雨雲もしくは雷雲らしきものが渦を巻いている空間を次元航行艦アースラは航行していた。
その中で野上良太郎は特にする事もないので、いざという時に備えて艦内を散策していた。
「確かに全部把握しても脱走は無理そうだね」
クロノ・ハラオウンの挑発に乗る気はないが、こうして歩いてみると彼の自信も頷けるものだった。
アースラスタッフ達が良太郎をチラチラと見ている。
好奇の眼差しが大半を占めているだろう。
(やりにくいな。それに僕からしたらアースラにいる人達の方が珍しいんだけどね)
良太郎はそんなことを思いながら口元を緩めてしまうが、すぐに真剣な表情となる。
これからのことを考えたからだ。
(僕がリンディさんに言った事が、その通りになるとしたらそろそろモモタロス達が来ると思うんだけど……)
良太郎はケータロスを見る。日付が変わる時刻になりつつあった。
「何かあの変な怪人四体が来たぞ」
「民間人なのにロストロギアを回収した子供達も来てるぞ」
「一人、見慣れない女の子が来たぞ。あの子も魔導師なのかな?」
そんな声が良太郎の耳に入った。
それは良太郎の知り合いの特徴を見事に捉えたものだった。
転送装置がある場所まではここからは近いし、既に道程も記憶している。
それから五分後。
目的地に着いた良太郎が見たものはというと、
モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、コハナ、高町なのは、ユーノ・スクライア(人間)がいた。
「みんな!やっぱり来たんだ」
「当たり前だろ!」
良太郎が声をかけ、代表としてモモタロスが返した。
時間は午後十一時四十五分となっていた。
到着した面々はエイミィ・リミエッタの案内でそれぞれの部屋に荷物を置いた。
「今から今後の方針と皆さんの紹介がありますので、付いてきてください」
明るく愛想よく今後の事を告げてくれた。
「黒いの(クロノのこと)と違って、愛想いいな。あの姉ちゃん」
モモタロスが隣にいる良太郎に耳打ちする。
「センパイ、比べる相手を間違えてるって」
ウラタロスがクロノとエイミィを比べても仕方ないと指摘する。
「ま、色んなヤツがおるっちゅうことや」
キンタロスが腕を組んで、クロノやエイミィ、リンディ・ハラオウンと言った個性的な面子を認めるような事を言う。
「僕、アイツやだー」
リュウタロスは気が進まないのか足運びが他の三体よりも機敏としていなかった。
「リュウタ君。ワガママ言っちゃダメだよ」
隣を歩いているなのはが苦笑いを浮かべながらリュウタロスをたしなめる。
「良太郎さん。何かしました?」
ユーノが良太郎の隣まで歩み寄って訊ねてきた。
「何かって何を?」
良太郎はユーノが何を聞きたいのかという趣旨がわからなかった。
「実はですね。協力を申し出た時、五分五分の扱いになったんです。民間人と大組織がですよ?」
「普通ならまずありえないことだね。ユーノがそうリンディさんに申し出たの?」
ユーノは首を横に振る。
「いえ、リンディ提督からです」
「リンディさんから?」
「はい。だからもしかしたら良太郎さんが何かしたのかなって思って聞いてみたんです」
良太郎は今に至るまでのアースラでの自身の行動を思い浮かべる。
食堂で暴食してから、リンディやクロノと話をしたくらいだ。
特に「厚遇してくれ」と申し出てはいない。
なら、可能性とするならば時空管理局が勝手に自分達に何らかの脅威を感じて、機嫌を損なわない程度に取り扱おうと考えたのかもしれない。
「ユーノとしてはその扱いにどう思ってるの?」
良太郎は逆にユーノにこれから置かれようとしている処遇について訊ねる。
「正直に言えば意外ですよ。『協力』といっても支配下に置かれるはずですからね」
「確かに、ね」
良太郎もユーノの意見には賛成だった。
