Muv-Luv Alternative ~take back the sky~   作:◯岳◯

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8話 : 7月7日、曇天_

懐古に虫が鳴くという。

それもいいものだと、男――――斑鳩崇継(いかるが・たかつぐ)は呟いていた。昔を懐かしむのは人として当然のこと。誰であれ、輝かしい時代に戻りたいとは思うものだ。

 

だが、それも立場による。具体的には、今目の前で夢見がちな寝言を言っている老人には決して許されないことである。ゆっくりと説き伏せるようにして並べ立てている言葉は、つい先日に聞いた内容から全く変わっていない。老人は、過去の戦場を嘆いていた。崇継は笑う。

 

儂がもう10も若ければと、目の前で元気よく言葉を発している先代当主を前に、笑って頷いた。

良き祖父と、孫――――そう見えるように振舞っていた。嗄れ声が鼓膜に届くと頷き、そうですねと同意していた。しかしながら相槌を打っている間に、崇継の思考は別の場所へと飛んでいた。

 

考えていたのは、つい一昔前の大戦時における軍人の役割について。火薬で鉛を飛ばす技術が日の本の国に、そして戦場に現れたのは数百年も前。その戦法はいつしか主流に乗り、槍や弓にも勝り、そしてそれが極まったのは第二次大戦の時であった。ヤットウではなく、戦車や航空機が主役とされていた時代。戦場において個人の武勇にはあまり意味がなく、戦いは各々の道具の性能で大半が決まってしまう。老いた人曰く、無粋な時代。

そうであると主張し今後もその考えを捨てることは無いだろう。反論に意味はなかった。最初から話になるとは、崇継も思っていなかった。

 

戦闘において戦略や指揮が何よりも重要であることを熟知している以上、それは僻みだと彼は思う。

だが、口にすればお家の一大事になってしまうことうけあいだ。

 

それでも、同意できる点もあった。敵は変われども、主役も変わった。戦術歩行戦闘機――――それは、操縦者の技量によって戦闘力が激しく上下するものだった。そして何よりも過去より受け継いできた技術、すなわち剣腕が活かせる兵器であった。人間個人の能力が、実際の戦闘力に比する兵器。直結する訳でもないが、戦車や航空機と比べれば全然"マシ"であるものだ。こうなると、武家の戦力的な立ち位置も変わってくる。いわんや武の士の家を名乗るものが、その誇りを忘れるはずもない――――“そうなった”直後、途端に武家の人間は貴重な人材に化けた。

 

それまでは数で大きく劣る武家出身の軍人で、故に軍ではやや厄介者扱いされる人間が多かった。が、しかしBETAを敵に戦術機で戦うことが主流となった今では武家出身か、それに近しい人間は重きに置かれることとなったのだ。もともとが基本能力の高い人間や、礼節や規律を守っていた優秀な人間である。それまでとは逆に、腕の立つ有能な兵士として敬意を示されるようになった。

 

理想との差異に苦悩する軍人が少なくなったということだ。軍、それも人の命を奪う職業にらしからぬことだと思う。だけど、心理上は分かるだろう。存在する意味と価値が高騰したのだ。それは要らぬと言われた経験豊富な老兵が急に若返り、また必要にされたようなもの。また、お家に続く知識も役立てることができる。時には前線に混じり、刻一刻と変わる戦況を見極めた挙句に、指揮を取ることもできる。

 

まるで戦国時代の武将のようになったと、そう言うものも居た。崇継はその考えを肯定する。経験したのは模擬戦だけだが、彼自身も似たような感想を抱いていたからだ。

 

一説には戦術機が台頭してきた時、安堵のため息を吐いた者がいたという話を聞いていたが、全くの嘘ではないだろうと思っている。それが長じて、編成されたのが斯衛軍だ。戦況悪く、冷遇されるような傾向にあった時期から一転、力を持てるようになった武家は実に強かに動いた。

 

半世記も待たずに斯衛軍という集団は今では誰もが認める精兵が揃う精鋭部隊と称されるようになっていた。だから、今と昔が異なるのは事実である。だからこそ、老人は謳った。

BETAなど何するもの、我らが決死の覚悟で立ち向かえば打倒できぬものはいないと。

 

崇継はその言に何も言わず、ただ相槌を打ち続けた。相槌とは鍛冶師における言葉だ。主な打ち手である師が槌を振るう合間に、弟子が槌を打つことを相の槌という。それが転じて"相槌"となった。ある程度の慣れがあればできるが、しくじるとひどい目に合う点であれば、同義であるからだろう。崇継は故に慎重に、機を過たず祖父の言葉に始終同意し続けた。

 

 

 

埃一つ落ちていない、板張りの廊下。そこで待機している女性の姿があった。身に纏う服は赤色。肩に届く程度の長さの髪は、黒の鴉の濡羽色。正座をしているその女性は、姿勢よくじっと前を見据えていた。そしてその鋭い目から発せられている視線は、じっと目の前の襖へと注がれていた。

 

立て付けの悪さなどあろうはずもない、職人の手によって完璧に仕立てられた襖。それが開かれると同時に、女性は立ち上がった。待っていた人物が何も言わずに歩き出し、その後をついていく。

 

「とてもお疲れのようで」

 

「余計なことはいうな、風守」

 

風守と呼ばれた女性。名前を光という彼女は言葉も返さないまま主である崇継の後をついていった。歩幅が異なるので、小さく早く。板張りの廊下に、二人だけの足音だけが響いていた。民家の喧噪の音さえも聞こえず、時折風に揺れる庭の木の葉が耳を騒がせている。それにしても長い廊下だと呟いたのは、崇継の方だった。

 

そうして長い、迷宮のような屋敷を抜けた二人はすぐさま車に乗って、門の外に出た。

崇継はそこで初めて、ようやくといった感じに口を開く。

 

「………愚痴に、二刻半。どう考えても無駄な時間だと言わざるを得まいな」

 

「さりとて必要なことでしょう。何か収穫はございましたか?」

 

「老いは恐ろしい病であると。その事実を、再認識させられただけだ」

 

ため息まじりに、答えた。かつては、あれまででは無かった筈だ。しかし今では過去の残光がどうにも眩しいに過ぎるらしく、同じように未来の展望も。崇継は自嘲するかのように、言った。

 

「………老人は激しい変化を嫌う。それに反し、戦術機を受け入れた先代の上層部は流石のものだと思っていたのだがな」

 

しかし、心の折り合いは別であるらしい。理屈と現実の差異に耐えられなかったのは果たして誰であるのかと、崇継は考えてみた。斯衛の根本は変わっておらず、さりとて外の兵器である戦術機を素直に受け入れられるものでもない。複雑な心情を受け入れるには、この国の歴史は深すぎた。果てが盲信か、あるいは楽観に生きる扱い難い軍人になるか。

 

崇継は思う。BETAが精神論だけで勝てる相手なら、大陸を制覇した挙句に対岸にまで迫ることはなかったと。

 

「風守、其方(そなた)はどう思う………一度は大陸で実践を経験した身であろう」

 

飾りない言葉で答えればいい、その言葉に光は率直に返した。

 

