仮面ライダー電王LYRICAL   作:(MINA)

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予告通りの投稿です。

一日に二回は今回が初めてですね。


第十六話 「激化するスベテ」

外は夜。闇の中をひとつの(ひかり)が君臨する時間帯。

三人の人影が林の中を歩いていた。

決して遠足でも散歩でもない事は三人の内の二人の風体でわかる事だ。

一人はバリアジャケットを着用し、杖のようなもの---インテリジェントデバイスを手にしている。

もう一人は自身のスタイルを強調するかのような服装に黒いマントを羽織っていた。

フェイト・テスタロッサとアルフだ。

最後の一人は普段と変わらぬ服装をしているが、普段の温厚な表情とは違って真剣な表情になっている。

野上良太郎である。

夕方に探索魔法を用いた結果、海鳴温泉街の林の中にあるということがわかった。

だが、林の中といってもどこもかしこも似たような風景なのでピンポイントで見つける事はできなかった。

ここからは自分の目が頼りになる。

「林の中っていっても結構広いんだねぇ」

アルフが草の根を分けたり、木の枝に引っかかっていたりしないかとキョロキョロしている。

「それでも、林の中にあるってことがわかっているだけでも大幅に時間は短縮できるよ。最悪の場合、本当に海鳴温泉街をしらみつぶしなんだからね」

「うえー。今にして思えばそれゾッとするね」

良太郎が草の根を分けながら言う一言にアルフは青ざめる。

「その最悪の事態はフェイトちゃんの頑張りで免れたんだからさ。今度は僕達がフェイトちゃんの頑張りに応えないと、ね?」

「そうだね。さあ、出てこーい。ジュエルシードォ!」

「呼んでも出てこないって」

良太郎はアルフとそんな漫才じみたやりとりを前に出て探しているフェイトは小さく笑みを浮かべていた。

(確かに良太郎の言うように、こちらが声をかけて呼んで出てくるっていうならば、わたし達がこんな苦労しなくてもいいからね)

ジュエルシードはこの(エリア)のどこかにある。

後は林の何処何処(ポイント)にあるかどうかだ。

(ジュエルシードが発動してくれればいいんだけど……)

フェイトがそのような希望を内に秘めていた時だ。

「!」

「!」

フェイトとアルフの動作が急に停まった。

「二人とも?」

良太郎は二人が自分には感じ取れない『何か』を感じたのだろうと察する。

「良太郎、見つけたよ」

「遅れないでよ!」

そう言うと同時に、フェイトとアルフは林の中に潜って行った。

「待ってよ。二人ともー」

良太郎は二人に離れないように全力で追いかける事にした。

 

良太郎がフェイトとアルフの背中を逃さずに追って二、三分後。

林の中でありながら小さな川があり、それを渡れるように小さな橋が架かっていた所にフェイトとアルフがいて、川の一部分から発せられていると思われる天上に向かって昇っているひとつの光を見ていた。

「二人とも、体力あるね。全然息乱さないもん」

良太郎は息を整え終え、二人のもとに歩み寄る。

「いや、あたし達はちょっと魔法使ったし、ね?フェイト」

「う、うん。でも良太郎の方が凄いよ。わたし達が魔法を使って速度を速めているのにそれにきちんと着いてきて、ほんのちょっと息乱してるだけだもん。普通の大人の人でもヘロヘロになるのに」

