私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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ほのぼのが続くと思いました(小並感

2014/08/06
誤字修正

ご迷惑をお掛けいたしました。


66.はろー わーるど

「シャルロットが?」

「あぁ……全スルーで、全く取り合ってくれないんだ」

 

 溜め息を吐き出して悩みを打ち明ける一夏。打ち明けられている簪はキョトンとしている。

 ルアナが消えて一週間。一夏と簪の仲は会話をする程度には改善をしていた。改善、というよりは全く喋る機会のなかった二人からすれば進歩とも言えるだろう。

 お互いに更識楯無という素晴らしいシスコン、失礼。素晴らしい師が居るのだ。必然的に時間が被ってしまう。

 無論、楯無自身は愛しい妹とソレを糾弾した一夏を共に教えるつもりはなかった。だがその愛すべき妹の「構わない」という一言で一夏の訓練も続行。

 

 一夏自身も頭を冷やしてしまえば「なんて事を言ったんだ」と後悔してしまい、罵詈を浴びせた簪とシャルロットに謝罪へ向かった。

 簪はそれこそ一夏の罵詈を当然の事だと認識していたので謝りにきた事に大層驚いてしまい、一夏の謝罪は呆気なく了承されて、許された。

 

 一夏の悩みであるシャルロットに至っては、クラスで会って謝られても無視。それ以外の会話はするけれど、本当に一夏の謝罪だけは頑なに無視し続けた。

 かと言って許されたという訳ではなく、まるで一夏を責める様に、時折「ボクは冷たい人間らしいからね」なんて言ってのける。

 

 シャルロットからしてみれば徹底して一夏を追い詰める、なんて事は一切考えていなくて。一夏が自分で仕出かした事を重々に理解する為、というまるで犬の躾の様なレベルの理由で謝罪を無視し続けている。

 

「仕方ない、んじゃないかな?」

「そうなんだけど。普段は普通なのに、急に無視モードに入られると……こう、落ち込む」

「…………」

 

 シャルロットからある程度の理由を聞いていた簪は心の中で友人に「躾は完了してる」という報告を送ってみる。当然、心の中なのでその返信は返ってくる事はないのだが。

 

「はいそこ。あんまり近づかない」

「楯無さん、そんなに近付いてないと思うんですけど」

「いい? 一夏君。簪ちゃんが欲しかったらこの私を倒してからにしなさい!」

「段々オープンになってきたな、この人」

「え? 普通じゃないの?」

「そうよ、簪ちゃん。これが姉として普通なのよ」

「……」

 

 一夏は瞼を閉じて簪にこの事実を伝えるか迷った。迷った結果伝える事を選んで瞼を開いてから楯無の射殺す様な視線を受けて、自分の意志を曲げる。

 

 スマナイ、簪さん。俺はまだ弱い……!

 

 そんな所で弱さを悲観されても困るのだけれど。

 いや、まあ、ともかくとして。少し(かなり)オカシイ更識姉妹と一夏の訓練はこうして一週間程続いている。

 簪は移動技術と空間把握の向上。一夏は相変わらずバルーン割りをしている。

 簪の未完成であった専用機も移動する分には動かす事は可能である。あの時の光景が夢にまで出てしまう簪は寝る時間を削り専用機の調整をしていた。姉の専用機の稼動データを貰い、順調とも言うスピードで専用機は完成へと向かっている。

 

「それで、訓練は終わりって言ってませんでしたか?」

「ええ、今日の訓練はお終い。今は生徒会長としての仕事よ」

 

 開かれた扇子に書かれた『勝訴』の文字。その文字を見てキョトンとした二人の顔に疑問を浮かべてから楯無は慌てた様に扇子を閉じて、もう一度開く。

 『完治』と書かれた扇子に二人は顔を見合わせて、少しの間を置いて楯無に詰め寄る。

 

「治ったんですか!?」

「ど、どこに居るの!?」

「おぉ……思ってたよりスゴイ勢いだこと」

 

 二人の脳裏を過ぎった紫銀の少女。千冬から公的に彼女の居場所が変わったこと、そしてその場所を教えられない事。ソレを伝えられた二人にしてみれば、完治の報告とようやく会えることに鼻息を少し荒くしてしまうのも仕方の無いことだ。

