私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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ショットガンかパイルバンカーか悩んでたら遅れました。

初戦です。
派手にイこう。盛大にな!


2014/02/02
誤字訂正

2015/04/28
誤字訂正


22.安定性能汎用機体、ピーキー操縦者

 サクサクとスナック菓子を食べるルアナ。

 ベッドの上で簪から借りた漫画を片手で捲りながら、しっかりとソレを汚さないように器用にスナック菓子は消費されていく。

 

「ねえ、ルアナ」

「んー」

 

 声を掛けたのは当然同室である簪だ。

 こちらはルアナが横になっているベッドに背を預けて座りながら小説に目を通している。

 

「月末のトーナメント……なんだけど」

「んー」

「やっぱり、私、出れない……かな」

 

 サクリ、とルアナの口が停止する。

 スナック菓子の食べる音が停止した事で室内は静かになり、簪は目だけを横に動かしてルアナを確認する。

 顔の位置はちょうど後ろになるのでわからなかったけれど、パタパタとゆっりと膝を起点に動かされていた足は少し浮いた状態で停止している。

 その足が、静かにベッドへ下ろされて、簪の持つ小説に影が入る。

 首を動かして上を見上げれば、目と鼻の先にルアナの顔。

 

「今回も、不戦敗?」

「うん……でも、ほら、理由ある不戦敗だから」

「…………」

「うん……分かってはいるよ」

 

 簪は首を戻して、俯く。開いていた本は自然と閉じられ、膝を抱え込む。

 どうしても、うまくいかない。

 どうしても、姉のようにはなれない。

 どうしても、姉になれない。

 

「やっぱり……」

「簪」

「……ううん、違うよ。私は……お姉ちゃんじゃないもん」

「……」

 

 何度も悩んで、何度も考えて、何度も自己否定して。

 その結果うまくいかなくて。でも、きっとお姉ちゃんなら。

 

 そう簪は考えてしまう。何をしても付きまとう姉の影。その影に恐れながら、それでも簪は頑張る。

 頑張っている。頼る事もできるのに、付き纏っている影がソレを邪魔する。

 だから簪は一人だ。

 一人で頑張るしかない。

 ソレを自分の中で一人の方が楽だ、なんて理由を作っても。

 

「きっと、作っても、どうせ言われるんだ。『さすが更識楯無の妹だ』なんて……」

「簪」

「どうせ、私は、なんでも出来るお姉ちゃんと違って……どうせッ」

「簪」

 

 ルアナはふにりと簪の頬を抓った。痛い、とは言い難い程優しいものだ。

 抓られた事で簪の言葉は必然的に止まる。止まった事で抓っていた手は外され、そのまま頭の上に持っていかれる。

 

「簪は頑張ってる。その全部は私は知らないけど、そこまで追い詰める事はない」

「でも、まだ完成してないんだよ? どれだけ頑張っても結果が出てないんだよ?」

「……全ては結果を見られる。過程はどうでもいい」

「どうでもいいなら……私がどれだけ頑張っても」

「だから、時間も掛けていい」

「……」

「ゆっくりと、出来るところから終わらせる。誰も簪の生き方を強制しないし、簪の頑張りも矯正しない」

「……うん」

「それに、作りあげれれば……みんなも簪を見る」

「そう、かな?」

「それはわからない。未来の事は未来でしかわからない。だから、人は頑張れる」

 

 頭から手を離したルアナはそのまま天井を見上げる様にゴロリと寝転がった。決してワクワクさんの相方と一緒に寝ている訳ではない。

 

「人は、頑張れる」

「……ルアナ?」

「…………なんでもない」

 

 簪に背を向ける様に体を回したルアナ。きっとガラでもないことを言って恥ずかしくなってしまったのだろう。

 そう簪は思い、それ以上の追求を止めた。

 こうして自分の弱音を受け止めてくれる大事な友人だ。きっと彼女に相談すれば手伝ってくれるだろう。

 けれど、それは自分の中の何かが許さないのだ。まだ自分で出来るのだから、相談するのはそこからである。

 

「私でも手伝う事は出来る。ご利用の際はお菓子と一緒にどうぞ」

「ふふ、そうする」

 

