仮面ライダー電王LYRICAL   作:(MINA)

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第二十八話 「デンライナーの車窓から ~俺、遅れて参上!~」

航行(たび)『時の庭園』とは違う次元空間にその艦は航行していた。

次元空間航行艦船『アースラ』

時空管理局御用達の艦である。

艦長であり、時空管理局提督であるリンディ・ハラオウンはモニタールームへと向かっていた。

急がず、それでもゆっくりでもない。それが、彼女が歩く速度だ。

モニタールームに入ったリンディは任務中の数名のスタッフに近況を尋ねた。

「みんな、どう?今回の航行(たび)は順調?」

スタッフは皆、リンディに視線を向けた。

「はい。現在第三船速(せんそく)(船の速度の事)にて航行中です」

「目標次元到達には今から凡そ百六十ペクサ後に到達予定です」

「前回の小規模次元震以来、特に目立った動きはないようですが二組の捜索者が再度衝突する危険性は非常に高いですね」

「そう」

艦長席に座りながらリンディはオペレーター達の報告を聞き、今後の対策を練ろうとする。

「失礼します。リンディ艦長」

少女といってもいい年代の女性が紅茶を淹れたカップを持って、リンディの前に置いた。

「ありがとねエイミィ。そうね、小規模とはいえ次元震の発生は……ちょっと厄介だものね」

リンディは紅茶を眺めながらも真剣な表情で今後を語る。

「危なくなったら急いで現場に向かってもらわないと……。ね?クロノ」

リンディは全身黒づくめの少年に声をかける。

クロノと呼ばれた少年は自信に満ちた瞳を持って艦長席へと振り向く。

「大丈夫。わかってますよ艦長」

一枚の銀色のカードを持って、自信を持って答えた。

 

「僕はそのためにいるのですから」

 

 

『時の列車』---デンライナーは三枚目のチケットの時間から『時の空間』へと場所を移して、走っていた。

拠点となっている食堂車はピアノ演奏者が奏でる音楽がその場を支配していた。

オーナーは対駅長戦に備えてスプーンのメンテナンスをしていた。

「これで、三枚のチケットの真実が全てわかりましたねぇ」

野上良太郎はプレシア・テスタロッサの『真意』に関しては誰にも言っていない。

「それでどうします?良太郎君」

「え?」

「今見てきたことは、我々の『時間』とは一切関係ない『別世界の時間』での出来事です」

オーナーが何を言おうとしているのか良太郎は今ひとつ理解できない。

「ハッキリ言ってしまえば我々は『自分達の世界の時間』さえ守ればいいと思いませんか?」

「オーナー?」

「オッサン、何言ってんだよ!?」

良太郎とモモタロスはオーナーが言おうとしている事が理解できた。

オーナーはこう言いたいのだろう。

 

自分達以外の世界の時間は好き放題に改竄してもいい、と。

別世界の時間まで自分達の世界の義務を押し付ける必要はない、と。

 

良太郎はそれがオーナーからの課題だと受け止めた。

確かに自分達はこの世界の人間ではない。

自分達の世界の『掟』を別世界(ここ)でまで遵守する必要はないといえばない。。

別世界の『時の運行』を改竄しても今のオーナーの口調からして責めたりはしないだろう。

良太郎はそれを不思議と魅力的なものだとは思わなかった。

アリシア・テスタロッサとプレシア・テスタロッサの生き様を見たからだろう。

ここでもし、オーナーの言うように改竄すればアリシアとプレシアのしてきた事を全て否定する事になる。

あの二人は、未来のために自らの運命に従ったのだ。

それを弄ぶ権利はこちらにはないし、あったとしても行使する気はない。

「さて、どうしますか?良太郎君」

「良太郎……」

「良太郎ちゃん……」

オーナーは良太郎の采配を待っている。

それはモモタロスや普段、この手の話には関わらないナオミもだ。

良太郎は決意と覚悟を持った瞳でオーナーを見つめる。

 

「変えません。僕はこの世界でも僕達の『やり方』を貫きます」

 

