海鳴海上に一人の少女と一匹の獣が空中にいた。
フェイト・テスタロッサとアルフである。
黄金の魔法陣を広範囲に展開し、目を閉じながら唇を動かしていた。
「アルカス・クルタス・エイギアス……」
フェイトは更に唇を動かす。
「きらめきたる天神よ。今導きのもと、降りきたれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル……」
展開された黄金の魔法陣から雷が海に向かって降りそそいでいく。
振る気配のなかった雨が急に降ってきた。
使い魔は主の行動に目を光らせていた。
ジュエルシードは海の中にあるものと考えたフェイトは海に電気の魔力流を叩き込んで、強制発動させて位置を特定させる事を選んだ。
そして、特定されたジュエルシードを封印し回収すればいいというプランだ。
一人で行うにはリスクが大きすぎるというものだが、成功すれば未回収であるジュエルシードを独占できるという魅力もあった。
「撃つは雷、響くは轟雷。アルカス・クルタス・エイギアス……」
フェイトの頭上に金色の巨大な球が構成され、ぎょろりと目のようなものが開く。
そして、それは自ら雷を発していた。
その黄金の球体はひとつではなく六つであり、それぞれが輪を描くようにして、雷で繋がっていた。
黄金の魔法陣が展開し、フェイトは宙を舞いながら、海鳴の海に向かって放つ。
六つの金色の球もフェイトにつられるようにして移動する。
強風が発生し、海がうねりを上げている。
海中の中に眠っていると思われるジュエルシードを強制発動させるためにフェイトは人工的に天災を引き起こしたのだ。
これで、回収できれば御の字だが回収できなければ完全に無駄骨になる。
海中から走り出した光の柱をフェイトは息を乱しながらも、睨みつける。
バルディッシュをサイズフォームにして構える。
(必ず回収する!絶対に!)
フェイトを支配するのはそれだけだった。
*
次元航行艦アースラでは海鳴の海上で起こった出来事はモニター室のモニターで映し出されていた。
「良太郎!」
モモタロス達、四体のイマジンやコハナも遅れてモニター室に来室した。
「これ、何?」
ウラタロスが良太郎に訊ねる。
「あ、おいアレ、フェイトやろ?」
野上良太郎がウラタロスに答える前にキンタロスがモニターでフェイトを発見した。
「あー、ホントだ!見て見て!ワンちゃんもいるよ!」
リュウタロスもモニターを見ながらアルフも見つけたようだ。
「良太郎、あの子は何やってるの?」
コハナは何故、フェイトがわざわざ人工的に天災を引き起こしたのかという理由がわからないようだ。
「多分だけどね。魔力流を叩き込んで海中にあるジュエルシードを強制発動させて回収しようとしてるんだよ」
良太郎がコハナに、フェイトがこれから行おうとしている事を説明した。
「何とも呆れた無茶をする子だわ!」
リンディ達、プロからすればフェイトの行動は自殺行為でしかない。
「無謀ですね。間違いなく自滅します。あれは個人が出せる魔力の限界を超えている!」
クロノもフェイトの行動には呆れて同時に酷評も混ぜる。
危険だとわかってていて、それに手を出すのは『勇敢』でも何でもない『蛮勇』もしくは『無謀』でしかないのだ。
二人のプロからのあまりに酷い評価に
先にモニタールームに入った良太郎と高町なのはは特にだ。
「あ、あの!わたし急いで現場に!」
なのはは出動しようとする。だが、
「その必要はないよ。放っておけば彼女は自滅する」
クロノの一言でなのはは金縛りにでもあったかのように身体全身が停まった。
モニターに映っているフェイトは自身が起こした天災の中を駆け回りながら、ジュエルシードの回収に取り組んでいた。
