当然の接敵→突然の接近
接敵→接近
誤字報告に感謝。
2013/12/08
誤字訂正
土曜日と日曜日を挟み、月曜日。
ピットへと立っていた織斑一夏と篠ノ之箒。相変わらず仏頂面である箒は隣にいる一夏とは逆側へと視線を向けていた。
「なぁ、箒」
「なんだ?」
「俺はISについて教えてくれると聞いてたんだ」
「一体誰から聞いたんだ、そんなこと」
「お前からだよ」
「…………」
「お前からだよ」
大事な事はキチンと二回言った一夏。逸らした視線を追うように首を捻る箒。気まずさから顔が後ろに向くのも夢ではない。
あの宣戦布告から今日までの間、一夏と箒の訓練は竹刀を握り戦う物であった。
かの天
「まぁ何もしなかった訳じゃないか」
そう呟いた一夏は今日までを思い出した。思い出してすぐに頭に浮かんだのは竹刀で叩かれる自分だ。なんとも格好がつかない。
尤も叩かれていたのは最初の一日だけで翌日からは適度に打ち合える程度には思い出していた。
一夏自身、その懐かしさと同門であった箒に師事するという事にどこか嬉しさを感じていたのも事実だ。つまり、一夏はそれ程箒を責める気はないのだ。
箒による剣道式IS訓練(仮)をした後でもクタクタになりながら一夏は机へと向かった。
相手を知る前に、一夏は自身を知らなければいけなかった。
何が分かっていて、何がわからないのか。
何が出来て、何が出来ないのか。
頭の中で反芻する教科書の内容。十二分に噛み砕かれたソレを纏めて自身の許容範囲に収めていく。
初心者である。という事はわかっている。それでも一夏は勝つつもりでこの戦闘に挑むのだ。
「お、織斑くん織斑くん織斑くん!」
しっかり三度繰り返して一夏を慌ただしく呼んだのは山田真耶。
張った糸を緩ませる様に入ってきた彼女に一夏は思わず苦笑してしまう。そしてこのピットへと急いで来た理由を一夏は頭のどこかで理解した。
「き、来ました! 織斑くんの専用IS!」
山田先生は非常に嬉しそうに、そして慌てる様にして一夏へと要件を伝える。
けれど一夏の視線はその後ろ。自身の姉である織斑千冬へと注がれていた。別に彼が重度のシスコンである……のだけれど、そういった邪な視線ではない。
目を伏せている千冬は決して弟を見ることなく、言葉を吐き出す。
「……織斑、急いで準備をしろ。時間は限られているんだ、感情の切り替えもISの操縦もぶっつけ本番で物にしろ」
「この程度の障害、男子たるもの容易く超えろ、一夏」
叱咤激励が飛び、ゴウン、と重い音がピットに響く。重々しく扉が開き、一夏はソレを見た。
『白』である。飾り気を消し、不必要な部分など決してありはしない、光の全てを反射する色。
一夏はソレを見た時、少しだけ、ほんの少しだけ眉間に皺を寄せた。寄せた皺は数瞬で解され、真剣な顔付きへと変わる。
「一夏?」
「ん? どうした、箒」
「いや……なんでもない」
微かな変化に気付いた箒は確かめる様に一夏の顔を覗きみたけれど、そこに変化はなかった。
気のせいだった。見間違いだろう。箒はそう思考して追求するのをやめた。
「急げ、織斑。宮本武蔵を気取る程、お前は優れていないぞ」
「あぁ、わかってるよ千冬姉」
バシン、とピット内に乾いた音が響き、織斑一夏は突然襲った頭痛に頭を抑える。
どれほどの速度で振るったのだろうか、どうしてか煙の立つ出席簿を持つ千冬は溜め息を吐き出して物覚えの悪い愚弟を見下す。
「織斑先生、だ。馬鹿者」
そんな緊張感溢れるピットに比べ、別の意味でピリピリとしている客席側。
コツコツと踵が打ち付けられ、音の発生主はさぞイライラしている事だろう。
「チッ……」
