第三十六話 「想いと斬撃は駆け抜ける」
海鳴の空にいくつもある雲の中にひとつの球状の光が佇んでいた。
「ジュエルシードを賭けての大勝負、か」
その光は地上で起こっていた事をじっと見ていた。
「あの二人が疲弊したところを奪うか」
光はまたその場でじっと待つことにした。
必ず機会が訪れるという事を信じて。
*
海鳴公園には緊迫した空気が漂っていた。
この空気を漂わせている原因となっている高町なのはとフェイト・テスタロッサはお互い様子を伺っているのか微動だにしなかった。
野上良太郎、コハナ、イマジン四体、アルフ、ユーノ・スクライアも事の成り行きをじっと見ている。
誰一人として口を開こうとしない。
フェイトは瞳を閉じる。
彼女の記憶で蘇るのは母親のプレシア・テスタロッサと二人でピクニックに行っている時の事だった。
優しく微笑む母とそれに応えるかのように無邪気に笑っている自分がいた。
プレシアは摘んだ花で冠を作っていた。
自分はそれが完成するのをじっと見つめながら待っていた。
「ねぇ、とてもきれいね。アリシア」
母は名を呼び間違えたのだろうか。
ここにいるのは『アリシア』ではなく『フェイト』のはずだ。
「さあ、いらっしゃい。アリシア」
プレシアは優しくもう一度その名で呼んで、自分をこちらに来るように促す。
プレシアは自分に完成したばかりの花冠を被せてくれた。
「とても可愛いわよ。アリシア」
その名で呼ばれるたびに感じる違和感を拭う事はできなかったが、自分はこの甘美ともいえる時間に浸りたかった。
(まあ、いいのかな)
現実に返り、閉じていた瞳を開く。
一瞬だが、現在のプレシアがよぎった。
(わたしは……、優しい母さんに戻ってほしいから!)
自分が頑張れば母は元の優しい母に戻ってくれると信じているフェイト。
優しい母を取り戻すために、今自分ができることは目の前に立ちはだかる少女と全力で向き合うことだった。
決意すると、足場としていた電灯から離れて空へと場を移した。
サイズフォームのバルディッシュをなのはに向けて構えた。
*
次元空間を航行しているアースラでは海鳴にいる者達には内密に着々と次の計画が実行されようとしていた。
「戦闘開始、みたいだね」
モニタールームの席に座ったエイミィ・リミエッタは髪の毛が何本か、にょーんと跳ねたのだが当人は気づいていなかった。
隣で立っているクロノ・ハラオウンはそれに気づいていたが。
「ああ……」
クロノは返答とは裏腹にぴこぴこと揺れているエイミィの髪が気になって仕方がない。
「しかし、ちょっと珍しいよね。クロノ君がこういうギャンブルを許可するなんて」
「まあ、なのはが勝つに越した事はないんだけど……、あの二人の勝負自体はどちらに転んでもあまり関係ないからね」
そう言いながら忍ばせていた整髪スプレーを上下に振る。
「なのはちゃんが戦闘で時間を稼いでくれている内に、あの子の帰還先追跡の準備をしておくってね」
自分がこれから行う事を自信と誇りを持って言うエイミィ。
クロノは人差し指でスプレーの頭を押す。
「頼りにしてるんだからね」
発射され、エイミィの髪に当てる。
「逃がさないでよ」
それから、これまたあらかじめ忍ばせていたブラシでエイミィの髪を整えていく。
「おう!任せとけ!」
自信を持って二つ返事するエイミィだが、クロノが折角整えてくれた髪の部分はやっぱり、みょーんと跳ねた。
クロノの手をこれ以上煩わせるわけにはいかないと感じたエイミィは自分で髪を整え始めた。
「でも、あの事をなのはちゃん達に伝えなくてもいいの?プレシア・テスタロッサの家族とあの事故のことを……」
「勝ってくれる事に越した事はないが、今はなのはを迷わせたくはないんだ。それにあの面子の中でプレシアの家族とあの事故に関して知らないのは、恐らくなのはとフェレットもどきだけだろう。良太郎達は僕達より早くこの情報を入手しているはずだからね」
「クロノ君は良太郎君をまだ容疑者としてみてるの?」
エイミィはクロノに訊ねる。彼女個人としてみたらとても悪事に加担するタイプに思えないからだ。
「正直に言うと、彼を容疑者としてみてるかどうかと聞かれると微妙という返答しか出ないね。シロと決めるには彼が僕達の知らない何かを知って隠している事があるというのは確かだし……。だがクロでもないね」
「その根拠は?」
「彼にメリットがないから、かな。ジュエルシードが彼に利得を与えてくれるとはとても考えられないからね」
ジュエルシードに関するあらかじめの知識がないと入手しても宝の持ち腐れであり、仮に偶然発動させたとしても発動者の望む結果は得られないだろうと、クロノは考えている。
「だったら良太郎君は何でジュエルシードを捜してたのかな?」
「それは簡単な答えだよ。純粋にフェイトやアルフの手伝いをしたかった、かな」
「ああ、なるほどぉ。それなら頷けるよ」
二人は会話を打ち切ると、モニターの戦闘を見ることにした。
*
海鳴の空ではなのはとフェイトが一進一退の攻防を繰り広げていた。
飛行速度はほぼ互角であり、レイジングハートとバルディッシュを振りかぶるタイミングはほぼ同じで、相手に向けて振り下ろす。
両デバイスがぶつかり、火花でなく魔力光が二人を覆うようにして発生するが、二人が互いに後方へと下がる事によって、それは消えた。
(違う……)
フェイトはなのはの動きと繰り出す攻撃を防ぎながらも、以前に戦闘していたときと比較していた。
移動速度、攻撃のタイミング、明らかに以前とは違っていた。
(わたしの攻撃を確実に防いでる。目で正確に捉えているんだ)
短期間での成長にフェイトは内心、驚きを隠せなかった。
「フォトンランサー」
バルディッシュが発した。
黄金の鎌刃が消え、先端が九十度に曲がってデバイスモードになる。
正直に肉弾戦を繰り返しても仕留められないと判断し、魔法射撃へと切り替えたのだ。
フェイトの周りに稲妻を纏った黄金の光球が出現する。
(これでわかる!)
