうすぐで私の悲願は達成されるわ」

アリシアは何も語ってはくれない。

「!?」

プレシアは自身の念話の回線が開かれた事に驚く。

フェイト・テスタロッサでも使い魔であるアルフでもない。

念話である以上、魔法関連なので彼---野上良太郎ではないことは確実だ。

(プレシア・テスタロッサ。終わりですよ。次元震は私が抑えています)

時空管理局の人間だという事はわかったが、名前は知らない。

とりあえず黙って聞くことにする。

「ごくろうなことね……」

プレシアは口に出して、感想を漏らす。

賞賛も皮肉もないただの感想だ。

念話での会話の場合、腹の内に思っていることもダダ漏れになる可能性が濃厚なので、普段とは逆の事をして対処する。

(駆動炉はじきに封印。貴女のもとには執務官が向かっています)

こちらが不利だから投降しろとでも言いたいのだろう。

「上手く言ったわね」

時空管理局は自分がアリシアを蘇生させるために、アルハザードに行くと本気で思っていると判断した。

(忘れられし都、アルハザード。そしてそこに眠る秘術は存在するかどうかすら曖昧なただの伝説です!)

プレシアはボソリと呟く。とてもとても小さな声で。

 

「……そんな事言われなくたってわかってるわよ」

 

それからリンディに聞こえるような声で語り出す。

「違うわ。アルハザードへの道は次元の狭間にある。時間と空間が砕かれた時、その狭間に滑落していく輝き!道は確かにそこにある!」

自分で言っててなんだが、馬鹿な事を言っていると思ってしまう。

自分に念話で話しかけてきた者はこれを聞いたらこう言うだろう。

「随分と分の悪い賭けだわ」

と。

 

