雨雲とも雷雲ともいえる雲が渦を巻いている次元空間を航行しているアースラ。
会議室ではリンディ・ハラオウンがクロノ・ハラオウンを側において、チームデンライナー+2に対して計画を破綻させた責任をどう取らせるかを検討していた。
主従関係ならば命令違反になり厳重な処分を下す事が出来るのだが、五分五分の関係である以上、リンディとしてはチームデンライナー+2に対して強く出れない。
だが、相手に六個全てを回収されなかっただけマシと考えれば彼等の功績は評価できるものである。
(六個全てを回収するという計画は潰されたけど得られるものはあったし、それに対等の関係を結んだ以上、こうなることはわかっていたことだから……)
リンディはなるべく厳しい表情をしている。
それだけで、高町なのはには効果は抜群だった。
その証拠に顔は気丈だが、手足は震えていた。
ユーノ・スクライアと野上良太郎とコハナは覚悟を決めてした事なのか、特に微動だにしていなかった。
イマジン四体のうち、モモタロスとリュウタロスは意に反する処罰なら殴りかかろうと腕を動かしていた。
そんな二体をどんな手を用いても止めようとしているウラタロスとキンタロスは止めに入ろうと構えていた。
(こちらにも不備はあったし……、今回は不問が妥当かしらね)
「さてと、今回の貴方達の独断専行ですが……」
その場の雰囲気が更に重くなったような気がしたのは自分の勘違いではないだろう。
「我々の側にも貴方達に対しての不備があったこともあり、痛みわけということで『不問』とします」
なのは、ユーノ、良太郎は思った以上に軽い裁決に顔を見合わせる。
イマジン達はそれぞれ、手を軽くパンと叩きあって声には出さずとも喜んでいた。
その場の雰囲気が急に軽くなったように感じた。自身も何か身体にかかった錘のようなものが取れたのだろうと感じたので間違いないだろう。
「良太郎さん」
「はい」
良太郎は何故自分が呼ばれたのかを理解している表情でこちらを見ていた。
「今後このようなことがないように話し合いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「わかりました」
良太郎は快く了承してくれた。
「さて問題はこれからね。クロノ、事件の大元について何か心当たりは?」
壁にもたれて今までのことを腕組みをして静観していたクロノが目を開いた。
「はい。エイミィ、モニターに」
壁から離れて中央にあるテーブルまで歩み寄る。
『はいはーい』
別室にいると思われるエイミィ・リミエッタの声が聞こえた。
同時にテーブルの中央にある半円の球体から映像が映し出された。
その容疑者と思しき人物が表示されるとリンディは目を丸くした。
対して、良太郎達は特に驚いている素振りがなかった。
(知っていた、というわけね)
良太郎達の反応からそう判断した。
クロノは映像に映った人物について語り始めた。
「僕等と同じミッドチルダ出身の魔導師。プレシア・テスタロッサ。専門は次元航行エネルギーの開発で、偉大な魔導師でありながら違法研究の事故によって放逐された人物です」
良太郎の眉がピクリと動いたのをリンディは見逃さなかった。
良太郎はクロノが語るプレシアの説明を自身が得ている情報と比較していた。
(違法研究の事故っていうのは、アリシアちゃんが死ぬ結果になった時の事だ)
脳裏にアリシア・テスタロッサの最期の笑顔がよぎった。
それだけで、拳を強く握り締めてしまう。
(それにあれはプレシアさんの責任じゃないのに……。プレシアさんのせいになっている)
プレシア・テスタロッサが勤めていた会社が責任を全て彼女に押し付けたのは明らかな事だった。
愛娘を失った彼女に更なる追い討ちをかけるかたちになったはずだと良太郎には想像できた。
「そして、あの少女---フェイトは恐らく……」
クロノの語る言葉に自分の隣にいるなのははおおよその見当をつけているようだった。
(フェイトちゃんの未来のためにプレシアさんは悪い母親を演じる事にした。だったらイマジンは何のために?)