全弾直撃ならばそれでこの戦いは終わる。
フェイトは自分と同じ様に浮揚しているが、位置的に自分より下にいるなのはを見下ろしていた。
(何とか今の所は動きも見えるし、付いていけてるけど……)
なのはは自分より高い高度で浮揚し、射撃魔法を放とうとしているフェイトを見上げていた。
自分が初めてフェイトと戦ったよりはよくなったという自覚はある。
だが、それでもフェイトの方が対人戦や魔法を用いた戦術が上だという事実は変わらない。
(気は抜けない。フェイトちゃんはきっとまだ何か奥の手があるような気がしてならないよ)
レイジングハートを天に掲げる。
「ディバインシューター」
レイジングハートがそう発すると、なのはの周りに円のようにして桜色の魔力光が数個出現する。
これで迎撃の準備は整った。後はどのタイミングで放つかだ。
フェイトを見ると、放っていないところから考えると自分と同じ様にタイミングをうかがっているようだ。
このまま膠着するわけがないとなのはは感じた。
放つなら一斉射撃。出し惜しみはしないと予測する。
両者の視線と視線がぶつかる。
「ファイアッ!!」
「シュートォォォォ!!」
両者同時に魔力で構成された光球を放つ。
両者の弾は生き物のような捻りを見せて、相手に向かって行く。
なのはは右へ左へ必要最小限の動きをして、弾を避けながらフェイトへと間合いを詰めていく。
フェイトを見ると、自分が放ったディバインシューターは誘導ミサイルのようにしてフェイトを追尾していた。
ディバインシューターに後を追いかけられているフェイトは全速力で撒こうとしていた。
だが、自分の速度と殆ど変わらずに追尾してくるディバインシューターを見てから計画を変える。
自然消滅するまで逃げ回ろうと最初は思ったが、自分とディバインシューターの距離が開かないのでその計画は使えないと考えた。
逃げ回る事を止め、立ち止まって追尾してくるディバインシューターを全て防いだ。
爆煙が立ちこめるが晴れると、そこには第二撃ともいえるディバインシューターを準備しているなのはが自分を見上げていた。
「シュートォォォォ!!」
発すると同時に桜色の光球はフェイトに向かっていく。
(第一撃から第二撃までに切り替わる速度が速くなってる!)
流石にこの第二撃も『防ぐ』という手は使えない。
使えばダメージになることは必須だし、なのはに第三撃を繰り出させるわけにはいかない。
「サイズフォーム」
バルディッシュがデバイスフォームから黄金の鎌刃を出現させてサイズフォームへと形態を変えた。
迫り来るディバインシューターを黄金の鎌刃で切り裂いていく。
正面、頭上、下方、中には捻りを見せながら変則的なものまである。
的確に目で捉えて、効率よくディバインシューターを切り裂きながら、下位置にいるなのはへと間合いを詰めていく。
「!?」
なのはに驚愕の表情が出た。
それを隙だと睨んだフェイトはさらに速度を上げていく。
そして、バルディッシュを上段に構えて振り下ろす。
なのはは右手をかざす。
(まさか!?)
フェイトの中に不安がよぎった。
この状況でデバイスを持たない手を前にかざすという事はやる事はひとつしかない。
「ラウンドシールド」
レイジングハートが発するとなのはのかざした右手を起点にして、桜色の魔法陣が展開される。
「くっ!」
(戻せない!)
