Muv-Luv Alternative ~take back the sky~   作:◯岳◯

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光武帝さん、藤堂さん、mais20さん、リドリーさん、GN-XXさん、
distさん、ひらひらさん、すがとさん、JohnDoeさん、三本の矢さん、 秋の守護者さん、アンドゥさん、Shionさん、銀太さん、フィーさん、屋根裏部屋の深海さん。

誤字指摘ありがとうございます。

既に累積で4ページ………誠に感謝をしております。


閑話の2  from now

ミラ・ブリッジスと二人。孤児院の密談部屋に残された武は、あちらの世界のユウヤがどうだったかと聞かれた質問に、端的に答えた。

 

「初対面は、そうですね………黒ひげ危機一発?」

 

「え?」

 

「無精髭で、危うい雰囲気纏ってました。根暗っていうか。恋人を死なせたからだっていうのは後から聞いた話ですけど」

 

身なりの整えも忘れて、影深くまるで死人のようだった。いつかの誰かを思い出し―――誰かではなく自分かもしれないが―――にこやかに片手で胸ぐらを掴んだと、武は言う。

 

「なーんかこう、ピキッと来まして。あとはすぐに喧嘩? おうお前どこの訓練学校出だべ、的な」

 

武の主語を省略した言葉をお嬢様育ちのミラは理解できなかった。それでも構わず、武はユウヤとの間に起きた事を説明し続けた。必死に聞き取ろうとするミラに、武は全てを話した。

 

衛士ならばと戦術機での殴り合いになったこと。激戦の末、武が勝ったことも。当時の年齢差を考えれば、負けるのは武の方である。それを思い少し暗くなったミラに、武はいやいやと手を横に振った。

 

「いやいや何言ってんですか。あいつ、ほんと冗談抜きで強いですって。一応は俺が勝ちましたが、冗談抜きで紙一重でした」

 

エヴェンスクでГ標的という並外れた強敵と戦ったというユウヤは。仲間のほとんどを失うという修羅場を潜り抜けた、元は米国でトップクラスの衛士は、元からの技量もあいまって、世界でも上位グループに入るであろう衛士になっていたと武は言う。

 

「具体的に言えば………あっちのユウヤは対人戦限定だと、ターラー教官を上回りますね。ツェルベルスの狼王と同じぐらいは、敵に回したくない相手かな」

 

ファイア・クラッカーズの要であるターラー・ホワイトより上で、欧州の英雄であるツェルベルスの統率者であるヴィルフリート・アイヒベルガーに伍する。ミラも名高い両者の勇猛さは知っている。それと同等以上と言う少年の言葉に、耳を疑った。

 

武はそれを悟りつつも、ただ事実だけを告げていった。

 

「長刀の扱いならピカイチでした。ここぞという時に、背筋が冷えるような一撃を叩き込んできます。何度か、してやられた事もありました。あれが篁示現流ってやつですかね」

 

「タカムラ、ジゲンリュウ………でも、あの子はアメリカでは」

 

「ええと、ユーコンに来てから学んだらしいです。最後に基地を脱出する時、篁唯依から実地で教わったと言っていました。“あいつ、殺気も何も無かったらすぐに分かるっつーの”とか苦笑しつつ愚痴ってましたが」

 

武はその後もユウヤとのやり取りをミラに伝えた。表立って動けないという似た境遇にあるため、いつもチームを組まされたから、エピソードは腐るほどあった。

 

リベンジ戦の中では、何度か負けることもあった。衛士としては負けられないと切磋琢磨しつつも、どこかシンパシーのようなものを感じていた。からかい甲斐のある反応をするから、たまにだがイーニァと霞と一緒に悪戯を仕掛けることもあった。

 

「………友達、だった?」

 

「そうかもしれません。時々バカな話もしてましたし………うん。戦友で、親友だったかも。でも、そのあたりはよく分かんないです。俺も男の友達少ないですから」

 

クラッカーズは家族のような関係で、第16大隊では上司部下の立場を努めて保持していた。なにげないバカな話をする相手といえば、陸奥武蔵ぐらいか。

 

あとは、異性であれば唯依と上総か。その時武は緋焔白霊を思い出し、ユウヤに一時的にだが託されていた事も説明した。刀の譲渡が意味する所も。ミラは、痛々しそうに顔をしかめた。

 

「………篁唯依。衝撃を受けていたのは間違いないのに………相手を気遣える、優しそうな娘さんなのね」

 

「そこら辺はユウヤとそっくりですよ。何だかんだと優しいです。根が糞真面目な所もそっくりですけど」

 

武は笑いながら言った。それを聞いたミラは、そういえば唯依にも接したことがあるのね、と呟き、聞いた。

 

「そんなに………そっくりだった?」

 

「おおまかにですが、かなり似てました。細かい所は違いましたけど。環境とか経験の差でしょうか」

 

武はイーニァから聞いた事を語った。あちらの世界の唯依は上総も含めた全ての同期を失い、父さえ先立たれた。女の身で次期当主になることを義務付けられ、それに負けないようにしていたという。だからこそ頑固であり、だがその一方で、根の優しさや暖かさは持っていたと。

