仮面ライダー電王LYRICAL   作:(MINA)

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みなさん。こんばんは。

今回から電王的なストーリーになっていきます。


第二十四話 「デンライナーの車窓から ~出発前~」

空は野上良太郎の心に反しているかのように晴れていた。

良太郎はベッドから起き上がると、パスから一枚のチケットを取り出した。

チケットに記載される年号や月日はチケットをかざされた人間の最も強い『記憶』を記載している。

つまり、人間にチケットをかざしている限りは違法性のないチケットが完成するという事になる。

この法則に当てはまらないチケットも存在している

かつて牙王が『神の路線』を走る際に用いた『無限(インフィニティ)』と記載されているチケット。

オーナーが所持している『乗車拒否』と記載されているチケット。

リュウタロスがカイから渡されている『無期限有効(年号、月日が8888.88.88と表記)』チケット。

製造方法は不明だが通常とは違う方法で作成しなければならないということだけは、はっきりしている。

それが何種類ものチケットを見たりして学び、野上良太郎が分析した事だ。

「人にかざしたはずなのに……」

良太郎は昨日、フェイトにかざしたチケットを見ていた。

人間にかざしているのに明らかに違法性の臭いが満ち溢れているこのチケットは良太郎にとっては初めてのことだ。

チケットをパスに収納し、起き上がる。

まだ本調子というわけではないが、日常生活程度ならこなせるまでに回復していた。

「よし、行こう」

良太郎は寝室を出て、リビングに向かう。

朝食を作るために。

 

 

高町家。

高町なのはの部屋では一人の少女と一匹のフェレットが小さく亀裂の入った紅い珠を見ていた。

「大分、回復してきたね。ユーノ君」

「うん、自己修復機能をフルに活用しているからね」

部屋の主である高町なのはとユーノ・スクライアが紅い珠---レイジングハートの回復に喜んでいた。

「なのは、君は大丈夫?あのイマジンの一撃をまともに食らったんだから……」

「バリアジャケットを着ていたおかげで、まだちょっと痛いけど大丈夫だよ」

笑みを浮かべてユーノに自身の身体状況を告げる。

「そっか」

その笑みが作りではないと、ユーノは判断する。

「なのはちゃーん、フェレットくーん。ご飯だよー!」

一階からリュウタロスの声が聞こえてくると、なのはとユーノは部屋を出た。

なのはとユーノが一階に下りてリビングに向かうと、そこには高町士郎と桃子が朝食の準備をし、高町恭也とモモタロスが何が原因なのかわからないが睨みあっており、高町美由希がウラタロスとキンタロスから何かを聞いており、リュウタロスはテレビのリモコンを持ってチャンネルをいじくりまわしており、コハナは別世界(こちら)に来てから習慣になったのか新聞を読んでいた。

「みんな、出来たわよ。席について」

桃子の一声で各々バラバラな行動を取っていた面々がそれぞれの定位置に座る。

そして、

「「「「「「「「「「「いただきまーす」」」」」」」」」」」

と食材に対して感謝の言葉を述べて食べ始めた。

これが一匹のフェレットと四体のイマジンと一人の少女が加わった高町家の朝である。

 

朝食を食べ終えた面々はそれぞれ行動する。

士郎と桃子は『翠屋』へと出勤。

恭也も大学での講義が休講なのか、高町夫妻同様に『翠屋』へと向かった。

美由希、なのはは学校へと行く。

そうなると、高町家に残っているのは居候軍団だけだ。

「僕はレイジングハートの回復状況を見てきます」

ユーノはそう言うと、リュウタロスの肩から飛び降りてなのはの部屋へと向かった。

ウラタロスとリュウタロスはどこから持ってきたのかオセロをしており、キンタロスはソファで爆睡していた。

「あーったく、暇だ」

「だったらアンタもやること捜せばいいじゃない?」

暇を訴えていたモモタロスに対して、コハナはやる事を捜すように薦める。

「ねーんだよ」

捜す気がないので、ソファにもたれて天井を仰ぐ。

「!!」

さっきまでだらけていたモモタロスが急に立ち上がった。

「オメェら。今忙しいか?」

モモタロスがウラタロス、キンタロス、リュウタロス、コハナを見回してから言う。

その言葉にはおちゃらけた事ではないという重みがあった。

「センパイ?」

「どないした?モモの字」

「なになに?教えてよ。モモタロスゥー」

「モモ?」

「良太郎からだ。何か今後の事を決めるからちょっと来いってよ」

その言葉に誰もが真剣な表情となった。

 