駆動炉に向かう道程の中、五人の電王とフェイトの参加によって突入組は破竹の勢いで進んでいた。

「オラァ!てやあぁ!そりゃあぁ!」

ソード電王がDソードで傀儡兵三体を一体目には右薙ぎ、二体目には左薙ぎ、三体目には唐竹と移動しながら斬りつける。

斬られた傀儡兵三体は、爆発した。

Dソードを突き出すようにしながら歩きながら傀儡兵に詰め寄る。

「へへ。退治てくれよう。モモタロスってな」

飛行型傀儡兵が襲いかかってくる。

「おりゃあ!」

跳躍して唐竹から始まり、縦一直線に振り下ろす。

ドォンと空中で爆発し、爆煙の中からソード電王が抜けてきた。

「センパイ、張り切っちゃって」

ロッド電王はソード電王の戦闘を見ていたが、自身が傀儡兵に狙われていることがわかると、戦いに集中する。

振り下ろされる斧を避けてから、腹部に蹴りを入れるが相手が物言わぬ存在なのでダメージを受けたかどうかは判別しかねるので戦法を変える。

デンガッシャーをDロッドに連結させてから、傀儡兵を腹部に突き刺して持ち上げる。

そして、先端に向けてフルチャージほどではないが、フリーエネルギーを伝導させる。

「はああっ!」

結果、Dロッドに刺さって持ち上げられていた傀儡兵は爆発して、残骸が飛び散った。

「俺もやるで!」

アックス電王は張り手で傀儡兵の装甲を窪ませてから、持ち上げて比較的に数が多い場所を狙って投げ飛ばす。

「うおりゃあああああああ」

投げ飛ばした傀儡兵だけでなく、巻き添えを食った傀儡兵数体も爆発した。

「そりゃ!おりゃ!とりゃ!」

ガン電王は傀儡兵達の攻撃を掻い潜りながら、デンガッシャーをDガンに連結させてから、引き金を絞る。

比較的広い場所に出てから、自分の後ろにいるDガンを連射する。

迫り来る傀儡兵の二、三体は爆発した。

「す、すごい。あれだけいたのにもうこんなに減ってる……」

ユーノ・スクライアは歩いた跡を見る。

そこには数体、いや数十体の傀儡兵の残骸が転がっていた。

「おらぁぁぁぁ!」

ソード電王とアックス電王がドアを蹴飛ばす。

クロノ・ハラオウンの時とは違い、ドアは千切れて待ち構えている傀儡兵達に向かっていく。

ドアの一つは飛行型傀儡兵が破壊し、残りの一枚は地上にいる鎧騎士型傀儡兵が斧で真っ二つにした。

「あそこのエレベーターから駆動炉に向かえる」

『時の庭園』が実家でもあるフェイトは駆動炉まで行けるルートも熟知している。

「ありがとう。フェイトちゃん達はお母さんの所に?」

なのはは礼を言ってから、確認するかのように訊ねる。

フェイトは首を縦に振る。

なのははレイジングハートを瓦礫に置こうとする。

「なのは、僕が預かるよ」

ユーノがレイジングハートを受け取ると申し出る。

「うん」

ユーノの厚意に甘えることにした。

なのはは両手でフェイトの右手を包み込むようにして握った。

 

「わたし、その……上手く言えないけど……、頑張って」

 

変に飾らない言葉だが高町なのはらしい言葉だと誰もが思った。

 

「ありがとう」

 

フェイトも飾らない言葉で握ってくれているなのはの手から空いている手で包むように覆った。

二人とも自然を外さずに見つめ合っていた。

「え?わかった。みんなに伝えておくよ」

レイジングハートを預かっていたユーノは誰かからの念話での報告があったのか了承した。

「クロノが今から一人で向かっています!急がないと間に合わないかも!」

ユーノがクロノから受けた言伝をその場にいる者達全員に伝えた。

「フェイト、良太郎!」

アルフの一声にフェイトとライナー電王は頷いた。

「あ、二人ともちょっと待ってて」

ライナー電王は右手の甲を前に差し出す。

「へっ。しょうがねぇな」

ソード電王はライナー電王の意図がわかったのか、右手を差し出された手の上に被せるようにして乗せる。

「まったく、こういうのは流行らないよ?良太郎」

そう言いながらも更に上に被せるように手を乗せるロッド電王。

「ははは。そない言いながら乗せとるやないか?カメの字」

言葉とは裏腹な行動を取っているロッド電王に苦笑しながら、その上に右手を乗せるアックス電王。

「僕も乗せる!」

ガン電王は素直な言葉で右手を乗せた。

五人が五人、互いを見合っている。

 

「みんな、必ず帰ろう!いいね?」

 

ライナー電王の一声に、

 

「「「「おう!!」」」」

 

ソード、ロッド、アックス、ガン電王が声をそろえて応えた。

「ごめん、待たせたね?」

「ううん、でも急ごう!良太郎」

「早くしないとアイツが先にプレシアの元に行っちまうよ!」

ライナー電王、フェイト、アルフはプレシアがいる場所へ。

四電王、なのは、ユーノは駆動炉へと足を向けた。

 

駆動炉へと向かうエレベーターの中では四電王、なのは、ユーノが役割分担を決めていた。

「ドアを開けたら、傀儡兵

アイツ等

待ち構えてるね」

エレベーターにもたれているロッド電王が確信に近い口調で言う。

「数は多いやろな。ならアイツ等の掃除は俺等に任しとき」

親指で首を捻りながらアックス電王がなのは、ユーノに告げる。

「なのはちゃんとフェレット君の邪魔はさせないぞぉ!」

ガン電王はエレベーターの中にもかかわらず、くるりとターンした。

「僕はなのはのサポートに回ります。なのはは駆動炉の封印。いいね?」

「うん!」

ユーノの的確な指示になのはは頷く。

チンと鳴り、エレベーターが停止し、ドアが開く。

腰に手を当てて、首を鳴らしてから指をパキポキと鳴らすソード電王。

「オメェ等!クライマックスと行こうぜ!!」

ソード電王の叫びと同時に、電王達は眼前に映る傀儡兵達の駆除に取り掛かりだした。

ユーノがなのはの前に立つ。

その構図は『なのはを守る』という型になっていた。

 

「防御は僕がやる!なのはは封印に集中して!」

 

