私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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箒ちゃん中篇

字数が大目なのに……まだ終わらないのか


2013/06/13
誤字修正
織村→織斑
IMEがデスね……。


51.綺麗で完璧な人

「どういうことなんですかッ!?」

「どういうことっていわれてもねぇ」

 

 雪子は困ったように頬に手を当てて首を傾げて見せた。その前にはいかにも怒ってますと言いたげな表情をした篠ノ之箒がいる。

 

「どうしてバーネットが鬼の格好で私の前に現れたんですか!」

「あら、私はルアナちゃんなんて可愛い子知らないわよ?」

 

 知らない、とは言いつつもニコニコと笑い、言ってもいない名前を呼んでいる。そのことに気づいている箒は余計に頭に血が昇る。

 そんな箒に対してワザとらしく、分かるように雪子は溜め息を吐き出した。

 

「ねえ、箒ちゃん。何を怒っているのかしら? 鬼役を呼んだこと? 事前にソレを伝えなかったこと?」

「ソレは……」

 

 箒は思考をふと止める。自分はいったい何を怒っていたのだろうか。

 雪子の理由は至極当たり前で自身が怒ってもいい内容ではあった。けれど、箒自身そこには怒りを覚えていない。

 ならば、何処に怒りを感じたというのだ。

 思考を巡らせている箒を見て雪子は目を細める。

 

「箒ちゃん、座りなさい」

「……」

 

 有無さえも言わせない、少し低い声で雪子は口を開いた。

 雪子に対しては怒られたことの無い箒は少々驚きながらも畳へと正座する。背筋のスッと伸びた正座は実に綺麗であり、ソレさえも雪子にとってはとても歪であった。

 

「箒ちゃん。篠ノ之流……いえ、武術とは体を鍛え、業を磨き、そして心を律するモノよ。箒ちゃんはソレを重々に、十全に理解している。いいえ、理解しすぎている、と言った方がいいのかしら?」

「理解……しすぎている?」

「だからどうして自分が怒っているのかがわからないのよ。

 別に悪いと言っている訳じゃないわ。剣道大会で優勝と聞いた時は自分のことの様に嬉しかったもの」

「……」

「率直に言うわ。アナタは強い。強いけれど弱いの」

「強いけど……よわい」

「アナタならきっとソレに気づくでしょう。けれど箒ちゃんにとってソレはとても苦手で、とても嫌で、とても汚く映ると思うわ……我慢しろ、なんて言わない。だってアナタはずっと我慢していたもの」

「……雪子さん」

「はい?」

「ありがとうございます」

 

 神妙な顔で箒は綺麗に三つ指を着いて頭を下げた。

 ソレを前にして、箒が頭を下げていることを分かっていながら雪子は困ったように笑う。そして何かを思いついたように、悪戯気に笑った。

 

「コレは悩む事で解決する物ではないわ。悩んで気づくことは無い、そういうモノなの」

「……じゃあ、どうすれば……」

「考えることはいい事よ。けれど今の箒ちゃんはきっと思い悩んじゃうでしょ? だから、はい」

「?」

 

 箒は顔を上げる。そしてゲッと顔を顰める。雪子はとても楽しげに笑みを深めている。

 手には巫女服。紅白の正統な巫女服である。

 

「そんな箒ちゃんにはお仕事をしてもらいます!」

「…………」

 

 箒はやっぱり雪子さんには勝てない、と心に刻み付けた。もしかすると、手前で言った事もこの事の伏線だったのかも知れない……。

 汗を流すように指示された箒は少しだけげっそりしてその足を進めた。

 

 その姿をニッコリと笑いながら手をヒラヒラと振っていた雪子は箒の姿が襖で隠れてからその表情を少しだけ崩して溜め息を吐き出す。

 

「ほんと……途方も無い家族だこと」

 

 

 

 

 

◆◆

 

「それで私がどうして林の中で待ってないといけなかったのさ?」

「…………」

 

 紫銀の少女の目の前には橙色と黄色の浴衣を着たシャルロットが溜め息を吐き出している。

 紫銀の少女はただ虚ろな瞳でシャルロットを見つめて何度か瞬きをしている。まるで不思議の国へと落とされた少女の様に、あるいは記憶を失った誰かの様に、どうしてこの場にいるのか、自分が誰なのかが分かっていないように。

 その様子に訝しげに眉間を寄せたシャルロットが口を開く。

 

「ルアナ?」

「るあな……ルアナ・バーネット」

「? 大丈夫? 量子転移で突然現れたけど」

「問題ない。記録の整理が出来てなかっただけ」

 