良太郎は続ける。

「たとえ、ここが僕達が住んでいる世界でなくても、僕達にこの世界の『時間』を変える力があったとしても、無責任に変えていいはずがないんです」

「変えることでよくなるかもしれないという可能性もありますよ?それでも変えませんか?」

オーナーは執拗に訊ねる。

以前に似たような質問をカイにされたことがある事を思い出した。

「以前にカイにも似たような事を言われました。でも過去を改竄するという事は、どんなに悪い過去だったとしてもその人達が築いた『時間』を否定する事になります。だから、一時の欲望で変えていいとは思えません」

オーナーは良太郎の言い分を全て聞いてから首を縦に振って満足げに頷く。

「どうやら今更確認するまでもなかったようですねぇ。今回の三枚のチケットの旅で良太郎君はあの親子に感情移入したかもしれないと思ったものですから」

「感情は入ってますよ。あの二人の想いを絶対に守るって事はね」

良太郎は今の気持ちを正直にオーナーにぶつける。

「そうですか。でも、今の答えを聞いて安心しました。良太郎君、我々は別世界の『時の運行』も守らなければならないかもしれませんので、お願いしますよ」

「はいっ!」

良太郎は気を引き締めて返事した。

「さあて、行こうぜ。良太郎」

今まで黙ってオーナーと良太郎のやり取りを見ていたモモタロスは良太郎の決意に満足したのか右肩を掴んだ。

「まもなく、目的の時間に到着しまーす!」

ナオミの車内アナウンスが流れた。

 

 

鴉が鳴き出す夕方。

市バスを降りた高町なのはは一人で家路へと向かおうとしていた。

「なのは」

「なのはちゃん!」

フェレット---ユーノ・スクライアを右肩に乗せたリュウタロスが手を振っていた。

ユーノには赤い珠を身体に巻きつけていた。

ウラタロスとキンタロスもいた。

ウラタロスは手を軽く挙げ、キンタロスは腕組をして頷いていた。

ユーノは巻きついていた赤い珠---レイジングハートを外して、なのはに渡す。

なのはは受取る。

「レイジングハート、直ったんだね。よかったぁ」

「コンディショングリーン」

安堵の声を漏らすと、レイジングハートは自身を輝かして返事をした。

「また一緒に頑張ってくれる?」

なのはは確認するように訊ねる。

「オーライ。マイマスター」

レイジングハートは即答した。

なのははその返答が嬉しく、レイジングハートを両手で優しく包み込んだ。

その姿を一匹のフェレットと三体のイマジンは微笑ましく見ていた。

 

フェイト・テスタロッサはアルフと共にマンションの屋上に立っていた。

衣装はバリアジャケットで、プレシアに折檻されたような部分は残っていない。

「感じるね。あたしにもわかるよ」

獣姿のアルフがジュエルシードの存在を感知していた。

「バルディッシュ。どう?」

手袋の装飾品状態となっている相棒の体調を訊ねる。

「リカバリー。コンプリート」

「そう。頑張ったね。偉いよ」

フェイトは相棒に褒めの言葉を与えてから、小さく微笑む。

「良太郎が帰ってきてからでもいいんじゃないのかい?」

「今から回収しようとするジュエルシード()はもうすぐ発動するよ。その前に良太郎が帰ってくれば一緒に探せるかもしれない」

フェイトとしてもアルフのいうように良太郎が帰還してから捜すという方法を使いたかった。

だが、いつ帰ってくるかもわからない相手を待っていてくれるほどジュエルシードの発動は甘いものではない事も知っている。

それに今から手にするのが自分達だけならいいが、そういうわけにはいかない。

高町なのはとその使い魔的存在であるフェレット、そして良太郎の仲間であるイマジンと一人の少女。

もし、この面子が総出で今回のジュエルシードの回収に参加し、ぶつかる状態になればこちら側が不利になることは明らかな事だった。

 