良太郎はプレシアが何故、イマジンと契約を交わしているのかが気になりだした。
フェイトを蔑ろにして、『アリシア蘇生』のためにジュエルシードを集めさせるために契約を交わしたのならば納得できる。
だが、事実は『フェイトの未来』を守るために彼女は『悪い母親』を演じているだけなのだ。
そうなるとわざわざイマジンと契約を交わす必要はないように思える。
意識をその場に戻すと、リンディがエイミィにプレシアに関する情報を探すように命令していた。
話が進展するまでもう少し時間がかかると判断したので、思案を再開する。
(プレシアさんは最終的にはフェイトちゃんの心にいる自分を消す事が目的だと言っていた。フェイトちゃんの心の中からプレシアさんを早く消す方法といえば……)
フェイトの出生とアリシアのことを打ち明けることぐらいしかない。
(ダメだ。プレシアさんがイマジンと契約する目的が見えてこない……)
プレシアがしようとしている事はわかっている。だが、そこに何故イマジンが絡んでくるのかがわからない。
イマジンの契約執行方法を振り返る。
結果はどうであれ、過程の段階では確実に契約者の意図とは食い違っているため、契約者がイマジンに感謝した事はない。むしろ後悔の念が強いだろう。
その方法が手っ取り早い『武力行使』なのだから仕方ないといえば仕方ない。
今回のジュエルシード探しにしてもそうだ。
イマジンと契約してジュエルシードを欲するならば、契約者は「ジュエルシードを捜して見つけてほしい」と思うだろう。
だが、イマジンは契約完了を先走るあまりに「ジュエルシードを所持している者から強奪して手に入れる」という行動に出る。
どこにあるかもわからない物を捜すよりずっと効率がいいからだ。
そして、イマジンはジュエルシード所持者が契約者の身内だったとしても、例外なく行うだろう。
契約者にジュエルシードを渡す事が出来ればいいのだから。
大抵の契約者はこの事実を知ったときに初めてイマジンと契約を交わしたこと後悔する事になる。
だが、プレシアにはその素振りがまるでない。
(まさか……。イマジンの契約執行の手段を予め予測して……)
良太郎の中に『まさか』の考えが浮かび上がる。
プレシアは聡明な人物だ。
もしかしたらイマジンと契約する際にこう予測していたのかもしれない。
自分が望むような方法で自分の契約を叶えてくれる事はないだろう。
と。
彼女にしてみればフェイトの心が自分から離れるには最高の存在だと思ったはずだ。
娘の目的の邪魔をする謎の怪人と契約をしたのが自分だと告げた場合どうなるだろう。
これは出生やアリシアのことを話して与えるほどのダメージはないが、フェイトの心に相当のダメージを与える事が出来るのは確かだ。
(僕達は完全にプレシアさんの本当の思惑に踊らされているってことか……)
時空管理局の面々はプレシアの『本当の思惑』には気づいていない。
今のところ、時空管理局はプレシアを『ジュエルシードを悪用しようとする犯罪者』と見ているだろう。
プレシアがイマジンと契約を交わした本当の理由が『より確実にフェイトの心を引き離すため』と推測したところで良太郎は考える事を中断する事にした。
エイミィが部屋に入ってきた。
手ぶらで来ているという事は資料がなかったのか、頭の中にありったけの情報を詰め込んだかのどちらかだろう。
エイミィの唇が動き始めた。
「プレシア・テスタロッサ。ミッドの歴史で数年前は中央技術開発局第三局長でしたが、当時彼女個人が開発していた次元航行エネルギー駆動炉が急度の試用の際に違法な材料を持って実験を行い、失敗」
(彼女個人が開発?完全に企業側の証言だね)
その時間帯に行った事がある良太郎にはエイミィが入手した情報源がどこなのかはすぐにわかった。
これからエイミィが語るプレシアの情報には『プレシア個人の言い分』となるものはないだろう。
「結果的に中規模次元震を起こした事がもとで、中央を追われて地方へと異動へとなりました。この一件に関しては随分と揉めたみたいです。失敗は結果にすぎず、実験材料に違法性はなかったと。辺境に異動後も数年間は技術開発に携わっていましたが、その後、行方不明になって……、それっきりですね」