 詰め寄られた楯無はある程度予想していた反応以上の反応に引きつつ苦笑し、二人をなだめる。

 

「はい、今送った場所にいるから」

「織斑君は凰さんとオルコットさん、篠ノ之さんを」

「わかった! 簪さんはシャルとラウラを頼んだ」

「……うん、まあ、スグに行動してくれるのは嬉しいんだけどさ」

 

 お姉さん、少し悲しい。

 そんな事を漏らしながら楯無は既に姿を消した二人に溜め息を吐き出した。

 いつもの様な冗談めかした顔ではなくて、真面目な顔で目を細めて空を見上げた楯無は少し未来を想像して眉間を寄せる。

 

「……崩れないといいけれど」

 

 そんな声は二人には決して届くことは無い。

 

 

 

◆◆

 

 廊下を走るな、という校則を律儀に守って競歩よろしくのスピードで彼女がいるだろう部屋にやってきた七人。その部屋の前には織斑千冬が壁に凭れて到着を待っていたようだ。

 

「千冬姉」

「織斑先生だ、馬鹿者」

 

 そんないつもの様なやり取りをして、千冬は溜め息を吐き出す。何度言っても直らない弟に呆れた様に言った千冬は全体を見渡す。

 一番前に一夏と簪。その後ろに箒と鈴音、セシリア。少し離れてシャルロットとラウラ。ここ数日で随分と嫌われたらしい弟を感じてしまい口をへの字に曲げてしまう。

 それも一瞬で、スグに真剣な顔つきへと変化させる。

 

「更識姉から聞いたと思うが、この中にバーネットがいる」

「なら早く通してくれよ」

「先に言っておくが、お前らにとって辛いモノになるかも知れない。現実を受け止めたくなければもう暫く時間を空けろ。その間に私達が全て、」

「大丈夫、です。織斑先生」

「そうさ、受け止めるよ」

「……一夏、お前が一番辛いかもしれないな」

「え?」

 

 小さく呟いた千冬は一夏の声に「なんでもない」と応えて扉のロックを外す。モーターの音が少し鳴り、自動で開いた扉。

 その先に、彼女がいる。

 そう思うと足が自然に動き、七人が部屋の中に入っていく。

 

 

 真っ白いベッドに座る人形が其処には在った。

 窓から外を見つめている人形は人が入ってきた音に反応したのか、紫銀の髪を揺らしながら顔を動かす。

 長い睫毛と白い肌。深い青の瞳が七人を視界へと収める。

 

 視界に収められた七人は口を開いてはいた、それこそ、呼吸さえ忘れてその人形を見つめていた。

 唖然、呆然、絶句。どの言葉を用いても足りないぐらい、只管にその存在に驚愕した。

 

 予想していたよりも幼い少女。自分達の知っている姿よりも幼い少女。

 その幼女は幼いながら整った顔を笑顔へと変化させて、小さな口を開き、幼女らしい無邪気な言葉を紡いだ。

 

「初めまして! お姉ちゃん達!」

 

 知っている声色よりも幼い声。けれど、その声が自分達の知っている声に類似している事は十分にわかってしまった。目の前にいる幼い少女が、彼女であることを。

 一夏は恐る恐る、事実を確認するように喉を震わせる。

 

「る、ルアナ……だよな?」

「違うよっ! わたし、ルアナじゃない!」

 

 返ってきたのは否定の言葉。唇を尖らせて、精一杯眉を寄せて不満そうに声を出した幼女。

 楯無が言ったように、千冬が言ったように、ココにいるのはルアナ・バーネットで間違いはない。けれど、その本人であろう幼い少女はその名前を否定した。

 

「じゃあ、あなたのお名前は?」

 

 一歩前に出たシャルロットが膝を折り曲げて少女に視線を合わせる。笑顔で問いかけられた少女はソレにも負けないような満面の笑みで口を開いた。

 

「わかんない!」

「そっか」

「あ、でもさっきまで居たお姉さんにはバーネット? って呼ばれたよ?」

「じゃあ、バーネットちゃんだ」

「おい、シャル」

「何かな? 織斑君」

 

