私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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72.お姉様

 【サイレント・ゼフィルス】を纏う少女はバイザーに隠された顔を少しだけ歪めた。視線の先にはIS装備に関わらず頭も顔も隠し、口元しか出ていない敵がいる。

 そう、敵がいるのだ。

 いつの間にか、ソコに存在していた。突然ソレは現れた。突如としてソレは出現した。

 そして()()()()自身の攻撃を逸らしたのもこの訳の分からない敵である。

 

 確かに自分はあの黒いISを狙い、直撃の射線で撃ち抜いた筈だ。

 けれど、結果はどうだ。

 黒いIS【シュヴァルツェア・レーゲン】の右肩付近に抜け、幸いにして行動不可に追い込んだ。実際はスラスターを撃ち抜き行動不能のまま落とす予定だったのに対してだ。

 加えて予定では更にもう一人、撃てた筈だ。

 この珍客さえ居なければ。

 

 一方の珍客呼ばわりされている不明な存在はといえば、まるでそこに在るのが自然であるかのように、装甲と同じように赤く染まっている腕をダランと垂らして立っている。

 垂れた腕の先、指先には赤い液体が表面張力で健気にも落ちまいとしているが、耐え切れずに更に一滴地面へと向かった。

 表情の確認出来る筈の口元には一切の感情を抱かせない、横一文字。かろうじて、ISを纏っている事から珍客が彼女である事は理解出来る。ソレにしては身長も小さく、起伏も少ない。

 

「お前は……なんだ?」

 

 【サイレント・ゼフィルス】の少女……通称エムが口を開いた。けれど少女は応えない。まるで縫い付けられた様に口を開くことは無い。

 無人機にしては人間に近すぎ、そして有人機にしては人間味が無さ過ぎる相手。

 

 何も言わなければそれでいい。落とす相手が一人増えただけだ。

 エムはその銃口を少女へと向ける。向けられたのに対しても、少女は動かない。動く気配すらない。腿に付随されている小さなスラスター達は一切の反応をしていない。

 銃口の中に光が収縮し、エムは狙いを定めトリガーを引いた。一瞬、銃口に溜まった光が強まり、光の帯として少女へと向かった。

 

 

 そして、その顔の横を通りすぎた。

 

 強烈な光の暴力が顔の横を過ぎたというのに少女の口元は動かなかった。

 エムは驚いた。驚いたなんて簡単には言ったが、ハッキリ言えば意味がわからなかった。ありえないという文字が頭の中に乱舞し、今起こった事を理解しようとしない。

 けれども本能の部分でソレは理解していた。自分がされたのだから、結果を見れば明らかだから、ソレを理解しなくてはいけない。

 

 少女の右腰に顕れている、一丁の拳銃。腰に収まっているというのにその口からは煙を吹きだしている拳銃。

 

 認めるな、と頭が警告する。思考したソレは出来る訳が無い。もしもそんな事が出来る人間が居たならば、それはきっと人ではないのだから。

 

 警戒しながらも思考をしていたエムに一つのメッセージが届く。

 

――失せろ

 

 と随分な物言いのメッセージだ。実際はかなり口汚いモノであったが要約すればそんな感じであった。膜付きだとか、その軽い尻で男でも追い回しておけ、だとか大凡そんな感じのメッセージであった。

 エムは激怒した。激怒と言うよりは恥ずかしさで頭に血が昇った。目の前の少女が送ってきただろうメッセージで顔を赤くして、フツフツと心の底から湧き出した怒りがイライラと頭を支配する。

 そんなエムを見て、少女は図星だと感じたのか露出していた口元をニヤリと歪めた。その態度が余計にエムの怒りを煽った。

 

「……死ね」

 

 淡々と、冷徹に、冷静に、いや心の中は相当荒れていたのだが、ともかくエムはそう呟いた。

 搭載されていた六基のビットが飛び出し、数秒ほどエム周辺を飛び回る。静かに、しっかりとエムは指を少女へと向けた。

 ビット達が少女へと向かい、少女は後ろに倒れる。そしてそのまま自由落下していく。ビットはソレを追い、少女へと降下する。

 

 少女は溜め息を吐き出した。

 

 腰元にあるリボルバーピストルを抜き、ハンマーを起こしシリンダーを回転させる。落下している体勢で少しだけ体を起こし照準を合わせ、トリガーを引き絞った。

 銃弾は一直線にビットへと進み、そして衝突する。爆薬が搭載されたビットが煙を噴出し、爆炎を撒き散らした。

 他のビット達は誘爆することなく、少女を狙いに爆炎を進み、そしてエムは爆炎の中心へと銃を向けた。

 即時射撃の出来る実弾ではなく、煙を払う事とヒットさせることを目的としたエネルギー射撃。

 