「仮に自滅しなかったとしても、力を使い果たしたところで叩けばいい」
「なるほどね」
ウラタロスはクロノのプランに一応の理解を示していた。
良太郎もウラタロス同様、理解していた。
クロノの言うように、相手が弱まったところを叩けばこちら側のリスクはほぼゼロに近い状態で物事を収める事が出来る。
ただし、納得はしていなかった。
「でも……!」
なのはが異議を唱えようとするが、聞く耳持たない状態で事態は進行していた。
モニターに映るフェイトは竜巻を避けながらジュエルシードが発している光の柱へと向かっていた。
良太郎はモモ、ウラ、キン、リュウ、コハナに目線を送る。
誰もが頷き、モニター室へと出て行った。
良太郎がなのはの横に立って、右肩に手を置く。
「なのはちゃん、落ち着いて」
「良太郎さん、でも……。!!」
良太郎の横顔を見た直後、なのはは黙った。
先に出たイマジン達と何か関係があるのだとなのはは思った。
良太郎はしゃがみ、なのはに小声で耳打ちする。
「もうすこしだけ我慢して。あとユーノに念話でモモタロス達と合流するように言ってくれる?」
「わ、わかりました」
なのはは小声で了承した。
モニターに映っているフェイトは竜巻に吹き飛ばされ、助けようとしたアルフは雷に身体の自由を奪われていた。
「私達は常に最善の選択をしないといけないわ。残酷に見えるかもしれないけど、これが現実よ」
リンディの言葉には重みがあった。それは彼女自身が体験した事なのだろう。
「そうですね」
良太郎はリンディの意見に相槌を打った。
それが『適当な受け流し』ということは、なのはにはすぐに理解できた。
その場に似つかわしくないミュージックが流れた。
発信源は良太郎のズボンのポケットからだ。
ケータロスを取り出し、展開する。
「こんな時に非常識な!」
クロノがミュージックの元凶を睨みつける。
「あ、ごめんね」
そう言いながら、良太郎はなのはを連れてモニタールームを出た。
その後次元空間の空間が歪み出し、正体不明の物体がアースラの側にいることが伝わったのはその直後の事だった。
『おう、俺だ。準備できてるぜ。オッサンも了解してる』
発信者はモモタロスだった。
「わかった、ありがとう。すぐ行くよ」
良太郎はケータロスを切った。
「なのはちゃん。今からフェイトちゃんを助けに行こう!」
良太郎ははっきりと告げた。
「え?……。は、はい!」
なのはは良太郎の言葉に最初は理解できなかったが、理解すると力強く返事した。
二人で仲間達が待っていると思われる場所に向かった。
そこには四体のイマジンとコハナとユーノがいた。
そして、全員の前には一つのドアがある。
「行くよ!みんな!」
その場にいる全員が頷いた。
良太郎はドアのスイッチを押して開いた。
そこには次元空間でなく、一人の女性と杖を携えているスーツをびしっと来た初老の男性が待ち構えていた。
「おーし!俺一番!」
モモタロスが飛び移った。
「じゃ、僕二番!」
次にウラタロス。
「ハナ、俺に捕まっとき!」
「え、うん」
キンタロスがコハナを抱きかかえて飛び移り、
「なのはちゃん、フェレット君!行こ!」
リュウタロスはなのはを抱きかかえ、ユーノは人間モードからフェレットモードになってリュウタロスの頭に乗っかる。
準備が整ったところで飛び移る。
「よし、最後は僕、と」
良太郎が飛び移ろうとした時だ。
「待つんだ!!」
クロノが良太郎を止めた。
「貴方達は一体、何をしようとしているんだ!?」
半ば興奮気味にクロノは良太郎に訊ねる。
「フェイトちゃんを助けに行くんだよ」
良太郎は荒げる事もなく当然のように告げる。
「貴方はわかっているのか?彼女は我々の敵なのかもしれないんだぞ!」
