仮面ライダー電王LYRICAL   作:(MINA)

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第二十六話 「デンライナーの車窓から ~見た少女~」

野上良太郎とモモタロスが三枚あるチケットのうち、一枚目の過去の時間へと足を踏み入れている頃。

高町家では

「良太郎とセンパイ、上手くやってるかなぁ」

庭でウラタロスが自作の釣竿で紙で描いた魚を釣って遊んでいた。

「モモの字だけやったら心配やけど、良太郎がおるんやから問題ないやろ?」

キンタロスも庭で四股を踏んでいた。

「いーじゃん♪いーじゃん♪すげーじゃん♪」

リュウタロスは自前のシャボン玉を発射する銃の引き金を絞りながら庭で踊っていた。

「アンタ達!遊んでないで手伝いなさい!」

テーブルを拭いていたコハナは庭で遊んでいる三体のイマジンを怒鳴りつけた。

「「「はーい」」」

三体のイマジンは渋々と面倒くさそうに手伝い始めた。

 

 

野上良太郎とモモタロスはデンライナーへと戻っていた。

食堂車はピアノの音が響き渡っているが、演奏者が奏でる曲は『癒し』をもたらす曲ではないことが残念といえば残念かもしれない。

「まさか、この家族写真を撮ったのが良太郎だったとはな」

モモタロスがフェイト・テスタロッサと瓜二つの女の子とプレシア・テスタロッサが写っている写真をコピーした用紙を見て、先程の出来事を振り返っていた。

「多分だけど、この時間での僕達の役割はもうないと思うよ。チケットのイラストである二人には会ったしね」

一枚目のチケットのイラストはプレシアとフェイト似の女の子だった。

その二人と出会い、フェイトと自分が出会った女の子が別人だとわかっただけでもこの時間に来た意味は充分にあった。

残りのチケットは二枚。

次に向かうべき時間のチケットのイラストは女の子一人だけのものだ。

ちなみに一枚目のチケットは役割を終えて、消滅している。

どうやら片道切符だったらしい。

「よし、次の時間に行こう」

「おう!」

良太郎とモモタロスは一号車に向かい、チケットをセットしたパスをデンバードのキーボックスへと差し込む。

デンライナーの前頭部分に年号と月日が表示され、停まっていた車輪が動き始めた。

空の空間が歪み、『時の空間』へと通じる穴が発生するとデンライナーは空中に線路を敷設、撤去しながら向かって行った。

穴へと突入したデンライナーは『時の空間』に入り込み、良太郎とモモタロスにしてみれば見慣れた風景が窓から見えていた。

モニュメント・バレーを思わせる荒野だ。

「なあ、良太郎」

「なに?モモタロス」

一号車から食堂車へと向かっていく道中、モモタロスが真剣な表情で良太郎に声をかけた。

「一枚目のチケットでよ、あのガキとオバサンすげぇ幸せそうだったよな?」

「……うん、そうだね」

モモタロスが何を言いたいのか良太郎は察した。

「てことはよ、これから俺達が見ようとしてるものってのはよ、やっぱり……」

「……うん、モモタロスの考えているとおりだと思うよ」

「……辛ぇよな」

「……うん」

それでも、停まるつもりはない。

いや、停まるわけにはいかない。

プレシアが言った『真実』にまだ辿りついていないのだから。

行く前からある程度はわかっていたはずだ。

自分達が見ようとしているものは決して虚飾で彩られたものではない事を。

残酷で無慈悲にも思えるものだという事を。

食堂車に戻ると、オーナーは旗付きチャーハンを食べていた。

「良太郎ちゃん、モモタロちゃん。お帰りなさーい。何か飲みます?」

ナオミが笑顔で迎えてくれた。

「いや、俺いいわ。喉渇いてねぇし」

モモタロスは断って、自分がいつも使っているテーブル席にどっかりと腰を下ろした。

「ナオミさん、僕は水をお願いします」

良太郎はとりあえず、水分を摂る事にした。

「はーい、わかりましたー」

ナオミはカウンターへと行く。

すぐに水を入れたグラスを持ってきてくれた。

「はーい、良太郎ちゃーん。お水ですよー」

「ありがとう。ナオミさん」

良太郎はグラスを受け取り、一気に飲む。

「……はあ」

空になったグラスを置いてから一息吐く。

「オメェが一気飲みなんて珍しいな」

「これから行く時間で起きる事が僕達が予想している事だと思うとさ……。水でも飲んで強引に気持ちを落ち着けないと、もたないよ」

「良太郎……。で、落ち着いたのかよ?」

モモタロスが良太郎の名を呟き、落ち着いたかどうか確認する。

「何とかね」

良太郎は笑みで返す。

「まもなく、指定した時間へ到着しまーす」

ナオミのアナウンスがデンライナーに伝播したとき、デンライナーは『時の空間』から現実空間へと通じる穴を抜けて、地上に向けてレールを敷設しながらデンライナーは向かって行った。

