私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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ようやく原作メインエロインである、彼が登場です。
よーし! お風呂を覗く準備をするぞー!!(なお実行するかは不明


15.傷付かない人形

「初めまして、シャルル・デュノアです。フランスから来ました」

 

 そこには爽やかな少年がいた。曰く、守ってやりたい系な美少年。ふわりとした金髪を後ろで一纏めにして優しい笑顔を浮かべている。

 もしも現実にプリンスが居たならば彼のことだろう。

 

「この国には不慣れな事が多いと思いますが、どうぞよろしくお願いします」

 

 ニコリ、と新しい微笑みを浮かべた美少年。彼こそ貴公子だ。

 さて、そんな貴公子を見たルアナは目を輝かし、まるで恋する乙女の様な……。冗談である。

 声を聞くだけ、むしろ声すらも聞こえていないかのように、いつもと同じようにただ空を見上げて綿菓子を思うだけなのだ。

 

「お、男……?」

「はい。こちらに僕と同じ境遇の人がいると聞いて本国から転入して――」

 

 そんな言葉と同時にルアナはようやく貴公子を視界の中に入れた。ジィ、と見てから視界をズラす。

 シャルル・デュノア(貴公子)の隣にいる銀髪の少女。左目に眼帯。右目は静かに閉じられている。

 ルアナは目を細めて、銀髪の少女を観察した。した結果、空へと視界を戻した。興味無しである。

 ルアナが空へと視界を移動させた途端に湧き上がる声。黄色い声。隣のクラスから苦情が来てもおかしくないだろう。

 尤も、他のクラスもHR(ホームルーム)中により覗きにくる人間など居ない。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

 そんな面倒そうな千冬の声が響き、女生徒達の声はザワザワと喋る程度に落ち着く。もちろん、それに対しても千冬はため息を吐いた。

 

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介の終わってませんからー!」

 

 そんな間延びした声を出す真耶。ようやく静かになるクラスの空気。時は満ちたのだ。皆の期待が募る中、長い銀髪の少女の自己紹介が。

 

「…………」

 

 始まらない。一向に始まらない。

 未だに瞼を閉じている彼女に対してオドオドする山田真耶。そんな空気を肌で感じていても少女は無反応。

 呆れた溜め息が千冬の口から出た。

 

「挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

 

 千冬の声に即答を果たした少女。パチリと開いた瞼からは赤い瞳がようやく顔を見せた。

 そんな即答をした少女に対して千冬はやはり溜め息を吐きだした。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、お前は一般生徒だ。以後、織斑先生と呼ぶように」

「了解しました、織斑先生(キョウカン)

 

 副音声では明らかに教官と呼ばれていることに気づいている千冬は注意もせずにその言葉を見送る。

 少女は一歩前に踏み出す。

 胸を張り、目を開き、顎を少し引く。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 以上です!

 と言えば二ヶ月前、彼女の丁度前にいる男と同じ自己紹介になるだろう。

 そんな特徴の欠片もない自己紹介を先にしていた織斑一夏はラウラ・ボーデヴィッヒを見る。

 ラウラも一夏を見る。視線がかち合った。目線があったならば戦いが始まるのだ。行け! 白式、十万ボルトだ!

 

「! き、貴様が―!」

「へ?」

 

 織斑一夏のトボけた声が聞こえた。

 コツコツと靴を床に打ち鳴らし一夏に近づくラウラ。同時に腕を後ろへと振りかぶる。

 ガタリと教室の後ろで音が鳴った。

 ラウラの手が吸い込まれるように一夏の頬に向かう。

 

 けれどその手は思い半ばで阻止された。

 

「面倒を起こすな、二人共」

 

 千冬の手によって腕を掴まれたラウラ。そしてもう一人。

 

「邪魔、千冬」

「織斑先生だ、バーネット」

 

 ラウラの首元に伸びるルアナの手。ソレをラウラの後ろから腕を伸ばし掴んだ千冬。もちろん、呆れたように息を吐いている。

 

「ソレは一夏に危害を加えようとした」

「だからと言ってお前が危害を加えていい理由にはならん。席に戻れ、バーネット」

「……私のモノに手を出すな」

 

 ルアナは静かに、近くにいる人間にだけ聞こえる様な声でソレだけ呟いて千冬の手を払う。

 そのまま踵を返して最後尾、窓際の自分の席へと戻る。倒れた椅子を立て直し、また空を見上げ始める。

 一段落、という風に千冬は息を吐き捨て、ラウラの腕を離した。

 