 光の帯は煙を貫き、煙は円形に霧散した。漂うビット。晴れた煙。

 

 同時に鳴り響くアラート。

 喧しいアラート音と方向を確認すれば自身の後方。銃をコチラへ向けている少女。口元はヘの字に歪んでいる。

 どうやって移動したか、などと考える暇など無い。回避しなくては当たってしまうのだ。

 

 けれどエムは回避行動をしなかった。決して移動系統の装置が壊れていた訳でもなく、回避する意味がなくなったからだ。

 少女が銃を腰のホルスターへと戻したのだ。

 そしてメッセージが飛んでくる。

 

――失せろ

 

 と。

 警告だ。あのまま撃たれれば回避出来なかったであろうエムに対しての警告。あくまで目的の達成の為の行為。

 この時点でのエムには引く為の理由は多数あった。元々陽動の為の出撃であったし、単純な私情での戦闘でもあった。

 引けない理由もある。『土砂降り(スコール)』と呼ばれる同士……いや、この場合は上司と言うべきか。そんな上司からの撤退命令が下されていない。

 いや、自己判断は可能であるし、撤退した所でスコールは上手くやるだろう。

 

 けれど、エムは確かめなくてはいけない。

 自分の予想が、最悪の予想が当たっているのかどうかを確かめ、相手の力量を正しく伝えなくてはいけない。そうしなければ、あのいけ好かない蜘蛛女と狂ったアルビノ女に色々と言われる事は確実なのである。

 

 エムは銃を突きつける。

 少女は動かない。

 ライフルに光が収縮していく。

 

「ルアナさん!」

 

 唐突にやってきた金髪の少女。長いライフルを片手にしている女、名前をセシリア・オルコット。

 その叫びを切っ掛けにエムはトリガーを引き、光が一瞬だけ拡散した。

 それと同時にセシリアは『スターライトmkⅢ』を構えたが、そんなモノ、エムの意識の外だ。

 ただ一点に少女を見ていたエム。少女は動く。

 

 右手でホルスターから銃を抜き去り、親指でハンマーを引く。腰元でエイミング、そして引き金を絞った。

 反動で銃が跳ね上がったが、ソレすらも制御しホルスターへと銃を収めた。

 

 当然の動作。銃を撃つに至るまで、銃を収めるまでの当然の動作。ただし、そのスピードが化け物染みている。

 抜くまでの動作も、ハンマーを引く動作も、トリガーを絞りホルスターに戻す動作も。無駄など在り得ない。必要最低限の動きだけだ。

 撃たれたのはライフルの先。衝撃でズレた光は狙いを外す。コレも当たり前の結果だ。

 

 驚いていたエムは更に驚く光景を目撃していた。

 少女の脚が今しがたやって来たセシリア・オルコットの首へとキマっている。体勢から考えるに、ソバットに似た蹴りをしたのだろう。

 そのまま腿に付随されたスラスターが吹き出し、ベクトルを増加させてセシリアは地面へと向かっていく。

 

 増援である筈の彼女をどうして蹴り落としたのか、エムにしてみれば疑問の嵐だった。

 対して身体ごと回転させてセシリアを蹴った少女はクルリと体勢を戻し、相変わらず口元に表情を貼り付けずエムへと顔を向けている。

 何を考えているかなんて分からない。いや、エムを退却させようとしているのは分かるのだが、ソレならば増援はある方がいい筈なのだ。だがどうだ、実際少女はセシリアを蹴り落とした。

 手助け不要という表れなのか、はたまた別の理由なのか。

 よもや単純に戦闘に割り込まれたくなかった訳ではあるまい。

 

『エム、撤退して構わないわ』

「……スコールか」

『そうです、マゾ娘。お姉様に勝てるわけありません。さっさと尻尾を巻いて逃げなさいな』

「…………ッチ」

 

 上司の声と一緒にイカレタ人間の声も聞こえてしまった。思わず舌打ちしてしまったエム。

 その舌打ちも聞こえていたのか通信越しからはクスクスと笑っている声が聞こえる。耳障りだったのかエムは淡々と通信を遮断した。

 一度、少女から大きく距離を開けてから、エムは身体を翻して空へと消えた。

 

