仮面ライダー電王LYRICAL   作:(MINA)

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久しぶりに投稿します。

長らく投稿できずに申し訳ありませんでした。


第三十一話 「クライマックスへのダイヤ」

雨雲のような雲が螺旋状に動いている空間に一隻のSFチックな艦が航行していた。

次元航行艦『アースラ』である。

身柄を拘束された野上良太郎であるが、独房に放り込まれているわけではない。

その証拠に、今現在凄まじい勢いで料理を平らげていた。

元々、電王になると体力を通常よりも遥かに消耗する。それがクライマックスフォームなら尚のことだ。

アースラスタッフで食事を取る時間を許されている面々はその異様な食欲っぷりに開いた口がふさがらない状態になっていた。

ちなみに彼がここで食べた食事はというと、パスタ二人前、チャーハン三人前にギョーザ四人前にカレー三人前を食べていた。

「げぷぅ。食べた食べたぁ。下手なレストランよりずっと美味しかった」

良太郎は感想を述べてから、コップに入っている水を飲んだ。

「凄まじい食欲ね。それも電王の影響によるものかしら?」

「見かけに似合わず、大食漢だな」

聞き覚えのある声が正面からした。

リンディ・ハラオウンとクロノ・ハラオウンだ。

二人とも、トレーの上には和風の定食が乗っている。

「帰ってきてすぐに戦闘でしたからね。食事をする暇もなかったんです」

良太郎は空になったトレーを持って、返却口に返しに行った。

その後、また先程座っていた席に戻る。

「僕、身柄を拘束されているんですよね?こんなに自由でいいんですか?」

「脱走できるのならしてみればいい。それが無駄な事だという事は貴方もわかっているはずだが」

クロノはそう言いながら、食事を取り始める。

「君の言う通りだね。僕一人の力じゃ無理だね」

良太郎はムキになるわけでもなく、冷静に返答した。

アースラから海鳴へ行くには転送するための場所がある。

仮にその場所まで行けたとしても、使用方法がわからなければ意味がないことだ。

クロノはそこまで見越して挑発じみた事を言ったのだろう。

「あの、艦長さん」

「ごめんなさいね。自己紹介がまだだったわね。リンディ・ハラオウンよ」

「僕もそうでした。すいません。野上良太郎です」

良太郎とリンディは互いに自己紹介をしあった。

そして、良太郎から切り出した。

時空管理局(ここ)って警察みたいなものですよね?」

「ええ。そうね。貴方の感覚でいえば、警察でもあり、司法機関でもあり、軍隊でもあるのよ」

「そうですか。ではこの一件はご存知ですか?」

良太郎は一枚のメモの切れ端をリンディに見せた。

リンディはそれを見てからクロノにも見せる。

「この事件に関しては管理局は関わっていないわね」

「何年か前に起こった事故だろ?確か死者が多数出たと言われている」

(アリシアちゃんの死の原因となった事故に関しては管理局は関与していない、か)

仮に関与していたとしてもプレシア・テスタロッサの心が晴れるとは思わなかったが。

「そうですか。ありがとう」

そう言うと、良太郎はクロノからメモを取り上げた。

「あと、もうひとつ聞いていいですか?」

「何かしら?」

リンディは穏やかな表情で良太郎の質問に答えるようだ。

 

「何でなのはちゃん達にあんな事(・・・・)言ったんですか?」

 

クロノの箸が停まり、リンディも持っていた箸を置いた。

「あんな事って何かしら?」

「クロノがなのはちゃん達の介入を拒んだ後の台詞です」

リンディは黙ったままだ。

良太郎は続ける。

「なのはちゃん達を今回の事件から遠ざけて元の生活に戻す事を本当に望んでいるのならば、まず言いませんよね?」

「あら、それではまるで私があの子達にこの事件に参加させるために、わざと言ったという風に捉えられるじゃない?」

「僕はそう思っています。あなた達、いえあなたはなのはちゃん達にこの事件に参加してほしいんです。理由は色々あると思いますけど、ね」

良太郎は睨むわけでもなく、ただリンディの瞳を見ていた。

クロノは二人の動向が気になるのか、交互に見ている。

リンディが言い返さないところを見ると、図星なのかもと良太郎は判断する。

「何故、私があの子達をこの事件の参加する事を望むと考えているのかしら?」

リンディは良太郎に訊ねた。

質問する側とされる側が逆転した。

「単純に考えるなら戦力の増強でしょうね。ロストロギアが危険なものなら戦力は多いに越したことはありません。危険物に対処するなら限りなくリスクはゼロに近いほうがいいというのが理想ですからね」

