仮面ライダー電王LYRICAL   作:(MINA)

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第三十七話 「真実を語る者 それは母」

ライナー電王は移動手段を『歩き』から『走る』ことに切り替えて、ファルコンイマジンとの間合いを詰め始めた。

戦いを長期戦ではなく、短期決戦で終わらせる意図が取れる行動だ。

デンカメンソードを両手で持っていたが、今は右手だけで持っている。

Dソードよりは重たいが、移動の際にはこちらの方がいい。

『良太郎。野郎、剣を構えているぜ』

デンカメンソードからモモタロスの声が聞こえる。これは刀身側に位置するターンテーブルの電仮面が『モモソード』になっているからである。

ライナー電王はファルコンイマジンを見ると先程まで手ぶらだったのに、右手には長剣が握られていた。

(見てくれからして、デンカメンソードよりは軽い、かな)

ライナー電王は相手の得物が自分の得物より軽量だと判断すると、短期決戦で決めるためには何が得策かを考え、行動に移すことにした。

「モモタロス!このままで行くよ」

『おう!』

デンカメンソードを振りかぶると同時に、フリーとなっていた左手でも握る。

片手で振り下ろすより、斬撃の威力は増す。

「てやああああああ」

右足を地に着けて踏ん張り、左足で支えてファルコンイマジンの左袈裟を狙って両手で握られたデンカメンソードを振り下ろす。

「がああああああ」

ファルコンイマジンから火花が飛び散り、よろよろと後方へと退がる。

斬られた箇所をフリーとなっている左手で押さえながらも、こちらを睨んでいる。

「あれだけやられているのに、まだ戦えるなんて……」

『しつこい野郎だぜ』

ライナー電王とデンカメンソード(モモタロス)がファルコンイマジンに対する感想を述べる。

「当たり前だ!お前達のせいで、誰一人としてイマジンの本懐を達成していないんだぞ!!こんな事が許されてたまるか!」

自分のしている事に『プライド』でもあるような言い方だった。

「それが僕達のやる事だからね」

ライナー電王は時の運行を守ることを『やる事』と言って『仕事』とは言わなかった。

『仕事』と呼ぶには抵抗がある。何せ、給料貰ってないからだ。

もし、『仕事』と呼ぶならば自分のしている事は警察官、消防士、弁護士、検察官、医者といった部類に入るだろうと考えている。

どれも失敗が許されず、失敗すればそれだけで人生が変わってしまうものばかりだ。

ファルコンイマジンは長剣を構えてライナー電王に斬りかかる。

「くっ!」

火花が飛び散るが、それはライナー電王から噴き出たものではない。

ファルコンイマジンの長剣とデンカメンソードのターンテーブル部分がぶつかった際に生じたものだ。

「あの女と契約を交わしたイマジンは俺で最後になった。俺まで本懐を遂げずに負けたとなったら、イマジンの面汚しになってしまう!」

鍔迫り合い状態の中、ファルコンイマジンは切羽詰った声でライナー電王に本音じみた事を言う。

『んな事、俺達が知るか!!』

モモタロスの声と同時に、ライナー電王がデンカメンソードを前へ押し出して鍔迫り合い状態を解き放つ。

「君で最後って事は、君を倒せばイマジンからジュエルシード狙われる心配はなくなるんだね」

それがわかると、ライナー電王はデンカメンソードのターンテーブルの下に付いている吊革上のレバー---デルタレバーを引く。

「ウラロッド、キンアックス、リュウガン、モモソード……」

『き、来たああ!』『ちょ、ちょっと良太郎!?』『アカン!何か掴め!』『回るー!』

ターンテーブルはデンライナーの食堂車に設置されている回転椅子と連動しているため、現在回転椅子に座っているイマジン達はいきなり高回転しだした事に、驚いているのも無理はない。

ターンテーブルを一周以上、回転させてからデルタレバーを押し込む。

ターンテーブルから緑色の十字の模様が浮かんで光りだす。

デンカメンソードの切先からオーラレールが出現して、地面から五センチほど宙に浮いて敷設される。

ライナー電王は飛び乗ってそのまま、流されるようにファルコンイマジンに向かっていく。

その最中、ライナー電王を中心に右斜め上に半透明のイカズチ(以後:オーライカズチ)、右斜め下に半透明のレッコウ(以後:オーラレッコウ)、左斜め上にオーラライナー、左斜め下に半透明のイスルギ(以後:オーライスルギ)が象られて一直線に進んでいく。