「家族と行方不明になるまでの行動は?」
リンディがプレシアの家族構成について訊ねる。
「その辺りのデータはきれいさっぱり抹消されちゃっています。今、本局に問い合わせて調べてもらっていますので……」
「時間はどのくらい?」
「一両日中には……」
リンディは納得すると、今後の事を考えているようだった。
「アースラに打撃を与えたプレシア女史、あれだけの魔力を放出したフェイトさん。二人ともすぐには動けないわね。その間にアースラのシールド強化もしなければならないし……」
今後の事をどこか独り言のようにつぶやいていたリンディが席から立ち上がる。
「貴方達は一休みしておいたほうがいいわね」
リンディの意外な言葉にその場にいる誰もが目を丸くしていた。
「え、でも……」
なのはにしてみれば深刻な事態に陥ろうとしているのに自分達だけが休んでいいのだろうかと考えているのだろう。
「特になのはさんは、あまり長く学校を休みっぱなしでもよくないでしょう。一時帰宅を許可します。ご家族と学校に少し顔を見せておいた方がいいわ」
「……はい」
「本日はこれにて解散します。あと良太郎さん、ハナさんはここに残っていてください」
「「はい」」
今後の連携についての話し合いだと良太郎は確信していた。
*
アースラが航行している空間に似て非なる空間に佇んでいる『時の庭園』
そこでは空を切り裂く音がした直後に少女の声が響くといったことが数分間繰り返されていた。
「はあぁぁっ!ぐううぅ!」
紫色の魔力光で構成された鎖に吊るされているフェイト・テスタロッサの身体に鞭が直撃した。
鞭をフェイトに直撃させた女性---プレシアは無表情に近い表情でこのようなことを繰り返していた。
フェイトの表情が痛みで苦悶の表情を浮かべている。
その度にプレシアの心は大きく揺れていた。
できるならやめたい。やめてフェイトの身体の手当てをしてあげたいという衝動が常に襲っていた。
しかし、やめるわけにはいかない。
何故なら自分が一時でもフェイトに情を見せてしまったらそれだけで、『フェイトの未来』が消滅してしまうからだ。
予知夢を見るようになって、その通りに行動する事を決めた時から覚悟を決めてはいたが、これほど辛いものだとは思わなかった。
プレシアは鞭を操ってフェイトに痛みと苦しみを与えていく。
鞭を振るうたびにプレシアの息も乱れていく。
「あれだけの好機を前にして、ただボーっとしているなんて……」
(フェイト。早く私から離れなさい。早く私を嫌いになり、この場から離れなさい)
娘が自分から一刻も早く離れていく事を願いながら。
「ご……ごめんなさい」
フェイトが痛々しい姿で途切れ途切れの声でそう呟く。
(謝る必要はないのよ。謝るくらいなら私を嫌いなさい)
プレシアの思いはフェイトにはいまだ届いていない。
「ひどいわフェイト。貴女は母さんをそんなに悲しませたいの?」
本音とは百八十度逆の言葉をフェイトにぶつける。
そして、右手に握られている鞭を動かしてフェイトに向けてぶつける。
そのたびにフェイトは悲鳴を上げ続けた。
プレシアはフェイトの悲鳴を聞くたびに心を痛めてはいたが、それでも心を鬼にして鞭を振るい続けた。
アルフがフェイトを見つけた時には、彼女はグッタリして倒れていた。
抱き上げるが、フェイトは気を失っているのか瞳を開こうとはしなかった。
アルフはフェイトの身体全身を見る。
鞭で打たれた痣がいくつもある。
こんな仕打ちをした人間が、他人なら二度とこんな真似が出来ないようにぶん殴れば終わりだ。
だが、この仕打ちをした張本人が彼女の母親---プレシアだ。
アルフは前々から気になっていた。
何故プレシアはフェイトに対してこのような仕打ちが平然と出来るのだろうと。
何故あんなに頑張っているフェイトに褒めの言葉一つ与えないのだろうと。
これではあまりにフェイトは不憫すぎる。
何をしても報われないというのはまさにこのことだ。
(あの女ぁ!)
