明日の祝日にタイバニを見に行ってきます。
本当は2/8に行きたかったんですけど、雪で断念しました。
それでは第二十二話 始まります。
第二十二話 「母と娘と電王と 前篇」
空は晴れ、ところにより曇りありといったところだろう。
平日か休日でいうと本日は平日、つまり学生が学校に行って学業に専念している時間帯だ。
若年者層を狙いにしている店はまだ店を開けていない。
だが喫茶『翠屋』は若年者層のみを狙いにしているわけではないので、開店していた。
「こんにちは」
野上良太郎が翠屋の入り口を開けて挨拶する。
「いらっしゃい、て。ああ良太郎君」
カウンターにいる男---高町士郎が笑顔で迎えてくれた。
「どうも、高町さん。モモタロス達はどうしてます?」
「道場で何かしていたと思うけど、何なら呼んでこようか?」
「そうですか。いえ、今日は買い物に来ただけで会いに来たわけじゃないんで」
士郎の申し出を良太郎は角が立たないように断った。
「そうか。それで何がご所望で?」
良太郎は陳列されている様々なスイーツを見る。
「あのぉ、高町さん」
「何だい?良太郎君、もう決まったのかい?」
「いえ、その、一児の母親が好んで食べるスイーツってどれですか?」
良太郎自身、これから会いに行く人間の食べ物の好みはわからない。
下手な素人が選ぶよりはベテランに任せたほうがいいと思ったのだ。
「ふむ、主婦層が好んで食べるとしたら大体この辺り、かな」
士郎はそう言いながら、スイーツを教えてくれる。
種類にして十種類近くある。
その中で『当たり』を選ぶのは良太郎には不可能だろう。
彼のくじ運の悪さは常人のそれを遥かに上回る。
「じゃあ、この中で最も人気のあるスイーツを三種類ほどください」
士郎にそう言うと、士郎はトングを持ってスイーツを三種類掴み、紙箱に収めていく。
紙箱に蓋をして、良太郎に渡して代金を請求する。
良太郎はお札一枚と小銭数枚でちょうどの代金を払った。
「それ、誰かに渡すのかい?」
「ええ、まあ」
士郎の質問に良太郎は全てを語るわけにはいかないので、曖昧に答えるしかなかった。
頭を軽く下げて、良太郎は翠屋を後にした。
*
高町家の道場ではイマジン四体がトランプで神経衰弱をしていた。
「今回といい、前回といい、イマジンの契約者は明らかにジュエルシードを狙ってるよね」
ウラタロスが一枚捲る。スペードの2だった。
「ああ、でもよ。一体誰なんだよ?」
モモタロスはそう尋ねながらも、先程自分が捲ったのがクラブの2だったので捲らない事を祈っていたりする。
「多分だけど、この海鳴の住人ではないと思うよ」
そう言いながら、モモタロスが先ほど捲った一枚に手を出す。
『2』として揃ったので自分の持ち点となった。
「海鳴の住人ではない、ということはどういうことや?カメの字」
キンタロスはウラタロスの発言に疑問があるようだ。
「海鳴の住人がジュエルシードを知ってるとは思えないからね」
その言葉にモモタロスとキンタロスは自分が知る限りの海鳴の住人を思い浮かべる。
「でもよ、カメ。俺達が知らねぇところにいるかもしれねぇじゃねぇか?」
モモタロスが尤も事を言う。
自分達は海鳴の土地に聡いわけではない。主な場所しか知らないのだ。
もし、海鳴の住人でジュエルシードに聡い人物が海鳴の地下世界
アンダーグラウンド
に潜伏しているのならば自分達ではどうしようもないが。
「いや、それはないと思うよ」
ウラタロスが次のカードを二枚を素早く捲るがはずれだったので、すぐに裏返した。
「どうして?カメちゃん」
「海鳴の住人が自力でジュエルシードの情報を手に入れること自体が、不可能なんだよ」
「何でや?カメの字」
キンタロスが一枚捲る。ハートの1だ。そして、すぐ隣を捲る。スペードのキングだった。
「みんな、忘れてない?アレは元々、
「「「あ!」」」
ウラタロスの一言で三体とも思い出した。
「僕達やなのはちゃんはユーノ、つまりジュエルシードの知識を持っている存在から情報を得ているし、良太郎は一緒にいる女の子二人とユーノから情報を得た僕達から得ているわけだしね」