強い言葉で言い放つ。

「うん!いつも通りだよね」

なのはが笑顔で頷く。

「え?」

なのはの言葉の真意が今ひとつ理解できていないユーノ。

「ユーノ君。いつもわたしと一緒にいてくれて、守っててくれたよね!」

なのはは感謝を込めて笑顔で言う。

「シーリングモード」

レイジングハートがデバイスモードから形態を変化していく。

レイジングハートの先端辺りから桜色の翼が広がる。

 

「だから戦えるんだよ!背中がいつもあったかいから!」

 

なのはの言葉にユーノは口には出さずとも、感謝していた。

レイジングハートを駆動炉に向けると、なのはの足元に桜色の魔法陣が展開される。

なのはの周りに桜色の光球が数個出現する。

「行くよ!」

なのははレイジングハートを大きく振りかぶる。

「ディバインシューター!フルパワー!!」

絶対に外さないように、駆動炉を睨みつける。

「シュートォォォォ!!」

その振り方は野球でもテニスでもなく、言うならばゴルフのスイングのようだ。

数個の桜色の光球が駆動炉に向かって飛んでいった。

 

また揺れた。

庭園の駆動炉も時空管理局の人間が予告したように封印されたのだろう。

プレシアはそう判断した。

(貴女はそこに行って、一体何をするの?失った時間と犯した過ちを取り戻すの?)

まだ投降するように自分を説得するようだ。

息を一息吐く。

正直、わかっている事を言われるのは聞いている側としても楽ではない。

「五月蝿いわね」

念話の回線が開かれているのなら、腹の中の本音は口に出して吐き出しておいた方がいい。

(そうよ。私は取り戻す!私とアリシアの過去と未来を!)

念話でそう送り返した。

まだ自分は『演技』をし続けなければならないとプレシアは判断すると、瞬時に出たのだ。

「……取り戻すの。こんなはずじゃなかった世界の全てを!」

独白のような叫びを言うと、後方から青色の魔力光が岩山を貫いた。

岩山からは爆煙が立ち、やがて晴れていくと全身黒づくめで額から血を流し、あちこちにダメージを受けている少年が現れた。

それが執務官---クロノだということはすぐにわかった。

「招かれざる客、ね」

クロノには聞こえないようにプレシアは呟く。

「世界はいつだって、こんなはずじゃない事ばっかりだよ!ずっと昔から、いつだって誰だってそうなんだ!」

彼の言葉は予知夢を見る前の自分なら心に響くものだろう。

だが予知夢を見て、覚悟を決めている自分にとっては彼の言葉は滑稽にも思えていた。

「あれは……」

クロノの言葉を右から左に流しながら、上を見上げる。

クロノより高い位置から何かが三つ降りてきた。

フェイトとアルフ、そして自分が対面した時とは違う電王---ライナー電王だ。

だが、プレシアにはライナー電王が野上良太郎だとすぐにわかった。

全てを知り、覚悟を決めた野上良太郎だと。

「こんなはずじゃない現実から逃げるか立ち向かうかは個人の自由だ!だけど自分の勝手な悲しみに無関係な人間を巻き込む権利は誰にもありはしない!」

彼の言葉は実に正しい。この事件の犯人を屈服させるには申し分ない内容だ。

同時にそれは自分の『仕掛け』に完全にはまった証明でもある。

「貴方は邪魔よ。少し黙ってなさい」

プレシアはクロノに向けてあらかじめ構築した紫色の魔法陣を展開し、杖の先端を魔法陣に向けて突く。

紫色の魔力光が一直線に向かって飛んでいく。

「うわあああああああ!」

クロノは満身創痍だったらしく、防御魔法を構築する前に吹っ飛んだようだ。

不意打ちに近いかたちで放ったので防ぐのは至難だろうと予測はしていたが。

「っ!?」

腹の底、いや身体全身から何かが蝕んできた。

「ごほっごほっ」

苦しみのあまりにしゃがんでしまう。

口元を押さえて、蝕む何かを抑えつけることはできたが、無代価ではなかった。

その証拠に右手のひらには血が付着していた。

「プレシアさん」

「母さん!」

ライナー電王とフェイトがこちらに駆け寄ってくる。

(フェイト?)

