次元航行艦アースラでは『時の庭園』を中心に引き起こそうとする現象に対して対策が急ピッチで行われていた。
「次元震発生!震度、徐々に増加しています!」
「この速度で震度が増加していくと次元断層の発生予測値まで後三十分たらずです!」
オペレーター達の報告も忙しないことこのうえない。
ハッキリ言えばこの場にいる中で高町なのは、ユーノ・スクライア、アルフは完全に蚊帳の外状態だ。
メインモニタールーム
ここ
にいてできることは何一つない。
先程フェイト・テスタロッサを抱きかかえて退室した野上良太郎の後を追うくらいしかできない。
そうとわかると三人は部屋を出た。
『あの庭園の駆動炉もジュエルシードと同系のロストロギアです!それを暴走覚悟で発動させて足りない出力を補っているんです!』
「始めから片道の予定なのね……」
プレシア・テスタロッサの無謀な決断にリンディ・ハラオウンは背筋に嫌な汗が流れた感じがした。
フェイトの容態が気になるため、なのは、ユーノ、アルフは廊下で良太郎に遭遇した。
「良太郎さん!」
「なのはちゃん、ユーノ、アルフさん」
良太郎はなのはに声をかけられ、顔を三人のいる方向に向けた。
「良太郎、フェイトの容態はどうなんだい!?」
アルフはフェイトの容態を尋ねてきた。
良太郎は首を横に振る。
「身体よりも心のダメージが大きいからね……。後は本人の意思次第になるね……」
その一言でなのはとユーノは何も言えなくなる。
自分達ではどうしようもないのだと理解したのだろう。
右手に黒い杖を持っているクロノ・ハラオウンがこちらに向かって走ってきた。
正確には転送ポートに向かっている途中というのが正しいのだろうが。
「クロノ君、どこへ?」
「現地に向かう。元凶を叩かないと」
なのはの質問にクロノは即答した。
「良太郎!」
モモタロスを筆頭にしてイマジン四体もこちらに向かってきた。
食堂で大人しくできるような状況ではないと察したのだろう。
「みんな……」
「フェイトちゃんの容態はどうなんだい?良太郎」
「やっぱ悪いんか?」
「良太郎、大丈夫だよね?」
ウラタロス、キンタロス、リュウタロスがフェイトの容態を訊ねてくる。
「正直わからないよ。フェイトちゃんの意思次第だからね……」
なのは達に答えた時と大して変わらない台詞で良太郎は答える。
「で、これから何しようってんだ?オマエ等」
モモタロスがなのは達を見て何をしようとしているのか訊ねる。
「クロノ君はこれから現地に向かうって言ってます。わたしも行きます」
「僕もです。アルフは良太郎さんと一緒にフェイトの側にいてあげてほしいんだ」
なのはとユーノは自分達も『時の庭園』に向かうと断言し、アルフには生ける屍になりつつあるフェイトの側に良太郎といるように示唆する。
「なのはちゃんとフェレット君が行くなら僕も行く!」
リュウタロスは乗り気なのか挙手をした。ちなみに、人間状態のユーノでも呼び方は変わらないようだ。
「子供だけで危険な事はさせられへん。俺も行くで!」
キンタロスも保護者か引率者のようなコメントを出して挙手する。
「本命を釣るにも障害物や罠はありそうだね。だったら僕の出番でしょ?」
ウラタロスが頭脳労働は自分の専売特許だといわんばかりなことを言いながら、参加を表明する。
「わかった。行きたい者はこれから転送ポートに向かう。着いてきてくれ」
クロノが先導し、なのは、ユーノ、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスは転送ポートへと向かうように足を進める。
「ん?センパイ、どうしたのさ?今からセンパイの大好きなイベントが始まるのに……」
ウラタロスが参加表明もせずに黙っているモモタロスの態度に訝しげな表情をして訊ねる。
「オメェ等、先行ってろ。俺は良太郎に付き合うぜ」