「そうなの?」

良太郎は意外そうな顔をするが、川から発しているひとつの光を見る。

「凄いねぇ。これがロストロギアのパワーってやつぅ?」

「随分、不完全で不安定な状態だけどね」

アルフはジュエルシードの発動に素直に感心し、フェイトは対照的に冷静に分析していた。

「これがジュエルシードの発動状態なんだね?」

「良太郎は初めて見るの?」

フェイトの問いに良太郎は首を縦に振る。

「うん、前に見たのは発動した後のものだったからね」

怪植物の事を良太郎は言っていた。

「そう言えばわたしも初めてかもしれない」

フェイトが言っているのは巨大猫のことだ。

「ねえ、フェイトちゃん」

「何?良太郎」

「フェイトちゃんはお母さんのためにジュエルシードを集めているんだよね?」

「うん、そうだよ」

良太郎はジュエルシードが発する光を見つめながらフェイトに訊ね、フェイトもまた光を見つめたまま答えた。

「何でフェイトちゃんのお母さんはジュエルシードを欲しがるのかな?」

良太郎はフェイトが母親のために探していると打ち明けた時からずっと気になっていた事だった。

「そういえばそうだよねぇ。あたしも詳しくは知らないねぇ」

のってきたのは意外にもアルフだった。

「………」

フェイトは黙ったままだ。あまりこの話題に関わりたくないのだろう。

「アルフさんも知らないの?」

「うん。あたしはフェイトに「ジュエルシードを集めるから手伝って」と言われたから従ってるだけだしね」

「そういえばもうひとつ気になってたんだけど、フェイトちゃんとアルフさんはどういう関係なの?」

「「え?」」

良太郎の一言に二人は目を丸くしていた。

「フェイト。アンタ説明してなかったのかい?」

「アルフこそ言わなかったの?」

どうやらお互いが勝手に説明してくれているものだと思っていたようだ。

二人のリアクションからすると自分は二人の関係を知ってて当たり前の認識だったらしい。

「えーとね。最初に言うけどアルフは人間じゃないんだ。わたしが作った使い魔なんだよ」

フェイトの言葉に良太郎は首を傾げた。

「人間でしょ?」

「アルフ。見せてあげて」

フェイトがアルフにそう指示すると、アルフの全身が光りだした。

やがてその光は人の姿から別のものになっていく。

その姿は大きな狼に似た犬のようなものになった。

「どうだい!?驚いたろー?」

と、獣姿になったアルフは得意満面に言う。

だが良太郎の反応はというと、

「えーっと、もしかしてそれだけ?」

薄かった。

「あの、驚かないの?」

フェイトは良太郎に驚いて欲しいかのように聞く。

「そうだよ!ここは驚くところだよ!良太郎!」

獣姿から人姿に戻ったアルフは良太郎に詰め寄る。

「いや、その、二人の期待には応えられそうにないよ。僕、これよりもっと不思議な物を見たり体験したりしているしね」

良太郎は申し訳なさそうな顔で言った。

「フェイトォ、あたしなんかショックだよ」

アルフはいじけてしまった。

良太郎はそんなアルフを見て悪い事をしたと思いながらもフェイトに説明を求める。

「それでフェイトちゃん、使い魔ってなに?それにアルフさんを作ったっていうのは?」

「使い魔はね。魔導師が使役する一種の人造生物の総称なんだ。わたしがアルフを作ったというのも本当だよ。死亡直前、又は死亡直後の動物の身体に人工の魂を憑依させる事で造り出せるからね」

「人工の魂!?魔導師って命まで造れるの!?凄いよ!フェイトちゃん」

「そ、そうかな」

良太郎に褒められてフェイトは頬を染める。

「もしかして人工の魂があれば死者を蘇らせる事もできるの?」

良太郎のもしもの意見にフェイトは首を横に振る。

「それは無理だよ。仮に死体に人工の魂を憑依させても、それはその人の姿をした使い魔であってその人じゃないから蘇るという意味とは違うと思うよ」

「死んだ人間を蘇らせる事は永遠の課題なんだね」

「そうだね。アルフ、サポートをお願い。良太郎、危ないから下がってて」

「へいへい」

「わかった、気をつけてね。フェイトちゃん、アルフさん」

フェイトはバルディッシュをシーリングモードにする。

周囲に黄金の光が稲妻状に走り、川の水が蛇か竜のような動きを見せた。

(凄い、なのはちゃんと同等かそれ以上かも……)

良太郎は目で確認できる魔法というものをじっくり見たのは初めてだった。

高町なのはが魔法を用いた時の事を思い出した。あれは凄まじかった。

そして、目の前にいるフェイトとは一度戦闘したが、勝てたのが奇跡に思えてきた。

良太郎はフェイトがジュエルシードを回収する様をひとつの儀式を見るかのようにして一言も漏らさずにただじっと見ていた。

 

 