 頭を抑えて瞼を下ろす。目の前にシャルロットが居なければ在りもしない胃から何かを吐き出したい気分だ。

 その何かを溜め息へと変換してルアナは鬼の面を頭の横へと移動させる。

 

「ここに居てもらった理由は私の量子テレポートの補助」

「お祭りって聞いて少しでもデートかな、と思った私が悪かったのか……」

「飼い猫とデートに行く飼い主は居ない」

「それはそれで酷いなぁ」

 

 シャルロットは口をへの字に曲げて不満を口にする。ルアナはといえば先ほど貫かれた胸元を確認して目を細める。手で隠してはいるけれどそこは赤黒く染まりぐちゅりと水気を含んでいる。

 ようやく痛覚が仕事をし始めたのか、それともルアナが触れていることで刺激されているのか、ともあれズクズクと痛む傷がある。その痛みを味わいながらルアナは瞼を下ろす。

 ゆっくりと呼吸をして、手を離す。痛みは無い。あるのは赤黒く染まった着物だけだ。

 

「ルアナ?! ソレ、大丈夫なの!?」

「傷は無い。リアリティを演出する為の血が付着してるだけ」

「へぇ……ふーん」

 

 あからさまに信じていないシャルロットに大してルアナは心外そうな顔をして肌襦袢を肌蹴る。

 上半身が空気に晒され、そこには注視すれば分かる程度の薄い傷が腹部に横一線されているだけで、他に傷などは無い。

 

「ほら大じょう」

「ル、ルアナ!」

 

 パタパタと手を動かして辺りをキョロキョロと見渡すシャルロット。林の中ではあるけれど、それでも祭りの会場からは近いのだ。

 呆れたように溜め息を吐き出したルアナは白装束を着直す。

 

「見られて減るモノでもない」

「減るよ! 乙女としての何かが減ってるよ!」

「処女でもあるまいし」

「……いや、でも、外ではいけません!」

「露出趣味は無い」

 

 それだけ言ってルアナは祭りの屋台を遠目で眺める。鼻を少しだけ動かして溜め息。

 

「帰る」

「え? 屋台で何か食べないの?」

「……一夏と篠ノ之が居る」

「何か問題でもあるの?」

「……このままだと一夏が心配する」

「着替えがあればいいんだね?」

 

 シャルロットは背にしていた木の裏でゴソゴソと何かを漁り何かを掴んでルアナの方向へと改めて向いた。

 ルアナは眉間をこれでもかというほど顰めた。

 シャルロットの手に握られていたのは浴衣だ。淡い青の浴衣は見ただけでも涼しげな印象を得れる。そんな浴衣を掴んでいるのは少し熱の篭った目をしているシャルロットなのだが。

 

「コレを着れば問題ないね」

「…………帯が」

「あるよ」

「……巾着とか」

「あるよ」

「…………髪留め」

「万全に準備はしてるよ」

「…………着替える場所が」

「あぁ、それに関してはココの人から許可を得てるからあっちの家屋を使っていいってさ」

 

 なんだ、この用意の良さは。

 ルアナはげっそりとした顔でシャルロットを見た。シャルロットはといえばもう問題は無いよね? 着るよね? と言った風にルアナを見てる。

 ルアナは改めて溜め息を吐き出し、ソレが了承の溜め息であるとシャルロットは判断をした。

 

 

 

 

 

 

 

 ルアナはどちらかと言えば、という表現を使うまでもなく東洋よりも西洋よりの顔をしている。

 それこそ浴衣は日本人向けに作られているのだから、西洋の人間はあまり似合うことは無い。

 けれどどうだろうか。

 

 真珠を粉にして塗したような白い肌。青玉を埋め込んだ様に深い青の瞳。紫水晶を編みこんだ絹糸のような髪。どれほどの技術を集めても、どれほどの金銭を揃えてもこの人形に勝りはしないだろう。

 そんな人形であるルアナ・バーネットは美しく整った顔で浴衣を纏い自然に映る。美人に何を着せても美人であることは変わらない。

 そのことを重々に改めて理解したシャルロットは少しだけ口を開き惚けている。やや朱に染まった頬が温かい。

 

「……気持ち悪い」

 

 尤も、そんな美しい人形の形のいい口から吐き出されるのは棘のある言葉なのだが。

 

 ジトリとシャルロットに吐き出された言葉にようやくシャルロットは我に返る。惚けていた口を戻し、頭を回転させて自身の覚えている語彙の中から最良の褒め言葉を探す。

 