フェイトは振り下ろそうとしているバルディッシュの重力に逆らう事ができない。
結果としてそのまま振り下ろしてしまう。
黄金の鎌刃と桜色の魔法陣がぶつかる。
なのはの表情を見ると、何かあるようにも見えた。
後ろから音が聞こえる。
風とは違う別の音。
自分を狙う音だと感じた。
後ろを向くとディバインシューターの一発があり、こちらに向かってくる。
バルディッシュを握っている両手の内、左手をかざして黄金の魔法陣を展開させて、ディバインシューターを防いだ。
魔法陣を閉じるとそこには、なのはの姿はなかった。
「……すごいね、二人とも」
「ああ。ガキのケンカ、じゃねぇよな……」
「一歩間違えば死んじゃうような戦いしてるね。二人とも」
「全力勝負やからな。まだ激しくなるで」
「なのはちゃんが消えた?ねぇ、なのはちゃんどこ行ったの?」
良太郎、モモタロス、ウラタロス、キンタロスがなのはとフェイトの戦闘の凄まじさに驚愕し、リュウタロスは戦っているなのはを目で追いかけていたのだが、途中で見失ったらしくキョロキョロしていた。
「私達、ここで見てるしかないのね……」
コハナは自身の立ち位置に歯痒さを感じていた。
「ハナさん……」
「………」
ユーノとアルフにはコハナの気持ちが痛いほど理解できていた。
ギャラリーとなっている面々はなのはを応援する声もなかったが、フェイトを応援する声もなかった。
この戦いはどちらが『善』で『悪』かなどが決まっているような戦いではない。
そもそも『正義』や『悪』などの位置づけは人の見方や感じ方次第でいくらでも変化する曖昧なものでしかないのだ。
ただここにいる全員が思うことは「無事であってほしい」ということは一致していた。
「あ、なのはちゃんだ」
リュウタロスがフェイトより高い位置に浮揚しているなのはを見つけた。
「フラッシュムーブ」
レイジングハートが発すると同時になのははレイジングハートを振り下ろせる位置に構えて急降下した。
「てやあああああああああ!!」
叫び声を挙げながら、フェイトへと向かっていく。
フェイトはなのはが自分を惑わせる程の速度で移動した事に驚きの表情を隠せなかった。
ガキン!と振り下ろされたレイジングハートをバルディッシュが受け止めたが、フェイトは少し下位置へと下がった。
その直後、至近距離に二人を中心に桜色の魔力光と金色の魔力光が膨れ上がった。
魔力光の中にいる状態でなのはは振り下ろしたままの構えでそこから抜け出た。
(見つけた!逃がさない!)
魔力光の中、フェイトは移動しようとするなのはの姿を捉えた。
バルディッシュを構えてなのはに向かっていく。
「サイズフラッシュ」
バルディッシュの音声と同時に振り下ろす。
何かを切った感触はあった。
だがそれは、なのはではない。
なのはのバリアジャケットの胸元のリボンだった。
なのははその場でくるりと反転して、間合いを取ろうと移動しようとするが、眼前にはあらかじめ仕掛けておいた金色の光球数個が道をふさいでいた。
「ファイア」
バルディッシュの声と同時に光球がなのはに向かっていく。
なのははラウンドシールドで三発防ぐ。
残りは全て海に向かっていった。
フェイトはなのはを見る。
先程防いだ三発は、決め手となるダメージにはならなかったが魔力を消費させるという点では十分に役立っただけよしとできるものだった。
「はあ……はあ……はあはあ……」
現になのはは肩を揺らして息を乱していた。
だが、それはフェイト自身にも言えることだった。
その証拠に自分も肩を揺らして息が乱れている。
短期決戦を想定したが、こうまでもつれ込むとは思ってもいなかった。
(初めて会った時は、魔力が強いだけの素人だった。でも、もう違う。速くて強い!)
この時フェイトは初めて対峙している少女を『脅威』だと感じた。
(迷ってたら……、やられる!)
フェイトのなのはを見る目が更に鋭くなった。
決意を持ち、ためらいを捨ててフェイトはバルディッシュを正眼に近い構えを取る。
目を閉じて、これから発動させる魔法に意識を集中させる。
彼女の足元から金色の魔法陣が展開して広がった。
「!?」
なのはを包囲するように上下左右斜めにと金色の魔法陣が、出現しては消えてという作業を繰り返していた。
(何なの?何かを仕掛け始めているかはわかるけど、どんなものが来るかは予測できないよ!)
この場にいることは決して得策ではないとわかるのだが、行く手を遮るかのように出現する魔法陣のせいで迂闊に動く事ができない。
焦りが来るが、何とか平静を保とうとするなのは。
(怖い。フェイトちゃんが本気で来るってのは覚悟してたけど、正直怖いよ)
なのはの心に恐怖を感じさせるほど、フェイトが繰り出そうとしているものは得体がしれなかった。
なのははこの戦いを見守ってくれている仲間達を見る。
(でも、これは誰かに押し付けられたことじゃない!わたしが考えて、わたしが決めたことなんだ。だから怖くても絶対に逃げない!)