良太郎達が林の中でジュエルシードを探している頃、高町家とその関係者と居候達が宿泊している旅館では子供達は既に就寝し、大人達が隣の部屋で談笑していた。

ちなみに居候達はというと、

遊技場でモモタロスとリュウタロスは卓球をし、ウラタロスとキンタロスは将棋をしていた。

コハナは卓球をしている二人の審判をしている。

「ねぇモモタロス。良太郎どうしてるかな?」

ラケットで飛んでくる球を相手コートに送り込みながらリュウタロスは相手に訊く。

「あん?どうしたよ?良太郎が恋しくなったか?小僧」

モモタロスが飛んできたボールを返しながらからかう。

「うん。だってー」

リュウタロスも普段はムキになって否定するところだが、良太郎に会いたいのか割と素直に頷いた。

それでも、飛んできたボールをきちんと返す。

「良太郎にだって考えがあるんだよ。オメェにだってわかってんだろ?」

モモタロスは飛んできたボールを返しながら、リュウタロスを諭す。

「でもさ、危なくないのかな?良太郎、いきなり自分を襲った奴らと一緒に住むなんてさぁ」

モモタロスはラケットをコートに置く。この時点で試合放棄となり、負けとなった。

「大丈夫だろ?前に会った時、あいつピンピンしていたぜ。それに、俺達だってなのはやユーノの石コロ探しの手伝いするって決めたじゃねぇか。良太郎とはそん時に会うさ」

「そうかなぁ。カメちゃんやクマちゃんならともかく、モモタロスの言う事だしぃ」

この手の推測に関してリュウタロスの評価順位は、一位がウラタロスで二位がキンタロス。そうなると、最下位は言わなくてもわかるというやつだ。

「オメェなぁ」

モモタロスは拳を震わせていた。

折角、親身に聞いてやってるのに何てこと言いやがるんだ。コイツはと思っている。

「リュウタ、たまにはモモの言う事も当てにしてみたら?」

助け舟を出したのは審判をしていたコハナだった。

「ハナちゃん……」

「コハナクソ女、ぶっ」

コハナはタブーを言ったモモタロスの太ももに鋭い蹴りをぶつけた。

「全く!いい加減、人の名前はキチンと覚えておきなさい!」

コハナが両手を腰に手を当てて、モモタロスを見下ろす。

「センパイ、大丈夫?」

「全く懲りんやっちゃな。ほれ、立てるか?」

先程まで将棋をしていたウラタロスとキンタロスが歩み寄ってきた。

「ああ、わりぃな。ん?」

キンタロスの手を借りて起き上がるモモタロスは外に出ようとする一人の少女を見つけた。

「あれ、なのはちゃんとフェレット君だ」

リュウタロスが言うように、それは高町なのはとユーノ・スクライアだった。

「ったく、あいつら……」

モモタロスは舌打ちし、全員でなのは達の順路を先回りすることにした。

 

高町なのはとユーノ・スクライアが林の中に入り込み、バリアジャケットを着用してから魔力を察知されないように走って目的地まで向かおうとしているところ、五人の人影がそこにいた。