そんなご丁寧なまでに舌打ちをしたルアナ。ジト目は完全に吊り上がって、『私、イライラしてます』という看板でもぶら下げているかのようだ。
その見えない看板を察しているクラスメイト達はルアナから距離を置いてチラチラと彼女を観察している。
ルアナがイライラしている理由。それはここに強制でいるという事だ。
正直な話、クラス代表を決める試合もISの試合も一夏の試合ですら興味が失せているルアナは客席から逃げ出そうとした。
先回りされていたのか、偶然なのか、客席を出てアリーナから脱出する時に千冬にバッタリ会ってしまったのだ。
「体調が悪い。保健室へ行ってくる」
「騙されると思っているのか?」
「眠いから保健室に行きたい」
「正直に言えと言っている訳ではない」
溜め息を吐きだした千冬から戻れと言われ渋々戻ろうとするルアナ。
「待て、バーネット」
「……何?」
「その両手に抱えた菓子袋は置いていけ」
「…………」
そんなこんなで、ルアナの機嫌はドン底である。強制的にこの場にいる事よりも菓子袋を千冬に取られている事の方が彼女にとって重傷である。
そんなこんなの出来事があり、ルアナは非常に不機嫌だった。
眩しく照りつける太陽も、その太陽に背を向けているセシリア・オルコットも、手元にない菓子袋も、すべてが全て不機嫌の理由になるほど、彼女は不機嫌だった。八つ当たりもいいところである。
「チッ……」
丁度二桁目に突入した舌打ち。同時にピットから白いISが飛び出してくる。
名を白式。操縦者は織斑一夏。
その白いISを見てルアナは口を開く。呆然とそのISを見たまま、彼女の時間は停止する。
そして、彼女の時間は動き出し、立ち上がる。
そのまま踵を返してルアナは出口へと歩いていく。
ルアナの評判から止めようとする人間も居らず、今から開始される試合に全員に視線は空に浮く二人へと集中しているのだ。
故に、立ち上がったルアナを見る事はしたが、止める人間などいるはずはない。
故に、彼女の口がニンマリとまるで口が裂けている様に歪んでいる事は誰も知らないのだ。
「クヒッ」
容易くアリーナから出る事の出来たルアナは嗤った。引き攣った喉から溢れ出た嗤いを彼女は抑える事はなかった。
いいや、クラスメイト達にはバレない様にアリーナから出て嗤ったのだから、抑えてはいたのだろう。
「クヒッ、ヒヒッ」
もう我慢することはない、いいや、もう少し我慢しないと。
上唇を舌で舐めて、熱っぽい吐息を吐き出す。
欲求を抑えるために自身の体をかき抱き、腕を強く抓る。
「クヒ、ヒッヒッヒ、ヒャハッ」
光沢が消えた様な深い色の瞳。吊り上がった口角。溢れ出る吐息と嗤い。
そして彼女は呟いた。
「あぁ……ステキ、とても、素敵。クヒッ、ヒヒッ、ハハハハハハハハハ!!」
アリーナから響く戦闘音により、彼女のその盛大な嗤い声はかき消された。
◆◆
「最後のチャンスをあげますわ」
セシリアの声を聞き流しながら、目の前の警告アラートを見送り、客席を見渡す。
直径200mのアリーナのほぼ中心にいる一夏からルアナの姿がチラリと見える。ハイパーセンサーにより捉えられたその姿は一夏を見て呆けているのだ。
そして、数秒して、口角が吊り上がった。
だよなー。と溜め息を吐き出したい気持ちを一夏は抑える。
今しがた立ち去ったルアナよりも、今目の前にいるセシリアの方が重要である。
「――今ここで謝ると言うのなら、許してあげないこともなくってよ」
「それはチャンスとは言わないな」
まったくセシリアの言葉を聞いていなかった一夏は最後の一言で大体の言葉を補完する。
どうせ、やれ軟弱だの、やれ惨めな姿を晒したくないだろうとか。どの道、一夏自身に撤退の文字はないのだ。八百長なんてもっての他。
「そう? 残念ですわ。それなら――」