アルフはプレシアがいると思われる部屋を怒りと憎しみを込めて睨みつけてから行動に移した。
ジュエルシード九つが輝きながらも宙に浮いている。
プレシアはその輝きに目を奪われる事なく見つめていた。
「九つ。次元震を起こす事は可能ね。でも、アルハザードには届かない」
彼女はジュエルシード九つがもたらす事象と結果を述べたに過ぎない。
彼女にその気はないのだから、仮にその事象を起こしたとしてもそれはすべて演技なのだ。
「次こそ、あの白いガキ(なのはのこと)から回収してきてやる」
プレシアの身体から光の珠が現れ、それが人の姿を象っていく。
海鳴海上で漁夫の利的方法でジュエルシードを掠め取ろうとしたイマジンだ。
「……頼むわ」
プレシアがそう言うと、イマジンはどこかへと飛び立ってしまった。
「………!!」
プレシアの身体全身に妙な不快感が襲い掛かってきた。
「がはっ!」
口を開くと赤い液体を吐き、周囲にそれがへばりつく。
赤い液体---血だ。
口元を手に押さえて、身体を丸めて咳き込んでしまう。
「はあはあ……はあ……はあ…」
ある程度落ち着くとプレシアはまた立ち上がる。
口元に付着している血を手で拭いながら小さく自虐的な笑みを浮かべる。
「悪い母親を演じるのも楽ではないわね」
ドォンと後ろから爆発音が立ち、爆煙が立ち込め始める。
爆煙から出てきたのはアルフだった。
プレシアはアルフを見ると、何をしにきたのか理解した。
アルフの双眸には明らかに自分に対する怒りと憎しみが篭っていた。
(彼女と野上良太郎がいればフェイトは何とかなるわね)
フェイトのために怒れる者がいることがプレシアは嬉しかった。
プレシアは小さく笑みを浮かべる。
だが、アルフにはそれが侮蔑と嘲笑に見えたのか更に怒りを買うかたちになった。
プレシアは振り向かず、背を向けたままだった。
アルフが飛び掛ってくることは予想できたので、魔法障壁を張って防ぐ。
(でも……試させてもらうわ)
「ぐうぅぅ」
バチバチバチとアルフが障壁を手で直に触れて破壊しようとする。
たかが障壁を張られたくらいで諦めるくらいならアルフの命を奪う事も考えていた。
バチバチバチバチという音が鳴りながらも、何か亀裂が走るような音がプレシアの耳に入った。
ガシャンという音を立てて、魔法障壁が崩れた。
(合格、ね)
プレシアは心の中でアルフに太鼓判を押した。
アルフはプレシアのマントを掴んで振り向かせる。
「アンタは母親で、フェイトはアンタの娘だろ!?あんなに頑張ってる子に!あんなに一生懸命な子に!何であんなひどい事が出来るんだよ!?」
プレシアも心の中では「その通りね」とアルフの言い分を認めていた。
アルフの瞳にはプレシアに対する怒りと憎しみが篭っていた。
プレシアのガラ空きとなっている右手に魔力を収束させていく。
アルフがその異変に勘付いたときには遅く、プレシアの手から放たれていた。
声を挙げる間もなく、アルフは後方へと吹き飛んで壁か何かに叩きつけられていた。
(フェイトもアルフくらい感情の赴くままに行動してくれたら……。無理な注文かもしれないわね)
フェイトが感情的に赴くままに行動する人物なら自分もこれだけ手の込んだことをせずに済むのだが、今更蒸し返しても仕方ない。
「あの子は使い魔の創り方が下手ね。余計な感情が多すぎるわ」
上辺だけの酷評をアルフにぶつける。
アルフは口から出ている血を拭いもせずに、プレシアを睨みつけている。
「フェイトは……アンタの娘は、アンタに笑ってほしくて……。優しいアンタに戻ってほしくて……うぐっ!」
アルフは起き上がろうとするが、先程放たれた一撃が相当効いているのか起き上がれない。
プレシアの右手から愛用の杖が召喚される。
先端をアルフに向ける。
「邪魔よ!消えなさい!」
上辺だけの罵声をぶつけながら、杖に魔力が収束されて放たれる。
本能的にアルフは転移魔法を展開するために、左手のひらを地に付けて、橙色の魔法陣を展開させる。
爆発音が響き、爆煙が立ち込め始めると同時に発動した。
爆煙が晴れるとそこには巨大な穴だけがあり、アルフの姿はなかった。
「逃げたわね。アルフが頼るとすれば、野上良太郎くらいでしょう」
プレシアはアルフの行き先を予想しながらフェイトがいる広間へと向かった。
広間にはバリアジャケット姿のフェイトがアルフのマントを布団代わりにして眠っていた。
フェイトの寝顔を見て、プレシアは自分の心に痛みが走っていることを自覚する。
安らかというよりはどこか苦しそうな、誰かに助けを求めるようにも見えた。
「…アルフ……どこにいるの?……」
プレシアはフェイトの寝言を聞くことにした。
夢の中でアルフを捜しているのだろう。
「良太郎……逢いたいよ……」
これはフェイトの願望だとプレシアは思った。
それからもフェイトは寝言をつぶやき、その中には自分の事も口に出していた。
(まだ、この子の中には私がいるのね)
これだけひどい仕打ちをしながらも、自分を想ってくれている。
いっそ未来のことなんて無視して今のことだけ考えてしまおうかとも思った。
フェイトを見るたびに自身の決意が揺れる。
(アリシアは私の不始末で命を落としたようなもの。でも、フェイトだけは必ず!)