モモタロスはそう答えると、壁に背を預けて腕組をしていた。
三体はモモタロスの態度を見て、どんな言葉を言っても動きそうにないと察した。
「わかったよ。そのかわり、オイシイところがなくなっても怒らないでよ?」
ウラタロスは軽く手を振ってから歩き出す。
「モモの字、そないなっても恨みっこなしやで?」
キンタロスは親指で首を鳴らしてから歩き出した。
「良太郎にワンちゃん、先に行ってるね。あ、モモタロスは別に来なくていいからね」
リュウタロスはモモタロスに対していつもの口調を崩さない。
「そういえば、ハナさんは?」
現地直行組及び待機組のどちらにもコハナの姿はない。
「アイツ、何か忘れ物取りにいったらしいぜ」
「忘れ物?」
良太郎にはそれが何かを理解するにはしばし時間が必要だった。
*
『時の庭園』に先に向かって返り討ちに遭ったぶ武装局員達は全員、エイミィ・リミエッタを筆頭にアースラ裏方組の機転によって全員アースラに転送されていた。
つまり、今この『時の庭園』でプレシア・テスタロッサに戦いを挑もうこの地に足を踏み込んだのは、なのは、ユーノ、クロノ、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスの計六人(正確には三人と三体)である。
そして、彼女達の前には当然のように行く手を阻む傀儡兵がわんさかといる。
ウラタロス、キンタロス、リュウタロスも自前の武器を手にして、構えている。
「……いっぱいいるね」
「まだ入り口だ。中にはもっといるよ」
ユーノが眼前の敵の数に率直の感想を述べるが、クロノは庭園内に入ると、入り口の何倍もいると警告する。
「ここにいる奴等、みーんなやっつけてもいいんだよね?」
リュウタロスはリュウボルバーを傀儡兵に銃口を構えている。後は引き金を絞ればそれだけで弾丸が銃口から飛び出すだろう。
「それでいいの?クロノ君」
なのははクロノに確認するように訊ねる。
「近くの相手を攻撃するだけのただの機械だよ」
クロノの一言でなのは、ウラタロス、キンタロスは身体から余計な力が抜けた。
「そっか……」
「あの鎧、誰か着てるとかだったら厄介だもんね。僕達基本的に『殺し』はしないからね」
「俺等が確実に葬るんはイマジンと時間を悪用しようとする奴だけやからな。目の前の奴等が人間やったらちょっとやばかったで」
「貴方達にもポリシーのようなものがあったのは意外だな」
クロノはイマジン達が口々に漏らす内容があまりに意外だったため、本音を言ってしまった。
「ねぇ、なのはちゃん。ぽりしーって何?」
リュウタロスはなのはにポリシーの意味を訊ねる。
「自分が決めた決まり事とか自分が決めた信条。もしくは信念みたいなもの、かな」
なのはが解説する前に、ユーノがわかりやすく砕いて説明してくれた。
「ふーん」
リュウタロスは納得したようだ。
全員が構えて戦闘態勢に入ろうとするが、クロノが右腕を出して、『停まれ』というような合図を取る。
「この程度の奴等に無駄弾は必要ないよ」
「黒いのがやっつけちゃうの?」
リュウタロスがクロノに訊ねる。
クロノはリュウタロスに口で答えるより早く行動で示す事にした。
杖---S2Uを天に掲げると同時に、事前に練りこんでいた青色の魔力球をS2Uの先端に向けて投げる。
「スティンガースナイプ」
と発すると同時に、傀儡兵達が攻撃態勢をとってクロノに向かっていく。
クロノはS2Uを刀剣を扱うようにして、薙ぐようにして振る。
先端から三日月型の魔力光が飛び出し、向かってくる傀儡兵を四体ほどを一撃で破壊しながら宙に青色の魔力光で渦巻きを作る。
「は、速い!」
「無駄なく的確に葬る、か。やるねぇ。クロノ」
「執務官は伊達やないって事か」
「黒いのだけずるーい!!」
