仮面ライダー電王LYRICAL   作:(MINA)

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昨日投稿する予定ができなくて申し訳ありませんでした。

それでは第十五話を投稿します。



第十五話 「激化のヒキガネ」

高町家とその仲間達が、温泉旅館に到着して各々自由行動を取っている頃。

海鳴温泉街の別の旅館のとある部屋では男一人女二人の三人が朝食を取り終え、今後の事を話し合っていた。

「わたしと良太郎はもう少しこの温泉街の地理を学ぶために散策するよ。あともしかしたらだけど、その途中でジュエルシードを見つけられるかもしれないしね」

フェイト・テスタロッサは今後の予定を真っ先に告げた。

「アルフさんはどうするの?」

野上良太郎は湯飲みに人数分の茶を淹れながらアルフに訊ねる。

「あたし?あたしはね、他の旅館の風呂に入ろうと思ってるんだけどね」

アルフは湯飲みを受け取り、喉を茶で潤しながら答えた。

完全に観光気分なのだが、良太郎もフェイトもアルフを責めたりはしない。

「そんなことできるの?」

フェイトはこの中で尤も温泉街に関して詳しい良太郎に顔を向ける。

「温泉街にもよるけど、海鳴温泉街(ここ)はできるみたいだよ」

良太郎はタウン誌を取り出して記載されているページを開き、フェイトに見せた。

「ええと、『お一人様一枚千五百円で、海鳴温泉街の露天、室内風呂問わずに三箇所を任意に選択して入湯できる『入湯手形』販売中。ご購入の際には各旅館の受付で。使用済みの手形はお土産にもなります』だって」

「ねぇねぇ良太郎、フェイト。いいでしょ?」

アルフが二人に子供のようにおねだりしてくる。

良太郎は(リュウタロスがわがまま言うときみたい)と思い出し、口元を緩めてしまう。

フェイトを見るが、どこか困ったような顔をしているができるなら願いをかなえてあげたいなという気持ちが表に少しだけ出ている。

「良太郎、どうしよう?」

「いいんじゃないかな。記念品として買っておくのもいいしね」

そう言いながら良太郎は財布を取り出し、三千円をアルフに渡した。

「あれ?良太郎。それじゃ一枚分多いよ?」

フェイトが良太郎に出し間違いではないのかと訊ねる。

「ん?フェイトちゃんの分」

「え?そ、そんな……わたしはその……」

良太郎の一言にフェイトは予想外の出来事なので狼狽する。

「僕は昨日言ったよね?思いっきり楽しんでねって」

「え?う、うん」

「だからだよ。フェイトちゃん、言わないと絶対にジュエルシード探しばかりに専念すると思うから」

良太郎の一言はフェイトにとっては痛いところをつく指摘だった。

「少しは肩の力抜かないと、ね?アルフさん、二人分お願い」

「あいよ、良太郎」

良太郎の一声でアルフはフェイトが何かを言う前に部屋を出て受付に向かっていった。

「わたしの分も買ってくれるのは嬉しいけど良太郎はいいの?」

そうアルフに入湯手形代金として渡したのは三千円、つまり二人分だ。

その二人とはフェイトとアルフの分であって良太郎の分はない。

「ああ、いいよ。僕、カラスの行水だし」

「カラスの行水?」

フェイトが聞きなれない言葉が耳に入ったので、発した良太郎に尋ねる。

「うーんとね。湯船に浸かってもすぐに出ちゃうこと、かな」

「そうなんだ。何かもったいなくない?」

「そう、なんだけどね」

フェイトの指摘に良太郎は鼻の頭を掻いた。

アルフが二枚分の入湯手形を購入して部屋に戻ってきたのはそれから十分後の事だ。

 

「ふんふーんふーん♪ここは本当に天国だねぇ。良太郎とフェイトに頼んで拠点をこっちに変えてもらおっかな」

海鳴温泉街では浴衣の胸元をはだけさせたアルフが木製で将棋駒のように象られた物---『入湯手形』をくるくると振り回しながら鼻唄交じりに歩いていた。

温泉が気に入ったアルフにとってここはまさに天国といっても過言ではないだろう。

既に手形には二つの温泉旅館の判が押印されていた。

「あと一箇所かぁ。正直悩んじゃうよねぇ」

アルフはこれまでに自分が宿泊している露天風呂と今日に別の旅館で露天風呂に入っていた。

「室内温泉ってのもいいねぇ」

アルフは室内温泉をウリとしている温泉旅館を探す事にした。

 

 

良太郎達が宿泊している旅館とは別の海鳴温泉旅館の女風呂ではうら若い少女達の声が飛び交っていた。

高町なのはの親友であるアリサ・バニングスが親友の姉である高町美由希の胸を背後から掴んだり、その仕返しとして美由希がアリサの下着をずらしたりしていた。

月村すずかは姉の月村忍のプロポーションを羨望の眼差しで見ていた。

そんな女性陣の無防備な脱ぎっぷりを見せ付けられている、というよりは見ない振りしながらもしっかりと見ているのは一匹のフェレット---ユーノ・スクライアだ。

(あのぉ、なのは)

(なぁに?ユーノ君)

ユーノは念話の回線を開き、なのはに話しかけた。

(僕も入るの?)