それは海鳴臨海公園にあった。

誰かに指示されているわけでもなく、激しく光り輝いている。

その光は最大限に輝き、光の柱を発生させる。

柱の中にあるそれそれ(・・)は宙に浮き出し、近辺の一本の木に埋まっていった。

その光景を一部始終、海から見ていた者達がいた。

「ジュエルシード発動しちゃったね。兄ちゃん」

「だが、今の状態は我々ではどうしようもないぞ。弟よ」

「やっぱり、魔導師達が封印してから横取りするんだね?兄ちゃん」

「ジュエルシードを狙っている魔導師も持ってるからな。それもついでに奪うぞ?弟よ」

「了解だよ。兄ちゃん」

タラ型のイマジン---コッドイマジンが二体、海から顔を出しながら今後のことを話していた。

 

海鳴臨海公園に到着したなのはとユーノはそれぞれの仕事をこなそうとする。

ユーノは近辺に結界を展開し、バリアジャケットを着用しているなのははレイジングハートをジュエルシードの影響で怪物化した木(以後:怪木)に向けていた。

特に枝がカマキリの手のようになっているのが、不気味である。

魔法を発動させようとした時、背後から無数の黄金の魔力光が怪木に向かって行った。

しかし、怪木はそれらを全て障壁のようなものを展開して、すべて防いだ。

怪木はコンクリートの地面を抉って植物でいう根の部分を鞭のようにしならせてなのは達に向けた。

「ユーノ君、逃げて!」

地上にいるユーノにこの場から離れるように促す。

ユーノはなのはの指示に従い、茂みの中へと避難する。

「フライヤーフィン!」

レイジングハートがなのはの足場を空中へと変更するために、発動した。

なのはの足首あたりから片足に二枚の計四枚の桜色の双翼が出現し、なのはを地上から空中へと移した。

「飛んでレイジングハート!もっと高く!」

「オーライ!」

レイジングハートは主の気持ちに応えるようにして、桜色の翼をはばたかせた。

茂みの中に避難したユーノは三体のイマジンと会った。

「ユーノもこっちに来たんだね?」

ウラタロスがどうして茂みに来たのかを訊ねてきた。

「僕も、ってことは皆さんも?」

「そうや。俺等イマジンとは戦えるけど、ジュエルシードがらみの怪物は無理やからな」

キンタロスが親指で首を捻らせてから答えた。

「なのはちゃーん!頑張れー!」

リュウタロスは空へと飛翔した少女を応援していた。

 

「わぁお、生意気にバリアーまで張るのかい」

獣姿のアルフが怪木の予想外の能力の高さに驚いた。

「今までのより強いね」

海鳴臨海公園にはなのは達だけでなく、フェイト達もいた。

ちなみに怪木に向かって数発の魔力光を放ったのは彼女だった。

バルディッシュを怪木に向けており、電灯の上に立っていた。

「それにあの子と良太郎の仲間もいる」

白いバリアジャケットを着用した少女---なのはのことだ。

フェイトはバルディッシュを一旦、天に掲げてから下ろす。

「アークセイバー。いくよバルディッシュ!」

「アークセイバー」

バルディッシュから黄金の鎌刃が出現した。

大きく振りかぶる。

軽く跳躍して、バルディッシュを振り下ろした。

黄金の鎌刃は怪木の根を回転しながらスパスパと斬っていき、やがて中枢となる顔面へと向かっていく。

障壁に衝突したが、打ち破ってダメージを与えた。

怪木が初めてよろけた。

 

空中に場を移したなのはは怪木にレイジングハートを向ける。

「シューティングモード」

レイジングハートがデバイスモードからシーリングモードへと形態を変化させていく。

「行くよ!レイジングハート!」

先端から桜色の魔力光が収束されていく。

レイジングハートの先端と後尾には桜色の円が展開されていく。

一定量まで溜まるとなのはとレイジングハートは、

「打ち抜いて!ディバイン!」

「バスター!」

桜色の魔力光を怪木に向かって放った。

桜色の光は一直線に、自らを覆っている怪木の障壁に衝突する。

ディバインバスターの重圧に耐え切れなくなったのか怪木が態勢を低くなった。

(いける!)

