テッカマンブレードを見て24話あたりで涙腺を緩みっぱなしになり、48話を繰り返してみているみなひろです。
それでは第十四話を始めます。
野上良太郎、フェイト・テスタロッサ、アルフがジュエルシード探しのために海鳴温泉街に向かい、行動している昼頃。
高町家本家にある道場には四体のイマジンと、二人の少女、フェレット一匹が輪を作ってある会議を開いていた。
「やっべぇなあ。なのはのダチ二人完全に怪しんでるぜ」
モモタロスが先陣を切るかのように口を開いた。
「たしかに、センパイと違ってアリサちゃんとすずかちゃんは勘が鋭いから確実になのはちゃんの事を怪しんでるよね」
ウラタロスが右手を曲げて左手で右肘を支えるといういつものポーズを取ってモモに対するからかいを忘れることなく、現状を把握しようとする。
モモタロスの頭部に怒りの象徴たるピキマークがひとつ浮かび上がっていたりする。
「あんなにちっこいのにモモの字より賢いんや。俺らの事もなのはの事もいずれは気付くで。何とか上手い事誤魔化さなあかんなあ」
キンタロスが親指で首を捻ってから、今後の対策案を口に出した。
また、キンタロスの一言でモモタロスの頭部に怒りの象徴たるピキマークがもうひとつ浮かび上がっていたりする。
「アリサちゃんとすずかちゃんを騙すのは僕やだなあ。アリサちゃんもすずかちゃんもモモタロスと違って騙しても引っかかるとは思えないよぉ」
リュウタロスがスケッチブックにフェレット---ユーノ・スクライアを描いていた。
くどいようだが、リュウタロスの一言でモモタロスの頭部にピキマークがさらにひとつ浮かびあがっていた。
「リュウタの言う通りよね。あの二人を騙すには相当手の込んだことをしなければならないわね。モモと違って単純じゃないしね」
しつこいようだが、コハナの一言でモモタロスの頭部にピキマークがひとつ浮かびあがっていた。
「あのぉ、モモタロスさん?」
高町家次女、高町なのはが小刻みに震えているモモタロスの顔を覗き込む。
「あ、あの無理かもしれませんけど、その抑えてくれません?」
頭に完全に血が上っているモモタロスに言っても無駄かもしれないけどユーノは諌言した。
「テメェらあ……」
モモタロスは立ち上がる。
「さっきから黙って聞いてりゃ、人をダシにしやがってぇぇぇぇぇ!!」
拳を作り、ウラ、キン、リュウ、コハナに向かって殴りかかろうとする。
「モモタロスさん!やめてください!」
「そうです!皆さんも言いすぎですよ!」
なのはとユーノが四人に抗議する。
「大丈夫だよ。なのはちゃん、ユーノ」
「え?」
「何故です?」
ウラタロスは余裕で構えている。
なぜそんなに余裕を構えているのかは二人にはわからない。
「モモ!」
コハナがモモタロスの間合いに入り込んで正拳を叩き込んだ。
「オマエよぉ、今回……俺、悪くねぇだろうがよぉ」
そう訴えながらモモタロスは地に崩れ落ちた。
「……」
「……」
なのはとユーノは黙った。
口から出ようとした言葉を二人は呑みこんだのだ。
恐怖政治というか、イマジンとコハナの上下関係というものを見てしまったからだ。
「明日から一泊二日で温泉旅行?」
高町家長女、高町美由希が読んでいた雑誌から目を離して提案をしてきた父、高町士郎を見た。
「ああ、すずかちゃんのところとアリサちゃんのところも一緒だから結構な数での旅行になるがな」
「それはいいんだけど、何で?」
美由希としては旅行そのものに異議はない。ただ、何故温泉旅行に行くのかが聞きたいようだ。
「理由はまあ、日頃の疲れを癒す、かな?」
士郎が模範的な回答を述べた。
「ふぅん、まあ私は温泉に入れるからいいんだけどね。ところでこの事を恭ちゃんは知っているの?」
「恭也には既に忍さんから伝えてあるはずだから問題ないだろう。後はなのはとモモタロス君達とアリサちゃんの所だけだが、アリサちゃんのところは俺が連絡するからいいとして美由希」
「なに?お父さん」
「道場にいるなのはとモモタロス君達に知らせてきてくれないか?」
「はーい」
美由希はソファから立ち上がり、道場に向かった。
(そういえば彼、誘ったら来るかな)
道場に向かいながら彼女はとある人物のことを考えていた。
最近、『翠屋』で知り合った青年のことだ。
現在居候している四人のコスプレバンドマンと一人の少女の仲間で、自分が見る限り多分あの中でなら一番の常識人だろう。
名前は確か野上良太郎。
外見から判断すると年齢は自分よりは上、多分恭也と同じ歳くらいだろう。
会話を数時間した程度だが、それなりに人となりは見えている。
悪人という言葉とは無縁な存在だろう。