「ボーデヴィッヒ、お前もだ。理由はわからんが暴力はやめろ、面倒だ」

「……了解、しました」

 

 渋々どころか納得してない様に一夏を睨みながら一言。

 

「私はお前があの人の弟などど認めない」

 

 そう、恨みの篭った言葉を吐きだしたラウラはルアナを一睨みして教卓の前へと戻った。

 暴力はいけないと言った本人が一番暴力的なのだから、説得力の欠片もない言葉である事は誰も突っ込まない。

 

「何か言ったか? 織斑」

「いいえ、何も言ってません」

 

 心の中で吐きだした言葉がどうやら千冬には聞こえるらしい。一夏は精一杯首を横に振った。

 暴力はいけないと言った本人が暴力的なのだから、説得(物理)力は強大だ。突っ込む愚かな馬鹿はこのクラスには居ない。

 ともあれ、一夏にとって面倒が増えているのは間違いでは無いようだ。

 

「ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二アリーナへ集合しろ。以上だ、解散」

 

 パンパンと手を叩き、全員の行動を促す千冬。

 着替えと聞いて慌てた様に立ち上がった一夏の首根っこを掴んだのも千冬だ。

 その握力によって一夏から低い声が出てしまった事は書かないでおこう。

 

「織斑、デュノアの面倒を見てやれ」

「きゅ、きゅび」

「よろしく頼むぞ」

 

 むしろ天国でよろしくしそうな一夏の首を開放して千冬はシャルル・デュノアに「アレに面倒を見てもらえ」と呟いて教室を出た。

 首が残っているかを確かめながら一夏は呼吸をする。どうやら欠損は無いようだ。

 そんな一夏に近づいたシャルルはチラリと最後尾座席にいるルアナを見た。

 教卓前で一部始終見ていたシャルルにとって、彼女は完全に恐怖の対象だ。

 ラウラの平手打ちが届くまでにあの場所から今現在自分のいる場所まで移動したのだ。恐ろしい以外に表現しようがない。

 そんな恐怖対象は空を見上げながらアクビをして、ムニャムニャと口を動かしている。空想の綿菓子でも食べているのだろうか。

 とにかく、自分の安全を出来る限り確保したシャルルはようやく織斑一夏に話しかけることに成功する。

 

「よろしく、織斑君。ボクは――」

「あー、悪い。急ぐぞ」

「え、わぁ?!」

 

 尤も、それが自己紹介は失敗に終わった。

 一夏はシャルルの腕を掴んで走り出す。掴まれたシャルルは転けないように不格好ながら一夏に合わせて走る。

 

「え? え?」

「女子が着替え始める前に移動するぞ」

「え? …………あ、そうか」

 

 学年どころか学校単位で一人、いいや、現在は二人しかいない男なのだ。

 他はすべて女子。つまり更衣室の分別もされていない。教室で着替えても問題などありはしない。

 そんな魅惑の花園から脱出しなくてはいけない男二人。

 二人を見送る、どころかはやし立てるように黄色い声が響いてる。

 男二人が手を繋いで逃避行しているのだ。受けなのか、果たして攻めなのか。彼女達の論議は終わることはない。

 

 

 さて、ともかくとして。ルアナの発言である。

 もちろん、あれはあの場の近くに居た人間にしか聞こえていない言葉だ。そう、近くにいた人間。

 人の口には戸を立てれないというか、戸を立てる暇もなく噂は広がる。

 ヒソヒソと聞こえる内容。

 今までの内容は、人形の様に整った顔のルアナ。そしてソレと共に過ごしていた一夏。ルアナを着せ替えたり、その他、花も恥じらう乙女には決して言えない言葉をしている一夏。

 それが一変。ルアナ攻めという新しい噂が広がった。ついでに花が恥じらい過ぎて全力で逃げ出す様なハードな噂も広がった。

 首輪とか、ムチとか、奴隷とか、つまり、そういった類の噂である。女生徒は一夏を変態、もしくは鬼畜だと思っているのだろうか。

 思っているのだろう。勿論、思っているだけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実践訓練を行う」

 