「モモタロスさん、ウラタロスさん、キンタロスさん、リュウタ君、ハナさん」

一人と一匹を待ち構えていたのは居候五人組だった。

「よぉ」

モモタロスは軽く手を挙げる。

「夜の散歩にしては重装備だよね」

ウラタロスが木にもたれてお決まりのポーズを取りながら皮肉を言う。

「危ないで。こんな時間の子供と小動物の散歩はな」

キンタロスは親指で首を捻ってから一人と一匹に注意する。

「あの石

ジュエルシード

が目的なら僕達も行くって約束だよね?ね?」

リュウタロスが念を押すように訊いて来た。

「皆さん、聞いてください。あれから考えたんですけど、ここから先は僕が……」

先に口を開いたのはフェレットのユーノだ。

「ユーノ君、それ以上言うと怒るよ?」

なのはがユーノの台詞を強引に止めた。

「おい、ユーノ」

そう言うとモモタロスがユーノを掴む。

「今更、そんなこと言うならよ、最初(ハナ)からなのはを巻き込むんじゃねぇよ」

ドスの利かせた声で、ユーノを黙らせるには十分なものだった。

「いい加減認めたらどうなんだよ?自分ひとりじゃどうにもならねぇってことをよ?」

ユーノは黙ってしまう。

「ユーノ、スタンドプレーをするのはいいけど、力が伴っていないならやっても迷惑なだけだよ?」

ウラタロスは現状と今後を把握して諭しながら人差し指でユーノの頬をつつく。

「責任感があるのは褒めたるけど、それに押し潰されたら元も子もないで」

キンタロスがモモタロスからユーノを取り上げる。

「僕達、友達だよね?フェレット君。なのはちゃん。答えは聞かないよ!」

リュウタロスがキンタロスからユーノから取り上げ、なのはに返す。

「なのはちゃん、ユーノ。もうジュエルシード探しは二人だけのものじゃないのよ。私達もこの世界に持ち込んだ責任もあるし、それに私達の意思でもあるんだから」

コハナがなのはの肩に手を置く。

なのはとユーノは全員を見回す。

自分達の言葉が彼らの心を変えることはできないということは明らかだ。

それに、彼らの言葉はとても頼もしく感じる。

自分達とは比べ物にならないくらいの死線を乗り越えてきた証といってもいいだろう。

「わかりました。みなさん。これからもよろしくお願いします!」

ユーノはぺこりと頭を下げた。フェレットなのでその仕種は誠実さよりも愛らしさを感じてしまう。

「ほ、本当にありがとうございます!!」

なのはも深々と頭を下げた。

感謝をしてもしきれないという気持ちが身体全身から溢れていた。

「さあてと、話もまとまったところで行くぜ!テメェら!!気ぃ締めていくぞ!!」

モモタロスの咆哮で一同の表情は真剣になった。

なのはは林の奥に広がる闇を真剣な表情で睨んでいた。

レイジングハートを握る手の強さは自然と強くなっていた。

 