「艦長がそのような事を含めてあんな事を言ったと本気で考えているのか?貴方は!」

クロノが割り込んできた。その瞳にはまるで肉親を侮辱されたかのような怒りが宿っていた。

「それだけじゃない。あの言葉にはモモタロス達を引き込むことも想定してのことだと僕は思ってる」

リンディの眉がピクリと動いた。

「どういう意味だ?」

クロノは純粋に良太郎に訊ねた。

「モモタロス達がなのはちゃん達の仲間だからさ。なのはちゃん達が時空管理局に協力するといえば必ずついてくるからね。そうなれば今後ジュエルシードを捜すにしても必ず出くわすイマジンを撃退するための力を手に入れたことにもなるからね」

「確かに、イマジン撃退となるとその道のプロとも呼べる貴方達の力は魅力的になるだろう。だが、既に先の戦闘からデータを分析し、対処法も練り上げつつある。正直に言えば貴方達の力を引き込む必要はないと思うが」

クロノは今後、時空管理局がイマジンに後れを取る事はないと言う。

「イマジンはそんなに甘くはないよ。たかが一回の戦闘で全てを見極める事が出来るほど底は浅くない」

良太郎は自身の経験からクロノに警告した。

「それに、イマジンの目的はジュエルシードを集めて終わりじゃない。そこから先がイマジンの本来の目的なんだ」

「ジュエルシードを集める事がイマジンの最終目的じゃないのね?」

リンディは確認の際に良太郎に聞く。

「ええ。イマジンにとってジュエルシードを集める事は自分達の目的を果たすための過程でしかないんです」

「最終目的は一体何だ?ロストロギアの回収を過程にするくらいだ。厄介な事を起こそうとしているんだろ?」

クロノが良太郎に回答を迫る。

「そうだね。イマジンの目的が完遂された場合、時空管理局は何も出来ずに敗北する事になるね」

「「!!」」

良太郎の回答にリンディは穏やかな表情から真剣な表情へとなる。

クロノにしても良太郎の言葉は意外だった。

「我々が何も出来ずに負ける?今の言葉はどうにも聞き捨てならないな」

クロノは額に青筋を立てていた。侮辱された怒りによるものだ。

良太郎は特に怯む様子もない。

「時空管理局には過去に遡る技術はないんでしょ。だったら何も出来ずに滅ぶ以外に選択肢はないよ」

「良太郎さん。イマジンの最終目的って……」

リンディはを飲み込めたようだ。

「過去に遡って改変させる事、つまりタイムパラドックスを起こす事なのね?」

「はい」

リンディの導き出した答えに良太郎は首を縦に振る。

「そんな事になれば……」

「……時空管理局では対処しきれないわね」

クロノとリンディが最悪の結果を想像し、率直な感想を述べた。

「でも、イマジンが過去に遡る前にこの時代で倒してしまえばそういう心配はないですよ」

良太郎が安心させるように付け足した。

「クロノ。今の話を聞いてどう思った?」

「……彼等の力は必要になりますね」

クロノ・ハラオウンは別世界の住人達を認める言葉を吐いた。

 

 

夜。それは漆黒の空が支配している時間帯。

高町家はやはり賑やかだった。

だが、台所風景はいつもと違っていた。

高町なのはが洗い物を手伝っていた事だ。

他の面々は皆それぞれの趣味なり何なりをしようとしていた。

モモタロスは翠屋特製のプリンを食べていた。

「かあーっ。美味ぇ!カミさんのプリンは最高だぜ!」

まるでその一言は風呂上りにビールを飲んで吠えるそれに通じるものがある。

ウラタロスはモモタロスの向かいでケーキを食べている。

「ところでさ、センパイ。出かけた甲斐はあったの?」

怪しまれないように言葉を選んで訊ねた。この辺りは口の上手いウラタロスならではだろう。

「……ああ。大有りだったぜ。後で聞かせてやるよ」

「センパイ?」

一瞬だけトーンダウンしたことをウラタロスは見逃さなかったが、今ここで追及すべきことではないので黙っている事にした。

「クマちゃん。モモタロスどうしたのかな?いつもと違うよ」

「確かにモモの字らしくないな」

将棋をしていたリュウタロスとキンタロスが様子のおかしいモモタロスを見て小声で話していた。

彼等もまた、モモタロスの一瞬だけのトーンダウンを見逃さなかったのだ。

ちなみにフェレット状態のユーノ・スクライアがこの場にいなくなっていたことを誰も気づいていなかったりする。

 

 