 千冬の声がアリーナに響く。真剣な眼差しの生徒達。その中に三名程頭を抑えた存在。

 セシリア・オルコット。凰鈴音。そして織斑一夏。

 織斑一夏はどうでもいいが、セシリアと鈴音は遅れた一夏を注意していると怒られたのだ。勿論、勝手な意見である。

 実際の所、遅れた一夏の馬鹿らしい言い訳を聞いて、いつの間にか女性関係の無駄話へと昇華し、転入生に叩かれそうになった話になって、そして二人は叩かれたのだ。

 纏めると、無駄話をしていたら叩かれたのだ。

 叩かれた事を不当だと鈴音はブツクサと呟いている。曰く、一夏のせいだと。

 詳しい所を描写などしないが、おそらく、きっと、どうせ一夏が悪いのだ。残念ながら女性関係で君に正義も味方も存在しない。もげろ。

 言葉もなく、それこそ不当だ、と言いたげな一夏を後ろに控えていた鈴音が蹴った。

 適度に引き締まった一夏の太腿に蹴りが当たる。一夏は感謝の言葉をいうことはない。何度も言うようだが、彼はこの女の園唯一だった男性だが、変態でもなく紳士なのだ。ジェントルメンなのだ。

 裸にネクタイも着用しないし、女の子に叩かれて喜ぶこともない。

 このジェントルメンはそんな事には反応しないのだ。尤も、思春期男子としても反応しない、いわゆる不能なのかもしれないが。

 

「では今日は実演してもらう。活気溢れんばかりの十代女子もいることだ。 凰! オルコット!」

 

 一夏を蹴っていた鈴音と巻き込まれてセシリアの名前も呼ばれる。建前的には専用機持ちだからという理由である。

 実際のところジト目で恨めしく一夏を見て話を聞いていなかったセシリアが呼ばれたのは必然である。

 一夏のせいで呼ばれた……。

 どうしてわたくしが……。

 至極面倒そうに前に出た二人。そして一夏は知らんぷり。

 そんな二人に対して千冬は口を寄せて魔法の言葉を吐き出す。

 

「アイツにいいところを見せれるぞ」

 

 するとあら不思議、先程までやる気の欠片すらも見当たらなかった二人がツンデレのソレの様に上がっていく。

 べ、別に一夏にいい所を見てもらう為じゃないんだからね。

 なんて聞こえてきそうだ。勿論、一夏はそんな事知らないし、千冬も『アイツ』と言っただけで一夏とは一言も言ってないのだ。

 自爆とは怖い物である。

 そんなやる気ゲージが上がっている二人。当然、いいところを見せるのは自分だと相手を挑発。

 今にも戦闘を始めそうな二人に対して千冬は溜め息を吐くこともなく訂正を加える。

 

「慌てるな馬鹿共。対戦相手は――」

 

 千冬が言い切る前に甲高い音が響く。

 スラスターを全開にして、空を切り裂き、高速に身を預ける。

 預けた結果、盛大に謎の飛行物体は地面に激突した。当然、声など置き去りだ。

 そんな落下地点は土埃が立ち、その場には一夏が居たはずだ。やったか?!

 

「ふぇぇ……」

 

 そんな間抜けた声を出したのは高速に身を任せたおっぱい、失礼。巨乳……いや、山田真耶。

 さて、土煙が晴れれば潰れて肉片になった一夏がいるはずなのだ。血と混ざった泥と土に汚されたソレが其処らに広がって女生徒達の悲鳴が響くのだ。

 

「危ない」

「ごめんなさぁい」

「いや、なんで俺蹴られたんだよ。もっと方法あっただろ」

「ない」

「ないのかよ……」

「……お姫様抱っことか?」

「それは俺の精神が死ねる」

 

 さっすが一夏さんダゼ! まさか潰されてないなんテ!!