(え?もしかしてユーノ君。お風呂嫌い?)

(あ、いや、そういうわけじゃないんだけど……)

なのははユーノが何故、入浴にためらっているのか理解できていないようだ。

(じゃあ、一緒に入ろうよ)

なのはは衣服を脱いで下着姿になっている。

(あのぉ、なのは。僕はモモタロスさん達と一緒に部屋にいた方がいいと思うんだけど……)

ユーノは抵抗の姿勢を崩さない。

ここで屈したら自分は男として大切なものを失うと予感していた。

なのはは下着を脱ぎ、バスタオルを巻き始める。

その間、ユーノは小さな手(前足ともいう)で目を覆うようにしているが、実は少しだけ視界に入るようにしていたりする。

(だーめ!ユーノ君も一緒に入るの!)

ユーノはそれでも抵抗の姿勢を崩さない。

彼の心中には『連れて行かれたら負ける』という言葉が支配していた。

だが、生まれたままの姿同然の少女と自身の煩悩という強大な相手を前に彼の発達途上な精神が勝てるはずもなく、屈する事となった。

(あああああああ、僕の馬鹿!)

心の中で自分を罵った。

なのはに抱えられたユーノは、先に温泉を満喫している女性陣(アリサ、美由希、すずか、忍)をできるだけ視界に入れないように周囲を見回した。

ユーノとしては、異文化ともいうべき『温泉』は実をいうと興味があった。

本来ならば諸手を挙げて大喜びしていたはずだろう。

(うううぅ。)

だが、今の状況ではそれは叶わないことだった。

今の自分はフェレット。そして、今自分と同じ空間にいるのは小動物の取るアクションなら何でも「カワイイ」といって魔手を伸ばしてくる恐ろしい悪魔達がいるからだ。

「お姉ちゃん。背中流してあげるね」

すずかが姉に申し出た。

「ありがとう。すずか」

忍が快く了承した。

「じゃあ、わたしも!」

なのはも美由希に申し出た。

「ありがとう」と美由希も快く了承してくれた。

(仲がいいんだね)

とユーノは心の中でほほえましく思っていたところを何者かに掴まれた。

「キュ?(誰?)」

と自分を掴んだ悪魔の顔を拝もうと上を向く。

「さーて、アンタはアタシが洗ってあげるわよ」

アリサだった。天使のように浮かべている笑みも今のユーノには悪魔が舌なめずりしているようにしか見えなかった。

「キュキュ、キュキュキュー!(なのは、助けて!)」

姉の背中を洗っているなのはに助けを求めてみる。

「心配ないわよ。アタシ、洗うの上手いんだから♪」

アリサはどうやら自分の先程の訴えを恐らく、「なのは以外の人に洗われるのは嫌だ!」とでも解釈したのかもしれない。

なのはをもう一度見る。

「……にゃははは」

と、苦笑いを浮かべながら姉の背中を洗っていた。

ユーノは退路は断たれたと認めて腹をくくる事にした。

 

 