 少女はソレをしっかりと見送り、下へと視線を落とした。

 蹴り飛ばしたセシリアはしっかりと凰鈴音に受け止められた様であったし、その他の人物に怪我らしい怪我は見当たらない。

 先ほどから少女の通信に織斑一夏の声や、篠ノ之箒、そして蹴り落としたセシリアの声が入っているが少女は一切それに応答しなかった。

 ただ見下し、そして小さく溜め息を吐き出した。

 深く息を吸い込んで、少女は身体を後ろへと倒した。PICも切られているのか、少女は自然に落下し、頭の先から淡い緑に発光して、霧散した。

 

 一夏達は終ぞ、少女の素顔など見る事など出来なかったのである。

 

 

◇◇

 

「たんじょーび!おめでとー!!」

「ありがとう、みんな」

 

 乾いた音で弾けるクラッカー。織斑一夏は少しだけ照れた様な顔をしながらも感謝の言葉を吐き出し、そして紙吹雪の舞うなか、バーネットはキラキラした瞳で料理たちを見ていた。

 隣にいるシャルロットに何度も「食べていい? 食べていい?」と袖をクイクイ引きながら聴くも「まだダメだよー」なんて言われているモノだから頑張って停止している。

 祝いの席であるから祝いの言葉を言うまでは、という思考故であり、決して袖を引かれて上目遣いで満面の笑みでだったのでついつい制止しただけ、なんて事は決してない。決して、シャルロットお嬢様に至ってそんな変態的な理由などある訳がないのである。

 そんな事を知っているのか、簪は近くにあった唐揚げを一つ摘み上げてバーネットの口元へと持ってきた。

 大きく開けられた口に唐揚げを放り込もうとしたが、指ごと食べられてしまう。歯が当たっておらず痛みはない。

 そのままモゴモゴと指が舐められ、舐められ、

 

「ッ!?――ッ?」

 

 顔を真っ赤にしながら指を引き抜いた簪。モグモグと唐揚げを食べているバーネットはゴクリと飲み込み、自身の唇を軽く舐め上げる。

 どこか色気の含んだ様子にドキリとしてしまい、簪はてらてらと光る自分の指を見つめて、バーネットへと視線を戻した。戻したらシャルロットが睨んでいて、別の意味で簪はドキリとしてしまった。

 

 

 時刻は午後五時を過ぎた辺り、ISでの市街戦という事もあり、あの場にいた者、特に参加者であった一年生専用機持ちは取り調べを受けていた。

 解放されたのが午後四時であり、その状態から一夏は五反田弾へと連絡を入れた。

 そこから一時間程度で集まれるというなんとも素晴らしい行動力を見せた各人は織斑一夏のバースディパーティの開催、参加をしたのである。

 

「一夏さん、おめでとうございます!」

「あぁ、ありがとう、蘭。今日は大丈夫だったか?」

「ハイ! 一夏さんカッコよかったです!」

「ハハハ……」

 

 開始そうそうAICを喰らい最後尾からのスタート。カーブで追いついたけれど、実はエネルギー的にかなりヤバかった一夏は視線を外へと向けて空笑いをした。

 そんな一夏の元にニヤニヤとした生徒会長、更識楯無がふらりとやってくる。

 

「あらぁ、一夏くん。同世代だけじゃなくて、年下にも手を出してたのね。お姉さん、危機感あるわぁ」

「何を危機に思ってるかさっぱり分かりません」

「言ってもいいのかしらん? 熱い夜を過ごしたことを!」

「一夏ァ!!」

「まて、箒。楯無さんの言う事を真に受けるんじゃない!」

「そうよ、箒。こういう時は落ち着いて一夏を殴ればいいのよ」

「鈴! それもオカシイからな!?」

「オホホホ、皆さんお行儀が悪いですわよ?」

「流石にレーザーライフルは死ぬんじゃないかなァ!? セシリアさん!!」

 

 あらあら、うふふ、と笑顔を貼り付けながら各々日本刀やらIS装甲の鉄拳やら『スターライトmkⅢ』やら一夏へと向けた。一夏は自身の扱いの不遇さを呪いながら視線を親友でもある五反田弾へと向けた。

 

――助けてくれ、弾!