 

デンライナーが停車してドアが開くと、良太郎とモモタロスが降車した。

「ここが二枚目のチケットの時間……」

良太郎は周囲を見回している。

「一枚目と大して変わんねぇなあ」

モモタロスも周囲を見回しながら、感想を述べた。

「そうでもないよ」

良太郎は指差す。そこには、巨大な発電所のような建物がいくつも建っていた。

「あれは、一枚目の時間には殆どなかったでしょ?」

「あ、言われてみりゃそうだな」

よく見ると一枚目の時間に比べると、都会的な場所だ。

それは良く言えば『近代的』であり、悪く言えば『窮屈』ということだ。

「二枚目はガキに会うんだよな?」

「多分ね」

「でもよぉ、これどこ探しゃいいんだよ?向こうからやってくるの待つか?」

「そんな時間もないし、とにかく手分けして……あれ?」

「どうしたんだよ?良太郎って、おい、あれまさか……」

良太郎とモモタロスはこちらに向かってくる小柄な物体二つをじっと見ていた。

見覚えがあるのだ。

「良太郎。オマエ帰ったら相当ひでぇ目に遭うぞ?間違いなく」

「口に出さないでよ。現実になりそうで怖いんだから……」

こちらに向かってくる小柄な物体とは、自分達が探していた女の子と山猫のリニスだった。

 

 

雷が常に鳴り続け、雲が螺旋状に渦巻く高次空間。

『時の庭園』はそんな不気味な景色を背景に一枚の絵にしてもよいくらいに溶け込んでいた。

主であるプレシア・テスタロッサはそんな不気味な空間を見つめていた。

彼女の身体から砂がこぼれる。

砂は水溜りくらいの大きさになると、それはやがて同じ大きさくらいに分裂した。

「ジュエルシードを集めなさい」

そう言うと、二つの砂は人の姿を象っていく。

人というよりは怪人だろう。何せ、顔が魚のタラなのだから。

タラ型のイマジン---コッドイマジンは光の球体となって、『時の庭園』から出て行った。

 

 

「あ、あの時のお兄さんと赤い人だぁ!」

「にゃにゃあ」

野上良太郎とモモタロスに向かってくる一人の少女と一匹の山猫は更に速度を上げて寄ってきた。

「また、会ったね」

「よぉ」

一人と一体は当たり障りのない挨拶をした。

「あの時は写真撮ってくれてありがとう。お兄さん」

「いえいえ」

笑顔で礼を言ってくる少女に良太郎はどう対処したらいいか戸惑う。

「今日は母ちゃんはどうした?」

モモタロスがプレシアのことを訊ねると、女の子の表情は途端に暗くなった。

「……お母さんは今日もお仕事なの」

「……にゃあ」

女の子が言うと、山猫も沈んだ声で鳴く。

「あー、悪かったな」

モモタロスは後頭部を掻きながら、女の子に謝る。

「ううん、赤い人は悪くないよ」

女の子は首を横に振る。

「ところで、お兄さん達はどうしたの?」

「え、ええとね……」

女の子の当たり前といえば当たり前の質問に良太郎は返答に悩んだ。

「君に会いに来た」なんて言える筈がない。

「もしかして、お兄さん達ヒマなの?」

女の子は回答に悩んでいる良太郎に焦れたのかこれからのことを訊ねてきた。

「え?」

これもまた回答に困る質問だった。

自分達は『真実』を知るために無駄に時間を消費するわけにはいかない。

だが、『この時間で得られる真実』は何一つ得ていない。

自分の眼前には『この時間で得られる真実』の鍵となる少女がいる。

少女のこれからの行動に何か意味があるのではと深く考えてしまう。

「そう、だね。暇といえば暇なのかな」

「じゃあ、少しだけ遊べる?」

「にゃあ」

女の子と山猫は上目づかいで良太郎を見ている。

「うーん、わかったよ。ずっとってワケにはいかないけどいい?」

「うん!いいよ!」

女の子は笑顔になった。

「そうだ。名前言ってなかったよね。わたし、アリシア。アリシア・テスタロッサ。お兄さんは?」

「僕は野上良太郎。そして、隣にいる赤い人はね……」

「モモタロスだ。憶えとけよ?」

互いに自己紹介をした面々はアリシアとリニスの案内でテスタロッサ家へと向かった。

 