「……誰か来る」

「うん、数は多いね」

フェイトとアルフは林に広がる闇からこちらに向かっている『何か』を見ようとする。

自然と二人の表情は険しくなっている。

フェイトはバルディッシュを握る力が強くなっている。

アルフは腕を伸ばしてから拳を作る。

良太郎も二人同様、険しい表情だが相手の正体に見当がついているため、林を見つめてはいるが二人よりは余裕のようなものがあった。

「なのはちゃん達とモモタロス達だ」

良太郎が相手の正体を言うと同時に、現れた。

二人の人間と一匹の小動物、そして四体の得体の知れない生物が。

「よぉ、良太郎。元気そうじゃねぇか?」

モモタロスが良太郎に軽く手を挙げて挨拶するが、一歩も踏み込もうとはしなかった。

「みんなも元気そうで良かったよ」

良太郎も笑みを浮かべて答えた。

「ここにいるってことは、やっぱりみんなも……」

笑みから真剣な表情になる。

「そう。良太郎と同じ理由さ」

ウラタロスが答えた。

その一言で場の雰囲気が重くなった。

「良太郎、悪いけど俺らも譲らへんで」

キンタロスが腕組をして、なのはの前に立つ。

「うん」

リュウタロスもキンタロスの意見に同意したのか横に並ぶ。

「なーるほどねぇ。アンタ達が良太郎の仲間だってこともあたし達の邪魔をする気満々だって事もよーくわかったよ」

端の手すりに腰掛けていたアルフは立ち上がり、相手陣営を睨みながら見回す。

「良太郎、確認するけどさ。今からあたし、アンタの仲間と戦うけどいいのかい?」

「アルフさん、油断しないで。みんな強いから」

良太郎の台詞はアルフへの心配とモモタロス達への信頼だった。

「わかったよ」

アルフはそう言うと、瞳を大きく開く。すると人の皮膚をぶち破り、元々の長髪が更に伸び、人の形状を崩して別の形状へと変化していく。

その姿を見た瞬間。相手側の一人はというと、

「#$%&#$%!!!」

鼓膜を押さえたくなるような声を上げ、場の雰囲気をぶち壊した。

「センパイ、何て声だしてんの!?」

耳を押さえたウラタロスが奇声とも言うべき声を発したモモタロスに抗議する。

「だあってよぉ。あの女、い、犬になるんだぜぇ!思わずビビッちまうだろうが」

モモタロスは犬が大の苦手だ。その苦手具合は見ただけで金縛りのように動けなくなるほどだ。

「へぇ。早速一人リタイアかい?これは幸先いいねぇ。フェイト、良太郎。先に帰ってな。すぐに追いつくからさ」

「うん。アルフ、無理をしないで」

「アルフさん、危なくなったらすぐに逃げてね」

フェイトと良太郎の言葉を聞いたアルフはなのはに飛び掛る。

だが、なのはの身体にアルフの爪が届く事はなかった。

ユーノがなのはの周りに結界を張っていたからだ。

「このぉ、結界かい!?」

「なのは、あの子をお願い!!」

ユーノは結界を張りながらなのはに指示を出す。

「そんなことさせると思ってんの!?」

アルフは結界を破壊しようと爪を立て、全体重を乗せる。

「させてみせるさ!!ウラタロスさん!リュウタロス!!こっちに!!」

ユーノはウラタロスとリュウタロスに呼びかける。

「え?僕」

「行こう!カメちゃん」

いきなり指名されて驚くウラタロスとユーノに指名されて嬉しかったのか喜ぶリュウタロスはユーノの元に駆け出す。

「僕達を呼んでどうするのさ、ユーノ」

「今から移動魔法でこことは違う別の場所に飛びます。その場所であの使い魔と戦うかもしれないんでサポートをお願いしたんです」

「あの大きい犬と戦うの?可愛いんだけどなぁ」

リュウタロスはアルフと戦うのには抵抗があるらしい。

「行きます!!」

そう言うと同時に、ユーノはアルフの間合いにも魔方陣を展開させる。

「移動魔法!?」

アルフはそれが何なのか判断し、理解したときには遅かった。

移動魔法が発動し、その場にはユーノ、ウラタロス、リュウタロス、アルフの姿はなくなった。

「消えてもたで」

キンタロスはただそういう感想を述べることしかできなかった。

「……結界の強制転移魔法。いい使い魔だ」

フェイトはそうユーノを自分の常識内で賞賛した。

「ユーノ君は使い魔じゃないよ!わたしの友達だもん!!」

なのはにしてみればそれは賞賛ではなく、侮蔑に聞こえたので否定した。

その場の雰囲気はまた重くなるかとこの場にいる誰もが思ったときだ。

「よっし!犬がいなくなったからようやく動けるぜ!やってくれたな良太郎。犬を使って奇襲とはよ」

今までアルフにビビッて金縛り状態になっていたモモタロスがいつものとおりに戻る。

「何、急に張り切ってんのよ!!」

コハナがお仕置きと称してモモタロスの尻に蹴りを一発食らわした。

「テメェ!何しやがる!?」

「うるさい!」

コハナの一言でモモタロスは黙ってしまう。

「………」

「………」

「………」

「モモの字、ハナ。場を読め。場を、みんな白けてるで」

キンタロスがモモタロスとコハナのどつき漫才的やりとりを見て呆然としている面々の代表として二人に諫言した。