なのは、ウラタロス、キンタロスはクロノの実力に驚き、リュウタロスは不満をこぼしていた。
「スナイプショット!!」
クロノはS2Uを今度は振らずに杖らしく、相手に掲げる構えを取る。
先ほど宙に作った渦巻きが一筋の矢のようになって、傀儡兵の腹部を次々と貫いていく。
ある程度の数を貫くと、宙で渦巻きを作って狙いを定めて矢のように飛んでいく。
爆煙が立つと同時に傀儡兵の残骸がまるで獣が意地汚く食べた後のような状態で転がっていく。
入り口にいる傀儡兵はクロノが殆ど倒した事になる。
最後の入り口を塞いでいる一体だけが残った。
青色の矢はその一体にも向かっていく。
だが、その一体は貫く前に消えていた。
クロノはそれも予測どおりだったのか、傀儡兵との間合いを詰めるために宙にいた。
「はああああああああ!」
傀儡兵の前に着地すると、傀儡兵が手にしていた重斧をクロノ目掛けて振り下ろす。
高く跳躍して、傀儡兵の頭部に乗っかりS2Uの先端を当てる。
「ブレイクインパルス」
S2Uの青光が頭部から輝きだす。
一時的に柱のようなものが発生したが、消える。
消えたと同時に、傀儡兵はまるで内部から破壊されたかのように粉々になった。
クロノは地に足を着けると、後ろで半ばギャラリー化している面々に顔を向ける。
「ボーっとしてないで行くよ!」
我に返ってクロノの後を追う、なのはとユーノ。そして……
「クロノが言う台詞じゃないよね。アレ」
「カメの字。細かい事考えたらハゲるで」
「カメちゃん。つるつるりーん!」
自分からスタンドプレーを見せておいて、「ボーっとするな!」はないだろうとツッコむウラタロス。
そんなウラタロスに細かい事は考えるなと注意するキンタロス。
自分の手を頭上にかざして円を描いて「つるつる頭」をジェスチャーするリュウタロスも三人の後を追った。
庭園内に入ると床があちこち食い散らかされたかのように穴が開いており、下が見える。
なのははちらりと左目でその穴を見る。
正直、あまり直視したくない衝動に駆られるものがあった。
「落ちたらヤバげじゃない?この穴。キンちゃん、勢い余って床壊さないでよ?」
ウラタロスもなのはと同様にこの穴に対して得体の知れない恐怖のようなものを感じたのか馬鹿力で床に穴を開けかねないキンタロスに警告する。
「わかっとるがな。温泉のときといい、何気にしつこいで」
キンタロスはウラタロスの警告を素直に受け入れるが、姑か小姑のようにしつこく同じ事を言われて少々うんざりしていた。
「クマちゃん、寝たら忘れそうだもん。モモタロスと一緒で!」
リュウタロスがキンタロスは寝たら必ず忘れるだろうと言う。しかも、習性は何気にモモタロスと同じだとまで。
「リュウタ~。それはひどいで」
モモタロスと同レベル扱いというのはキンタロスにとっては人生最大の屈辱でしかない。
「貴方達はどこにいても緊張感というものとは無縁のようだな」
「あと、気になっているようだから言いますけど、黒い空間がある場所には気をつけてください。虚数空間と呼ばれている穴で、あらゆる魔法が一切発動しなくなる空間なんです」
クロノがイマジン三体のやり取りに呆れ、ユーノがなのはとイマジン達に下にある穴の黒い部分について説明した。
「飛行魔法もデリートされる!もしも落ちたら重力の底まで落下する。二度と上がってこれないよ!」
クロノはユーノを除く同行者達に注意を促す。
「うん!気をつける!」
なのはは素直に聞き入れた。
「あらゆる魔法が発動不可になるってことはさ。それ魔導師限定だよね?」
ウラタロスが前方にいるユーノに訊ねる。
「ユノ助。俺等はどうなるんや?」
「キンタロスさん、つまりイマジンですか?」
「そうそう。で、どうなの?フェレット君」
リュウタロスも自身のことなのかユーノに訊ねる。