つまり、『海鳴の住人』がジュエルシードの情報を得るには『外界の存在』との接触が絶対条件となるわけだ。
そして、『外界の存在』と都合よく接触する方法は宝くじを一枚買って一等を当てるくらいに難しい。
それは運命の女神とやらの加護を得ない限り接触できないということだ。
「カメの字、それやったら俺等よりも……」
キンタロスが何を言おうとしているのか理解したのかウラタロスは言い終える前に首を縦に振る。
「良太郎の方が案外、近いところにいるかもしれないね」
「だったらよ、契約者の事は良太郎に任せときゃいいじゃねぇか。俺達はソイツと契約してるイマジンを片っ端から仕留めりゃいいんだしよ」
「そうやな。イマジンの契約者がわかったら俺らにも教えてくれるやろうしな」
キンタロスはモモタロスの意見に同意する。
「ねぇねぇ。みんなー、早く続きやろうよー」
話を聞きながらも、神経衰弱に没頭していたリュウタロスが話を締めくくった三体にゲームの続きをやるように促す。
「お、おお。ええと、クマが終わったから次は小僧、オメェか?」
「僕も終わったからモモタロスの番だよ」
「オメェ、俺達が話しこんでる間にイカサマしてねぇだろうな?」
モモタロスがリュウタロスに不正行為をしていないか訊ねる。
「カメちゃんじゃないんだからそんなことしないもん!」
「それもそうだな。カメじゃあるめぇし」
「そうやそうや、カメの字じゃないしな」
リュウタロスの言葉はモモタロスとキンタロスを納得させるには十分なものだったらしい。
「ちょっと、待ってよ!それは聞き捨てならないよ!」
今度はウラタロスが声を荒げた。
「みんなからして僕って、ゲームとかで平気でイカサマをやるように見えているわけ!?」
ウラタロスは他の三体に確認をするかのように訊ねる。
三体は顔を見合わせる。
「やらなきゃカメじゃねぇだろ?」
「歩くインチキこそがカメの字やろ?」
「ズルしないカメちゃんなんてカメちゃんじゃないよね?」
三体の返答に流石のウラタロスも言葉が出なかった。
(日頃の行いがモノをいう、僕自身がそれを味わうなんてね)
だからといって、ウラタロスが自身のスタイルを変えるわけがないのだが。
*
野上良太郎はフェイト・テスタロッサ、アルフと落ち合う手筈となっている場所へと向かっていた。
翠屋から出て五分以上は経過していた。
「何だろ、変に落ち着かないなぁ」
別にお見合いに行くわけでもないのだが、良太郎の胸中はざわめいていた。
それが緊張によるものなのか、不安によるものなのかはわからないが。
待ち合わせの場所に着くとフェイトとアルフが既にいたので、右手に持っている紙箱に気を遣いながら駆け寄る。
「二人とも、早いね。もしかして僕遅刻?」
「そんなことないよ。全然間に合ってる」
フェイトの言葉を確認するかのように、良太郎は腕時計を見る。
時刻は集合時刻の五分前だった。
「よかった。はいコレ、お母さんに」
フェイトに紙箱を渡す。
「ありがとう良太郎。お土産はこれでよしっと」
フェイトは受取り、礼を言う。
良太郎は二人の表情を見る。
「………」
とても喜んで会いに行くようには見えなかった。
「甘いお菓子か。こんなモンで、あの人は喜ぶのかねぇ?」
アルフはフェイトが両手で抱えているように持っている紙箱を持ち上げて、眺めていた。
「わかんないけど、こういうのは気持ちだから」
「伝わると、いいね」
良太郎は月並みな言葉を送る事しか出来なかった。
「うん」
フェイトは頷くと、真剣な表情になって唇を動かし始める。
「次元転移。次元座標876C4419……」
良太郎は何を言っているのか訊ねようと思ったが、聞ける雰囲気ではないのでそのまま黙っている。
「3312D699……」
フェイトはまだ続けている。
フェイトを中心に、良太郎、アルフを囲うように魔法陣が出現する。
(どこかに移動するための魔法、かな)
そんなことを思いながらも、フェイトの行動をじっと見ている良太郎。