 背中を向けながらもいつも通りにルアナはそう言い捨てる。

 そんな様子に笑ってしまう簪。

 ルアナに対する様々な噂が飛び交う中、簪はその噂を全く信じていない。ズバズバと何かを言う事は知っている。それでも、みんなが思っているよりも、ずっと彼女は優しい。

 それこそ、きっと彼女には何か隠さないといけないことがあり、それに誰かを巻き込まない為に毒を吐いているに過ぎない。きっと彼女は悪と戦っているのだ。

 いやいや、彼女にそこまで期待はしてはいけない。

 少しだけ、いいや、かなりブッ飛んだ妄想をして簪はようやく頭を落ち着ける。後半部分は完全に妄想の産物だが、前半部分は至って冷静な簪が思っていることだ。

 

 毒を吐くルアナとこうして簪に対して優しいルアナ。簪にとってのルアナという存在は後者なのだ。

 そういう存在だからこそ、背中を向けたルアナを見て簪は気を抜いてしまう。

 みんなに嫌われているルアナ。

 それを許容しているルアナ。

 

「私は……ルアナのこと、好きだよ」

 

 …………。

 少しの間があって、簪は自分の言葉を振り返った。

 振り返った結果、顔が熱くなった。彼女の顔がヤカンなら甲高い音を立てて沸騰を知らせる程熱い。

 頭の中で何度も否定を用意して、その否定も否定する。

 同性として、そして友達として好きなのだ。ライク、そう、この気持ちはライクなのだ。

 けれども、もしかして、いやいや、それはない。本当だろうか?

 と悩ましく頭を抱えてしまう簪。好きだと言われたルアナは相変わらず無反応で背中を向けている。

 あうあうと悩ましく声をあげる簪はようやくそんなルアナの様子に疑問を抱いた。耳をすませばかすかに聞こえてくる寝息。

 安堵の息を吐きだした簪。どうやら聞こえていなかったらしい。

 どうして安堵の息を吐き出す必要があったのだ。とまた簪は顔を少し熱くする。

 頭と顔を冷やす為に簪は立ち上がり、慌てて風呂場へと向かう。

 まったく、何を考えているんだ自分は!

 と相変わらず自分を叱咤しながら。

 

「…………」

 

 脱衣所に消えた簪を確認してルアナは体を転がす。

 天井に顔を向けて、細く息を吐きだした。

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

「ハァッ?!」

 

 月末になり、トーナメントの組み合わせが発表される。

 その発表に驚きの声を出したのは他ならぬ織斑一夏だった。それは自身のチームがシード権を得ている事よりも驚いた。

 

「どうしたの、一夏」

「どうしてルアナがアイツと組んでるんだよ!」

「え……?」

 

 一夏と、名前で呼ぶ程度に交友を深めたシャルルも対戦表を確認する。一夏とチームメイトである自身もシードを得ている。これは当然である。

 そしてその横には二つのチームがある。その二つの内、勝ち上がった方が自身たちと戦うのだけれど、そこには見知った名前が並んでいる。

 ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 そしてルアナ・バーネットである。

 非常に言いづらい言葉で罵られたにも関わらず、散々に険悪なムードを漂わせていたにも関わらず、二人が組んでいる。

 当然クラスの全員は驚いた。あのラウラによる発言は聞いていない生徒も当然驚いた。

 驚きはしたが、スグにその驚きは自己問答によって解決される。

 

―嫌われ者同士、余り物同士

 

 つまり、そういう事である。

 単純に考えれば、それこそ当然の結果だ。簪の様に自分から辞退する事もなかったのだから結果的に嫌われている二人が組むのは必然的だ。正確には組まされた、というべきか。

 そんな騒ぎの中、ルアナがふらりとトーナメント表の前に歩み寄った。

 自分の位置を確認して、そして踵を返す。

 

「ルアナ! ちょっと待てよ!」

 

 一夏の声にルアナは立ち止まる。

 そのまま振り返り、一夏へと体を向けた。

 

「何?」

「何、も何もないだろ! どうしてアイツとチームなんだよ?!」

「理由なんて、無い」

 

 無いのだ。それこそ其処らで騒がれている理由である。と言葉には出さないルアナ。

 事実は大きく異なるのだが、今はそれでいい。

 

「それに……彼女と組むのが一番効率的だから」

「効率的って……」

「優勝は私達がもらう。それだけ」

 

 もう言う言葉などない。と言わんばかりに踵を返すルアナ。一夏はもう一度制止の声を上げたが、ルアナは聞かずに歩き去った。

 手を伸ばした一夏はその手を下げて、握りこぶしを作る。

 

「…………なんでだよ」

「一夏、今は月末トーナメントに集中して」

「……わかってるさ。わかってるさ」

 