デンカメンソードを構える。

一発で仕留めるように全身に神経を研ぎ澄ませて。

 

「電車斬り!!でやあああああ」

 

ライナー電王が技名を叫ぶと同時にデンカメンソードで横一文字に斬り裂く。

「ぐわああああああ」

ファルコンイマジンの最期の叫びがなくなると爆煙が立ち、オーラレールに滑るようにデンカメンソードを構えたライナー電王が抜け出てきた。

オーラレールもオーラライナーも消え、ライナー電王はフェイト・テスタロッサ達がいる方向へ身体を向けて、駆け寄った。

「ん?どうしたの?みんな」

コハナを除くフェイト、アルフ、高町なのは、ユーノ・スクライアはライナー電王を見ていた。

「……本当に良太郎なんだね?」

「うん、そうだよ」

フェイトが訊ね、ライナー電王は即答した。

「あ、あの良太郎さん」

「さっきの、電車斬りって……」

「え?僕の、必殺技だけど」

ライナー電王の回答になのはとユーノは顔を見合わせて複雑な顔をしていた。

(あ、やっぱりセンスないのかな。この名前……)

ライナー電王は真剣に自身の技名を改名しようかと考えた。

 

 

次元航行艦アースラのメインモニターには『時の庭園』が映し出されていた。

上手くいけば『プレシア・テスタロッサの捕縛』が映し出される予定だ。

イマジン達とコハナは食堂にあるモニターで見ている。

メインモニターで見ているのはアースラスタッフを除くと良太郎、なのは、ユーノ(人間)、アルフ(人型)、そして白装束で手には手錠のようなものがかけられているフェイトだった。

良太郎はフェイトに手錠をかけるのは反対で異議を申し立てたのだが、フェイトがかけるように申し出たのだ。

どんな理由にしろ自分は罪を犯したというフェイトなりのけじめかもしれない。

「第二小隊、転送完了」

「第一小隊、侵入開始」

男性オペレーターが報告を続ける。

リンディ・ハラオウンが良太郎達に歩み寄ってきた。

「お疲れ様。それから……フェイトさん。初めまして」

リンディが笑顔で応対するが、フェイトは破損したアクセサリー状態のバルディッシュを握り締めて、黙っていた。

これから母親が捕縛される様を見るかもしれないのだ。呑気に挨拶交わす気にはなれないだろう。

(母親が逮捕される姿を見せるのは忍びないわ。なのはさん、彼女をどこか別の部屋へ)

リンディは念話の回線を開き、なのはに指示する。

(は、はい)

「フェイトちゃん、よかったら、わたしの部屋へ……」

なのはは了承し、フェイトに私室に行くように誘う。

だが、それよりも早く事態は進んでいたようだ。

『総員!玉座の間に侵入!』

モニターから映し出される映像には『時の庭園』の玉座の間が映し出されていた。

『目標発見!』

男性武装局員の一人が報告するように告げた。

彼の告げた目標とは玉座の間にある玉座で優雅というか威厳というか余裕を持って座っているプレシア・テスタロッサだった。

『プレシア・テスタロッサ!時空管理局法違反及び管理局管制の攻撃で貴女を逮捕します!』

プレシアは余裕の表情だった。

『武装を解除してこちらへ』

武装局員はこちらに来るように促すが、プレシアは動く素振りすらない。

『フンッ』

嘲笑する始末だ。

応じないと判断したのか武装局員達はプレシアを包囲するようにフォーメーションを組んだ。

それでもプレシアは動じない。

だが、局員数名が『ある部屋』に向かった時に、目つきが変わったことを武装局員はおろかモニターで見ている者達は誰一人として気づいていない。

モニターには局員数名が目の当たりにした妙な部屋が映っていた。

玉座の間とは対照的にどこか生物的な雰囲気があった。無数に並んでいるカプセルには植物のツタのようなものが縦横無尽に巻かれているのだ。

そして、その部屋の中央にはカプセルがあった。

その中身を見たとき、モニターで見ている者達は驚いた。

そこにはフェイトと瓜二つの少女が全裸で納められていたのだ。

(アリシアちゃん……。こんな姿になってたんだ)