プレシアはフェイトの瞳と纏う雰囲気が以前と違う事を肌で感じた。

(私のした事は報われたようね……)

今、眼前にいるフェイトは『自分のご機嫌取りに精一杯の人形』ではなく、『前を向き、未来を歩む決意をした一人の人間』になろうとしているのだ。

(これが最後の、最期の仕上げよ!)

「今さら何をしに来たの?」

プレシアはフェイトを睨みつけながら問うことにした。

その一言で、フェイトの足は停まる。

「消えなさい。もう貴女に用はないわ」

(貴女はこの言葉にどう出るの?フェイト)

プレシアは試す。

ライナー電王がフェイトの横に立ち、彼女の左手を握る。

「良太郎……」

「大丈夫。フェイトちゃんが今思っている事を言えばいいから」

「うん」

フェイトがライナー電王の手を握り返すようにプレシアには見えた。

 

「貴女に言いたい事があって来ました」

 

フェイトはプレシアの目を見つめて告げる。

それだけでも、プレシアはフェイトに合格点を与えられると思った。

「わたしは……。わたしはアリシア・テスタロッサではありません。貴女が作った只の人形かもしれません。だけど、わたしはフェイト・テスタロッサは貴女に育ててもらった貴女の娘です」

(育ててもらった、か。貴女の未来を守るためとはいえ、親らしいことは何もしてあげられなかったのに……)

フェイトの言葉はまさに自身で考え、導き出したものだろう。

だが、それでも自分との繋がりを求めている節があることは確かだ。

自分が見た『フェイトの未来』に自分はいない。

それは自分との繋がりが精神的にはどうかわからないが物理的には完全に切れているという事だろう。

(フェイト。貴女は自分の意思を持ってここに来た。それだけで十分よ。貴女はもう未来を歩いていけるわ)

だからこそ、自分のことは忘れた方がいい。

彼女の未来に自分は邪魔でしかない。

「だから、何?今さら貴女を娘と思えと言うの?」

自分はフェイトを生み出し、アリシアではないと理解したときから娘と思っている。

だけど、今それを告げるわけにはいかない。

「……貴女がそれを望むなら」

フェイトはそう答え、続ける。

「それを望むなら、わたしは世界中の誰からもどんな出来事からも貴女を守る。わたしは貴女の娘だからじゃない。貴女がわたしの母さんだから」

フェイトの決意は本物だろう。その証拠に自分に手を差し伸べている。

本来ならば差し伸べている手を握り、そして抱きしめてあげたかった。

でも、それは叶わない。

今ここで全てを無にするわけにはいかない。

「くだらないわ」

「え?」

これで完全に切れただろう。そして、『フェイトの未来』は約束されただろうとプレシアは確信した。

(十分よフェイト。貴女の本音は聞かせてもらったわ)

プレシアは笑みを浮かべていた。

それは侮蔑でも皮肉でも、我が子を褒めるときに使う笑みだ。

 

「プレシアさん。貴女は一度も本音を言ってはいない。それでいいんですか?」

 

「「え?」」

フェイトとアルフがライナー電王の言葉に目を大きく開いた。

(真実を語ってから去れ、というのね野上良太郎)

プレシアはライナー電王を見てからフェイトを見る。

「フェイト、貴女は野上良太郎を信じているのね?」

「は、はい。もちろん!」

フェイトの瞳に一点の曇りもない。

「フェイト。私の本当の気持ち---本音を知りたければ野上良太郎に賭けなさい。野上良太郎、私と戦って勝てば貴方の要求を全て呑んであげるわ」

プレシアは杖をライナー電王に向ける。

左手に持っているデンカメンソードを見る。

握っていたフェイトの手を離し、右手にデンカメンソードを持ち替える。

そして、プレシアの前に立つ。

「わかりました。勝てば本当に呑んでくれるんですね?」

「ええ」

プレシアとライナー電王は睨み合う。

 

