仮面ライダー電王LYRICAL   作:(MINA)

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みなさん。

こんにちは。

皆大好です。

前書きもあとがきも書くことがなかなか出てこないです。


第十話 「動き出す黒き魔導師」

マンションの窓から夕陽の光が差し込む頃。

リビングには一人の青年と二人の少女がソファに対面の形で座っていた。

野上良太郎は二人の少女を前にしてとりあえず、自分で淹れたコーヒーを口にしていた。

二人の少女―――フェイト・テスタロッサとアルフはテーブルに置いてあるカップに手を出そうとしない。

自分が話すまでは頑として飲まないつもりなのだろう。

(さてと、何から話せばいいかな)

イマジンのことといってもどこから話せばいいか悩む。

やっぱり、目的とどういった力があるかとか後は注意点くらいしかないだろう。

「まず僕が、いや僕と仲間達が戦っている相手はイマジンって言うんだ」

「「イマジン?」」

「僕もあいつ等がどういう経緯でそう呼ばれているのかは、わからないんだ。ただ、あいつ等は取り憑いた人間の望みを強引に叶えてその人間の最も強く願う過去へ飛ぶんだ」

「過去へ飛んで何するのさ?」

アルフは尋ねる。表情からすると今ひとつイマジンというものが理解できていないようだ。

「都合のいいように改竄するんだよ」

「ねぇ、良太郎」

フェイトは挙手をした。

「なに、フェイトちゃん」

「それって、タイムパラドックスを発生させるって事?」

フェイトの解答に頷く。

「うん、過去で本来起こらなかったことを起こして現在、そして未来を変えてしまうんだ」

「でもそれって、そんなに悪いことなのかい?」

アルフは過去を変えるということがどういう意味をもたらすのかわかっていないらしい。

「アルフ、過去を変えることで現代が滅びちゃうこともあるんだよ」

「何でさ?」

フェイトに代わり、良太郎がアルフに説明する。

「現代は、過去で『起こった出来事』と『起こらなかった出来事』が合わさって成り立ってるんだ。逆転させるだけで現代が変わってしまうんだよ」

「そんなことしたら普通、誰か気づくんじゃないのかい?」

アルフの言葉に良太郎は首を横に振る。

皆最初はそう考えているんだと良太郎は思った。

自分も最初はそうだった。電王として時の運行を守る者として戦うまでは。

「普通の人は時間の干渉を受けるから、改竄前の記憶と改竄後の記憶とを共有することはできないんだ。だから絶対に気づかない」

「じゃあ良太郎、イマジンが過去に行って都合のいいように過去を変えたらわたし達はそれを正しい時間と認識して記憶し続けるってことになるの?」

「残念だけどね。そうなるよ」

フェイトのたとえに良太郎は首を縦に振る。

「そんな……とんでもないやつらじゃないか!」

アルフはようやく理解したのかテーブルを両手で叩く。

「それが僕が戦っている相手だよ」

コーヒーを口の中に入れ、口内を潤す。

「良太郎、イマジンはどうして現れたんだい?」

アルフが尤もなことを訊いてきた。

「それは僕にもわからないんだ。僕のいる世界のイマジンなら僕と同じ方法で来たかもしれない。もし、この世界のイマジンならば目的はわからないけど、正体はおおよその見当はつくけどね」

「見当がつくってどういうこと?」

口を潤すためにコーヒーを飲んでいたフェイトはカップから口を離し、良太郎を見つめる。

良太郎はそんな眼差しを受け止めながらも迷う。

正直、当初はこれを言う気はなかった。だが、フェイトの真摯な眼差しを前に渋る意欲はなくなっていく。

観念し、打ち明けることにした。

「正体の見当がつくって言ったのはね。イマジンは未来から来た人間の精神体なんだよ。怪人の肉体を得るには人の記憶―――イメージが必要になるし、実体化するには契約を交わしてないといけないから結構、面倒なんだけどね」