「クロノ。言葉を間違えてるよ。我々じゃなくて君達の、でしょ?それに……」
良太郎はクロノに顔を向ける。
「フェイトちゃんは敵じゃない。仲間だ!」
そう告げると良太郎も飛び移った。
アースラのドアは閉まり、クロノはただその場に立ち尽くしていた。
その直後、アースラの側にいた未確認物体が消失したという情報が入ったのはすぐの事だった。
*
アースラの側に突如現れた未確認物体ことデンライナーは次元空間から姿を消し、海鳴海上の更に上の位置にいた。
といっても、フェイト達が展開した結界の中であることには変わりはない。
「しかし、デンライナーごと転移させるとはまだ若いのにやりますねぇ」
デンライナーのオーナーがユーノを賞賛した。
「いえ、そんな……」
「もしかして、皆さんが途中で退室したのは……」
「そういうことだよ。なのはちゃん」
ウラタロスがなのはの考えが正解であると認めた。
「あの黒いのと喧嘩してもよ。フェイトは助けれねぇしな」
「だから、良太郎は俺等に目で指示を送ったんや」
「アイツ、絶対悔しがってるよ!」
モモタロス、キンタロス、リュウタロスがそれぞれの意見を述べる。
「良太郎、フェイトちゃんを助けるってどうするの?管理局とは対等関係だけど真っ向から楯突く形になっちゃった以上、失敗したら何言われるかわかんないわよ?」
コハナの言うように、対等関係とはいえ時空管理局の方針に完全に異を唱える事をしたのだ。フェイトを助けるだけでなく、ジュエルシードも回収しないと顔が立たないだろう。
「とにかく、フェイトちゃんとアルフさんを救助しよう。ジュエルシードの回収はそれからだよ」
良太郎の一言にデンライナーにいる全員が頷く。
「では、このまま下りますので、皆さん。しっかりと何かに掴んでおいてくださいねぇ」
オーナーがそう言うと同時に、デンライナーが下りだした。
乗員は無重力状態になりつつあった。
「「「「「「「「うわあああああああああああああああ」」」」」」」」
悲鳴を上げさせながらもデンライナーは雲を突き抜けて目的地へと向かった。
その場にいる者の視界と体温を奪う雨と、目的へ行かせまいと障害物のように遮る荒波、そして無慈悲に襲い掛かる雷のなかを一人の魔導師と一匹の使い魔がいた。
フェイトはジュエルシード六個をいまだに一個も回収できずにいた。
ただでさえ、無茶とも無謀といえる方法を用いてジュエルシード六個を強制発動させてから、それを封印しようというのだ。
いわば体力も魔力もレッドゾーンに近い段階での回収ともいえる。
「はあ…はあはあ……はあ」
バルディッシュの黄金の鎌刃も徐々に消えていった。
フェイトの隙を突くかのように竜巻が襲い掛かる。
体重が軽い上に、バテ気味なフェイトは紙のようにあっさりと後方へ飛ばされるが、何とか体制を整える事は出来た。
「フェイト!」
アルフはフェイトを助けるために向かうが、雷が鎖のようにして彼女に纏わりつき、移動を妨げた。
「ええい!!邪魔だねぇ!」
言葉を荒げるが、相手は物言わぬ脅威なので言葉による攻撃は効果はない。
「良太郎が乗ってる電車があればこんな脅威なんて!!」
アルフはデンライナーの存在を思い出す。
あの非常識な乗り物があるだけでも今の状況を変えることができることはたしかだ。
(アルフの言うとおりかも。あの電車があれば回収もこんなに手間取らなくてすむのかな)
フェイトはアルフの言葉に釣られて、そんなことを考えてしまう。
だが、すぐに現実に帰る。
ここにはデンライナーはなく、いるのは自分とアルフだけだ。
彼女は今現在ないものを当てにするほど楽観的な思考は持ち合わせていない。
(回収……するんだ。絶……対に!)
