仮面ライダー電王LYRICAL   作:(MINA)

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第二十七話 「デンライナーの車窓から~母の決断~」

高町なのはは平日なので、私立聖祥学園へと登校していた。

教室内は休み時間なのか生徒達が机から離れて友人と談笑している。

なのはも本来なら親友であるアリサ・バニングスと月村すずかと談笑をしたりするのだが、現在は少々距離を置いている状態なので今は一人でぽつんと席に座っていた。

退屈を紛らわすために、なのはは空を見上げる。

雲がいくつかあるが、それでも青空だった。

(レイジングハート、直ったかなあ。ユーノ君から何の連絡もないってことはまだってことだよね)

前回の戦闘で負傷した相棒の一刻も早い復帰を望んでいた。

 

 

二枚目のチケットの時間から離れて、デンライナーはモニュメント・バレーを思わせる荒野---『時の空間』を走っていた。

既に先頭車両である一号車に格納されているデンバードには三枚目のチケットをセットしている。

ピアノの演奏者は疲れたのかピアノの椅子で熟睡しているため、食堂車内には何の音楽も流れていない。

「次で最後になりますねぇ」

オーナーはナオミから水が入ったグラスを受取り、飲むわけでもなく水の揺らぎを見ていた。

ナオミはその後、別車輌へと移動した。食材を貯蔵庫から取って来るためである

「アリシアちゃんは自分が死ぬ事でフェイトちゃんが生まれるって言ってたね」

野上良太郎は先程の時間で出会った少女の言葉を口に出した。

「ああ。どういう意味だよ?良太郎」

アリシア・テスタロッサ死亡とフェイト・テスタロッサ生誕がつながるという事がモモタロスには理解できていないようだ。

それにアリシアとフェイトは別人だと一枚目のチケットに向かった後に良太郎が断言した。

モモタロスの脳内では追いつかない出来事なのだ。

「うーん、何とも言えないよ。養子縁組したとは考えにくいし、あそこまでそっくりな人間を捜すなんて、まず不可能だからね」

「じゃあ、一体何なんだろうな?あのアリシアとフェイト(ふたり)はよ……」

「わからないよ。……だからこそ、三枚目のチケットで知る事ができるんじゃないかな」

良太郎は確信があるわけではないが、そう思わずにはいられなかった。

あの三枚のチケットのイラストとなっている人物がその時間の『鍵』となっている存在だ。

一枚目のチケットで得た真実とは『写真の少女とフェイトが別人だという事』

二枚目のチケットで得た真実とは『写真の少女であるアリシア・テスタロッサが死亡するという事』

今から向かう時間で得られる真実を良太郎は予想する。

(二つの時間を渡ってまだわかっていないことといえば……)

二つの時間を渡った中でまだ得ていないのは『フェイトの誕生』だろう。

彼女はどうやって生まれたのか、そのあたりは二つの時間でも触れられていないことだった。

「今以上に覚悟を決めていかないといけないね」

「ああ、そうだな」

良太郎の決意にモモタロスは素直に頷いた。

ナオミが車内アナウンスを流し、デンライナーは『時の空間』から現実空間へと抜けた。

「何だ?あのでけぇ建物は……」

「あれは……」

モモタロスは初めて見たからそのような感想をこぼすが、良太郎には見覚えがあった。

「時の庭園……」

それは紛れもなく『時の庭園』だった。

良太郎が『真実』を求める決断を促された場である。

 

