よくある展開、よくある言い回し、よくある描写。
先に書いておきます。
グロ注意。いや、グロって程でもないと思うんですけどね……。ポロリもないし
前回の予告? 知らないですネ。
「来い、【白式】」
「行くぞ【紅椿】」
十一時半。ルアナが斥候として出撃して既に十分ほどの時間が経過していた。
送られてくる映像から目標IS【銀の福音】の武装の特徴、スペック上わからなかった近接戦闘の能力がある程度判明した。
そして、今、砂浜には白と紅のISが立っていた。
高速で動く事の出来る【紅椿】を駆る篠ノ之箒。そして、ISを即時無力化出来る必殺の剣を持っている【白式】を纏う一夏。
【紅椿】の上に【白式】を乗せ、目標ISまで接近。そして【白式】の一撃により沈黙させる。至ってシンプルな作戦である。
「じゃあ、箒。よろしく頼むな」
「本来なら女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが今回だけは特別だぞ」
ふふん、なんて鼻を鳴らして少しだけ得意げに、自信過剰で彼女はその言葉を言った。
その言葉に一夏は安心したように息を吐き出して口を開く。
「ありがとう。ルアナの奴を早く助けてやらないと……」
「む……」
得意げだった顔は不満顔へと変わる。普段の一夏ならこの表情の変化も、その前の自信過剰な声と表情にも気付くことが出来ただろう。
けれど、今の一夏にそんな余裕など一切ない。
ソレはこれから自分がする実戦に緊張している事もあるのだが、それ以上に一夏はルアナの事が心配であった。擬似ISと言っても、ルアナは傷付く。一人で戦うルアナに手助けをしなくてはいけない。
箒はその言葉に対して面白くないと感じてしまう。当然、彼女がルアナに墜ちてほしいなんて願っている訳でもなく、ただ純粋な恋心による嫉妬だ。
『織斑、篠ノ之。準備はいいか?』
二人のISに千冬からの通信が入る。千冬の言葉に反応するように二人は見合わせて、頷く。
『今回の作戦内容を改めて確認する。確認するまでもないが、一撃必殺だ。バーネットが稼いだ時間、収集した情報、全てを無駄にしてくれるな』
「了解」
「織斑先生。私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいのですか?」
『……そうだな。だが、無理はするな。実戦経験が皆無であるお前を出すのはそのISのお陰だ。判断を誤るな、意識を整えろ、実力を見誤るなよ』
「…………了解、です」
千冬のトゲのある言葉に少しだけ箒を俯いて歯噛みする。
私ならば、出来る。私と、この【紅椿】なら……!
千冬は箒を見ながら小さく溜め息を吐き出してしまう。この役目は本人の隣にいる愚弟にでもやらせるつもりだったというのに、その愚弟はハッキリ使いモノにならないのだ。
『アチラに着いたなら、バーネットの指揮下に入れ。コチラからの命令もするが、詳しい状況はアイツの方が理解している筈だ』
「…………」
『作戦内容も伝えている。質問は?』
「納得できません」
『篠ノ之、納得する必要はない。従え』
「私と【紅椿】なら!」
『……篠ノ之、三度目は言わんぞ。従え』
「ッ……はい」
悔しそうに言葉を飲み込み、無理やり自分を抑え込んだ。
ハッキリ言えば、千冬は現在のこの二人を戦場に出す事を許可したくはなかった。ソレは二人が家族、知人である事以前に、問題を抱えているからだ。
先行している存在がルアナではなければ、一夏もある程度落ち着いた意識を持つことが出来るのだけれど。
それも、無理だろう。
それをフォローすべき箒もこの状態だ。
千冬は誰にも悟られずに溜め息を吐き出した。
『では、はじめ!』
溜め息を吐いた所で事態が改善される訳でもない。この二人を出撃させない、という手もあるが、ソレは危険度が増してしまう。
かと言って、この作戦が危険ではない、と言われればそうでもない。常に危険は含まれる。安全な戦闘行為など有りはしないのだ。
――頼んだぞ、ルアナ。
彼女ならば、おそらく二人の手綱を上手い具合に取れる筈だ。