 二度、同じ事を言い、一夏は深呼吸をする。

 自分の中の悩みを息と一緒に吐き出して、頭を切り替える。

 どうあれ、アレだけがルアナの理由ではないのだろう。どうせスグに戦う事になるのだから、そこで聞けばいい。

 勝てば、聞ける。そこで彼女の宣言した目的は潰えるのだから。

 

「悪い、シャルル」

「ううん。それより、ボーデヴィッヒさんのAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)の対策を練らないと」

「そうだな」

 

 一夏は以前の怒りに任せた攻撃を思い出す。寸でのところで千冬に止められていたが、実際は千冬が止める直前に一夏の腕は止まってしまった。

 それは不自然な停止で、そのことをシャルル(物知りさん)に聞けばそういう装置である事も証明できた。

 尤も、それらしい言葉が出てくるだけで、実際の効果は一夏の体験した事しかわからないのだ。

 

「ともかく、俺たちの出番はまだ先だし……次の対戦者の偵察に行くか」

「そうだね。バーネットさんが言った通りなら、それこそ対策を練るのに重要そうだ」

 

 一夏とシャルルは動き出す。向かう場所はそろそろ始まるであろう戦いの場。目的は偵察というモノだけれど、それこそ相手は無条件で情報を晒すしかないのだ。

 ならば見るしかない。

 

 

 余談だが、一夏とシャルルが動いた事により生徒達の波も同時に動き出す。これもまた当然の事なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

「―――…………ふー…………」

 

 ルアナは深呼吸を繰り返す。

 それは深い深い呼吸だ。静かに吸い込んだ空気をゆっくりと、長く、肺から押し出していく。

 

「なんだ、緊張でもしているのか?」

「してるように見える?」

 

 そう言い返しながらもルアナの深呼吸は続く。

 壁に背を預けたラウラは瞼を閉じて時間が来るのを待機している。それこそ、まるで軍人の様に。

 

「しかし、専用機がないとはな」

「あら、私みたいな存在に専用機が与えられる訳がないじゃない」

「それでよく『私が敵にならない』などと吹いたモノだ」

「交渉事にハッタリは重要でしょ? それに、ハッタリで無い事は証明するわ」

「…………」

 

 ラウラは瞼を上げてルアナのいる場所を見る。

 ルアナとそしてその目の前に鎮座する緑色の機体。名を【ラファール・リヴァイヴ】。IS学園に置かれている機体の一つで、全体的に平均的である機体。

 汎用性、豊富な後付武装の出来る機体である。ある筈なのだが、今目の前にあるのはそんな汎用性も安定した性能も、ましてや豊富な後付武装も無い、とてもピーキーな仕上がりである事をチームメイトであるラウラは知らされている。

 

「……本当にソレでいいのか?」

「あら、心配してくれるのかしら?」

「違う。初戦で面倒を増やすな」

「大丈夫よ、大丈夫。所詮は初戦よ。手の内を明かす事もない。それこそ派手に、印象深くいきましょう」

 

 さて、とルアナは漏らしてふぅ、と一息吐き出す。

 【ラファール・リヴァイヴ】を纏い、何度か手の動きを確認する。次は足を動かして、ルアナは愉しそうに呟く。

 

「楽しみましょう。それこそ、戦いよ」

 

 背中に付随したショットガンを二つ手に持ち、アリーナへと飛び立つ。

 その後ろ姿を見送り、ラウラは思わず溜め息を吐いてしまう。自分は随分と狂人と組んでしまったようだ。

 改めて溜め息を吐き慣れた様に【シュヴァルツェア・レーゲン】を纏い同じくアリーナへと飛び立つ。

 

 

 歓声。

 それは対戦が始まる事と今から戦う者に対しての敬意と期待を込めたモノだ。

 ルアナは空に浮かびながら瞼を閉じる。

 次第に聞こえている歓声が静かになる。呼吸が一定に保たれる。

 

―あぁ、ダメ。我慢出来ないかもしれない

 

 ゆっくりと瞼を上げて、()を見据える。

 【打鉄】という防御重視のISとルアナと同じ【ラファール・リヴァイヴ】。一緒、と言ったがルアナの様にショットガンを持っている訳でもなく、戦闘が始まってから量子変換で取り出すのだろう。

 

 ルアナはいつもの様に、無表情を作る。

 

「先に言う。私はコレしか持ってない」

 