「嫌々だけれど着たのだから褒めてたら?」

「……何も思いつかないぐらい、綺麗だったから」

「ふむ」

 

 シャルロットは言葉を失っていた。買われたあの日に散々に弄ばれたけれど、どうしてか襲われていても自身を守っているように感じていたシャルロットは同性である筈のルアナに惹かれていた。

 純愛的に順序はオカシイけれど。シャルロットはルアナに惹かれている。

 翌日に目が覚めた時に布団の中でしっかり抱き締められ頭を撫でられていたシャルロットはルアナに咄嗟にそのことを告げてしまった訳だけれど、ソレをルアナは勘違いだと一蹴した。

 曰く、依存対象が自分になっているだけだ、と。

 

 だからこそ、今回の呼び出しはデートだと勘違いしたし、ルアナの為……というよりは自分が選んだ浴衣をルアナに着せたいという自分の欲求を満たしたかった。

 

「まあ許す」

 

 ルアナは言葉を失っていたシャルロットの言い訳を聞いて、許しを出す。

 微笑みを顔にして、少しだけ頬が赤に染まる。ソレを隠すようにルアナは神楽の時に使っていた鬼の面をする。

 

「ソレ、付けていくの?」

「バレたくない」

 

 いや、逆にバレるんじゃないかな? とはシャルロットは言わなかった。

 ただ苦笑を口に浮かべてルアナへと手を伸ばした。

 

「じゃあ、お面屋さんでお面を買おうか」

 

 その言葉にコクリと頷いただけの子鬼は差し出された人間の手をなるべく優しく握った。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 数分前までとは打って変わりシャルロットは少しだけ疲れたような顔をしていた。

 そんなシャルロットの視線の先には頭にお面を斜めに装着したルアナである。片手にはたこ焼きの乗った舟を持ち、もう片方の手は忙しく口へとたこ焼きを運んでいる。手首には綿菓子や先ほど購入した焼きそばが提げられている。

 帰る、とまで言っていた人間の行動ではないだろう。とシャルロットは思った。思っただけで口には決して出さなかった。

 

「ん?」

「いや、なんでもないよ」

 

 たこ焼きを頬張りまるで栗鼠のように頬を膨らませたルアナが何かに反応したようにシャルロットを振り返った。口の周りには青海苔のソースが僅かに付着している。

 溜め息を吐き出したシャルロットは持っていた紙ふきんでルアナの顔を拭った。むぅ、なんて唸りつつもルアナはその作業を受け入れ終わった直後にまたたこ焼きを頬張る。

 見ている限りは微笑ましいのだけれど、シャルロットはどうしてか猫が目の前にいるのでは無いか、と錯覚を覚える。にゃーにゃーと自分が目を離すとどこかへ行き、屋台に突撃して料理を購入して、ソレを捕獲する。しかも懲りない。

 自分を襲ったときや、戦いのときのどこか妖艶で大人びている印象など嘘のようだ。

 そんなどこか子供の様な彼女が振り返り怪訝そうに眉を顰めた。

 

「シャルロット、少しは楽しめばいい」

「楽しめる余裕は無いよ」

 

 尤もな言葉を返されてルアナはようやく自分の両手を見た。

 提げられたお菓子と焼きそばを見て、首を傾げる。

 

「そう?」

「…………」

 

 シャルロットは溜め息を吐き出した。そりゃぁ、アナタはそうでしょうね。なんて嫌味は言えなかった。別に首を傾げたルアナが可愛かったから言わなかったとか、そんな事はない。

 たこ焼きを食べ終わったのかルアナは持っていた空舟を設置されたゴミ箱の中へと放りこみ、シャルロットの前に立って顎を上げて口を突き出す。

 まるでキスでも求めているようだが、口周りに付着した青海苔とソースが見事にその雰囲気をぶち壊している。

 シャルロットは溜め息を吐き出して、またルアナの口を拭った。

 

「じゃあ、楽しめばいい」

「え?」

「何かしたいこととか、無い?」

 

 いきなり言われても、とシャルロットは自身の周りの屋台を見渡す。

 金魚掬い、ヨーヨー掬い、輪投げ、当てくじ、こうして見れば色々と種類がある物だ。

 そんな事を考えつつ、シャルロットは一つの屋台を見つける。

 

『射的』

 

 と二文字とマスケット銃と的の描かれた屋台。

 その視線をみたルアナはシャルロットの手を掴んでその出店へと足を進める。当然腕を引かれる形となるシャルロットもその店の前に。

 

「いらっしゃい、お嬢さん方」

 