大組織が個人団体と対等な関係を保ちたがるはずがない。自分が常に優位に立ちたいものなのだ。
「良太郎さんは自分達のことをどのくらい話したんですか?」
「この世界とこの時間の人間ではないってことと、後はイマジンのことは包み隠さず、かな」
「それだけ話せば時空管理局が脅威に感じて、五分五分の関係を持とうとするのも頷けますね」
それは自分が仮に同じ立場だったら、そうすると言うような口調だった。
「みなさーん。着きましたよ!こちらでーす!」
先頭を歩いていたエイミィの足が停まり、左手がこれから入室しようとする部屋を指していた。
恐らく今から入る部屋は会議室だな、と良太郎とユーノは予測した。
そこはアースラの中ではとにかく暗い印象しかなかった。
電気が通っていないはずがないので、雰囲気を出すためにわざとこんな半分暗いような演出をしているのではないかと、初めて入室する者達が最初に感想として出すだろう。
既にリンディ、クロノを始めとする主なアースラスタッフが座っていた。
良太郎達は空いている席に適当に座る。
ちなみにイマジン達の横及び対面になっているアースラスタッフは小刻みに震えていたりするが、誰も見なかったことにした。
それが運悪く隣と対面に座る型になってしまった者達のプライドを守るための唯一の手段だからである。
面子が揃った所で会議が始まった。
「というわけで、本日零時を持って本艦全クルーの任務はロストロギア---ジュエルシードの捜索と回収に変更されます。また、本件においては特例として問題のロストロギアの発見者であり、結界魔導師でもある……」
リンディが威厳と迫力を身体中に纏わせながら今後の方針を説明しながら、キリのいいところで適任者に自己紹介を込めてバトンタッチする事にした。
「ユーノ・スクライアです!」
気合を込めて席から立ち上がり、気合を込めて自己紹介した。
「いいぞ!ユーノ!ぶべっ」
モモタロスが茶化すが隣に座っているコハナに脇腹を殴られて沈黙した。
「こほん、それから彼の協力者であり、現地の魔導師さん……」
リンディはもう一度、先程と同じように威厳と迫力を纏ってからユーノの協力者に自己紹介させる。
「た、高町なのはです!」
ユーノに勝るとも劣らぬ気合で席から立ち上がった。
「なのはちゃん!ガンバレー!ぶっ」
なのはを応援したリュウタロスだが、その直後に背後に移動していたコハナのハリセンを食らってテーブルに突っ伏した。
「あ、あとそんな現地の魔導師さん達に協力してくれる別世界から来た……」
二度目の緊張感を削ぐ攻撃を食らいながらもリンディは良太郎達を紹介しようとする。
「野上良太郎です」
良太郎が立ち上がって自己紹介した。
「モ、モモタロスだ……」
脇腹を押さえながらモモタロスが立ち上がった。
「ハナです。よろしくお願いします」
コハナが先に行った行動とは百八十度違う態度で頭を下げた。
「ウラタロスだよ。よろしくね」
ウラタロスは差し障りのない紹介をした。
「キンタロスや」
名を告げた後は座り込んで眠り始めた。
「僕、リュウタロス。まだ痛ーい」
後頭部を押さえながら自己紹介をした。
「以上八名が臨時局員の扱いで事態に当たってくれます」
リンディが説明を終えると、ユーノ、なのは、良太郎、コハナは頭を下げたがイマジン達はそのままだった。
会議室で協力者の紹介が終わるとアースラスタッフとチームデンライナー+2(+2とはなのは&ユーノの事)はモニター室に戻り、リンディは艦長席に座る。
「ここからはジュエルシードの位置特定に関してはこちらでするわ。場所がわかったら、現地へと向かってもらいます」
「「は、はい!」」
艦長席の後ろにいるなのはとユーノが返事する。
「それから、ジュエルシードを狙っている怪人---イマジンについては貴方達に一任します」