なのはは放ちながらもそのような確信を持ち始めた。

 

アークセイバーを放ったフェイトは空中には場所を移さずに、地上にいた。

左手を前に出し、右、左、下、前と手を動かして小さな黄金の魔法陣を展開させる。

「つらぬけ!轟雷!!」

フェイトが言ってから、宙に展開されている魔法陣に向かってバルディッシュで突く。

「サンダースマッシャー」

バルディッシュが発してから、黄金の魔力光が一直線に向かって行った。

怪木に正面から直撃し、怪木は懸命に障壁で防ごうとする。

上からのディバインバスターと正面からのサンダースマッシャーで怪木の障壁はガラスのように砕け、肉体を保てなくなり、押しつぶされるようにして消滅した。

一筋の光が走り、そこからジュエルシードが出現し、宙に浮いていた。

 

「シーリングモード。セットアップ」

「シーリングフォーム。セットアップ」

 

レイジングハートとバルディッシュがほぼ同タイミングでこれからのことに相応しい形態変化をした。

「「ジュエルシードシリアル七!!」」

なのはとフェイトが同じタイミングで叫ぶ。

「「封印!!」」

両デバイスも同タイミングで実行する。

だが、辺り一面にまばゆいまでの光が発生した。

光がおさまり、その場にいた者たちの視界が回復するとそこにはジュエルシードがまだ宙に浮いていた。

フェイトはゆっくりとなのはがいる空中へと場を移す。

「ジュエルシードには衝撃を与えてはいけないみたいだ」

フェイトは独り言のように言った。

「うん、この前みたいなことになったら、わたしのレイジングハートもフェイトちゃんのバルディッシュも可哀想だもんね」

なのはの言葉にフェイトの心は少し揺れた。

「だけど、譲れないから」

決意を表すようにバルディッシュを構える。

「デバイスモード」

バルディッシュも形態を変化する。

「わたしは……わたしはフェイトちゃんと話をしたいだけなんだけど……」

「デバイスモード」

レイジングハートも形態を変える。

なのははフェイトから視線を外さない。

 

「わたしが勝ったら、ただの甘ったれた子じゃないってわかってくれたら……、お話聞いてくれる?」

 

なのはの一言が心に響いたのはフェイトではなくアルフだった。

「………」

アルフは地上から二人の魔導師を見ている。

(フェイト…・・・)

ただ、主の安否を祈るしかなかった。

「あれー?赤いワンちゃんだ!」

アルフが振り向くと、青色、金色、紫色の三体のイマジンがこちらに歩み寄ってきた。

「アンタ達、たしか良太郎の……」

アルフは青色と紫色のイマジンとはチェイスをしたことがある。

正直、やりあいたくはない。

「なのはと君のご主人は?」

紫色の右肩に乗っているフェレットは自分に訊ねてきた。

「あそこにいるよ」

フェレット及び三体のイマジンはアルフが顔で指す方向に顔を向けた。

灰色とオレンジが主となっている空に二人の魔導師がいた。

 

二人の魔導師が一気に加速して、間合いを詰めて互いのデバイスを振りかぶって、下ろそうとした。

絶対にぶつかり、何がしかの衝撃が起こると互いが思った。

だが、その衝撃はこなかった。

二人は驚く。

そこには全身黒尽くめの少年がなのはのレイジングハートを素手で受け止め、フェイトのバルディッシュを黒一色の杖で受けていた。

「ストップだ!」

少年はそう叫んだ。

 

「ここでの戦闘は危険すぎる。時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおうか?」

 

クロノはなのはとフェイトを一瞥してから事情を聴取すると言ったときだ。

 

「行くよ!兄ちゃん!」

「いいぞ!弟よ!」

 

海から声がし、何かが三人の魔導師に向かって行った。

「なに?」

「え?」

「魔法、じゃない?」

三人がいきなり自分に向けられた攻撃に三人は戸惑う。

その場にいることを危険と感じた三人は空中から地上へと場を移す。

「なのはー!」

「なのはちゃーん!」

「フェイトー!」

聞き覚えのある声がしたのでなのはとフェイトは振り向くと、声をかけてきたユーノ、リュウタロス、アルフと現状を見極めようとするウラタロスとキンタロスが走り寄ってきた。