テスタロッサ家は一軒家でもなければマンション及びアパートの一部屋というわけではなかった。

プレシアの仕事場である工場の近辺にある研究室の一室だった。

研究室を改造して設けられている生活空間は、親子二人と猫一匹が生活するには問題ない広さだったりする。

現在の仕事が片付き次第にすぐに引き払うつもりなのだろうか、最低限の装飾しか施されていなかった。

質素ではあるが、生活感がないというわけではない。

「どうぞ。ここに人を呼んだのはお兄さん達が初めてかもね?リニス」

「にゃあ」

アリシアとリニスに招かれ、良太郎とモモタロスは入る。

「お邪魔します」

「邪魔するぜぇ」

「今から遊ぶもの持ってくるから、どこかに座っててね」

アリシアはそう言いながら、部屋の奥へと向かって行った。

「なあ、良太郎」

「なに?モモタロス」

「あのガキに何が起こるんだろうな?」

「わからないよ。でも、今日に何かが起こることは確かだと思うよ」

モモタロスの質問に良太郎は適切な回答を出す事は出来なかった。

「お兄さん達、ゲームできる?」

「内容にもよるけど、できなくはないよ」

良太郎は自身のゲーム経験を考えてそのような返答をする。

「俺もだ」

モモタロスも似たような返答をする。

「じゃあ多分、このゲームは出来ると思うよ」

一人と一体のコメントを聞いたアリシアは取り出してきたモノをテーブルに広げた。

広いボードには曲がりくねった道が描かれており、その道には一マス一マス様々なことが記されていた。

『一回休み』、『三マス進む』、『振り出しに戻る』などがあり、何も記されていないマスもいくらかあった。

双六(すごろく)だね」

「ああ、これなら何とかなるな。変に頭使わなくていいしよ」

良太郎もモモタロスも、ややこしいゲームでなくてよかったと安堵していた。

「コレ、使ってね」

アリシアは握っていた手を開く。彼女の手のひらにはサイコロがひとつと、プレイヤーの分身ともなる駒が三つあった。

良太郎とモモタロスは駒をひとつずつとって、振り出しのマスに置く。

アリシアも駒を振り出しに置く。

「さあ、始めるよ!わたしが一番ね!」

アリシアはサイコロを手にして、放り投げた。

それから一時間後。

「やった!わたしが一番!」

アリシアの駒はゴールへと無事に到着していた。

「よし!俺が二番っと!」

モモタロスの駒がゴールへと到着した。

残りの良太郎はというと、

「えーっと、つまずいて怪我をしたので一回休みって、また休み!?」

障害のあるマスばかりに到着して、通常よりも遥かに遅い歩みでゴールを目指していた。

「俺達、ゴールしたから気にすることねぇぞ」

「お兄さん、頑張って!ゴールまで半分だから」

「う、うん」

モモタロスの慈悲とアリシアの応援を受けながら、良太郎はサイコロを振る。

「振り出しに戻る、また最初からだ……」

「……良太郎。早く駒を振り出しマスに戻せよ」

「お、お兄さん。その……頑張ってゴールしてね」

モモタロスとアリシアの同情と哀れみの混じった眼差しを受けながらも良太郎はサイコロを振った。

この後、彼はもう一回振り出しに戻ることになり、無事にゴールしたのはそれから更に一時間半後の事だったりする。

「あー、面白かった!ここに来て誰かと遊んだのって初めてなんだ!」

アリシアは満喫した表情になっている。

「にゃあにゃあにゃあ」

リニスも満喫したのか嬉しそうに鳴いている。

「あ、片付けなきゃ。散らかしっぱなしにしてると、お母さんに怒られるから」

アリシアは双六の駒とサイコロとボードを片付けていく。

「結構、時間たったね」

「ああ、だが時間をかけた大半の原因はオマエだぜ?良太郎」

「……返す言葉もないよ」

良太郎とモモタロスはアリシアの後姿を見ている。

わかっていることは今日にアリシアの身に何かが起こるということだ。

だが、そんなものが起こる兆しすら今のところない。

むしろ、チケットが読み間違えたのではと疑ってしまうくらいだ。

「お待たせ。お兄さん、モモタロスさん」

アリシアはそう言いながら、向かいの席に座る。

「どうしたらいいかな?」

「俺がわかるわけねぇだろ。アリシアが何か起こすまで待つしかねぇよ」

小声で話し合う良太郎とモモタロス。