なのはの心には『恐怖』は残っている。
だが、それをも上回る勇気が彼女の身体に宿った。
なのははどう対処するか精一杯頭を回転させることにした。
「ファランクスシフト」
バルディッシュが繰り出す魔法の名称を発すると、フェイトの周りに紫色で雷を纏った光球が数個出現した。
「!!」
なのはの表情が強張った。何かが来ると予感したのだろう。
(もう遅いよ。君は逃げられない)
レイジングハートを構えたなのはの左腕が磁石のように後ろに引っ張られ、縫い付けられるような感覚が襲い掛かってきた。
レイジングハートを握っている右も同じ様な感覚が襲ってきた。
なのはの両腕には金色の輪が押さえつけていた。
今から繰り出す魔法は威力が凄まじいが、発動には時間がかかる。その間に相手に妨害をされて発動失敗になる可能性は十分すぎるくらいにありえる。
だから、保険をかけてなのはの動きを封じる事にしたのだ。
フェイトはまだそれを繰り出す域には達していないのか、目を閉じていた。
「ライトニングバインド!?まずい!フェイトは本気だ!」
フェイトが何を始め、そして何を繰り出そうとしているのかを最初に理解したのはアルフだった。
本当は腹の内だけで留めておくつもりだったのだが、つい口に出してしまったというところだろう。
ユーノはそれを聞き、一瞬サポートをしようかと思った。
(サポートすべきなんだけど……)
黙って戦闘を見ている良太郎達を見る。
彼等は誰一人サポートしようとは思っていないだろう。
なのはやフェイトの意思を尊重しているからだ。
(僕がやろうとしている事は、なのはの意思を踏みにじることになる……)
ユーノの覚悟は決まろうとしていた時だ。
(アンタ!なのはのサポートをしなくてもいいのかい!?フェイトが今からやろうとしているヤツは本当にヤバイんだよ!?)
アルフはサポートに行かない自分に焦れているのか促そうとしている。
(僕は……、なのはを信じる!なのはの意思の強さを信じる!僕がここで手を貸せば、なのはの意思を侮辱した事になる!)
(アンタ……、わかったよ。あたしはもう何も言わないよ……)
ユーノの覚悟を知ったアルフはこれ以上何も言えなかった。
「アルカス・クルタス・エイギアス……」
フェイトの詠唱が始まる。目は開かずにひたすら詠唱と発動までの現段階の維持をする事に集中する。
「バルエル・ザルエル・ブラウゼル……」
詠唱が終盤にまで差し掛かると、閉じていた瞳を開く。
その瞳に映るのはなのはのみ。
無数の金色の光球が肥大化し、紫色の雷を纏っている。
バチバチバチと激しい音がフェイトの耳に入る。
だが、それはそれだけ凄まじい威力を誇るものだという証明でもある。
(これで終わらせる!)
フェイトは右手を天に掲げ、発射態勢に入る。
「フォトンランサー・ファランクスシフト!!」
狙いを定める。外せば自分に勝機はない。
「打ち砕け!!ファイア!!」
無数の雷を纏った光球|(以後:雷球)がフェイトが右手を振り下ろすと同時に、雷球が放たれた。
「ぐっ」
これだけの雷球を放つには射出者であるフェイトにも相当の負担がかかる。
身体がふらついているのが証拠といってもいい。
雷球はすべてライトニングバインドで拘束されているなのはに向かっていく。
爆煙が立ち込め、なのはの姿が見えなくなる。
仕留めたとはフェイトは思わなかった。
仕留めたのならば爆煙から抜けて、海に落下するはずだ。
だが、それがないということは彼女はまだ健在という事だ。
「はあはあ……はあ……はあはあ……」
(あと一発、この一発で!)
左手を天に掲げてフェイトは自分の周りにある雷球を収束させる。
一発だけだが、十発分以上の威力はあると思われる雷球だ。
外せば終わる。だから、爆煙が晴れて姿が見えたときに放つ。
そこには無傷とまではいかなくとも、それでもまだ戦闘ができる状態でレイジングハートをシューティングモードにしているなのはがいた。
「はは……、撃ち終わるとバインドってのも解けるんだね……」
なのははレイジングハートをこちらに向けていた。
(あれを、耐え切るなんて……)
左手で収束させている一発でどうにかできるかわからない。
不安はよぎるが、それでも後戻りはできない。
「今度はこっちの番だよ!!」
なのはが力強く叫んだ。
「ディバイン……バスター」
レイジングハートから桜色の光線ともいうべき魔力光が一直線に放たれた。
フェイトは向かってくる光線に対して、左手に掲げている雷球を放り投げる。
「!?」
結果はフェイトの予想を覆すかたちになった。
相殺とまではいかなくても、威力を弱めるくらいにはなるだろうと思っていたからだ。
フェイトに出来る事は迫り来るディバインバスターを防ぐか、諦めて直撃するかのどちらかしかない。
(まだ、まだやれる!)
フェイトは左手をかざして、金色の魔法陣を展開させてディバインバスターを防ぐ。
だが、魔法陣を発動させているフェイトにもその余波が襲い掛かる。
その証拠にバリアジャケットがあちこち破れていく。
(直撃!?耐え切る!!あの子だって耐えたんだから!!)