駆動炉の封印は無事に成功し、なのはは駆動炉に使われていたロストロギアを手にし、他の面々がどうなっているかが気になっていた。

傀儡兵が固まって山のようになっていた。

なのははレイジングハートを構えてディバインシューターを放とうとする。

だが、傀儡兵の山が崩れた。

「おらああああああ!」

アックス電王がその山を下から崩したのだ。

傀儡兵はゴロゴロと転がったりしていく。

「キンタロスさん……」

なのはは無事な事に安心すると、この部屋で戦っている者達の戦闘を見ることにした。

 

アックス電王はパスを手にして、デンオウベルトにセタッチしている。

「フルチャージ」

電子音声が発するとパスを足元に落として、左手に持っていたDアックスを右手に持ち替える。

Dアックスはデンオウベルトからフリーエネルギーが伝導されている。

「ダイナミックチョップ!」

技名を宣言すると、傀儡兵達が囲むようにしてアックス電王に襲い掛かる。

「うおりゃあああああ!」

Dアックスで確実に倒せる間合いに入ると、時計回りで傀儡兵達を斬りつけていく。

一周が終わると同時に、傀儡兵達は一斉に爆発した。

 

「フルチャージ」

ガン電王はデンオウベルトにセタッチした後、右方向にパスを放り投げた。

「フェレット君!少し離れてて!」

自分の後ろにいるユーノに指示しながらも、Dガンにはデンオウベルトとドラゴンジェムからのフリーエネルギーが伝導されていく。

ユーノがその場から離れて、なのはの元に向かった事を確認すると、前方にいる傀儡兵達に向かってDガンの引き金を絞る。

「はあああああ!!」

銃口に収束されている紫色の光球が発射され、眼前の傀儡兵達に向かって飛んでいき、触れた傀儡兵達を次々と巻き込んで爆発した。

 

「フルチャージ」

ロッド電王はデンオウベルトにパスをセタッチしてからパスを左に放り投げる。

そして、フリーエネルギーが充填されているDロッドで自身の後方にいる傀儡兵達にぶつけるようにして振り回す。

Dロッドに触れた傀儡兵達は爆発し、ロッド電王はそんな事には目もくれずに前方にいる傀儡兵達を狙ってDロッドを投げつける。

投げられたDロッドは青色の亀の甲羅のような網となって、傀儡兵達を金縛り状態にする。

「せやああああああ!」

軽く走ってから跳躍して、右足を蹴りの態勢に持ち込んでから網---オーラキャストの中心に向かう。

足の裏とオーラキャストが触れると同時にオーラキャストで捕らえられている傀儡兵達は爆発していった。

 

「へへ。やっぱ最後は俺だよな!」

ソード電王が右手に持っているパスをデンオウベルトにセタッチする。

「フルチャージ」

左手に持っているDソードにフリーエネルギーが伝導されていく。

「もう一丁」

パスをもう一度、デンオウベルトにセタッチする。

「フルチャージ」

フリーエネルギーが更にDソードに伝導されていく。

「おまけに」

更にパスをデンオウベルトにセタッチしてからパスを右に放り投げる。

「フルチャージ」

Dソードを左手から右手に持ち替える。

バチバチバチバチという激しい音がDソード、正確には刃となっているオーラソードから鳴り響いている。

「ひそかに温めていた新必殺技を見せてやるぜ!」

言った直後に、その場で跳躍して飛行型の傀儡兵がこちらに向かってくる。

 

「行くぜ!俺の必殺技!なのはバージョォォォォォォン!!」

 

