皆大好です。
ここでの投稿もとうとう二十回を超えました。
それでは第二十一話をどうぞ。
電王にはそれぞれの車両つまり、『時の列車』が存在する。
モモタロスの力を纏っているソード電王にはデンライナー・ゴウカ。
ウラタロスの力を纏っているロッド電王にはデンライナー・イスルギ。
キンタロスの力を纏っているアックス電王にはデンライナー・レッコウ。
そして現在ギガンデスヘルと戦おうとしている、リュウタロスの力を纏っているガン電王にも先の三人のように『時の列車』がある。
名をデンライナー・イカヅチという。
空間が捩れて歪みが生じ、そこから線路が敷設され、列車が走ってきた。
その列車はガン電王の電仮面に似た車体前面をして二両編成となっており、ガンフォームに変身する際のミュージックフォーンを鳴らしながら、こちらに来る。
「来た来た」
ガン電王はそう言いながら、指で何がしかの合図をする。
どこからともなく、マシンデンバード(以後:デンバード)が自動で走ってきた。
「よっと」
飛び乗って、デンバードのグリップを握り、アクセルを噴かす。
デンバードが真っ直ぐに走っているイカヅチに並び、更にアクセルを噴かして車体を浮かす。
フリーエネルギーなのか、それともデンバードと『時の列車』には磁力のようなものがあるのか、ガン電王を乗せたデンバードは、吸い寄せられるようにイカヅチの一両目上部に接続される。
それでも、ガン電王のすることは変わらないのか、更にグリップをまわす。
イカズチの速度が上がり、あらかじめ敷設されている線路に向かって突っ走る。
線路は地上ではなく、空になっているがそんなことは関係ない。
(これ以上、街を滅茶苦茶にさせるわけにはいかない。リュウタロス)
「うん!わかってる。僕に任せて!良太郎!」
ガン電王がそう言うと同時に、更に空間が捩れ始めて歪み、そこから『時の列車』が走ってきた。
レッコウ、イスルギ、ゴウカだ。
それぞれが各々の次の役割を理解しているのか、併走している。
なお、これは余談かもしれないが野上良太郎やイマジン四体、コハナ、ナオミ、オーナーがたむろしている非戦闘車両は切り離されている。
「よーし!行くよ!」
イカヅチの二両目が外れる。
それが合図なのか併走していたゴウカ、イスルギ、レッコウがそれぞれの役割を果たそうとする。
レッコウが先に走り出し、イカヅチの一両目と連結する。
続いて、イスルギがその後ろに連結される。
そして、他の二台が一両編成なのに対して、四両編成となっているゴウカが連結されていく。
仕上げとして、余ったイカヅチの二両目がゴウカの四両目に連結される。
全てが連結されると、イカヅチの車体前面が動き出し、それは龍の頭部が出現する。
連結されているため、後続車両にも変化が生じる。
二両目のレッコウは車体側面からサイドアックス---昆虫の足のような外観の斧が(右に二本、左に三本)展開され、三両目のイスルギは車体後方に搭載されているレドームが展開し、四両目から七両目となっているゴウカは車輌の左側が箱を開けるように開き、
四連装の大砲のゴウカノン。
犬の頭部の形をしたドギーランチャー。
サル型の武器であるモンキーボマー。
キジ型のミサイルであるバーディーミサイル。
が出現する。
そして、八両目となっているイカヅチ二両目からは龍の尻尾のようなものが展開される。
八両の『時の列車』からなる巨大な龍(以後:デンコウセッカ)が海鳴の夜に現れた。
デンコウセッカは空を我が物のように泳ぐような動きで地上で街の破壊を行っているギガンデスヘルへと向かっていった。
モモタロスとアルフ、ユーノ・スクライアは海鳴に数あるビルのひとつの屋上に場所を移していた。
もちろん、気を失っている高町なのはとフェイト・テスタロッサを連れてだ。
「おい、犬女」
「あたしにはアルフって名前があるんだ。んで何さ?赤いの」
モモタロスは気を失っているなのはを下ろして地面に寝かせるながら、アルフに声をかけた。
「赤いのじゃねぇ。俺はモモタロスだ。んで、そっちのガキは大丈夫か?」
アルフは目を丸くしていた。
「え?アンタそこのガキンチョの仲間だろ?どうしてさ!?」
「んなことどうだっていいだろ。で、どうなんだよ?」
「ああ、命に別状はないと思うけど……。んで、あのイマジンは何でギガンデスヘル
あんなの
になったんだい?」
「イメージの暴走ってヤツだ。偶に起こるんだよ」
こうすれば必ずイマジンが『イメージの暴走』を起こし、ギガンデスになるというような解明がされていないためか、このようなコメントしか出来ない。
仮に解明されていたとしてもモモタロスがそれを記憶しているとは思えないのだが。
「じゃあ、あのドラゴンみたいなのは何だい!?」
「あれはまぁ、俺達の電車を全部くっつけたやつだ」
こちらも曖昧なコメントで返してしまう。