 バーネットと呼ばれた少女に向けていた笑顔とは打って変わって、一夏へと振り向いたシャルロットの顔は非常に冷たいものに変わっていた。

 一夏にとって『バーネット』という名前は自分を殺しにくるルアナの別人格でもあり、そしてルアナ本人という意味にも繋がる。だからこそ、一夏はその事実は否定したかった。

 

「本当に、ルアナなのか?」

「今は、バーネット。それにキミの方が付き合いは長いんだからわかるでしょ? 彼女は、彼女だよ」

「でも、」

「デモもテロも無いよ。受け止めるけれど、受け入れられないとは言わないでしょ?」

「…………」

 

 ジロリと睨んでいるシャルロットの視線から逃げる様に一夏は顔を逸らした。

 目を鋭くしたシャルロットの袖に僅かに抵抗が掛かる。鋭くした目つきを穏やかなものへと変化させてシャルロットはソチラを見る。

 ソコには不安そうにシャルロットを見上げている青い瞳。

 

「けんか?」

「ううん、違うよ」

「仲良くしなきゃ、メッだよ」

「……――――」

「あー……、シャルロット? 先に言うけれど、持って帰っちゃダメよ?」

 

 メッと言われた瞬間にシャルロットはバーネットから顔を背けて空いている手で顔を押さえた。ソレに何かを感じたのか、鈴音が呆れた様に釘を刺していく。

 鼻の奥の方で熱いものを感じながらシャルロットはどうにかその熱情が垂れるのを防いだ。決して彼女はそういった趣向(コンプレックス)を持ち合わせている訳ではない。

 もしも誰かがシャルロットに「あれ?ロリコンだったけ?」と問われればシャルロットはちゃんと否定して「好きな人が幼女だっただけ」とロリコン初期症状を言葉に出すことだろう。

 

「でも、可愛いんだよ!?」

「あーはいはい。ラウラ、ちょっと押さえといて」

「了解した」

「待って、ラウラ、よく考えてよ。どっちが正常だと思うのさ!」

「鈴音だな」

 

 淡々と言ってのけられたシャルロットはションボリした様子でラウラに捕獲された。捕獲といってもバーネットの座るベッドから遠のけられ、両手をラウラに持たれているだけなのだが。

 ともかく、説教組である鈴音とラウラに代わり、子供の扱いに不慣れである箒ではなく、相応には相手の出来るセシリアが状態を知る為にゆっくりとした言葉でバーネットへ話しかける。

 

「ルアナさん」

「だからわたし、ルアナじゃない! その名前、嫌い!」

 

 セシリアは後ろの方で一夏が更に落ち込んだ様な気がしたが、今は無視を決め込んだ。

 

「では、バーネットさん。アナタはドコまで覚えていますの?」

「何を? あ、キルスコアならもう数えてないよ?」

「いえ、ソレではなくて」

 

 小首を傾げた幼女から飛び出た嫌な単語にセシリアは苦笑いを隠せない。聞いていた過去としてルアナ・バーネットが幼少期から殺しをしていたことは知っていたけれど、こうして目の前で言われるとやはり引いてしまう。

 

「じゃあ、なんなの? セシリアお姉ちゃん」

「ですから…………今、私の事を呼びました?」

「うん。 セシリアお姉ちゃん」

「……そこにいる方もわかりますか?」

「うーんっと……箒お姉ちゃん、簪お姉ちゃん、一夏お兄ちゃん」

「覚えているのですね」

「何を? 皆、組織の人間じゃないの?」

「いいえ、何でもありませんわ」

 

 少なくとも、記憶全てが消し飛んだ、という最悪の事態ではなく、過去と今との記憶が混同しているだけである。そういった予想はつける事が出来た。

 セシリアを始めとする面々は安堵の息を吐き出して、その溜め息にも似た何かに対してバーネットは頬を膨らませて不満を表している。

 

「わたしだけ除け者!」

「いえ、決してそんな事は」

「楽しんでいる所悪いが、少しいいか?」

 

 説教組を見ながら入ってきた千冬が呆れた様に言葉を漏らす。説教組も千冬の登場にその説教を止めてソチラへ視線を向ける。

 