「命を賭けて奮戦するは、武家の必定。当然の事であります。しかし勝利を得られるか、守りきれるかどうかは相手方の規模によるかと」

 

その上で、光は答えた。敵の全てが違いすぎているのだと。人間が相手であれば敵方の戦力について、ある程度の予測を立てられよう。諜報を駆使すれば、次の戦闘の準備ができる。罠にかけることも可能だ。しかしBETAは違いすぎた。習性や生態もそうだがまず生き物として異端過ぎるのだ。

その上で、戦力として動員できる実働数が桁違いなのだから始末におえない。

 

例え帝国が保持している軍の全戦力で抗戦したとしても、大陸に在するBETAの総数が攻めて来られれば負けるだろうと。それは例えば、かの米国であっても同じである。人類は未だハイヴの中にいるBETAの総数は知らず、その目的さえも知り得ていない。何を目的として動くのかも分からない、強大な戦闘集団を相手に、はたして心構えや士気だけで戦えるのかと。

 

真っ当な軍人であれば、否と答えるだろう。

 

(ならばそれが分からない人間は何というのだろうな)

 

崇継は言葉にはしないまま、流れていく景色に目を向けた。視線の先は、外―――ではなかった。空は雨雲で暗いが、それとは違うものを見ていた。崇継の視線の先。その方向には、先ほど去った祖父が住む斑鳩の別邸があった。

 

「五摂家のお歴々も人間だったということだ。化物を前に人の性根が曝されるは必然というが………皮肉なものだな」

 

「………何か、好まれぬことでも?」

 

今日は、随分と過激な発言が多い。そう感じた光は率直に訊ねた。もともとが、迂遠な言葉が苦手な彼女である。"赤"にらしくないその言葉に、しかし慣れている崇継はふと口を緩めた。

 

「正式な開発完了は未だであるが………かの新型戦術機が実戦に投入できる段階に入った。

 

その上、当初想定していたものより近接格闘能力が上がっていると聞かされてはな」

 

「………武御雷のことですか。確かに、楽しみではあります」

 

今は試製98式戦術歩行戦闘機が名称である。型番はTYPE-98XR。将来は違う名前で呼ばれることになるだろうそれは、斯衛軍専用として開発されたTSF-TYPE82/F-4J改(瑞鶴)よりも性能で上回る、次期主力機となる機体だ。

 

まだ実戦では運用されておらず、戦闘力も未知数と言える段階である。しかし幾重にも行われている稼働実験や、シミュレーター上での実験でも、その機体がいかに高性能であるかは実証されていた。日本の技術者達は学んできた。瑞鶴の開発より不知火に至るまで。

様々な問題に出会い、その度に頭を痛ませる程に悩ませ、解決してきた職人たち。その全ての技術が活かされ、かつ材質にも一切の妥協をしなかったと言われる特別な機体である。その性能が実戦で証明されるのはまだであるが、光はかの機体の優秀さを知っていた。

 

一度試乗した斑鳩崇継の姿を見たからである。五摂家である手前、決して表には出さなかったが、彼女にしか分からないほどの変化であったが――――今の立場になってからは珍しく、興奮に目を輝かせていたことを。故に武御雷が有用なものであることに関して、光は疑ってはいない。

 

だが、一部では問題視する声や、開発を反対する声も少なくなかった。特に、生産性の低さとランニングコストの高さを問題視している声が大きい。光が指摘すると、崇継は頷きながら肯定した。

 

「誤魔化しがきかぬ欠点ではあろうよ。だが、ある程度は仕方あるまい」

 

元より斯衛はそういうものだと、つまらない意見を切り捨てた。

 

「だが、外部のデータよりそれも改善されるかもしれぬ」

 

「それは、初耳ですが」

 

「早朝に入った情報だ。脚部と腰、二つの関節部において新しい概念の部品が作れそうだと、報告があった」

 

戦術機は、構造的には人間に近い。故に飛び跳ねて刀を振るうという、近接機動格闘戦を行う際に負担がかかる場所も同じであった。主に膝、次に腰である。

 

「それを見た技術者の一部が、何やら奮起したらしくてな。対抗心を燃やした技術者が、肘と肩の関節部も若干だが改善をしたいという具申が出ている」

 

崇継は報告を受けた際に、その技術者の何が引っかかったかとたずねた。それは、変に凝った構造にせず、部品交換も容易かつ単価もそれほど高くないものに仕上げてきたからだと。実際に、説明をした時の技術士官も、何やら胸に燃え盛る感情を隠し切れないでいたと崇継は言う。

 

「やはり実地で得られたデータは違いますか………12機の陽炎の成果はそれほどまでであると」

 

バングラデシュよりミャンマーまで。後退しつつも奮闘し、果てには人類の大望の一つを成し遂げた12人の衛士。その武器となった機体が様々な戦場を経験したことは、事実である。

 

そして陽炎は、元々が日本製――――つまり近接格闘戦に優れた機体である。そういった近接戦が行われる頻度も必然的に高くなる。そして2年を通しての激戦は様々な苦境を機体と衛士に強いた。

 

虎穴に入らずんば虎児を得ずという。そうして人食い虎だらけの中、12機の陽炎がいかに貴重な実戦データを得たのかは、戦術機開発に携わる者たちの反応を見ればすぐに分かるものだった。これも、目に見えぬ戦果と言えるに足る。特に一律してデータをとれる、貴重なサンプルであったのは間違いなかったのだから。

 

「それでも、無謀な運用をしていたとは思う。崩れず乗り切った部隊も見事だが………」

 

崇継は言葉を切り、視点を変える。戦いに専念できるように環境を整えた者もまた見事であると、そう考えていた。光も同意見だ。普通でいえば、故郷や習慣が異なる12人が一つの部隊として上手く機能するはずがない。人間、3人いれば派閥が生まれると言う。それに照らしあわせば、内部崩壊してもおかしくなかった。

 

しかし、現実は違った。崩壊するどころか、行き着く所まで行ってしまった。

 

「………鍵は、アルシンハ・シェーカル元帥だと真壁が言っていましたが」

 

「お膳立てがあったのは間違い無い。それが彼だということもな」

 

元は、東南アジア各国の要人と繋がりを持っていた、シェーカル家の人間である。裏社会との繋がりも深いとの情報も入っている。そして、そういった方面の人間は酷く面子を気にする生き物だ。逆鱗に触れれば、利害関係なしに命のやり取りになる。そういった背景を考えると、アルシンハ元帥も幼少の頃から人脈の力というものを教えられていることは予想できた。

 

「それでも、亜大陸撤退から大東亜連合成立に至るまでの流れはな。ただの商家出身の軍人では到底成し得ないことだった、が………彼の者は描ききった。彼の周囲に居たと思われる要人の予想は、全て覆されたであろうな」

 

「………閣下は、あの絵図を描ききったのが、たった一人の人間であるとお思いで?」

 

光も、亜大陸撤退戦からの元帥の行動、そして英雄部隊の動きの概要は聞かされていた。

戦況は、粗方だが一つの意図を元に動かされていたのだと。

 

「協力者が居たのは確かであろう。だが、素案を元に最後まで描ききったのは一人だ」

 