失うわけにはいかない。
これ以上、『娘』を失うわけにはいかない。
そのためならば鬼にも悪魔にもなろう。
決意を新たにしてプレシアはフェイトを起こそうとする。
「フェイト。起きなさいフェイト」
「は、はい。母さん」
プレシアの呼びかけに答えるようにフェイトはゆっくりとだが起き始める。
「貴女が手に入れてきてくれたジュエルシード九つ。これじゃ足りないの。最低でもあと五つ、できればそれ以上。急いで手に入れてきて。母さんのために……」
「はい。……アルフ?」
フェイトは自分に被せられているマントがアルフのものだと判断すると、その持ち主の姿を探す。
「ああ、あの子は逃げ出したわ。怖いからもう嫌だってね」
プレシアは嘘を吐いた。誰にでもわかるような大嘘だ。
プレシアはしゃがむ。
「必要ならもっといい使い魔を用意するわ」
フェイトとアルフの関係がこんな程度で壊れる事はないはわかっている。
先程の嘘と同じ様にフェイトがこれで自分に対して、軽蔑なり侮蔑なり憎しみさえ持ってくれるなら良好なのだが。
「いい?フェイト忘れないで。貴女の味方は母さんだけ……。いいわね?フェイト」
フェイトの表情はどこか腑に落ちない感じだった。
それは自分に対して不信感を抱き始めた兆候だとプレシアは判断した。
*
外は夕方で、カラスが合唱を始める頃。
一時帰宅命令が出たチームデンライナー+2は海鳴市に戻っていた。
高町家には良太郎の代わりにリンディが事情説明のために訪れていた。
尚、リンディが高町桃子や高町恭也、高町美由希に語っている内容はすべて嘘である。
「カメ、あの女。間違いなくオマエと同じくらいの嘘吐きだぞ」
「センパイ、僕は僕のために嘘を吐くのさ。嘘を体裁のために使ったりはしないよ」
「似たようなもんやろ。威張るな」
「威張るなー」
ソファでなのはの事を話しているリンディをイマジン四体はヒソヒソと品評していた。
「それにしてもリンディさん、よく良太郎を自由の身にしたわね」
コハナの言い分も尤もかもしれない。
良太郎は自分達とは違い、『協力者』というよりは『容疑者』側なのだ。
だが、リンディは自分達を帰宅命令を出す際に良太郎も戻したのだ。
「良太郎は別に何も悪いことしてねぇだろ。フェイトやオバサンのことを隠してはいるがな」
「それにリンディさんだってわかってるんじゃないの?良太郎は確かにフェイトちゃん側にいたけど、時空管理局に引っかかるようなことは何一つしていないってね」
モモタロスとウラタロスは良太郎が自由の身になるのは別段、不思議な事ではないという口調で言う。
「クロノは渋っとったけどな」
「黒いのは良太郎のこと嫌いなんだよ。きっと」
キンタロスとリュウタロスは良太郎を自由の身にする事に唯一渋っていたクロノに対して批評していた。
「なのは、今日明日くらいはお家にいられるんでしょ?」
美由希の問いになのはは二つ返事で答える。
「アリサもすずかちゃんも心配していたぞ。もう連絡はしたか?」
恭也が訊ねると、なのはは「うん、さっきメール出しといた」と返答した。
海鳴市ではあるが高町家とは違う場所で良太郎は一人寝床代わりに使っているソファに寝転んでいた。
そこはフェイト達がアジトとして使っていたマンションだった。
幸い、合鍵は持っていたので入ることは出来た。
「やっぱり、誰もいない、か」
フェイトかアルフどちらかに会うことが出来れば幸いだと思ったのだが現実はそんなに甘くはないらしい。
「夕飯一人分は味気ないしね」
良太郎はソファから起き上がって外食を決意し、部屋を出た。
部屋を出て、鍵を閉めてから良太郎は一人で歩く。
「フェイトちゃんとアルフさん、ちゃんと食べてるかな……」
良太郎は知らない。実はアルフが海鳴市にいることに。
そして、アルフがきっかけでどこかギクシャクしていた面子が無事に元通りになることも。
次回予告
第三十五話 「アルフがもたらす仲直り 後編」