 冗談はさておき、転けている一夏と突っ込んできた真耶に説教をしているルアナ。周りには土埃が纏わり付いて、光を反射している。

 

「……はぁ、山田先生」

「は、はひぃ!」

「……さて、この山田先生はこう見えても元代表候補生だ。こう見えても、だ」

「に、二回も言わないでくださいぃ」

 

 淡々と言ってのけた千冬。それに涙目涙声になりながら縋る元代表候補生様。

 ズレたメガネを両手で直した巨乳メガネ(まやせんせー)

 

「さて小娘ども、不安だろうがさっそくコレと戦ってもらうぞ」

「え、あの、二対一でですか?」

 

 鈴音が思わず言ってしまう。先ほどの行動を見ていると本当に実演できるのかと不安になる。

 セシリアと鈴音。互いに代表候補生だ。そんな二人と地面に激突をかました天然メガネ巨乳教師(まやせんせー)が戦うのだ。勝負はそれこそ直ぐに決まるだろう。

 

「安心しろ。今のお前たちならすぐ負ける。適度に揉まれてこい」

 

 揉む物がない人間が一人いるのだが、いや、それは言わないでおこう。

 千冬の挑発にムッとなる二人。そしてその隣では「煽らないでくださいよぉ」と弱気に縋っている天然ドジっ子メガネ巨乳教師(まやせんせー)

 そんな真耶を千冬は睨む。ヒィッと真耶が零して、肩を落とした。なんとハッキリした上下関係。

 

「では、始め!」

 

 中空へと飛び去った三人。

 そしてコップに水を注ぐように気軽に、火に油を注ぐように。

 

「山田先生。こっちで説明をするから適度なタイミングで撃墜してくれ。何、いつでも落とせるのだから適当に回避運動をして時間を稼いでくれ」

『ふ、ふぇぇ?!』

 

 瞬間、山田先生を襲う弾幕の密度がやや上がった。

 そんな事をした千冬はさて、と空から目を離しルアナを軽く見る。

 ルアナはその視線を受けてヒラヒラと右手を動かすだけで応えた。

 

「さて、デュノア。山田先生が使っているISの説明をしてみせろ」

「は、はい!」

 

 突然当てられた事で驚いたシャルルは呼吸を簡単に整えて朗々と【ラファール・リヴァイヴ】の説明をしていく。

 ルアナはそんなお堅い説明を聞き流し、自身の左腕を見た。

 ジクジクと痛む腕。他の視線を当てない様に隠しはしたけれどISスーツには赤い液体が染みて、左手には赤い液体が垂れている。

 指先まで伸びた赤い液体を舐めとり、猫が毛づくろいするようにペロペロと小さな舌で左手を舐めていく。

 シャルルの説明が終わる頃には舐め終わった。ルアナはそのまま左腕部分のISスーツを捲る。

 酷い傷がある筈のソコには彼女の綺麗な肌があるだけだ。傷など存在はしていない。

 そんな腕を見下し、ルアナはスーツを戻した。

 空を見上げれば爆炎が散り、油を注がれた火が二つ程落下してくる。

 

 二人が自分のミスを棚に上げて言い争うまで、それほど時間は掛からなかった。

 どんぐりの背競べという醜い言い争い。それを苦笑しながら見ていた撃墜者。

 パンパンと千冬の手が鳴る。

 

「専用機持ちは織斑、オルコット、デュノア、凰、ボーデヴィッヒだな。では八人グループに別れて実習を行う」

 

 そう言った千冬の言葉。そして別れろの一言で人が一夏とシャルルの元に集まった。

 そして手を差し伸べて声を揃えていうのだ。

 

「はじめから決めてました。お願いします!」

 

 勿論、訓練の誘いである。他の何でもない。決して。

 ルアナはそんな波に飲まれることもなくアクビをしている。自分のペースなど乱さないのだ。

 

「バカ者共が……。出席番号順一人ずつ各グループに入れ! 順番は先ほど言った通り。時間がかかる様ならISを背負って――」

 

 と言ったところで蜘蛛の子を散らす様に生徒達が動いた。

 蟻に集られる砂糖役だった一夏は安堵の息を吐きだした。勿論、受難はまだ続く。

 

「…………」

「…………」

 

 アクビをして自分の場所へと移動したルアナはリーダーを見た。銀髪で赤い瞳を細めて自身を見るリーダーを。

 眠そうに目を細めてむにゃむにゃと口を動かしている人形とその人形に一方的な敵意を見せるラウラ・ボーデヴィッヒ。

 残り六人はこのピリピリした空気の中、実習を行うことになる。言える事はご愁傷様ということだろう。




書いている時はMF発刊の二巻を膝下においているのですが。
セシリア様の臀部と御御足が魅力的です。

色々とルアナさんが弄る内容を考えているとセシリア様に向かって
「クロワッサンが入りそう」
というのが思いつきました。
瞬間に、重音さんを思い出しました。あれはフランスパンだっけか。

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