得られた情報、その表と裏を吟味した上で崇継は結論づけた。それだけに異常であるのだ。夢を同じに、目的を達成とするには不可解な点が多い。交渉をするには、相手方を信用させる情報が必要。それは有用であれば良いし、何より利になるものであればいい。

手管は理解できた。今では東南アジア方面は、大工業地帯として各国に利益を齎せられている。

恐らくはそれを利として、大東亜連合成立に至れるまでの協力者を得たのだろう。

 

それだけを見れば、普通に傑物であると評することができるのだ、が―――

 

「一つ、腑に落ちぬ部分がある」

 

「それは?」

 

「マンダレーだ。あのハイヴ攻略作戦が成功した要因の一つとして、一時撤退からの逆撃の速さがある。だが、不可解なものでな」

 

崇継は、面白そうに口元を歪めながら言った。

アルシンハ・シェーカルはあそこにハイヴが建設されることを事前に知っていたとしか思えん、と。

 

「………事前にBETAの動きを予測していたとおっしゃるのですか」

 

「一連の動きを見るとな。そうとしか思えないというのが、真壁の見解だ」

 

崇継はそう告げた後、今はそれよりもと表情を戻して視線を光に向けた。

そして、好まれぬことだったな、と前置いて言った。

 

「諸外国にも勇は多いと聞く。それに比べれば我が国はどうか、とな………そんな顔をするな。私も斯衛軍の力を疑ってはいない。帝国軍も然り――――だが、それで足りるのかと問われるとな」

 

「上手く、答えられないと」

 

「無責任な返答は、混乱しか呼ばぬ。祖父のような人物も今の上層部には少なくない故にな」

 

そうして激動を嫌う老人が――――変化についていけない老人が増えれば、それだけ反応が鈍る。

軍においては政治が密接に絡んでくるものだが、斯衛に関してはその度合が強いのである。敗戦以来、将軍の発言権が著しく制限されている事にも原因があった。崇継は思う。その中で斯衛がどういった役割で踊ることができるのかを。

 

「………踊る、とはまるで演者のようなことを」

 

「誰しもが演者だ。私も、祖父も、亡き父も、其方も。与えられた役割の元でしか舞えない、自由などという言葉は誰が考えたのだろうな」

 

皮肉げに笑う崇継。それでも、と続けた。

 

「踊るも踊らされるも、どちらも一興だ。つまらない演者が居なければ、という前提は必要だが」

 

「閣下は、納得できる人間であれば、道化を演じるも良しとされると?」

 

「そう言っている―――と、流石に冗談だ。そんなに分かりやすい顔をするな」

 

指摘された光は、はっと自分の表情を変えた。下とはつまり、自分より上に立つ者の事である。

五摂家の更に上となれば、政威大将軍しかない。そして次となれば次代の将軍のことだ。

だが崇継は相応しい人間が自分以外に存在するのだと、暗に認めているような言葉を発している。

 

はっきり言って大問題であった。斑鳩が嫡男にある崇継が冗談でも口にしていい類のものではない。

光はそれを認識しつつも、小さいため息で済ませた。

 

「………はぁ。今更、閣下の発言に注文をつけたりはしませんが」

 

「物を知らぬ小僧であった頃のように、色々と口うるさい説教をしても構わんのだが」

 

「それは暗に、私が年を取ったとおっしゃるので?」

 

「実際そうだろう――――とてもそうは見えんが」

 

風守光は、女性としても小柄な体格だ。そして斯衛にしては柔らかい表情を浮かべる機会が多いからか、どうしても若く見られがちであった。それはあくまで外の顔で、こと身内と呼べる間柄の者にとってはこれ以上ない程に恐ろしい存在として認識されているのだが。

 

「そういえば真壁が言っていたな。七夕に逢瀬する相手もない女性は見ていて悲しいものがあると」

 

「―――閣下、それは嘘偽りなく?」

 

「冗談の類ではあったがな………まあ、そうした意味での言葉を言っていたのは嘘ではないが」

 

「成る程………そうですか、そうですか」

 

「そう猛るな。まあ、この天気では星さえも見えぬだろうがな」

 

「九州沖合に超大型の台風、ですか。それも過去類を見ないほどに強大な………BETAの影響はこんな所にまで出ているのですね」

 

「まあ、晴れていても想い人に会えるかどうかは別の話ではあるが」

 

「………若?」

 

「ははは、冗談だ。だからその扇子を置け」

 

と、言葉を交わしながらも崇継は笑っていた。彼にしては珍しく、含みのない表情だった。

それは崇継にとって風守光という人物が、頭を垂れるだけの相手とは異なる、打てば響く何とも面白い者であるからだ。

 

崇継は五摂家が斑鳩の当主。それを疑ったことはない。礼儀は勿論のこと、自分の立場を理解はしているが、それでも恭順に身を任せるのは惰性であるとも考えていた。

 

威厳も必要ではあろうが、それも場によるものだと。

 

特に崇継は五摂家の一家である崇宰(たかつかさ)の振る舞いを見る度に苦笑を隠せなかった。その側役である者とのやり取り見ていて思うのだ。まるで、カチ、カチ、という音が聞こえるぞ、と。

同時に、考えることがあった。あるいは自分も、側役がこのような変わり者でなければ同じように接していたかもしれぬと。礼儀を重んじて、主君として恥にならぬよう。それは理解しているが――――と、そこまで考えた所で崇継は思考を切り替えた。

 

そして、未婚の言葉を前に怒らず、ただ黙り込んだ臣下を見る。この会話は以前にもしたことがある。その時の反応と全く同じで、故に風守の中は全く変わっていないことを崇継は察した。風守の家。そして、風守光という人間について。

それは酷く複雑な事情が絡んでいて―――それは依然として解決されていないのだと。

 

「風守の家に、其方の勇名。縁談が来ないはずが無かろうにな」

 

言われた光は、何かを口にしようとしてやめた。それは、まあ来ますが、と声も小さに返すだけ。

崇継はそれを見ながら、実に不思議であると思っていた。まだ20代の前半であった頃より、傍付の者として横にいる、風守光という女性衛士。贔屓目なしにしても、目の前の側役の容貌と性格は嫌われるようなものではない。年は既に30を越えてはいるが、どう見ても20代前半にしか見えないとは真壁の言葉である。そして風守の例の妨害はあろうが、本人がその気になればどうとでも話を動かせるはずだ。実際、そのような話を直に持って来られたともまた別の部下から聞いている。同期の斯衛軍衛士にもそれとなく話を振ったが、彼女は学生時代は憧れの的だったらしい。

 

(しかし、よからぬ噂を聞かぬともない)

 

崇継はその説明がされないのに加え、お家騒動がまだ続いているのもあってか、少し納得できない感情を抱いてはいた。その背景はあるが、風守光という女は言い訳をしない生き物であった。

 

側役になってから10年とすこし。目の前の女性は酷く不器用だが、同時に潔い人物でもあった。

 

「………謝罪ならば風守の現当主から聞いている。加えて私見で言うが、先代の事についてお前に非は無いと考えている」

 

崇継は言う。それでも、と忠告するように。

 

「本格的な戦時下になるまで秒読みである今、そのような事で悩まれても困るのだがな」

 