リンディはジュエルシードを狙うイマジンの討伐如何を良太郎達に任せることにした。
「はい!」
「わかりました」
コハナと良太郎がそれぞれ返事する。
「艦長、お茶です」
エイミィがトレーにお茶と砂糖とミルクを乗せてリンディに渡した。
良太郎の服の裾が引っ張られる。
引っ張っていたのは、なのはだった。
「砂糖とミルクってお茶の中に入れるんですよね?」
起こってほしくないというような表情で小声で訊ねてきた。
「……間違いなく入れるね」
良太郎もリンディの味覚が常人のソレとは違うと考えているので、なのはの予想を肯定した。
「注意した方がいいんじゃないの?」
コハナが良太郎に小声で進言する。
「無理だよ。あんなに美味しそうに飲んでるんだよ」
良太郎が見ているものに、コハナとなのはも見る。
リンディが湯飲みに入った茶に砂糖とミルクを放り込んだ。
そして、それを美味しそうに飲んでいた。
「あのお茶って、あんな飲み方しませんよね?」
日本人ではないユーノでもリンディの飲み方には疑問があるらしい。
高町家の食卓をフェレット姿で毎日見てきた彼だからこそ疑問にもてたといってもいいだろう。
「ところで、なのはさん。学校の方は大丈夫なの?」
リンディは引き込んではいても、なのはの本来の生活を気にはしていた。
「あ、はい。それなら家族と友達には説明していますので……」
「そう、なら問題ないわね」
リンディは早速アースラスタッフに的確な指示を下していた。
ちなみにイマジン達四体はというと、いたら確実に騒ぎを起こすので食堂へと強制的に移動させられていた。
モニタールームから出た良太郎とコハナはイマジンが出現したと連絡が出るまでの間は食堂か割り当てられた部屋で待機するかの選択肢が用意されていたが、良太郎自身は過去で得た『真実』を留守番してくれた面々に報告するために食堂へと向かうことにした。
イマジン達四体のうちモモタロスとリュウタロスはというと、遊び道具も持ってきていないため机に突っ伏しており、ウラタロスは食堂のメニューを退屈を紛らわすために見ており、キンタロスは腕を組んで椅子にもたれて寝ていた。
「あ、良太郎、ハナさん。センパイ、キンちゃん、リュウタ。起きなって」
ウラタロスがメニューから目を離すと、良太郎とコハナが映った。
ウラタロスが寝ている一体と机に突っ伏している二体を揺すって起こす。
「う、ううん。どうしたんや?カメの字、朝か?」
「何だよ?カメ、イマジンでも出たか?」
「え?イマジン、今度は僕が行くからね!」
相当暇なのかイマジンの出現でさえ、彼等には退屈を潰すためのひとつにされていた。
「アンタ達!不謹慎よ!」
コハナがモモタロスとリュウタロスを叱る。
「何だよ。コハナクソ女じゃねぇかよ」
モモタロスは退屈がやっと潰れると期待したのか、コハナを見た瞬間にガッカリした。
「モモタロス、ガッカリしてる場合じゃないよ。これから僕等が『過去』で見てきたことを話すんだから」
良太郎がそう言いながら、空いている席に座る。
「そうか。おいオメェ等、耳の中ちゃんと掃除してから聞けよ?」
ダレていたモモタロスは急に真面目になり、三体を促した。
チームデンライナー全員が席に着く。
それだけで食堂内の雰囲気は急に重くなったように感じた。
「僕とモモタロスが見てきた『過去』について、皆に話しておかなきゃいけないことがあるんだ」
良太郎が口を開き始めた。
モモタロスを除く面々は一人と一体が見てきた出来事が想像以上に重たいものだと知り、そのあとしばらくは気楽な会話をする事が出来なかった。
*
良太郎が仲間達に自身が見てきた『過去』のことを話している頃。
なのはとユーノは海鳴とは違う別の次元世界で、ジュエルシードが発見されたのでその回収にあたっていた。