良太郎とフェイトは粗方、海鳴温泉街を歩き終え、茶店で休憩していた。

「今の段階で魔法を使えばジュエルシードの場所を明確に探す事はできる?」

良太郎が奇数でワンセットのみたらし団子の最後の一本をフェイトに薦める。

「うん。海鳴温泉街

ここ

の地理はすべて頭に入れたからいい結果が期待できると思うよ」

フェイトは自信を持って断言した後に、茶で喉を潤す。

「そうなんだ。あ、すいません。三色団子一人前、ください」

良太郎はフェイトの回答に満足し、店員を呼び出して追加注文をした。

「アルフ、温泉楽しんでるかな?」

フェイトは良太郎が進めたみたらし団子の最後の一本を受取り、軽く会釈してから口の中に入れる。

「満喫してると思うよ」

そう言いながら良太郎は店員から頼んでいた三色団子を受け取り、皿を自分とフェイトの間に置いた。

「フェイトちゃんも楽しんでおいでよ?ほら、そこに旅館あるし」

良太郎はフェイトに楽しんでくるように促す。

「良太郎はその間、どうするの?」

自分の事より他人の事を気にするのは美徳だが、時と場合によってはそれが自分自身への枷になることもある。

良太郎はフェイトの枷にならないように、この手の質問に関しての回答をあらかじめかんがえていたのだ。

「僕?そうだね、フェイトちゃんが出てくるまで、マッサージチェアにでも座ってるよ」

「マッサージしてくれるの?その椅子」

「うん。お金を入れて数分間だけね」

「へえ、何か温泉に入るより、そっちの方が興味が湧くね」

フェイトがここで食いついてくるとは思わなかった。

内に秘めていた好奇心が一瞬だが表に出たことを良太郎は見逃さなかった。

「なら、一緒に寛ぎに行こうか?」

フェイトは頷き、良太郎は代金を置いて茶店の向かいにある旅館に入って行った。

幸いな事にマッサージチェアは二人分空いていた。

良太郎はフェイトに稼動するために必要な分の代金を渡して、腰掛ける。

フェイトも良太郎の仕種を見ながら手順を踏んでいく。

「りょ、良太郎!せ、背中に何か、何か言いようのない何かが来るんだけど……」

フェイトは今までに感じた事のないものが背中に触れたので驚きの表情を隠さずに良太郎に尋ねる。

「あー、それを今から十分間ほど味わう事になるからね」

良太郎は恍惚な表情を浮かべて、目を閉じた。

「ひゃあああああああああああ」

その数分後、少女の悲鳴がその温泉旅館にこだました。

 

フェイトがマッサージチェアを初体験している頃にアルフはというと、室内温泉をメインとしている温泉旅館の廊下を歩いていた。

「温泉、温泉♪」

鼻歌交じりに歩いていると、

「ん?」

三人の小柄な物体がこちらに近づいて来た。

(見てくれからして、フェイトと同い年かもしれないねぇ)

会話の内容はというと、この旅館を探検する計画を練っているようだ。

(あれ?あの右のガキンチョ、良太郎とフェイトが言っていた特徴にピッタリだ)

アルフは右側にいる右肩にフェレットを乗っけた少女を見る。

フェイトの相手となる魔導師の特徴をあらかじめ良太郎とフェイトに聞いていて正解だと実感した。

ちなみに良太郎とフェイトがアルフに教えた特徴はというと、

身長と外見年齢が自分と同じくらい。(フェイトの証言)

常にフェレットを同伴している。(良太郎の証言)

インテリジェントデバイスを所持している。(フェイトの証言)

栗色の髪をして、フェイトほどではないが左右にリボンでまとめている。(良太郎の証言)

白いバリアジャケットを着用している。(フェイトの証言)

少女の名前は高町なのは。(良太郎の証言)

(本人に名前聞いてからアヤつけるってのはイマイチ迫力に欠けるねぇ)

アルフは左側と中央にいる少女達を見る。

(あの二人が言うように仕向けるか)

アルフは獲物を駆ることが楽しみな獣のような笑みを浮かべて少女達の前に立った。

「ハイ!おチビちゃん達」

声をかけると同時にその場の空気が和やかなものから緊迫したものへと変わった。

「キミかね?ウチの子をアレしちゃってくれてるのは?」

アルフは腰に手を当てて歩み寄り、フェレットを肩に乗せた少女の前に立って目線を合わせるように前屈みになる。

「え?あの……」

アルフに鋭い目で見つめられて少女は後ろへ下がる。

「あんま賢そうにも強そうにも見えないし、只のガキンチョに見えるんだけどだねぇ」

少女は何も言い返さない。いや、言い返せないというのが事実だろう。

中央にいた金髪少女が自分の前に立った。目つきは鋭く睨んでいる。

「なのは、お知り合い?」

後ろに下がっている『なのは』と呼ばれた少女は首を横に振る。

「この子、あなたを知らないそうですがどちら様ですか!?」

金髪少女が両手に拳を作って精一杯強がっている。

「えー」

と、どうしたらいいのやらというような声を出しているが内心はというと、

(上手くいった。あのフェレットのガキンチョが高町なのはだねぇ)

「あははははははは。ごめんごめん、人違いだったかなあ。知ってる子によく似てたからさぁ」

アルフは笑って誤魔化す様に取り繕った。

緊迫した雰囲気は笑い声と共に取り除かれた。

「な、何だ。そうだったんですか」

高町なのはは安心したのか、ほっと安堵の息を漏らした。

「あははは。可愛いフェレットだねぇ」

アルフは笑いながらフェレットの頭を撫で始める。

「よしよーし」

フェレットの頭を撫でる事に満足したアルフは手を引っ込める。

高町なのはの表情は安心しきっていた。

(さてと、そろそろ始めるかねぇ)