「ハナちゃんに連絡先、聞いてみようかな」
美由希は良太郎の連絡先を知っていると思われるコハナに訊ねてみようと企みながら、道場に向かう足を速めた。
*
カラスが空を飛ぶ風景がさまになる夕暮れの時。
海鳴温泉街は昼間以上に人で溢れていた。
野上良太郎とフェイト・テスタロッサはジュエルシード探しをしていた。
「そろそろ夕飯時だね」
良太郎は腕時計を見て、「そろそろ切り上げようか」と進言する。
「うん、そうだね。今日はここまでにしょうか」
フェイトも良太郎の意見に同意した。
「何だか急に人が多くなったね」
フェイトが周囲を見回しながら感想を述べた。
「そうだね。今の時間帯が入り時なのかな」
「でもみんながこの時間帯に温泉に入るんだったら、混んでて狭くならない?」
「まあ、そうなるかな」
フェイトの鋭い指摘に良太郎は苦笑いを浮かべるしかなかった。
自分達が宿泊している旅館に着くと、法被を着た従業員が「おかえりなさいませ」と頭を下げてきたので二人は、
「「ただいま戻りました」」
と返した。
部屋に戻ると、浴衣姿のアルフが牛乳を何本か飲んでいた。空になった牛乳瓶は中年親父が飲み終えた酒瓶のようにテーブルの上に転がっていた。
「おかえりー。フェイト、良太郎」
「アルフ、温泉はどうだったの?」
「広かったよ!人も全然いなかったからさ、あたし思わずクロール、背泳ぎ、平泳ぎにバタフライやっちゃったよ!」
アルフは興奮気味に語った。
「そうなんだ」
フェイトはアルフの感想に満足していた。
部屋の電話が鳴り出したので、良太郎が受話器を取る。
「はい」
『夕食はいつお持ちすればよろしいでしょうか?』
男性従業員の声だ。
良太郎は腕時計の時刻を見る。
「そうですね。僕も連れの一人も入浴したいから、その後での方がいいので今から一時間半くらい後でお願いします」
『かしこまりました』
お互いに言うべき事を言い終えたので、電話は切れた。
良太郎は浴衣とバスタオルを持つ。
「さてと、汗流してくるかな」
「待ってよ。わたしも行く」
フェイトも良太郎につられるようにして浴衣とバスタオルを急いで持つ。
「あたしももう一回入ろーっと」
アルフは昼に入って気に入ったのか入浴する気満々だった。既にバスタオルも持っている。
もしかしたら一人で女湯に入る事に心細さと不安を持っているかもしれないフェイトへの配慮かもしれない。
「それじゃね、もし僕より先に上がっても待たずに部屋に戻ってていいからね」
風呂場の入り口前にフェイトとアルフにそう言うと、良太郎は男湯の中に入っていった。
「うん」
「わかったー」
フェイトとアルフも頷くと、女湯に入っていった。
良太郎が風呂場入り口に出てくると、フェイトとアルフの姿はなかった。
「女の人の入浴って男の倍以上かかるって言ってたな」
ちなみにこのような事を良太郎に吹き込んだのは姉---野上愛理の追っかけ一号である
それに先程から浴衣姿の客が数名、男女問わずにちらちらとこちらを見ている。
流石の良太郎も風呂場入り口でずっと待つというのはどうもそれなりに抵抗を感じているので、部屋に戻る事にした。
部屋に戻っても、フェイトとアルフの姿はないのでまだ入浴中だと良太郎は確信した。
座り込んでパスと財布とケータロスをテーブルに置く。
ケータロスの着メロが鳴り出した。
『もしもし、良太郎君?』
通話状態にすると、聞き覚えがない声がした。
「あの、失礼ですけどどちらさまで?」
『あ、ごめんね。その美由希です。高町美由希』
「ああ、なのはちゃんのお姉さん」
一度しか会ったことがないので記憶に定着しなかったのだろう。
「どうしたの?というより、どうしてこの電話の番号知ってるの?僕、誰にも教えた覚えがないんだけど……」
『えと、それはね。ハナちゃんに聞いたんだ』
「あ、そうなんだ。それでその、僕に何か用事でも?」
良太郎は年端の近い女性の対応に悩みながらも用件に入ろうとする。
『えとさ、明日家族及び友達と一緒に温泉に行くんだけど、さ』
「うん」
良太郎は聞き手に回っている。
『もちろん、その家族及び友達にはモモ君達も含まれてるんだ』
「うん」
良太郎は美由希が目的を言うまで待つつもりだ。
『だからさ、モモ君達の友達である君も誘おうと思ったわけなんだけど……』
「そうなんだ。誘ってくれたのは嬉しいんだけど僕今、連れと旅行中だから無理なんだ。ちなみに温泉旅行の場所ってわかる?」
『え?海鳴温泉街だけど。そっか残念だなあ』
行き先場所が耳に入った時、良太郎は頭を抱えた。
(嘘でしょ?ぶつかる可能性大じゃないか!)
