仮面ライダー電王LYRICAL   作:(MINA)

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それでは第二十三話を投稿いたします。

タイバニライジングは面白かったです。

早くブルーレイ化しないかなーと思っています。


第二十三話 「母と娘と電王と 後編」

フェイト・テスタロッサは朦朧とする意識の中で母が放った言葉に驚かずはいられなかった。

何故、母は野上良太郎の名を知っているかだ。

自分もアルフも良太郎のことは母に告げていない。

自分達の念話、もしくはマンションを盗聴しない限り得られない情報だ。

「……て」

本当なら「どうして?」と訊ねたいところだが、満足に言葉を発することもできない。

(母さんはどうして良太郎の名前を知ってるの?どうして……)

心中でそこまで考えるとフェイトの意識は途切れた。

 

「アルフさん、フェイトちゃんの手当てを!」

予想しなかった出来事に誰もが硬直していたが、良太郎がいち早く我に返り、アルフに指示した。

「あ、ああ。フェイト!大丈夫かい!?」

アルフの問いかけにフェイトは首をこくんと頷いた。

フェイトの両腕を縛っていた鎖は魔力で構成されているものらしく、力任せに引きちぎろうとしてもびくともしない。

「………」

女性が握っていたものが鞭から杖へと変わる。

その直後に、フェイトを吊っていた鎖は消え、フェイトは前のめりになって倒れていく。

アルフが間一髪でフェイトを受け止めた。

「……アルフ、フェイトを連れて行きなさい。そして伝えなさい。これ以上、母さんを失望させないで、と」

「………」

アルフは何も言わずにフェイトを抱きかかえ、女性を見ずに良太郎を見る。

「……良太郎、行こう」

良太郎はアルフの申し出に首を横に振る。

「アルフさん、先に行って。僕はこの人と話があるから」

「何バカなこと言ってるんだい!?りょうた……ろう?」

アルフは無謀な事をしようとしている良太郎を止めようとするが、止める決意が揺らいだ。

良太郎の目にはアルフの制止などものともしない迫力があった。

「……わかったよ。良太郎、無理するんじゃないよ」

アルフは良太郎に忠告すると、気を失っているフェイトを抱きかかえて部屋を出た。

良太郎はそれを見送ることなく、目の前の女性と対峙する。

「もう一度聞きます。何をしていたんですか?」

静かにしかし、内に秘めた感情は上手く押し殺しせていないのか身体全身が震えていた。

「しつけをしていたのよ」

女性は自分のした事がさも正しいかのように言い放つ。

「あの子はこの大魔導師、プレシア・テスタロッサの娘。不可能な事などあってはならない、邪魔をするものはどんな事をしても排除しなさい、とね」

「……フェイトちゃんはまだ子供ですよ。失敗だってありますよ」

「それは普通の家の子の話でしょ。うちとは違うわ」

良太郎の意見をばっさりと切り捨てるプレシア。

「……ジュエルシードを五つ集めたのが失敗だといいたいんですか?」

「二十一の内、五つを回収した事を成功といえるかしら?」

プレシアは娘の結果に失望するだけだ。

その結果に生じた過程を認めようとはしない。

良太郎の握っていた拳が更に強くなる。

同時に腰元にはデンオウベルトが出現する。

「あなた、フェイトちゃんの生みの親でしょ?よく、あんな事を平気で出来ますね?」

良太郎の堪忍袋も限界が来ていた。その証拠に感情が表に出ている。

「……ふふ」

プレシアが顔を伏せて、身体を震わせていた。

 

「あはははははは、ははははははははは」

 