「3583A1460、779F3125」
次元座標を一通り言い終えると、フェイトは一拍置いてから魔法を発動させるための言葉を告げ始める。
「開け、誘いの扉。時の庭園、テスタロッサの主の元へ!」
言い終えると同時に、黄金の光が天に向かって昇っていく。
光が消えると、そこには誰もいなかった。
*
雷が常に鳴り、黒い雲が螺旋を描く運動を一向にやめようとしない空間---高次元空間内に『時の庭園』は存在していた。
元々、この空間に最初から存在していたわけではない。
所有者がとある場所から切り離して、ここまで移動したものだ。
そこに一瞬だが二つの黄金の光が『時の庭園』の違う箇所に落ちて、消えた。
「いたたたって、何で僕一人?」
光が落ちた場所にはうつ伏せで倒れている野上良太郎が一人いた。
「もしかして、はぐれた?」
一人、現状を口にするがそれを答えてくれる者は周りにはいない。
起き上がって、服に付着している汚れを叩く。
周囲を見回す。
「汚れひとつないけど、でも不気味……だね」
どんなに綺麗な場所でも人が生活していればそれなりの温かみのようなものを感じる事が出来る。
だが、ここにはそれがまるでない。
以前に体験した
「二人を探すにも、僕、ここに来たの初めてだからなあ。勝手がきかないや」
それでも、ここに待っていればフェイトかアルフ、あるいは二人が迎えに来てくれるという保証があるわけでもないので、良太郎はその場から歩き出す事にした。
(でも、何で二人とはぐれたんだろ……)
良太郎は自分が何故、二人と離れてここに到着したのかを歩きながら考えていた。
フェイトが座標を間違えたのだろうか?
(それはないね)
良太郎はフェイトがそんなミスをするなんてありえないと即座に否定した。
自分の不運のせいで?
(これが一番有力かな)
確信はないが、これが一番有力だと感じた。
「それでも、まだ運がいいほうかも……」
フェイト達とはぐれはしたが、きちんと目的地に足を着けているだけ幸運だと思っている。
もしこれが最悪の部類の不運だったら、間違いなく自分は
冗談ではなく、本当に起こすかもしれないのが野上良太郎なのである。
「フェイトちゃん、お母さんと会って何してるんだろ?」
自分の勘を正しいと信じながら、良太郎は『時の庭園』を歩き回っていた。
母と娘、いわゆる親子のコミュニケーションに良太郎は憧れていたりする。
何故なら彼はそれをする前に両親に他界されているからだ。
自分にとって『親』とは育ててくれた祖母か共に暮らしている姉の野上愛理だろう。
それを不満に感じたことはない。祖母も姉も自分にとっては誰にでも誇れる『親』なのだ。
(もし、父さんと母さんが生きていたら僕はどうなってたのかな?)
今の自分は両親が他界したからこそ存在している。
両親が健在なら、ここにいる自分---『時の運行』を守る仮面ライダー電王としての野上良太郎は存在していないだろう。
良太郎は両親と共に暮らしている自分を想像する。
両親や姉と共に食卓で他愛のない会話をしている自分。
つまらないことで父親や母親と喧嘩をしている自分。
休日に外で家族総出で遊んでいる自分。
それらを頭において、意識を集中する。
だが、靄のようなものがかかって上手く出来なかった。
「……駄目だ。全然できない」
理屈ではわかっていても、心が反応しないのかもしれない。
良太郎はこれ以上想像することは無駄だと諦めて、停まっていた足を動かす事にした。
「あれ?」
しばらく歩くと、靴の裏に何かを踏んだような感触がした。
踏んだ靴の裏を見てみると、硬い小さな粒のようなものだった。
靴に付着しているものを手に取り、親指と人差し指でさする。
憶えのある感触だった。
「これって、もしかして……」
袋でもあれば回収して、オーナーに調べてもらえるのだが不幸な事に袋はないので回収できない。
「やっぱりいるのかな。ここに……」
良太郎はフェイト達を探すべく、また歩き出した。
『時の庭園』を歩き回ってから時間にして三十分くらいが経過した。