そう心に思うことでフェイトは残った力を引き出そうとしていた。
耐え切り、魔法陣を閉じた。
「はあ……はあはあ……」
満身創痍のフェイトがそこにいた。
自分の手の内はほとんど出し尽くした。
策は思いついても身体が動いてくれないのだ。
上から桜色の光が見えた。
巨大な魔法陣を展開し、レイジングハートに魔力を収束させているなのはがいた。
「受けてみて!ディバインバスターのバリエーション!!」
なのはの一言にフェイトは正直青ざめた。
(あれより強力なものが来る!?)
「スターライトブレイカー」
レイジングハートがこれから発動する魔法名を告げる。
散りばめられた桜色の光球が、なのはの前に収束されていく。
それは巨大な光球へとなっていく。
(直撃したら確実に終わる!!)
フェイトは本能的に感じて、その場から離れようとするが、両腕両脚が動かなかった。
「バインド!」
自分が仕掛けたことを仕掛けられるとは思わなかった。
逃げようとするが、逃げれない。
こうなってしまっては自分は完全に百発百中直撃する的だ。
「これがわたしの全力全開!!」
なのはは高らかに宣言する。
(勝てない。負ける。ごめんね母さん。ごめんねアルフ。ごめんね……良太郎)
フェイトの心に負けの確信と母に対しての謝罪。自分のために行動してくれたアルフ、そして良太郎への謝罪が浮かんだ。
レイジングハートをフェイトに向けて、高らかに放つ。
「スタァァァァライトォォォブレイカァァァァァァ!!」
ディバインバスターとは比較にならない桜色の光線、いや超巨大な大砲とも呼ぶべき一撃がフェイトに向かっていく。
バインドをかけられて拘束されている自分に与えられた選択肢はひとつしかなかった。
直撃を受けること。
悲鳴をも打ち消す威力だ。フェイトを直撃した余波は海に向かう。
柱ともいえるような飛沫が上がった。
撃ち終えると、レイジングハートが冷却作業が行っていた。
高町なのはとフェイト・テスタロッサの一騎打ちは、なのはの勝利となった。
「「フェイトちゃん!」」
叫んだのは先程まで戦っていたなのはとギャラリーとなっていた良太郎だった。
気を失っていると思われるフェイトは海へとまっ逆さまに落下していく。
良太郎はデンオウベルトを巻き、ポケットからパスを取り出す。
「ウラタロス!」
これからする事に一番適しているイマジンの名を呼ぶ。
「いい判断だよ。良太郎」
ウラタロスは良太郎の意図がわかっているため彼の判断を賞賛した。
青色のフォームスイッチを押してからパスをターミナルバックルにセタッチする。
「変身!」
海へと飛び込むと同時に、良太郎からプラット電王へ、そしてオーラアーマーが出現して青色をメインとした形(ソード電王時に胸部となっている部分が背となり、アックス電王の際に胸部となる部分が開いている状態)となって装着されて電仮面が頭部を覆われて、ロッド電王となった。
飛び込むと飛沫が上がった。
海中に入ると、その速度はまるで水を得た魚のように速かった。
まるで、足にスクリューでも付いているかのようだった。
海の底へと向かっているフェイトを見つけた。
(ウラタロス!速度を上げて)
「わかってるって。良太郎」
ロッド電王は冷静に返事すると同時に、泳ぐ速度を上げた。
海底でフェイトを抱きとめると、そのまま海上へと上がっていく。
ロッド電王が顔を出すと、なのはがそこにいた。
彼女も満身創痍という状態だった。
ロッド電王はデンライナー・イスルギを召喚し、レドームが搭載されている部分へと飛び乗る。
「なのはちゃん、乗って。そんなヘロヘロじゃ見てる方が不安になるよ」
「は、はい。ありがとうございます」
ロッド電王の厚意になのはは甘える事にした。
イスルギからレドームが切り離され、ロッド電王、フェイト、なのはを乗せて海鳴公園へと向かって行った。
「う、ううん」
フェイトの閉じていた瞳が動き出す。
目を開き始めている証拠だ。
フェイトの目が完全に開いた。
「フェイトちゃん、気が付いた?」
「え?うん。あの、わたし……」
「なのはちゃんの超特大の一撃
スターライトブレイカー
を食らって気を失って、海の中にまっ逆さまに落ちてそれを僕達が助けたってわけさ」
抱きかかえているロッド電王がフェイトに事のあらましを説明した。
「そう、なんだ……」
ロッド電王はフェイトがこちらをじっと見ている事が気になった。
「何?フェイトちゃん」
「その姿からして、電王なんだよね……」
「うん、ウラタロスさんが憑いてる状態なんだよ」
なのはがフェイトにロッド電王のことを大まかに説明してくれた。
「あの、フェイトちゃん。その……わたしの勝ち、だよね?」
「……うん。わたしの負け、なんだよね」
フェイトは自身の負けを認めた。
その潔さには声には出さないものの、ロッド電王も感心していた。