今度は高らかに大笑いしていた。

その笑いには侮蔑や見下しといった感情は含まれていなかった。

ただ、純粋に良太郎の発言がおかしかったから笑ったといったかんじだ。

「何がおかしいんですか?何がおかしい!!」

笑われた側にしてみればたまったものではない。

良太郎の大きめな堪忍袋の緒もとうとう切れてしまった。

「今の台詞で確信したわ。あなた、まだ何も知らないみたいね」

プレシアは笑い終えると、杖で良太郎を指す。

「何も……知らない?」

「ええ。貴方はまだ真実の入り口にも立っていないのよ」

「真実?どういう意味ですか?」

「真実は真実よ」

プレシアはそう言うと、良太郎を指している杖から紫色の魔力を収束させる。

「それ以上知りたければ、私に一発でも攻撃を与えてみたらどうかしら?」

「!!」

良太郎はポケットからパスを取り出して、ターミナルバックルにセタッチする。

「変身!!」

プレシアの杖から紫色の魔力光が放たれた。

爆煙が立ちこめる中、ひとつの影がプレシアに近寄る。

四体のイマジンを宿していない電王---プラット電王だ。

腰元に常時装備しているデンガッシャーに手をつける。

Dソードへと連結させて正眼に構える。

「下手なバリアジャケットよりは性能がよさそうね。その姿」

プレシアは冷静にプラット電王を見ている。

プラット電王はプレシアを睨んでいる。

プレシアの言った事は気になるが、それよりも彼女がフェイトに対して行った仕打ちの方が彼を支配していた。

「あんなに頑張っているフェイトちゃんを……」

フェイトが命がけでジュエルシードを探し、封印している姿が脳裏によぎる。

Dソードを握る力が強くなる。

「あんなにいい子に……」

フェイトと共に生活していた姿がよぎる。あんな仕打ちを受けるような落ち度があるような少女ではない。

一歩一歩ゆっくりとだが間合いを詰める。

「よく、そんなひどい事ができたな!!」

ゆっくりとした歩みが急に速くなった。緩から急になったのだ。

正眼に構えていたDソードを上段に構えて、プレシアに切りかかる。

(届いた!)