「正直言いますと、虚数空間にイマジンが落下した場合に関しては前例はありませんからね。虚数空間についてだって先駆者が研究に研究を重ねて立証したものか、手っ取り早く魔導師を一人その中に落としてどういう結果になったかで今のように伝えられていますからね」
「貴方達のうち、誰かが仮に落ちればそれだけで後学になるだろうな」
クロノが真顔でとんでもない事を言う。
「クロノ、それセンパイの前では言わないでね。君絶対殴られるから」
「モモの字は冗談通じんからなあ」
「いーじゃん。殴られとけば」
クロノの言った事が一種の『からかい』だと理解しているウラタロスとキンタロスは大人な対応を取れるが、元々クロノに対して好印象を持っていないリュウタロスは真に受けていた。
クロノがドアを蹴破る。ドアは特にぶっ飛んだりしなかった。
そこには入口よりも遥かに多い数の傀儡兵が待ち構えていた。
上に向かうための階段がある。
「ここから二手に分かれる!君達は最上階にある駆動炉の封印を!」
クロノはS2Uを構えてなのは達に指示する。
「クロノ君は?」
なのはが訊ねる。
「プレシアの元へいく。それが僕の仕事だからね」
S2Uを構えるクロノ。青い光が収束されていく。
「今、道を作るから。そしたら!」
なのははユーノと距離を詰めて飛行魔法の準備をする。
「よーし、僕だって!」
リュウタロスはリュウボルバーを構える。
ウラタロスとキンタロスも武器を構えて、なのは達と同じ目的地に目を向けている。
「ブレイズキャノン」
「行っけぇ!」
紫色の光球と青い直線の光が同時に発射される。
傀儡兵達は粉々になっていく。
そこにはクロノの宣言通りに『道』ができていた。
「クロノ君!気をつけてね!」
なのははユーノを抱えたまま、階段に向かって飛んでいく。
「それじゃ頑張ってね。クロノ」
ウラタロスが軽く手でサインを送ってから階段を駆け上がっていく。
「感謝するで」
キンタロスは礼を言ってから階段を駆け上がっていく。
「……ありがと」
リュウタロスは小声だが礼を言ってから階段を上っていった。
*
次元航行艦アースラに設けられているモニターには『時の庭園』で起きている出来事が全て映っていた。
「私も出ます。庭園内でディストーションフィールドを展開して次元震の進行を抑えます!」
メインモニタールームではリンディが現地に向かうと宣言した。
『時の庭園』での出来事をフェイトが眠っている部屋から見ていたアルフは何かを決意したかのような表情になっていた。
「あの子達が心配だから、あたしもちょっと手伝ってくるね」
アルフはフェイトの左頬に触れる。
「すぐ帰ってくるよ。そんで全部終わったら、ゆっくりでいいから……、あたしの大好きな本当のフェイトに戻ってね。これからはフェイトの時間は全部フェイトが使っていいんだから。」
アルフは優しい表情を浮かべて告げてから離れる。
もう一度、フェイトを見るが何の変化もない。
アルフは振り返らずに部屋を出た。
廊下では良太郎とモモタロスが壁に背を預けていた。
「アルフさん……」
「オメェ、行くのか?」
「うん。良太郎、モモタロ。あたし行くよ」
アルフの決意は固い。
「わかった。後のことは任せて」
「おう、行って来い行って来い。」
「すまないね……」
良太郎とモモタロスに礼を言ってから、アルフは転送ポートへと向かっていった。
転送ポートに向かうと、そこには……
「アンタ……」
「アルフさん。……行くのね?」
リンディが『時の庭園』に向かおうとしていた。
「ああ」
「そう。なら一緒に行きましょう」
リンディの言葉にアルフは頷く。
リンディは転送ポートを起動させた。
アルフがいなくなってから、フェイトの虚ろな瞳はすぐに戻った。
ドアの方に顔を向けると、なにやら声が聞こえた。
(誰かが廊下にいるのかな)
耳に神経を集中する。
男の声が二つと、女の声が一つだ。
(アルフ、モモタロス……。良太郎!)