一夏の目の前にレッドアラートが示される。
内容はセシリアの初弾エネルギーが装填された事とトリガーに掛かった指が動いたこと。
「お別れですわね!」
一夏へ向けられた銃口が光を集め、青い光が一夏へと迫る。
言葉と共に向けられる銃口。今から撃ちます。と宣言してからの攻撃。普通の人対人の戦いならばソレは愚策である。
けれど、これはIS対IS。そして撃つのは銃弾であり、光学兵器だ。
エネルギーを含んだソレは光速とは言い難いが、それでも音速など軽く超えているのだ。宣言した所で避ける余裕もない。
「うおっ?!」
一夏は迫る光を腕の装甲で防ぎ、空中を飛び回る。
防げたのは奇跡だ。運が良かった。一夏は慌てつつも冷静に判断する。もしもまたアレをされれば、次は落ちる。
つまり、止まってはいけない。不規則に飛び回る一夏。勿論、彼に偏差射撃なんて知識はない。ただ我武者羅に飛び回っているだけである。
「さあ、踊りなさい。 わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる
対して狩り人であるセシリアはハイパーセンサーと自身の経験から一夏の進行方向の予測と射撃を行う。
撃つ。外れる。
撃つ。地面へと当たる。
撃つ。一夏へ掠る。
撃つ。一夏の前へ外れる。
撃つ。一夏が腕で防ぐ。
腕で防いだ一夏はようやく逃げ道がない事を悟った。
一夏は聞いていなかったが、この戦闘は戦闘なんて言葉を使うのも烏滸がましい程一方的な物なのだ。それを宣言したセシリアによる、一方的な攻撃だ。さながら今の一夏は鴨でしかない。
セシリアのプライドを含めれば男である織斑一夏は右手にネギ、左手に味噌、背中に鍋を背負った鴨である。
そんな
武器を検索させ、目の前に一覧が出てくる。そして一覧に出てくるのはたった一つの項目。
『近接ブレード』
おいおい、冗談ですよね白式さん。ほんとお茶目さんなんだから。
一夏は現実逃避をしながら、もう一度ISに武器を検索させる。先ほどは鳴らなかったブザーがなり、一覧が表示される。
『検索結果:近接ブレード
以上』
戦闘中でなければISを脱ぎ捨てて一夏は思いっきり蹴って不平不満を漏らしただろう。怪我をするのは一夏であるのは自明の理だが。
ともかくとして、銃相手に近接ブレードという現実の世界でも
片刃のネギは1.6m。鍋を準備するならそれ相応に大きな鍋が必要だ。
「中距離遠距離型のわたくしに、近距離格闘武器で挑むだなんて……笑止ですわ!」
仰る通りです! なんて一夏は吐き出したかった。弱音を吐きだした所で事態は好転しないのでグッと我慢した。
きっと吐き出していたら尊敬すべき姉と同門の幼馴染から罵声の嵐と竹刀と出席簿、果てはアイアンクローまで食らっていただろう。
「それでも、やってやるさ!」
そう意気込み、一夏はスラスターを吹かせる。移動方向は逃げる方向ではなく、セシリアに向かってだ。
当たり前の事だが、剣とは近づかなければ斬れないのだ。光線によって形成されているヴォンヴォン煩い光る剣も近づかなければただのライトでしかない。
はっきり言ってしまえば、今の一夏が銃を握った所でまともに使える訳がない。
銃を手にして、相手に向け引き金を引く。これだけならばISの補助を含めて一夏には可能だろう。
けれども相手はイギリス代表候補、セシリア・オルコット。得意なのは遠中距離の射撃だ。
立ち回りも、扱いも、全てに置いて一夏に勝る存在だ。それこそ、鴨から赤子になった程度だ。
しかし、今しがた鴨が握ったのは使い慣れている
セシリアによる砲撃も、セシリアに向かい飛んでいる一夏はバレルロールして避ける。