「「あっ」」

二人は把握した後、黙ってしまった。

フェイトが後ろにいる良太郎に声をかける。

「良太郎。わたし、その……」

良太郎はフェイトが何をするつもりかはわからないが、任せる事にした。

「何をするかは聞かないよ。でも気をつけてね」

良太郎はしゃがんでフェイトの肩に手を置く。

「うん。わかった」

フェイトは頷き、なのはの方に歩き出す。

「モモタロスさん、キンタロスさん、ハナさん。わたし……」

なのはは残った三人を見上げるかたちで見る。

「気をつけろよ。向こうはやる気だぜ」

モモタロスがフェイトを見て、小声で話す。

「え?」

「話し合いで何とかしたいと思うなのはの気持ちはわかるで。でもな、アレは明らかに話し合うっていう気配はないで」

キンタロスが釘を刺す。

「アンタ達、そこまでにしておきなさい。なのはちゃんの気が済むようにすればいいよ」

「ハナさん。皆さん、いいんですか?その……」

相手が仲間ならやりづらいのではないかとなのはは心配するし、本音を言えば仲間同士で傷つきあってほしくないのだ。

「なるようにしかならねぇだろ。おい!良太郎!」

モモタロスが良太郎を呼んだ。

「なに?モモタロス」

「場所、かえようぜ?」

モモタロスが顔を右に振る。

「わかった」

モモタロスの提案に乗った良太郎はモモタロス達の許に歩み出す。

キンタロスとコハナも二人の後に付いていった。

 

あれだけ賑やかだった場所には二人しか残っていなかった。

なのはとフェイトの二人しかいない。

「で?どうするの?」

フェイトは静かに眼前の相手に尋ねる。

「話し合いで何とかできるってことない?」

なのはは話し合いで何とかならないかと試みる。

なお、話し合いが成立したからといっても事態が改善されるとは思えないだろう。何故ならこれはただ単純に戦闘を避けるだけの逃げの一手でしかないからだ。

「……わたしはロストロギアの欠片、ジュエルシードを集めなければならない。そして、あなたも同じ目的ならわたし達はジュエルシードを賭けて戦う敵同士ってことになる」

フェイトは淡々と告げるが、自分の目的を曝け出さない。

聞いたなのはにはそれがとても悲しく感じた。

目的は違えど追う獲物は同じ、だから敵。

まるで人との繋がりを最初から否定しているように思えて仕方ないからだ。

「だから、そういう事を簡単に決め付けないためにも話し合いって必要なんだと思う!」

なのはは自身が正しいと思う事、絶対に譲れない事を主張する。

「………」

フェイトは瞳を閉じて、なのはの話を静聴する。

「話し合うだけじゃ、言葉だけじゃきっと何も変わらない」

両目を開く。

「伝わらない!!」

バルディッシュを構えて、フェイトは駆け出した。

 

良太郎、モモタロス、キンタロス、コハナは特に何かを動くわけでもなく、静かに互いを見合っていた。

「良太郎、何であのガキ止めなかったんだよ?」

モモタロスは良太郎の性格上、フェイトとなのはの戦闘を止めるだろうと思っていた。

「できる限りなら戦いは避けたかったよ。それが彼女達をサポートするって決めた僕の役目だからね。でも、あの二人は出会い、そして一度戦い、こうしてまた出会ってしまっている。もう、戦わずにすまそうなんて事は言っていられない。いや、もう言えないんだ。だから、僕はあの二人の事はもうあの二人に任せる事にしたんだ。無責任だけどね」

なのはとフェイトに関してはもはや外野が干渉できる領域ではないと良太郎は判断した。

「それは、あの二人が互いに納得いくまでぶつかれって事?」

コハナの解釈に良太郎は頷く。

「良太郎にしては随分と荒い方法やなぁ」

キンタロスは良太郎らしくないやり方だと評した。

「クマ、何言ってんだよ。俺達だってそうだったじゃねぇか?」

「モモの字?」

モモタロスの言葉は良太郎の代弁にも思えた。

キンタロスは今までのことを思い出す。

そういえば自分も最初は良太郎達とは敵対関係に近かった。

仲間になっても常に文句の言い合いにいがみ合いに喧嘩の日々だった。

だが、それも繰り返されるうちに互いを理解するためのひとつの手段なのではと思うようになった。

そして、現在のような関係へと発展したのだ。

「ま、言われてみたらそうやな。互いを知る方法はひとつじゃないってことやな。それぞれに合った方法があると言いたいんやな?良太郎」

キンタロスも良太郎の意図を理解し、納得したようだ。

「わーったよ。ったく、でもよ良太郎。俺達はこれからどうすんだよ?」

「僕はこれからもフェイトちゃん達のサポートをするよ。モモタロス達はなのはちゃん達のサポートをすればいいんじゃないかな」

「それじゃ今までと変わらねぇぞ?」

「急には変わらないよ。ただ、わかってる事はある。あの二人の邪魔をするなら僕達は全力でその相手と戦う。違う?」

良太郎の意見にその場の全員が首を縦に振った。

互いに立つ場所は違えど、思いは繋がったままのチームデンライナーだった。

 