発見されたジュエルシードのシリアルナンバーは8。
ジュエルシードの影響で害が及ばないように既に周囲には結界が展開されていた。
それは外観で見ると、ドーム状になっている。
なのはとユーノはバリアジャケットを纏っており、ジュエルシードの力で巨大化した生物を相手にしていた。
その生物は元は鳥類の部類なのだろうか、鳳凰のような姿をしていた。
しかし、現在は翡翠色の鎖で身体中を拘束されて自慢の双翼を広げても羽ばたく事ができなかった。
翡翠色の鎖を繰り出しているのは地上で鎖の色と同じ魔法陣を展開しているユーノだった。
「捕まえた!なのは!」
ユーノはなのはに促す。
「うん!」
木の枝にのっかっていたなのははレイジングハートを巨大鳥に向けて構える。
もがきながら翼をバタバタさせているため、突風がなのはに降りかかる。
それでも、なのはは構えを崩さない。
「シーリングモード。セットアップ」
レイジングハートの先端が形状を変形させていく。
巨大鳥に桜色の魔力で構成された無数の線が巨大鳥に突き刺さる。
突き刺さるといっても、貫かれた巨大鳥は出血していない。
貫いてダメージを与える事が目的ではなく、拘束させることが目的だということがわかる。
「スタンバイレディ?」
レイジングハートが主に確認する。
なのはは決意を込めた瞳を持って、ユーノの鎖で拘束されている巨大鳥を見つめながら唇を動かす。
「リリカルマジカル!ジュエルシードシリアル8!封印!」
「シーリング!」
なのはが唱え、レイジングハートが発するとさらに桜色の魔力の線が巨大鳥に刺さる。
巨大鳥の全身が光り、その場に姿はなくなった。
封印する際に飛行していたので、足元には桜色の双翼『フライヤー・フィン』が展開されていた。
ゆっくりとだが地上へと降下していく。
地に足がつくと、桜色の双翼は消え、ゆっくりと降下していくジュエルシードを待ち構えてから、一定の距離が縮まるとレイジングハートへと収納した。
ユーノがなのはの元へと走り寄ってきた。
「なのは。やったね!」
「うん!ユーノ君、サポートありがとう!」
「僕はあくまで動きを封じただけさ。大変なのは僕よりなのはだよ」
「ううん、ユーノ君が動きを封じてくれたからこんな短時間で封印できたんだよ。ユーノ君の力なしじゃもっと時間がかかってたって!」
「そうかな」
「そうだよ」
ユーノは自身を評価されることには慣れていないため、なのはのストレートな評価に対して照れながらも受け止めた。
アースラがゲートを開くのはそれから数分後のことだった。
*
次元空間を航行している時空管理局御用達の航行艦アースラ。
リンディがいるモニター室とは違う別室で、クロノとエイミィがとある人物を調査していた。
モニターに映っているのは金色の髪が特徴の少女---フェイト・テスタロッサだった。
エイミィはボードを何度も叩きながら、あらゆる角度で分析しているが芳しい結果は得られていなかった。
「ええと、この子。フェイトちゃんだっけ?」
エイミィが側でモニターを見ているクロノに確認するかのように訊ねる。
「フェイト・テスタロッサ。かつての大魔導師と同じファミリーネームだ」
「ふええ。そうなの?」
『大魔導師』という称号にエイミィは驚きを隠さなかった。
自称で名乗る者は多くても、人々から通称でそのように称される者は極めて少ない事をエイミィは仕事柄知っている。
「随分前の話だよ。ミッドチルダの中央都市で魔法実験の最中に次元干渉事故を起こして追放されてしまった大魔導師……」
時空管理局は『あの事故』には関わっていない。
だが、新聞記事などでは大きく記載されていたので、そういった情報でクロノは記憶していたのだ。
「その人の関係者?」
その大魔導師と同じ姓
ファミリーネーム