 

ユウヤはとにかく周りを警戒していたと。居て良い場所というものを知らなかったからかもしれない。全員が敵だとばかりに突っ張っていた。でも、敵にならない子供には、自分には優しかった。悪意の欠片さえ無かった。普通の軍人ならあり得ないぐらいに。

 

「それで、ユーコンで顔合わせてしばらくは酷かったそうです。開発の意見の食い違いとかで、相当やり合ったみたいですね」

 

「………その原因は、ユウヤが日本の事を嫌っていたから?」

 

「みたいです。かなりアレだったそうで。本人も自虐してましたし」

 

だけどその大元は、とミラが落ち込んだが、武はまあまあと宥めた。

 

「ぶつかって分かる事もありますって。それと開発は意見と熱意の殴り合いだとも主張してました。ちらっとある人からも聞きましたが………ミラさんも、その、あの人とはそうだったんでしょう?」

 

「え………ええ。そうね。私も、最初は認められなくて啀み合っていたわ」

 

そう考えれば同じなのね、とミラが言う。本音をぶつけあうことができたからこそ、論議にも身が入り、内容も素晴らしいものになったと。迂遠な言い回しなど無用とばかりの、言葉での殴り合い。

 

「全員が妥協を許さなかったからこそ、瑞鶴は生まれたのかもしれない。親父からはそう聞きました」

 

「そうね。それだけはきっと、間違いじゃない」

 

武はミラの言葉に頷きながらも、問題はと小さく引き攣った顔を。その後の関係も同じになりそうだったと告げた。困惑するミラに、言い難そうに告げた。

 

「えっとですね………イーニァの言う“唯依はユウヤの事が好き”がどこまでのものなのか………俺には確かめる勇気がありませんでしたが」

 

「えっ」

 

ミラの顔色が悪くなった。武は乾いた笑いを零した。空気が凍る。外では、しとしと雨が降っているようだ。鼻孔に含まれる湿気が一巡した頃、武は言った。

 

「じょ、冗談か勘違いですよ。多分、恐らくですが」

 

「………その割には不安を感じているように見えるのだけど」

 

「ごめんなさい嘘つきました」

 

素直に頭を下げた武に、ミラは小さく笑った。話の内容が気にかかるも、いつかの影行と全く似た行動をしたからだ。それでも、答えられた言葉は気にかかると、小さな咳を挟んで問いかけた。流石に近親相姦は日米問わずに倫理的にアウトだった。

 

「あー、多分大丈夫ですよ。きっと。うん、恐らく」

 

「………影行は自信満々にそう告げた次の日に、メアリーの襲撃を受けたのだけれど」

 

メアリーなる人物は曙計画中、渡米していた白銀影行が自覚ない内に惹きつけてしまった女性だという。ミラは語った。一つの事しか眼に入らなくなった女性は、例え同性といえどもどうにもならないのだと。

 

武はミラさんまで巻き込んでなにやってんの親父と溜息をつくも、どこからか視線を感じてごほんと咳をした。

 

「真面目な話をすると、介入は難しいです。恐らくですが、あの二人がXFJ計画に参加するのは間違いないでしょう。でも、場所が問題になります」

 

ユーコンはアラスカであり、米ソの管轄内だ。レッドシフトの阻止は必須になるが、潜入するにも危険過ぎる。CIAやKGBといった諜報機関の眼をかいくぐるには、相応の準備も必要になる。あったとて、成功するかどうか。

 

武は道理を語った。ミラもそれは分かっている―――つもりであるのを、武はミラの表情から悟った。

 

何が諦められないのかは、問いかけるまでもなく理解できる。武は眼をギュッと閉じた後、小さく溜息をついた。

 

「………ステルスは絶対に必要です。眼を誤魔化せる機体があれば、多少の無茶は利きますから」

 

「でも………ユウヤに近づくのは危険でしょう?」

 

可能であっても、派遣されるためには軍部への裏工作が必要になる。斯衛である唯依が責任者として駆り出されるなら、陸軍だけではなく斯衛の方にも接触が必要となる。こちらの提案を受けさせるには、多少の借りを作るか、貸しを消費することになる。

 

でもまあ、と。武は言い出した事を引っ込めるつもりはないと理由を説明した。

 

「決戦までの腕磨きも兼ねてですよ。俺も日本の間引き作戦にはあまり出られない身ですから」

 

後方の横浜基地で平和ボケするよりは、鉄火場に潜るのも良い刺激だと。武は我ながらワーカーホリック過ぎて何言ってんだろうと思いつつも、説得力がある風に装った。

 

「ミラさんこそ、良いんですか? これからの事、激務ってレベルじゃないと思いますが」

 

時間を考えると、常軌を逸した密度で机にかじりついてようやくだ。そう告げる武に、ミラは迷わず答えた。

 

「あの子からは………奪ってばかりだったから。貴方の言う内容が真実だとして、せっかく見つけた大切なものを失うような思いは、させたくない」

 

