私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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【福音】戦の少し前、いわば準備場面は書きません。

ラウ「見つけたよ!」
一夏「本当か!」
鈴音「よし、じゃあ行くか!」
セシ「千冬さんに言わなくても大丈夫?」
箒「大丈夫だ問題無い!」
シャ「ルアナの仇討ちだー」

的な、的な。

中二病は素晴らしいモノである。うむ。

2014/4/10
誤字訂正


41.嗤えや嗤え

 少年は木に凭れていた。

 少年は目の前にいた歌う少女を見つめていた。

 ざぁざぁと押しては帰る波の音を聞きながら、少年は少女を見つめていた。

 踊り、歌っていた少女はいつの間にか消えて、そこには少年だけが残った。

 少年は立ち上がり、波打ち際に立つ。

 足には冷たい波が触れては消える。

 

「俺は……」

 

 少年、織斑一夏は空を見上げる。

 平和な空。白い雲と青い天空。鏡の様に海もまた青い。

 

「君は……」

「え?」

 

 織斑一夏は振り返る。そこには先ほどまで歌っていた少女が立っていた。

 その顔は少しだけ暗く、まるで憂いている様に声を出す。

 

「君は……力を望むの?」

「……ああ」

「どうして力を望む」

 

 次は海側から声が聞こえた。

 そこには白い甲冑を身に纏った存在が膝まで海に浸かっていた。腰に両刃の剣を携え、その剣をスラリと抜く。自然な動作で、自分と一夏とを断つ様に、自身の前に剣を突き刺し、柄の先へと両手を置いた。

 

「――なぜ力を望む?」

「なぜ……って言われてもな」

 

 一夏は困ったように頬を指で掻いた。

 そして少しだけ照れた様に、けれどもハッキリと自身の心が吐き出される。

 

「俺はさ、守られたんだ。同じ歳の女の子に。その女の子に取り返しのつかない事もした。だから……俺はその女の子を守らないといけないんだ」

「……それは、義務として?」

「義務……とかじゃなくて、なんていうんだろう。罪を償いたいんだ。だから、俺は守りたい」

「ソレは力が無いと不可能なのか?」

「俺は弱い。だから、せめてアイツを守れるだけの……皆を守れるだけの力が欲しい」

「……そうか」

「アイツはこの選択を馬鹿だの阿呆だの……きっと怒ると思う。けど、俺は望んじまったんだ」

 

 一夏は息を吐き出して、空を見上げる。

 その口は歯を食いしばり、顔には怒りが、心には憎悪が秘められている。

 

「だから、俺は敵を徹底して殺す。例え何が相手でも、俺の仲間に手を出されるなら殺す。俺の邪魔をするなら殺す。殺して、殺し尽くして、殺しきってやる」

「感情に身を任せ、力を求めるのか」

「……こうでもしないと、俺は強くなれないんだ。アイツが俺を殺せなくなる為に」

「……そうか」

「じゃあ、君は至らなくちゃいけない」

「ソレを望むのなら、力を与えよう」

 

 海面が上がる海。ソレに一夏は身を任せてその身を沈めていく。決して浮かび上がる事のない海へと一夏は沈んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

「…………」

 

 一夏は相変わらず白い装甲を見た。その合間に走るラインが赤に染まる様も見た。

 いつもよりも鋭く尖った感覚。いつもよりも握りやすい剣。そこでようやく一夏は自身の顔に仮面の様な装甲があることに気がついた。

 白い仮面。それのお陰で集中出来る事もわかった。故に一夏はこの仮面を外す事は無いだろう。外す事で能力が落ちる事は無いだろうけれど、それでも一夏が集中する為に、守るべき全てにその顔を見られたくはなかった。

 先程まで頭が沸騰したように怒っていたというのに、今はソレさえも無い。ただ純粋に、目の前の敵を駆逐する方法が湧いて、消えていく。

 冷静に、心に灯した激情が燃えて、必要の無い力が湧き出て、けれども理性的で。

 

 一夏は柄だけの剣を握り込む。意思に従う様に柄からひと振りの刀が顕れた。白い刀身。無駄を省いた刀身。以前の様に不格好に光など撒き散らせていない。全てをソコに集約した、ただ敵を斬るだけの、ただ敵を両断するだけの、その為だけの武器。

 

雪片弐型(ユキヒラノニガタ)合口拵(アイクチコシラエ)

 

 そう名が刻まれたソレを一夏は右手で握る。

 遠距離の武装など必要はない。盾など必要はない。自分の出来る事など限られているのだ。限られたソレを極めればいい。極める為には何でも使おう。極める事で守れるなら極めてやろう。

 

「行くぞ、【白式】」

 

 一夏はいつもの様に声を掛けてやる。自身の武器であるISに、自身の相棒である刀剣に。

 【白式】は声を従う様に、非固定武装となった大型バーニアに火を灯す。

 一夏に出来る事など限られている。

 近づいて、斬る。それだけだ。

 