「ユーノ君、リュウタ君、ウラタロスさんにキンタロスさん!」

「アルフ!」

仲間に会えたことに素直に喜ぶ二人。

「仲間と出会えたところを申し訳ないが、海から出てきたあの変な怪物の説明をして欲しいんだが?」

クロノが喜び合っている面々に尋ねてきた。

今、ここにいる面々の中で海から出てきた二体の怪物に関して知識を有していないのはクロノだけだ。

フェイトは海から出てきた怪物を見る。

だが、説明よりも早く反応した者がいた。

「イマジン!?しかも二人!?」

フェイトだった。

「「「えええっ!?」」」

フェイトが言った数になのは、ユーノ、アルフは驚く。

てっきりイマジンは常に一体で行動すると思っていたのだろう。

確認のため自分達も見る。

確かに二人、いや二体いた。

タラの顔をしたイマジン---コッドイマジンだ。

「だったらここからは僕達の出番、かな?」

ウラタロスが右手を曲げてお決まりのポーズを取ってから、専用武器ウラタロッドを構える。

「なのは、ユノ助。危ないから下がっとき」

なのはとユーノに下がるように言ってから、親指で首を捻ってからキンタロスが専用武器キンタロスアックスを構える。

「ワンちゃんとその飼い主さんもね」

リュウタロスが良太郎の関係者であるアルフとフェイトにも言う。専用武器リュウボルバーを構えている。

「んじゃ、行くよぉ!」

そう言うと同時にリュウタロスがリュウボルバーの銃口をコッドイマジンに向けて引き金を絞った。

紫色の大きな球が飛ぶ。

コッドイマジンは素早くかわしてから、何かを二体揃って射出した。

「このっこのっ」

ウラタロッドを縦横無尽に操り、『何か』を叩き落していくウラタロス。

「ええい、小さくて俺の斧では捌ききれんわ!」

キンタロスは自前の武器の重量と巨大さ、そして『何か』の小ささに愚痴る。

「クマちゃん!ちゃんと落としてよ!痛いってば!」

リュウタロスはキンタロスの背中に隠れるが、捌ききれなかった余りが流れて何発かを喰らってしまう。

「何コレぇ!?」

リュウタロスは身体に刺さった『何か』を抜いて見てみる。

それは鱗だった。

「カメちゃん、クマちゃん。アイツ、鱗使ってるよ!」

「何だって!?鱗!?」

リュウタロスの報告に、捌いているウラタロスは自分達の障害となっている武器の意外な正体に目を丸くする。

「どうするカメの字。このままやったら俺等この間合い詰められへんで!強力とまではいわへんけど厄介な武器やで」

キンタロスの言うように戦闘を開始してから、こちらは防戦一方で一度も攻撃していない。

「どうしよう。カメちゃん」

リュウタロスも訊ねてくる。

(良太郎やセンパイだったらどうする、かな?)

今、ここにはいない一人と一体の事をウラタロスは考えていた。

 

「ユーノ君、もしかしなくても……」

「かなりまずいね。あのイマジン達、相当強いと思う」

「やっぱり、助けに行った方が……」

なのはとユーノはウラタロス達が不利な状況になっていると分析した。

「そうだね。でも、なのは。なのはは攻撃しちゃいけないよ。なのはの砲撃は当たれば脅威だけどあのイマジン達には通用しないと思ったほうがいい」

ユーノはなのはがウラタロス達を助けに行く事に異議を唱えない。だが、最低限のアドバイスだけはすることにした。

「うん、攻撃はウラタロスさん達に任せてわたしは防御を徹するんだね」

ユーノは首を縦に振る。

そして、なのはの次の行動は魔導師サイドの者達を唖然とさせる。

 

「フェイトちゃん。一緒にウラタロスさん達を助けよう!」

 

