ストライク・ザ・ブラッド 〜同族殺しの不死の王〜   作:國靜 繋

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待ってた人が居るか分からないけど、とりあえず体調が良くなったのでまた書き出します。


天使炎上
天使炎上


「は~」

 

那月がらしくもなく、ため息を吐いていた。

何時もの威厳もどこ吹く風と言った風にどことなく疲れている様だった。

 

「どうした?那月ちゃん」

 

「那月ちゃん言うな」

 

何時もの突っ込みも弱弱しく何とも、盛り上がらない状態だ。

こんな時チャンスと思い、ダアトなら抱きつくなり揉みしだくなりしそうなシチュエーションだが、やった後のリアクションもつまらないならやる意味がないのだ。

 

「で、本当にどうした?」

 

「は~まあいいか。今度アルディギア王国の王女様が来るんだとよ」

 

ため息を吐きながら言った事に、ダアトは納得した。

ここ最近、魔族狩りに聖人の遺体を使用した供犠建材、ヴァトラーの来訪にナラクヴェーラ、そして今度は、王女様と来たものだ。

立て続けにこんな事が有ったら流石に嫌気が指すのも仕方ないと思う。

それに今までのパターンから考えて、間違いなくまた何かが起きるはずだ。

第四真祖絡みのだ。

古城本人は、否定するだろうがここまで来たら一種の運命だと諦めてもらうしかないだろうな。

そう思っていた時だった。

那月のアンティークの机の上に備え付けられている電話が鳴り響いたのだ。

 

「私だ。ああ、何、ああ、分かった。詳しい事が分かったらまた連絡をくれ」

 

「どうしたの那月ちゃん」

 

「お前が気にする事ではない」

 

それだけを言うと那月は、部屋から出て行った。

言いたくないなら、無理に聞いても仕方ないなと結論付けたダアトは、暇だな~と思いながらも那月の机を漁っていたら面白い資料が見つかった。

人工島管理公社保安部から送られて来ている資料で、四人の人物について簡単にまとめられていた。

パラパラと流し読みしてみて分かった事が、この四人の人物は最近騒ぎに為っている未登録魔族同士の戦闘に関係しているようだ。

成程、これで合点が行ったとダアトは一人納得した。

ダアトにこの事を行ったら間違いなくこの戦闘が起きている場所に行きたがる、または、勝手に行って一人で場をかき乱すだけかき乱し、後は特区警備隊(アイランドガード)の連中に任せるに決まっている。

那月はそう思ったからダアトに教えなかったのだ。

まあ、実際ダアトはあそこまで大々的に戦闘行為をしていたり、事件について報道していたら、流石に朝の弱いダアトでも気が付くけど、那月としてはどうしても関わらせたくないらしい。

そんな那月の気持ちも知らず当のダアトはと言うと

 

「気にするなと言うと気に為るのが吸血鬼()の性だよね」

 

かき乱す気満々の様だった。

 

 

 

 

 

「それで、言い訳はあるか」

 

先ほどまでの勢いとは打って変わって、ダアトは那月の前で正座させられていた。

と、言うのも那月の机を勝手に漁ったのが、ばれたのが原因なのだが。

 

「お前に教えなかった私にも非があるからな。むしろ、教えなかった場合を考えていなかった私が悪いか」

 

ふんっ、と鼻を鳴らして、上から見下すような言い方だが、那月の発言としては、珍しい。

ここまで自分に非があると言う那月を見るのは、年に一度有ったら、それはそれで奇跡だと言うのに。

今日は、如何やら絃神島最後の日の様だ。

そんな事を思っていたら、那月の鋭い視線に見透かされているのではと言う不安を抱きながらも、何も考えてませんよとあくまで平静を装った。

 

「まあいい、着いて来い」

 

それだけを言うと、那月は移動しだした。

ダアトも慌てて立ち上がろうとしたが、立ち上がれなかった。

流石に長時間正座して、感覚がなくなるまで痺れた足で立ち上がろうとするのが無茶だったのだ。

 

