本当は12/30に投稿する予定でしたが、忙しかったことと疲れていたのでゆっくりさせていただきました。
申し訳ありません。
それでは新年一発目行きます!!
カラスが鳴き、夕日が美しく映える頃。
一人の少女と二体のイマジンと一匹のフェレットがコンクリートで作られた階段に腰掛けていた。
「なのは、オメェ何様のつもりなんだよ?」
モモタロスの一言が高町なのはの胸に刺さった。
「え?わ、わたしは……」
何様と聞かれて何の迷いもなく即答できる人間はあまりいないだろう。
いるとするならば『自分』というものを客観的に捉えている者か、何の考えも持たない能天気な者くらいだ。
なのはが問いに答える前に、モモタロスが続ける。
「オメェがどんなにスゲェ魔導師でもな、出来る事なんてたかがしれてるんだよ」
「た、たかが……ですか」
なのははモモタロスのあまりの物言いにショックを受けたと同時に全身の力が抜ける感じがした。
なのははある日突然魔導師になった。
それは否応なくといったというものではなく、双方合意の上でなったものだ。
その日から、『ただの一般人』だった自分は『ひとつの使命を背負う魔導師』になった。
正直に言えば自分にしか出来ないことということで、気負いがあったことは否定できない。
それをモモタロスは何の遠慮もなく、ぶち壊したのだ。
自分を『ひとつの使命を背負う魔導師』から『悩みを持った一人の少女』にしてしまったのだ。
「ああ。『たかが』だぜ」
モモタロスはラムネを口に含む。
「リュウタロス」
モモタロスとなのはのやりとりを間近で見ているフェレット---ユーノ・スクライアはなのはの右肩からもう一体のイマジンであるリュウタロスに移動していた。
「なーに?フェレット君」
リュウタロスも小声で応じていた。
「あの二人、大丈夫かな?」
「うーん、わかんないよ。モモタロスって言いたい事ズケズケ言っちゃうからねぇ」
「え、本当に?」
リュウタロスのモモタロスに対する率直な感想を聞いたユーノは不安にかられて一人と一体を見ていた。
「ねえ、なのはの元気がなくなったのって……」
「フェレット君の思ってること通りだと思うよ」
リュウタロスは容赦なく告げた。
彼もモモタロス同様、言いたい事はズケズケと言ってしまうタイプだ。
ただ、モモタロスと違うのはモモタロスが言ったからにはきちんと責任を取ろうとする『大人』であるに対して、リュウタロスは言ったら言いっぱなしで放ったからかしにする『子供』だということだ。
「もし、僕がなのはをこちらに引きずり込んだりしなかったら、なのははこんな悩みを抱えずに済んだのかな?」
「でも、僕達とは出会う事はなかったと思うよ」
リュウタロスはユーノのIFの意見を今の現状を受け入れた意見で打ち消した。
「!」
目から鱗が落ちたとはまさにこのような事を言うのかもしれないとユーノは実感した。
「なのはちゃんがフェレット君のお願いを聞いたから僕達と出会えたんじゃないの?」
リュウタロスは小声で何の含みもなく言った。
だが、ユーノにしてみればまさにその通りだと考えさせられる言葉だった。
なのはが魔導師にならなかった場合、彼女は極平凡な小学生として下手な悩みを抱えることなく友達や家族と共にそれなりに人生を謳歌する事が出来ただろう。
だが、そこには自分はもちろんモモタロス達もいないのだ。
それはそれで寂しいと感じてしまった。
「モモタロスがなのはちゃんを泣かせたら僕達でモモタロスをやっつけるよ」
「え、あ、う、うん」
良くも悪くも純粋なリュウタロスの意見にユーノは首を縦に振るしかなかった。
「実はですね……」
今まで比較的受身の態勢になっていたなのはが初めて切り出した。
自身に起きた出来事を思い出しながら。
本日、学校の休み時間のことだった。
いつも通り、親友のアリサ・バニングスと月村すずかの三人で他愛のない会話をしていた。
二人は盛り上がっていたが、自分
なのは
一人はその中に入らなかった。
同じ魔導師で恐らくジェルシードを集める上で障害となる少女---フェイト・テスタロッサのことを考えていたからだ。
その事がこのところずっと、正確に言うなら月村邸での一件以来彼女の頭を支配していたといっても過言ではない。