「え?」

フェイトは目を丸くする。

「ア、アンタ……」

アルフは口をぽかんと開ける。

「君達は良太郎さんの友達なんだろ?ウラタロスさん達は良太郎さんの仲間なんだ。良太郎さんがいない今、あの人達を助けられるのは僕等だけなんだ」

ユーノもフェイトとアルフに協力を申し出る。

「アルフ……。どうしよう?」

「良太郎の仲間を見殺しにしたんじゃ、あたし達良太郎に申し訳が立たなくなっちまうからね」

「そうだね。君の提案、乗るよ」

フェイトもアルフもなのはの提案に乗ることにした。

「確認しておきたいんだが、あの海から出てきた怪人二匹は何を狙って僕たちを狙ったんだ?」

ちょっと蚊帳の外扱いになっていたクロノがこの中で一番情報を持っていると思われるユーノに訊ねてきた。

「正確にはなのはとその子が持ってるジュエルシードだよ」

「それって僕は巻き添えか?」

クロノは事実を知って引きつるが、平静を保つ。

「うん。ちょうどあんなところにいたからね」

クロノの確認にユーノは正確に答えてくれた。

「あの怪人は何という名称なんだ?」

「イマジンだよ」

ユーノはきちんと答えた。

「そうか。ジュエルシードを回収するためにもあの二体のイマジンは撃退する必要があるわけか」

クロノも参加するようだ。

手にしている杖を強く握り締めていた。

「なら、あたしはあんた達のサポートと行こうかね。アンタもなんだろ?」

アルフはユーノに確認するかのように訊ねる。

「まあね。イマジン戦では僕は足を引っ張るだけだよ」

そう言った時のユーノの声には『劣等』とか『自棄』といったものは含まれておらず、ただ冷静に判断しただけのようにアルフは感じた。

 

フェイト、なのは、クロノがウラタロス達の前に立ち、それぞれのデバイスを構えた。

「ガキが三人いるよ。兄ちゃん」

「ああ、だが必要なのは女二人が持ってるジュエルシードだけだぞ。弟よ」

「女はジュエルシードを手にするためにも殺しちゃいけないんだね?兄ちゃん」

「ああ、男は一番邪魔そうだから一気に片付けるぞ。弟よ」

そう言うと同時に、コッドイマジンはそれぞれのフリーエネルギーで構築された二振りの剣と、二丁の銃を手にしていた。

「では行くぞ。弟よ」

コッドイマジン兄は二丁の銃を構える。

「オーケイだよ。兄ちゃん」

コッドイマジン弟は二振りの剣を構える。

二体のイマジンがクロノに向かって行った。

弟が前衛となって、クロノに切りかかる。

クロノは向かってくる双剣をデバイスで受け止める。

「くっ。何て力だ!こちらから責められない」

受け止めるだけで、次の攻撃に転じる事が出来ないクロノ。

完全に両腕を防がれており、両足も支える事で精一杯で押すことも引く事もできない。

「いいぞ!弟よ!」

兄が弟の背を踏み台にして、クロノの背後に回った。

「終わ……ぶっ」

引き金を引こうとするコッドイマジン兄をウラタロスが右回し蹴りが顔面に炸裂した。

発射態勢が崩れ、よろめく。

「僕達を無視するなんていい度胸だね。それと、感謝するよ。わざわざ近くまで来てくれて!」

ウラタロッドを振り下ろすが、二丁の銃で受け止められる。

「カメちゃん!どいて!」

ウラタロスの後ろからリュウタロスの声がしたので、鍔迫り合い状態から離れる。

「いっけぇぇぇぇ」

リュウボルバーから一発の弾が放たれた。

「甘い!」

コッドイマジンは避けるどころか、迎え撃つつもりなのか二丁の銃を構えて素早く引き金を絞った。

弾質がフリーエネルギーなので、同じフリーエネルギーの弾をぶつける事で相殺は可能だ。

「こいつ等、半端やないな!」

キンタロスがコッドイマジン弟の剣戟をキンタロスアックスで捌いている。

鍔迫り合い状態に持ち込んだキンタロスだが、コッドイマジン弟の蹴りが腹に炸裂し、強引に間合いを開けられた。

キンタロスは吹っ飛び、仰向けになって倒れる。

「キンちゃん!」

「クマちゃん!」

ウラタロスとリュウタロスが走り寄る。

「隙だらけだ!」

コッドイマジン兄の銃口が三体のイマジンを捉えて、引き金を絞る。

「プロテクション」

レイジングハートの声が三体のイマジンの前からした。

なのはが前に立ち、魔法障壁で防いでくれたのだ。

「大丈夫ですか?みなさん」

ウラタロス、キンタロス、リュウタロスはサムズアップして答えてくれた。

 