ジュエルシードが放つ光の柱を睨みながら強く思う。
だが、身体は彼女の身体に反して動こうとはしない。
眼前の荒波が魔物のようにも見えた。
「うう……まだま……だ……。!」
意識まで朦朧とし始めたとき、この場には似つかわしくない音楽が彼女の耳の中に入った。
「フェイト!アレ!!」
アルフが顔を向けている方向に、フェイトも顔を向ける。
空中に線路が敷設され、電車がこちらに向かって走ってきた。
「良太郎が乗ってきた電車だ……」
デンライナーは雨も強風も雷もものともせずに、フェイトの元まで走って停車し、ドアが開く。
「フェイトちゃん!こっちに!早く!」
そこには自分に手を差し伸べている良太郎がいた。
フェイトとアルフは警戒しながらも良太郎が差し伸べた手を掴む事にした。
良太郎はフェイトとアルフをデンライナーの中に収容すると、オーナーにドアを閉めるように頼む。
ドアが閉まると、良太郎は一人と一匹を食堂車へと案内した。
食堂車に入るとフェイトとアルフにはタオルが渡され、その後コーヒー(良太郎が淹れたもの)が渡された。
といっても、フェイトがアルフの分まで受け取っているかたちだが。
「タオルで身体を拭いて、良太郎君が淹れたコーヒーを飲んでください」
「あ、あの……。どうも」
「あー、まあ……。ありがと」
オーナーがフェイトとアルフに席に着くように促す。
フェイトとアルフは礼を言ってから席に着く。
「どうして私が淹れたものじゃダメなんですかぁ!?」
ナオミが自分の仕事を奪った良太郎に抗議する。
「……アレはダメでしょ」
良太郎はナオミが淹れたコーヒーを思い出しながら、できるだけ柔らかい口調で指摘した。
その意見にコハナはうんうんと首を縦に振る。
ナオミが淹れたコーヒーはイマジン達やオーナーには受けがよいが、それ以外の者達には物凄く悪い。
大抵の人間は一口含んだだけで、吐き出してしばらくは得体の知れない不快感が身体を支配する。
そんな半ば下剤に近いものをフェイトやアルフに飲ませるわけにはいないのだ。
ナオミには悪いが、この緊急時に病人もどきを出すわけにはいかないのだ。
なお、余談だが先にデンライナーに乗っているなのはとユーノも良太郎が淹れたコーヒーを飲んでいる。
フェイトとなのはの目が合う。
互いにコーヒーを飲んでいる状態なので、何も言えない。
アルフは獣型のままでなのはとユーノを睨みつける。
「フェイトの邪魔はさせない!良太郎!いくらアンタでもね!」
「このバカ野郎が!おい獣女!良太郎はオメェ等助けるためにここまで来たんだぜ!」
モモタロスが良太郎の真意を口にし、アルフを止めた。
「「え?」」
フェイトとアルフは目を丸くする。
「しかもだよ。わざわざ管理局の命令に背いてまで、ここに来たんだよ。疑うなんて心外だねぇ」
ウラタロスが皮肉を込めて内情を語る。
「良太郎もなのはもユノ助もお前らが心配でここに来たんや。それでも疑うんか?」
キンタロスがフェイトとアルフに確認する。
「………」
「………」
フェイトとアルフも黙ってしまう。
「みんな、見てよ!外が凄い事になってるよ!」
窓から外を見ていたリュウタロスが全員に外を見るように促す。
良太郎、コハナ、イマジン達で窓から外を眺める。
竜巻がいくつも発生し、どういっていいかわからない状態になっていた。
雷が鳴り、強風が吹き乱れて、雨が矢もしくは弾丸のように休みなく振り続けている。
「事態は刻一刻と悪くなるだけだね。急いで回収するしかない、かな」
良太郎の一言に魔導師サイドの面々はピクリと動いた。
なのはとユーノが席を立ち、フェイトとアルフの席の対面に座る。
ちなみにアルフは椅子に『座る』というより『乗っかっている』という表現のほうが正しい。
「何だい?アンタ達?」
アルフがまだ警戒を解かずに半ばケンカ腰に二人を睨む。
「待って。僕達は戦うつもりはないんだ」
「フェイトちゃん。フェイトちゃんは自分のことを一人ぼっちだと思ってるのかもしれないけど、違うと思うよ」
「え?」
なのはの一言にフェイトは聞き返す。
「だって……だって、フェイトちゃんにはアルフさんや良太郎さんがいるんだもん」