そんな確信にも似た何かを千冬は心に想い、二人を送り出した。
ソレはすぐに後悔へと代わってしまう事を、この時の千冬は知りもしない。
◇◆
所と場所が変わり、海上数百メートル。
爆発音と火花が断続的に散る戦場。
「アハハハハハハ! とってもいいわ!」
そんな中、場には不釣り合いな程楽しげに笑うルアナの声が響いている。
右腕が爆炎により黒く焼かれてしまっているが、次の瞬間には粒子を生み出して真っ新な彼女の腕が姿を現している。
不死身という訳ではないが、【ルアナ・バーネット】という存在は怪我を瞬時に直す事が出来る。故に高速で無茶な動きをして、例え骨を折ろうが彼女にとっては関係ない。
そんな不死身と戦うのは歪な翼を背中に備えたIS【銀の福音】である。
高出力推進機としての能力とエネルギー弾を放つ事の出来るその翼。重要軍事機密という冠に違わない精密さで急加速、急旋回、そして殲滅攻撃の出来る翼。
その翼を向けるのは、歪な笑みを浮かべている狂人であり、不死身とも言えるルアナなのである。
不死身、と言えどルアナとて馬鹿ではない。痛覚は存在しているので爆炎に包まれた腕は無傷だと言うのに痛みだけは伝えてくるのだ。
それでも、そんな事がどうでもいい程に、この戦闘を楽しんでいるのが彼女である。
「ねえ、楽しみましょう? くひっ、脳内麻薬を吐き出して、何もかもどうでも良くなっちゃうぐらい! 私と一緒に狂って死になさいな!」
ルアナのバーニアが光を灯す。同時に【銀の福音】の翼が反応し、翼に備えられた銃口から光の弾丸が放たれる。
何の因果か、鳥の羽にも似たその光る弾丸はルアナに向かい放たれる。
ソレを正面から捉えているというのにルアナの顔にはやはり歪んだ笑顔が浮かんでいる。
「いいわ! くひっ! とっても、ステキねぇ!」
あろう事か、ルアナは『光の羽』から逃げる訳でもなく、突貫。迎える様に、バーニアを吹かして真正面に突っ込む。
【銀の福音】に感情があったならば、舌打ちをしただろう。驚く事など最早無い。目の前にいる敵は狂っていて、愉しんでいて、そして何よりも繊細で冷静過ぎるのだ。
迫っている羽の一枚をロールして回避、そのまま何かに弾き飛ばされた様に真横へと移動され次の羽が回避される。
その横への移動も勢いが強すぎれば別の羽に当たるというのに、羽が起こす爆発は一切起こらない。
羽の檻を容易く潜り抜ける事が出来た狂人は笑みを深くしながら手に持ったナイフを投擲。正確に羽の合間を抜けてそのナイフは【銀の福音】の頭部へと吸い込まれていく。
在り来たりな、けれども異常過ぎる攻撃に【銀の福音】は反応し、頭をズラす事で回避をする。
「接近完了ぅ!」
「――」
【銀の福音】はルアナの声に驚く事もしない。当たり前の様に彼女が振り下ろしたナイフを防ぎ、防いだ事で空いた腹部にルアナの蹴りが入り込む。それすらも予見……いいや、『見る』事の出来た【銀の福音】は後ろへと急加速し、その蹴りを避ける。
けれど、ルアナとてソレを『見る』事は可能なのだ。急加速に対応し、バーニアを吹かして同じ速度で移動して離れる事を許さない。
が、僅かながらソコに空間は生じてしまう。
翼から『光る羽』を無理やりソコに入れて【銀の福音】は牽制。ルアナもソレに反応し、ナイフを手放して誘爆を狙い後ろへと引く。
「なるほど、暴走してるって事はISが自意識を持ち、攻撃を対処してるのね……」
だからこそ、ルアナの攻撃は全て見られてしまう。反応されてしまう。
至って簡単な話。殴られようとすれば人は避けるだろう。避ける事が出来ないのはその危険が避ける動作に移る前に自身に降りかかるからだ。
ハイパーセンサーを用いれば、前後左右上下、全てを見る事が可能だ。それで反応が出来ないのはソレを対処するべき体が反応していないのだ。
けれども【銀の福音】はISが暴走し、ルアナの判断ではその反応すらもISが行っている。スーパーコンピュータよろしくの反応速度、対処方法を人間を比べる事がおかしい。
「操縦者のクセなのかしら? 随分パターンがランダムだけれど……まあ、いいわ。愉しければ」