フェイトは単身で、コッドイマジン弟と戦っていた。

バルディッシュをサイズフォームにしている。

『技』と呼ぶべきものは現在使っていない。

アークセイバーを放つには間合いが狭く、発動に時間がかかるサンダースマッシャーでは発動中に相手の餌食になることは言うまでもないからだ。

「ガキの割にやるな!」

コッドイマジンの評価をフェイトは特に嬉しく感じることもなく、攻撃を続ける。

ある一定の間合いが開く。

「アークセイバー!」

フェイトは振りかぶって黄金の鎌刃を放つ。

くるくると回転しながら、狙っていく。

だが、

「こんなもので俺と兄ちゃんが倒せるか!!」

双剣を振り下ろして、アークセイバーは真っ二つになった。

二つに分かれたアークセイバーは適度な距離まで飛ぶと、爆散した。

(このイマジン、電王と互角!?)

そうなると、今戦っているイマジンに勝てる確率は急激に減る。

何せ突然乱入してきた執務官はどうか知らないが、今の面子の中で電王に勝てるものがいないからだ。

(良太郎・・・・・・)

フェイトはこの状況を打破できるかもしれない人物が頭によぎった。

「ボサッとしてると首刈られちゃうよ!?」

コッドイマジン弟がフェイトの隙を見つけたのか間合いに踏み込んでいた。

双剣を振り下ろそうとする。

「危ない!」

背後から声がして、コッドイマジン弟の背に爆煙が立った。

クロノが魔法射撃をして、防いでくれたのだ。

「隙を突いた攻撃なのに、ダメージらしいダメージがない……」

フェイトは状況を見回す。

どこか、暗い雰囲気になっていた。

(良太郎!早く、早く帰ってきて!)

フェイトは良太郎のいち早くの帰還を待ち望んでいた。

「え?この音楽って……」

フェイトの想いが届いたのか、クロノを除く面々にとって聞き覚えのある音楽が流れてきた。

「「「「「「デンライナー!!」」」」」」

 

空の空間がゆがみ、線路が敷設、撤去を繰り返しながら、地上へと向かっていた。

「オッサン、まだかよ!?アイツ等ヤベェことになってるぜ!」

モモタロスが逸る気持ちを抑えられないのか、オーナーに突っかかる。

「モモタロス!」

良太郎もモモタロスを抑えようとする。

「今から飛び降りれば、デンライナーが地上に到着するより早く戦場に着くと思いますよ」

オーナーの一言でデンライナーのドアが開く。

「「え?」」

良太郎とモモタロスは声を合わせる。

現在、デンライナーは地上に向かっているとはいえ、空中だ。

そして目的地は地上。

高度何千メートルというわけではないが、飛び降りるには勇気がいる高さだ。

「下が海じゃなくてよかったぜ。俺、泳げねぇしな」

デンライナーの下は海ではなく、戦場となっている地上だった。

「そうだね。でもこのまま飛び降りたら、僕が死んじゃうよ」

飛び降りる事前提で話すモモタロスと良太郎。

「んなもん、こうすりゃ大丈夫だぜ」

モモタロスが赤い光の球体となって、良太郎の中に入り込んだ。

髪の毛が逆立って、一本に赤いメッシュが入り、瞳の色も赤色となる。

また、どこか筋肉質になったようにも感じられる。

「んじゃ、行くぜ!良太郎!」

そのままデンライナーから飛び降りた。

「イヤッホォォォォォ」

と言いながら、モモタロスが憑依した状態の良太郎(以後:M良太郎)が地上に向かっていた。

向かっているというよりは落ちていっていると言った方が正確かもしれない。

(モモタロス、もうすぐ地面だよ。ちゃんと着陸態勢にならないと!)