「人間いるところには必ずイマジンも存在するってこと?良太郎」

「うん、そうなるね」

良太郎は空になったカップをテーブルに置く。

「最後に注意してほしいのはイマジンに遭っても、絶対に耳を傾けてはいけないよ」

二人は真剣に耳を傾けている。

「無視してればいいの?」

「うん。まあそれがイマジンを避ける唯一の方法、かな」

「ねぇ、良太郎。イマジンは何て言って人と契約を交わそうとするのさ?」

アルフが参考程度に聞いてきた。

「えーっとね、確か『オマエの望みを言え。どんな望みも叶えてやろう。オマエが支払わなければならない代償はたったひとつ』だった、かな」

良太郎はモモタロスと最初に出遭った際に言われた台詞を思い出しながら答えた。

フェイトとアルフは顔をあわせる。

「良太郎にイマジンの説明聞いてなかったから……」

「……引っかかっていたかもしれないね」

「……ははは」

二人の素直な意見に良太郎はただ苦笑するしかなかった。

「さてと夕飯の支度に取り掛かろうかな」

ソファから立ち上がる良太郎。

「良太郎!」

フェイトがキッチンに向かう良太郎を呼び止めた。

「ん、どうしたの?」

フェイトは意を決したかのような表情をしている。

「あ、あのね……」

「フェイト!アンタ言うつもりかい!?」

アルフが止めに入ろうとするが、フェイトは首を横に振る。

金色のツインテールが同時にふるふると揺れる。

「良太郎は自分のことを嫌な顔ひとつせずに話してくれたんだよ!それに応えるのが礼儀だと思うんだ」

フェイトの正論にアルフは黙るしかなかった。

「わたしとアルフがジュエルシードを集めているのはね」

良太郎はごくりと息を呑む。

「わたしの母―――母さんのためなんだ」

フェイトの真剣な表情を見て良太郎は、

「そう、なんだ。言ってくれてありがとう。フェイトちゃん」

と、真摯に受け止めることにした。

 

夕食を食べ終え、食器を片付け終わり後は入浴して寝るだけとなる頃。

良太郎は昼間の戦いで疲れたのか、風呂に入ると、すぐにベッドとして使っているソファに寝転がってしまう。

ちなみに、フェイトとアルフはすでに入浴が完了し、寝室で眠っている。

「疲れたー」

電王になりたての頃に比べると、体力はかなりついているのだが、それでもイマジン憑依に起こる気だるさはいつまで経っても慣れない。

「明日も朝の支度をしないといけないから、早く……寝よう」

そう言いながら、良太郎の意思とは関係なく両の瞼が閉じようとしていた。

睡魔が全身を支配する感覚に襲われる。

「ぐぅ」

完全に良太郎の意識は夢の世界へと旅立った。

 

「アルフ、大丈夫だよ。良太郎寝てるよ」

「わかった。そーっと、そーっとね」

寝ていたはずのフェイトは寝室のドアを開け、こっそりと良太郎の状況をを見ていた。

アルフは寝室にある唯一の窓を音を立てないようにゆーっくりと開けている。

ちなみに二人の服装は、私服でもパジャマでもない。

フェイトはバリアジャケットで、アルフはいつもの服装に黒いマントを羽織っていた。

ちなみにこの二人、このようなことをするのは今日が初めてというわけではない。

良太郎がここに住むようになってからずっとだ。

「フェイト、開いたよー」

アルフがサムズアップして窓が完全に開いたことをフェイトに示す。

「うん、わかった。ご苦労様アルフ」

フェイトはアルフに礼を言いながら、寝室のドアを音を立てないようにゆーっくりと閉める。

ドアの側に置いておいたバルディッシュを手に取り、窓の外に出る。

アルフも外に出ると、窓を先程と同じようにゆーっくりと音を立てないように閉めていく。

「行こう。アルフ」

「うん」

そう言うと同時に二人は跳躍し、夜空の景色の中に溶け込んだ。

 

リビングでは先程まで完全に景色と同化していた一部分がむっくりとソファから動き出した。

完全に眠っていたはずの良太郎だ。

実は良太郎もフェイト達同様に寝たふりをしていただけで、実際には熟睡していなかったのだ。

良太郎がフェイト達の動向に不審を感じたのは一昨日くらいからだ。

何故、不審を感じたと尋ねられると根拠はない。

ただ、自分が住むようになってから二人がジュエルシード探しをあまり表に出さなくなったからだ。

見ず知らずの人間から強盗まがいまでして手に入れようとしたものだ。

たかが、人間一人が生活するようになっただけでその気持ちが消えるとは思えなかったのだ。

良太郎はベッド代わりのソファから立ち上がり、フェイトとアルフが眠っている寝室に向かう。

とりあえずノックする。

何の反応もない。

再度ノックするが、やはり何の反応もない。

ドアノブを回すとガチャリと音を鳴らしながらドアが開いていく。

ベッドに歩み寄る。

「やっぱり……」

そこにはいるはずの存在はなく、もぬけの殻となっていた。

窓もロックされずに閉まっているところを見ると、開けて外側から閉めたものだと推測できた。

「僕を巻き込みたくなかったから、こんなことをしてたんだ」

良太郎は窓越しに夜空を見上げる。

曇り空だが、雨が降りそうな感じはない。

ただ、夜空に輝く数多の星々を観賞することはできないが。

「水臭いよ。二人とも……」

良太郎はそうつぶやいてから、またソファに戻ることにした。

二度寝は難しいのか、しばらくは天井を見上げたままだった。

 