「これでよしっと」

ケータロスを畳んでポケットにしまいこむと、良太郎はソファで寛ぎながらテレビを見ているアルフに声をかける。

「アルフさん、フェイトちゃんは?」

「あたしの隣で寝てる。出かけるのかい?良太郎」

「うん、昼までには帰ってくるよ」

「じゃあさ、コレ買ってきてくんない?」

アルフはそう言いながら、良太郎にチラシを一枚渡してきた。

そこには『ドッグフードの特売フェア』と記されていた。

「アルフさん、人間の食べ物食べれるんだからそっち専門にすればいいのに……」

「いやー、(たま)にこうムラムラっと食べたくなるんだよねー」

アルフのそういった衝動には良太郎も何となくではあるが理解できる。

「わかった。あれば買ってくるよ」

良太郎はチラシをポケットに突っ込んでドアノブを握って回した。

 

 

野上良太郎が指定した場所は『翠屋』だった。

距離的には似たようなものらしく、良太郎が先に到着しコーヒーを頼んでいた。

後で来る待ち人達(正確には待ち人一人と待ちイマジン四体)のことも考えてカウンターには座っていない。

時間帯が午前であり開店して時間が浅いためか、翠屋はガラガラだった。

その方がこちらとしてみれば好都合だ。

「お待たせいたしました。コーヒーです」

青年がトレーに乗せたコーヒーを良太郎のテーブルに置いた。

「あ、どうも」

「君が野上良太郎、か?」

青年は名前を尋ねてきた。

良太郎はコーヒーから視線を名を尋ねてきた青年へと向ける。

「そうですけど、君は?」

「高町恭也。なのはと美由希の兄といった方が君にはわかりやすいだろう」

「そう、なんだ」

実はこの二人、今日が初めての出会いだったりする。

良太郎は何度か『翠屋』には訪れているのだが、間が悪いのか恭也とは一度も会ったことがない。

恭也もまた、自身が『翠屋』でバイトしているときに限って、これもやはり間が悪いのか良太郎が来ないので一度も会ったことがない。

「君の事はなのはや美由希、モモタロス達から聞いている」

恭也はそう言いながら、良太郎の向かいに座る。

「はあ」

なのはとモモタロス達が真相を話すわけがないので、『D・M・C(電王メンバーズクラブ)』の一人として認識されているのだろう。

「君とモモタロス達はどのくらいの付き合いになるんだ?あいつ等は君をとても信頼しているように見えたから」

恭也の質問に良太郎は出会いから現在に至るまでを振り返ってみる。

「一年半くらい、かな。多分」

「そんなに短いのか。なら、共に歩む時間が濃かったということか」

「そう、だね」

良太郎は恭也に対してタメ口で答えた。

本来なら、敬語を使うべきなのだが恭也は特に気分を害しているわけでもないのでそのままの口調で通す事にした。

「今日は何か?なのはは学校だが」

「いや、モモタロス達に用があるんだ」

「そうか。ゆっくりしていくといい」

「ありがとう」

恭也は席から立ち上がって業務に戻ろうとすると、カランカランとドアに設置してある鈴が鳴った。

良太郎は誰が入ってきたのかを見る。

四体のイマジンと一人の少女だった。

 