「バーネットの姿はエネルギー不足による仮の姿、と研究者は仮定している」

「仮の、ですか?」

「そうだ。そもそもISコア自体がブラックボックスであるし、バーネットの身体も量子変換された特殊なモノだ。それこそ専門家に見せなくては正しい結果は出せんだろうさ」

「ならその専門家を」

「……ソレをお前が言うか、篠ノ之」

「…………すいませんでした」

「いや、お前を責めた所でアレは止まらんのはよく知ってる…………」

 

 篠ノ之箒と織斑千冬の頭にウサギが一羽跳んだ。同時に深い溜め息が吐き出された。ウサギが「あーっはっはっはっはっ」となんとも言えない笑い声を上げたのだろう。

 

「とにかくだ。状態追及はコチラでする。 バーネットの記憶の整合を取るために以前の様に生活をしてもらう。生徒及び一部を除く教師には私の親戚であるという事を伝える予定だ」

「千冬姉、さすがに親戚は無理があると思うけど」

「文句は言わせんさ」

「ア、ハイ」

 

 ニタリと綺麗に口角を上げて笑った千冬の顔に弟は背筋に凍るものを感じてそれ以上何も言わなかった。当然、他のメンバーもである。

 

「あ、あの」

「なんだ、更識妹」

「その……るあ、バーネットちゃんは私と同室に、なるんでしょうか?」

「そうなる。何か不都合でもあるのか?」

「……その、出来れば」

「ふむ……一応理由を聞こう」

「私は、まだ弱いですから……せめてもう少し、自信も力もつけてから」

「…………そうか。なら、ボーデヴィッヒ。任せて構わないか?」

「私に異論はありません……が」

 

 ラウラはチラリと横目で正座をしているルームメイトを見つめた。

 両拳を高々と上げ、世界全てに感謝を捧げている様は実に神々しい。理由は非常にくだらないモノだが。

 

「構わん。ソレは何かと世話を焼きたがる性格であるし、手を出す様な事はしないだろう」

「千冬姉、俺って選択肢は?」

「お前にバーネットを守りきる事が出来るか?」

「出来る」

「……そうか」

 

 千冬は出席簿を持った手を伸ばし、一夏の首へとソレを並べた。背表紙が触れるか触れない位置で停止し、一夏の肌にフワリと風圧が伝わる。

 

「この程度防げるようになってからその言葉を吐き出せ、織斑」

「…………はい」

「話は以上だ。質問はあるか?」

「あの、千ふ、織斑先生。授業中はどうするんですか?」

「山田先生に押し付け、げふん、ソレはお前達が気にする事ではない」

 

 序盤、何か聞いてはいけない事が聞こえた様な気がしたが、そんな事はない。一切、そんな事は無いのだ。

 

「ふぁぁ……あふ」

 

 当事者である紫銀の幼女は小難しい話に自分は関係ないと言わんばかりに暇そうにして、欠伸をして目を擦っている。うとうとと身体を左右に揺らし、堪えれなくなったのか、座っていたシーツの中に入り込み、身体を丸めて猫の様に眠ってしまう。

 その動作にキュンと来たとある人物が二度目の暴走をするのだが、世界最強とも言える人物の手がしっかりと顔を掴んで未遂に終わるのだが、まあ、どうでもいい話である。




>>ばーねっと
 幼女。可愛い。素敵。もう幼女だけでいいんじゃないかな?
 ルアナの省エネスタイル。ルアナ以前の記憶と【ルアナ】である記録を混同している状態。

>>メッ!だよ
 メッ、してほしい

>>キルスコア
 殺した数

>>アイアンクロー被害者追加
 ウサギの時より弱め

>>ルアナって名前、嫌い!
 理由はまた今度

>>アトガキ
 どうも、ロリコンじゃない猫毛布です。
 バーネットちゃんを基点に少しだけ関係の改善と一夏の改善をしていきます。あとはルアナへの想いとか、色々整理していけたらなぁ……とか、なんとか。
 ほのぼのが書けるかどうかは置いておいて。
 基本的にはシャルロットが暴走したりで、たぶんコミカルなものになると思います。手をつけてないのでわかりませんが……まあ、どうにかなるんじゃないかなぁ。

 もしかすると、他のものに手を着けるかもしれないですが。更新速度はたぶんこんな感じですので、ご了承下さい。

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