「あ、ちょ、待って」

 

足がしびれていた為、立ち上がってこけたダアトを、笑い見下していく那月が扉の隙間から見えた。

 

 

 

 

「最初からこうしてたら良かったんだ」

 

那月の影から上半身だけを出しているダアト。

流石に行先が分からない以上置いて行かれたらどうしようもないから、急いで全身を蝙蝠化させ那月の影に入り込んでいた。

 

「なんでまた、人工島管理公社の保安部なんかに」

 

「お前が、勝手に見た私宛の資料に関係する事だよ」

 

エレベーターの扉が開き、那月は通路の奥へと迷いなく進んでいく。

 

「ヘーイ、那月ちゃん、こっちこっち!」

 

那月に対して妙に馴れ馴れしい言い方を、自分以外がする事に若干イラッとダアトは来た。

 

「暁古城と言い、お前と言い……担任教師をちゃん付けで呼ぶなといつも言っているだろ」

 

「そうだそうだ。呼んでいいのは俺だけだ」

 

那月に便乗する形で、言ったら、那月に無言で影の中に押し込められた。

その行為を、矢瀬は苦笑いをしながら見ていたが、飛び火は御免とばかりに傍観するだけだった。

 

「公社直々の呼び出しと言うからなにかと思えば……おまえか、矢瀬」

 

「すみませんね。理事会も人手不足で」

 

矢瀬基樹は悪びれずにそう言って、那月を部屋の中へと案内した。

病院の手術室に似た部屋に通され、高価な医療機器に囲まれたベッドの上に、まだ十代とおぼわしき少女が眠っていた。

大きな傷を負っているらしく、彼女の全身は包帯まみれだった。

そして、そんな傷だらけの彼女の両手足は、分厚い金属製の器具で、がっちりと固定されていた。

その子の事ばかりを見ていたダアトを差し置いて、那月と矢瀬は話を着々と進めていた。

 

「あれ、この子魔族じゃなくね?」

 

「何……つまりお前と同類か、矢瀬基樹?」

 

那月が珍しく人前で驚きを示した。

生身で何棟ものビルを破壊できる存在は、魔族の中でもごく少数だ。

ましてや、生身の人間に可能な芸当とは到底思えない。

 

「それに若干魔術による肉体改造の痕もあるな」

 

「さすがっすね。そのとおりこの子は、魔術的肉体改造がされていますが、それ以外はほぼ通常の人間と考えて問題ない、っていうのが公社の見解なんすわ」

 

ダアトが珍しく博識っぷりを発揮している事に、那月は内心驚いていた。

 

「そこの小娘の負傷程度は?」

 

「とりあえず命には別条ないって話っす。内蔵の欠損は、体細胞からクローン再生するんで」

 

「内臓の欠損」

 

「横隔膜と腎臓の周辺……いわゆる腹腔神経叢(マニブーラ・チャクラ)のあたりっすね」

 

「喰われたのか……」

 

那月が吐き捨てる様に呟いた。

その直後だった。

 

「――フム、なるほど。奪われたのは内臓そのものではなく、彼女の霊的中枢…いや、霊体そのものと言ったわけか……なかなか興味深いねぇ」

 

「ヴァトラーか、何でお前がここに居る」

 

ダアトが、殺気を出してヴァトラーを牽制した。

ナラクヴェーラの時、此奴の所為でクリストフ・ガルドシュをこの手で殺すことが出来なかったのだ。

 

「そんなに怒らなくても良いだろう?不死の君(ノーライフキング)あれは、古城の戦いだったのだから」

 

 

「そんな事は、今はどうでも良い事だ。それよりもなぜ余所者の吸血鬼(コウモリ)がここにいる?」

 

「つれないなァ。君たちの国の組織に頼まれて、態々見舞いに来たと言うのに」

 

