私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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遅れました。申し訳ありません。
だいたい某狩猟ゲーが悪いのです。ハチミツ下さい。

書き方がブレブレです。纏まって書く時間とプロットを書ける能力が欲しいです。


73.B to A to ...

 もしも女性が浮世離れした、それこそよく描かれる女神の様な、布を纏った姿だったならばシャルロットは彼女の事を夜の女神であると錯覚しただろう。

 注釈するようだが、決して清廉である女神ではない。神秘的で、淫靡な、そういう女神だ。顔を少し赤らめて蕩けた瞳をした清廉な女神などそうはいないだろう。清楚系AV女優的な。

 そんな女神にも見紛う程の美女は残念なことに俗世的なスーツに身を包み、蕩けた瞳でこう言うのだ。

 

「お久しぶりです。お姉様」

 

 ニコリ、いやニタリと嗤う美女に思わず眉を寄せてしまったシャルロット。当然シャルロットには自身よりも年上の女性に姉と呼ばれるような事実は無い。

 ならば、とシャルロットは思考したが、ソレを否定した。隣にいるバーネット……いや、ルアナとて明らかに成人しているこの女性の姉という事はないだろう。

 

「あの、人違いじゃないですか?」

「アァ、お姉様! 無口なのもステキです!」

「……」

 

 シャルロットは直感した。関わってはいけない人物であると。色々と言えることがあるのなら、シャルロット、アナタもソレに属しているのだが……、まあいいだろう。

 両手を前で合わせて興奮したように、というか鼻息を荒くして興奮している美女。

 

「だから、私達はお姉様じゃ」

「黙りなさい、ブロンド女」

「……確かに私は金髪の女の子だけれど」

「では、私の言葉を一回で理解出来ないマカロニ女の為にもう一度言います。黙りなさい」

「初対面で失礼じゃないかな?」

「はぁ……頭がカラッポだからマカロニ女だと言ったんですが、これも理解出来ないんですか」

「ソレが失礼って言ってるんだけど。ああ、ごめんなさい。お姉様とやらに熱中しすぎて頭が沸騰してるんだね」

「ええ、私の頭の中にはお姉様の情報しかありませんが、なにか?」

「そんなストーカーに付き纏われてその『お姉様』とやらも大変だ。なんだっけ、こういうの日本では地雷女って言うんだっけ?」

「地雷だなんて失礼です。ワタクシ、待ちの女ではないですよ」

 

 そりゃぁ、少女二人を捕まえて『待ち』と言われても信じられない。確実に行動派だろ、なんてツッコミ待ちなのかも知れないが。

 ともかく、話は一切通じない事を理解したシャルロットはバーネットの手を引いてその横を素通りしようと一歩を踏み出し、掴んだ手が動かないことに気付いた。

 視線をやれば確かにバーネットが立っていて、自分がその小さな手を掴んで、細い腕を引っ張っているのだけれど、動かない。

 顔はニコニコと笑っているけれど、一切シャルロットの方向を向かない。決して、美女から視線を動かさない。

 

「あら、惜しいです。ホントウに、もう少しだったのに……フフッ」

「ど、どうしたの?」

 

 愉快そうに目と口を歪めて嗤う美女に対してシャルロットは突然の事に理解出来ないでいる。いや、理解をしようとはした。けれど、ソレを否定するのだ。

 違う。違うのだ。自分が知っているバーネットという人物は危険など知らない様に無邪気に笑っていた。だから、きっと、今理解しようとしている事実など、現実ではない。

 

 笑顔であったバーネットが一つだけ息を吐き出した。

 顔を俯かせ、大きく息を吸い込んで、吐き出す。掴まれていた手を引いて、シャルロットを自身よりも後ろへと移動させて、顔を上げる。

 笑いなど無い、笑顔など無い。やや陰鬱気に細められた青い瞳がアルビノの美女を睨んでいる。

 

「……用件は?」

「アァ、フフッゾクゾクします。ホントウに、お久しぶりです、お姉様」

「…………」

「アァ、その瞳で睨まれると、ンッ……フフッ」

 

 顔を紅潮させて口端から軽く液体を垂らした美女。地雷女だとか、色々と嫌味を言ったシャルロットだったが実際はそんな所ではなかった。ドコに出しても問題な変態だ。

 蕩けた顔をして、自分の体を抱き締めている美女に対してバーネットは溜め息を吐き出して空いていた右手を腰元へと持って来る。

 淡い緑の粒子が溢れ、収縮し、そして鈍く光る黒いリボルバーピストルへと変わった。

 

 シャルロットがコレを目にするのは、認識しているだけで二度。旅館でルアナが種明かしをする時に一度、二度目が今。

 

「フフッ、あぁ、ご安心を。お姉様に銃口や武器を向けるなどと愚かなことはしませんよ。怪我をさせたくもしたくもありませんから」

「用件」

「お姉様。ワタクシと一緒に世界を殺しましょう」

 