戦闘の途中でそんな事を口走りながら、ルアナは息を吐き出した。
同時に自身の違和感を感じている。けれどもその違和感が違和感として検出出来ない。それ故に違和感であるのだけれど。
オカシナ感覚はある。あるのだけれど詳しく場所が分からない。違和感はあるのに、どこに違和感があるのか分からない。
――束かしら……面倒ね
頭の中で嫌らしく笑う兎女を思い浮かべ、そして消した。相手は軍用のISだ。普段の様に相手の弱点を教える様に戦える訳ではない。
それこそ、今回の戦闘は自分にとって久しく悦楽と興奮に浸れる時間なのだ。間延びさせるつもりはないけれど、終わらせるには勿体無い。
けれども、出来ることならば、先ほど伝えられた作戦参加者二人には来てほしくはなかった。
ソレは自分が予想している内で最悪である。何よりも、回避しなくてはいけない。けれど、回避する事が出来ない事も理解している。
賽は振られる前だが、既に握ってしまっている。
袋小路に簡単に誘導された。
頭の中で何度も繰り返す後悔を振り払い、ルアナはナイフを握り直す。
あの時、自分が出る、と言わなければおそらくあの四人の中から誰かがこうなっていた。それは一夏にとって利益になり得ない。
「――――La」
「あら、ごめんなさい」
ルアナは飛んできた攻撃を簡単に回避した。どれもこれも必殺を狙った一撃だというのに。
戦闘中、という事も忘れてしまった。ルアナにとってこれ程の違和感は無い。
それでも、その違和感など最後に考えればいい。戦闘が終わってから。少なくとも、この戦闘には必要ではない。
そう考えてからルアナが自身の違和感を拭った。
その違和感を拭う行為に違和感を思ったが、けれどもルアナはそれも無視をした。
「それじゃあ、再開しましょうか」
ニタリと笑みを深くして、ルアナはバーニアを吹かした。同時にアラートが響く。
ルアナの『視界』の中に超音速で飛来する味方の存在。ルアナは舌打ちをする。
一撃必殺を主とした奇襲。と千冬から聞いていたルアナからすればソレは愚策にも近しい接近である。
既に抜かれた《雪片弐型》も、真正面からコチラに突っ込んでくるその姿勢も。全て、気に食わなかった。ルアナが演じていた役が口うるさい役だったならば二人に対して説教する事も出来るが、ソレはルアナでもバーネットでもする事は出来ない。
少なからず、相手が人間だったならば超高速による一撃必殺は有効だろう。けれども相手はISなのだ。
ルアナは吹かしたバーニアを更に強くして、【銀の福音】の腕を掴む。逃がす訳にはいかない。これで決着するなら、ソレが一番いいのだ。
「ごめんなさいね、私も仕事なの」
「ルアナ!」
【銀の福音】に呟いた言葉をかき消してしまう様に一夏は叫び、そして剣に極光を纏わせた。
敵性ISの接近はおそらく知られていただろう。ルアナの《視界》はそれこそ其処らのISと変わりはない。重要軍事機密で広域殲滅型の【銀の福音】と比べるまでもない。
故に、その一撃を当てる為にルアナは【銀の福音】の腕を掴んだ。
けれども、混乱などしない機械は事務的に計算を始める。
あの極光に触れてはいけない。ソレは確定的だ。
そして先ほどまで戦っていた狂人はソレを当てる為に自身を抑えた。
極光持ちの技量は不明だが、自身が動けば当たらないだろう。この拘束もあの一撃が目的ならば。
そう計算したところで【銀の福音】は行動をする。
翼を広げ、その銃口を一夏と箒へと向ける。銃口には光が溜まり、それが一瞬消える。瞬間、《光る羽》が大量に一夏達へと向かった。
「――やっぱり?」
【銀の福音】を拘束していたルアナは情けない声を出して拘束を解く。バーニアに溜め込んでいたエネルギーで瞬時加速を行い、ナイフを《光る羽》達へと投擲する。ナイフは羽の一つに当たり爆発。その爆発に巻き込まれる様に他の羽が爆発していく。
一夏達はその爆炎に突っ込み最短距離で【銀の福音】へと接近を果たした。
「うぉおおおおおお!」
一夏の攻撃。
しかし攻撃は当たらない。当たらないどころか反撃とばかしにタイミングを合わせられて、蹴りが当たっている。