「何だよ?良太郎。今後のことってのはよ」

テーブル席に座っているモモタロスがプリンを食べながら、良太郎に呼び出した理由を訊ねた。

「センパイ、とりあえずプリン食べちゃいなって」

ウラタロスがコーヒーに口をつけてからモモタロスをたしなめる。

「そうやで。モモの字、口に入っとるものはちゃんと消化せなアカン」

そう言いながらキンタロスはケーキを四個食べていた。

「ママさん!僕、コーヒーお代わり!」

リュウタロスが空にしたコーヒーカップをくるくると回していた。

「あんた達!良太郎が話を切り出せないじゃないの!」

コハナがイマジン達をいつもの手口(鉄拳制裁)で鎮静化させた。

それから五分後。

イマジン達は大人しくなっていた。

コハナの鉄拳制裁が久々だったため、かなり堪えているらしい。

「それで、良太郎。今後の事って何なの?」

「その前に、これを見てほしいんだ」

良太郎はパスから一枚のチケットを取り出して、テーブルに置いた。

モモタロスがそのチケットを手にする。

「何だよコレ?数字も何かもメチャクチャじゃねぇか」

「確かに、こんなのデンバードにセットしたらどこ行くかわかんないよ」

モモタロスの横を覗き見るかたちでウラタロスが言う。

「モモの字、カメの字。俺にも見せぇや」

「僕も見るー」

キンタロスとリュウタロスがうるさいのでモモタロスはチケットをもう一度、テーブルに置いた。

キンタロスが取り、リュウタロスが覗き見る。

「確かにデタラメもいいとこや。こんなんじゃどこにも行かれへんで」

「僕が持ってたのより、酷いや」

キンタロスはウラタロスと同じ意見を述べ、リュウタロスはかつてカイから渡されたチケットを思い出していた。

「これどうしたの?良太郎、誰かに貰ったとか?」

コハナがチケットの入手経緯を訊ねてきた。

「フェイトちゃんにかざしたらそんな風にできあがったんだ」

良太郎は遠まわしな言い方はせずに率直に答えた。

「「「「「え?」」」」」

四体と一人はてっきりこのチケットの入手経緯は誰かから入手したものだと思っていたようだ。

「コレ見たら普通はそう思うよね」

良太郎はテーブルに置いてあるチケットを手にして一瞥する。

モモタロス達の反応は別におかしいことではない。

むしろ、『時の運行』に関わる者ならその反応は正しいといってもいいだろう。

「人間にかざしてこんなんになるのかよ?普通」

モモタロスが良太郎からチケットを取って、もう一度見る。

「確かにありえないよね」

ウラタロスがモモタロスから引っ手繰り、違った角度から見ようとしている。

「ありえん事になるいう事はや。その子供に何かあるっちゅうことやな」

キンタロスがウラタロスから取り上げて、凝視しようとする。

「何なんだろー」

リュウタロスはキンタロスから取ろうとするが、上手くいかなかったらしく横から覗くかたちになっている。

「でも、どうして人にかざしてるのにこんな風になるのかしら?」

「わからない。でも、フェイトちゃんには何かあることは確かだと思うんだ」

コハナの疑問に良太郎は回答できない。

フェイトの寝室に置いてあった家族写真を思い出していた。

写真に写っていたフェイトとプレシアは実に仲の良い親子だった。

それが数年で現在のような関係になるのだろうか。

余程のことが起こらない限り、そんなことにはならないだろう。

では『余程の事』とは何なのだろうか?