 だからこそ、ソレだけに全てを注いだ。

 誰かを攻撃される前に敵を落とす為に。必要の無いモノなど全て削ぎ落とした。

 ソレだけの為に速度を求め、対応するだけの《目》も手に入れた。

 相手の攻撃など考慮の価値はない。

 相手に接近し、切断する。

 これだけ。

 たったそれだけでいい。

 

 火の灯ったバーニアが炎と音を置き去りにして一夏を弾き出す。

 相手とてISなのだから、ソレは見えている。見えているが、異常だ。異常なのだ。

 多角的に移動し、翻弄していた【ルアナ・バーネット】ならまだ分かる。アレは異常だったけれど、理解の範疇にいた。

 けれどどうだ、目の前の敵は。一直線に、コチラの攻撃を無効化し、命中しても怯む事もなく、ただ真っ直ぐに、愚直に迫ってくる。

 異常だ。異常過ぎる。少なからずマトモな人間のする事ではない。

 異常なソレは【福音】の横を通り過ぎる間際、刀を一振りする。

 それだけ。

 たったこれだけでいい。

 

 なんと簡単な事なのだろうか。

 なんと単純な事なのだろうか。

 なんと純粋な事なのだろうか。

 接近し、切断し、相手を殺す。

 

「…………」

 

 故に一夏は語らない。語る事など必要ではない。刀は必要であるけれど、ソレだけあれば一夏には事足りる。

 落ちる【福音】を見ながら、一夏はゆっくりと激情を消していく。

 同時に【白式】に入ったラインから赤い光が引いていく。けれど、顔に備えられた装甲はそのまま。

 何も晴れない。何も愉しい事などない。

 復讐と名付けられた激情に身を任せ、自身の周りを守るだけの力を得た。

 これで彼は簡単に殺される事も、攫われる事も無いだろう。

 

「あ……ああ……」

 

 これで彼は身を委ねるだけなのだ。

 だから、彼は自分を補う為に叫んだ。仮面の奥で自分の心を蝕む感情に任されるままに叫んだ。

 叫ぶ事で何が変わる訳でもない。

 望んだのは彼だ。

 求めたのは彼だ。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 だからこそ、彼は望むべきではなかったのかも知れない。仮面に描かれた目から頬へと伝う溝がひっそりと赤く発光した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

「…………」

 

 織斑一夏並びに凰鈴音、篠ノ之箒、ラウラ・ボーデヴィッヒ、シャルロット・デュノア、セシリア・オルコットは正座をしていた。

 目の前には隻腕となり、けれどもその両足でしっかりと直立しているルアナ・バーネットがいた。

 

 当たり前の話をすれば、彼らが戻ってきた時にその姿を目の当たりにし全員がその無事に喜んだ。

 シャルロットなんて喜びを噛み締めて涙を流しながらルアナに抱きつこうとしたのだ。尤も、回避されて彼女は躓きそうになりながらその姿勢を整えたのだが。

 ともあれ、なんとか無事に帰投する事の出来た六人を待っていたのは、非常に不機嫌極まりないルアナであった。

 

「…………」

 

―おい、どういう事だよ!

―私が知る訳ないでしょ! どうせ一夏が何かやらかしたんじゃないの!?

―身に覚えがねぇよ!

―お前に身に覚えがないだけで、何かしたのではないか?

―まあ、一夏さんならありえますわね

―ちょっと待て、少なくともお前らも一緒に正座してるんだからお前らも何かしてるだろ!

―ルアナ、無事でよかったよぉ……

―シャルロット、少し落ち着け

 

「……ふざけてる?」

 

 そんな会話を秘匿通信で行っていた六人がビクリとルアナの声で背筋を正す。

 その様子を見ながらルアナは溜め息を吐き出した。

 

「どうして勝手に行動した?」

「ソレは……ルアナの仇討ちに」

「必要ない」

「確かに待機命令は出てたが、ソレは目標ISが発見出来なかったからだ! 私の隊がソレを発見し」

「それなら千冬に報告も出来た筈。どうしてソレをしなかった?」

「ソレは……」

「けれど、結果的に目標ISは沈黙する事が」

「結果論で話すなら作戦は必要ない。加えて落とされたセシリア達は口を出すな」

「ルアナぁ大丈夫だったんだね」

「シャルロットは後で話すから今は黙ってなさい」

「けど、仇は討てたわ」

「鈴音、ソレは必要なかった」

 

 鈴音の言葉を切り捨てたルアナはもう一度溜め息を吐き出して、頭を抱える。

 その様子に琴線を触れたのは篠ノ之箒である。正座から立ち上がり、抗議の声をあげる。

 

「私達はお前の仇討ちで動いたのだぞ! 感謝こそされど、」

「感謝? こんな事をされて感謝しろって言うの?」

「ああ、そうだ!」

 

 ルアナは箒の言葉にやはり呆れた様子で息を深く吐き出した。

 少しだけルアナは空を見て、もう一度篠ノ之箒に向き直る。

 

「不純ね……ああ、不純でしかない」

「なんだと!?」

「ハッキリ言えば、無意味な事に尽力し、無駄に墜ちて無駄な犠牲を出した。挙句にその理由に他人を使う。不純以外にどう評しろという?」

「無駄とはなんだ!」

「無駄よ、無駄。意味が無い。もっと安全に、【銀の福音】を倒せた筈なのに、ソレを選択しなかったアナタ達は無駄の犠牲で、無駄の極みでしかない」

 