「一夏ッ!」
「……はぁ」
ルアナはバレないように溜め息を吐き出した。
覚めた。覚めてしまったのだ。もうこの戦闘に何の魅力も感じない。部屋で篭って自慰でもした方が興奮するだろう。
けれど、そんな事も言ってられないので、ルアナは二人へと通信を繋ぐ。
「馬鹿?」
「ルアナ! 大丈夫か!?」
「五月蝿い、愚者め。予告攻撃なんてヒーローみたいな事はテレビの世界でやってろ」
「バーネット! 一夏はお前を助けに」
「足手纏いにいらぬ心配」
「なっ!? 第一先ほどもお前がちゃんとアレの腕を掴んでいれば!」
……ルアナは聞こえてくる音声を切った。離れた場所でルアナを見てキャンキャン騒いでいる箒を見て、溜め息を吐き出してしまう。
あの時に自分が手を出さなければ、《光る羽》に当たっていただろう。一夏はエネルギー攻撃を無力化出来るが、全て叩き切るという事も不可能だろう。故に箒に当たってしまう。
「――言い返さないのか! この臆病者め!」
散々吠えただろうと適当に音声を繋ぎ直せばまだ吠えている最中であった。
ルアナは溜め息を吐きだした。
「ちょんまげ女。私の指揮下に入ってもらう。一夏を連れて戻れ」
「ルアナ!? 俺達はお前を助けに」
「そうだぞ!」
「邪魔。というか、最初の奇襲すらマトモに出来ない新兵なんていらないわ。それこそ、セシリアちゃんかラウラちゃんの方が使えるし」
「何を言う! 【紅椿】はどのISよりも優れているのだぞ!」
「それで、アナタが優れているという訳でもないし、アナタが自慢する事でもないわ。むしろ恥じなさい、篠ノ之箒」
「貴様……!」
「……お前、バーネットか?」
「! あの別人格か!」
「はぁ……私はルアナ・バーネット。他の何でもないわ」
疲れてしまう。ルアナは眉尻を下げて言葉を吐き出した。
作戦報告のついでに千冬から『頼んだ』とお願いされたけれど、その任務も放棄したくなった。
【銀の福音】はルアナと箒、そして一夏による三方向からの包囲によりその行動は制限されている。
散々にルアナの力量は叩き込んでいるので、他二人を狙い隙を見せる事もしない。幸いにしてその他の二人も攻めてもいない。
「もう一回言っておくわ。私はザコ二人を抱えて戦うつもりはないわ。帰りなさいな、邪魔よ」
「お前に守ってもらう必要などないッ! 見ていろ!」
箒の【紅椿】が動き出す。ソレと同時に【銀の福音】も行動を開始する。一夏も少しだけ遅れ、箒のフォローをする為に動き出す。
ルアナは舌打ちをしてバーニアに光を灯す。
箒は携えられた刀を抜き、何もない所で振るう。生じたエネルギー波が直進し、【銀の福音】へと向かうが、直進したソレは容易く回避される。
「La――」
少しだけ甲高い機械音が鳴り、【銀の福音】の翼が展開され、銃口が箒へと向かう。それすらも厭わない様に箒は接近を試みる。
放たれた《光る羽》。直進で迎えた箒は迫った羽を刀で叩き斬った。触れてしまったのである。
瞬間に箒の目は紫銀と淡い緑を捉えた。そして、爆炎。
「箒! ッ!」
一夏は迫る《光る羽》を《零落白夜》で無力化し、移動させられた箒の元へと飛ぶ。
そこには背中を少し爛れさせたルアナとそのルアナを睨んでいる箒がいた。
「何をするんだ!」
「ソレはコッチのセリフよ、ちょんまげ女。なんて事してくれたのよ」
「なんだと!? 攻撃しなくてはアレを落すことは出来ないだろう!」
「私達だけで落とす必要性もないでしょう? もっと落ち着きなさいな」
「バーネット! 無事か!?」
「無事よ。怪我も無し」
「背中が思いっきり火傷してるだろ!」
「あら、一夏が私の心配だなんて。《ニンジン》でも降り注ぎそうね」
「ルアナの体だからな」
「あらそう。ついでに見てわかる怪我を聞くのもどうかと思うわ。大丈夫だけれど」
「そうか……よかった」
背中に粒子が集まり、弾ければそこには火傷の痕すらない綺麗な背中が見えた。けれど、箒にとってソレを見て眉間を顰めてしまう。
「一夏、バーネットはISなのだから怪我も何もないだろう」