フェイトはなのはと距離を詰めたと同時に、突進する速度よりも更に速度を上昇させた。

なのはにしてみれば瞬間移動したように見えるだろう。

なのはが後ろに振り向くと、そこにはバルディッシュを横に振る態勢をとったフェイトがいた。

「フライヤー・フィン」

なのはよりも先にレイジングハートを反応し、なのはを空へと回避するように促した。

「だからって!」

なのはは夜空へと舞台を移しながらも追いかけてくるフェイトに抗議の言葉をぶつけようとする。

だが、

「賭けて、それぞれのジュエルシードをひとつずつ」

フェイトはなのはの言葉の意味に耳を傾けず、自身の望みのみをなのはにぶつける。

「フォトンランサー、ゲットセット」

バルディッシュが機械音声でそう発した。

フェイトは上昇速度を更に速め、なのはより上の位置に付いた。

月をバックにしてのその仕種にはどこか妖艶さのようなものがあった。

フェイトの足元に金色の魔方陣が展開し、左手には金色で球状の魔力弾が構築されており、バルディッシュをその魔力弾の後ろに掲げる。

「フォトンランサー」

発すると同時に魔力弾はひとつの光線と化した。

なのははレイジングハートと共に迎撃する態勢をとる。

レイジングハートはシーリングモードへとなる。

「ディバインバスター」

レイジングハートが発し、先端から桜色の光線が放たれる。

金色と桜色の光線がぶつかり合う。

まるでフェイトとなのはの意思がぶつかり合うように。

「レイジングハート!お願い!」

なのはの一声でレイジングハートは更に威力の高い一撃を放つ。

なのは自身、更なる魔力が身体を覆う感覚を感じた。

「!!」

フェイトは先程よりも強い一撃が来ると判断し、次の手を打つ事にした。

フォトンランサーを完全に消したが、そこにはフェイトの姿はなかった。

「え!?」

気づいたときには遅く、フェイトがバルディッシュのサイズモードにし、なのはの首許に突きつけていた。

「………」

誰が見ても勝敗は明らかだった。

レイジングハートは主を守るために、ひとつの方法をとった。

所持しているジュエルシードのひとつをフェイトに渡す事にしたのだ。

「レイジングハート!何を!?」

主の抗議に主思いのデバイスは耳を貸さなかった。

「きっと主思いのいいデバイス()なんだよ」

フェイトがレイジングハートを称賛した。

ジュエルシードを手にしたフェイトは空から地上へと舞台を移すために、ゆっくりと降下していく。

なのはも釣られる様にして降下していく。

「待って!」

先に地に足つけたフェイトがその場から去ろうとしたところを、なのはは呼び止める。

「できるならもう、わたし達の前に姿を現さないで。良太郎の知り合いとはいえ、もし次があるなら今度は止められないかもしれない」

フェイトはなのはの顔を見ることなく、背を向けたまま警告した。

「名前!あなたの名前は?」

フェイトは目を閉じ、決意したかのようにして言う。

 

「フェイト。フェイト・テスタロッサ」

と。

 

林の中で先程の戦闘をじっと見ていたそれは少女二人のうち、黒装束の少女に狙いを定めた。

爪を研ぎ澄ませ、待っていた。

少女の緊張の糸が切れ、『油断』が少女を支配したときがこちらの最大の機会だ。

名を名乗り、その場を去ろうとする少女には完全に油断---隙が生まれていた。

それ---ウイッチドッグイマジンは少女の前に現れてこう告げた。

 

「お前が持っているジュエルシードを俺によこせぇ!」

 

イマジンの爪が少女を襲う。

 




次回予告

第十七話 「子供を泣かす奴は俺が泣かす!!」


あとがき

というわけで何とか二回目の投稿をしたみなひろです。
海鳴温泉編も、もうすぐ終わりになろうとしています。
ここからはシリアスまっしぐらだったような気がします。
次回投稿予定は12/27を予定にしています。

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