「あ、あの……ええと、ウラタロス?良太郎?」
フェイトはロッド電王をどちらで呼んでいいのかわからないので混乱している。
「好きなように呼んでいいよ。僕
ウラタロス
も良太郎も声は出せるしね」
「じゃ、じゃあ良太郎。良太郎、降ろしてくれないかな?もう大丈夫だから……」
(わかったよ。フェイトちゃん)
ロッド電王はフェイトを降ろす。
フェイトはレドームに足を着けて、立つ。
「プットアウト」
バルディッシュが頃合を見計らったかのように、声を出してジュエルシード九個を宙に出現させた。
*
アースラでは今までの戦闘をモニターで見ていたクロノとエイミィはというと。
「よし、なのは。ジュエルシードを確保して。それから彼女も……」
なのはにジュエルシードの確保とフェイトの保護を指示しようとしていた時だ。
「いや、来た!」
エイミィが言うようにモニターには上空で何かが起こるような兆しを見せるように、雲が怪しくなっていた。
フェイトに紫色の雷が降り注いでいた。モニターからではわからないが、あくまで『麻痺』を重視した一撃だと推測できる。
ロッド電王はなのはを庇う様な態勢を取っていた。
下手な余波を食らわせるわけにはいかない処置だった。
なのはとロッド電王が、フェイトの名を叫んでいた。
ジュエルシードがフェイトから離れて、渦を作っている空に向かって移動していき、吸い込まれるようにして消えていった。
「ビンゴ!尻尾掴んだ!」
立っていたエイミィが席に座って、ボードを超速で叩き始める。
「不用意な物質転送が命取りだ!座標は?」
「もう割り出して、送ってるよ!」
クロノの言葉を続けるようにエイミィは即座に返した。
リンディ・ハラオウンがエイミィから受け取った座標を見て、次なる命令を下すことにした。
「武装局員!転送ポートから出動!任務はプレシア・テスタロッサの身柄確保です!」
*
「フェイトちゃん、大丈夫!?フェイトちゃん!」
変身を解除した良太郎が先程の一撃でまたもや気を失いかけたフェイトの状態をうかがう。
「りょ、良太郎……」
「よかった。フェイトちゃん」
良太郎は安心して笑みを浮かべる。
「わたし、それにさっきのって……」
フェイトは先程、自身を狙った雷を放った者の正体に凡その見当がついているみたいだ。
「今は何も考えない方がいいよ。落ち着くまで、ね?」
「う、うん……」
良太郎はフェイトの頭を撫でてから、立ち上がる。
「九個は結局向こうの手中に、か」
「何か、乗せられた感じやな」
「でも、なのはちゃんのは捕られてないよ」
ウラタロスは九個を回収し損ねた事を残念がり、キンタロスはどこか誰かに上手く利用されたような居心地の悪さを感じ、リュウタロスはなのはが所持する十二個が捕られなかっただけマシだと言った。
「良太郎、イマジンが来るぜ。どうやら、前の雨ん時のヤツだな」
モモタロスの言葉に良太郎を含め、全員の顔が強張った。
全員が見つめる一点に光球が現れ、それは人の形を象っていく。
鳥型のイマジン---ファルコンイマジンだ。
「そこの白いガキが持っているジュエルシードをよこせ!そうすれば命だけは助けてやる」
自信満々に告げるファルコンイマジン。
自分の強さに絶対的な自信がないと言えない台詞だ。
「悪いけど、そういうわけにはいかない。君はここで倒す。なのはちゃんのジュエルシードは渡さない!」
良太郎の静かなそれでいて怒りが篭った声が響いた。
「俺達にもやらせろよ。良太郎」
指をバキボキと鳴らすモモタロス。
「いい加減、鬱陶しくなってきたんだよね」
ウラタロスは棘のある言葉をぶつける。
「コイツで終わりにしたいもんやな」
キンタロスは親指で首を鳴らしてから腕を組む。
「じゃあ、僕から行くね。答えは聞いてない!」
リュウタロスは宣言すると同時に身体をフリーエネルギー化して良太郎に入り込む。
デンオウベルトを巻きつけ、紫色のフォームスイッチを押してからセタッチする。
「変身!」
「ガンフォーム」
良太郎からプラット電王へとなって、オーラアーマーが宙に出現する。ソード電王時の胸部が展開してドラゴンジェムが露になるアーマーへとなる。
それらが装着されると、頭部からドラゴンを模した電仮面が装着される。
「オマエはみんなでやっつけちゃうけどいいよね?答えは聞いてない!」
ガン電王は宣言と同時に右手に握っているDガンでファルコンイマジンが攻撃に切り替わる前に、撃ちだした。
フリーエネルギーの弾丸が数発直撃し、ファルコンイマジンの歩む速度を遅くする。
「ぐっ……ぐおお……、おのれ!」
ファルコンイマジンはフリーエネルギーで斧を喚び出した。
弾丸を斧で防ぎ、ガン電王と間合いを詰める。
「ありゃ……」
斧で切りかかってくるファルコンイマジンの攻撃を身体を捻って避けると同時に、Dガンの引き金を絞って撃つ。