そして、とうとうこの三人の中では一番短気とも思われるアリサの堪忍袋がついに切れた。
アリサの声は教室を一瞬だが支配した。
アリサとて単純に自身の感情を表に出したわけではないことは
大声を張り上げた事を。
だが、それでも
その謝罪もどこか場を取り繕うようなものだとアリサは受け止めたため、とうとう彼女は
すずかは何とか
その出来事以降、二人とは会話せずに学業時間を終了して一人で下校していたのだと言う。
「なるほどなぁ」
黙って聞いていたモモタロスはなのはが全てを言い終えたのだと判断すると、口を開いた。
「んで、なのは。オメェはどうしたいんだよ?」
モモタロスはなのはの原因を全て聞いていたが、自分の意見は言わずになのはにこれからの事を聞いた。
「え?」
「あの魔導師や金髪チビとの問題だよ。このまま放ったからしにするのか?」
「そんな、放ったらかしになんて出来ませんよ!それにこうなったのも、わたしが悪いんですから……」
最後になのはは自分を責めていた。
こんな事態になったのは全て自分の不手際によるものだと言わんばかりに。
「あー」
モモタロスは髪の毛があるわけでもないのに後頭部を掻いた。
気が済むまで掻き終えるとなのはを見る。
「何でオメェ、何でもかんでも背負い込むんだよ?そりゃ趣味か何かか?」
モモタロスはそんな人間を一人知っている。
「しゅ、趣味じゃありません!」
なのはは両手を拳にして必死で否定する。
多分、自分が知っている人間も同じような反応をするなとなのはを見ながら思ってしまう。
「だったらよ、少しは他の連中にも背負わせりゃいいじゃねぇか」
「え?」
なのはは目を丸くしているが、モモタロスは気にすることなく続ける。
「オメェ、まだガキなんだ。大人にケツ拭いてもらっても恥ずかしいことなんかねぇんだぜ」
「でも……」
それでもなのははためらってしまう。
自分に課せられた事を自分で片付ける、というのが九歳の少女の道徳であり信念だろうと察する事が出来た。
モモタロスにもそれが立派な信念だという事はわかっていた。
だが、自らの信念を誰でも彼でもが一人で貫けるほど世の中は上手く出来ていないのだ。
目の前の少女はそれをまだ理解していない。
また、場に沈黙の空気が漂い始める。
「なあなのは、オマエの信念は誰かに手ぇ借りて達成しちゃいけねぇものなのか?」
モモタロスは静かになのはに訊ねた。
「モモタロスさん?」
「オメェが信念貫くのに俺達が手を貸しちゃいけねぇのかって聞いてるんだ」
その言葉を耳に入れるまで高町なのはは自分が一人ではないことを完全に失念していた。
モモタロスを見てからユーノとリュウタロスを見て、ここにはいないウラタロスとキンタロスの顔を思い浮かべていた。
モモタロスは自分にこう言いたかったのかもしれない。
『もっと他人に甘えろ』と。
『もっと言いたい事を言え』と。
『オマエには俺達がいる』と。
「あー、ったく。真面目すぎるガキはこういうとき、面倒で困るぜ」
モモタロスは言いたい事を言い終えたのか、照れ隠しに頭を掻いてから残っているラムネを飲み干す事にした。
「……すいません」
なのは謝罪するが、その声色は落ち込んでいるものではなかった。
ラムネを飲み終えたモモタロスは数メートル先にあるゴミ箱に向かって空のラムネ瓶(瓶といってもプラスチック製)を放り投げた。
「はい、なのはちゃん」
リュウタロスが立ち上がり、右肩に乗っているユーノに渡した。
ユーノはなのはの右肩に乗っかる。
「なのは、僕じゃ心許ないかもしれないけど何でも言ってよ。僕はもう迷わないから」
「ユーノ君……」
ユーノも先ほどまでのやり取りを見て何かを見出して、覚悟を決めたのかもしれない。
そう感じたのは、先程までと彼が発している雰囲気が違うからだ。
モモタロスが立ち上がり、なのはに手を差し伸べる。
「さあ、帰ろうぜ?カミさんの晩飯が待ってるぞ?」
「はい!」
なのはは元気よく声を上げ、モモタロスの手を握って立ち上がった。
*
夕日が窓に差し込み、眩く感じる頃。
野上良太郎が居候しているマンションではというと。
獣耳と尻尾をぴくぴくと動かしながらフェイト・テスタロッサの使いまであるアルフは一足早い夕飯を食べようとしていた。