「ねぇねぇ。お兄さんとモモタロスさんって……」

アリシアが切り出してきた。

「ん?なに、アリシアちゃん」

「何だよ?」

良太郎とモモタロスは次にアリシアの口から出るのは「どこから来たの?」といった質問であり、良太郎とモモタロス(こちら)としては「外国から来た」とか「遠くから来た」という答えを準備も万端だった。

 

「未来から来たんだよね?」

 

その言葉がアリシアの口から出た時、良太郎とモモタロスは硬直した。時間にして五秒ほど。

「「え?」」

もう一度確認するかのようにアリシアに聞き返す。

「だから未来から来たんだよね?」

アリシアは確認するかのように訊ねる。

「オメェ……」

「モモタロス」

良太郎は訊ねそうになるモモタロスを止めた。

「……うん。その通りだよ」

「やっぱり、そうなんだ」

アリシアは先程の明るい表情から真剣な表情となっていた。

「アリシアちゃん、ちょっとごめんね」

そう言うと、良太郎はアリシアに背を向けた。

小声で話し始めた。

「どういうことなんだよ?良太郎。何でアイツ、俺達が未来から来たなんて知ってるんだよ?」

「多分だけどね、桜井さんがゼロノスカードを使う前の姉さんの時と同じだと思う」

「姉ちゃんの時?」

良太郎の姉---野上愛理は桜井侑斗がゼロノスカードを使用する前は全ての事を知っていた。

『時の運行』のこと。

イマジンのこと。

時の列車のこと。

特異点のこと。

自分が現在経験している事を姉は知っていたのだ。

まるで自身が体験したかのように。

「あの時は疑問に思わなかったんだけどね。今にしてみれば腑に落ちない事もあったんだ。特に、ハナさんの事に関しては、ね」

「コハナクソ女の事に関してだぁ?どういうこったよ」

「ハナさんが未来の特異点ってどうやって姉さんは知ったのか、ってことさ」

「あ……、言われてみりゃ確かにそうかもな」

生まれてくる赤ん坊が『普通』か『特異点』なのかどうかは産婦人科に行ってもわからないことだ。

「これは推測なんだけどね。姉さんは誰かに教えてもらったんじゃなくて、夢か何かで見たんじゃないかと思うんだ」

「えーと、そりゃヨチムってヤツか?」

「うん。でも、今言った僕の説が正しいとは限らないけどね」

そう、どんなに予知夢を見たとしてもそれを他者に話したとして必ず信じてくれるわけではない。

夢で見たものを信じてくれる人間は余程、純真かそれに近い体験をした者ぐらいだろう。

「じゃあ、あのガキもか?」

「多分……ね」

良太郎とモモタロスはアリシアに向き直る。

「アリシアちゃん、どうして僕達が未来から来たってわかったの?」

「夢を見たの。お兄さんとモモタロスさん、そしていろんな人達がお母さんと向き合ってる夢を見たの」

アリシアが見た夢が未来だと良太郎は確信した。

今、自分の身内の中でプレシアと会っているのは自分だけだからだ。

自分達は総出でプレシアと戦うという事だろう。

「他にはどんな夢を見たの?憶えている範囲でいいから」

アリシアは天井を見ながら思い出そうとしていた。

「えーとね、未来のわたしなのかな?とにかく未来のわたしが魔法を使って白い女の子やお兄さんと戦っている夢を見たの」

アリシアが言った『未来のわたし』とはフェイト・テスタロッサの事だろう。そして、『白い女の子』とは高町なのはだと良太郎は解釈した。

アリシアの言った内容は全て自身が体験したり、見たりしたものだ。

自分は別世界(ここ)に到着した際、すぐにフェイトと戦っているし、フェイトとなのはが現在進行形で戦っているのもアリシアからすれば未来の出来事だ。

「アリシアちゃん、その夢って音とか声とかもあった?」

フェイトを『未来のわたし』と言っているところからするとアリシアの予知夢は、音声が含まれていない映像だけのものだと推測した。

「偶にだけど聴こえたよ。聴こえても、どこかひどい雑音みたいな感じだったかなぁ」

映像としては申し分なくとも音声の部分では不安定だという事だ。

「そうなんだ。ありがとう」

良太郎は質問に答えてくれたアリシアに礼を述べた。

「ねぇ。お兄さん、モモタロスさん」

「何?アリシアちゃん」

アリシアは何かが起こるのをわかっているのか悟ったかのような表情をしていた。

 

