私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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遅くなり申し訳ありません。
少し場面は飛び飛びですが……まぁ、大丈夫ですよね。
何かあれば
訓練~銃の貸出部分、進撃のラウラまで書きます。流れはほぼ原作といっしょなんですけどね。


19.肌色の宝石と蜜色の雫

「バーネットさん! どういうことよ!!」

「…………」

 

 ルアナ・バーネットは思わずキョトンとしてしまった。同じ料理部員である女生徒からもらったプリンに舌鼓を打っていたからか、口にはスプーンが銜えられている。

 カチャリと歯とスプーンを鳴らして、ルアナは頑張って頭の中を整理して、言い寄られる理由を探した。

 目の前の少女に言ってのけた料理の評価を思い出す。それほど悪くない評価だったはずだ。彼女の料理はルアナの中でも上から数えた方が早い。

 最下位付近が近頃更新されたばかりの料理番付。ソレを思い出した限り、ルアナは少女にアドバイスだけしかしていない筈だ。

 つまり、こんなに詰め寄られる理由がルアナにはない。ましてや同じ料理部だ。更識でもなければ、織斑ですらなく、近頃追い詰めたデュノアですらもない。

 そういえば、と思い出すついでにルアナは目の前の少女の名前を思い出せない事に気が付いた。甘い食べ物の名前である事は思い出せたが、思い出せない。

 そんな目の前のサトウだか、シュガーだか、シュクルだか、ツッケロだか、サッカロンだか、ともかくそんな感じの名前だった筈の少女は首を傾げたルアナの肩を掴む。

 

「月末のトーナメントに優勝すれば織斑くんと付き合えるってホント?!」

「一夏と?」

 

 いや、ないだろ。

 それはルアナの正直な感想だった。

 あの唐変木であり、好きになって恋愛が始まるとなんとも純情であるあの一夏がトーナメントの景品として自分を祭り上げるなど、ありえないのだ。

 ちなみにこの時点でルアナは目の前の少女の名前を思い出すことを諦めた。彼女はずっと少女か或いは女生徒、もしくは料理部員として扱われる。

 

「いろいろ噂が流れてるのよ!」

「あ、それ私も聞いたよ!」

「で、どうなの?!」

 

 料理部内では比較的絡みやすい、というか小動物な扱いを受けているルアナ。クラスの面々がこれを見ればなんというのだろうか。

 今も話を聞き出すという理由からプリンが取り上げられてあうあうと両手を伸ばしていたりする。

 スプーンで掬われた肌色の宝石。その宝石には琥珀色のグラデーションが掛かり、ふるふると怯えるようにその身を揺らしている。

 口を開き、肌色を追いかけて、歯と歯が打ち合う。舌には何も乗っていない。

 

「どうなの? バーネットさん」

「私は、知ら、ない!」

 

 区切りの一つ一つでガチンガチンと歯を打ち合わせてプリンを追ったけれど、どうやら徒労だったらしい。

 ともあれ、こうして最も一夏に親しい女の子であるルアナは情報源として料理部員達に信頼されていた。代償として製作した料理が奪われるが、何もしなくても奪われるのだから報酬はある方がいい。

 奪われた挙句食べれないプリンを恨めしく数秒ほど見つめてルアナは机に突っ伏した。表現するならば、ぐで~、である。

 そんな、ぐで~、となってしまったルアナを見て料理部員たちは本当に知らないことを確信する。コレで彼女が情報を吐かなかったことはないのだ。

 尤も、織斑一家に関する情報の七割方は虚実であることは未だに知られてはいない。彼女たちの中の織斑千冬は現実と一緒で(は違い)精錬された(怠惰まみれの)生活を送り、家事も全て出来る(出来ない)、そんな素晴らしい姉であり、理想のお姉さまなのだ。

 

「ほら、バーネットさん、あーん」

「! あー……んぅ」

 

 プリンの掬われたスプーン。それを口に入れて救われたルアナ。

 ん~! と唸りながら頬を抑えている彼女は本当に幸せそうだ。そして、実に小動物的だ。

 さらに次を求めるために瞼は閉じ、大きく口を開けて女生徒の方へと顔を向けている。

 女生徒は慣れたようにその口にプリンを放り込む。またルアナが幸せそうな顔をしている。

 

「うーん、バーネットさんが知らないとなると……ガセかしら?」

 

 ガセ、つまり、嘘の情報。

 うーむ、と頭を悩ませる料理部員達。そんな中、ルアナは俯いて口角を歪ませる。

 

「クヒッ……」

「バーネットさん?」

「んぅ~……美味しい」

 