 淡々と述べていくルアナ。その言葉に圧倒されていく五人。けれどもその中で篠ノ之箒だけはルアナに牙を向いている。

 

「無駄ではない! 現に私達は戻ってきているではないか!」

「もっと安全な方法があっただろう、という話をしているの。アナタ達の帰還は元々一番最初に考えられているわ。ソレを無茶して勝手に出撃したことに私は無駄と言っているの。おわかり?」

「ッ――けれど、お前は落ちたではないか!」

「私は擬似ISだもの。落ちた所で余程の事じゃない限り次の日には再生する。だから私の安全は度外視した。アナタ達がより安全に戦える為に情報を得た。別にアナタたちの為に落ちた、とは言わない。私が落ちたのは私の責任。けれど、ソレを理由にして敵に突っ込んだ事は許される事ではない」

「…………」

「アナタたちは私と違って、死ぬ可能性があるの。ISに守られているけれど、それでも可能性はあるわ。だから、」

「……ISであるお前にはわからないだろうな」

 

 箒の一言にルアナの言葉が止まる。

 既に吐き出された言葉を飲み込む事は出来ない。出来ないからこそ、箒は吐き出してしまう。

 

「お前は、私たちの思いなど知らない様に話す。ただ利己的に、計算された言葉だ。人間は正論だけじゃ動けないんだ! だから私たちはお前の為に戦った! どうして分からない!」

「……分かりたくないわ。だって、私は―」

 

 ISだもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 月はずっと変わらない。

 あの日も、この日も、いつの日も。

 

「……」

 

 紫銀の少女は空を見上げて溜め息を吐き出した。まったく、馬鹿らしい、と。

 自身が守らないといけない存在が、自分の望んだ形でなく、別の形で力を得ただけではないか。

 ソレだけの筈なのに、どうしてここまで苦しむ必要がある。

 

 さぁ、笑ってみせろ、ルアナ・バーネット。

 守らなければならない存在は……。

 

 

 殺さなくてはいけなかった人間が育ったのだぞ?

 

「くひ、くふ、ひひっ」

 

 さぁ、嗤ってみせろ、無名の少女よ。

 恨んだ相手を殺す理由が出来たのだ。

 

「クヒッ、ヒヒッヒッハハハハハハハ!!」

 

 これ程嬉しい事は無いだろう。

 これ程喜ばしい事は無いだろう。

 さあ、嗤え。嗤うのだ、ルアナ・バーネット。

 

 

 その瞳から流れる水が乾くまで、嗤ってみせろ。

 一振りの刃物よ。




>>【白式・刹血華】
 読みは【ビャクシキ・セツゲッカ】。当然、仮名。もう少しいい名前があればいいなぁ、とか。(チラッ
 武装面は相変わらず。文章中に書いたように「近づいて斬る」という事を主軸に置いた機体なので、結構な速度とソレに対応出来る処理能力がある。
 《合口拵》は見た目、鍔の無い柄。言ってしまえば棒。そこから《零落白夜》の圧縮刃を出現させる。圧縮したことでエネルギー効率、出力共に上昇している。故に公式のスポーツとしてのIS競技で使いにくいモノとなった。

 圧倒的な速度に対応する為にバイザー(仮面)が装着されたが、完全に作者の趣味であることは秘密である。テキトーな理由さえ付けてれば問題ないって束さんから聞いた。
 装甲に溝が彫られており、その部分にエネルギーを注ぐことにより擬似的な《零落白夜》を発動させる事が出来る。言ってしまえば「エネルギー攻撃? 何それ、美味しいの?」状態である。
 当然、擬似的なモノなので、完全に無効という事にはならないが、かなりの軽減率は保持している。
 エネルギーを流すと赤く発光するのも当然作者の趣味なのであまり突っ込んではいけない。

>>もっと簡単に新しい白式の説明を!
 圧倒的! 圧倒的単機撃墜能力! その力! まさに暴力的!
 力こそ全て! 正義とは力なのだ! ファッハッハハハハハハハ!!

 こんな感じ。

>>―ISだもの
 るあな。
 ちょっとした拒絶の声。こうでもしないとルアナは泣いて全員の無事に安堵してしまったのでしょう。いや、ないかなぁ。






>>アトガキ
 猫です。
 これにて臨海学校編は終わりとさせていただきます。
 次からは夏休み編になるんじゃないかなぁ……とか。
 とりあえず、過去編を入れる事と、シャルロットの選択、簪ちゃんとデート、箒さん改正、は予定してます。
 一夏くんの戻し作業は……もう少し後ですかね。

 そういえば、感想欄で悪かったのは束さんなの? という話が出てましたが。
 この作品に置いて一番の加害者は私に他なりません。

 簡単に落としてそのまま放置とかですからね。イヤー、ホント、誰が悪いんでしょうね。
 と、冗談を言ったところでここまで終わり。
 読んでいただき感謝感激です。

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