 笑顔で女性はそう言った。まるで当然の事を言った様に。久しぶりにあった『お姉様』に向かって、お元気ですか? と訪ねる様な笑顔で。

 その言葉に対してシャルロットは唖然としている。自然と吐き出された言葉に驚きもした、同時に意味がわからない。

 

「お姉様にソコは似合いません。ワタクシと一緒に殺しつくしましょう」

「……拒否する」

「あら、ソレは残念です」

 

 残念、と言いつつもその表情は嬉々としている。まるで初めから断られる事が分かっていた様に。

 アルビノ美女は胸元から小さな長方形の紙を取り出し地面に置く。その上に薬莢を立てる。

 

「ワタクシへのホットラインです。気持ちが変わったなら……いえ、いつでも通信を開いてください。ちなみにシャワータイムは朝の七時と夜の九時です。ァァ、お姉様に裸を見られるなんていつ振りなのでしょう! 想像するだけでッ……ふぅ、ではワタクシは帰ります」

「"ブローバック"」

「はい」

 

 踵を返そうとした"ブローバック"がバーネットに呼び止められる。ニコニコとした表情が"ブローバック"の機嫌をそのまま表しているようだ。

 

「彼女は?」

 

 けれど、バーネットの言葉によりその表情は消えた。

 バーネットの後ろにいたシャルロットが言いようの無い恐怖に包まれる。脚が震える。寒気がする。果たして自分は立っているのだろうか。温度を感じる場所などバーネットに握られている手だけだ。

 

「知りません」

 

 たった一言、それだけを言い残して"ブローバック"は夜の闇へと沈んだ。

 シャルロットの身体から力が抜けていく、地面の冷たさが臀部に伝わりようやく自分が腰が抜けて座り込んでいる事を理解する。

 一体、なんだというのだ、あの美女は。頭の中が混乱する。

 

「シャルロット」

「え、あ、何?」

「……アナタ(・・・)()?」

 

 顔を上げたシャルロットの眉間に冷たい感触が伝わる。黒い銃身とシリンダー。銃を握る手、そこから伸びる腕、細い肩、首の後ろには紫銀の髪が揺れ、深い青の瞳がシャルロットを映しこんでいる。

 そして小さな唇がもう一度動く。

 

()()?」

 

 開かれている筈の瞳は光が無く、ただただ吸い込まれてしまう様に、シャルロットを真っ直ぐと射抜いている。

 シャルロットは先ほど味わった恐怖をもう一度体験してしまう。次は握られている手からも温度など伝わらない。

 歯が音を立て、口の中が乾いていく。瞬きなど出来ない。

 

「シャルロット。シャルロット・デュノア。デュノア家の妾の娘。過去に私が買い取った女。契約書は私が所持。

 

 ガチンッ

 

 ISへの搭乗可。専用機保有。【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】。継続戦闘、状況に柔軟である。逆に決定打が限られている。

 

 ガチンッ

 

 機関との接点は無し。異常の人。私を知る人。私とワタシを繋いでいる人。

 

 ガチンッ

 

 運もイイ」

 

 銃を傾けてシリンダーを取り出す。一つだけ埋まった弾は出ることもなくシリンダーの中で引きこもっている。

 シャルロットは口をパクパクと動かしてバーネットを見ている。

 感情など感じさせないような無表情と光彩の消えた青い瞳。自分の知っていたバーネットでも、ルアナですらない彼女。

 

「今日の事を口に出せば、きっと運が悪くなる。

 

 

 

 

 

 シャルロット! 早く帰らないと一夏お兄ちゃん達心配しちゃうよ?」

 

 無表情から一変、ニパッと笑いだしたバーネット。

 握っていた手でシャルロットを持ち上げ、顔の高さを一緒にしてキョトンとした顔をする。

 

「腰、抜けちゃったの?」

「え、あ……」

「仕方ないね。 "ブローバック"に睨まれちゃったもんね!」

 

 いや、原因の一端にキミもいるのだけれど。なんて決して言わない。

 バーネットがキョロキョロと回りを見渡して、一つ頷いた。

 

「近くに公園があるから、そこまで我慢してね!」

「え、わ、」

 

 ひょい、と簡単に横抱きにされたシャルロット。コレが『オウジサマ』ならきっと絵になったことだろう。ところがどっこい、現実は幼女に持ち上げられているのだ。

 絵的には見栄えが悪すぎるし、違和感もある。

 

 尤も、そんな事を思うこともなくシャルロットは余計に頭を混乱させた。

 幼女に持ち上げれる程自分は軽くない。この間だって体重計に乗ったらゲフンゲフン。

 そんな事を思考したのも一瞬。次の瞬間には絶叫アトラクションびっくりの速度で景色が動いたのだから。

 塀と屋根を器用に足場にしながら跳ねて移動するバーネット。そしてソレに抱かれているシャルロット。

 普段のISによる訓練によりある程度の速度は慣れている。慣れているからこそ、怖い。今のシャルロットは生身だ。

 