そもそもモモタロス達は野上良太郎の肉体に憑依して電王に変身する際に、当然の能力として専用の『時の列車』を召喚したり連結させて迎撃する事が出来るわけだから改めて訊ねられると答えようがない。
それは魔導師でいうなら「何で魔法使えるの?」と質問されるようなものかもしれない。
魔導師とてこのような質問の場合、「使えるんだから仕方ない」と返答するしかないだろう。
自分にとって『当たり前』のものを真剣に考えたりすることは余程の事でない限りないものだ。
「う、ううん」
寝かせていた高町なのはの閉じていた瞼が動き出す。
「なのは!モモタロスさん、なのはが……」
ずっとなのはの容態を見ていたユーノがモモタロスに報告する。
「う、ううん。ユーノ君にモモタロスさん。あの、ここは?」
仰向けになっていたなのはがゆっくりとだが起き上がる。
「ビルの屋上だ。何せ地上はギガンデスヘル
あんなの
がいるからな」
モモタロスが言う『あんなの』の正体を確かめるためになのはは屋上から地上を見下ろす。
そこには道路を抉り、ビルを手当たり次第に破壊している一匹の怪物がいた。
「ふえええ、な、何ですか!?アレ!?」
「イマジンのイメージが暴走した姿、らしいよ」
驚くなのはにモモタロスからアバウトな説明を受けたユーノが説明した。
「初めてみるんだからビビッても仕方ねぇだろ。ま、安心しろ。良太郎と小僧(リュウタロスのこと)がアイツを確実に倒すからな」
「そういえば、良太郎さんとリュウタ君は?」
「アレ」
ユーノが右前脚で雷雲の空を背景に我が物顔で泳いでいるようにも見える物体を差す。
「モモタロスさん」
「何だよ?」
「アレ、何ですか?」
「あー、また説明しなきゃいけねぇのかよ?」
モモタロスははっきりいって面倒臭かったりする。
「アレはね、モモタロスさん達がこの世界にやってくるために乗ってきた電車の集合体、らしいよ」
やっぱりアバウトな説明しかできないユーノ。
最初に教えてくれたのがモモタロスだから仕方ないといえば仕方ない。
「そろそろ始まるぜ」
モモタロスの一言が合図になったのか、地上を蹂躙している巨獣と空を遊泳している機械仕掛けの龍が睨みあい、動いた。
「行くよ!」
ガン電王がデンバードのグリップを回すと、デンコウセッカがギガンデスヘルに向かって行く。
空から地上に向かって急降下するため、ちょっとしたジェットコースター気分を味わう。
唯一違うのは、ジェットコースターは予めコースが決まっているのに対して、その都度に敷設、撤去を繰り返しながら走っているデンコウセッカは走る道
コース
に際限がないことだろう。
ギガンデスヘルが、両腕を無造作に振り回す。
それでも、あの巨体から繰り出されるものなので、直撃すればデンコウセッカとて相応のダメージとなるだろう。
「当たらないよ!」
ガン電王は更にデンバードのグリップを回して、デンコウセッカの速度を速める。
ギガンデスヘルの攻撃をかわして、そのまま地上に線路を敷設しながら走っていく。
ガン電王は後ろを向き、Dガンを構えて引き金を絞る。
フリーエネルギーの弾丸が数発、ギガンデスヘルに直撃する。
だが、人並みの大きさのイマジンならその数発が相当のダメージになるのに対して、巨獣であるギガンデスヘルにはそれなりのダメージにはなるが、確実に弱るほどではないようだ。
(リュウタロス、この街中でデンライナーの武装は使えないよ)
「わかってるよ!」
良太郎の忠告にガン電王は聞き入れながら、デンバードをウィリーするように上へ引っ張るようにしながらハンドルを左に傾ける。
デンコウセッカが反応し、車体が上へと向く。線路が空へと向かい、反時計回りになるようにと敷設されていく。
ギガンデスヘルを中心に円を描くようにして走る。
「さっさとやられちゃえ!」
先頭車両の龍の口が大きく開いて、フリーエネルギーの光線を吐き出す。
同時に三両目となっているイスルギに搭載されているレドームからフリーエネルギーのレーザー光線を発射し、四両目から七両目になっているゴウカの武装が一斉に発射される。
ゴウカノンが光弾を放ち、
ドギーランチャーの口から『ドギーバーク』という威嚇ミサイルを放つ。
モンキーボマーから『モンキーボム』が休みなく投擲され、バーディーミサイルが発射された。
ガン電王はDガンの銃口をギガンデスヘルに狙いをつけて引き金を絞り、フリーエネルギーの弾丸を連射する。
デンコウセッカとガン電王から繰り出された攻撃はすべてギガンデスヘルに直撃する。
後ろへ傾きながらも、ギガンデスヘルはデンコウセッカを睨みつけながら直進してくる。
捕まる気はないので、デンコウセッカは攻撃を一旦中止してからギガンデスヘルの背後に回るように走り出す。
背後に回ってから、飛び道具系の全武装を一斉に発射する。
ギガンデスヘルが前のめりに倒れようとするが、すぐにこちらに向き直って右腕を大振りする。
「ああ!」
(避けられない!)