現当主と、亡くなった先代当主の妻。そして母と、風守光。その確執は斯衛においては有名であった。しかしそれは古くから続く家ではままあることで、珍しいことではない。外に広がらなければ問題も少ないのだ。実務に支障をきたさなければ、という事が前提ではあるが。

 

その言葉に光は頷き、虚空を一瞬だけ見上げた後に崇継へと視線を返した。

 

「申し訳ありません、御話の続きを。閣下は次期将軍が御身ではないと思われているのですか」

 

「否だ。だが、相応しい者がなればいいであろう。そうだな、戯れに問うが――――」

 

風守は誰が"そう"と見る、と。崇継は問いかけながら考えていた。今の五摂家で、一体誰がその座に在るに相応しいのかを。さっきも言ったことであった。化物を前に、人は己の本性を知る――――そして将軍として何がその本性に適しているか。

 

少なくとも、兵より先に死ぬような愚物は論外。死を前にして恐怖に泣くというのも判定外である。

最後まで気丈に、戦い抜く覚悟を持てるかどうか。

 

同じ事を、光も考えていた。次代の者で、それが貫ける者は誰であるのかを。彼女は斑鳩の側役という立場から、五摂家の様々な人間と接する機会が多かった。その立場に在る人間とはいえ、能力や気質、その全てを兼ね揃えているわけではない。誰もが将軍に成りうるという程のものでもないのである。そうして考えた光の、頭の中に浮かんだ名前は二人分。

 

一人は、目の前にいる主君、斑鳩崇継。戦術機の技量は天才的であり、それ以外の部分でも欠点らしきものはない。長らく接してきたことから私見が混じってはいるが、歴代の当主の中でも特に優れた人物であることは間違いない。

 

そしてもう一人は、と考えていた所で視線が合わさった。しかし、言葉にはしなかった。

 

「ともあれ、目の前の脅威を排除できなくては、明日も何も無いな」

 

「はい――――そのためにやれる事は、全力で」

 

「そうだな………もうそんな季節か」

 

「はい。既に準備はできております」

 

斯衛軍衛士訓練学校に、と風守がいう。

 

「ともあれ、今日の御役目が終わった後は尋問ですね。真壁に伝えておいて下さい…………話がある、と」

 

「ああ、伝えておこう」

 

面白そうに、崇継は笑った。そして思い出したかのように、たずねた。

 

「そういえば、巌谷中佐から連絡があったと聞かされたが?」

 

「ええ。私に一人、会わせたい人間がいるそうで。案内と一緒に、学校に来ると言っていましたが」

 

巌谷という名前に、光は少し嬉しそうな表情を浮かべた。崇継は珍しく明るい表情をした部下に、ねぎらいの言葉をかけてその背を見送った。

 

 

 

 

 

 

斯衛の精鋭を育てる学び舎。衛士訓練学校の来客室にて、二人の男がテーブルを挟んで向かい合っていた。一人は、顔のあちらこちらに傷を持つ男。もう一人は、右目に眼帯をしていた。共通しているのは、どちらも体格の良い、軍人と言って間違いないほどの体格の持ち主だということと、岩を思わせる顔をしているということ。そして青年士官では到底出せない、貫禄のようなものを身にまとっていた。しかしあたりに漂わせる空気は、上官と部下のそれではない。

 

二人はセミの声を背景に、冷たい麦茶をぐいと飲んだ後にゆっくりとため息を吐いたあと、どちらともなしに口を開いた。

 

「………久しぶりだな、真田。前に在ったのは、お前の右目が健在だった頃か」

 

「ああ。お前が大陸に行く前だったな、尾花よ」

 

言いながら、互いに笑い合う。青年のように快活にではなく、口元を緩めるだけ。落ち着いた、大人の笑いであった。尾花は、ふと外から聞こえてきた甲高い声に、笑いの質を変えた。

 

「先の授業でも思ったが、ほとんどが女か。昔とはかなり毛色が違ってきているとは聞いたが、ここまでとは思わなかったぞ」

 

教官としてはどうだ、と尾花が少し笑いながら問うた。真田はただ、苦笑だけを返す。

 

「一昨年までは、半々だったんだがな。今年なんかはほぼ全てが女だ」

 

それも徴兵年齢が下がった今では、少女と言える程に年若い。

尾花はそう付け足された言葉を聞いて、表情を笑いから別のものに変えた。

 

「それだけ俺たちが不甲斐ない、ということなのだろうな。せめて半島あたりで止められていれば、こうした事態にもならなかったのだろうが」

 

「誰をも責めたつもりはない、が――――変わらないな、貴様も」

 

真田は右目の眼帯を触りながら、かつてを懐かしんでいた。あいも変わらず、自分のものではない責を好んで抱えたがる男であると。

 

「そうでもないぞ。前線に立つ将官、その全員の責任だろう。俺がその代表であると気取るつもりも、騙るつもりもないが――――」

 

「この光景には思う所がある、か」

 

来賓室だが、この部屋からもグラウンドの様子は伺える。開きっぱなしの窓から見えるのは、息せき切って走る少女達と、それを見張る別の教官だ。厳しい叱責の言葉に甲高い返事の声が聞こえた。

 

確かに、彼女達も武家であろう。だが、本格的な戦闘というものを学ぶのにはまだ早い年齢である。

学べば、否が応にも戦士だ。仕草までを変えられるには、まだ柔らかい蕾であるのではないかと。

 

「ああ、胸が痛む気持ちはわからんでもない。だが、彼女達もまた武家の出だということだ」

 

立場と、そして義務がある。真田が暗にそう言うと、尾花もまた同意を返した。理解はしているのだ。かつては戦場を知らぬ青年は、大陸で酸いも甘いも噛み分けた中年となった。つまりは吐きながら戦い、生還した喜びを噛み締めてきた軍人である。

 

だからこそ、その一端でもいい、彼女たちに教えてやってくれ――――そのために呼んだのだと、冗談交じりに真田は告げた。真田にとって尾花は、同じ釜の飯を食った戦友である。しかし今ここで真田が彼に求めているのは、大陸の激戦を生き残った帝国陸軍の戦術機甲部隊中隊長。歴戦の衛士として隊の部下から多大な信頼を集めるようになった、"尾花少佐"としての存在だった。何よりも実戦を知る講師として、招待したのだと言いながら笑う。

 

「とはいっても、な」

 

「お前に冗句の素質が無いのは分かっている。だから、午前中と同じでいい」

 

率直に簡潔に、血と泥の記憶を。実戦を経験した衛士が、実体験を語るという授業、それは真田からの提案である。実戦の空気とその厳しさを、全ては不可能であるが、少しでも多く伝えたかったがための苦肉の策だった。

 

「実戦に近い、理不尽な厳しさか。俺たちの頃は主に拳と罵声で叩きこまれたようなものだったが」

 

「いや、アレは俺にはできんぞ。全く殴らんというのもないが、あの時の教官と同じ事をするにはどうにもな」

 

当時に習うのは問題点が多すぎるだろうと、真田は断言する。前提が違うのだ。何より異なるは、相手が武家であるということ。陸軍の士官学校とは違い、ここは斯衛を育てる訓練学校である。