叫ぶと同時に、オーラソードが通常の数十倍の長さと肉厚のある巨大な刃に変化する。

馬どころか艦だって真っ二つにしかねない大きさだ。

「うおりゃああああああ!」

眼前の飛行型傀儡兵左薙ぎで横一直線に切り刻んでいく。

「空の奴等は全滅だぜ!次はっと!」

斬られると同時に、どんどん爆発していく。

Dソードを左薙ぎの状態から次の行動への移すための時間を限りなくゼロにするために右手から左手へと持ち替える。

地上に残っている傀儡兵達を睨みつける。

自身が空から陸へと足場が強制的に変わろうとしていることにソード電王は気づく。

「オメェらだ!!」

右薙ぎで地上に足が着く前に、傀儡兵達を捉えて斬りつける。

地上にいる傀儡兵達の半分近くは斬られて爆発する。

地に足が着くと、両手でDソードを握る。

構えは上段。縦に一直線に斬りつける。

残った地上の傀儡兵達はこちらに向かってくる。

「これで最後だぁ!!」

ソード電王は縦一直線に斬りつける。

刃は向かってくる傀儡兵達の身体をチーズのように難なく切り裂く。

ドォンボォンドゴォンと爆発音を立てながら傀儡兵達は爆発していった。

駆動炉を守る傀儡兵達は見事に全滅した。

「よーし、これで終わったな」

ソード電王がDソードを右肩にもたれさせながら周囲を見回しながら言う。

「センパイはまだ問題があるよ?」

ロッド電王が歩み寄って問題となる人物を親指で指す。

「モモの字、まあ頑張れや」

アックス電王がソード電王の左肩を叩く。

「モモタロス、なのはちゃんいじめたら許さないからね?」

ガン電王はイマジンを倒すときの仕種をそのままする。

「モモタロスさん、なのはショック受けてますよ」

先程までなのはと何かを話していたユーノがこちらに来て、なのはと話していた内容の一部を伝えた。

「?オメェ等さっきから何言ってんだよ?」

ソード電王は件の人物を見る。

そこにはレイジングハートをプルプルと震わせながら、涙目でこちらを睨んでいるなのはがいた。

「モモタロスさん!!」

「は、はい」

なのはの迫力に気圧されたのか、ソード電王はつい丁寧に返してしまう。

「あ、あの技名変えてください!あ、あれじゃまるで、わたしが破壊魔さんみたいじゃないですか!?」

なのはは先ほどの技名の改名を要求してきた。

「えー、何でだよ。いいじゃねぇか。なのはバーション」

ソード電王は気に入っているらしく、なのはの要求をスルーするつもりだ。

「ダメです!変えてください!」

「えー。じゃあオメェが考えてくれるんだったら変えてやってもいいぜ?」

「本当ですか?ユーノ君、手伝って!」

なのはが自分だけではよい技名が浮かぶ自信がないのかユーノも呼ぶことにした。

「いいけど、急には浮かばないよ」

ユーノは了承はしたが、自信はないようだ。

最初は三人だったのだが、後にエイミィ・リミエッタから脱出するように告げられるまで駆動炉室内にいる全員で考えていた。

 

ライナー電王とプレシアの戦闘が始まって、既に二分が経過していた。

「てやああああ!」

ライナー電王は支えとなる両脚に力を入れて、デンカメンソードを両手で握って左薙ぎにプレシアを斬りつける。

だが、プレシアの身体にはその刃が届く事はなかった。

魔法障壁で遮っているのだ。

間合いを開けずに別の角度---上段から縦に振り下ろすが、バチンと弾かれて後ろに足が数歩下がってしまう。

デンカメンソードを中段に持ち替える。

「アルフは破ったわよ」

以前にアルフはプレシアが展開した魔法障壁を破った事がある。

「このくらいが破れないようでは貴方の覚悟も大したものではないわね」

明らかに挑発だが、ライナー電王は動じない。

(一発で破壊しないと、次の攻撃に移れない。プレシアさんは恐らく手数は少ないけど威力のある一撃を狙ってくるはずだ)

「ウラロッド、キンアックス」

デンカメンソードのデルタレバーを二回引く。

ターンテーブルの電仮面がロッドに移動してからアックスで停まった。

ライナー電王の構えはキンタロスもしくはアックス電王に酷似していた。

「てぇぇい!!」

デンカメンソードを縦に一直線に振り下ろす。

その仕種は『剣』というよりは『斧』に近い扱い方だった。

プレシアは魔法障壁を展開するが、振り下ろされたデンカメンソードの力が先程よりも強いのか亀裂が入り始めることに目を開く。

「まさか……、破るというの!?」

プレシアは次の手に出るのだろう、左手に紫色の魔力光を収束させる。

「次の手!?」

自分が予測していたよりも速く、次の行動に移るプレシアを見てライナー電王も自身の次の手を模索する。

(キンアックスから別フォームに切り替える前に食らう。なら……!)