「旅館名ってわかる?」
これでもし、万に一つ同じ旅館なら確実にぶつかる。
仮になのはがフェイトと鉢合わせすれば、察しのいいなのはのことだからジュエルシードがその近辺にあるという結論に行き着くだろう。
そうなれば奪い合いになるのは必至だ。
『海鳴◇〇旅館だけど。そっか、残念だなあ』
美由希が少々がっかりした声で通話を切った。
(……良かった)
美由希が口にした旅館名を聞いて、良太郎は少しだけホッとした。
それでも旅館は違えど同じ温泉街にいる以上、鉢合わせする可能性は捨てきれない事は事実だ。
(会う前に回収して、離れる以外に方法はないね)
良太郎は今後の事を胸中で練り終えた頃を見計らったかのように襖が開いた。
「良太郎、先に帰ってたんだ」
「いやー、あたし病み付きになりそうだねぇ」
浴衣姿のフェイトとアルフが入ってきた。
「おかえり二人とも、フェイトちゃん、初温泉どうだった?」
「うん、とても気持ちよかったよ」
フェイトは小さく微笑むが、それはやはり場を取り繕うための笑みだ。
「そう、二人とも座って。今後のことを話したいんだ」
良太郎は頷きながら、二人に座るように促す。
「どうしたの?良太郎」
「アルフ、良太郎が話すからとにかく聞こうよ」
アルフが立ったまま、訊ねようとするがフェイトがアルフに座るように言う。
「モモタロス達が明日にでも
「モモタロス?」
「モモタロスって誰だい、良太郎」
「あ、そうか。二人にはまだ言ってなかったんだね」
良太郎はこの二人にまだ、自分の身内のことを話していなかった事を思い出した。
仲間が相手側魔導師にいる事は教えていたが、名前までは教えていなかった。
「僕の仲間で、他にもウラタロス、キンタロス、リュウタロス、ハナさんがいるんだ」
「タロス?」
フェイトはあまりに聞き覚えのない名前に首を傾けてしまう。
「誰がつけたのかはわからないけどネーミングセンスは壊滅的だね」
アルフの一言は名付け主にとっては一本の矢だった。
「はうっ!」
名付け主---良太郎の胸にグサリと刺さっていた。
「「まさか良太郎なの?」」
仲間内から果ては未来の孫にまで自分のセンスは壊滅的(キンタロスの言葉で言う"泣ける")レベルと言われても、それなりにへこんだことはある。
だが、ここまで痛烈に胸に突き刺さったことはない。
相手が異世界人だからかもと良太郎は考えてしまう。
「りょ、良太郎。わ、わたしはいいと思うよ!タロスって」
フェイトが良太郎を励まそうとする。
「そ、そうだよ!改めて聞くといい名前じゃないさ。タロス」
アルフも励ましている。
「……わかってはいたんだけどね。異世界でも僕のセンスって壊滅的だとわかるとさ、ちょっとショック受けちゃってね。ははは」
乾いた笑みを漏らす良太郎をフェイトとアルフは不器用ながらも褒め言葉と励ましの言葉を言いまくる。
夕食が届くまでには無事立ち直らせる事に成功した。
*
野上良太郎達が温泉街で一泊過ごして迎える最初の朝。
昨日と同じく、太陽は眩しく地上を照りつけ、空は青一色だった。
海鳴温泉街のある旅館の浴場には明らかに人間ではない四色の存在が入浴を満喫していた。
「ったく、イマジン《ひと》の面見て、門前払いなんて感じ悪いったらありゃしねぇぜ」
赤色---モモタロスが頭に濡れた手ぬぐいを置いて、来館の際に起こったことを思い出した。
「まあ仕方ないよね。僕達の外見って下手をすれば体に塗り絵している人達より異常だからね」
青色---頭を洗っているウラタロスは旅館従業員の対応は間違っていないし、正常な判断だと言う。
「まあ、ええやないか。旦那さん(士郎のこと)と奥さん(桃子のこと)が上手い事言うてくれたんやからな」
金色---キンタロスは鼻歌を歌いながらも、二人に「過ぎた事は忘れろ」と諭す。