ただ近づく事しか気にしていない一夏は気づいていないが、セシリアに向かう事によって撃たれる面積が減っているのだ。
当たる面積が減れば狙う場所も限られていく。
迫る光の矢を一夏はまた回避した。
突きの様だ。と一夏は判断した。点での攻撃を行う剣道に置いての『突き』。実質はかなり違うのだけれど、今の一夏にとってそれだけの情報と箒による
速度の問題は白式のハイパーセンサーが解決してくれる。
「いけるッ!」
「まだですわ――」
避けれる自信と事実。意気込んだ一夏はさらに加速をする。
対して余裕を見せるセシリア。当然である。狩人の武器は
セシリアのIS、『ブルー・ティアーズ』に備わった肩装甲が動いた。
「お行きなさい、ブルー・ティアーズ!!」
「は?!」
フィン状の何かが四つ、一夏へと飛行する。
四つのソレはまるで編隊を組んだ様に突如分散して一夏の前から消えた。
同時に白式から鳴り止まなくなるアラート。
背後からの攻撃を一発くらい、ようやく一夏は移動方向を直角へ地面に向けた。
ハイパーセンサーで確認した四つのソレは兵器だ。攻撃したのはソレである。
ビットと呼ばれる遠隔操縦の兵器。そしてその名を、ブルー・ティアーズ。
インチキ兵器も大概にしろ! 一夏は叫びたかったがやっぱり我慢した。姉と幼馴染が恐ろしいのだ。
先ほどのセシリアによる砲撃とは違い、四つの兵器は一夏を追い詰めて、着実にダメージを与える。
一発目を回避し、二発目を回避し、三発目を紙一重で回避してしまえば四発目に当たるのだ。
二十分ほど、攻撃を避け、接近し、離れられ、という見ている人には非常に楽しくない堂々巡りが行われた。
勿論、演者である一夏は満身創痍。対してセシリアは余裕の笑みを浮かべている。
「ブルー・ティアーズに対して、初見でここまで耐えたのはアナタが初めてですわ」
そうセシリアが言った。同時に彼女へと戻ったビット達。
一夏はそんなセシリアを見ながら当たった攻撃を分析していく。していった結果わかったのは一番反応の遠い所を狙うということ。
つまり、ソレを狙って落とせばいい。
「けれど、そろそろ
「一つ、聞いていいか?」
一夏はセシリアの話の腰をバッキリと折り、そして質問を投げかける。
当然、そんな話の腰を折られたセシリアは怒ってしまうだろう。
「よくってよ」
さすが英国淑女である。
一夏による不躾で不意の質問に対しても実に寛大である。
「ワルツは三拍子が主流だろ? 明らかに四拍子じゃないか」
「…………」
先に言おう。一夏に悪気はない。一切、決して、ない。
単なる疑問である。四つの兵器で虐められて思わず三つじゃないのかよ! とか思って言ってしまっただけなのである。
けれど英国淑女。その広い心で寛大に目の前の無粋な男を許すだろう。
「許しませんわ!」
さすがの英国淑女も頭にくるらしい。もう勝手にしてください。
大きく肩装甲を開き、射出されていくビット四機。
一夏は飛び交うビットを回避し、攻撃を既の所で回避する。
回避しながら二十分間で得た情報の正しさを一夏は確信する。
ビット兵器を動かしている時はセシリア自身が攻撃してこない。
警戒をしなくてもいいのだ。つまり、一つの回避動作が必然的に消えて一夏の選択肢が増える。
回避によって一夏の目の前にビットが横切る。同時に、一閃。
真っ二つに裂けたビット兵器を見る事もなく通りすぎる一夏。ビットは空中で青い稲妻を切断面に走らせ、爆発。
「なっ?!」
驚きを顔に表し、セシリアは声を出してしまう。
一夏はそんなセシリアを見ることもせずに相手の攻撃手段を削っていく。
近接戦闘に特化したIS、白式によるビット兵器の移動予測。それに従い回避を行い、そしてまた一つ落とす。
―行ける!