プラット電王は捉えたと確信したときだ。

Dソードの刀身がプレシアの身体に触れなかったのだ。

正確にはプレシアとDソードの刀身の間に障壁のようなものがあるようだ。

何で防いでいるのか見てみると、紫色の魔力で構成された障壁が見えた。

「そんなものじゃ、私には届かないわよ」

プレシアは空いている左手に魔力を収束させて、プラット電王の胸元辺りにかざして放つ。

ドォン、というような音が鳴った瞬間にプラット電王は後方に宙を舞った。

「う、ぐぐぐ」

背中を強く打ったためか、上手く息を吐き出す事が出来ない。

プレシアはかざした左手を下ろして、倒れているプラット電王へゆっくりと歩み寄る。

「こんなもので貴方の私に対する怒りは治まったのかしら?野上良太郎」

それは挑発にもとらえることが出来る台詞だ。

「そんなわけ……ないでしょ……う」

ゆっくりとだが、Dソードを杖代わりにして起き上がる。

「はあ……はあ、はあ……はあ」

Dソードを再度、正眼に構えなおす。

プラットフォームは電王全フォーム中、最低の位置にあるフォームだ。

身体能力が若干向上しただけで、他のフォームに比べると突出した能力がないので、全体的に低い。

そのため、たった一発の魔法攻撃でもフラフラに近い状態になってしまう。

防御力が低いため、当然と言えば当然だろう。

今度は下手な予備動作もせずに、一気に走りこんで切り込む。

剣筋は、右袈裟に向かっている。

「ふふ」

小さく笑うと先程と同じように、魔力障壁がDソードの刀身を防いでいた。

先程と同じように左手をかざす素振りが見えると、プラット電王は自分から間合いを開くようにして後方へと下がる。

「甘いわね」

プレシアがそう言うと、同時に紫色の雷がプラット電王に向かって降り注いだ。

「うわあああああああああ」

全身に電気が走り、痛み、痺れが一気に襲い掛かる。

変身していなかったら、確実に意識が飛んでいたと思われる一撃だ。

「う…う……うう……」

倒れてはいないが、フラフラだ。身体全身から焼けたのか煙が立っている。

Dソードの刃先を地に突き刺す。

それでもプラット電王はプレシアを睨んでいる。

それだけ、プレシアがフェイトにした仕打ちに対して怒りを感じている事だ。

「貴方はまだ何も知らない。そうさっきも言ったようにまだ何も……」

プレシアは睨みつける視線を受け止めながらゆっくりと、歩み寄る。

「だから……だから何を!?」

睨みながらプレシアに訊ねる。

「さっきも言ったように私の言葉の意味を知りたければ真実を知りなさい」

プレシアは右手に持っている杖を天に掲げる。

その直後に、先程とは質量がまるで違う雷がプラット電王に降り注いだ。

「うわあああああああああああああ」

杖代わりにしていたDソードがガシャンという音を立てて倒れると、引かれるようにプラット電王も全身に煙を立てて前のめりに倒れた。

変身が解けて、プラット電王から良太郎に戻る。

倒れている良太郎をプレシアは見下ろす。

「う、うう……」

「………」

プレシアは良太郎が意識が朦朧としていると判断すると仰向けに転がす。

その拍子にポケットからパスが落ちた。

パスを拾い上げてから、気を失っている良太郎を見る。

「な……にを」

「何をするつもりなんですか」と言いたいが言えない。

「野上良太郎。真実を知り、受け止め、行動しなさい」

そして、パスを良太郎に向かって放り投げた。

 

「フェイトのためにも、ね」

 

良太郎の意識はそこで途切れた。

 

 

「う、ううん」

野上良太郎は全身におもりが乗っかっているかのように重いまぶたを開いた。

何度か見たことがある天井だった。

右、左と顔を動かす。

そこが『時の庭園』ではないということだけはわかった。

殺風景だが、『時の庭園』ほど冷たい雰囲気はない。

自分が居候しているマンションだった。

まぶた同様に、重たく感じている身体を起こす。

プレシア・テスタロッサから受けたダメージはまだ抜け切っていないが、それでも動くくらいには回復していた。

「さーて、そろそろ目ぇ開けてくれると嬉しいんだけどって……」

ドアを開けて入ってきたアルフが独り言を言いながら良太郎に歩み寄るが、現状を見て停まる。

「おはよう。アルフさん」

良太郎は笑みを浮かべる。

「フェイト!良太郎が起きたよ!」

アルフは真っ先に主に報告に向かった。

その直後にフェイトが入ってきた。

腕や脚に包帯が巻かれていたりガーゼが貼られていたりと痛々しい姿になっている。

「良太郎!よかった……。大丈夫?」

フェイトがわが身を省みぬような勢いで良太郎に訊ねる。

「まだ、身体が重いけど大丈夫だよ。僕よりフェイトちゃんの方が……」

「わたしは、大丈夫だよ」

包帯を巻かれている腕を擦りながら言う。

それが、強がりなのはこの場にいる二人にはすぐに理解できた。

「あの後、僕はどうなったの?」

良太郎は自分がここにいる経緯を訊ねた。

「アンタはプレシアにやられて、気を失っていたのさ。あの部屋で一人放置されていたところをあたしとフェイトが運んできたってわけさ」

「そうなんだ」

アルフの説明を受けながら、もうひとつ訊ねる事にした。

「僕はどのくらい気を失っていたの?」

「三時間ほどだよ」

フェイトが答えてくれた。

「二人とも、ありがとう。フェイトちゃんは怪我を押してまで運んでくれたなんて……」

良太郎は二人に礼を言うと、沈んだ表情になる。

「良太郎?」

「どうしたのさ?」

「情けないよ。聞きたいことも聞けずに、ただやられるなんて……」

「あの人がアンタの質問に答えるもんかい!」

アルフがプレシアのことを思い出しながら、侮蔑と怒りを交えた声を出す。

「アルフ、言いすぎだよ」

フェイトがたしなめる。

「でも、フェイト!」

「アルフ」

静かだが、有無を言わせぬ声でフェイトはアルフを黙らせた。

「……わかった。ごめんよフェイト」

「ううん、わかってくれたらいいんだから」

二人のやり取りが良太郎には痛々しく感じられた。

(このままでいい筈がない。でも僕に何が……)

今の状況を打破するためにはどうしたらいいか悩む。

その中でプレシア・テスタロッサがよぎった。

(あの時は頭に血が上ってたから、深くは考えてなかったけど……)

プレシアとのやり取りを思い出していた。

(あの人は何で僕にあんな事を言ったんだろう?あれじゃまるで……)

『真実』を知るように唆している様にも思えた。

何故、そんなことをするのだろうか。普通は隠すだろうと良太郎は考える。

まるで、知ってほしいとでも言わんばかりのことだ。

実際、自分はそれに乗せられつつあるようだ。

プレシアが言う『真実』とは何なのか、そして、朦朧とする意識の中で聞いた「フェイトのため」と言った彼女の言葉も気になっていた。

『真実』を知るにはどうすればいい?