 

高町家の朝に「静寂」という言葉はない。

これは以前からのことだが、モモタロス達が厄介になってからはその言葉は足を生やして全速力でどこかに行ってしまっている。

高町なのはは今現在、目の前で起こっている出来事を見ながらそう思っている。

兄の高町恭也とモモタロスがまた朝食の奪い合いをしている。

正直、この光景をこれから行く家のある人物には絶対に見せたくないと思っている。

何故なら頬を引っ張り合っているのだから。

「むぎぎぎぎぎ」

「うぐぐぐぐぐ」

と、二人が互いの頬から手を離し、組み手になっている。

「テメェ、いい加減にその玉子焼きよこせよ。一個余計に食ってるだろうが!」

「黙れ!おまえは昨日、からあげを一人分余計に食べただろうが!」

ちなみにこの光景、当初は皆止めたりしていたが次第に名物行事化して誰も止めなくなっていた。

家主の高町士郎とその妻である桃子は「元気だなぁ」「若いっていいわねぇ」なんてコメントを出して温かい目で見ていた。

「まーた、始めちゃった。今日はどっちが勝つのかな?」

姉の高町美由希はどっちが勝つかを戦績が記録されているノートを取り出して、記録し始める。

(なのは、どうしよっか?)

フェレットのユーノ・スクライアが念話で止めるか止めないかをなのはに尋ねる。ちなみに彼はなのはの左肩に乗っかっている。

(魔法を使わずに止めるのは絶対無理だよ!お兄ちゃんもモモタロスさんも普通の強さじゃないもん!)

魔法の使えない自分はあの場所に踏み込んだだけで気絶ものだろう。

(ここはいつも通り見守ることにしよっか)

(うん、そうだね)

なのはとユーノも危険地帯の状況を遠くから見守ることにした。

残りのイマジン達とコハナはというと、

「さあてキンちゃん、リュウタ、ハナさん。今日はどっちが勝つと思う?賭け商品は夕飯のおかずだよ」

ウラタロスは三人を煽っていた。

「うーん、今んところは勝率五分五分やしなぁ。夕飯のおかずによっては真剣に考えてまうで」

キンタロスは夕飯のおかずによっては負けてもいいような口調で言う。

「悩むぅ」

リュウタロスも頭を抱えている。

「いい?リュウタ。たとえ、おかずが当たりでもハズレでも勝つことに意義があるのよ!」

と、コハナはモモタロス敗北に賭けた。

「よーっし!僕もモモタロス敗北に賭ける!」

コハナの言葉に感化されたのかリュウタロスも何に賭けるかを決めた。

「さあてキンちゃん、どうする?二人は決めちゃったよ?」

ウラタロスはまだ決めかねているキンタロスを煽る。

「えーい、こうなりゃ俺はモモの字が勝つ方に賭けるで!」

と、コハナ&リュウタロスとは逆側に賭けた。

「それじゃ僕も、と」

ウラタロスはキンタロスと同じ側に賭けた。

ちなみにこの賭けで一番勝っているのは、意外にもキンタロスで次にウラタロスとリュウタロスが同着でコハナが一番負けている。

コハナは当初、この賭けに対しては批判的だったのだが試しにという形で参加した。

そこで大勝した。いわゆるビギナーズ・ラックだ。

勝利の味を占めたコハナは翌日も参加した。

しかし、結果は先日と違って敗北だった。

そうなると挽回のために参加する。

後は典型的なダメギャンブラーのレールに沿って歩くことになり、現在に至るというわけだ。

なのはは側から見ているからわかったことだ。

「あのハナさん、今日はやめた方が、もう四日負けてるし……」

なのははおかずを食べれず、悔しい表情を浮かべているコハナを五日連続は見たくないために諌言する。

ユーノも「キュッキュー」と言いながら首を縦に振る。

「なのはちゃん。四日負けても今日勝てばそれですべてが帳消しになるわけではないけど負けのスパイラルからは抜けられるのよ!」

なのはの主張は棄却された。

ジャンキーには何を言っても無駄だとこのとき、なのはは初めて知った。

賭けの結果、コハナは五日連続負けという大敗をすることとなった。

「私にはギャンブルの才能はないんだ……」

と部屋の隅でいじけているコハナを見て、今日は自分のを少しだけあげようとなのはは思った。

 