「良太郎が食事を作るようになってからはご無沙汰だったからねぇ」
「アルフさん、それ本当に食べるの?」
良太郎はアルフが食しようとしているソレを見てから確認するかのように訊ねる。
「ん?良太郎、アンタも食べたいのかい?」
そう箱入りのドッグフードをチョコスナックのように差し出してくる。
「ええと……」
アルフの好意に応えるべきかどうかというところだ。
差し出されたドッグフードを見る。
チョコスナックのように見えなくはないが、これはあくまで犬の主食だ。
「コレ、結構イケるからさ。良太郎も食べてみなって!」
ずいずいと薦めてくるアルフ。
「じゃ、じゃあひとつだけ」
押しの弱い良太郎はアルフの薦めを押しのける事が出来ず、ドッグフードをひとつ袋から摘み出した。
ドッグフードをまじまじと見る。
チョコスナックだと思って食べれば何とかなるだろう。
だが、ここで良太郎は暇つぶしに憶えた雑学知識を記憶の箱から引っ張り出してしまった。
(たしか、犬の味覚と人間の味覚は違うはずって聞いたことがあるような……)
よりにもよってこの時に一番引っ張り出さなくてもいい雑学知識だ。
アルフを見る。
まるでお菓子のごとく、ムシャムシャバリバリと食べている。
それを見ていると、『あ、食べれそう』と思ってしまう。
口の中に入れようとした時に我に返る。
(アルフさんはあんなふうに食べているけどコレはドッグフードなんだよね……)
口に入れるのを躊躇ってしまう。
しかし、いつまでも掌のドッグフードと睨めっこをしているわけにはいかない。
良太郎は両目を閉じ、精神を集中してから口の中へ放り込んだ。
そして、小学校時に覚えた一口三十回を実践する。
正直、美味い不味いなんてわからなくなっていた。
そして、ごくりと喉を通した。
「美味かったろ?良太郎」
とアルフは聞いてきた。
(美味かったろ?って聞かれても、味なんて全然わかんないくらい噛んだからなあ)
体のいい回答が出てこない。
元々、嘘やごまかしという詐術に長けているわけではないので行き着くところはバカ正直に答えるという選択肢しかないのだ。
「あの、ドッグフードなんて食べるの初めてだからさ、その、口に入れるだけでいっぱいいっぱいだったんだ。だから、味を感じる余裕なんてなかったんだよ」
本当にバカ正直に答えた。
「なーんだ。アンタ、ドッグフード食べるの初めてだったんだ。そりゃちょっと上級者向けなこと望んじまったね」
何が上級者なのかよくわからないが、アルフが自分の行いに反省している事だけはわかった。
「それにしてもフェイトちゃん出てこないね」
良太郎は寝室を睨む。
「そうだねぇ。良太郎、アンタが食事を差し入れした時はどんな感じだったんだい?」
「ベッドで寝転がっていたよ。ただ、英気を養うって感じじゃなかったと思うよ」
「どういう意味だい?」
「何かを真剣に考えてるんだと思う」
「何かって何だい?」
アルフが詰め寄ってきた。
「それはわからないよ。フェイトちゃん自身に聞いてみないとね」
良太郎は下がりながらも答えた。
わからないと言いながらも、仮にフェイトが考え込んでいるのだとしたら凡その見当は付いていたりする。
ただ、それはジュエルシード探しにとって障害になりかねないのでアルフには告げなかった。
告げるとフェイトに諫言しそうだと思ったからである。
良太郎はケータロスを取り出して時刻を見る。
「さてと、そろそろ食器の回収に行ってくるよ」
そうアルフに告げてからフェイトが篭っている寝室に向かう。
「行ってらっしゃーい」
とアルフはソファの上に寝転がった。
ノックをしてから「どうぞ」と声がしたので良太郎は入る。
「食器の片付けに来たんだけど……」
良太郎は差し入れに渡した食事を見る。
大した量ではなかったが、食事は殆ど手をつけられていなかった。
つまり、全く食べていないという事だ。
「……殆ど残してるじゃない」
良太郎は一息吐く。
「……少しは食べたから大丈夫」
フェイトはゆっくりとだが、ベッドから起き上がる。
バリアジャケット姿ではあるが、マントは羽織っておらず、また手袋
グローブ
もはめていなかった。