良太郎とモモタロスはオーナーとナオミに見送られながら、デンライナーから降りた。

「何か神殿ってやつみたいだな。人住んでるのかよ?ここに」

「プレシアさんが住んでるよ」

良太郎は自信を持って断言した。

「随分言い切るじゃねぇか。まさか表札でもあるのかよ?」

「ないよ。そんなの……。ただ、そんな予感がするだけだよ」

「勘かよ!?」

良太郎の自信が勘によるものだと知ったモモタロスは呆れてしまう。

「まっ、行ってみりゃわかることだしな」

そう言いながら、モモタロスが『時の庭園』に足を踏み入れようとする。

「待って」

良太郎が止めた。

「何だよ?折角、気合入れて入ろうとしたのによ」

横に並んでいた良太郎はモモタロスと向き合う態勢に移動する。

「ここからは僕一人で行きたいんだ」

「良太郎?」

「頼むよ。モモタロスはここで待機して何か起こったら知らせてほしいんだ」

良太郎とモモタロスの目と目が合う。

良太郎の決意は固い。

「わーったよ。しゃーねぇなあ。行って来い良太郎!」

「ありがとう。モモタロス」

良太郎は笑みを浮かべて感謝の言葉をモモタロスに述べると、『時の庭園』へと向かった。

 

自分が初めて訪れた時と『時の庭園』は造りが変わっていないため、大体把握できていた。

だが、それでもどこにプレシアがいるのかはわからない。

「ここかな?」

ノックもせずに入るのは失礼だと思ったが、良太郎はプレシアと初めて出会った広間に入る。

「……誰もいない」

そこには誰もいなかった。

ドアを閉めて、また別のところを捜す。

ドアがあるところを片っ端から開くが、人一人いない。

それどころか何も置かれていない。『空き部屋』ばかりだった。

(僕が知らない部屋にいるのかな)

知っている場所及び部屋は粗方調べたが全てハズレだった。

プレシアの行動を思い出すことにする。

そこに何か『秘密の部屋』とでも呼ぶべき場所のヒントになるかもしれないからだ。

プレシアがフェイトを折檻(虐待と良太郎は認識している)していた場所を思い出す。

良太郎は広間へと行く。

ここでプレシアはフェイトに折檻を加えていた。

今、ここで大切なのは被害者であるフェイトではなく、加害者であるプレシアだ。

プレシアは何故、広間(ここ)で折檻をする必要があったのだろうか。

これだけたくさんある部屋で何故、広間を選んでいるのかだ。

動けなかったのか、それとも動きたくなかったのか。

どちらにも共通点があるとしたら、プレシアが広間から出る事に対して消極的だということだ。

それは逆に広間に何かあるということだ。

「広間に行こう。何かあるはずだから」

広間に入っても、何か変わったところはなかった。

「プレシアさんはここに何かを隠しているはずなんだけど……」

良太郎はそう言いながら壁を触ったり叩いたりするが変化があるとは思えなかった。

「後はあの玉座……くらいか」

ひとつだけぽつんと佇んでいる玉座に歩み寄る。

玉座に触れ、上から下から右から左から斜めから眺めてみるが、何の変化もない。

「ここに何かがあるはずなんだ。でも、どこに……」

良太郎は完全に行き詰りかけていた。

「ん?あれって……」

そんな彼にかすかの希望が芽生えた。

玉座を中心に右側から光が漏れていた。

光がある方向に良太郎は歩き出す。

そこには何かの部屋らしいのかプレートが貼られていた。

正直、ドアから醸し出す雰囲気は良いものではない。

どちらかというと、禍々しいものだった。

良太郎は万が一に戦闘があるかもしれないと踏んだのか腰元にデンオウベルトを出現させる。

ドアに触れると、横に滑るようにして開いた。

「誰?」

そこには黒髪の女性---プレシア・テスタロッサが液体の詰まったカプセルの中で眠っている少女を見上げていた。

 

「こんなところに人が来るなんて珍しいわね」

プレシアは良太郎に顔を一度だけ向けると、またカプセルの中に入っている少女を見上げていた。

「貴方、以前にアリシアと私の写真を撮ってくれた人よね?」

「……はい」

プレシアの質疑に良太郎は応答する。

「アリシアが最期に会ったのは貴方だったのね」

プレシアは立ち上がり、机の引き出しからスケッチブックをひとつ取り出して良太郎に渡した。

スケッチブックの何ページかを捲って、プレシアは良太郎に見せた。

「こ、これは!?」

そこには『おにいさん』とクレヨンで書かれた文字とイラストがあった。

「紛れもなく貴方よ。不思議ね。こと私達にとって重要と思われる場面には必ずといっていいほど貴方がいるわね」

プレシアは良太郎の素性を探ろうとする言葉を発する。

「それは……」

プレシアは良太郎に向き直ってから座る。

「とにかく座りなさい」

そう言って良太郎に椅子に座るように促す。

「はあ……」

良太郎は椅子に座る。

 