「ルアナは人間だ! 家族を心配するのは当然だろ!」
「……その問答、今必要かしら?」
怒り出した一夏を落ち着ける様にルアナは一夏の肩を叩いた。
怒りを落ち着けた一夏は苦々しい顔をして、箒にごめん、と一言だけ謝罪を入れた。
箒は突然怒り出した一夏に驚き、謝罪すら頭の中に入っていなかった。箒がこれ程怒る一夏を見たのは初めての事である。
「ちょんまげ女。少しは落ち着いたかしら?」
「あ、ああ」
「ならいいわ。一夏、狙えるのなら一撃を狙っていきなさい。アレの動きは私が止める。篠ノ之さんは一夏のフォローしてちょうだいな」
ルアナは話しかけてもどこか上の空である箒に向かって溜め息を吐き出す。
パンッ、と乾いた音と共に箒は意識を戻す。同時に頬に鋭い痛みが生じた。
「な、何をするんだ!」
「起きたかしら? 無手という武術はあるけれど、意識まで手放す必要はないでしょ?」
「む……」
「頼りにしているのだから、頼むのよ」
「む……そうか」
ルアナの言葉にどこか得意げな表情になった箒。
何も考えていないよりも、マシか。と判断した結果ではあったけれど、ルアナは少しだけ後悔してしまった。
無謀特攻など、この戦闘に置いて必要はない。時間稼ぎする意味もないが、それこそ一夏が確実に必要、という訳でも無い。
早期決戦をするには必要だけれど、持久戦に追い込むならそれ相応の適役がいる。
早期決戦をする時点で一夏を使わなくてはいけない。加えて一夏がいることでこの戦闘も素早く終わらせなくてはいけない。
「では、状況開始」
淡々と吐き出されたルアナの言葉。その言葉と同時に動き出したのはルアナ本人である。
バーニアに光を灯し、【銀の福音】へと向かう。迎撃に出された《光る羽》達も先にナイフを投擲する事で前方で誘爆させる。
誘爆しなかったものは回避し、【銀の福音】へと接近を果たした。
回避したモノも一夏が《零落白夜》を発動させて無効化させている。問題など、なかった。その無効化をするまでは。
ルアナは一夏の背後にいる漁船を《視界》の中に捉えた。当然、ここら一体は封鎖しているので、あれは密漁船という事になる。
その密漁船を背にして、一夏は《零落白夜》を発動させた。その密漁船を守る為に、である。
思わず舌打ちをしてしまう。
別段、密漁船だから守らなくていい、などルアナは言わない。犯罪者だから、などと吐き出せる口をルアナは持ち合わせていない。
けれども、守る事が出来る人間は最低でも相応の力量を持っていなくてはいけない。もしくはその守るべきモノが大切なモノであるべきだ。
少なからず、犯罪者……一般市民を守る行為に出た一夏は相応の力量を持っている訳でもない。ただの英雄的行為、ルアナからすれば単なる偽愛精神で偽善でしかない。
故に、触れれる程接近した【銀の福音】の攻撃が予想できてしまった。自分でもそうする。
数的不利を覆す方法。弱い敵から狙えばいい。更に言えば相手は犯罪者も偽善者である。簡単な行為だ。
【銀の福音】は翼を展開。
【ルアナ・バーネット】はバーニアに火を灯して箒へと向かう。
【銀の福音】から《光る翼》が放たれる。
【ルアナ・バーネット】の《視界》の端に零落白夜が解けた《雪片弐型》を放り、箒へと向かう一夏の姿を捉える。
悠々と間に合うだろう。
けれど誘爆させても抜けるモノがあるならば、範囲外へと逃がす事が重要だ。
箒を守る様に盾に徹した一夏。
その一夏に最高速のまま抱きつき、後ろにいる箒を巻き込んで移動するルアナ。
このまま速度を維持し、範囲外へと逃げる事が出来れば……
ルアナの脳裏、それこそ【ルアナ・バーネット】が告げるけたたましい電子音。
ルアナの《視界》が真っ赤に染まる。
―右太腿に損傷
―左足に損傷
―右胸に損傷
―鳩尾に損傷
―喉に損傷
―左腕に損傷
―右二の腕に損傷
頭に流れる警告。けれどソコに攻撃を食らった覚えなどルアナにはないし、怪我をしている感覚などない。
けれど【ルアナ・バーネット】は警告をしている。
ルアナの脳裏に兎がニヤリと笑った。
―あの《ニンジン》はこの時の為かッ!