そう一夏は確信した。ビットがセシリアに戻るのと同タイミングでスラスターを吹かせ、加速。
ビットよりも速くセシリアに接敵することが出来れば一夏の勝ちだ。
「このイタチごっこを一太刀で終わらせる!」
余裕が出れば、冗談も溢れる。
そして同時に、慢心も顔を覗かせるのだ。
「――甘いですわ」
しっかりと一夏を引き寄せる事に成功したセシリアは綺麗に笑んだ。獲物が掛かったのだ。
腰部にあるスカート状の装甲。その突起が外れ、動き出す。
白式から騒がしくアラートが響く。一夏はブレーキを掛ける事もせず、機動をズラす。
「ブルー・ティアーズは六機あってよ!」
放たれたソレは先ほどまでのフィン型ではない。弾道型、つまりミサイルである。
白煙を吹き出し軌跡を残しながら一夏へと迫る二つのミサイル。
回避運動をするも、逃げる事はできない。
一夏は来るべき衝撃に備えて歯を食いしばる。そして目の前が火炎の赤ではなく、閃光による白へと染められた。
セシリア・オルコットは油断をしていた。
自身の経験から推測された計算と一夏のバリアの消費具合からこの一撃で決まった、そう感じていた。
如何程に待った所で終了の合図は鳴り響かない。
測定に時間が掛かっているのだろう。とセシリアは有り得ない事を考えた。
目の前にある黒煙から男が出現することなど有り得はしないのだから。
―
一夏の前にその表示が現れた。
黒煙に包まれている視界。一夏は確認ボタンを押す。
高い音が一夏の脳内に響いた。同時に流れ込む大量の情報。白式に最初に触れた時に流れ込んだ情報よりも精錬され、整頓された情報達。
黒煙が弾けるように霧散し、白い粒子が白式から溢れる。
白式の量子情報が書き換えられ、より一夏らしいISへと、一夏だけのISへと変化していく。
「ま、まさか、
驚きを隠せないセシリア。それもそうだ。初心者であると思っていた織斑一夏が、単なる鴨だと思っていた存在がネギを片手に鍋に乗っていたのである。
その鍋に乗っていた相手に慢心が有ったにしろ接近を許してしまったのだ。虎の子である弾道型まで使って。
奥歯を噛み締めるセシリアと打って変わり、一夏は改めて装備を確認する。
相変わらず、近接ブレードしか出してくれない白式。けれど、そのブレードには銘が打たれている。
『
雪の結晶体と同じ漢字を用いた剣。姉である千冬が使用していた、刀を型成した形名。
一夏に呼応するように鎬に彫られた溝が光り、溢れた光が粒子へと変換されて空へと舞う。
姉の使っていた、唯一の武器。そして同時にソレの意味するところを一夏は理解して、気持ちを切り替える。
「次は守るさ」
「は?」
突然そう呟いた一夏に対してセシリアは思わず疑問を露わにしてしまう。
「守られるだけの存在じゃなくて、守る存在になる」
「何を言ってますの?」
「今は千冬姉の名前を守るさ!」
一夏の想いに感化された様に雪片弐型から光が溢れる。既に刀という言葉から外れた光の剣。
そして前へと進むべき意思に共鳴し、スラスターが点火する。
急激な加速。先ほどまでなら一夏はアタフタしただろう。けれど今はしっかりと敵を見据えている。
そして、姉の名を守る為に、家族を守る為に。もう守られない為に。
一夏は自身を奮い、剣を振るう。
「おおおおおっ!!」
一夏の叫びに同調し、雪片弐型はさらに密度を増し光量を増やしていく。
当然の接敵により、セシリアは完全に不意を突かれた。
目の前には光の剣。当たってはいけない。直感的に告げられたソレに従おうとするも、回避する時間もない。
セシリアの右下段から左上段へと逆袈裟に剣は振るわれる。
光の刃がブルー・ティアーズへと迫り、そしてブザーが鳴り響く。
『試合終了。勝者、セシリア・オルコット』
「え?」
「え?」
測定に時間を掛ける事もなくアリーナに響く勝者の名前。
呆気にとられた二人の声と共に、試合は淡々と終了した。
本編よりもIS戦闘が長い不具合。
六話でようやく初IS戦闘っていうのも不具合ですけどね……。