 ルアナはカチャリとスプーンを鳴らし、やはり笑顔を顔に貼り付けた。

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 一夏の目の前には黒いISが居た。

 銀色の髪を靡かせ、黒いISは自身の武器を一夏へと向ける。

 

「私と戦え……! 織斑一夏!」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒが叫ぶ様に、そして馬鹿でもわかる程の宣誓をする。

 一夏は眉間に眉を寄せて、溜め息。

 

「嫌だ」

 

 拒絶。周りに居た、いつものメンバーも安心したように息を吐きだした。

 隣にいるシャルルから借りた銃を肩に担いでみせた一夏は断る理由を述べる。

 

「ボーデヴィッヒさん? と戦う理由は俺にない」

「お前に無くとも……私にはある!」

「……それは、アンタの理由だろ?」

「そうだ! だから戦え! 私は貴様があの人の弟だとは認めていないぞッ!」

「…………」

 

 一夏の中で何かが湧き上がり、水泡の様に破裂した。心という水から湧き上がった水泡。その中に収められた空気が一夏を支配していく。

 

「お前が認めなくても、誰が認めてなくても、俺は千冬姉の弟なんだよ……」

 

 ボソリとそう呟き、一夏はハッとした様に深呼吸をした。大きく息を吸い込み、そして吐き出す。

 そして、わかりやすい様に、大きく溜め息を吐きだした。それは自身の心を無理やり落ち着かせる為であった。

 けれどもそんな事とはお構いなしにその溜め息はラウラの琴線に容易く触れる。

 片眉を吊り上げたラウラが左手に銃を召還。トリガーに指を掛ける。

 

 火薬に火が打ち付けられ、銃口から圧縮された空気が伝播し銃声となって耳へと伝わる。

 打ち上がった銃口を軽く視線で追い、ラウラは舌打ちをした。

 

「少し、唐突すぎやしないかい?」

 

 硝煙を吹かした銃口をラウラへと向けていたシャルルは真剣な口調で言ってのけた。目を細めて、ラウラを睨んでいる。

 

「――邪魔をするな」

「邪魔だなんて、とんでもない。ドイツの挨拶なんでしょ? こうして銃を突きつけ合うのは」

「ハッ、第二世代が粋がるなよ」

「その第二世代に反応速度で負けた第三世代が何を言っているんだい?」

 

 ガチャリと鉄が擦れ合う音が鳴り、ドイツの挨拶が交わされる。勿論、こんな挨拶、ドイツはおろか他の国でもしてはいない。

 向けられた銃口を目にしながら、シャルルはニッコリと笑い銃を下げた。

 突然の行為にラウラは驚いてしまったが、答えはどうやらすぐにわかったようだ。

 

「何をしている」

「……」

 

 アリーナに千冬の声が響いた。怒気のない、タダの声だったというのに、いやに耳によく通る声だ。

 一方的に銃を構えるラウラと構えられているシャルルと一夏。

 客観的に見れば、どちらが悪いかなど一目瞭然だ。主観的に見たところで、悪意があった人間は同じなのだが。

 

「……覚えていろ、デュノア」

「さて、水よりもビールを飲んでいる酔っ払いの言葉なんて覚えてられないよ」

 

 ラウラの睨みに対してもどこ吹く風か。しっかりと肩を竦めた挑発を織り交ぜてシャルルは返答した。

 去るラウラを見送りながらシャルルは心の中で安堵する。

 

―よかったぁあああ……引いてくれたぁ

 

 心からの安堵である。けれどもそんな事を表には出さない。出した所で、意味などないのだ。

 あのまま戦闘になっていたならば、恐らく自身は負けていただろう。それ程にシャルルの持つ《ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ》とラウラの黒いISには性能の差が開いている。

 良くて引き分け。上手く立ち回れれば辛勝。残りは負けだ。さらに言えば勝っても負けても得のない戦闘なのだ。それこそヤル価値など一切ない。

 けれども挑発を織り交ぜたのは、

 

「悪いな、シャルル」

「いいよ、こういう時はお互い様だよ」

「……そうか、じゃあ、ありがとう」

 

 この為である。

 着々と一夏を攻略しているシャルル・デュノア。攻略対象(織斑一夏)の後ろには今にもハンカチを噛み千切りそうなセシリア。眉をヒクつかせている箒。そして怒ってますと体からナニかを出している鈴音。

 ISを着用している筈なのに、そんな三人にまったく気づかない一夏。恋は人を盲目にさせるというが、朴念仁は恋を戸棚の奥に仕舞い見ないようにしているのではないか。

 