「もうすぐここは危なくなるから早く離れたほうがいいよ」

 

「「!!」」

良太郎とモモタロスは目を大きく開いた。

アリシアの一言は未来を知っている者にしか言えない台詞だ。

「アリシアちゃん……」

「オメェ……」

ここで以前の自分なら「だったら君もここから出よう」といったことを平然と言ったかもしれない。

だが今はそれを言う事が出来ない。

何故なら、ここで起きた事は未来から来た良太郎達にとっては『実際に起きた事』であり、それはどんなに悪い事でも未来を生むためには大切な事なのだ。

「アリシアちゃん。もしかして、自分に起こることも……」

アリシアは首を縦に振る。

 

 

「わたしね、今日ここでね……死ぬの」

 

 

アリシアは五歳。それでも『死』というものがどういうものかはわかっているらしい。

「でも、わたしが死ぬ事で『未来のわたし』が生まれて、わたしが見た夢のとおりになるんだよね?」

アリシアは確認するかのように良太郎に訊ねる。

良太郎は無言で首を縦に振る。

「あとね、お兄さん」

「うん、なに?」

「わたしね。お母さんとずっと一緒にいる夢も見たんだ。コレもやっぱり未来なのかな?」

プレシアとアリシアが共にいる、それが未来なのか単にアリシアの願望かは良太郎にはわからないことだった。

下手な同情はかえって傷をつける。特に『時の運行』ではそれが顕著だ。

「……ごめん。僕にはわからないよ」

謝罪する良太郎にアリシアは笑顔で答える。

「ううん、いいよ。早く行って!お兄さん、モモタロスさん。未来のわたしによろしくね!」

笑顔で見送ってくれているアリシアに言葉に良太郎とモモタロスは無言で頷くと、テスタロッサ家を後にした。

 

デンライナーに乗り込んだ良太郎とモモタロスはこの時間の『真実』が何なのかをようやく理解した。

この時間は『アリシア・テスタロッサの最期』なのだ。

彼女の死因が何なのかまではわからなかったが。

「アリシアさんが早く離れるように促さなかったら、良太郎君もモモタロス君も彼女と同じ道を辿っていたでしょうねぇ」

「アリシアちゃんの死因がわかるんですか!?」

「オッサン、あのガキが何で死ぬのか教えろよ!?このままじゃやりきれねぇよ!」

良太郎とモモタロスもオーナーに詰め寄る。

モモタロスにいたっては、オーナーの胸倉まで掴みかけている。

「コレを見てください」

オーナーはそう言うと、新聞記事を見せた。

何故かその新聞は日本語訳になっていたが、間違いなくここでの出来事だった。

「ええと、『大型魔力駆動炉』稼動実験中に大暴発。違法エネルギーを使用した事が原因か?工場内のスタッフ及び見学者は完全遮断結界により命に別状はなし。なお、基点とする工場外の付近一帯にいる生物は流出したエネルギーを体内に取り込んだために死亡」

良太郎は新聞記事を読み終えると、自分なりにアリシアの死因を解釈する事にした。

アリシアは駆動炉から流出した有毒ガスのようなものを吸い込んだために死亡したのだと。

オーナーは良太郎から新聞記事を受け取り、懐から取り出したマッチを使って焼却した。

良太郎とモモタロスはアリシアが最期となる笑顔を思い出していた。

「……アイツ、最後の最後まで笑ってたな」

「……僕達に余計な気を遣わせないようにしたんだと思う」

一枚目の『真実』を知った時とは逆に食堂車の雰囲気は暗かった。

「……行こう」

「ん?」

良太郎はテーブル席から立ち上がり、拳を震わせながらモモタロスに告げた。

 

「行こう。三枚目の時間へ!」

 

三枚目のチケット。

この事故が起こったさらに後の時間である。

そして、フェイトとアリシアの関係、プレシアが何故良太郎を知っていたのかがわかるかもしれない時間でもある。




次回予告

第二十七話 「デンライナーの車窓から ~母の決断~」


あとがき
この回でアリシアの最期の時間の出来事が終わり、次回にはプレシアの真意が明らかになります。
それでは次回でお会いしましょう。

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