「アンタ……」
アルフの呟きが耳に入っているのかどうかはさておき、なのはは続ける。
「一人で寂しさを抱えきれないなら、アルフさんや良太郎さん、ハナさんやイマジンの皆さんやユーノ君。それに……、わたしだっているんだから、分け合う事は出来るよ」
良太郎もフェイトの前に立ち、しゃがんでからフェイトの頭に手を置いてから言う。
「前の戦いだって、協力し合ってたじゃない。一度出来たんだからもう一回できるよ」
フェイトは食堂車にいる面々を見る。
「わかった。やろう」
短い言葉だったが、食堂車にいる全員は大声で喜んだ。
外は更に激しさを増していた。
ジュエルシードを封印する事が出来るのは魔導師だけなので、厳密に言えば良太郎達は直接手を貸す事は出来ない。
デンライナーで事の成り行きを見守る事しか出来ないのだ。
それでも良太郎はイマジンとの戦闘に備えてデンオウベルトを腰に巻いている。
なのはもユーノもバリアジャケットを着用している。
レイジングハートがバルディッシュに桜色の魔力光を渡している。
恐らく急場しのぎの魔力回復処置だろう。
「モモタロス」
「イマジンの臭いはねぇよ」
良太郎の意図が理解できるモモタロスは即答した。
「仮に出てきたとしても、どこから来るのかな?」
ウラタロスはイマジンの出現場所を予測する。
「前みたいに海か?」
「空からじゃなーい?」
キンタロスとリュウタロスはそれぞれ勝手に予想するが、どちらもありえることなので何ともいえないというのが聞いている良太郎の見解だったりする。
「一番いいのは出てこない事なんだけどね」
「そうね」
良太郎は本音を呟き、コハナは頷きながら見守る事にした。
「二人できっちり半分個」
共同作業ならば折半が妥当だろうとうなのはの提案だ。
フェイトにしてみれば全部手に入れることが理想だが、現実には自分の力では六個どころか一個も回収できない。
ならば半分の三個でもゼロよりはマシだ。
フェイトは小さくこくりと縦に振る。
既にユーノとアルフがジュエルシードが核となっている六箇所の竜巻を翡翠色の鎖六本と橙色の鎖で動きを封じていた。
それでも竜巻は蛇か鰻のようにウネウネと抵抗しているかのように動いている。
「くっ!」
「うううう!」
六ヶ所同時に巻きつけていることは至難のことなのか一人と一匹は苦悶の声を漏らす。
「ユーノ君とアルフさんが止めてくれている!今のうちに!」
なのはが決意を持った瞳で言う。
「二人でせーので一気に封印!」
なのはは先導するかのように次の行動に移りだす。
「シューティングモード」
レイジングハートは飛行しながらも自らを主が次に取る行動を予測し、形態を変化させる。
なのはは所定の位置に到達すると、桜色の魔法陣を展開して足を着ける。
彼女はこちらを見ている。
(あの子の目の輝き、良太郎と一緒だ)
自分を信じてくれている目だ。
ならば、良太郎の言うように協力し合える。
「シーリングフォーム。セットアップ」
バルディッシュがサイズフォームから形態を変化した。
まるで、フェイトに次の行動を取る事を促すかのように。
「バルディッシュ……うん、やろう」
なのはを見ると左目を閉じて、ウインクしてきた。
なのはすぐ真面目な表情となって、眼前の脅威を睨む。
「ディバインバスターフルパワー。行けるね?」
レイジングハートを天に掲げて、なのはは確認する。
「オーライ。マイマスター」
天に掲げられたレイジングハートは即答する。
そして同時に先端の後ろから桜色の翼が広がる。
振り下ろすと、展開されていた魔法陣が更に広がった。
フェイトもまた黄金の魔法陣を足元に展開し、眼前の脅威を睨んでいる。
バルディッシュの先端から後ろに黄金の翼が広がる。
魔法陣には雷が帯びていた。
なのははレイジングハートをまるで大砲でも放つかのように腰を入れて構えている。
先端には桜色の輪が展開されている。
フェイトもバルディッシュを天に掲げて魔力を収束させている。
同時に彼女の周りには無数の雷が守るかのように帯びている。
「せーの!!」
なのはの言葉を合図に、先に行動を取ったのはフェイトだった。