ドゴン!!と、巨獣の爪が二両目のレッコウに直撃するが、同時にサイドアックスで反撃したので痛み分けとなる。
「やったなあ!」
ガン電王がギガンデスヘルを睨みつけてからDガンで数発放つ。
それからグリップを回してデンコウセッカを発進させ、空に向かって螺旋状に線路を敷設させていく。
一度空へと場所を変えると陸戦型であるギガンデスヘルは、自慢の両腕で攻撃する事は出来ない。
となると地面を抉り、瓦礫を作り出して飛び道具として投げつけた。
だが、それがデンコウセッカに当たる事はない。見下ろすかたちになっているのでどこに投げてくるかわかっているからだ。
一定の高度まで来ると、デンコウセッカは停車する。
(確実に弱ってるね)
「わかってる!最後、行くよ!」
グリップを握って、思いっきり回す。
デンコウセッカは一直線にギガンデスヘルへと向かっていくように線路を敷設しはじめる。
Gがかかっている中でもデンバードのシートから立ち上がる。
グリップから両手を離して、Dガンを両手で握り締める。
銃口からフリーエネルギーが収束されていく。
龍の口にも同じようにフリーエネルギーが収束されていく。それは先程放った光線とは比べ物にならない大きさになっていた。
まるで、ガン電王とつながっているかのような動きだ。
(リュウタロス、見えてきたよ)
良太郎がそう言うと、ガン電王はDガンを握る力を弱めることなく前を見る。
確かに、ギガンデスヘルが瓦礫を持ち上げていた。
そして、デンコウセッカがこちらに向かっているということがわかると、持ち上げていた瓦礫を投げつけてきた。
「今だ!行けええええ!!」
Dガンの引き金を引いた。
収束されたフリーエネルギーは今までのような弾丸ではなく光線として放たれた。
それはデンコウセッカの口から放たれたものも同じだった。
飛んでくる瓦礫を二つの光はものともせずに破壊し、ギガンデスヘルへと向かっていく。
ギガンデスヘルは武器を失い、素手で反撃しようと弱った身体に鞭打つような状態で前進するが、フリーエネルギーで構成されたレーザー光線を二つ浴びながらなので、思った異常に遅い。
それでも歩み寄ろうとする。
ガン電王とデンコウセッカは臆することなく放ち続ける。
ゆっくりだが、歩み続けていたギガンデスヘルが停まった。
「ギャオオオオオオオ」
許容範囲以上のダメージを受けたため、肉体が耐え切れずに爆発した。
爆煙の中をデンコウセッカは突っ切り、そのまま勝利の雄叫びを上げながらモモタロス達がいるビルの屋上へと向かった。
『機械仕掛けの龍』から『八両編成の列車』に姿を戻して、モモタロス達がいるビルの屋上にまで線路を敷設しながらガン電王が操縦するデンライナーはゆっくりとだが走る。
(リュウタロス見て。なのはちゃん、目を覚ましたみたいだよ)
「本当だ!なのはちゃぁぁん!フェレットくぅぅぅん!あとモモタロスゥゥゥゥ」
ガン電王は仲間達を見つけると、高らかに叫びながら大きく手を振る。
目的地が近づくと、更に速度を緩めて停車する。
デンバードのキーボックス|(パスを差し込む場所)からパスを抜き取って、ガン電王はビルへと飛び移る。
時の列車は役目が終えたと判断したのか、空に発生した空間の歪みへと針路を変えて走っていった。
デンオウベルトを外すと、ガン電王から良太郎へと戻り、紫色の光球が胸元から出てきた。
紫色の光球はリュウタロスとなった。
「アイツ、ちゃんとやっつけたよ」
リュウタロスは満喫した感想を述べる。
「今まで戦ってきたイマジンの中では最悪の部類だったもんね」
シープイマジンを今まで自分が遭遇したイマジンと比較した感想を述べた。
「最悪の人間に付いてるイマジンはたくさん見たけどよ、単体で最悪のイマジンは羊野郎が初めてだもんな」
モモタロスも良太郎と同様に比較していたようだ。