アースラのモニタールームでは一人の少女が映像に映っているフェイト・テスタロッサとなのはとコッドイマジン二体とクライマックス電王の分析をしていた。

キーボードを叩く手は慣れたものであり、それが彼女がこの手の素人ではないと物語っていた。

彼女の名はエイミィ・リミエッタ。

執務官補佐。つまり、クロノの補佐役という事だ。

「凄いよ。黒い子も白い子もAAAクラスだよ!」

彼女が言うAAAとは魔導師ランクの事だ。

「エイミィ。二人のことよりもあの得体の知れない二種類はどうなってるんだ?」

クロノがモニタールームでモニターを眺めながら訊ねる。

「ええと、こっちのタラ型の何だっけ?」

聞きなれない言葉なのかエイミィは記憶できていないようだ。

「イマジンだ」

クロノが補足した。

「イマジンの能力を魔導師ランクで分析してみるとAAA-クラスかな。一体でこれだからね。もし集団で来られたらゾッとするよ」

「……そうか。彼の言う事は正しかったんだな」

「ん?もしかして、身柄拘束した人のこと?結構二枚目だよね。人のよさそうな感じするし」

「エイミィ!」

「あ、クロノ君。もしかしてヤキモチー?」

エイミィはケラケラと笑いながらクロノをからかっていた。

「違う!」

ムキになればなるほどドツボに嵌ることをクロノは薄々はわかっているのだが、どうにも嵌ってしまう。

それがエイミィ・リミエッタの力なのかもしれない。

「それでイマジンはわかったが、そのイマジンをいとも簡単に倒した電王はどうなんだ?」

「あー、それなんだけどねぇ」

「?」

彼女にしては珍しく歯切れが悪かった。

「コレ見てよ」

モニターにはクライマックス電王があらゆる角度で映っていた。

動くたびにモニター端にある数値が動いている。

「改めて見ると異様な姿だな」

「はははは。でもソレに完全に後れ取っちゃったからねぇ」

「……言うな。それで結果はどうなんだ?」

「計測不能だってさ」

「は?まさか、嘘だろ?」

「正確に言うと、常にエネルギーが安定していないんだよねぇ。電王ってさ」

「安定していない?」

電王は魔導師ではない。そのため、魔導師の格付けともいう『魔導師ランク』に当てはめる事そのものが無理な事なのかもしれない。

「うん。感情の起伏みたいにさ、上がったり下がったりしてるんだよ。これで正確に分析しろってのは無理だよぉ」

どこまでも異様な存在だとクロノは思っているが、口には出さない。

「なら、最も安定している状態で判断しよう。それでどのくらいなんだ?」

「ええと、S+だね。……安定しているだけでコレだもんね。デタラメだよぉ」

エイミィはもう笑うしかないよね、といった感じだ。

「ところでさクロノ君。彼ってどういう人?」

エイミィは良太郎に興味があるのかクロノに訊ねる。

「正直に言えば敵に回したくない奴だな」

クロノは食堂でのやり取りを思い出していた。

温厚そうな顔をしていて、妙に鋭い。

それでいて荒げるわけでもないのに言葉には凄みがある。

何よりも妙な貫禄がある。

管理局で彼と似た年齢の者と接した事があるが、次元が違うとしかいいようがない。

幾多の修羅場を潜った人間にしか放てない雰囲気だった。

ドアが開く。

「あら、それはもしかして先の戦闘のデータね?」

私服姿のリンディが入ってきた。

「あ、艦長」

クロノは声を出し、席に座っているエイミィは笑顔で軽く会釈した。

リンディはモニターに映っている映像を見る。

その目つきは鋭く、どんな小さなことも見逃さないといった感じだ。

「あの子達も凄いけど、彼等はあらゆることで別格ね」

AAAクラスの魔導師が霞んで見えるほど、電王の存在は大きかった。

並の魔導師がタバになってかかっていってもハッキリ言って、戦力を消費するだけだろう。

五分五分の戦いにはならない。

一方的な戦いになるだろう。

「正直に言えば、私もイマジンは良太郎さんの話を聞くまでは過小評価していたわ。電王だってトップクラスの魔導師なら五分五分に渡り合えるとさえ考えていたのよ」

いくら強いといっても時空管理局(じぶんたち)より上であるはずがないという思いがあった。

それはいわば、彼等もまた『自分達が保護すべき存在』と考えていた。

だがイマジンの事を聞き、彼等の役割を察したとき立場は逆転した。

 

自分達が彼等を守るのではない。彼等が自分達を守ってくれているのだということにだ。

 