家族から愛され、祝福されるという当たり前の生活。それを取り上げ、苦しい思いをさせたからこそとミラは沈痛な面持ちになった。

 

「それを考えれば、無茶だなんて思えないわ。それに、どの道必要になるものだから」

 

世界を救うんでしょう? 問いかけるミラの言葉に、武も迷わず頷いた。

 

「なら、やらない道理こそ無いわ。それにね。戦術機は元より、BETAを打倒するべき人類の刃だもの」

 

ハイネマンの元で教わってきた戦術機を開発するための様々なもの。内容は多くあれど、究極的な目的は、BETA由来物質を利用した無粋な爆弾に頼るのではなく、人類の叡智によりBETAを正面から打倒するというものに絞られる。

 

「………あの時を何度繰り返しても、私はユウヤを産んだ。それでもね。自業自得だけど、燻っているものもあるの」

 

「戦術機の………自分が鍛えてきた“もの”に熱を入れる、ですか」

 

武はミラの才能が世界でも有数のものだと聞いた。そうした人物は、三度の飯よりその分野が好きなものだ。でなければ、どんなに天賦の才があった所で芽吹くことはない。それを解放したいというのは、分かる話だ。武は是非にと願った。

 

「何もしないのも、それはそれで辛いですもんね」

 

「ええ。研究だけは進めていて………不謹慎かもしれないけど、高揚している自分も居るわ。身の振り方に迷っていたけど、まさか戻れるなんて」

 

当時の技術では採用できなかった案も、今の技術力や武が持ってきた資料を元にすれば、形にすることができるかもしれない。試したいものが色々とあると語るミラの眼をみて、武はユウヤそっくりだなと思った。口に出して言うと、ミラは苦笑だけを返した。

 

「親子ですもの。でも、心配なのは敵地に潜り込むあなたの方だけど………」

 

露見すれば命も危うい。心配するミラに、武はいつもの事だと答えた。

 

「なんとかして、なんとかします。考えて頑張って、人の手を借りても」

 

望んだ目的を果たす、そういう風に動く。武の回答にミラは喜びと、友人の息子を死地に送り込もうという自分の罪深さに唇を噛んだ。

 

「っ………ごめんなさい。私の我儘だとは分かっているけど」

 

「え、あ、いや、あれですよ、レッドシフトとか色々と気になる部分もあるので。最悪の事態を阻止するために、です。あと、俺も隠し子だったんで」

 

母親と再会できるなら、その方が良い。そう告げる武に、ミラは小さく頷いた。

 

「苦労と迷惑をかけて………ごめんなさい。いえ、ありがとうと言った方が良いのかしら」

 

「どっちも早いです。まあ、お礼の言葉を。頂くのは成功報酬ってことで」

 

武は照れたように視線を逸すと、ぽりぽりと頭をかいた。

その内心を察したミラが、小さく笑った。

 

「そういう所はお父さんにそっくり………いえ、影行よりも罪作りかもしれないわ」

 

「へ?」

 

「欲しい時に欲しい言葉をくれる。祐唯さんが居なかったら、危なかったかもしれないわね?」

 

冗談のように告げるミラに、武は困った顔をした。

 

「そうかも、ですね。でも大勢を巻き込め、とも言われたので」

 

感化した者が居れば重畳。積み上げて、流れを作っていけとはターラーの助言だ。だが、本気の情熱が必要だとも言っていた。

 

炎のように巻き込んで、巻き込んで、嵐のように。それこそが炎の先(ストームバンガード・ワン)に相応しいだろうと。

 

「ユウヤはその筆頭ですね。バカですからきっと乗ってくれると思います」

 

「ふふ………どうしてか、悪い意味に聞こえないわ」

 

「良いバカも居ますよ。残念ながら、女性には分かってもらえないようですけど」

 

そこで武は一拍を置いて、また言い難そうに告げた。

 

「でも篁家の方は、その、家庭の問題なので俺には何ともできないかと。一応は、明星作戦で死なないように、手は回しましたが」

 

武は祐唯にJRSSの開発資料を譲渡するだけでなく、介六郎と崇継にも事情を説明していた。世辞なく言えば、篁祐唯一人が戦場に出たところでたかが知れている。部隊の何人を守れるかという所だ。だが、開発という分野で活躍すれば、何千人、あるいは何万人を救えるかもしれない。

 

武が正直に伝えると、ミラは黙りこんだ。祐唯に対する戦力の評価か、愛しい人が生きている事実に喜んでいるのか。

 

内心に渦巻いているものがあるのだろうが、言葉にはしなかった。ただ、顔の形を微笑む色に変えて。そうして、居住まいを正すと武に頭を下げた。

 

「―――息子を、お願いします」

 

「承りました」

 

任せて下さい、と武は胸を叩いてミラの言葉を受け止める。

 

 

後日、やり取りを聞いた影行が「まるで婿入りだな」と呟いたことから白銀武ホモ疑惑なる重大事件が起きたが、それは別のお話。

 

 

 

 

 

 


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