「私から聞いていいかしら?貴方は未来から来たということで合ってるかしら?」

 

「え?は、はい」

良太郎はプレシアから発した言葉が理解できなかったが、頷いた。

「あの、どうして……もしかして、アリシアちゃんから聞いたんですか?」

アリシアが予知夢のことをプレシアに話したのではないかと思った。

「そうね。でも、最初はそれを鵜呑みにしなかったわよ。私がアリシアの言葉を信じるようになったのは私がアリシアと同じ体験をしたからよ」

「同じ体験って……プレシアさんも、ですか?」

プレシアは首を縦に振る。

「あの子を生み出してからすぐ、かしらね。毎晩のように見るようになったわ」

そう言いながら、カプセルの中で眠っている少女を見ている。

「未来の私はこの子---フェイトにひどくあたっているようね」

「……はい」

良太郎は肯定する。

「そして、さらに未来ではフェイトと私は一緒にはいないわ。フェイトは別の所で養子に貰われ、幸せに暮らしているという未来も見たわ」

プレシアは笑みを浮かべていた。

それは母親の笑みだった。

そして、プレシアが見た未来は良太郎の知らない事ばかりだった。

「あの、プレシアさん」

「何かしら?」

「フェイトちゃんとアリシアちゃんはどういう関係なんですか?アリシアちゃんは言っていました。自分が死ぬ事で未来の自分が生まれるって」

プレシアは息を吐いてから口を開き始めた。

「アリシアの言っている事は間違いではないわ。フェイトはアリシアの死によって誕生しているといってもいいくらいよ。何故なら……」

プレシアは意を決して告げた。

 

「フェイトはアリシアの細胞で生み出されたクローンなのよ」

 

「クローン人間……」

SFや少年漫画などではよく聞く言葉だった。

実際に良太郎のいる世界でもクローン技術は存在している。

だが、それは『家畜』などであり、『人間』を対象にしていることは良太郎が知る限りでは聞いたことがない。

改めて文明の差が激しいと痛感した。

「クローン人間が元となっている人間の過去の記憶を持つ事は?」

「ないわ」

プレシアは即答した。

「生み出されたクローン人間は外見がどうであれ、過去の記憶というものはないのよ。生まれたての赤ん坊のようなものね」

「じゃあ、やっぱりフェイトちゃんはアリシアちゃんの『過去の記憶』を植え付けられているんですか?」

「そうね。フェイトがもし自身の過去を語るのならそれはアリシアから転写した記憶よ」

オーナーの仮説はこれで正しいと証明された。

そして、チケットが正確に読み取るのは『その人物が体験した記憶』だけなのだということも。

だからフェイトにかざした場合、『転写されたアリシアの過去の記憶』と『フェイトが体験した過去の記憶』とが混濁して正確に読み取れなかったのだろうと解釈した。

「久しぶりね。人とこんなに会話をしたのは。時の庭園を購入するまでは人の事なんか気にせずに、仕事と研究に打ち込んでたから」

「それもやっぱり、アリシアちゃんのために?」

良太郎にはクローン技術を用いたり、『時の庭園』を購入した動機については凡その見当がついていた。

「ええ。クローン技術を学んだのもアリシアを蘇らせるためのものだったわ。でも、失敗だった。いくらアリシアの細胞で生み出したとしてもそれは『アリシアと同じ姿をした別人』であって『アリシア』ではないと気づかされるのに時間はかからなかったわ」

「………」

良太郎は黙って聞いている。

「そして毎晩のように見る夢。正直、私は気が変になりそうだったわ。私はこの毎晩のように見る夢をどう解釈すればいいか散々悩み、同じように夢を見ていたアリシアはどうしてきたのか考えて結論を出したわ」

プレシアは天井を仰いでから、決意を秘めた表情で言った。

 