アルフは念話の回線を高町なのはとフェレットに開いた。

(良太郎の顔に免じて今の所は挨拶だけだけどね)

そう送ると、一人と一匹の表情が変わった。

(忠告しておくよ。子供はお家に帰って遊んでなさいね。おイタが過ぎるとガブッといくわよ)

アルフは凄んでそう送ってから念話の回線を閉じてから歩き出した。

「さあて、もうひとっ風呂浴びてくるかなぁ」

アルフは本来の目的を達成するために奥に向かった。

 

 

何かに乗せられて動いている感覚がフェイトを支配していた。

不思議と心地よいものでもう少しこうしていたいと思っていた。

(あー、もしもしフェイト。こちらアルフ)

とアルフが念話の回線を開いてきた。

フェイトの意識はまだ微妙にぼんやりしていたが念話の交信くらいはできる意識は保っていた。

(う、うん。どうしたのアルフ?)

(ちょっと見てきたよ。高町なのはを)

(そう。どうだった?)

(大した事ないね。フェイトの敵じゃないよ)

海鳴温泉街(ここ)の地理は粗方、頭に入ったから今夜にでもジュエルシードを回収できるよ)

(ホントかい?さっすがフェイト。あたしのご主人様♪)

(ありがとう。アルフ)

(それじゃフェイト。また、旅館でねー)

(うん。アルフ)

念話の回線が切れ、フェイトは現在自分が於かれている状況を把握するため閉じていた瞼を開く。

最初に映ったのは天井ではなく、見た事ある何かだ。

(この服は今日、良太郎が着ていた服だ)

良太郎が着ている服を自分は何故間近で見ているのだろう。

顔を少しだけ上に向けると、良太郎の後頭部が見える。

そして、現在もなお移動しているこの状況から推測される事はひとつ。

自分は良太郎におぶってもらっていることだ。

「あ、あの良太郎……」

「ん?ああ、気がついた?フェイトちゃん」

「わ、わたしどうしてこうなってるの!?」

フェイトは何故自分が良太郎におぶってもらうという状況になっているかを問う。

「えーとね。聞きたい?」

顔は見えないが良太郎はきっと苦笑いをしているだろう。

「もしかして、わたし何かしたの!?」

良太郎は歩みを止めない。

「何かしたといわれると難しいね。マッサージチェアに座って二分で気を失ってたんだけど……」

「気を失ってたの!?わたし!?」

「うん。旅館の人も驚いてたよ。開始二分で気を失う人がいたなんて、ね」

「ううう……」

フェイトは恥ずかしさのあまりにうなりだした。

(穴があったら入りたいよ……)

何故自分は良太郎の前でこう醜態ばかりさらしてしまうのだろう。

そして、何故それをこんなに恥ずかしく思ってしまうのだろう。

そう思うと、今の自分の状況もまた恥ずかしく感じてしまう。

「あ、あの良太郎」

「ん?どうしたの?フェイトちゃん、意識もはっきりしてるから降りる?」

フェイトはここで「うん」と答えようと頭の中では組みあがっていた。

「ええとね。その……良太郎」

「ん、何?」

「もう少し、このままでいさせてくれる?」

だが、そうはならなかった。

フェイトは顔を真っ赤にしてそう言った後に良太郎の背中に顔を埋めた。

「うん、わかった。このまま旅館まで運んでいくよ」

良太郎は快く了承してくれた。

「ありがとう。良太郎」

フェイトはそう言うと、また瞼を閉じた。

この時、彼女自身もわからなかっただろう。

自分が安心しきった表情をしている事を。

 

カラスが鳴く夕暮れ時。

良太郎とアルフは探索魔法を用いているフェイトの結果をじっと待っていた。

三人は浴衣ではなく、私服だ。

フェイトはバルディッシュを突き立てて、目を閉じて集中している。

良太郎とアルフは茶も飲まずに、ただじっと座っていた。

「ねぇ、良太郎」

「なに?アルフさん」

小声でアルフが良太郎に話しかける。

「この瞬間って何か緊張するよね?」

「言えてるね。僕らが何かしているわけでもないのにね」

アルフの意見に良太郎は同意する。

フェイトの両目が開いた。

「大分絞れたよ。良太郎、アルフ。今夜に回収するよ」

フェイトは真剣な表情で二人を見合わせる。

「わかった」

「あいよ、フェイト」

良太郎とアルフも真剣な表情で応じた。

 

海鳴温泉街を舞台にしたジュエルシード集めの始まりである。




次回予告

第十六話 「激化するスベテ」



あとがき

風邪が治ったかと思ったらまた引きかけに戻ってしまったみなひろです。
皆さんも体調には気をつけましょう。
次回投稿予定は一応ですが、本日のPM21:00を目標にしています。

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