首領格となって犯罪を企てたイマジンが一体いたが、単体での極悪さでは遥かに劣っている。
少なくともそのイマジンには『悪』の美学みたいなこだわりがあったと思われる。
倒してしまった相手なのでその真意を探る事は出来ないが。
「さてと、帰ろうぜ」
「うん!」
「「はい!!」」
モモタロスの一言が合図なのかリュウタロス、なのは、ユーノは返事をする。
なのははバリアジャケットから私服に戻っていた。
「じゃあな。良太郎」
ビルの非常階段からモモタロスを先頭に降りていく。
良太郎は一人と二体と一匹の姿を見送ってから、アルフとフェイトの姿を探す。
だが、そこには二人の姿はなかった。
「みんなと話している間に帰っちゃったんだ……」
一人だけ取り残されたような気持ちになった良太郎だった。
*
良太郎が下宿先に戻ると、室内は真っ暗だった。
フェイトもアルフも既に寝たんだと思い、リビングの電気をつける。
壁にかかっている時計を見ると、まだ午後九時三十分だった。
「あれだけの事があったのに、日は変わってないんだ」
率直な感想を述べると、テーブルに置いてあるテレビのリモコンを手にして、電源を押す。
映像が映しだされ、多分この年代に流行なのだと思われるお笑いコンビがどつきあいをしている。
「他の番組は、と」
良太郎はリモコンで番組を切り替えていく。
午後九時代という時間帯なので一時間ドラマに二時間ドラマにバラエティといった娯楽番組ばかりだった。
「……はあ」
目当てとしているジャンルの番組がないため、ため息をついてから風呂場に向かう。
「お風呂でもいれるか」
そう言いながらポケットの中に入れていた私物を取り出して、テーブルに置いてから風呂場に向かった。
風呂場に向かうと、やはりというか当然のことだが電気はついていなかった。
電気をつけてから洗剤とブラシを持って、湯船を洗い始める。
一日経つとどんなに気を遣っていた湯船に浸かろうとも汚くなるものは汚くなる。
洗剤を噴きかけてから、ブラシで擦ってシャワーで水を噴きかける。
湯船にこびりついていた汚れはすべてなくなった。
後は栓をして、湯を入れるだけだ。
蛇口を回して、湯を入れる。
あとは時間にして十五分くらいで湯船を満たす量になるだろう。
良太郎はリビングに戻り、ベッド代わりにしているソファに寝転がった。
寝るつもりはなかったが、一分後には眠ってしまっていた。
「う、ううん」
フェイト・テスタロッサの瞼が開き、見慣れた天井が視界に入ると、脳が働き始めた。
(確かジュエルシードを封印して、その後イマジンにあの子や良太郎達が人質になったから渡して……、あれ?その後は……)
フェイトはベッドから起き上がりながら、思い出そうとするが思い出せない。
思い出せなくて当たり前だ。彼女はそのとき気絶しており、そのときの事を記憶していないのだから。
側で眠っていた獣---アルフは眠り続けている。
アルフを起こさないように、フェイトはベッドから出る。
寝室から出ると、風呂場に電気がついていたので、覗いてみる。
湯船が湯で既に満たされており、溢れており余った湯は排水口へと向かっていく。
フェイトはこれ以上、溢れさせるわけにはいかないと判断したので、蛇口を閉める。
「良太郎、かな?」
リビングにも電気がついているので、覗いてみる。
「すーすー」
良太郎がソファで眠っていた。
恐らく、湯が入るまで寝転がって待とうとしたところを睡魔に勝てずに熟睡してしまったのだろうと推測する。
「ごめんね。それと、ありがとう良太郎」
良太郎には聞こえていないが、フェイトは謝罪と感謝の言葉を告げてから、風呂場に向かった。
身体に纏わりつく汗の重みを払いたかったのだ。
それが何なのかはわからない。
人に説明しようにもしようがないものだが、それが眠っている良太郎の意識を強引に起こした事は間違いない。