 そして宣言してやった。

 両手に持つショットガンを少し前に出し、ルアナは言った。

 

「それだけで十分」

 

 だからコレだけしか持ってない。

 それは挑発である。量子変換で虚空から武器を取り出せるISに置いて最初から武器を出している意味はそれほど無い。武器を呼び出す数秒のアドバンテージを得れるだけだ。

 そのアドバンテージも最初から武器を見せる事により対応策のディスアドバンテージがある。結果的には不利だ。

 故に対戦者は武器を出してはいない。

 

 

 そしてラウラは知っている。目の前にいる人形が事実を言っている事を。

 なんの挑発でもない。この女はこんな馬鹿げた事をやってのけようとしているのだ。

 

『それでは両チーム、所定の位置へ移動してください』

 

 オープンチャンネルで聞こえた声に四名は従い、少し距離を開けて移動した。完全に制止して、アリーナにカウントが浮かび上がる。

 

 音を立ててカウントダウンが開始され、1秒になった瞬間にルアナはついに耐え切れずに笑ってしまう。

 0カウント。

 ルアナはワンテンポその場に留まる。バーニアは一度火を灯されたのか、光って、その光を収めた。

 

 その様子を見て対戦者二人は先ほどの挑発がハッタリと本当に挑発であることを判断した。

 まだ距離はある、ここは銃で牽制と様子見をしよう。

 量子変換により手元にアサルトライフルが取り出され、そして【打鉄】はその援護を伴い接近戦をしようと刀を取り出す。

 

 ガチリ、とその刀と何かがかち合う音が鳴った。

 

「え?」

「クヒッ」

 

 【打鉄】の少女の目の前には銃口。

 正眼で構えていた筈の刀はいつの間にか接近していたルアナの持つショットガンの銃身によって逸らされている。

 瞬時加速。その言葉が脳裏によぎった。けれど対応も出来ない。

 待っているのは鉄の弾丸の雨だけだ。

 

「…………」

 

 ルアナは相手を確認しながらトリガーを引く。自動装填される次弾。トリガー。次弾装填。トリガー。

 単純な繰り返し。カチ、カチ、と次弾がなくなるまで続けられたその行為。

 相手を見れば少し前にバリアエネルギーが切れていた様だ。

 

「何発か無駄にした。勿体無い……くひっ」

 

 誰にも聞こえない様に、チャンネルすら開かない、地声でそう呟く。

 

―ああ、やっぱり我慢出来ない

 

 ルアナは下唇を舐めて湿らせる。

 弾のなくなった片方のショットガンを捨てて、もう一人の対戦者へと向く。

 

「さあ、派手にイキましょう? パーティはそうでないと」

 

 ニタリと口角を歪めたルアナ・バーネット。

 思わず震えてしまう対戦者。当然その気持ちは行動に現れる。つい先ほどチームメイトにされた事が自分にもされる可能性がある。というか、されるのだ。

 自然と体は後ろへと動き、ルアナが動いたと同時に距離を開ける。

 ルアナの持っているのはショットガンだ。近距離で無ければそれほど効果はない。

 たとえ瞬時加速で接近されたとしても、その方向とは違う方向へと逃げればまだ距離は開くのだ。

 

「逃げるの?」

 

 直線距離の瞬時加速。

 開いていた距離が詰まる。けれどもソレはわかっていた事だ。すぐさま直角に曲がり、新しく距離を開ける。

 

「はい、捕まえた」

「――え?」

 

 それはとても不思議な事だった。自身の移動した方向に銃口があったのだ。

 まるで自分を迎える様に。吸い込まれる様に。

 

「あぁ、ツマラナイ……つまらない」

 

 そう言葉に出して、数十発に及ぶ銃声がアリーナに響いた。




>>あっるぇ? ルアナさんの専用機は?
 彼女の専用機は無いって彼女自身言ってたでしょ。ISは持ち合わせていない。

>>瞬間移動?
 瞬時加速を二回しただけです。追い越して迎えただけです。
 空気抵抗で骨折? してたとしてもカンケーネーデス。

>>【打鉄】【ラファール】のコンビ
 ヤム……かませさんです。

>>どうしてラウラ戦闘に出てないの?
 ルアナが自身の戦闘を見せる為です。任せてもよかったけれど、こと戦闘に置いてルアナが我慢出来る筈なかった。

>>なんだ戦闘狂か
 勿論、戦闘狂です。まあ、色々他にも狂ってる部分がありますけど、今は単なる戦闘狂です。

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