「彼等と共に行動するなら五分五分の関係がベストでしょうね。それに……」

「艦長。本気ですか!?いくら彼等の存在が我々の予想を超えるものでも彼等は民間人ですよ」

「良太郎さんの人柄からしたら有り得ないと思うけど。もしよ。私達が彼等の怒りを買ったら彼等はどういう事をすると想像できる?」

リンディの例え話にクロノは思考を働かせる。

「過去に戻って創設されて間もない管理局を滅ぼす。ですか?」

クロノが考えられる限りの報復を口に出した。

「そうよ。そのくらいのことが出来るのよ彼等には……」

エイミィも顔色を悪くしていた。

「うえええー」

時空管理局にとって、別世界の者達は脅威の対象になりつつあった。

モニターがいきなり切り替わった。

大画面にフェレット---ユーノが映っていた。

 

 

高町家の二階になのはの部屋がある。

ユーノは机の上に置かれているレイジングハートを介してアースラへと回線をつなげた。

「僕です。ユーノ・スクライアです」

『聞こえています。それで用件はと訊ねる必要はないわね』

レイジングハートからリンディの声がする。

「あれから、皆で話し合ったんですが僕達もそちらに協力させていただきたいと……」

『協力、ねえ』

クロノがユーノの申し出に渋る声を出した。

ユーノにしてみればこれは予想範囲内だった。

この手のプロが一番屈辱だと感じるのは民間人(シロウト)の手を借りなければならないということだ。

自身も遺跡発掘に関していえば、プロのようなものだ。自分が同じ立場に立ったときにはクロノと似たような反応をするかもしれない。

「僕はともかく、なのはやモモタロスさん達は時空管理局にとってもプラスになるはずです。ジュエルシードの回収やあの子達やイマジンの戦闘など、そちらにしてみても便利に使えるはずです」

ユーノは考え付く限りの意見をぶつける。

『なるほど、しっかり考えていますね』

リンディの声からして満足できる回答のようだ。

『わかりました。手伝ってもらいましょう。こちらからの条件は二つあります。高町なのは及びユーノ・スクライアの両名及び野上良太郎の関係者はこちらに身柄を預ける事。そして、もうひとつは我々と貴方達は対等の関係で接すること』

「え?」

リンディの提示した条件にユーノは思わず声を出してしまう。

『何か異論が?』

「あ、いいえ。その条件で謹んでお受けいたします」

こちら側としてみれば願ったり叶ったりの条件だった。

時空管理局と対等の立場で今後に関わる。

本来ならありえない。というより、起こりえるはずがないことだった。

ユーノは何故そのような厚遇になったのかを考える。

自分となのはではそんな事にはならないだろう。

(あの人達だな)

厚遇の原因は間違いなく良太郎達だ。

少し考えればわかることだった。

仮に時空管理局が良太郎達の機嫌を損ねるような態度をとった場合、どうなるかということだ。

良太郎達がそんなことをするわけがないのだが、人というものはとかく、脅威となる存在には必要以上に考えてしまうものだ。

(とりあえずよかった。僕となのはだけだったら、協力といっても実質『支配される側』になってたからね)

 

リビングでは、なのはと高町桃子とユーノだけがいた。

なのははこれまで自分の身に起こったことを魔法やユーノの正体や電王やイマジンのことを除いて全て話した。

桃子はそれを黙って聞いていた。

娘が内に抱えているものを打ち明けてくれた事が嬉しかったのだ。

同時に娘が決意しているものがあるということも知った。

「もしかしたら危ないかもしれないことなんだけど……。大切な友達とやってきた事を最後までやり通したいの」

桃子は縦に振って頷く。

「心配かけちゃうかもしれないけど……」

なのはは申し訳なさそうに言う。

「お母さんはいつも心配よ。なのはが迷っているのなら、危ないからやめなさいって強く言えるけど……。なのははもう決めているんでしょ?なら行ってきなさい。お父さんとお兄ちゃんには上手く言っておくわ。それに……」

桃子は笑顔でなのはに力を与える。

「モモタロスさん達も一緒なんでしょ?だったら安心できるわ」

「お母さん……」

それからなのはとユーノは部屋に戻って支度していた。

リュックに最低限、必要な物を詰め込んでいる。

全ての準備を整え終えるとなのはは高町家を出る。

「よぉ。決心はついたみてえだな?」

そこにはモモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、コハナが待っていた。

「「はいっ!」」

なのはとユーノは同時に返事した。

「じゃ、行きますか」

ウラタロスはついていくことが当たり前のように言う。

「俺ら抜きはなしやで?」

「そうだ。そうだー!!」

キンタロスもリュウタロスもついていく気マンマンだ。

「話は皆から聞いたわ。私達も行くわよ!」

事情をイマジン達から聞いたコハナもついていく事には迷いはない。

四体と一匹と二人は夜空を見上げた。

月は優しくも妖しく輝いていた。




次回予告

第三十二話 「クライマックスへの切符」

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