 

 その視線に気付いた弾はニッコリと笑ってサムズアップ。一夏は思わず顔を綻ばせた。持つべきものは友達である。

 けれどそのサムズアップは反転されて親指は地面へと向けられた。

 

――潔く逝け

 

 一夏はかの親友を呪った。願わくばあの野郎に不幸が訪れろ、と。そのまま視線は同じく男友達である御手洗(みたらい)数馬(かずま)へと向けられた。同じような視線を送り、数馬もそれに気付いた。

 困ったように笑った数馬は中学の同じであった鈴音へと視線を向けた。流石である、どこかの親友とは違う。一夏は今日神様を見たのかもしれない。

 

「えっと、凰さん?」

「ア゛ァ!?」

「ナンデモナイデス」

 

 けれどそんな数馬も鬼の声で一蹴され、スマナイと視線を送られて退場した。やはり神などいないのだ、ガッデム。

 

 そんな一夏を放置しつつ、事の発端である楯無はクスクスと笑ってそんな様子を見つめていた。

 

「あ、あの」

「あら、蘭ちゃん、だっけ? どうかしたのかしら?」

「今日はありがとうございました」

「あぁイイのよ。アレも私のお仕事だからね。それに蘭ちゃんもあの時点での避難補助ありがとう。非常に助かったわ」

「いえ……出来る事をしないと、教えられて……いつのまにかやってただけで、褒められる事じゃ」

「けれど、ソレが出来る人間は少ないモノよ。出来たのならば素晴らしいのよ」

「ありがとうございます」

「それで、その素晴らしい教えは一体誰から教わったのかしら? 是非話をしてみたいわ」

「ルアナさんですか? えっと、今は確か珍しい料理を食べに世界旅行に行ってるとかで、ってどうかしました?」

「いえ……そう。そのルアナさんは世界旅行に……」

「ハイ! とっても綺麗で大人っぽくてステキなんですよ!」

 

 楯無は頭を抱えた。

 いや、納得してしまう様な理由を適当に作っておけとは言ったけれど、コレはどうなのだ、織斑千冬。

 思考の中で織斑千冬がニヤリと笑っている姿が思い浮かび、楯無は余計に頭痛が強くなった気がした。

 

「余裕もあって、『料理が美味しい女性はステキよ。一夏もきっと靡く筈』って私の料理の練習に付き合ってくれたり」

「……」

 

 頭痛が強くなった。

 今すぐにこの少女の肩を掴んで「騙されてるわよ」と言ってやりたい。いや、確かに料理の上手い女性はステキで一夏も靡くだろうが、きっと彼女は自分のことを第一にしてその言葉を吐き出したのだろう。一夏の件が最後に来てる辺りその線が濃厚である。

 楯無はちらりと幼くなってしまった彼女を見た。可愛い妹と金髪娘を侍らせて「あーん」してもらってる。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「ええ……少し、風に当たってくるわ」

 

 ヒラリと手を振って頭を抱えながら楯無はその場を後にした。頭痛薬はあっただろうか……。

 

 

 

「すげぇ……俺、生きてる」

「おお、無事だったか、親友」

「無事だよ、この野郎」

 

 喧騒から抜け出して自分が生きてることを確認した一夏はヒョイと現れた親友に悪態を吐いた。そんな事もなんのその、五反田弾はカラカラ笑いながら一夏の背中を軽く叩いた。

 

「今日は災難だったな」

「レースは中止、パーティの開始は遅れる、まったくだよ」

「そういや、警察の話を耳に挟んだんだが、アリーナの近くで死体が見つかったらしいぞ」

「なんでそんな話を耳にするんだよ」

「俺も聞きたくはなかった。まあ聞いちまったのは仕方ないし、お前も巻き添えだ、一夏」

 

 思いっきりしかめっ面している一夏を笑いながら弾はグラスを傾けて、真面目な顔で口を開く。

 

「なんでも、顔の確認出来ない死体が出たそうだぞ」

「なんだそれ。アニメか何かみたいに顔の皮でも剥がれてるのか?」

「いや、頭を砕かれてたらしい」

「……今、一気に聞かなきゃよかったと後悔してる」

「後悔ついでにもう一つ、死体はかなりあるらしいんだけど、場所が転々としてたらしいぜ」

「なんだソレ……」

「さてね。俺の予想ではレースの妨害をしようとしてた人物が殺された、とか?」

「ミステリーの読みすぎだろ」

「ま、単独犯じゃねぇだろうな。場所が離れすぎてるし。それこそワープでもしねぇと無理だ」

「ふーん……」

「それで、一夏はどの子狙いなんだ?」

「なんの話だよ」

「いやいや、あれだけ美少女侍らせて何もないだろ」

「別に、幼馴染とクラスメイトだよ」

「……ルアナちゃん狙いか」

「なんでそうなるんだよ」

「ルアナちゃんが来てからお前がルアナちゃんばっか見てるからだよ」

「そうか?」

「ああ、親友の俺が言うんだから間違いないね」

 

 弾はカラカラと笑っている。一夏は少しだけ息を吐き出して、バーネットの方を向いた。

 深い青の瞳とかち合った。けれど何もなく、スグに視線が逸らされた。

 