 

民間人を軍人に作り直すのとは、また内容が異なってくる。そして帝国軍と斯衛軍だが、上層部同士の関係は良好とも言い難いものがある。そして、相手が女性であるということも大きい要因だった。

 

教え子の頬を張り倒すまではしよう。だが、真田達が当時の陸軍衛士訓練学校で受けたような"アレ"など、できない。帝国軍からの出向にすぎない彼にとっては立場上でも、そして精神的でも行えないことであった。武家の中の女性の役割として、最初の理由にかかってくるのもある。

 

「それに男と女では精神構造も異なるからな。殴られて尚、"こなくそ"と思える女は多くない」

 

「ああ………その点で言えば、もう一人の講師は非常に上手いな。年に数度だが、ヒヨッコ共の心を的確に抉ってくれる」

 

「もう一人、か。午後からの授業に参加するんだな? ………存在は知っていたが、そういえば名前を聞いていなかったな」

 

「"風守少佐"、だ。ここまで言えばわかるだろう?」

 

「………"風守光少佐"。九-六作戦の後の、アレで活躍した例の斯衛の女性衛士か」

 

風守光という名前。それは今の若手衛士達には知られていないが、90年代に大陸に居た衛士にとっては、それなりに名の通ったものであった。

 

九―六作戦で、奇襲を受けた帝国軍の部隊が壊滅状態になった後、戦術核が使われて大連に向かうBETA群のほとんどが一掃された。しかし一部、なお大連に侵攻しようとするBETAの姿があった。それに立ち向かった残存部隊。主に帝国軍の陸軍だが、その中に赤を始めとする高い地位にいる斯衛の一団があったのは、当時の本土でも話題になったことだ。

 

生還した衛士の活躍は、新聞の一面にもなった。軍においては、また別の意味をもつ。それは斯衛軍の衛士にしては珍しく、彼ら彼女らが極めて悪いと言える戦況に放り出されたということ。

斯衛軍というのは、その性質上からか激戦区に飛ばされることは少ない。その上で風守光と言う女性は、曲がりなりにもかつての戦術機開発の最前線――――"瑞鶴"のサブテスト・パイロットに選ばれた唯一の女性衛士である。

 

メインであった巌谷中佐程ではないが、知っている者は知っているレベルの有名人だった。そういった事からも、彼女はある意味で特別、斯衛軍を目指す衛士達にとっては有用な教師と成りうる人物と言えた。それ故に、また女性の多くなった斯衛の訓練学校に特別講師として招かれることも少なくなかった。

 

「しかし、斯衛だろう」

 

言外に何かを伝えようとした尾花に、真田は苦笑を返した。

 

「お前の斯衛嫌いも、変わってないな」

 

「一朝一夕では変わらんさ。賓客扱いの衛士など、前線で戦った衛士であれば誰も認めない」

 

斯衛軍という性質上、特に橙より上の衛士は激戦に送られることが少なかった。政治的な問題もあるが、何より嫡男を死なせるのが惜しかった家の者はよく後方に配置されていた。それが全てではない。しかし尾花はそうした風潮に流される者も、また同意する斯衛の者も好ましくは思えなかった。

 

しかし、真田は会えば分かると、そう告げ――――そこでノックの音が二人の耳に届いた。

 

名乗りの声は、噂の人物であるその人だった。二人はすっと立ち上がり、どうぞと返した。ドアノブが廻り、そうして部屋に入ってきた女性の衛士。尾花は外見にまず戸惑った。斯衛の赤を身にまとっていたその人は、想像していたより一回りは小さかったのだ。女性にしても小柄に分類されるだろう、体格である。だが、二人の顔を見るや敬礼をした様子はいかにも斯衛らしく、姿勢も仕草も高いレベルでまとまっていた。尾花はそれを見て、思った。大陸でもいくらか見たことのある、斯衛の衛士"らしい"人間ではある。だけどそれだけでは到底説明できそうにない、威圧感のようなものが感じられた。しかし軍人として風格がない訳でもないということだ。確りとした眼光は揺るぎなく、名前の由来を思わせられるものだった。

 

「今年も宜しく頼む………と、もしかしたら、お邪魔だったか?」

 

「はい、いいえそんな事は。こちらこそお忙しい中お呼び出して。毎年ですが、申し訳ありません」

 

「私がやりたくてやっていることだ。だから、謝罪は受け取れないな」

 

「そうですか………助かります。自分も、あの詰問を聞かないと夏という感じがしなくて」

 

「私もだ。ヒヨッコ共の汗を、冷や汗に変えないとどうしても蝉の声を受け入れがたくてな」

 

言いながら笑う斯衛の衛士。真田は階級が大尉であるから、言葉がこうなるのに間違いはない。しかしそれ以外の面で、見るべき点がある。尾花はまず斯衛の姿を見ると、印象をわずかであるが修正する。それまでに胸中にあったのは、かつて大陸で出会った冗句の一つも笑い飛ばせない神経質な若造の姿だ。何をするも硬く在ることが偉いのだと。断固たるが良いのだと、勘違いをしている典型的な武家の若造だ。その彼は、白の武家ということで家格はそれなりで、戦闘力も高かった――――だけど、それだけであった。

 

気位は高いが、逆にそれがマイナスになっているだけ。その若造を尊敬していたという衛士は、居なかった。

 

しかし、と尾花は思う。目の前の風守光という女性の衛士は、少し異なるようだと。

そして真田と会話をしている内容を思い出しながら、胸中で呟いた。

 

(こいつでも、冗談を言うことがあったのか)

 

先ほどの挨拶もだが、実はといえば尾花は自分の眼を疑っていた。それだけにさっきの言葉は、昔の真田晃蔵という男からは間違っても出ない類のものだったからだ。そうして悶々と悩む尾花を横に、話は進んでいった。

 

「授業は昼からになりますが………この時間に来たのは、尾花と話をされると?」

 

「何を話されるのか、それによってはこっちの教えるべき部分も異なってくるのでな」

 

真田の返答に、光は即答した。生真面目な所は変わらないらしい。そう苦笑しながら、尾花は午前の朝一の授業で訓練生達に聞かせた内容を伝えた。

 

"タンガイルの悲劇"。そこで体験した様々なことについて話しました、と。

 

「………少佐は、あの戦いに参加していたのか」

 

「ああ。失った者たちは大きかった………が、得られたものも大きかった戦いだったからな」

 

タンガイルの悲劇。それはバングラデシュの防衛戦の最中に起きた、BETAによる民間人の大量虐殺とそれに連なる戦闘のことである。当時の印度洋方面の軍にも多大な損害を負わせた戦い、そしてとある部隊が活躍した戦闘という面でも有名であった。特に街中での戦闘は酷く、生還した衛士の約4割がPTSDになったとされている。逃げ惑う人たちが追いかけられた挙句に、生で喰われていく。その光景に耐えられず、軍から逃げた者も居たとの噂もあった。そして実際に経験をした尾花にとっては、意味が少し異なる。というのも、その戦場は自身にとっての初の挫折を感じた場所であったからだ。奇襲、包囲されて、部隊のほとんどを失った。共に戦ってきた部下を失ったという忌むべき記憶が生み出された戦い。