「アルフさんから聞いたよ。広域探索の魔法は体力をかなり使うんだってね?」
「う、うん」
良太郎の指摘にフェイトは首肯する事で応対した。
「それにこういう事は何度かあったとも聞いたよ」
ベッドに腰掛ける良太郎。
「な、何度かって程でもないんだけど……」
フェイトは顔を伏せてしまう。
食事を作ってくれた良太郎に顔向けできないという表れかもしれない。
『こういう事』とは出された食事を残す事だ。
「フェイトちゃん、そんな状態でもやっぱり探すの?ジュエルシード」
良太郎は答えはわかっている事を確認のために訊ねる。
「うん、母さんが待っているから……」
フェイトは即答した。
「そっか。だったら尚更食べないといけないね」
「え?」
「コレ、温め直して持ってくるよ」
良太郎はベッドから立ち上がり、食事が乗っかっているトレーを持つ。
「良太郎、わたしはその……もうお腹いっぱいだし……」
フェイトは良太郎の申し出を断ろうとするが、嘘の吐けない性格のためよい言葉が出なかった。
「それ以上言うと、僕怒るよ?」
良太郎はドスを利かせたような口調で言ったわけではないが、フェイトを黙らせるには十分な力があった。
フェイトの心の中に良太郎に対する後ろめたさがあったからこそ、上手くいったのかもしれない。
「相手はなのはちゃんやモモタロス達だけじゃない。誰かと契約を交わしたイマジンまでいるんだ。体力はあった方がいいに越した事はないんだからさ」
「う、うん」
フェイトは良太郎の静かではあるが有無を言わせぬ気迫に負けて頷くしかなかった。
食事一式を持った良太郎は、寝室を離れてキッチンに向かった。
リビングではソファで寝そべっていたアルフが起き上がり、フェイトの体調を訊ねてきた。
「万全とはいえないね。食事も残してたし」
良太郎は報告をしながら食事にラップを巻いて電子レンジに放り込み、作動させる。
ラップに包まれた食器がぐるぐると回っている。
「じゃあ、アンタは何してんだい?」
残した食事をラップして電子レンジに放り込む意図がアルフにはわからなかった。
「フェイトちゃんにもう一度食べさせるために温めているんだけど……」
「フェイト、断らなかったのかい!?」
使い魔であるアルフはかなり驚いていた。
「断ろうとしてたけど、ちょっと強く言ったら渋々だけど了解してくれたよ」
「嘘だろ!?あたしが強く言っても聞いてくれないのに、どうやったのさ!?良太郎」
「特に難しい事はしてないよ」
電子レンジがチン!と鳴った。
「アルフさん、ひとつ聞いていいかな?」
「何だい?良太郎。あたしがわかる事なら答えるけど」
良太郎は電子レンジの中身を取り出し、食器の上にかぶっているラップを剥がしていく。
「フェイトちゃんのお母さんってどんな人なの?」
「………」
アルフは急に顔を伏せた。
開いていた手がいつの間にか拳となり、ぶるぶると震えていた。
よく見ると、全身も震えていた。
それが『怒り』や『憎しみ』といったものなのか、それとも『恐怖』なのかは判別できなかったが、あまり良い感情を抱いていないということだけはわかった。
「えと、答えにくかったらいいよ。ごめんね、アルフさん」
「あ、ああ。こっちこそごめんよ」
良太郎は温めた食事を持ってフェイトがいる寝室へと向かった。
(アルフさんの態度からすると、フェイトちゃんのお母さんはちょっとワケありなのかもしれない)
記憶の片隅に留めながらも、寝室のドアをノックした。
「良太郎、ありがとう」
ベッドから起き上がり、食事を受け取って黙々と食す。
味わって食べているわけでなく、作った人間に対する礼儀もしくはエネルギーにするための摂取とも思える食べ方だった。
数分後には、
「ごちそうさまでした」
と合掌してすぐに、手袋をはめてからマントを出現させて羽織った。
「良太郎。食器が洗い終わり次第、行くよ」
そう言うと同時にバルディッシュを出現させた。
それが、本日のジュエルシード探しの合図だと良太郎にはすぐにわかった。
次回予告
第二十話 「オマエ倒すよ?いいよね?答えは聞いてない!」
あとがき
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。