余所者呼ばわりされる戦王領域の貴族は、いやがる那月を眺めて愉快そうに笑った。

 

「それはまたご苦労なことだな、蛇遣い。いつから獅子王機関の雌狐に飼いならされた?」

 

挑発的な口調で那月は言う。

険悪な三人の雰囲気に、矢瀬は頭を抱えた。

 

 

「ノーコメントと言っておこうか。なにしろ外交機密だからね」

 

「戦王領域の貴族が外交機密だと?この事件、貴様らの真祖がらみか。それは面白いな」

 

「どうかな。あるいは、あの御方とも無関係じゃないかもしれないねェ」

 

「何……?」

 

冗談めかしたヴァトラーの物言いに、那月はしばし絶句し、ダアトは今までにない程の殺気をヴァトラーへと向けた。

 

「面白い事を言うね。何を知っているかここで吐かせようか那月ちゃん」

 

「辞めておけ。面倒になるだけだ。それよりかは、自発的に教えてくれた方が私としても助かるからな」

 

「やれやれ、ボクも二人とは、戦いたいけど、戦うと怒られるからね。今日は大人しく教えておくよ」

 

首を横に振りながら、ヴァトラーは言ったが、内心絶対戦いたがっていると言うのは、手に取る様に分かった。

 

「”ランヴァルド”と言う名前に聞き覚えはあるかい、空隙の魔女?」

 

「……北欧アルディギアの装甲飛行船か。聖環騎士団の旗艦だな」

 

「まだ公式には発表されていないが、昨夜から消息を絶っているそうだよ。位置情報が途絶えたのは、絃神島の西、百六十キロの地点だそうだ」

 

一見すると無関係にも思えるヴァトラーの情報に、那月は、表情を険しくした。

 

「那月ちゃん俺が行こうか?船でも飛行機でも良いから貸してくれたら行くから」

 

「いや、今はまだここに居ろ。それよりもアルディギア王家が、この事件に噛んでいるという事か」

 

「証拠は何もないけどね。タイミングが良過ぎると思わないかい?まあ、いずれにせよ、ボクは暫く傍観させてもらうよ。今の所手を出す気はないから安心してくれ」

 

戦闘狂(バトルマニア)の貴様が、どういう風の吹き回しだ?」

 

全く信用できない目つきで、那月がヴァトラーを睨みつける。

 

「彼女たちは、キミたちの敵じゃない、このまま放置しておいた方が、案外、面白いものが見れるかもしれないぜ」

 

「ほう、面白いものがみれるねぇ~期待しても良いのか」

 

「勿論だとも、不死の君(ノーライフキング)。あなたも満足すると思うよ」

 

ヴァトラーの言葉を聞いて、ダアトは珍しく狂気を孕んだ笑みを浮かべた。

 

「情報の見返りと言う訳じゃないが、キミに一つ頼みがある」

 

「話を聞くだけは聞いてやる。なんだ?」

 

那月が素っ気無く訊きかえすと、ヴァトラーの碧眼が、一瞬だけ、本物の殺意で紅く染まった。

 

「俺の那月を害する気なら俺は、その前に貴様を喰らい尽くすぞ」

 

那月たちに対しての警告の心算で発したヴァトラーの魔力とヴァトラーの行為を那月に対する敵対行動と認識したダアトから発せられた魔力が衝突しあい、堅牢なキーストーンゲートの建物だけに収まらず、絃神島全体を揺らす程だ。

 

「辞めろダアト」

 

「ボクとしては、不死の君(ノーライフキング)と戦えていいのだけどね。今回は傍観と言っただろう。何ボクの頼みは、第四真祖を巻き込まないで欲しいだけだよ」

 

「……暁古城を?なぜだ?」

 

那月は意外そうに眉を寄せた。

 

「古城では彼女には勝てないからさ。我が最愛の第四真祖には、まだ死なれては困るんだ」


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