良太郎はその少女の名を心の中で呼んだ。

 

「あのガキ、あんな姿になってたのかよ……」

食堂のモニターにも映像が映し出され、モモタロスは手に握っていた紙コップを握りつぶしていた。

「センパイ……」

「モモの字……」

「モモタロス……」

「モモ……」

この中でモニターに映っているカプセルの中の少女と直に対面した事があるのはモモタロスだけだ。

モモタロスは少女の別れ際の笑顔を思い出してしまう。

「クソったれが!!」

机をドンと激しく叩くが、誰も彼を責めたりはしなかった。

 

 

プレシアは瞬間移動でもしたのか、その部屋の少女が入っているカプセルの前に現れ、武装局員を数人ぶっ飛ばしていた。

「私のアリシアに近寄らないで!」

その目つきはとても鋭く、人一人殺害する事に何のためらいも見せないような瞳をしていた。

武装局員達がデバイスを構えていた。

(無駄な事を……)

武装局員達は一斉に魔法射撃をする。

「……五月蝿いわね」

プレシアは静かに告げ、左手をかざす。

その直後に『時の庭園』全体から紫色の雷が降りた。

同時に武装局員達の悲鳴が『時の庭園』内で響いた。

(無駄な魔力を消費させて……)

身体を蝕んでいるものが襲い掛かってきたが、表情には出さなかった。

医者に診せたら間違いなく、「絶対安静」と言われるだろう。

自分の命が残り少ないという事はわかっている。

なまじ、頭の切れがいいとこういう時にどういう行動を取ることが『後悔のない人生』になるかもわかっている。

アリシアが入っているカプセルに触れる。

「……最後の仕上げといくわよ。アリシア、貴女を利用する私を許して」

プレシアは最期の大芝居を演じる事にした。

 

 

「アリ……シア……?」

フェイトはモニターに映っている少女の名を呟いていた。

良太郎はこれから起こすプレシアの行動を見逃す気がないのか、目つきが鋭くなっていた。

モニターに映るプレシアが独り言のように語り始める。

『もう、ダメね。時間がないわ。たった九個のジュエルシードではアルハザードにたどり着けるかどうかはわからないけど……』

モニターに映っている事がわかっているのか、目をこちらに向けていた。

『でも、もういいわ。終わりにする。アリシアを亡くしてからの暗鬱の時間を……』

プレシアの一言はフェイトやアルフが過ごした時間を否定する言葉だった。

『身代わりの人形を娘扱いするのも……』

プレシアはカプセルに身体を預けてずるずると滑り落ちる。

「「!?」」

なのはとフェイトの瞳が大きく開いた。

『聞いていて。貴女のことよ。フェイト』

プレシアはフェイトを逃げないように名を呼ぶことで金縛り状態にした。

『折角、アリシアの記憶をあげたのにそっくりなのは見た目だけ。役立たずでちっとも使えない私のお人形』

メインモニタールームにいる誰もが口を開くが声を発する事ができないほどの衝撃だった。

 

別室ではプレシアが告げる内容を知っているエイミィ・リミエッタは正視できず、クロノ・ハラオウンはモニターを正視してはいるが、苦しみに満ちた表情をしていた。

『最初の事故の時、プレシアは実の娘アリシア・テスタロッサを亡くしているの。彼女が最後に行っていた研究は使い魔とは異なる、使い魔を超える人造生命の生成』

 

エイミィの言った言葉が本当ならばプレシアの最後の研究で生み出されたのが誰なのかをメインモニターを見ていたなのは、ユーノ、アルフは悟った。

そして良くない事ではあるが、ついついその人物を見てしまう。

そう、フェイトを。

エイミィのアナウンスは続く。

『……そして、死者蘇生の秘術。フェイトって名前は当時、彼女の研究でつけられた開発コードなの』

(そうだったのか……)