 

尾花は、覚えている。忘れられないほどに深く、脳の奥へと刻まれているといってもよかった。

それは同時に、乱戦でこそ見えた欠点、失敗したと断言できる点を思い出せるということだ。

そして今の帝国が置かれている状況から言っても、話す内容はこれ以外になかったと断言した。

 

「前半の、街にBETAが流れこむ前までしか話してはいないが」

 

本番は昼からの授業で。尾花はそう告げた時の、衛士の卵達の反応を思い返して、苦笑する。既に一部が疲労困憊の状態で、午後からはこれ以上に苛烈な内容になると、知っている者は顔色を白くさせていたほどだ。

 

だが、それでいいと思う。戦場で学んだ、尾花の持論だった。吐く程の思いをしなければ人は強くなれないということは。

 

「………となれば、私の話は添え物になるな」

 

光は尾花が話した内容を聞いた後、二人に向けて提案をした。今年は、いつものように訓練の風景を見ながら指摘していくのではなく、尾花少佐の話を聞いた後の訓練生の反応を見て、気づいた点があれば都度指摘していくべきだと。淡々と話される内容に、尾花は眼を見開いた。

 

「助かりますが………風守少佐はそれで良いと言われると?」

 

「何を―――と問い返すのはわざとらしいか」

 

尾花はそれを聞いて頷いた。ここまで呼びつけておいて、頼むのは自分の話の後のフォローである。

プライドが高いという斯衛の衛士、特に赤の色を家に持つ者にとっては許容できない事に近い。風守という家からしてもそうだ。毎年恒例の、と言っていたがそれは訓練学校に対する貢献度として風守光が行ったことが認められていること、その証拠にほかならない。尾花がこれからしようとすることは、その貢献を奪うことに等しいのである。"斯衛"が"斯衛"に授業をつけるという意味でも。

 

閉鎖的な思想を持つ人間が多い武家にとっては、その形こそを尊ぶべきであるという風潮があった。

そのあたりの事情も、少々頭が回る軍人であれば、口にせずとも理解できることだった。

そして尾花も真田も、見たことがある。斯衛に限ったことではないが、時に形式や規律に固執し、成すべきことを過つ軍人たちの姿を。

 

光はそれを全て理解した上で、苦笑を混じえながら答えた。

 

「私も、誇るべきものを間違えたくはない」

 

「………形式には拘らないと?」

 

「過ぎて道を過つことこそが恥。時として、形よりも優先すべきものがある」

 

ただ、実になるべき成果をこそ、訓練生が生き延びる可能性が高くなる方法をこそ選ぶのが賢明であると。当然のことのように告げる光を前に、尾花は今度こそ目を疑った。

 

「………何か、今の言葉に不満点でも? その割には鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているが」

 

「いや、不満はないが………」

 

尾花が絞り出せた言葉は、それだけであった。

変わった口調に戸惑ったが、驚いたのはそれだけではない。

 

(あり得ないだろう)

 

思わずと、尾花は内心で呟いた。それだけに先程の言葉は――――間違っても形式を重んじる武家の、それも五摂家に近い赤の家の者が使うようなものではなかった。かといって、真正面から指摘することは許されないだろう。やや困惑している尾花、それを見ていた光は少し笑いながら、しっかりして下さいと叱るように言った。

 

そうして椅子に座った3人は、話す内容のことを詰めていった。話の途中に出てきた、様々な事について質問が飛ぶ。そのまま時間は緩やかに流れ。やがて話すべき内容が終わった後、話題はある部隊に関してのものに移っていった。熟練の衛士の中でも、噂になっている部隊について、タンガイルにも参戦していた、クラッカー中隊に関することである。

 

包囲されていた所を、助けられた事。その戦いの前からある程度の顔を知っていた尾花は、二人から色々な質問を受けていた。

 

「ダッカ陥落の後からの戦闘はな。寒気を感じることもあったよ。あいつらさえ居れば何とかなると、実際に街で口にする軍人が居たぐらいだった」

 

「それだけに頼りきりだったということか? ………指揮官は気が気ではなかっただろうな」

 

有能であったということは、当時の記録からも分かることだった。だから真田は、別の視点からその当時のことを分析していた。英雄と称される部隊。頼るに足る頼もしき柱だが、それは逆を言えば折れてしまえば取り返しがつかなくなるということだ。

 

それを理解していた者たちにとっては、どうだろうか。まるで毎戦毎戦が綱渡りだったろうと、想像するだけで心労が嵩むようだった。なにせ、一部隊在りきの戦場ということは。それが壊滅すると、戦場が瓦解するということに等しくなるのだから。

 

「聞いていた話より切羽詰まっていたというか…………逼迫していたようだな」

 

「一部部隊の華々しい戦果はあっても、実質は撤退戦の連続だったからな。進退窮まる状況が続いていたさ、わざとらしいプロパガンダに縋り付きたくなるぐらいにはな」

 

それでも、英雄部隊を希望にと全ての兵士が奮戦した。その結果が、マンダレーハイヴ攻略に繋がったのだと言う。しかし、尾花はこうも思っていた。

 

どこからどこまでが仕込みだったのか、分からないと。

 

「最初から全て、かもしれんな………それでも戦果だけは本物だろうが」

 

「実際、技量は凄まじかったぞ。あの本を見れば分かるだろうが」

 

尾花の言葉に、光と真田は頷いた。両者ともに、クラッカーズの衛士達が書いた教練の本を見たことがあったのだ。そして、3人ともが喜びに顔を緩ませた。それほどまでに、その本の価値は高かったのだ。教官職に就いた事がある人間ほど顔を緩ませるという点でも、有名な本でもある。

 

「特に、実戦経験の無い部隊にとっては宝物になるだろうさ。防衛戦に始まり、侵攻中のBETAに対する光線級吶喊。果ては艦隊援護の中での戦術機の立ち回り方や、機甲部隊との連携までも書いているからな」

 

様々な状況において、戦術機はどういった動きをすべきか。適性と個人技の伸ばすべき点との関連性についても、鋭い指摘が多々含まれている。成果も疑われていない。ハイヴ攻略という、世界中の誰もが分かりやすい形で、その成果を魅せつけたのだから。

 

「俺としては、それまでの道中に着目して欲しかったんだがな」

 

「それは、ハイヴ攻略よりもか」

 

「ああ。あの部隊の手助けがなければ、恐らくは………ほとんどの地元民が、避難する間もなく殺されていただろう」

 

尾花は東南アジアでの戦場を思い出しながら、胃を押さえていた。当時の地元の人間も、一度戦闘が始まるまでは避難しようとしなかった者も多かった。そしてBETAは足が速く、戦闘が始まってから民間人が逃げ切るのはほぼ不可能だ。それは訓練学校から教えられる一般的な事実だった。背に守るものを控えさせ、守り切るための戦い。それは単独で攻め入る戦いより数段、神経を嬲られる戦いになるのだった。

 

「………"ファイアー・クラッカーズ"か。遊撃部隊としても一級品だったと聞くが」

 

「困ったときには即参上ってな。ミャンマーじゃ歌にもなってたぞ」

 