「…………ま、親友の隠し事には付き合ってやるさ」

「なんだよ急に」

「なんでもねぇよ。蘭にはバレねぇようにしろよ。アイツ、あれでもってルアナちゃんの事もかなり好きだからな」

「……わかった」

「いいさ。驚きはしたけど、納得もした」

「納得?」

「お前がルアナちゃん一人で旅行なんて許す訳がないと思ってたからな」

「俺はルアナの何なんだよ」

「ソレはお前が一番知ってることだろ?」

「……そうだな」

「ん、よし。じゃあ、俺はアッチ行くわ。そろそろ馬に蹴られる」

「そういえば、ルアナの事もって言ってたけど、蘭って他にも好きな人いるのか?」

「お前ってそういう所だけは敏感だよな。絶対教えねぇから安心しろ」

「教えろよ」

「親友の隠し事には付き合えよ」

「ぐっ……」

 

 ソレを言われてしまえば一夏は引き下がるしかないのである。仕方ないけれど、隠し事をしているのは一夏なのだ。ソレを許容したのだから、一夏は引き下がるしかない。

 この辺り五反田弾はしっかりと一夏の手綱を握っていた。むしろ一夏の嫁は彼なのではないだろうか。そう、きっとそうなのだ。学園祭にて五反田弾と織斑一夏のコンビを見たとある女生徒はそう確信していたのだから。

 

 

◇◆

 

「はぴばーすでー、とぅーゆー」

 

 少しだけ軽快なリズムに乗ってコツコツと靴を鳴らしたバーネットが口ずさむ。その横にはシャルロットが一緒に歩いていて、クスクスと楽しそうに笑っている。

 夏も過ぎさり、少しばかり寒い夜。街灯よりも月が輝いている道路。そんな中二人はガサガサとコンビニ袋を鳴らして歩いていた。

 

「楽しいね」

「うん! 誕生日楽しい! 美味しい!」

 

 そう言うと、また鼻歌を唄って笑顔になるバーネット。

 セシリアの話を真に受ければ、あの不明機は彼女という事になるけれど、本当にそうなのだろうか。

 彼女はずっと山田先生か織斑先生の元にいた筈ではあるし、そしてルアナのISではなかった。彼女のISは綺麗な淡い緑色であったし、不明機のISは機体が赤く汚れていた。

 いや、確かに量子テレポートらしき何かをしたから……いや、どうだろうか。

 シャルロットの頭の中に反芻する疑問。

 答えなど出ないし、きっとバーネットに聞いた所で応えてくれないだろう。

 

「――――、……」

「ん、どうかしたの?」

 

 鼻歌が止まり、バーネットが立ち止まった。シャルロットは同時に止まり、首を傾げる。

 カツコツと道路を叩く音がした。

 異様に大きく聞こえたその音にシャルロットはバーネットではなくて前を向いた。

 街灯で照らされた先、辛うじて脚だけが光に照らされ顕わになっている。

 カツコツと更に二歩進んだ存在は街灯に照らされた中心に立つ。

 真っ白い髪に、真っ赤な瞳。整った顔、魅惑的な体。美人だと言える。ビジネススーツを着こなし、高いヒールを履いた女性。

 そんな女性がニタリと口角を歪めた。

 

 

「お久しぶりです。お姉様」




>>舞台裏
 シャルロット達が買い物に出かけた後、一夏が飲み物の補充でパシられてる。
 なおシャルロット達の買い物はバーネットちゃんの我侭のもよう。

>>五反田兄妹
 ルアナの介入によってかなりの強化済み。尤も弾君がオカシナ事になってるけれど、むしろ一夏がわかりやくなってるだけで弾君は正常。決してどこかの誰かに筆を卸されて、色々と仕込まれたからではない。

>>五反田弾
 私的には親友であり、アニキ的存在。決して野獣先輩とかそういう意味でのアニキ♂ではない。

>>警察の話
・殺人事件起こったよ!
・被害者の顔面潰れてたよ!
・人間技じゃねぇよ!
・つーことはISの責任じゃね!?
・ISでもこれだけ離れてりゃぁ単独犯じゃねぇな!
・複数犯じゃね!?
・千冬「だいたい亡国企業の所為。関わると狙われるから報道機関の規制は任した」
・誰か「雑魚。ツマラン」

>>不明機
 転移後はシャワー浴びて、色々と流れたモノを流したり、慰めたり

>>ルアナ、美味しいご飯の為に旅立つ
 千冬「今頃イタリア辺りで美味い飯食ってるらしいぞ」
 蘭「ルアナさんですもんねー」
 千冬「(納得されるとは思わなかった)そうだな」

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