魔法障壁が砕けると、プレシアは左手をライナー電王にかざす。

「食らいなさい!」

ライナー電王はデンカメンソードを盾のようにして構えてプレシアの左手の前に突き出す。

「ぐ、ううううううう」

放たれると同時に、ライナー電王の身体はずるずると後方に地面を抉りながら下がっていく。

「?」

ライナー電王は身体全体に襲い掛かってくる負荷のようなものに妙な違和感を感じた。

(威力が弱くなってる……?)

これなら何とかなるので、一歩一歩前へ前へと歩き出す。

ある程度まで間合いを詰めると、前から圧しかかる負荷を薙ぎ払って飛ばす。

ドォンと横から爆発音が出たが、気にしない。

プレシアを見る。

手で口元を押さえている。

恐らく先程の魔法障壁と魔法攻撃で身体に相当な負担がかかっているのだと思われる。

このまま長期戦に持ち込めば、プレシアの身体はさらに悪化するだろう。

勝敗でいえば『勝ち』を手にすることができる。

だが、それは自分が望むものではない。

口元を押さえていた手を離し、左手で何かをしようとしていた。

(多分、クロノを吹き飛ばしたヤツだ)

となるとこれで決着をつけるつもりなのだろう。

ならばこちらも必殺技で迎えるしかない。

ライナー電王はデルタレバーに触れようとする。

だが、

「え!?」

ライナー電王の両腕が意思とは反対に磁石のように宙に縫い付けられるようにして動かなくなった。

いや、何かに押さえつけられて動けないのだ。

「バインド!?」

プレシアを見る。

「貴方を確実にしとめるにはこのくらいは必要よね?」

プレシアはこれで終わらせる気だ。

バインドで押さえつけられている両腕を動かしてみる。

やっぱりバインドを外す事はできない。

なのはがフェイトのバインドを受けたときの事を思い出す。

(あの時、なのはちゃんはフェイトちゃんのバインドを受けて大技を受けるしかない段階まで追い込まれていた。なのはちゃんは耐え切る事で勝機を見出したんだ)

大技が発動し終わるとバインドは強制的に解除される。

そこに勝機があるのだとライナー電王はプレシアを見る。

正確にはプレシアの『動き』をだが。

 

「母さんのあの構えは……」

プレシアとライナー電王の戦いを見ているしかないフェイトとアルフはプレシアが次にライナー電王に向けて放つのかが理解できた。

「「サンダースマッシャー……」」

二人は同時に答える。

「良太郎!プレシアは本気で撃つよ!早く逃げて!」

アルフはバインドで縛られているライナー電王に呼びかける。

「………」

フェイトはプレシアにもライナー電王にも応援の声をかけない。

どちらが勝っても負けても自分は喜べないだろう。

かたや母親。

かたや自分の一番最初の仲間。

フェイトの本音はどちらを応援したらいいのかわからないのだ。

だからこそ、フェイトは両手を絡めて祈るしかない。

(良太郎、母さん……)

 

「これで終わりよ。野上良太郎!」

プレシアは足元に魔法陣を展開してから、左手で構築した魔法陣を展開する。

そして、杖で宙にある魔法陣を突くような仕種をする。

その直後に、宙に浮いた魔法陣を起点に紫色の魔力光がライナー電王に飛んでいく。

その魔力光には雷が帯びている。

(耐え切る!!)