「目には目、斧には俺やで!リュウタ、交替や!」
キンタロスがそう言いながら、フリーエネルギー化してガン電王に入り込む。
リュウタロスが追い出されるかたちとなる。
「クマちゃん!まだ早いってば!もう!」
リュウタロスが抗議するが、そんなことはどこ吹く風である。
金色のフォームスイッチを押してからパスをセタッチする。
「アックスフォーム」
オーラアーマーが宙に浮き、百八十度回転して、先程まで背部となったオーラアーマーが前となり、前となっていたオーラアーマーが背部となった。
電仮面もドラゴンを模した電仮面ガンから斧と金という文字をモデルにしたと思われる電仮面アックスへと変わって、頭部に装着される。
Dガンからフリーエネルギーの影響でDアックスとなる。
「俺の強さは泣けるで!」
決め台詞を吐きながら、アックス電王がDアックスでファルコンイマジンへと切りかかる。
斧で応戦するファルコンイマジン。
それらを自慢の防御力で受け止めるアックス電王。
Dアックスで袈裟切りを仕掛けるが、斧で防がれる。
斧で胸部を狙われるが、Dアックスで防ぐ。
互いにダメージを与える事ができない状態が続く。
斧同士のぶつかり合いとなった。そうなると、性能がよい方が勝つことになる。
Dアックスがファルコイマジンの斧の刃に食い込んでいく。
「うおりゃあああああ」
アックス電王が斧を切り裂き、ファルコンイマジンの胸部にダメージを与える事に成功した。
「くっ……ば、馬鹿な俺がこんな変な連中に……」
ファルコンイマジンは後ろへ下がりながら間合いをあけようとしていた。
手には斧ではなく、フリーエネルギーで構成された杖を喚び出した。
「適材適所、だよ?キンちゃん。交替!」
ウラタロスがアックス電王の側まで寄って、フリーエネルギー化してくるくるとバレエダンサーのように回りながら入り込んだ。
青色のフォームスイッチを押してからパスをセタッチする。
「ロッドフォーム」
デンオウベルトが発すると、オーラアーマーが宙に浮き、一周回ってから胸部となっていたアーマーが展開して、装着されて電仮面アックスから海亀をモデルにした電仮面ロッドが装着され、Dアックスもフリーエネルギーの影響でDロッドとなった。
「オマエ、僕に釣られてみる?」
ロッド電王がDロッドを突きつけて突進していった。
「よくもまあ、あんなに変わるもんだね」
電王とファルコンイマジンの戦闘をギャラリーというかたちで見るようになったアルフはあまりに様々に変わる電王に驚きと感心が混じりのコメントが出た。
「でも、形態によって完全に戦闘方法が変わってるからね。あれじゃ相手にしてみれば最悪の相手だよ」
ユーノは冷静に電王の戦闘方法を見て感心し、自分は絶対に敵に回したくないと思った。
「どうして?ユーノ君」
なのはが訊ねてきた。
「なのは、フェイトがもし電王と同じ様な戦い方をしてきたら勝てる?」
ユーノはなのはに理解しやすいようにフェイトでたとえた。
「無理!絶対無理!勝てないよ」
座っていたフェイトが立ち上がり、アルフやユーノ、なのはがいる場所まで歩み寄る。
「フェイト、大丈夫なのかい?」
「歩くぐらいなら大丈夫だよ。それよりも良太郎達の戦いを見ておきたいんだ」
アルフの心配を受け止めながら、フェイトはその場で座る。
ロッド電王がDロッドでファルコンイマジンを突いたり、叩きつけたりしていた。
「同じ得物って性能でモノをいうんだけど、僕の場合って破壊するのって結構難しいんだよね」
ロッド電王はファルコンイマジンの横薙ぎの棒攻撃をしゃがんで避けながら愚痴っていた。
しゃがみから立ち上がる最中にDロッドで突く。
しかし、棒で防がれる。
(なるほど、この手があったか)
Dロッドを薙ぎや叩きつけをやめて、ひたすら突きで攻撃する。
棒の同じ部分を。
「無駄無駄ぁ。そんなんじゃ破壊できないぜ」
「どうかな?」
ロッド電王が含み笑いを浮かべながらひたすら棒を突く。
やはり、最初に防がれた部分をだ。
胸部を狙っての突きだけでは意図が読まれるので、頭を狙ったりする。
そして、それらはすべて棒で防がれる。
「そろそろ、終わり!」
ロッド電王の最後の一突きがファルコンイマジンの棒を破壊することに成功した。
突いたDロッドを肩にかけるロッド電王。
「おし!俺の番だぜ!カメ、交替だ!」
「はいはい。センパイ」
ロッド電王は了承し、モモタロスが走りながらフリーエネルギー化して、入り込む。
赤色のフォームスイッチを押して、パスをセタッチする。
「ソードフォーム」
オーラアーマーが外れて展開していた部分が閉じ、百八十度反転する。
赤色の胸部と肩部のオーラアーマーで、桃をモデルとした電仮面が装着された。
「俺、別世界でも参上!!」
左手を前にかざして歌舞伎のようなポーズを取る。