閉じていた瞼は開き、ソファから起き上がる。
「あー、寝ちゃってたんだ」
後頭部を掻きながら、良太郎は風呂場へと向かう。
意識は完全ではないためか、身体全身に気だるさを感じる。
「そういえば、蛇口閉めてなかった」
そう言いながら、風呂場に向かう。
そして、風呂場の入り口を開けると、
「えええ!?りょ、良太郎!?」
泡のついたスポンジで身体を洗っている少女が声を挙げた。
今のフェイトは一切服を纏っていない、いわゆる全裸だ。
その声とフェイトの姿で意識が完全に覚醒する。
半眼になっていた両目が全て開く。
「フェイト……ちゃん?」
良太郎は今になって、自分が何をしたのか理解した。
「あ、えーと。そのぉ……」
弁解しようと言葉を探そうとするが、出てこない。
「……て」
湯船の湯を洗面器に入れながらフェイトが何かを言う。
「へ?」
「いいから出てってぇ!!」
洗面器に入った湯を良太郎の顔面に向かってかけた。
「うわああああ!!」
顔面に思いっきり湯をかけられた。服も全身ではないが、湯が染み込んでいる。
「あ、熱うう」
「早く!」
更に空になった洗面器を投げつける。それは良太郎の顔面に直撃した。
良太郎はクラクラと揺れて、仰向けになって倒れた。
*
翌朝となり、天気は雲はあるが太陽は照っていた。
「あー、そのさ。フェイト、良太郎も悪気があったわけじゃないんだしさ」
「………」
ご機嫌斜めになっているフェイトをアルフは何とか宥めようとしていた。
「ごめんなさい」
良太郎も事故とはいえ、非は自分にあると感じているので先程から土下座とまではいかないが、頭を下げて謝っている。
「良太郎」
今までご機嫌ななめながらも朝食を取っていたフェイトが初めて向かいにいる青年に声をかけた。
「えーと、なに?」
「もう、怒ってないから」
「「へ?」」
フェイトの意外な言葉に良太郎もアルフも一瞬理解できなかった。
「もう、怒ってないよ。昨日は驚いたけど、良太郎がそんなことをする人じゃないってわかってるし……」
「フェイトちゃん」
良太郎はフェイトの表情を確かめるために、下げていた頭をゆっくりとだが上げる。
「でも、次は許さないよ?」
フェイトの一言で良太郎は次に同じ事をしたどのような目に遭うのか想像した。
デバイスモードのバルディッシュで頭を殴られるとか。
サイズフォームのバルディッシュで頭をかち割られるとか。
フォトンランサーで吹っ飛ばされるとか。
とにかく、そんなことにはなりたくない。
「……はい」
次は絶対にないようにと、覚悟を決めた。
昨日のハプニングの件が解決すると、フェイトは本日の予定を話し始めた。
「これからお母さんに?」
「うん、だから今日は夕飯はいらないかも……」
そんなことを言うフェイトの横にいるアルフの表情が良太郎は気になった。
とても暗い、いやどこか怯えているようにも見えた。
フェイトも無理して嬉しそうな顔をしているようにもとれた。
とてもこのまま、この二人を行かせる訳にはいかなかった。
「フェイトちゃん、アルフさん。僕も行っていい?」
「「え?」」
良太郎の申し出に二人は目を丸くした。
「ダメかな?」
「え、ううん。そんなことないよ!じゃあ良太郎、一緒に行こう」
フェイトは承諾してくれたので、首を縦に振る良太郎。
良太郎個人としても一度は会ってみたかったのだ。
そして、じかに聞きたかった。
「何故、ジュエルシード探しなんて危険な事をさせているの?」
と。
良太郎は知らない。
この訪問が
次回予告
第二十二話 「母と娘と電王と 前篇」
あとがき
ここからいよいよ本腰に入るところになっています。
今までは『リリカル』の要素が大半でしたが、次からは電王の要素も濃くなっていきます。
第一部で頭を使ったなあというのが今後だと思います。
それではまたおあいしましょう。