「サンダァァァァァァァァ」
更に上に飛行してからバルディッシュを薙ぐようにして下ろすと、黄金の柱のような魔力光が海に叩き込まれる。
六つの竜巻に直撃し、猛り狂うように動いてたものが停止し始める。
「ディバイィィィィィィィィン」
続いてなのはが、レイジングハートの先端に特大の魔力光を収束させていく。
先に行動していたフェイトは、上昇から下降へと急速に切り替える。
「レイジィィィィィィィ!!」
シーリングフォームのバルディッシュを展開していた黄金の魔法陣に突き刺した。
魔法陣から黄金の魔力光が噴き出す。
極め付けともいわんばかりの一撃が竜巻を襲う。
フェイトより遅く行動に移したなのはは眼前の脅威に向けてレイジングハートを構える。
「バスタァァァァァァァァァ!!」
叫ぶと同時にレイジングハートから特大の桜色の魔力光がレーザー光線のように真っ直ぐに動きを封じられている竜巻に向かっていった。
竜巻の消滅と同時に、特大の魔力やら少量の魔力がぶつかり合って混じり合いながらも消滅した。
ただし、それなりの代償もしくは傷跡は残ってしまうが。
そう、たとえば……
「み、みんな大丈夫?」
「とんでもねぇな。魔導師ってのはよ」
「あの二人の将来が少々恐ろしくなってきたよ」
「下手すりゃ、俺等より強いで。あの二人」
「そんなこといいから早くどいてよ!僕、重くて潰れそうだよ!」
デンライナーの中は先程の魔力の余波で傾き、ゴッタゴタになっていた。
蒼い柱が海底から立ち、六個のジュエルシードが浮上した。
なのはが見ると六個全てになのはが映り、フェイトが見ると六個全てフェイトが映っているのだろう。
それが自身の中の自分のようになのはは思えた。
(同じ気持ちを分け合えるなら、さっきも言ったように悲しい気持ちも寂しい気持ちも分け合う事が出来るんだ)
なのはは自身がフェイトに告げたことを思い出していた。
眼前のフェイトを見ると、そんなことがどうでもよくなってきた。
ここに来たのは困っていたから助けに来た、という単純な理由だった。
でも、それだけではない。
きっと、これを告げることが本当の理由なのかもしれない。
(ああ、そうなんだ……。やっと……わかった。わたし、この子と分け合いたいんだ)
なのはは胸に手を当て、フェイトに手を当てて告げた。
「友達になりたいんだ」
その場の空気が変わった。
冷たくはない。温かくなりつつある空気だった。
その場にいる誰もが何か良い事が起こりそうだと妙な予想をしてしまいたくなる雰囲気だ。
アルフもユーノもデンライナーの中にいる面々も何かが起こると思っていた。
そして、それは起こった。
「ジュエルシードをよこせぇ!」
空から鳥型のイマジンが六個のジュエルシードを狙って空から降りてきた。
フェイトとなのはを吹き飛ばして、ジュエルシードを強奪しようとする。
吹き飛ばされたフェイトをアルフが獣型から人型となって、海に落ちる前に救出することに成功した。
その表情には怒りが満ち溢れていた。
そのままジュエルシードまで移動する。
イマジンを殴り飛ばして、ジュエルシードを手に取ろうとするがなのはとも電王とも違う武器がアルフを遮った。
眼前にいたのはクロノだった。
ただでさえ、以前も邪魔にされフェイトの努力を無にするような輩ばかりでアルフは完全に苛立っていた。
「邪魔をするなぁぁぁぁぁ!!」
叫ぶと同時にアルフはクロノを腕力のみでぶっ飛ばした。
しかし、浮遊しているのは三個しかなかった。
ぶっ飛ばしたクロノを見ると、彼の左手には三個のジュエルシードが握られていた。
アルフは怒りと憎しみを込めて、魔力を拳に収束させて海へと叩き込んだ。
小さな波が上がり、目くらましになるには十分なものだった。
そこにはフェイトもアルフもいなかった。
魔力の余波から態勢を整えたデンライナーではあるが、完全に時既に遅しとなっていた。
「良太郎……」
モモタロスが良太郎を見る。
「………」
良太郎はただ黙って空を睨んでいた。
降り続ける雨が良太郎にはフェイトとアルフとプレシア・テスタロッサの涙にも思えた。
次回予告
第三十四話 「アルフがもたらす仲直り 前編」