 時間にしてたった十数秒。公園に着いたと同時にシャルロットの口からエクトプラズマ的な、まあ、人間から出てはいけないようなモノが出そうになったり、野外で出してはいけない液体が出たりするのだが、その話は彼女の尊厳の為に黙っておこう。

 

 

 

 

◆◇

 

「お疲れ、山田君」

「お疲れ様です。千冬先輩」

 

 グラスが当てられて中に入っていた黄金色の液体が二人に嚥下されていく。

 グラスから口を離して一息、千冬は早々と近くにあった枝豆を摘んで、ソレを見ながら苦笑を零す真耶。

 結局、警察の取調べを受けていた千冬はバーネットを送り届ける事も出来ず、愚かでバカで女の気持ちの理解しない愛する愚弟の誕生日会にも参加出来なかった。その憂さ晴らし、という訳でもないがこうして同僚であり、後輩である真耶を誘って行き着けの居酒屋へと入り込んだのである。

 

「それで、山田君。警察への対応はどうだった?」

「どうも何も、コッチは疑われてすらないんですから普通の事情聴取ですよ」

「こちらも似たような物さ。亡国企業には悪いが、侵入して来た青い方の不明機がキャノンボール・ファストを妨害したのは事実だからな」

 

 近くの店員を止めて千冬がグラスを軽くあげる。行き着けだけあってその動作で店員は理解したのかニコリと笑ってせかせかと厨房へと入っていった。

 

「それで、千冬先輩」

「なんだ、山田君」

「あの子……実際どうなんですか?」

 

 店員が持ってきたグラスが机に置かれ、千冬が持っていたグラスが店員に渡される。グラスの中では炭酸が弾け、気泡が黄金色の液体から外へと向かう。

 

「どうもしないさ。アレはいつでも思うように生きている」

「だからって」

「目覚めた当初と一夏達と居る時の演技の事か?」

「元々あれは千冬さんが命令したことでしょう」

「……幼く振舞った方が溶け込みやすい。実際、一夏達を含め、生徒達のウケも存外いいらしいぞ」

 

 まるで冗談を言うようにクツクツと笑う千冬に対して真耶は眉間を歪める。

 その表情を見て申し訳なさそうに眉を下げて千冬は口を開いた。

 

「そもそも私と更識は目覚めた時の性格で通すと思っていた。だからこそ一夏と会わせるのにも躊躇した訳だ。

 それがどうだ、会った瞬間、理解したようにニッコリ笑って『お兄ちゃん』だぞ? 言葉を探すのに苦労した」

「ご愁傷様です」

「まったくだ……。いや、出会って口を開く前に銃を向けられるよりマシか」

「その後に「死ね」だなんて付け加えられるよりはマシでしょうね」

 

 彼女が目覚めた時を思い出して二人して溜め息を吐き出す。病室が戦場へと早変わりして千冬と楯無により鎮圧された彼女。

 

「千冬さんは……ルアナちゃんが戻らなかったらどうするつもりですか?」

「どうもしないさ。今のままなら」

「今回の騒動を知ってもですか?」

「…………餌さえやれば、どんな猛獣だって飼えるさ」

「餌が問題なんです。与え続けるのは無理ですよ」

「……私が一夏に恨まれてやるさ」

 

 グラスを傾けて表情を隠した千冬。真耶は眉を下げて溜め息を吐き出す。

 

「それに、量子テレポートだって連続して出し続けるモノじゃないんですよ? それを六回も連続で」

「あー……山田君。戦闘中に一度しているから七回だ」

「…………はぁ」

「今日は飲もう、山田君。付き合うから」

「とか言って、どーせ一夏君の誕生日会行けなかった愚痴聞かされるんでしょ、知ってるんです」

「いや、決して、まったく、そんな事はしない」

 

 どうしてかそっぽ向きながら千冬がそう言えば、真耶は慣れた様に苦笑を顔に浮かべて、グラスを傾けた。




>>ブロンド女ネタ
 よくあるジョークです。

>>マカロニ女
 中身無し。締まり無し。貫通式の×××ではない。


>>バーネットちゃん→『  』
 一応、本文中、今回に書きましたが、アレは演技です。親しみやすく、溶け込みやすい状態であって、どこか日常離れした言葉を吐いていたのは自分とのズレを確認していた行為です。
 『  』、便宜上『彼女』は以前に"ブローバック"が言っていた、過去のお姉様なので世界にも、人にも、何にも絶望すらしていない……希望すら抱く事もない、呼吸と同じく引き金を絞っていた時代の『彼女』です。

>>楯無「崩れないといいけれど」
 バーネットちゃん初登場の話で楯無が呟いていたのは千冬さんと同じ様に「見敵必殺先手必殺」であった『彼女』とルアナのズレに一夏と簪が絶望すると思ったから。どうしてか、『彼女』はバーネットちゃんを演じたのでその心配は無駄に終わりました。

>>千冬さんが殺人を許容してるけど……
 必要な犠牲。セイギノミカタ的に相手を倒す方がいいんですが、『彼女』にとっては敵は的でマトです。加えて快楽へのエサでしかありません。

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