ストライク・ザ・ブラッド 〜同族殺しの不死の王〜   作:國靜 繋

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戦王の使者3

 結局パーティでは、ヴァトラーと話す事はなかった。

しかし、常に人の視界内に居るのはどうかと思うし、用もないならパーティに呼ぶなよと思ってしまった。

寧ろ、パーティの為に失った何かの方が出かかった気がするダアトだった。

 

 

次の日、いつもの様に学校にある那月の部屋でゴロゴロしていたら、古城と雪菜が来た。

「那月ちゃん。悪い、ちょっと教えて貰いたい事がって、何であんたがここに居るんだよ」

分厚い木製の扉を開けて、古城が入って来た次の瞬間、那月の手元にあった無駄に分厚い本が古城を襲った。

 

「はっはははは」

 

苦悶を漏らしている古城に対してダアトは爆笑していた。

今まで、やられる側だったから分からなかったが、他人事としてみるとここまで面白いとは思わなかった。

 

「私のことを那月ちゃんと呼ぶなと言っているだろう。いいかげんに学習しろ、暁古城」

 

そう言いながら、雪菜を睨む。

 

「おまえもいたのか、中等部の転校生。それで質問と言うのは何だ?子供の作り方でも訊きに来たのか」

 

「は、はい?」

 

「え、那月ちゃん子供の作り方なんて知ってたの、なら今すぐじっ」

一瞬何を言われたのか分からず唖然として、それからぶるぶると首を横に振る雪菜に対し、子供の作り方と言う単語にいち早く反応したダアトは、最後まで言えずにヤラレてしまった。

 

「んなわけあるかっ!いきなり何を言ってんだ、あんたは!?」

 

「……違うのか。だったら何の用だ?」

 

那月はつまらなそうに息を吐く。

どんだけ子づくりの方法を語りたかったんだよ、と古城は呆れながら、そして、復活したダアトは、那月とならいつでも問題ないと言った瞬間また、那月の手によって物理的に黙らされた。

 

「クリストフ・ガルドシュって男を探しているんだ。何か手がかりが有ったら教えてもしい」

 

その瞬間、那月の雰囲気が一変した。

那月の幼児体型からは想像もつかない程、息苦しい程の圧迫感が滲みだす。

 

「おまえたち、どこでその名前を聞いた?」

 

「ディミトリエ・ヴァトラーだよ。那月ちゃんたちも昨日来ていたから分かるだろ」

 

「そうか……あの蛇遣いの軽薄男が、お前たちを招待した理由はそれだったか」

 

「良いじゃん、教えてやっても面白そうだしね」

 

やっと復活したダアトが一番最初に発したのが、古城たちを援護する様な事だった。

 

「何だダアト、貴様は私よりもこいつらを選ぶのか」

 

「矢張り教える事は出来ないな」

 

見事なまでの心変わり。

最初こそ、面白そうだから教えてもいいかなと思ったダアトだったが、ダアトの中では那月が最優先事項の様だ。

 

「無駄だ。やめておけ。ああ、アスタルテ、そいつらに茶なんか出してやる必要はないぞ。もったいない。それよりも私に新しい紅茶を頼む」

 

「あ、俺コーヒー頼むわ。角砂糖は2個で」

 

命令受諾(アクセプト)

 

麦茶を運んできたメイド服の少女に那月とダアトはぞんざいに命令し、古城と雪菜は驚いていた。

 

「おまえ、オイスタッハのオッサンが連れていた眷獣憑きの!」

 

「アスタルテ……さん」

 

「ああ。そういえば、お前たちは顔見知りだったな」

 

那月が表情を変えずに言う。

 

「なんでこの子が学校に居るんだよ。いやそれよりもあの服は何だ!?」

 

「キーストーンゲート襲撃に加担した人工生命体アスタルテは、三年間の保護観察処分中だ。国家攻魔官でしかも教育者である私が彼女の身元引受人に為るのは、理にかなっているだろ。丁度忠実なメイドも欲しかったしな。まあ、使えない従僕はいるんだがな」

 

「明らかに最後の方がメインだよな。それより従僕ってアイツ、那月ちゃんの僕なのか?」

 

「何だ知らなかったのか?何度も会っているようだからてっきりもう知っていると思っていた」

 

この事には流石の那月も驚いていた。

何度も会っていると様子だったからてっきりお互いの素性を知っていると思っていたらまさか、知っているだけでそれ以上でもそれ以下でもなかったのだ。

 

「なら、一から説明しないといけないのか。面倒だな」

 

那月は、高価なアンティークチェアに再度深く座り直した。

 

「少し長くなるがどうする。暁古城、今は急いでいるのだろ」

 

「――そうでした。南宮先生。ガルドシュを捕まえても無駄とはどういう事ですか?」

 

ようやく、いろいろ有り過ぎて驚いていた雪菜は、思い出したかのように話を戻した。

 

「まあ、この話はまた今度な。そして、私は捕まえても無駄とは言っていない。お前たちがする必要が無いと言っているんだ」

 

「え?」

 

「黒死皇派どもはどうせ何も出来ん。少なくともヴァトラーが相手ではな。奴はあれでも”真祖に最も近い存在”と言われている怪物だ。まあ、その怪物以上の怪物が目の前に二人もいるんだがな」

 

でも、と食い下がる雪菜。

無駄に生真面目だなと思ったが、それが彼女の美点なんだろうなとダアトは思った。

 

「黒死皇派の悲願は、第一真祖の抹殺だと聞いています。彼らはそれを実現する手段を求めて、絃神島に来たのではないのですか?」

 

お、結構いい線まで来ているな。

でも、今の段階では情報が少なすぎるから分からないだろう。

と思っていたら、那月がナラクヴェーラの事を教えてしまった。

折角今から焦らしながら教えてやろうと思ったのに美味しい所取りをされてしまった。

 

「それからもう一つ忠告してやる。暁古城、ディミトリエ・ヴァトラーには気をつけろ。奴は自分よりも格上の”長老(ワイズマン)”を、真祖に次ぐ第二世代の吸血鬼をこれまで二人も喰っている」

 

「同族の吸血鬼を……喰った!?あいつが!?」

 

見た目だけでは、人当たりのいい青年貴族の姿からは想像もつかない事をしていたことに古城はうめいた。

雪菜もさすがに驚愕の表情を浮かべている。

 

「え!?たかが、二人で何でそんなに驚いているの?」

 

全く空気の読めないダアトの発言に、更に二人は驚愕していた。


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