「でも、僕の顔見て腰抜かすなんてひどくない?」
紫色---リュウタロスはモモタロス同様に不満をこぼしていた。
「クマの言うようにいつまでも過ぎた事言っても仕方ねぇしな。あー、いい湯だぜ。足が伸ばせるってのはいいもんだなぁってカメ、オマエ何してんだよ?早く入れよ?」
根が単純なモモタロスは気持ちを切り替えるが、ウラタロスがらしくない行動をしていた。
湯に浸かろうとしないのだ。
「それはわかってるんだけどさ、そのね、以前キンちゃんと風呂に入ったときに起こった事を思い出しちゃってね」
「ああ、オマエ流された時か」
「えー、そんな事あったの?どうして教えてくれなかったのさ!モモタロスぅ!」
リュウタロスはそんな面白イベントを見逃した事を後悔し、モモタロスに八つ当たりした。
「小僧!テメェは乗っかるんじゃねぇ!後、頭を叩くんじゃねぇ!テメェはその辺で泳いでろ!」
そんな二人を他所にウラタロスは湯に浸かり、キンタロスの側まで寄る。
「キンちゃん、お願いだから底に穴なんて開けないでよ!僕お笑い担当じゃないんだからさ」
「わかっとるがな!カメの字もしつこいで!」
そう言いながら、キンタロスは風呂底を右腕で叩こうとするが、ウラタロスがとっさに掴む。
「だから、ソレをやめてって言ってるんでしょ!」
ウラタロスは本気だった。
「ほーら、すいすいーっと。わーい、広ーい。見て見て。クロールゥ」
今まで犬掻きをしていたリュウタロスは浴場の広さに感心しながら三人に見せるようにクロールを始めた。
海鳴温泉街には森林浴を目的とした散歩道がある。
そこに外見こそ若いが、三児の親である二人が歩いていた。
高町士郎と桃子だ。
「二人だけでこうして歩くのも随分久しぶりね」
桃子が優しく吹く風を感じていた。
「そうだな。こんなにゆったりとした気分を味わうのは久しぶりのような気がする」
士郎も風を感じながら、太陽の暖かさを満喫していた。
「なのはがモモタロス君達を連れてきてからは毎日が祭りのようだからな」
士郎が笑みを浮かべる。
「そうね。毎日が楽しいわ。でも……」
桃子も釣られるように笑みを浮かべる。
「どうした?」
笑みを浮かべていた桃子の表情が曇る。
「最近なのはの様子、おかしくない?それもモモタロス君達が来てから……」
士郎も深刻な表情になる。
桃子の言う通り、娘の様子が急に変わったのはモモタロス達が来てからだ。
なのは自身は気取られないようにいつも通りに振舞っているが、そこは親の目、そんな違和感も見逃さない。
「そうだな。なのはの事は心配だ。だが、モモタロス君達がいれば大丈夫だろう。彼らからは修羅場を潜った者の臭いがするからね」
「あなたと同じように?」
「ああ、多分良太郎君も同じだろうな」
「良太郎君が?まさか……」
桃子は士郎の発言に驚く。
「多分彼があの中の中心なんだろうな。そして彼が不在のときはモモタロス君が中心になっているんだろう。彼らからは俺が今までに感じた事のない強い絆を感じる。そんな彼らがなのはの味方でいてくれるんだ。俺達はいつかなのは達が自分から内に抱えているものを打ち明けるのを信じて待っていよう」
「それが親の、いえ、大人の役割なのね」
「そうだ」
そう締めくくると、高町夫妻は更に奥を歩き出した。
次回予告
第十五話 「激化のヒキガネ」
あとがき
風邪は治ったけど、忙しくてゆっくりする暇がほしいとぼやいているみなひろです。
どうして、人間って眠らないといけないんでしょうね?とアホなことを考えてしまったりします。
寝なきゃ、その分いろいろできますからね。
でも寝ないと能率が悪くなる可能性は大ですしね。
それでは第十五話でお会いしましょう。
次回投稿は2013/12/22です。