やがて、その声は聞こえなくなって足音が聞こえ始めた。
誰かが走っていったのだろう。
それから部屋のモニターを見る。
『時の庭園』での映像だ。
(母さんは最後までわたしに微笑んではくれなかった。わたしが生きていたいと思ったのは母さんに認めてほしかったからだ。どんなに足りないと言われても、どんなにひどいことをされても笑ってほしかった)
フェイトはこれまでの事を振り返る。
(あんなにはっきりと捨てられた今でも……。わたし、まだ母さんに縋り付いている)
モニターにアルフが映った。
(アルフ。ずっと側にいてくれたアルフ。言う事を聞かないわたしに、きっと随分と悲しんで……)
モニターになのはが映った。
(何度もぶつかった真っ白な服の女の子。初めて、わたしと対等にまっすぐに向き合ってくれたあの子。何度も出会って、戦って……。何度もわたしの名前を呼んでくれた。何度も……何度も……)
フェイトの瞳が潤み出す。心の中で何かが動き出したのが手に取るようにわかる。
フェイトはベッドから起き上がる。
(生きていたいと思ったのは、母さんに認めてもらいたいからだった。それ以外に生きる意味なんてないと思っていた。それができなきゃ生きてはいけないと思ってた)
涙を流しながら自分のこれからすべき事、そして、今しなければならない事を考える。
(捨てればいいってワケじゃない。逃げればいいってワケじゃ……もっとない)
ベッドから離れて、大破と呼んでもおかしくない状態のバルディッシュを見る。
それはまるで、自分の心のようにも見えた。
「わたし達の全てはまだ始まってもいない……」
バルディッシュをデバイスモードにする。
それでも痛々しい姿は変わらない。
正直、いつ機能停止してもおかしくない『虫の息』状態だ。
「……そうなのかな?バルディッシュ。わたし、まだ始まってもいなかったのかな?」
バルディッシュに訊ねる。
バルディッシュはパーツをぼろぼろとこぼしながらも動く。
「ゲットセット」
フェイトを促す言葉を発して。
バルディッシュを抱きしめる。
「そうだよね。バルディッシュもずっと、わたしの側にいてくれたんだよね……」
フェイトの涙の一滴がバルディッシュに当たる。
「おまえもこのまま終わるのなんて、嫌だよね?」
「イエス・サー」
バルディッシュの返答がフェイトの決意を完全に固めた。
バルディッシュを両手で持ち、天に掲げてから振り下ろす。
「上手くできるかどうか、わからないけど……。一緒に頑張ろう」
フェイトの両手から光が発し、それがバルディッシュ全体に伝導される。
光が解き離れたとき、バルディッシュは新品同様の姿になる。
「リカバリー」
フェイトは瞳を閉じて呟く。
「わたし達のすべてはまだ始まってもいない」
宙にマントが出現し、フェイトに羽織る。
フェイトの身体が光に包まれて、バリアジャケット姿になる。
「だから、本当の自分を始めるために!」
フェイトは歩き出す。ドアの方向へ。
自分を信じてくれた。なのはより先に自分と対等に向き合ってくれた青年がいる廊下へ。
「今までの自分を終わらせよう!」
自分の心の壁を破るようにして、ドアが開いた。
フェイトが眠っている部屋のドアが開いた。
そこにはバリアジャケット姿のフェイトが立っていた。
「良太郎、モモタロス」
良太郎は壁にもたれていたが、離れてフェイトの目線にあわせるようにしてしゃがむ。
「待ってたよ。必ず立ち上がるって信じて、ね」
良太郎は笑みを浮かべた。
「うん、ごめんね。そして、ありがとう良太郎。わたしを……信じてくれて」