腹をくくったのか、ライナー電王は下手な足掻きをせずに真正面を見据えていた。

サンダースマッシャーが来る。

「うわあああああああ!!」

魔力によるダメージ+電撃による痺れがライナー電王を襲う。

時間にしてどのくらいこのダメージを味わったのだろうかはわからない。

一瞬のようにも感じたし、数秒間ほど味わったようにも思えた。

宙で縛り付けられていた両腕が軽くなった。

バインドが解けたのだ。

押さえつけられていたものが急になくなり、重力に逆らえずに前のめりになる。

倒れるわけにはいかないので、四つんばいの態勢で支える。

シュウーと身体全身から煙が立ち込めている。

「はあ…はあはあはあ……、耐え切った」

デンカメンソードを地に刺して杖代わりにしながら立ち上がる。

肩を上下させながら息を整える。

プレシアを見る。

「はあ……はあ……はあはあ……はあ……」

自分よりも激しく体力を消耗しているようだ。

顔色は悪いし、汗ばんでもいる。

「うっ……ごほごほ……ごほ……」

左手で口元を押さえるが、ライナー電王を視線で捉えている。

「まだよ……。まだ終わってないわよ」

「いや、もう終わらせます!」

ライナー電王はデンカメンソードのデルタレバーを引く。

「リュウガン、モモソード、ウラロッド、キンアックス、リュウガン、モモソード……」

ターンテーブルを一週以上回転させてから、デルタレバーを押し込む。

ターンテーブルから緑色の十字で方位を表すようなマークが浮かび上がる。

デンカメンソード先端からオーラレールが出現し、プレシアに向かって敷設されていく。

オーラレールに飛び乗り、そのままプレシアに向かっていく。

オーラライナー、オーライスルギ、オーラレッコウ、オーライカズチが出現し、ライナー電王と共にプレシアに向かっていく。

「ふふふふ。もうこれを迎撃するだけの力はないわ。でも!」

魔法障壁を展開する。

最後の力を振り絞るつもりなのだろう。

「最後まであがかせてもらうわよ!」

プレシアはライナー電王が繰り出す電車斬りに怯むことなく睨む。

「てやああああああ!!」

デンカメンソードを両手で握って左薙ぎに振る。

バチバチバチバチバチとデンカメンソードと魔力障壁がぶつかる。

「くうううううううう!!」

「ぬうううううううう!!」

ライナー電王とプレシアの最後の攻撃と足掻きがぶつかり合う。

二人がいる床に亀裂が入り始めた。

 

その事に気づいたのは観戦をしているフェイトとアルフだった。

「母さん!良太郎!亀裂が!」

フェイトが戦っているライナー電王とプレシアに呼びかけるが、全く聞こえていないようだった。

「フェイト!早く離れるよ!あたし達まで危なくなるよ!」

アルフがフェイトに戦っている二人から距離を置くように言う。

瓦礫からクロノが出てきた。

「げほ……ごほ……、何をやってるんだ!?あの二人は?君達、あの二人は何を?」

クロノは状況を把握するためにフェイトとアルフから聴取しようとする。

「プレシアが勝てば良太郎の用件を呑むって事で始まった戦いなんだけど……」

アルフが大まかにクロノに説明した。

「良太郎!母さん!」

フェイトが呼びかける。だが、二人とも何も聞こえていない。

互いの意地の張り合いに夢中になっているといってもいいだろう。

ライナー電王とプレシアがいる場所は特に亀裂がひどくなっている。

何か強い衝撃が起これば確実に地面は崩落する。そのくらい脆くなっているのだ。

 

「うおあああああああああ!!」

 

ライナー電王が更に力を上げた。

プレシアの魔力障壁は砕ける。

それは同時に二人が足を着けている地面も崩落するということだ。

地面の亀裂はアリシアのカプセルがある所まで伝わり、そこも崩落していく。

『時の庭園』全体が揺れ始める。崩壊が本格的になっているのだろう。

「良太郎!!母さん!!」

フェイトが呼びかけるが、時既に遅しだった。

 

「まさか、プレシアさん。貴女……」

「貴方を巻き込んだのは申し訳ないわね。でも、これで本当に悲願は達成したわ」

 

ライナー電王はプレシアが自身に戦いを仕掛けた真の理由を理解し、彼女を見た。

プレシアの笑みを。

二人は重力に逆らう事ができないので、そのまま虚数空間の中に落ちていった。

アリシアの入ったカプセルも二人を追うようにして落ちていった。

 

それから数分後に『時の庭園』は完全に崩壊した。

 




第四十話 「空間を抜けると、そこはターミナル」

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