「一夏!」

「男同士とは……不純ですわ!」

「あんたって、そういう趣味があったのね……」

「いや、何の話だよ。え? なんで俺引かれてるの?」

「さぁ? 惹かれてるのは確かだけど、ボクは知らないよ?」

「だよなぁ……なんで引かれてるんだよ……」

 

 朴念仁ここに極めり。

 実際にはわかっているシャルルと真面目に分かってはいない一夏。そして責められる一夏。

 そんな一夏と密接な関係になりたいシャルル。子種とか恋心とか、そんな純粋な望みではなく。

 

―きっと言われるわぁ、や・く・た・た・ず……クッヒヒ

 

 そう嗤った彼女を見返す為に。そして父親にソレを言わさない為に。

 シャルル・デュノアは織斑一夏の情報を得る為に最善で動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これで一夏の信頼は得た筈だ。

 シャルルはシャワーを浴びながら考える。

 勢いよく出るお湯を全身に浴び、体にお湯が滑っていく。

 お湯により湯気が浴室を密封し、彼……いいや、彼女のスタイルを隠している。

 

「……あとは、どうやってISのデータを得るか、か」

 

 ボソリと呟いた言葉。

 頭の中で何度もシミュレートを繰り返し、最善を探る。探るのだけれど、どれも決定打に欠ける。

 そもそも他人であるシャルルが一夏のデータを得るという事がまず難しいのだ。

 いっその事、事情を話てしまおうか。

 そう思って、シャルルは頭を振る。それは最終手段だ。そしてソレで一夏が賛同するかは分からない。

 ハニートラップ……と考えてシャルルは自身の体に触れた。

 

 程よく膨らんだ乳房。腹部はしっかりと括れ、ヒップも引き締まっていながらも柔らかさは保たれている。

 強いて言うならば、女性として数ヶ月過ごしてはいないので主観的にお腹のお肉がやや気になる程度。

 客観的に言えば引き絞るところも無い。それこそ完璧でビューティフルでそしてキュートだ。

 主観的に気になるところがあればソレは自信の降下に直結する。

 ルアナも言った通り、自身に自信がなければハニートラップなど出来ないのだ。尤も、ルアナは羞恥心が欠落しているが……。

 

「はぁ……やっぱり地道にいくしかないか……」

 

 もう少し評価を上げて、一夏と訓練を繰り返し、データを地道に集める。男性操縦者としてのデータは自身との相似点を知りたい、と言えば……。

 そう考えて、シャルルはこれからの予定を組み立てる。

 粗方組み終えて、もう一度溜め息。

 

 さて、そろそろ一夏も戻ってくる筈だ。簡単に体を洗ってしまってサッサと上がろう。

 

 そう意気込んで、シャルルはボディソープのボトルを手に取る。軽い。非常に、軽い。

 望み薄だったが、とりあえずキャップを外し、容器を逆さに向けて押し出してみる。

 細い口から、ひゅー、と情けない音が出て、肝心の内容が出てこない。

 

「………………」

 いや、確か洗面所に代えがあった筈だ。

 

 少しの沈黙のあとに、そう思い出したシャルルは浴室の扉に手を掛けた。いいや、掛けようとした。

 一人でに開く扉。

 

「え?」

「おお、シャルル。ボディソープが…………ん?」

 

 一夏は白い湯気の中目を凝らした。

 男である筈の同室の人間の胸部。そこには男性であったならば「どんな鳩胸なんだよ」と突っ込まなければいけない程素晴らしい乳房。

 腹部は程よく肉付き、綺麗な臍まで見えている。そのまま視線は下腹部に向かい、少し湿っている水滴を浮かべた髪と同色の淡い茂み、そして男性ならばある筈のソレが無いところまで確認した。

 両者、数秒ほど思考停止をして、最初に意識を回復させたのは一夏だった。

 

「あー、その……悪い」

 

 かなり気まずそうにその言葉を残して、一夏は代えのボディソープを浴室の中へと置き、扉を閉めた。

 無慈悲なのか、慈悲深いのか、ともかく閉められた扉を目の前にしてシャルルは未だに固まっている。

 

 見られた?

 見られた!

 どこも隠して無い!

 ヤバイヤバイヤバイ!

 見られた!

 叫ぶか?!

 いいや、叫ぶと誰かが来るかもしれない!

 マズイ、マズイ!