フェイトは真っ直ぐ良太郎を見る。
「行くんでしょ?プレシアさんの所に」
「うん」
良太郎が訊ね、フェイトは首を縦に振る。
フェイトは右手を良太郎の前に出す。
「良太郎。一緒に来てくれる?」
「もちろんだよ。フェイトちゃん」
良太郎が右手でフェイトの手を握り、握手した。
「なら早く行こうぜ。良太郎の付き合いでオメェ待ってたけどよ。慣れねぇことはするもんじゃねぇな。身体が鈍った感じがするぜ」
モモタロスは首を鳴らしたり、軽く運動をし始めた。
「モモタロスはどうして?」
フェイトはモモタロスがどうしてここにいるのかを訊ねる。
「良太郎の付き合いだよ」
ぶっきらぼうに理由を答えるモモタロス。
「あんな事を言ってるけどね。モモタロスも心配してたんだよ。フェイトちゃんのこと」
良太郎がものの見事にぶち壊した。
「バカヤロォ!そういう事をベラベラ喋るな!」
どうやら図星だったらしい。
「ありがとう。モモタロス」
フェイトは素直に礼を言う。
「ったく。なのはといいオメェといい、真面目なガキはこういう時困るぜ。もっと気楽にワガママになって生きてりゃいいんだよ」
モモタロスは明後日の方向に顔を向けて言う。
「良太郎も言ってた。もっとワガママになっていいって」
良太郎の台詞を口にするフェイト。
「ゆっくり話したいのはやまやまだけど。みんな、行こう」
「おう!」
「うん。今から転送魔法を発動させるから!」
「待って!みんな!」
フェイトが転送魔法で良太郎、モモタロスと共に『時の庭園』に向かおうとしていた所をこちらに向かってくる少女に止められた。
「ハナさん?」
「コハナクソ女」
少女---コハナは息を切らせながら、二人と一体の所まで駆け寄る。
「モモ、これアンタの!」
コハナはそう言って、モモタロスに手にした黒いもの---パスを投げる。
「おい。これって……」
「良太郎。こっちはウラとキンタロスとリュウタの分」
良太郎にはモモタロスが投げたパスを三つ分渡した。
「もしかして、これを取りに?」
良太郎の問いにコハナは首を縦に振る。
「これで少しは戦力アップになるはずよ」
コハナの言った事は満更張ったりでもない事を知っているので良太郎とモモタロスは頷く。
「良太郎、モモタロス。準備はいい?行くよ」
フェイトは転送魔法を発動一歩手前で待機してくれていたようだ。
「うん。わかった」
「オメェ、どうすんだよ?コハナクソ女」
モモタロスはコハナはどうするのか訊ねる。
「私はここで待ってるわ。モモ、良太郎。気をつけてね」
一人と一体が首を縦に振ると同時に転送魔法が発動し、良太郎、フェイト、モモタロスの姿は廊下にはなかった。
*
駆動炉を向かうなのは達を傀儡兵達が襲い掛かってくる。
空から奇襲してくる傀儡兵をなのははディバインシューターで一体ずつ破壊していく。
途中で加勢に来たアルフは人型から獣型に変身して、身体全体を活かして傀儡兵を粉砕する。
「くっ!数が多い!」
傀儡兵を破壊した後、アルフは愚痴る。
「全く、次から次へときりがないね」
ウラタロスはウラタロッドで傀儡兵の剣戟を受けてから腹部に蹴りを入れて後方へ転ばせて、後方に並んでいる傀儡兵もろとも混乱状態を招かせる。
「カメの字!文句言わんと手ぇ動かさんかい!」
キンタロスはキンタロスアックスで武器ごと傀儡兵を縦に真っ二つにして、爆発させる。
「こいつ等しつこいよ!もう!」
リュウタロスはリュウボルバーで一体ずつ破壊していくが、ぞろぞろと湧いてくる傀儡兵にうんざりとしていた。
なのはは飛行して、自分の周囲に桜色の光球を構築してから一斉に発射する。