「おう!わかってるぜ!」

大の字になっている態勢を変え、足の裏を地上に向ける態勢にする。

そして、それから五秒後に地に足がついた。

 

響くような音ではなかった。だが、その音がこの場にいる面々の耳に入ったとき、音の原因となったモノの所へ足を運ぶ者達がいた。

モノはこちらに寄ってくる面々を見渡す。

駆け寄った二人の魔法少女、三体のイマジンに魔法少女のサポートをする使い魔と一般人を魔法少女への道へと誘ったフェレット。そして、黒い格好の少年だ。

モノ---M良太郎は右親指を立てて、自分を指してから左手を前にかざして、右手を後ろに開き、歌舞伎役者が取りそうなポーズを取ってから言う。

「俺!遅れて参上!」

ウラタロス、キンタロス、リュウタロスが駆け寄り、背中をバシバシと叩いてくる。

なのはとユーノはモモタロスはどこなのかキョロキョロしていた。

「あの・・・・・・貴方は良太郎じゃ、ないですよね?」

フェイトはM良太郎の前に立ち、確認するかのように訊ねた。

「フェイト?」

いきなりの言葉にアルフはフェイトに訊ねる。声には出さないが、なのはとユーノもだ。

クロノは状況が把握できていないため、静観している。

「オメェ、俺が良太郎じゃねぇってわかるのかよ?」

「は、はい。良太郎はそんな荒々しい雰囲気はないから……」

フェイトは自分の意見をM良太郎にぶつける。

「たいしたもんだぜ。カメやクマや小僧が憑いてもコイツにはバレるだろうな」

M良太郎はそう言うと笑みを浮かべながら、フェイトの頭を撫でる。

撫でてから、なのはやユーノを見る。

「オメェらもイマジン相手によく持ったじゃねぇか。上出来だぜ」

喋り方でなのはとユーノはモモタロスがどこにいるのかわかった。

「モモタロスさんだよ。ユーノ君」

「うん、外見は良太郎さんだけど中身はモモタロスさんだよ」

M良太郎は一人、見慣れない少年を見つけた。

「誰だ?オメェ」

ストレートに訊ねた。

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。貴方はここにいる者達とは……」

「仲間だ」

(仲間だよ)

モモタロスと深層心理の中にいる良太郎が同時に答えた。

M良太郎がウラ、キン、リュウに顔を向ける。

「おい、オメェら。まさかもうヘバったわけねぇよな?」

挑発とも取れる台詞だ。

「まさか、これからだよ」と言いながら歩み寄るウラタロス。

「本番はこれからやで」とキンタロスも歩み寄る。

「僕、まだいけるよ!」とリュウタロスが踊るようなステップで来る。

「お前等!さっきから俺達を無視するな!」

「そうだそうだ!俺と兄ちゃんを無視するな!」

M良太郎の登場で一時、蚊帳の外になっていたコッドイマジン達が堪忍袋の緒が切れたのか文句を言ってきた。

「うるせぇ!テメェは引っ込んでろ!」

M良太郎はイマジン二体を睨みつける。

「なのは、ユーノ、フェイト、あとええと獣女に黒いの!」

M良太郎は魔導師サイドの面々を呼んでからケータロス装着型のデンオウベルトを手にする。

 

「今からイマジンとの本当の戦い方ってヤツを教えてやる!」

 

余裕と自信に満ちた笑みを浮かべてからデンオウベルトを巻きつける。

(ウラタロス、キンタロス、リュウタロス!行くよ!)

良太郎が三人を促す。

「うっしゃー!待っとったでぇ!」

キンタロスが親指で首を捻らせてから腕を組む。

「じゃあ、行きますか!」

ウラタロスもいつものポーズを取る。

「やったあ!別世界(こっち)では初めて!」

リュウタロスがその場で軽く跳躍してから、ブイサインをする。

今までのものとは違うミュージックホーンが鳴る。

 

「変身!」

 

M良太郎がパスをケータロス装着型のデンオウベルトにセタッチする。

「クライマックスフォーム」

電子音声が発すると同時に、三体のイマジンも輝きだした。




次回予告

第二十九話 「最強の電王と最大の組織」

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