 厳しい顔の中年男性が人の良さそうな笑いを貼り付けて二人を迎える。

 

「ルアナ、勝負しようか」

「勝負?」

「うん。私が勝ったら、好きな服を着せます」

「私が勝てば?」

「私に好きな服を着せれます」

 

 なんともルアナにとって得もない賭け事である。ルアナは少しだけ思案顔をして口を開く。

 

「受けた」

「やった」

 

 シャルロットは心の中でガッツポーズをした。なんたって勝利はもらったも同然だ。

 射撃に置いて、自分はセシリアよりも未熟だと思うが少なくともナイフでの戦闘をしているルアナよりも優れているという自負はある。

 むっふっふ、と笑いながらシャルロットはルアナに何を着せようかと画策する。

 

 過去に自分をアサルトライフルで圧倒した、そんな彼女の事をすっかり考えの中に含んでいない辺り、シャルロットの頭のネジはどこか緩んでいるのかもしれない。

 

 

 銃にプラスチックの板を填め込み、シャルロットは狙いをつける。非常に正しい狙い方だ。直立に立ち、サイトで狙いをつけ、引き金を絞る。

 店主は何か残念そうな顔をして眉を顰めている。シャルロットの後ろでルアナは楽しそうに笑っている事から店主はシャルロットへの助言を控えた。

 ルアナが同じく真剣な目で見ていたのなら助言の一つもくれてやったが、残念ながらルアナの顔は笑っている。

 つまり、知っていて教えてないのである。

 そう店主は理解して、勝負事だと聞いたので口出しは控えた。フェアではない? 何を言う。吹っ掛けたのは今しがたパヒュと情けない銃声を放った彼女ではないか。

 狙いがよかったのか、シャルロットの放った弾は商品の角へと当たり見事に倒してしまう。倒してしまった、と言った方がいいのか。

 人間、失敗から学ぶけれど成功を分析して学ぶことはあまりない。

 もしも、この素晴らしい狙いの一撃で商品が倒れなかったならばきっとシャルロットは弾の勢いの弱さと最適解を導いただろう。

 けれど倒してしまったのだから弾の勢いは【少し弱い、けれどモノを倒す事が出来る】という判断になってしまう。

 その判断によって、ルアナの勝利が七割方確定したのであった。

 

 

 

 

◆◇

 

 所変わり、涼しげな格好をした織斑一夏と浴衣を着用した篠ノ之箒。

 二人きりで歩いている。

 実際、歩いているだけなのだからこれ以上に表現する必要はない。

 

 数分前まで一夏の友人である五反田青年の妹である五反田蘭少女と一緒だったのだが、彼女はどうしてだか商品の少ない射的屋にて偶然にも非常に落としにくい札を打ち抜いて液晶テレビを手に入れてしまい、ソレを兄である五反田弾青年へと受け渡すために境内を出てしまった。

 加えて、つい先ほど兄の過保護さ故に祭りから家へと連れ去れる事が確定してしまった。そのとき彼女は「一夏さんがいるのだから心配はない」と兄に伝えたのだが、友として織斑一夏の唐変木っぷりとソレに比例するモテっぷりと恐ろしいルアナの存在を知っている弾にとってはその一言の方が問題だったらしく妹を連れ帰ることを心に決めたことを五反田蘭は知る由も無い。

 

 故に無言の空間が二人の間に広がっている。

 尤も、この無言を苦痛ではないと感じているので、両者とも許容していることだ。

 箒に至っては手を引かれていることで少し頬を赤らめて言葉を出せないだけなのだが。

 

「おー、ここも変わってないなぁ」

 

 そんな一夏の声で箒はようやく現実に視線を向ける。

 針葉樹の多い林でぽっかりと空を見上げれる場所。子供の頃によくきた、織斑姉弟、篠ノ之姉妹四人の秘密の場所だ。

 

 故に人気も無く、虫と揺らされた枝音だけが響く空間。冷えた夜風が夏の気候に心地いい。

 

 さて、唐変木オブ唐変木・織斑一夏はどうでもいいとして。

 篠ノ之箒は想い人と二人きりというシチュエーションに頭がやられていた。

 特に一夏の周囲には常にルアナがいて二人きりという状況なんて滅多にないのだ。神楽や浴衣姿を褒められた事により箒はシドロモドロになってしまう。

 

 雰囲気もいい、コレは告白……その空気なのだろうか。

 いやいや待て待て、自分が言うのか? こういうモノは男から言うものではないのだろうか?