飛行型の傀儡兵を破壊していく。
「数が多いだけならいいんだけど!」
なのはの瞳に『諦め』はない。
「このままじゃ進展しない。何とかしないと!」
ユーノが翡翠色の魔力で構築された鎖で傀儡兵を縛り付けて、金縛り状態にしながら事態の好転を望む。
翡翠色の鎖を傀儡兵が引きちぎって、なのはに向けて斧を振り下ろす。
「なのは!」
ユーノが危機が迫っているという意味を込めて、なのはに叫ぶ。
「!!」
なのはの双眸に斧が映ったとき。
「うおりゃあああああああ!」
なのはの頭上から荒々しくも頼もしく聞き覚えのある声がした。
「この野郎ぉぉぉぉぉぉぉ!!」
声の主が蹴りの態勢に入って、なのはを襲う傀儡兵の頭部を蹴りで潰してすぐに飛び退く。
「サンダーレイジ」
その直後、聞き覚えのある電子音声がその場にいる誰もの耳に入る。
黄金の雷が傀儡兵に注がれ、傀儡兵は麻痺する。
「サンダァァァレイジィィィィィィ!」
先程よりも何倍の威力がある黄金の雷が傀儡兵に落ちる。
傀儡兵は耐え切れずに爆発した。
なのは達は地上に降りた声の主を見てから、雷を落とした張本人を見上げる。
モモタロスが憑依した良太郎---M良太郎とバルディッシュをシーリングモードにして構えているフェイトだった。
M良太郎はすぐに良太郎とモモタロスに分かれる。
「遅いよ。三人とも」
ウラタロスが、遅れて乱入した三人(正確には二人と一体)に喜びを混ぜて文句を言う。
「役者は揃ったってことやな」
キンタロスは親指で首を鳴らしてから満足げに言う。
「良太郎!モモタロス遅いよ!」
リュウタロスは両手を挙げて身体全体で喜びを表現しながらも、モモタロスに対しては文句を言うが、その声にはウラタロス同様に喜びが混じっていた。
フェイトがゆっくりとなのはの元に降りてくる。
場の雰囲気が穏やかなものが流れようとしたとき。
壁を壊して今までよりも何倍も大きい傀儡兵が出現した。
「大型だ。バリアが強い」
フェイトは大型傀儡兵の大まかな特徴を述べる。
「うん、それにあの背中の……」
なのはは大型傀儡兵の背部に搭載されている武装を見ている。
大型傀儡兵は発射態勢に入り、魔力光が収束されていく。
「だけど、二人なら!」
「うん!うんうん!」
フェイトの言葉はなのはが何よりも望んでいたものだった。
「行くよ!バルディッシュ!」
「ゲットセット」
フェイトは宙に足場を移して、バルディッシュをデバイスモードにして構える。
「こっちもだよ!レイジングハート!」
「スタンバイレディ」
なのはも足場を宙に移す。レイジングハートはなのはの次の行動にあわせてシーリングモードになる。
黄金の魔法陣を左手で構築させてから展開し、バルディッシュの先端を向ける。
「サンダァァァァァスマッシャァァァァァァ!!」
魔法陣から黄金の魔力砲が大型傀儡兵に一直線に飛んでいく。
バリアーを展開して、防ぐ大型傀儡兵。
バチバチバチという音が響く。
「ディバィィィィィィィィンバスタァァァァァァァ!!」
レイジングハートから桜色の魔力砲が発射されて、大型傀儡兵のバリアーにぶつかる。
発射してから五秒くらい達してから二人はというと、
「「せぇのぉ!!」」
二人は同時に今放出している魔力に更に魔力を上乗せさせる。
サンダースマッシャーとディバインバスターの威力は増し、巨大傀儡兵のバリアーを破壊、そして巨大傀儡兵をも跡形もなく消滅させた。
ちなみに外から見ると『時の庭園』の一部に爆煙が立ったりするが、内部のいる者達には確認のしようがないことだった。
バルディッシュもレイジングハートも排熱処理をする。