DロッドからDソードへと切り替わり、握り締め、全力で走り出して間合いを詰めてファルコンイマジンの胸部を左袈裟、右袈裟、そして右から左へ横一文字に斬りつける。
斬りつけるたびにファルコンイマジンからは火花が飛び散る。
火花を飛び散らしながらも後ろに徐々に下がっていくファルコンイマジン。
「へっ、どうした?デカイ口たたいた割には大したことねぇな?」
Dソードを肩にもたれさせながらソード電王は挑発と嫌味を込めた台詞をぶつけるが、ファルコンイマジンはそれに応じるだけの余力が残っていないようだ。
「良太郎!最後はバシッと決めろよ!」
ソード電王が言うと、モモタロスが抜けてプラット電王に戻る。
「うん!わかった」
「オメェら!行くぜ!とぉ!!」
「「「とおっ!!」」」
良太郎が了承すると、モモタロスを筆頭にウラタロス、キンタロス、リュウタロスも球体となって何処かへと飛んでいった。
ソード電王の一言はギャラリーにざわめきを生んだ。
「良太郎さんが最後を決める?」
「でも、変身してるのは良太郎さんだよね?」
なのはとユーノは顔を見合わせているが、ソード電王の言葉の意味がわからないままだった。
「今までだって良太郎が戦ってたじゃないか?何であんな事言ったんだい?アイツ……」
アルフも同様にわからないようだ。
「それは違うよ。電王は良太郎の身体に入り込んだイマジンが戦っているんだ。良太郎が表立って戦った事はないよ」
イマジンが憑いている良太郎見分ける事ができるフェイトだからこそ言える台詞だろう。
三人(正確には一人と二匹)の視線がフェイトに集まる。
「な、なに?」
「いや、フェイト。アンタよく見てるんだなぁと思ってさ。電王、いや良太郎のことを、かな」
アルフの一言にフェイトは何故かわからないが恥ずかしさを感じて頬を赤く染めていた。
プラット電王はケータロスを取り出してターミナルバックルにセットする。
その直後、金色のオーラでできた線路(以後:オーラレール)がケータロスから出現する。
空間が歪み始め、オーラレールはそこに向かって続いている。
オーラレールに滑るようなかたちで何かがプラット電王に向かってくる。
プラット電王はそれを右手で受け止める。
Dソードよりも明らかに肉厚のある刃先を持った剣だった。
そして、それぞれの電王を現していると思われる電仮面が四つ付いていた。
デンカメンソードである。
プラット電王はパスを取り出して、デンカメンソードの峰部分にあるパススロットルにパスを差し込んだ。
「ライナーフォーム」
デンカメンソードが電子音声で発すると、今までにないくらいのエネルギーが噴出した。
その場にいる誰もを吹き飛ばすような凄まじいエネルギーだ。
「ぐおああああああ」
とファルコンイマジンが吹き飛ばされる声が聞こえた。
「みんな、僕に集まって!」
ユーノが吹き飛ばされないように結界を張る声も聞こえた。
ミュージックホーンが流れた。空間の歪みから線路を敷きながらデンライナーがプラット電王に向かって走ってくるのだ。
「よ、避けて!良太郎!撥ねられちゃうよ!」
フェイトが叫ぶが、動く気はない。というより、動く必要がないのだ。
「きやああああああ!!」
「撥ねられる!」
「良太郎!!」
なのは、ユーノ、アルフも悲鳴に近い声を上げる。ある意味、当然の反応だろう。
「大丈夫。僕は撥ねられたりしないよ」
プラット電王は四人(正確には二人と二匹)を安心させるために穏やかに言う。
デンライナーによってプラット電王は撥ねられ……なかった。
それどころかデンライナーはプラット電王との距離がゼロになると、半透明の状態(以後:オーラライナー)となってプラット電王を透過していく。
その中でプラット電王はデンオウベルトが輝きだし、オーラアーマーが装着されていく。
全体が黒色と銀色だったが赤色、黒色、白色の三色が入りだす。
装着されたオーラアーマーは今までのオーラアーマーと違い、全体に丸みがあって今までのような一色ではなく、赤、白、黒、胸部には金色が入っていた。
頭部もデンライナーを模した電仮面が装着されている。
今までの電王とは全体的に違う電王といってもいいのかもしれないというくらい一線を画していた。
仮面ライダー電王ライナーフォーム(以後:ライナー電王)の完成である。
ライナー電王がフェイト達に顔を向ける。
「みんな、もう少しだけ待ってて。すぐに終わらせるから」
そう言うと、ライナー電王はファルコンイマジンに向かって歩き出す。
「みんな、行くよ」
ライナー電王の一言にデンカメンソードから「おう、いつでもいいぜ」とモモタロスが言うとその後に、
全員で「良太郎!」という声が聞こえた気がした。
「あれが、良太郎の電王……」
フェイトはただライナー電王の勝利を祈るだけだった。
次回予告
第三十七話 「真実を語る者、それは母」