まるで底なし沼に沈んでいくような気分だ。

パスを開き、チケットをしまいこもうとする。

チケット収納部に収まっているブランクチケットがずれていた。

「あれ?」

普通なら気にする事はないことだ。

ずれたブランクチケットの後に収納されているのは普通ならブランクチケットだ。

なのに、ずれたブランクチケットの後ろにあるチケットにはイラストと月日が記されているように見えた。

「何だろ」

そう言いながら、ずれたブランクチケットを収納部から取り出す。

「み、みんな!これ見て!」

良太郎はいつしかチケットの取り合いになっている四体のイマジンとそれを武力をもって沈めようとするコハナに見せた。

そこにはフェイトとプレシアがイラストとなっており、年号と月日も正確に記されていた。

しかし、年号は自分達が見てきたものとは明らかに違っていた。

「多分、この年号はフェイトちゃんが住んでいた世界の年号だと思う」

海鳴の住人にチケットをかざした場合、年号は自分達の世界と同じように西暦で記される。

更にチケットを抜き取る。

「まただ……」

更に一枚、ブランクチケットではなくイラストと年号、月日が記載されているチケットがあった。

イラストはフェイトで年号は同じだが、月日は違っていた。

「おいおい、どうなってんだよ?」

モモタロスも何が何だかわからなくなっていた。

「まさか、それを抜き取ったらまた一枚あるんじゃないの?」

ウラタロスがからかい気味に言うが、いつものような声色ではない。

良太郎はパスから二枚目のチケットをゆっくりと抜き取る。

「やっぱり……」

「これで三枚目やで……」

抜き取るとブランクチケットではなく、チケットがあった。

イラストはプレシアで年号、月日も記載されており、年号は二枚目より後になっていた。

「いつ、パスに三枚(こんだけ)のチケットを入れたのかな?」

リュウタロスは三枚のチケットをどうやって収納したのか考え出す。

「いつ、誰が入れたのかはわかるよ」

「「「「「え?誰?」」」」」

良太郎以外の全員が声を合わせた。

「この人だよ」

三枚目のチケットを皆に見せる。

「誰だよ?このオバサン」

当人が聞いたら落雷が落ちそうな事をモモタロスが言う。

「プレシア・テスタロッサ。フェイトちゃんのお母さん」

「何か妖艶な人だねぇ。釣りがいがあるよ」

相手が女性なら敵味方問わず、『釣り』をしようとするのがウラタロスである。

「オマエはナンパ(それ)ばっかりやな」

キンタロスは呆れるだけだった。

「怖そうなオバサンだねぇ」

リュウタロスの第一印象は『怖い人』のようだ。確かに愛想のいい人に見えないことには違いないが。

「でも、これで確定したね。プレシアさんは間違いなく僕に真実を知るように勧めているって事が」

良太郎はテーブルに三枚のチケットを年号順に並べ替える。

「で?良太郎、オメェはそのオバサンの言葉に乗るのかよ?」

「もちろん」

モモタロスの問いかけに良太郎は即答する。

「罠かもしれないよ?」

「たとえ罠だったとしても、今より前に進めると思うんだ」

罠だとほのめかすウラタロスの一言にも良太郎の決意は揺らがなかった。

「行かな真実は掴めんしなあ。良太郎、俺は行く事を勧めるで」

「うん。ありがとう」

キンタロスは良太郎の決意を察してか応援した。

「でも良太郎、どうするの?皆で行くの?皆で行ったらなのはちゃん達はどうなるの?」

リュウタロスはなのは達の事を心配しながら、良太郎に今後の事を訊ねる。

「そうだね。なのはちゃんやフェイトちゃん達の事もあるから、皆で行く事はできないね。だから……」

「二つに分かれるしかないね。良太郎と一緒に過去に行くメンバーとここでなのはちゃん達のジュエルシードをイマジンから守るメンバーに、ね」

ウラタロスが良太郎に代わって今後の提案をした。

「だったら、どうやって決めるの?僕、なのはちゃん達のいるここがいい!」

リュウタロスは残留組の立候補する。

「リュウタが残るなら僕も残るしかないよね」

リュウタロスの面倒係としてウラタロスも残留組となる。

「カメの字がナンパに走らんようにせなアカンから、俺も残るしかないな」

キンタロスも残留組となった。

「てことはよ、俺とコハナクソ女が良太郎と一緒に行くって事か?」

「そうなるけど、アイツ(ウラ、キン、リュウ)らを残していくのも不安なのよね」

コハナとしてはモモタロスと良太郎で過去に行くとも不安であり、残り三体を置いていくのも不安らしい。

「ハナさん。僕とモモタロスなら大丈夫だから、ここに残ってあげて」

「良太郎……」

「大丈夫だから、安心して」

何か言おうとするコハナを良太郎は静かで穏やかだが有無を言わせぬ迫力で留めた。

「良太郎がそこまで言うならいいけど、モモ!良太郎に迷惑かけるんじゃないわよ!」

「うるせぇ!オメェに言われなくてもわかってるよ!コハナクソお……ぶっ」

一度目は見逃したが、二度目は許さなかったらしくコハナの正拳がモモタロスの腹に直撃した。

 

 

夜となり、海鳴の街には電飾が太陽に代わって人々の光となっていた。

高町家の食卓は相も変わらず賑やかに始まって終わった。

皆がリビングで寛いでいる中、変化が起きた。

変化の原因は赤いイマジンだ。

「あー、俺、ちょっと明日から出かけてくるんで、とっつあん。カミさん。コイツ等のこと頼むぜ?」

モモタロスの切り出しに先程の団欒とした空気は一瞬にして変わった。

「出かけるというと、遠くにかい?」

「ああ、遠くだ。上手く行けば明日の夜までには帰ってこれると思うぜ」

士郎が訊ねるとモモタロスは差し障りない返答をした。

「遠くってどこ?モモ君」

高町美由希がお茶を飲みながら訊ねる。

「あー、まあ、遠くなんだよ!」

強めの口調で答えた。「過去に行ってくる」なんて言える訳がない。

その態度で何かを感じた者がいた。

高町なのはとユーノ・スクライアだ。

一人と一匹はモモタロスの側まで寄る。

テレビを見ていたリュウタロス、恭也と腕相撲をしていたキンタロス、そしてその審判をしていたウラタロス、桃子の手伝いとして食器を片付けているコハナは一人と一匹が「何か察したな」と感じたが、それを態度で表すわけにはいかないのですぐに先程までしていた事を続行する事にした。