「私もアリシア同様、この夢を受け入れる事にしたの。自分のために、そしてフェイトのためにもね」

 

「フェイトちゃんのために?」

プレシアは頷いてから続ける。

「未来の私はフェイトに対してまず冷淡な態度をとっていたわ。そして、アリシアを蘇らせるためにある場所へ向かうという名目でジュエルシードを捜させているわ。もちろん、どんな結果を出しても決して褒めたりはしていなかった。多分そんな仕打ちをするのは、あの子の心の中にある『私』を一刻も早く消したかったからかもしれないわね」

「フェイトちゃんの心の中にあるプレシアさん?」

「子供は親を無条件で慕うようになっているのよ。それがどんな親でも、ね」

「フェイトちゃんをアリシアちゃん以上に愛そうとは?」

「……無理なのよ」

プレシアは良太郎の案を切り捨てた。

「わたしが見たフェイトの未来は全てといっていいほど、私が冷たくあたることが前提となっているのよ。私がフェイトに優しく接したらその時点で、フェイトの未来はなくなってしまうわ」

「未来がなくなる?」

「最悪、死ぬかもしれないわね」

震えるような声で言うプレシア。

辛くあたることで今後の未来が誕生し、優しく接する事で未来がなくなる。あまりにやりきれない現実だった。

良太郎は確信した。

プレシアはフェイトに愛情を持っているという事を。

そして、フェイトのためにあえて『悪い母親』を演じようとしている事を。

(だからあの時、プレシアさんは笑ったんだ……)

良太郎がプレシアと初めて会った際、フェイトの事で怒りを剥き出しにして文句を言った。

その時、プレシアはそれを聞いて大笑いした。

多分だが、『今ここにいる自分』と『プレシアにとっては三度目に出会った自分』を比較して笑ったのだろう。

自分だけが、プレシアの本心を知る人物なのだから。

(プレシアさんは僕が考えているよりずっと、フェイトちゃんのことを想ってたんだ……)

「このことを話すのは貴方が最初で最後でしょうね」

プレシアは眠っているフェイトを見ていた。

良太郎はそんなプレシアを見て考えていた。

この人はこれから数年、そう『フェイトと離れるという未来』が現実になるまで人々を、そして自分を欺くのだろう。

「次にフェイトを起こした後、私は今言った事をすべて実行するわ。貴方には……愚問だったわね」

プレシアは良太郎の表情を見て、頼もうとした事を言うのをやめた。

「わかってます。この事は僕の胸に留めておきます」

良太郎は全て理解していた。

これは誰かに言えばそれだけで未来が変わるかもしれないデリケートなものだからだ。

そして、アリシアの時と同様に『起きた事』である以上、決して変えてはならないのだ。

「助かるわ。そういえば名前を聞いていなかったわね。よければ名前を聞かせてもらえるかしら?」

この時間のプレシアは自分のことをまだ知らないのだ。

「野上良太郎」

「そう、では野上良太郎。未来の私がしでかす始末と、フェイトの事をよろしくお願いします」

プレシアは良太郎に頭を下げた。

「わかりました」

良太郎は覚悟を決めて答えた。

その表情は誰もが『この人になる任せられる』といった決意と覚悟を持った表情だった。

 

『時の庭園』から出ると、モモタロスは欠伸をして待っていてくれた。

「よぉ、何にもなかったみてぇだな?」

「うん。何もなかったよ」

「で、良太郎。この時間では何がわかったんだよ?」

モモタロスが訊ねてくる。

今、ここで全てを話すわけにはいかないので、『時の庭園』を見つめながら、

 

「フェイトちゃんの誕生と、母親の想い、かな」

 

そう言ってから良太郎はデンライナーへと向かう。

「おい、どういう意味だよ!?教えろよ!?良太郎!」

モモタロスは出し惜しみしていると想われる良太郎に文句を言いながら背中を追いかけた。




次回予告

第二十七話 「デンライナーの車窓から~母の決断~」


あとがき
今回で第一部の大まかな部分が終了しました。
次からはそれをどう向かっていくかの話になるのかもしれませんね

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