蒸気が立つが、すぐに晴れていく。
巨大傀儡兵のいたところには巨大な穴が開いていた。
下には虚数空間も見えていた。
「フェイトちゃん!」
なのはは喜びの顔を上げる。フェイトも声には出さないが小さく笑みを浮かべている。
「フェイト!フェイトォ!フェイトォォォォ!」
いつの間にか獣型から人型になったアルフが涙を流しながら、フェイトに抱きつく。
「アルフ。心配かけてごめんね。ちゃんと自分で終わらせて、それから始めるよ」
フェイトはアルフに告げてから、イマジン達とやり取りしている良太郎を見る。
良太郎もフェイトの視線に気づいたのか顔をフェイトのいる方向に向けた。
「そうだよね?良太郎」
良太郎は首を縦に振る。
「みんな!気をつけて!また出てきたよ!」
ユーノの一声で全員が周囲を見回す。
傀儡兵がわらわらとうじゃうじゃと湧いてきたのだ。
「ったく、ゴキブリかよ?コイツ等」
モモタロスが腰に手を当てて睨んでいる。
「アンタにとってはコイツ等はゴキブリと一緒かい!?」
アルフはモモタロスのコメントに突っ込む。
「でも、センパイの言うとおりゴキブリ並のしつこさだよ」
ウラタロスが傀儡兵のしつこさはゴキブリと同じだと言う。
「なら、俺等は殺虫剤やな」
キンタロスは自分達をゴキブリを駆除する殺虫剤と称する。
「ゴキブリホイホイにもなれるよ!」
リュウタロスは捕らえて殺すゴキブリホイホイになると言い出す。
「大型を倒したからといっても気は緩めさせてはくれない、か」
「それでも、倒しても進まないと!」
フェイトもなのはも闘志は失われていない。
「みんな!ハナさんから受け取って!」
良太郎はコハナから渡されたパスをウラタロス、キンタロス、リュウタロスに向けて放り投げる。
三体は見事にキャッチしてから、これからの意図がわかった。
良太郎もモモタロスもパスを手にしている。
パスを持った全員がデンオウベルト(良太郎はケータロス装着型)を手にして、巻きつける。
フェイト、なのは、ユーノ、アルフは良太郎達が次に取る行動を見て大きく目を開く。
「「「「「変身!!」」」」」
四体のイマジンは光に包まれて、各々のスタイルの電王になる。
モモタロスはソード電王に。
ウラタロスはロッド電王に。
キンタロスはアックス電王に。
リュウタロスはガン電王に。
良太郎はライナーのカラーリングをしたプラット電王になり、すぐにオーラアーマーと電仮面が装着されて、ライナー電王へとなった。
アックス電王、ソード電王、ライナー電王、ロッド電王、ガン電王の立ち位置になる。
「で、でででで……」
「電王が……」
「「五人!?」」
なのは、フェイト、ユーノ&アルフが声を上げながら驚いた。
電王五人はそんな声は耳に入らないのか、傀儡兵達の前に立つ。
「俺、再び参上!」
ソード電王が定番のポーズと台詞を叫ぶ。
「オマエ達、僕に釣られてみる?」
ロッド電王が右人差し指を電仮面の額部分に軽く当ててから離すというインテリじみた仕種をする。
「俺の強さにお前が泣いた!」
アックス電王が親指で首を鳴らしてから、相撲取りのようなポーズを取る。
「オマエ達、みんなやっつけちゃうけどいいよね?答えは聞いてない!」
ガン電王は身体を捻りながらくるりとターンしてから傀儡兵を指差す。
「みんな、準備はいいね?」
ライナー電王は両サイドにいる電王を見合わせてからその場で戦う気構えを取る。
『時の庭園』での戦いも、終幕になりつつあることを庭園内にいる誰もが感じていた。
次回予告
第三十九話 「決戦!時の庭園 ~悲願成就~」