それだけに戦い慣れているのだろうと、光は思っていた。聞けば、亜大陸撤退戦の頃より戦い続けていたという。そして、尾花は語る。戦線がバングラデシュ、ミャンマーと下がる中で、常に先頭に立って活躍し続けた存在でもあると。

 

「流石に、現場に居た人間だから詳しいな………しかしそのクラッカーズ、尾花少佐にとってはそのような存在であると?」

 

「尻の殻は永劫に取れないのだと教えてくれた存在――――出会えたのは幸運であったと、そう断言できるな」

 

思い上がりがあった自分の頬を全力で張られちまったと。

尾花は晴れ晴れしい顔を浮かべながら、笑っていた。

 

「詳細に関しては黙秘を貫きますが、まあ色々と衝撃的な部隊だったのは間違いないな」

 

「そうだな………欧州方面の出身者が6人、アジアは5人だったな。よく分かれていたと言えるのかもしれないが」

 

それを聞いた尾花は、何かを言おうとして咳をついた。また、話は続く。

 

「助けること。それによって高まる勇名、名誉…………喜ばしいことですが、指揮官にとっては素直に受け入れがたいことでしょうね」

 

光は想像しながら、思う。一処に依存する体系ができかねない。それは政治的なことは他において、軍にとっても上手くない状況であろうと。それに尾花は頷いた。

 

「それでも、最後まで辿りついた………辛いことばかりではなかった。しかし辿り着いた、が正しい言葉なんだろうな」

 

深く息を吐く様子は、酷い疲労感が感じられる様子だった。先ほどの様子とは打って変わってである。それはまるで、一昨日までは晴れていた空。今は窓の外に広がる、黒い雨雲のようであった。

 

「………降ってきたな。九州はすでに暴風域に入っていると聞いたが」

 

「そうだな。七夕だというのに、これでは星も見えんか」

 

「真田よ………貴様、星を気にするような面か?」

 

「風守少佐であればともかく、岩顔の貴様にだけは言われたくはないが………と、どうしました?」

 

尾花は、どこか遠い眼をしている光に何かあったのかたずねる。

すると光は、はっとなってから慌てて言い返した。

 

「…………年に一度の逢瀬の日。なのに雨かと思うとな…………いや、すまん忘れてくれ。30も越えたおばさんが、言うことではない―――と、どうした尾花少佐。今度は水鉄砲を浴びせられたかのような顔をして」

 

「いえ、まあ…………」

 

尾花は内心で自分を褒めていた。30という言葉を叫ばず、耐えた自分に。どう見ても、20代の前半にしか見えないのだ。そう考えている様子を察した光は、苦笑しながら何事かを言おうとする。

 

しかしその言葉は、正午を告げる鐘の音で中断させられた。もう昼である。真田は例年のごとく食堂に案内しますと言って、そこで閉じていた扉が控えめに叩かれた。誰だと真田が問うと、また控えめな声が返ってきた。

 

(たかむら)です。教官………その、風守少佐はいらっしゃいますでしょうか」

 

呼ばれた光に、視線が集まる。

光も、一瞬何のことだか分からなかったが、事前に連絡が入っていたことを思い出した。

 

「巌谷中佐がおっしゃっていた…………会わせたい人物、ですか。篁というと、篁主査の?」

 

光は驚きながらも質問し、真田はそれに肯定の意味で頷いた。瑞鶴を開発した篁祐唯―――その娘である篁唯依。光も、斯衛の訓練学校に通っている衛士として、そして恩人である人に近しい女の子として、その名前だけは知っていた。そうして光は、真田大尉、尾花少佐、少しだけお時間をよろしいかとたずねる。二人は頷き、入れと真田が告げた。

 

そして開かれた扉、その前に立っていたのは、篁だけではなかった。真田と尾花は互いの顔を見合わせる。黒髪の、訓練学校の制服を着ている方が篁唯依であると察してはいた。

 

だが、もう一人。

見慣れぬ制服を身に纏っている赤い髪の少女が一体何者であるか分からなかったのだ。武家の人間は立ち方や仕草で分かる。それに照らし合わせれば、目の前の少女はどう見てもただの民間人にしか過ぎない。なのに斯衛や帝国軍で名を知られる巌谷中佐の仲介で来るとは、一体何者であるのか。

 

問おうとした真田だが、風守の顔を見るとすぐに口を噤んだ。

 

「少佐?」

 

「…………まさか」

 

光は、それだけを言って黙り込んだ。表情は驚愕そのもの。それも、先ほどの尾花とは次元が違うと言えるほどに大きなものを感じさせられるぐらいのものだった。例えば、いざ激戦中のコックピットの中で猫が踊っていれば、人はこんな顔をするだろうか。間の抜けた感想を抱いた真田だったが、それは当たらずとも遠からずだった。

 

「………15歳、おめでとう、と言えば良いのかしら」

 

「え………っとその、何で知ってるんですか? 今日が私の誕生日だってこと」

 

それに、年のことも。狼狽える少女に、光は感慨深げに言った。

 

「色々と、ね。忘れられないこともあるでしょう――――純夏ちゃん」

 

光はそう告げると、真田と尾花の方に向きなおった。

 

「申し訳ありません、真田大尉、尾花少佐。非常に図々しいことだと思うのですが………この()と二人きりにさせて頂きたいのです」

 

言われた真田は、改めて光の様子を見てぎょっとした。赤い軍服とは裏腹に、彼女の肌はまるでアルカリ性の液体をかけられたリトマス試験紙のように、血の気が失せた色に変わっていたからだ。

 

困惑しながら、何をもいわずと退室する二人。

 

そうして残った3人は、椅子に座りながらじっと互いの顔を見合っていた。テーブルの上には、新たに用意されたお茶がある。だが、誰も手につけない。重たい沈黙だけが、部屋の中を支配していた。

唯依はその空気に耐え切れずと、お茶をゆっくりと飲み始めた。

それだけに、目の前の斯衛衛士から漂う威圧感と、その重苦しさは尋常ではなかったのだ。緊張で喉が乾くなど、唯依はあまり経験したことがなかった。そんな空気に耐えながら、唯依はふと思った。まだ和泉の、北九州に配属されているという彼氏との惚気話を聞いている方が100倍は良いと。

考えながら横を見る。自分でさえこうなのだから、訓練を受けたことのないこの奇天烈な少女はどうなのだろうと思ったのだった。

 

その視線の先にある純夏だが、唯依の予想の斜め上をいった。

耐え切れずと、立ち上がり赤の斯衛を相手に言う。

 

「その、おばさん!」

 

「ばぶっ!?」

 

いきなりの暴言に、唯依がお茶を吹いた。斯衛の赤にいきなりおばさん呼ばわりは無い。あり得ないを5乗してもいいぐらいに。昔ならば手打ちは免れず、今のこの時でもどういう事になるか、分かったことではない。

 

慌てた唯依は激しく咳き込み、涙目になりながら純夏を止めるべく立ち上がった。

 

しかし、当の光は怒らず、ただ唯依に告げた。

 

「いいのよ、篁さん…………しかしおばさん呼ばわりされたのは初めてね。でも、何で私をそう呼ぶのかしら―――鑑純奈さんの長女さん?」

 