 しかし考えろ。目の前にいるのは一夏だ。

 言えばきっと状況も変わるだろう。きっと一夏も私を見てくれる筈だ。

 

 何度も自分に問いかけ、自分を後押しして、篠ノ之箒は決断する。

 

「い、一夏!」

「な、なんだよ急にデカイ声を出して……」

「一夏、わ、わた、私は……その、」

「お、おう」

 

 箒は一夏から視線を外したり、合わせたりしながら自分の心を決めていく。体の前で手を合わせて、指を曲げたり伸ばしたり。

 対して一夏は驚いた様子で箒の言葉を待つ。

 

「私は、お、お前の……」

 

 自信が無いわけではない。けれど、決定的に箒の中での何かが告白という行為を止めている。

 どこかで箒は自身を否定している。

 

 自分の理想とする一夏とソレに対等である完璧な自分。

 

 妥協、という言葉を用いても、妥協する所まで箒の気持ちが追いついていない。

 

 一夏は好きだ。大好きだ。

 だからこそ、今、告白すべきである。

 だからこそ、今、告白すべきではない。

 

 箒は出掛かった言葉を喉の奥へと飲み込んだ。

 一夏は神妙な顔をして箒を見ていたが、打ちあがった花火へと視線を移す。

 

「やっぱ綺麗だな」

 

 俯いた箒と見上げる一夏は相対的ではあったけれど、それでも一緒存在していた。

 

「……すまない、用事を思い出した」

「ん? 巫女の仕事か?」

「……ああ。そんなところだ」

「そうか。頑張れよ」

 

 花火を見上げていた一夏は箒に向いて微笑んだ。微笑みはしたが、既に箒は背を向けていて見られることはなかった。

 微笑を崩し、視線を地面に向けて、一夏は溜め息を吐き出した。

 

「……俺を――――」

 

 そんな一夏の小さな呟きは花火によってかき消されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒の理想は、大凡の乙女が抱いている妄想と変わりは無い。

 全てに祝福され、何よりも幸せであり、誰よりも相手を想い合う。

 そんな理想だ。

 

 だからこそ、理想を追い求める篠ノ之箒にとって良く分からない気持ちは邪魔でしか無い。

 邪魔だから箒は自身のこの気持ちを無視し続けた。

 一直線に一夏を見つめていた箒がソレを理解するのに時間は掛からなかった。掛からなかったからこそソレを抱き、無視した。

 

 そんな箒は何かが燃える様な瞳で周囲を探した。

 

 完璧である自分には不釣合いな気持ち。

 完璧を目指した自分にいらない気持ち。

 

「見つけた」

 

 目立つ髪色だからだろうか、それとも整いすぎた容姿だからだろうか。

 目的の人物はすぐに見つける事が出来た。

 

 模擬戦に置いて不戦勝が続く相手。

 自分の気持ちをぶつけれる唯一の相手。

 一夏を困らせている人形。

 

「ルアナ・バーネット」

「あれ? 篠ノ之さん?」

 

 日曜朝に放送されている女子向け(一部の大きい子供達向け)の魔法少女アニメ主人公のお面を被ったシャルロットがその声に反応した。

 その隣では相変わらずジト目な美しい人形が在った。

 

「――私と、私と戦え。ルアナ・バーネット!」

 

 そして、完璧を目指す少女はそんな人形へと勝負を仕掛けるのである。




>>告白流し
 たぶん、この作品ですんなりと一夏に告白すると木っ端微塵に吹き飛びます。
 お分かりの方もいらっしゃいますが、一夏は唐変木ですが唐変木らしくないのです。

>>私と戦え、人形!
 結果的にそこに行き着きます。物語的、なんてメタメタしいことは言いませんが、少なからず、箒ちゃんの心の底にある物はルアナが原因ですし。

>>燻ってるモノ
 箒は一夏をずっと見てきました。見ていたからこそ、一夏の気持ちもわかってるんじゃないかなぁ、とか。尤も、ソレを勘違いしてそうですが。

>>射的
 シャルロットが正しく射的の構えをしたならば、台か、もしくは前から見たい。こう、あふれんばかりの果実がですね……。いや商品的な意味ですよ。

>>出店
 不味い焼きそばに焼きすぎたたこ焼き、そのくせ美味しく感じる。雰囲気って大事。

>>ルアナ×シャル
 買った人間と買われた人間。尤も、ルアナが言っている通り、傷心に付け込んだだけです。

>>子鬼お面をつけた理由
 自分で褒めろと言いつつ心の準備よりも前に褒められた褒められなれてない人形

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