「モモタロスさん、もしかして……」

「それ以上は喋るなよ」

モモタロスはなのはにそれ以上、口を開く事を控えさせるために先手を打った。

ここはリビングで、誰が聞き耳を立てているかわからない。

魔導師同士ならこう言った時、人目も気にせずに『念話』を使用するという手段があるが、魔導師とイマジンとなるとそのような手段はない。

「は、はい」

なのはは察し、頷いた。

ユーノもなのはの表情を見てわかったので、首を縦に振る。

「さてと、明日は早いからな。俺は先に寝るぜ」

なのはの頭にポンと手を置いてからモモタロスは寝床が置かれている道場に向かった。

 

野上良太郎、フェイト・テスタロッサ、アルフが住んでいるマンション。

「明日から出かける?」

「うん、上手くいけば明日の夜には帰ってこれると思うけど……」

フェイトが明日の予定を告げる良太郎の言葉に耳を疑った。

夕食が終わり、食器の片づけをしながら良太郎はフェイトとアルフに告げた。

「どこに行くんだい?」

アルフが昼間に良太郎が買ってきてくれたドッグフードを食後のデザート感覚で食べていた。

「ちょっと遠くまで……かな」

良太郎は正直に打ち明けるわけにはいかないので、はぐらかすしかなかった。

(多分、この二人だったら僕が過去に行くといっても信じてくれるだろうけど……)

言ったとしても、「何のために行くのか」と訊ねられれば真相を打ち明けなければならなくなる。

そうなれば自分は嘘を吐きとおせるとは思えない。ウラタロスの力を借りればどうにかできるかもしれないが。

「でも、これから忙しくなるのにさ。明日の用事ってのはジュエルシードを回収し終わってからってわけにはいかないのかい?」

アルフにしてみれば「何故このタイミングで?」という部分が占めているらしく、良太郎に思いとどまらせようとする。

「アルフ、駄目だよ。良太郎にも都合があるんだし……」

フェイトがアルフを止めようとする。

「でもさ!良太郎、アンタだってわかってるんだろ!?」

フェイトの制止に応じながらも、アルフは言う。

アルフが何を言いたいのか良太郎には理解できていた。

プレシアのフェイトに対する折檻だ。

回収に時間がかかればかかるほど、いかに結果を出しても折檻は免れないだろう。

「……わかってるさ。もちろん」

ポロリと本音を言いそうになったが何とか耐えた。

水道の蛇口を止め、タオルで濡れた手を拭く。

「だからこそ、行くんだ」

良太郎はフェイトとアルフに聞こえないように決意と覚悟を決めてつぶやいた。

 

明日に備えていち早く就寝に入ったモモタロスだが、寝付けなかったので道場の外に出ていた。

何かをしているわけでもなく、ただ夜空を見上げているだけだった。

「何か、姉ちゃんの時みたいでややこしくなりそうだぜ」

誰もいない事をいい事にモモタロスは本音をつぶやいた。

彼の言う「姉ちゃん」とは野上愛理の事である。

「モモ」

後ろから少女の声がしたので、振り向くと高町美由希が幼いころに着ていたと思われるパジャマを着ているコハナだった。

「何だ、コハナクソ女か。どうしたんだよ?」

モモタロスがいつもの呼び方をしたのでとりあえず腹ではなく、頭部への拳骨で済ませてから隣に座った。

「アンタこそどうしたのよ?」

「殴ってから言う台詞じゃねえだろ!」

モモタロスは頭部を撫でながら文句を吐く。

「愛理さんの時みたいにややこしくなりそうだって言ってたじゃない?」

どうやら本音が聞こえていたようだ。

「まあな。だって、そうだろ?あのフェイトってガキは間違いなくワケありだぜ。チケットがあんな風になるんだからな」

「確かに普通じゃないわよね。特異点にチケットかざしてもあんな事にはならないし……」

コハナの言うように、特異点にかざしてもチケットは特異点が最も記憶に残っている年号と月日が記載され、フェイトのようにはならない。

「ねえ、モモ」

「何だよ?コハナクソ女」

いつもの反応がなかったので違和感を覚えたが、モモタロスにしてみればありがたかった。

コハナは話を続ける。

「良太郎はフェイトって子やその周りの真実を知ってどうするのかしら?」

「さあな。アイツのことだから自分の腹の中だけで受け止めるだろ。そのガキにとって必要なら伝えるかもな」

野上良太郎は決して『真実』からは逃げない。

たとえそれが、どんなに残酷で悲惨な『真実』だったとしてもだ。

「さてと、そろそろオマエも寝ろよ?明日は早いんだからよ」

モモタロスは道場に戻ろうとする。

「わかってるわよ。モモ!」

「ん、何だよ?」

「アンタに言う言葉じゃないかもしれなけど、その、気をつけてね」

「ああ、わーってるよ」

モモタロスは自分の寝床に戻って、今度こそ眠る事にした。

 