光は、怒ってはいなかった。ただ、確かめたいと言葉をつなげる。同時に―――手は震えていた。

まるで今にも落ちてきそうな雷を怖がる、童女のように。

 

「その、私は本当の事を知りたいんです!」

 

「…………話が、見えないのだけれど」

 

光はじっと純夏の眼を見返しながら、言う。

 

(また、純奈さんに似て)

 

とても見知った顔だった。懐かしいと、気を抜けば泣いてしまいそうになるほどの。

それだけに目の前の少女は、当時赤ん坊だった彼女は似ていた。一年にも満たない時間で、妻としては未熟だった自分に色々な事を教えてくれた友人にそっくりだった。とても感情的で、向こう見ずな気があって。それでもどうしてか、まるで怒る気にならなくさせられる所まで似ていた。

 

(だけど、無鉄砲な所まで似て欲しくなかった)

 

京都にだけは来てほしくなかったと。それだけに今の自分の周囲は、複雑かつ危険なものであると、光は内心に苦渋の念を吐き散らかした。しかし、このままでは居られず。しかし、どこまで話せばいいものか。

 

光は何を言うべきか、考えこんでしまって。それに反応したのは、咳を強引に止めた篁唯依だった。

 

「そ、その。私も正直………話は、見えていないのですが」

 

唯依は端的にまとめた。昨日に、鑑純夏は京都に来たのだと。誕生日の前日。プレゼントを買ってあげると連れられた横浜の街の中で、青い髪の女性から京都行きの切符を渡されたのだと。

 

今ならば、知りたいことが知れると、そう言い含められたらしい。

そして両親に黙ったまま、新幹線で京都に。だけど風守の家に行く道中で道に迷ったのだと。

二人組の男に道を聞いて、辿り着いたのが篁の家ということ。

 

「………篁主査の家に?」

 

その言葉に引っかかった光は、案内したという人物についてたずねた。

すると唯依は、昨日に純夏が辿々しくも語った、人物の特徴についてを説明した。案内をした男の一人が、独特な雰囲気を持つ男で。この暑い中、帽子をかぶりコートを羽織っていたのだと。そして純夏の出身地と。間違った道を教えたという男の特徴を聞いた巌谷榮二が、見たことがないぐらいに顔を強張らせたのだと。

 

「………成る程ね」

 

ひと通りの経緯を聞いた光は、深く頷いた。巌谷中佐が、こうした手に出たという事情も。間違っても、風守の家に招待するわけにはいかないのだから。同時に、不可解な点が残る。

 

「純夏ちゃん。その間違った道を教えた男は二人組だったという話だけれど………もう一人の特徴か何か、分かることはある?」

 

「えっと………女のひ………あれ、でも実際に喋ってないし………ひょっとして男の人だったかな…………」

 

「一目では分からないぐらい、中性的な顔だったってことね。他に何か特徴があった?」

 

「視線が、その、氷のように冷たくて。あとは、頬に大きな傷がありました」

 

「………そう」

 

光は頷くと、椅子に体重を預けながら考えた。

 

(コートに帽子…………この季節にそんな怪しい格好をする男は、一人しか知らない。それに、どちらかと言えば女性よりの。それでいて、頬に大きな傷を持つ男………)

 

口の中だけで、名前を転がした。前者は、恐らくだが日本帝国情報省外務二課課長の鎧衣左近。そしてもう一人、こちらは前者よりも不確定ではあるが――――帝国陸軍白陵基地に所属している衛士。先にも話に出ていたクラッカーズ、その一員でもあった紫藤樹大尉だろう。

 

そして、その二人が持つ共通点は一つしかない。否、一人しか居ないと、そう言った方がいいかもしれないと光はひとりごちた。

 

(何が目的で、いやそもそも何があった? あの巌谷中佐のことだ、意味のないことをするはずがないと思っていた、だから)

 

 

だから、二人には退室を願った。事と次第によっては、大事になってしまうからだ。迷惑をかける訳にはいかないが故に。しかし、事態は予想の更に斜め上の様相を呈してきた。

 

情報部に、横浜の衛士だ。光は想像していたものより大きい、爆弾のようなものを見つけてしまったかのような気持ちになっていた。不発弾に近い、不快感。何よりこれを図った人物は、間違いなく裏の事情を知っているのだ。

 

風守、篁、巌谷――――そして、白銀。

 

これらの言葉を一本の線で繋げられるぐらいには、事情を理解しているものがいる。

まず間違いなく、偶然ではあり得ない。誰かが仕組まないでは、ただの民間人である鑑純夏が斯衛の訓練学校に来ていた自分の所にまではたどり着けない。

 

(横浜? いや、京都? ………外務二課が動く理由も、分からない)

 

一体何が起こっているというのだろうか。だがそのあたりの事情に関して、目の前の少女の言葉でしか知ることができない。

 

(聞きたくない、というのは許されないけれど)

 

だけど、想像してしまうのだ――――何故、今のこの時。それもこの年の女の子らしくない切羽詰まった表情で。話を聞かないことには始まらないと、光は意を決すると純夏に告げた。

 

事の本題について、教えてちょうだいと。

 

すると純夏は、ばっと勢い良く顔を上げて、光の眼を見て口を開いて――――

 

 

――――そこで、警報が鳴った。

 

 

光が反射的に立ち上がり、それに続いて唯依も立ち上がった。純夏は左右を見回しながら、何が起こったのか狼狽えているだけだった。

 

「少佐、もしかして………!?」

 

「………まだ分からない。だが、私は戻らなければ――――」

 

そこで光は、純夏の方を見た。視線を感じ取った純夏は、何を言われるかを察知して、言った。

 

「ま、待って下さい!」

 

「………悪いけれど、話の続きは後で。今は状況が――――」

 

急いで、閣下の元に戻らなければいけない。そう思った光の耳に、必死な言葉が届いた。

 

「ひ、一つだけ聞かせて下さい! ――――タケルちゃんがミャンマーで死んだって聞かされましたけど、そんなの嘘ですよね!!」

 

 

「………え?」

 

 

瞬間、呼吸が止まった。鼓動が、確かに止まった。

 

 

風守光の全てが、その時確かに静止した。

 

 

傍目で見ていた篁唯依には、彼女の時間が止まったかのように見えた。

 

 

そして、ゆっくりと始動すると、純夏の方に向き直る。

 

だが言葉は、勢いよく開かれた扉の音にかき消された。

 

「風守少佐――――北九州沿岸部に、ついに」

 

扉の前で、静かに告げる真田。

 

その横には、訝しげな表情で純夏を見つめる尾花の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――そして、数日後。

 

遠く、九州の地で。

 

「コード991! コード991だ! これは訓練ではない、繰り返す、これは訓練ではない!」

 

「なんで、こんな時に、くそ―――――――台風と一緒に来やがるんだよ!」

 

「応答せよ! 沿岸警備隊、応答を、誰か―――!」

 

「戦術機甲部隊を展開、早くしろ―――!」

 

 

豪雨と暴風と、阿鼻叫喚の雨の中。定められた少年の戦いが、再び始まろうとしていた。

 

 

 


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