ルアナは判断し、同時に解決法を再度求め始める。
架空の怪我の治療によりエネルギーは底に近い。ルアナは歯噛みし、一夏と箒を前方に捨てて、空中で急停止する。
化け物の作成、という名義ではあるけれど、束にとって邪魔だった自分を削除したい作戦だったのだろう。
そんな予想を立てて、ルアナは溜め息を吐き出す。
「この為に生きていた……のかしら。ルアナなら、教えてくれるのでしょう?」
ソレは誰でもない、彼女の呟きだった。
同時に、【ルアナ・バーネット】は爆炎に包まれる。《光る羽》を生身で受け、焼かれた肌と肉が再生する。けれど《光る羽》は容赦なく彼女を焼き尽くす。
けれど彼女は再生をする。そのエネルギーが尽きるまで、それを繰り返される。
爆炎に肺を焼かれても、腕が千切れ飛んでも、足が機能を果たさなくなっていても。容赦も慈悲も手加減などありもしない。
「ルアナッ!」
「待て、一夏!」
「離せ! 箒!」
篠ノ之箒に抑えられ行動を制限された一夏。その脳裏に過ぎるトラウマ。
様々な感情でグチャグチャになった顔で爆炎を見て、一夏は唇を噛んだ。
《光る羽》の砲撃は終わり、爆炎が風に吹かれて消える。
そこには紫銀という言葉など湧き出ない……人型の何かが在った。
片腕だけが残り、他の四肢は既に付いていない。肌は焼け焦げ黒く、黒くない部分がない程なのに、それでも赤い液体を至る所から流していた。
その人型の何かは弱々しく、まるで義務の様に粒子を纏い、溶けた肌を再生し、頭部を再生し、他の四肢を再生する前に粒子が霧散した。
ようやく人だと言えるようになったソレは備わったPICが切れたのか海へと落下していった。
>>よくある展開
一夏を守って、落ちる展開。メインブースターがイカれただとッ……!
>>よくある描写
不死身を殺す為にいっぱい殺す為の描写。うん、あるある
>>誰でもない、彼女
ルアナが【ルアナ・バーネット】になるよりも前の話ですので、いつか過去編を書きます。たぶん
>>トゲトゲしい千冬
原作では一夏が軽く注意したのだけれど、この作品では一夏くんが切羽詰まってるので千冬さんに咎めてもらいました
>>箒「納得できません」
同世代、さらに言えばあのルアナ・バーネットの指揮される事の抵抗
>>箒「私ってばさいきょーね!」
>>ルアナ「強いのはISであって、君ではない。ソレは誇る事ではない、恥じる事だ」
実際、恥じる必要もありません。総合して強さです。今の箒さんは【レベル14の勇者が伝説の武器一式】を装備した状態みたいなモノです。最大レベルが100と考えても仕方ない事かもしれません。
>>じょ~ずに焼けましたー♪
こげ肉 を 入手 した !
>>早期決戦?持久戦?
実際、あの戦いの目的は【銀の福音】の沈静化です。一夏の《零落白夜》に頼る事で早期決戦する事も可能ですが、誰かが囮と時間稼ぎをして他の専用機持ちで物量戦線も出来ます。
性能がモノをいうIS戦闘だからこそなんですかね……。まあ、もうどうでもいい話ですけど
>>ルアナがした偽善者行為
一夏と箒が保護対象である【ルアナ】だからこその行動です。ちゃんと理由付けしてるので矛盾ジャナイヨ!
>>猫毛布
エイプリルフールに書いている作品キャラ達を集合させてワイワイさせたり、この作品のキャラでルアナを着せ替え人形みたいにしたりする話を書こうと思ったけれど、気がついたらエイプリルフールが終わってたフール。