を名乗っている所からエイミィがそのように考えるのは当然といえば当然だろう。
「……さあね、本名とは限らないよ」
「良太郎君なら知ってるのかな?」
エイミィがフェイトと一番縁の深い人物の名を出す。
「多分知ってるだろうね。彼は大魔導師が起こした事故の事も知っているような素振りだったし……。恐らくだが彼女の出自に関しても知っていると考えられるね」
クロノは良太郎がことフェイトに関する事は自分達よりも遥かに豊富な情報を有していると考えている。
「良太郎君がその事を私達に教えてくれるってことは……」
エイミィが一縷の希望に賭けてみようとするが、
「無理だろうね。彼が僕達に教えることはまずないよ」
クロノはその希望を完全に砕いた。
良太郎と会話した時、彼の一挙手一投足に常に目を光らせていた。
隙が『ある』ように見えて『ない』ともいえる物腰。
穏やかだが、どこかナイフのように鋭い口調。
民間人でありながら、下手な管理局員よりも遥かに切れる頭脳。
そして、自らが決めた決意を揺るがせることはない強い瞳。
「それに、協力関係といっても彼はまだ時空管理局に対して好印象ではない。下手に強要すれば即座に切れてしまうほど危うい関係なんだ」
「だから艦長は五分五分の関係に?」
「それもあるけど、単純に怖いんだと思う」
「怖い?」
「ロストロギア相当の物を使って、時空管理局では対処できないことを平然とやってのけている彼等の存在がね」
クロノはデンライナーを見たわけではないが、現在・過去・未来を行き来できるようなものは下手をすればロストロギアクラスの厄介な代物だと見ている。
モニターには『Not found』と表示された。
「やっぱりダメ!見つからない。フェイトちゃんにはよっぽど高性能なジャマー結界を使っているみたい」
モニターではフェイトではなく、一匹の獣が映し出された。
使い魔のアルフである。
「使い魔がいる。恐らくコイツがサポート役だろう」
「おかげでこちらが発見したジュエルシードを一個奪われちゃってる」
エイミィが真剣な表情でクロノに現状を告げる。
「しっかり捜して補足してくれ。頼りにしてるんだから。あとイマジンを見つけたら良太郎達に連絡してくれ」
「はいはい」
エイミィは滅多に聞きなれない言葉を適当に受け止めながらも、内心は嬉しかったりする。
*
海鳴ともなのは達がいた次元世界とも違う次元世界に彼女達はいた。
フェイト・テスタロッサとアルフだ。
風が強いため、彼女の自慢の金髪がなびいていた。
「フェイト。ダメだ。空振りみたいだ」
アルフは、フェイトに余計な労力と神経を消費させたことを詫びる口調で言う。
「……そう」
「やっぱり、時空管理局に見つからないように隠れて探すのはなかなか難しいよ」
アルフは本音を漏らす。
「うん。でも、もうすこし頑張ろう」
フェイトは不器用ながらもアルフを元気付けた。
(良太郎が管理局にいるなら、わたしに関する情報は既に伝わっているはずなのに。アルフがジャマー結界をかけてくれているとはいえ、こうもわたし達に対する捜索に時間がかかっているところからすると……)
良太郎は時空管理局に自分達のことを一言も言っていないことになる。
(良太郎、自分が不利になるはずなのに……。わたし達のことを……)
フェイトの胸中に温かいものが灯った。
左腕に巻きついていた包帯を解く。
解けた包帯は風に乗って空へと飛んでいった。
*
それから十日が経過した。
*
その間にアースラスタッフの全力の捜索にもかかわらず発見したのは一個であり、なのは達が回収したのは計二つとなる。
そして、フェイトが回収したのは一個だ。
ここで現在のジュエルシードの回収状況を整理しておこう。
なのは達は別世界から持ってきたモモタロス達や時空管理局の力を借りて、回収したジュエルシードは合計九個。