フェイトとアルフはいつものようにキッチンから漂ってくる匂いで鼻腔をくすぐられる。

食欲という本能が刺激されて、身体全身に行き渡る。

重い瞼が開いて、フェイトはベッドから起き上がる。

アルフは獣形態から人型になる。

二人は着替え終えると、居間に向かう。

リビングでは良太郎がいつも通り、三人分の朝食の準備をしていた。

「おはよう。フェイトちゃん、アルフさん」

「おはよう良太郎」

「おはよー」

今日の朝食はごはんと味噌汁と玉子焼きとシンプルなものだった。

フェイトとアルフは自分の分は自分の座る席に置いていく。

三人がそれぞれの席に座ると、

「「「いただきます」」」

と合掌して食べ始めた。

その間はとても静かだった。

アルフは隣にいるフェイトと対面の良太郎を見る。

二人とも、相変わらず朝食を食べることに集中して一言も発しようとしない。

この雰囲気に耐えられないアルフは何度か会話を試みたが、成功したことは一度もない。

今では観念して集中して食べることにしている。

三人が同時に茶碗やお椀をテーブルに置いて、

「「「ごちそうさまでした」」」

と合掌した。

「良太郎、今日は何か予定あるの?」

フェイトは食器を拭きながら、隣で食器を洗っている青年に尋ねる。

「ん?今日は何もないよ。どうしたの?」

「わたしとアルフさ、今日は外に出ていつ戻るかわからないから、夕飯いらないけど良太郎はどうするのかなって」

「夕飯かぁ。二人とも外食する気なの?」

「う、うん。そうなるかな」

フェイトの曖昧な回答に良太郎は怪訝な表情になるが、すぐに平静に戻った。

「どうしようかな。一人で作っても味気ないしね」

良太郎は腕を組んで考えている。

「僕も外食しようかな。だったら皆で食べに行く?」

「え?」

「良太郎?」

良太郎の提案にフェイトとアルフは目を丸くする。

「でも、わたし達。その……」

「そうだよ!いつ終わるかわかんないんだよ?」

「だったらさ、僕この店にいるから終わったらここに来てよ」

良太郎は自分がこれから向かう店の屋号と地図にその店がある位置に大きくマル印をつけて、フェイトに渡した。

「?何て読むの?」

「ええとね、『みどりや』って読むんだ」

「うん、わかった。やることが終わったらすぐにここに行くよ」

「フェイト、行こうか」

「待ってよ。アルフ」

玄関先にいるアルフはフェイトに早く来るように促す。

「じゃあ、行ってくるね。良太郎」

「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね」

フェイトは良太郎の気遣いが嬉しかったのか、無意識に頬を染めていた。

ドアを閉じると、アルフが待っていた。

「あれ?フェイトどうしたんだい?」

「どうかした?アルフ」

「嬉しそうだから」

「え?」

「アンタ、さっきすごくいい顔してたよ」

「そ、そうかな」

指摘されるとまたフェイトは頬を染める。

だが、すぐにこれからのためにそんな表情は消え、きりっとした表情になる。

「さあ、行こうアルフ。ジュエルシードはあの辺りで感じられるから現地に行って見つけるよ」

「うん、行こっかフェイト」

アルフは人型から獣型になり、フェイトを背に乗せて宙を駆け出した。

 

向かう先は月村家の林。

 

運命の歯車が回り始めている事をフェイトは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

第十一話 「一寸先にはジュエルシード?」



あとがき

昨日ぶりになります。
皆大好です。
今回からは原作(この場合はなのは)の第四話になります。
人の心情を書くという事と、登場人物の増加はどうにも相反するものなのかもしれません。
登場人物が増えると、個人個人の心情を描くという作業が疎かになってしまいます。
両方を行うと、一話がとんでもない長さになってしまうでしょうね。
だからと言って、登場人物を増やしまくることがプラスとも言い切れません。
個人個人が薄くなってしまうからです。
現在サイトで執筆している第四部は登場人物の増加が避けれないため、どうしても心情が疎かになってしまいます。
自身としては恥ずべき部分なのかもしれません。

それでは第十一話でお会いしましょう。

掲載予定は2013/12/8です。

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