良太郎の耳に何かの音と妙な声が聞こえ始めた。
「もしかして、幽霊?」
何て事を口走るが、即座に否定する。
彼はごく最近にその幽霊と当てはめる部類と出くわした事がある。
拉致されたうえに、戦って倒したという貴重な体験もしている。
だからこそ、彼にはわかる。
先程から聞こえてくる声らしきものは幽霊などではないと。
人間の声だと。
そこまで考え出すと、良太郎はフェイトとアルフを思い出した。
「悪い予感当たらないといいけど……」
良太郎は『歩く』から『走る』へと切り替える。
どこにフェイト達がいるかもわからないが、不安で仕方がない。
一度心にそのようなものが宿ると、身体が自然に反応する。
聞こえてくる声と音を頼りに走り出す。
「良太郎ー!!」
聞き知った声が正面からした。
そこには息を切らしていたアルフがいた。
「アルフさん。て、どうしたの?」
良太郎はアルフとの再会を喜ぼうかと思ったが、アルフの表情と醸し出す雰囲気から察した。
何かが起こっている事を。
そして、それがフェイト絡みだという事を。
「アルフさん、フェイトちゃんに何かあったの!?」
アルフの両肩を掴み、訊ねる良太郎。
「りょ、良太郎!お願いだよ!フェイトをフェイトを……」
アルフは涙目になりながらも良太郎に何かを伝えようとしている。
「フェイトを助けて!!このままじゃ、フェイトはあの人に殺されちまうよ!」
「殺される?」
親子の対面で一番出てきて欲しくない言葉だった。
アルフが言う『あの人』というのが誰かは良太郎にすぐにわかった。
「アルフさん、フェイトちゃんは今どこにいるかわかる?」
「こっちだよ!ついてきて」
アルフの先導で良太郎はフェイトがいる部屋に向かった。
次第に、『声』と『音』が大きく聞こえてきた。
それは距離が近くなった事を示している。
二人はやがて大きな扉の前に立っていた。
ピシャン
「くうぅ!」
ピシャピシャン
「かはぁ!」
フェイトの声と何かの音が聞こえた。
『何か』がフェイトを直接攻撃していることがわかる。
良太郎はここで疑問が生まれた。
何故、フェイトはその『何か』を避けないのだろう。
フェイトなら余裕で対処できるはずだ。
(もしかして、
それなら納得できる。
拘束されたフェイトを何かで滅多打ち。
最悪のシチュエーションだった。
しかもその加害者がフェイトの母親ならなおの事だろう。
良太郎はドアを乱暴に叩く。
ノックというより、借金取りが滞納している客の家でするソレに近い音を立てていた。
だが、何の反応も示さない。
ピシャン
「うううぅ」
ピシャンピシャン
「かはぁ、はあっ」
ピシャンピシャピシャン
「あ、あ、あ……」
先程より『何か』の音が増し、フェイトの声が何度かしたがとうとうしなくなった。
状況がかなりヤバイと感じた二人はドアを蹴飛ばす。
マナーとしては決してよくないが、そんなことを言ってはいられない。
二人は同時に部屋に入る。
良太郎の瞳に映ったのは、
天井から吊るされてバリアジャケットをボロボロにされてグッタリしているフェイトと、ボロボロにした張本人だった。
「フェイトォ!」
アルフがフェイトに呼びかける。
フェイトをボロボロにした張本人は良太郎と目が合う。
良太郎は張本人を見る。
黒髪の長髪に全身黒ずくめの衣装。そして、手にはフェイトを滅多打ちにした『何か』---鞭が握られていた。
「……何やってるんですか?」
先に切り出したのは良太郎だった。
言葉は質問だが、態度は違っていた。
怒っていた。その証拠に、拳を作ってわなわなと震わせていた。
目つきも普段の穏やかなものと違い、鋭くなっていた。
張本人---フェイトの母親は怯むことなく、良太郎を見ている。
「野上……良太郎、ね」
フェイトの母親は眼前の青年を見て、フルネームを言った。
「「「え?」」」
そこにいる三人がその事に驚いた。
次回予告
第二十三話 「母と娘と電王と 後編」
あとがき
ここからシリアスへと突入します。
なんだかんだで一番思い入れのある部分でもありますね。
それでは次回もお会いしましょう。