対してフェイト側は良太郎からもらった一個と地道に回収したり、なのはから奪取した一個などを含めて計六個となっている。
ユーノが発見したジュエルシードは全部で二十一個。
未回収は後六個となっている。
その六個の回収が難航を極めている現状だった。
ちなみにイマジンはその間に一体も出現していない。
「残り六つ。見当たらないわねぇ」
リンディは八方塞な状態だった。
「捜索範囲を地上以外に広げています。海が近いのでもしかしたらその中かも……。例の黒い服の子と合わせて、エイミィが捜索してくれています」
「そう」
リンディの表情は深刻なままだった。
イマジン達の適応能力は高いのか、それとも彼等が特殊なのかどうかわからないが十日も経つとモモタロス達はアースラの内部を殆ど理解し、我が物顔で活用していた。
現在四体はトレーニングルームがあったので、そこで身体を鍛えていた。
良太郎となのはとユーノは食堂で寛いでいた。
「今日も空振りだったね」
なのはがガッカリした表情で口を開く。
「もしかしたら結構長くなるかもしれないね」
対面に座っているユーノは今後の事を予想していた。
「管理局の捜索能力を駆使しても、難航しているんじゃあね」
良太郎はコーヒーを飲む。
「二人とも、さびしくない?その……親御さんと離れてるわけだし、さ」
良太郎が年長者ぶって二人の心境を訊ねる。
「ぼくはその、両親っていないんです。家族というならスクライアの部族ですから……。だからその、あまり寂しいとかって考えた事ないですね」
ユーノが孤児だということを知って、良太郎となのはも驚く。
「なのはちゃんは?」
「え、わたしもその、家族はいますけど昔は一人でいることの方が多かったんです。だから一人でいることを寂しいってあまり感じないんですよ」
「二人とも、強いね」
良太郎は敬意を込めて二人の頭を撫でた。
「え、あの……」
「りょ、良太郎さん?」
いきなりの仕種に二人とも戸惑っていた。
「ところで、良太郎さんはご家族は?」
「あ、わたしも知りたいです」
ユーノとなのはは別世界の人間である良太郎の家族構成には前々から興味があったようだ。
その証拠に目が輝いている。
「僕も両親はいないんだ。物心つく前には祖母に育てられてたしね。今は姉と二人で暮らしてるよ」
「モモタロスさん達は一緒じゃないんですか?」
ユーノがモモタロス達はどこに住んでいるのか訊ねた。
「モモタロス達は普段はデンライナーで住んでるんだよ。僕の世界じゃイマジンはおおっぴらに歩けるほど寛容じゃないからね」
「へえええ。そうだったんですか」
なのははどうやら、一緒に住んでいると思っていたらしい。
そんなほのぼのとした雰囲気が食堂を覆い始めていた頃。
それを振り払うかのように、緊急招集のアナウンスが艦内に流れた。
良太郎となのはがモニター室に入ると、そこには大画面で台風とも嵐ともいえる天災が映っていた。
大雨が降り、雷が鳴り響き、海がうねりを上げている。
それだけでも脅威を物語るには十分だった。
「ここってどこなんですか?」
「海鳴市の海上よ」
良太郎の質問にリンディが答えてくれた。
その表情は険しいものだった。
隣にいるクロノも同じような表情をしていた。
だが、何故こんなものを映しているのだろうと良太郎は感じた。
時空管理局は天災まで取り扱っているのだろうかと思ったが、ふとひとつの考えがよぎった。
それはこの天災が文字通りの天災、つまり天がもたらす自然現象でなく、魔導師がもたらせたものだったとしたらモニターに映すのも頷けることだった。
一人の少女がその中を飛び回っていた。
金色の髪に黒いバリアジャケットに鎌のような黒い杖を持った少女。
「フェイトちゃん!」
良太郎はモニターに映る少女の名を誰よりも速く叫んだ。
次回予告
第三十三話 「共同作業」