警察や探偵なら聞き込みなどで『足跡』となるものを捜すだろう。

その集めたいくつかの『足跡』が『真実』への道となる。

だが、自分はただの一般人。しかも別世界(ここ)に探偵や警察の知り合いなんていないし、いたとしても魔導師関連の事なので何の力にもならない。

(どうすればいい?真実、真実……)

同じ言葉を呪文のように胸中で唱える。

「真実……か」

口に出して呟いた時、何かが閃いた。

フェイトとアルフが心配げな表情をしているが今は気にしてはいられない。

まず、ベッドの横に飾られている写真立てを取る。

プレシアとフェイトが写っていると思われる写真だ。

その写真に写っているフェイトとプレシアは笑顔でとても幸せに満ちているという事がわかる。

それが何故、今のような状態になったのだろうか。

「フェイトちゃん、この写真っていつ撮ったの?」

写真立てを見せながらフェイトに訊ねる良太郎。

「ええと、四年位前だけど……」

「そうなんだ」

そう言うと、写真立てを元の位置に戻してからポケットを探る。

パスを取り出して展開する。そこには無記載のチケットがあった。

チケットを取り出してから、それをフェイトにかざす。

「フェイトちゃん。ちょっとごめんね」

「良太郎?」

時間にして二、三秒が経過したのでそろそろ頃合だと思ってチケットに写った内容を見てみる。

「えっ!?」

内容を見て、自分の予想とは違った結果が表示されているのに驚く良太郎。

「どうしたの?良太郎」

「それ何だい?」

フェイトは良太郎が何に驚いたのか気になり、アルフは良太郎が持っているチケットに興味を持った。

「これはね。ええとチケットなんだ」

「チケット?」

フェイトが訊ねる。

「うん、これがあればデンライナーを『目的とする時間』に走らせることが出来るんだ」

デンライナーは目的となる時間が指定されていなければ延々と『時の空間』を走り続けているのだ。

「チケットがないと、行きたい時間にいけないってのかい?結構不便だねぇ」

アルフの鋭い指摘を良太郎は苦笑するしかない

そう言うと、フェイトにかざしたチケットをパスに収納する。

「ジュエルシード探しはどうするの?」

「出来るなら良太郎が完治してから再会しようと思ってたけど、今日、明日と休んで明後日から再会するよ」

そう聞いて、良太郎はフェイトを見る。

二日三日で完治できる傷ではない。無理を押してやるつもりなんだろう。

ならば自分も一刻も早く、プレシアが言った『真実』を知らなければならない。

良太郎は自分の手の動きを見る。

とても、満足にいくものではない。プレシアから受けた雷撃の痺れが残っているようだ。

動くなら明日からだろう。

明日なら何とか完全とまではいかないが、五体を動かし日常生活までは可能だと思われる。

「良太郎、ゆっくり休んでね」

「じゃねー」

フェイトとアルフは部屋から出ようとする。

「今日はどうするの?」

「わたし達は今日はリビングで寝るよ」

「でも……」

「いいから良太郎は寝てなって」

「アルフの言うとおりだよ。良太郎、ゆっくり休んで」

二人の強い押しに良太郎は従うしかなかった。

二人は出て行き、寝室には良太郎一人となる。

パスを取り出し、フェイトにかざしたチケットを取り出す。

「まさか、こんな事があるなんて思わなかったよ」

チケットは確かに記すべき事は記していたが、

 

「イラストはシルエットみたいで真っ黒、年号と月日はデタラメだなんて……」

 

今まで人に何度もかざしたチケットだが、こんな事は初めてだった。

それは良太郎により一層、『真実』を捜す決意を固める結果となった。




次回予告

第二十四話 「デンライナーの車窓から ~出発前~」


あとがき
物語の核心にせまる物語が始まろうとしています。
この部分のおかげでとある人物の評価が改まったらいいのにと思いますね。
それでは第二十四話でお会いしましょう。

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