 

 無限にループする羞恥。先ほど考えた計画が音を立てて崩れていくシャルル。

 顔を真っ赤にして、唇を噛んで叫ぶのを我慢する。

 同時に頭の中で最悪のシナリオが形成されていく。

 通報から、バッシングを受け、本国へ強制送還。そして本国は自身を切り捨て、自身は嘘つきと後ろ指さされて生きていく。いいや生きていけるのだろうか。

 ともかくとして、一時の恥など捨ててしまえ。今は人生的に問題だ。

 

「全部……ぜんぶ見られた…………」

 

 尤も、思春期真っ只中の彼女にはソレは無理な話であるのは言わなくてもわかる事である。

 そして安心しなさい、デュノアさん。全部は見られていない。それこそ全体は見られはしたが、湯気で見れなかった部分も、角度的に見れなかった部分もあるのだ。非常に惜しい、いや、残念……非常に幸運ながらだ。

 

 

 

 少しシャワーを浴びて頭をクリアにしたシャルルはかなり陰鬱な気持ちで脱衣所に立っていた。

 今の気持ちを一言で言い表すのなら、死にたい。である。

 尤も、見られてしまったものは仕方がない。切り替えなくてはいけない。無理だとしても。

 

「これは……最終手段しか……ないよね」

 

 見られてしまったことで吹っ切れたのか、シャルルは決心をする。

 少しだけボカして事情を話す。そしてその上でハニートラップを仕掛けよう。

 これは仕方ない事なのだ。自信を持て、シャルル……いいや、シャルロット・デュノア。

 

 そう自分に言い聞かせたシャルロットは鏡の前でポージングをしてみたりする。

 これでわかると思うが、彼女、全く冷静ではない。

 よし、と意気込んで、ショーツを履き、上着を手に取る。手にとったところで停止して、ジャージを手に取る。

 そう、今からシャルロットは大胆に行かなくてはいけない。そう! 裸ジャージで迫ればきっと織斑くんも……!

 

 もう一度言おう。

 シャルロット・デュノア。錯乱中である。

 

 ジャージを素肌の上から羽織り、ジッパーを胸の中程まであげる。

 鏡を確認すれば、股下は少し隠れる程度で胸は膨らみを確認できてしまう。

 

 ヤバイ、この格好かなり恥ずかしい。

 

 着る前にわかる事である。

 そんな格好で自身の体を横から確認したり、前かがみになったりと様々の状況を考える。

 恥ずかしい。けれどソレでなくては織斑一夏を落とすことは出来ないだろう。

 勿論、錯乱中の彼女が勝手に答えを出しただけである。

 

 深呼吸をして心臓を落ち着ける。そう、肝心なのは自信だ。自分に対する自信があればこんな恥ずかしい格好の一つや二つ。

 段々と羞恥心を忘れる為に現実逃避をしているシャルロット。勿論、顔は真っ赤である。

 

 ふぅ、と息を吐きだし、シャルロットはようやく脱衣所の扉を開く。

 そして目の前には紫銀の髪をした人形がいて。伏せていた顔を上げて深い青色の瞳をシャルロットへと向けた。

 

「……変態?」

「はぐぅっ?!」

 

 シャルロットの心にダイレクトアタック。

 シャルロットは現実へと帰ってきた。

 

「ど、どうしてバーネットさんが?」

「一夏から呼び出された」

 

 ルアナは至極面倒そうに息を吐き出して、持っていたシーツをシャルロットへと被せる。

 

「裸で出てくると思った」

「いや、流石にソレは……」

「思った結果、もっと恥ずかしい姿だったけど」

「…………」

 

 シャルロットには言い返すことなど出来はしない。勿論、ルアナもさせる気は無い。

 

「ルアナ、もういいか?」

 

 一夏の声がしてソチラを向けば、一夏の目に黒い布が巻かれている。

 裸で出てくると予想していたルアナが予め一夏の視界を阻害するためにした目隠しである。

 

「まだ、思ったよりも変態的な格好で出てきたから、まだ」

「ちょっと、バーネットさん。情報に誤りがありすぎだよ」

「…………変態」

「言い返せない自分が悔しい!」

「おーい、外していいか?」

「ダメ」

 

 少し楽しそうに会話する二人に目隠しをしている一夏。果たして彼の脳内でシャルロットはどんな格好をして登場しているのだろうか。

 少なくとも、全裸よりも恥ずかしい格好である事は確かである。

 そんな悶々とした気持ちの一夏が目隠しを外すのはもうしばらく後であるのだが……別にどうでもいい話でもある。




>>湯気で見えづらかった……
 ワンサマーの前に湯気などないも同然であり、湯気がなければ肌の細やかさやこんな所では言えない箇所まで見えてしまう。一夏様様。

>>シャルルが黒くない?
 原作通りデスヨー、ヤダナー。試作の段階では
「頭にビールでも湧いているの?」
 とか言ってましたけど、まだ大丈夫です。多分。

>>シャルルの腹に贅肉などない
 それでも女の子は気になっているのです。

>>裸ジャージ+ショーツ
 素晴らしい装備である

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