良太郎はフェイトがクローンである事は知っているが、『フェイト』の名の由来までは知らなかった。

この事から、当初はプレシアがフェイトを受け入れようとしなかったことが伺える。

だが、今のプレシアは違うことも良太郎は知っている。

『よく調べたわね。そうよその通り』

プレシアは滑り落ちた態勢からもう一度立ち上がり、カプセルに触れる。

『だけど、ダメね。ちっとも上手くいかなかった。作り物の命は所詮作り物。失った者の代わりにはならないわ』

静かではあるが、刃のような一言がモニターを見ている全員に突き刺さる。

プレシアはフェイトがいる方向に視線を向けてくる。絶対に逃がさないように。

『アリシアはもっと優しく笑ってくれたわ。アリシアは時々ワガママも言ったけど、私の言う事をとてもよく聞いてくれた……』

「……やめて」

なのはが前に出て、モニター漉しに映るプレシアに懇願の気持ちを込めて言う。

『アリシアはいつでも私に優しかった』

なのはの言葉はプレシアには届かず、独白が続く。カプセルを撫でてからフェイトに視線を向けた。

とても冷たい瞳を。

『フェイト、やっぱり貴女はアリシアの偽者。せっかくあげたアリシアの記憶も貴女じゃダメだった』

「やめて、やめてよ!」

なのはが諫言するが、プレシアには届かない。

『アリシアを蘇らせるまでの間に、慰みに使うためのお人形。だから貴女はもういらないわ。どこへなりと消えなさい!!』

今まで正面を見せていなかったプレシアが正面を向いた。

「お願い!もうやめて!!」

なのはがフェイトをかばうようにして前に出てプレシアに懇願する。

『ふふふふ、はははははははははは』

右手を頭に当ててプレシアは狂ったような高笑いをする。

フェイトの瞳に涙が浮かび上がっている。

一言も発しない。いや、発する気さえなくなっているのだ。

『いい事を教えてあげるわ。フェイト。貴女を造りだしてからずっとね、私は貴女が大嫌いだったのよ!貴女の力なんて全く期待していなかったから私はイマジンとも契約していたのよ!』

何かが床に落ちる音がした。

アクセサリー状態の破損したバルディッシュだった。

フェイトの身体に全身の力が抜けてその場に崩れ落ちた。

「フェイトちゃん!」

「フェイト……」

なのはとユーノが駆け寄るが、何て声をかけたらいいかわからないようだ。

「僕が運ぶよ」

良太郎が放心状態のフェイトを抱きかかえた。

そして、モニターに映るプレシアを見る。

モニターのプレシアも良太郎を見ていた。

良太郎はモニターに背を向けて、部屋を出た。

廊下を歩きながら、良太郎は抱きかかえている放心状態のフェイトを見る。

(プレシアさんの思惑はこれで遂げたんだ……)

「こうなるってわかってても……」

良太郎はフェイトを抱き寄せる。

「……辛いし、苦しいよ。ここが『過去』でこの出来事も全て『起きた事』だってわかっててもね……」

『時の運行を守る者』としての野上良太郎ではなく、『フェイト・テスタロッサの仲間』としての野上良太郎の言葉だった。

コハナが使っていた部屋が近かったので、そこに入る。

「僕は信じる。フェイトちゃん、君が必ず立ち上がるって事を……。この現実を受け止めて前へ進むって事を……。でないと……」

静かにベッドに寝かせる。

 

「プレシアさんが全てを賭けてした事が無駄になってしまうから……」

 

良太郎は近場にある椅子に座ってフェイトの手を握った。

それは自分の力をフェイトに注ぐようにも見えた。

 

 

『時の庭園』では鎧騎士を模したような傀儡兵が地面からにょきにょきと出現していた。

数で言えば百以上。

「これで、これで全て終わったわ。後は私がフェイトの前から姿を消すだけ、ね」

プレシアの隣にはアリシアの入ったカプセルが浮揚している。

ジュエルシードを九個、自分の前に出現させる。

(どこでもいいわ。フェイトの未来を守れるならどこだって……。アリシア、貴女と同じ場所にはいけそうにないわね)

フェイトのためとはいえ、これだけのことをしでかしたのだ。

アリシアのいる天国にはいけないだろう。

自虐的な笑みを浮かべて、プレシアはジュエルシードを発動した。




次回予告

第三十八話 「決戦!時の庭園 ~最高の仲間達~」

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