高町家でそのような事があった頃。

ソファで寝転がっている野上良太郎もなかなか寝付けなかった。

ケータロスで時間を見る。

午前零時三十二分。日は変わったが、普段ならまだ起きている時間だった。

「眠れないや」

良太郎はテーブルに置いてあるテレビのリモコンに触れ、電源を押す。

映像が映り、深夜ドラマが始まっていた。

「この時間帯のドラマなんてあんまり見ないからなあ」

それは別世界別世界(ここ)だろうと自分の世界(むこう)だろうと変わらない事だ。

しばらくボーっとテレビを見ていたが、自分に合いそうにないと判断したのか電源を切った。

「やっぱり眠れないなあ」

こういう時は本でも読んで眠気を誘いたいのだが、周辺を見回しても本と呼べるものは以前に購入したチェスの本かタウン誌のふたつぐらいしかない。

タウン誌は正直読み飽きたので、チェスの本を手にする事にした。

本を開いて目を通し始めてから五分後のことだ。

「良太郎、起きてるの?」

既に寝室で寝ていたはずのフェイト・テスタロッサが髪を下ろして、パジャマ姿で枕をぬいぐるみを抱きしめるようにして、リビングにやってきた。

「うん、何か寝付けなくてね。フェイトちゃんは?」

「わたし?わたしはその……ええと……」

フェイトは良太郎に訊ねられた途端に、枕で口元を隠して目を泳がせていた。

「?、座ったら?」

事情はわからないが良太郎はフェイトに隣に座るように促す。

「う、うん」

フェイトはゆっくりとだが隣に座る。枕はまだ抱きかかえている。

「明日、というより今日なんだね?」

「そうだね。なるべく早く帰ってくるようにするよ」

「うん」

「もしかして、それを聞きに?」

良太郎がそう尋ねると、フェイトは首を横に振る。

「ち、違うよ。ええとね、その……」

ちらちらとフェイトが見てくる。

だが、良太郎はフェイトから言ってくるのを待っている。こちらから尋ねる気はない。

「りょ、良太郎……あのね……その……」

「うん」

「もしも、だけどね。その……よかったらなんだけど……」

「うん」

「一緒に寝てくれる?」

「え?」

こればかりは頷かなかった。

「フェイトちゃん、今何て?」

我が耳に入った内容は実は間違いでは?と思ったらしく聞き返す。

フェイトは先程の一言ですでに顔を真っ赤にしていた。

「ま……また言うの?」

こちらをちらちら見ながら言ってくる。

今の彼女にもう一度同じ事を言えということは言えない。

というより言ってはならないと判断した。

「ええと、何で?」

一緒に寝る事自体は良太郎は反対ではないが、理由は尋ねる事にした。

尤もフェイトが変な理由でこんな事を申し出るわけがないし、少なくとも今までのフェイトにはなかったことだからだ。

「ええとね。その……良太郎、前にわたしに言ったよね?もっとワガママになっていいって、だから……その……」

「ああ、なるほど」

良太郎はフェイトが何を言いたいのか理解した。フェイトは初めて自分からワガママを言ったのだということを。

確かに以前、フェイトに「もっとワガママになってもいい」と言った事がある。

ならば自分は出来る限り、それを受け止める義務がある。

「わかったよ。フェイトちゃん」

良太郎はそう言うと、フェイトの頭を撫でる。

「ありがとう。良太郎」

良太郎はその後、フェイトと共に寝室へと向かい、ベッドで眠る事にした。

フェイトが服を掴んで離してくれなくなったが、良太郎は不快に感じることなく熟睡した。

 

午前八時八分八秒。

デンライナーが走っている『時の空間』へと野上良太郎とモモタロスが向かう時刻であり、真実への旅路への発車時刻でもある。

 

 

 

 

 




次回予告

第二十五話 「デンライナーの車窓から ~真実への路線~」



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